2010-12-20 09:49:42.0
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-21.すれ違い

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi

 






フランクはジニョンに今度こそ全てを告白しようと決めていた。
そしてふたりで、問題に立ち向かうことはできないのか・・・
模索してみようと・・・。

彼は腕時計に視線を向けながら、もう片方の手に上着を取った。
その上着の中の携帯電話が鳴ったのはその時だった。

「ハロー・・」 その電話は仕事用の携帯電話だった。

『助けて・・』

「だれ?」

『フランクssi・・助けて!』
押し殺したように発せられたその声は酷く緊迫していた。

「ユンヒssi?」 フランクは聞き覚えのある声の主を確認しようと
呼び掛けてみたがその直後にプツリと切れてしまった。

フランクは電話の向こうで何かが起きていることを確信して
部屋を出ると、ユンヒが泊まっていると聞いたパールヴィラへと急いだ。


その部屋はサファイアヴィラを少し下ったところにあった。

フランクがそこに駆けつけると、坂の下からも同じように走って
こちらに向かってくるふたつの影が見えてフランクは足を止めた。

「この部屋の担当は?」
「ソ支配人です」
そう交わしていたのはハン・テジュンとベルボーイのヒョンチョルだった。

テジュンもまた、前方のフランクを見て足を止めた。
「お客様・・どちらへ?」

「知り合いがここに・・電話が・・」 フランクは声を落として
そこまで言うとテジュンに向かって唇に人差し指を立てた。

テジュンもまた彼の意図を察して頷くと、黙ってキーカードを
ドアに差し込んだ。

フランクとテジュン、その後からヒョンチョルが部屋の中に入ると
男に組み敷かれ足をバタつかせている女が見えた。
その女はユンヒではなかった。

男は突然の侵入者に驚いて、暴言を吐きながら飛び掛って来た。
フランクが軽く男を交わすとその後に続いていたテジュンが
男の腕をねじ上げた。

ソファーの上で震えていた女が、フランクに「ユンヒが・・」と
もうひとつのドアを指差した。
中からは騒音にも似た激しい音楽が漏れていた。
内側からロックされたそのドアをフランクが躊躇無く蹴破って中へ入ると、
ベッドの上で男にのしかかられ激しく抵抗しているユンヒの乱れた姿が
視界に入ってきた。
フランクは彼女から男をはがし取るように掴みかかると、
男を数発の拳だけで瞬時に伸してしまった。

ユンヒは酷く興奮していて、最初フランクの腕をも撥ね付けたが
自分に触れている手がフランクのものだと気がつくと安堵したように
彼の首に腕を巻きつけ、泣きじゃくった。

ユンヒは服を無残にも剥ぎ取られ、白い肌が露になっていた。
フランクは一旦彼女を自分から離し、自分の上着を脱ぐと、
彼女の素肌をその上着で包み込みしっかりと抱きしめた。
そうして彼女の震えを優しく沈めていった。

テジュンはもうひとりの男をヒョンチョルに任せ、寝室に入ると、
まず騒々しい曲を止めた。
そしてユンヒの安否と、加えて、フランクによって床に伸された男が、
辛うじて息の根は有りそうだとわかり、ホッと胸を撫で下ろした。

そこへヨンジェが部屋に入って来て、中の様子に愕然とした。
ヨンジェは急を知らせる為フロントに掛かって来たチョ・ウンジョからの
電話の内容をたった今伝え聞き、慌てて駆けつけて来たのだった。
その男達はヨンジェの遊び仲間だった。

そしてヨンジェとウンジョも古くからの友人同士だった。
最近ウンジョからユンヒを紹介され、それからというもの彼は
とかく彼女に夢中だった。

ヨンジェは、ユンヒを大切に思っていた。
今までのような自分の粗暴を改め、簡単には心を開いてはくれない
彼女に対して、誠意を持って接しているつもりだった。
まさか自分の仲間が彼の名前を使って彼女達を信用させ、
このホテルにやってくるとは・・・
想像できなかった自分をヨンジェは悔やんだ。

ヨンジェは自分の目の前で既に伸された男達を無理やり立たせると
怒りに任せて彼らに拳を振るった。
そして、寝室で震えるユンヒに合わせる顔も、掛ける言葉も無く、
男達を部屋から連れ出した。


「お客様・・・警察に訴えられますか
 そうなさることをお薦めします・・私の方から警察に・・」 
テジュンはフランクの腕の中でまだ微かに震えているユンヒに
向かってそう言った。

フランクは少し驚いたようにテジュンの顔を見た。
こんな事件がホテルの中で起きたことなど、隠したがるのが
ホテル側の人間の本音だろうと思ったからだった。

「いいえ!いいえ!・・・誰にも言わないで・・
 お願い・・誰にも・・言わないで・・・」 
ユンヒはフランクとテジュンを交互に見て、請うように言った。


「ここは僕が・・・彼女は、知り合いのお嬢さんなんです
 幸いなことに、大事には至っていない・・・
 訴えるかどうかは・・・もう少し考えさせましょう」
フランクはテジュンに向かってそう言った。

「わかりました・・・では・・・宜しくお願いします
 何かございましたら、お部屋担当のソ支配人に、
 お申し付け下さい」
テジュンがそう言うと、フランクは目を閉じて、溜息をつくように頷いた。


テジュンはフランクに一礼すると、ウンジョを伴ってヒョンチョルと共に
ユンヒの部屋を出た。


本館へと向かいながらテジュンは無線のスイッチを入れた。
「ソ支配人を呼んでくれ」 

『ソ支配人は只今外出中です。』

「外出?今彼女は仕事中だろ?・・」


『大事な用がおありだとかで、イ支配人がその間、
 任務を交代しておいでです』


「・・・・」≪何やってるんだ!≫

 

 


「少しは・・・落ち着いた?」 フランクはユンヒに優しく声を掛けた。

「ええ・・・」 ユンヒは消え入りそうな声で小さく答えた。

「どうして、あんなやつらを部屋に?」

「ごめんなさい」

「こういうことが想像できない子供じゃないでしょ?」

「ごめんなさい」

「ふっ・・・謝ってばかりだね」

「ごめんなさい・・・」 ユンヒはフランクの背中に回した腕に力を込めると、
彼の胸に顔を押し当てるように埋めて更に謝った。

ユンヒはフランクに対して恥ずかしくて仕方なかった。
日頃のイライラが募り、友人達と酒を飲んで遊んでいたものの
「ヨンジェがユンヒの誕生日を祝いたいと言っている」
という男達の話を鵜呑みにして、部屋に彼らを招き入れてしまった。

自分のうかつさが招いた羞恥をフランクに知られてしまったことが
無性に情けなかった。

それでも、温かく心地良い彼の腕を離したくなかった。

「少し休むといい」

「・・・・・」 フランクはユンヒをベッドに静かに横たわらせると、
自分の上着の代わりにブランケットを彼女に優しく掛けた。

「オッパ・・・」 ユンヒはすがるように彼を見上げて、そう呼んだ。
「ん?」
不思議な感情だった。愛しい感情だった。
きっとフランクはユンヒのその瞳の中に遠い日に置き去りにして来た
妹ドンヒを見ていたのかもしれない。

「そばにいてくれる?・・オッパ・・・」
「ああ、大丈夫・・・オッパは君のそばにいるよ・・・
 だから心配しないで・・・ゆっくりお休み・・・」

フランクは彼女にそう言って、その髪を優しく撫でた。

フランクはテジュンがホテルの勤務医に用意させ届けてくれた
沈静剤を彼女に飲ませた。
そしてしばらくしてフランクは深い眠りについたユンヒを確認すると
その部屋の鍵を持ってそこを出た。

≪とにかく、行かなければ≫
そう思って、車を走らせ、ジニョンとの約束の教会へと急いだ。


約束の時間は一時間も過ぎていた。

それでもフランクは教会へと続く階段を駆け上がり、静寂の中に
重い扉の音を響かせた。

そこにジニョンはいなかった。

フランクは静かに礼拝堂の前方へと進み、前にジニョンと共に座った
席に腰を下ろすと祭壇に視線を向けて手を組んだ。

≪ジニョン・・・≫

彼女がここへ来たのか、来なかったのか・・・
それすらもわからない
ただわかっているのは、今ここに自分ひとりだけだということ。

彼女の携帯電話も通じなかった。
フランクは目を閉じ深く息を吸って、開いた目をマリアの像に向け
その息を吐いた。

彼はしばらくそこに座ったまま、何も考えず時の経過を静かに見つめていた。

今この時に、静寂の中にある礼拝堂に聞こえてくるのは
彼自身の冷えた心が吐き出す虚しい白い息の音だけだった。




「マルガリータを・・それからメモを一枚・・」 

フランクは教会を出てホテルに戻ると、カサブランカに立ち寄り
ジニョンにメッセージを残そうとした。
しかし、言い表せぬ躊躇いが書きかけたその文字を彼の掌に消した。
ついさっきも、打ち込んだメールを送信せず、電話を閉じた。

ジニョンに逢いたかった。
彼女の声を聞きたかった。
しかし今、彼女の本音を聞く勇気がなかった。

フランクはカクテルを二杯だけ、一気に胃に流し込むことで、
ジニョンへの思慕から逃れられるように、少しだけ自分に抑制をかけた。




フランクがユンヒが眠るパールヴィラに向かって車を走らせていると
目の前に人影がふたつ見えた。
並んで歩くその影はジニョンとハン・テジュンのものだった。

その光景は、フランクが自分に仕掛けた抑制のタガを外してしまった。

フランクは彼らの前で車を停めると、おもむろにドアを開け降り立った。


つい先程、ジニョンはテジュンからユンヒの部屋で起きた事件の事を
聞いたばかりだった。
こういうケースの対応は女性の方がいいからと、テジュンに促がされ
テジュンと共にユンヒの部屋に向かっているところだった。

同じ女性として、ユンヒのことを思い、自分にできることがあればと
テジュンに同意もした。しかし、
車から降り立ったフランクが苛立ちを隠していない様子を見て、
ジニョンは逆に彼に対して腹立たしくなった。

フランクはジニョンを睨み付けていた。
ジニョンもまた彼を睨み返した。

ふたりの互いしか目に入っていない様子にテジュンもまた
呆れたように目を逸らした。


「どちらへ?」 
フランクがジニョンにではなく、本当は目に入っていなかっただろう
テジュンに向かって口を開いた。

「パールヴィラへ向かうところです・・・
 ユンヒssiのお部屋の担当の・・」 
テジュンがそう言い掛けるとフランクは彼の言葉を直ぐに遮った。
「彼女のことはしばらく私が引き受けると
 申し上げたはずですが」

「いや・・しかし・・我々ホテル側としましても
 このまま放っておくわけには参りません」

「ふっ・・また、警察沙汰にしようと?」

「それは・・お客様の・・ユンヒssiのお考え次第です」

「ハン総支配人・・・あなたはホテルマンとして実に失格だ。」
フランクは突然、テジュンに対して攻撃的な言い方をした。

「・・・・・」

「あのようなことがホテルの中で起きた場合、ホテルマンとして
 普通は穏便に事を運ぶことをまず考えるべきです
 ホテルという立場上、風評がいかに痛手となるか
 よもや、お忘れではないでしょう?」

テジュンは以前、自分が巻き込まれてしまった事件のことを
彼が言っているのだとわかっていた。
その為に、自分自身がソウルホテルにも、そして他のホテルさえも
居られなくなった事実は≪忘れられるものではない≫

「お言葉ですが・・私はホテルの対面よりも人の気持ちを
 重んじたい・・・
 この場合、彼女がしたいようにして差し上げるべきだと
 私は考えています」

「なるほど・・・よくわかりました
 ソウルホテルが再三に渡り、経営難に陥る理由の根本も
 そこにあることが。」

「どういう意味でしょう」 テジュンは顎を上げてフランクを睨んだ。

「全てが甘いんです・・あなた方の考え方全てが。」

「意味がよくわかりませんが」

「わからない・・・ですか・・・
 わからない人間はいつまで経ってもわからないものです。」
フランクはテジュンからジニョンに視線を移して嫌味を込め言った。

「それから・・・
 ユンヒのことは私が引き受けています
 それは彼女の意向でもあります・・・あなたがおっしゃる
 “彼女のしたいように・・・”それが
 この私がそばにいることだそうですから」

そう言いながら、フランクはまたジニョンを見た。
そして彼は彼女から鋭い視線を外さないまま、テジュンに言った。

「少し彼女と話をさせていただけませんか」

ジニョンは“どうぞ”と言わんばかりに身構えて、顎を上げた。

「お願いします」 
フランクはテジュンに向かい、席を外してくれ、という意味で言った。

「ええ」 テジュンは頷いて、彼らから少し離れた。



「今・・教会に行って来た・・・」 
フランクはジニョンに向かって静かに言った。

「そうですか」

「・・・僕が必ず行くこと・・わかっていたよね」

「ごめんなさい。・・・私は、行かなかったの。」 
ジニョンはそう言って、プイと横を向いた。

「そう。」 フランクは鋭い視線を崩さなかった。

「でも良かった・・お陰でお客様を救って下さったそうで・・・
 感謝いたします」 ジニョンもまた険しい表情のままだった。

「最後に一度だけだとお願いしたことも、
 聞き遂げてはくれなかったわけだ」 フランクは少し嫌味に笑った。

ジニョンは彼のその態度に怒りを覚えて声を荒げた。
「もし!仮に・・私が行ってたとしても。
 あなたは来てなかったんでしょ?」 

「それには理由があったこと・・聞いたでしょ?
 それを聞いたから、今君はここにいるんじゃないの?」

「でも!来なかった」 今のジニョンにはその理由など関係なかった。

「君も行かなかったんでしょ?僕を責めるのは
 お門違いだ。」 フランクもまた、彼女の態度に苛立ちを募らせた。

「・・・・・」 「・・・・」
ふたりは互いに歩み寄れないわだかまりを持て余しているかのようだった。

「聞かせてくれ・・・行かなかったことが・・・
 君の僕への答え?」

「・・・・・」

「はっきり言いなさい!」 
フランクの怒号にジニョンは一瞬ビクッと体を震わせた。

「ええ!そうよ」
しかし次の瞬間、毅然として答えていた。

「・・・・・」「・・・・・」
ふたりはまたも睨み合ったまま沈黙を数えた。

「そう・・・わかった。」

「な・・何よ・・そんなに睨んだって・・
 怖くないんですからね!」

「わかったと言ったんだ。君が怒る理由はないだろ?
 それじゃ、おやすみ・・・ジニョンssi」

フランクはジニョンを睨み付けたまま、きびすを返し、車に乗り込んだ。

走り去る彼の車を睨み付けながら、ジニョンは突然ぽろぽろと涙を流した。

テジュンは彼女の様子に大きく溜息をついた。

「泣くな!・・そんなお前を見たくない」 彼は乱暴にそう言った。

「じゃあ、見ないで!」 ジニョンは制服の袖で涙を拭った。

「何の話か知らんが・・お前・・行っただろ?・・」

「何のことよ!」

「さっき・・お前仕事中なのにいなかった・・
 探してたんだぞ」

「帰って来たんだから、文句ないでしょ!」

「お前!」

「もう帰ってもいいでしょ!
 お客様は彼が見てくれるって・・そう言ってるんだから!」
ジニョンは靴音をカツカツと立てながら、テジュンに背を向け
歩き出した。

≪最後に一度だけ・・・私だって・・
 勇気を振り絞って行ったのに・・
 来なかったのはあなたじゃない!

 私が待ってる間
 あなたはあの子のそばにいたのよ
 ホテルの人間に任せず・・あなたがそれを選択したのよ!≫


   あなたが怒る理由・・・


         ・・・何処にあるの!・・・
















 



 



 


 

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