2011/01/15 20:38
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-30.抱きしめて

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi

 




「ソウルホテルの名前が・・消えてしまう」

「名前なんぞ、どうでもいい・・ 
 私は利益さえあれば文句は無い」

「レオ・・・お前か」 

「・・・・」 

「お前の考えか・・」

「ああ・・俺が提案した」 レオはフランクの顔を見据えて答えた。

「・・・・」

「フランク・・やっとわかったよ・・・
 君はどうも、お互いの利益を上げることよりも
 ソウルホテルを存続させることしか頭にないようだな」

「私は理事の立場でソウルホテルを改めて見直ししました
 飽くまでも確固たる理論に基づいた結論です
 ソウルホテルは必ず持ち直します・・時間さえ与えれば・・
 二年・・いや一年あれば経営は軌道に乗るでしょう
 そうなればあなたにとっても・・」

「気に入らないな・・・
 この私が死に掛けたホテルの為に一年もの間、
 無駄金を遊ばせておく道理がどこにある?
 いいからさっさと、売り飛ばしてしまえ」

「それは・・できない。」 フランクは思わず語気を強めた。

「できない?それはどういうことだ
 私と君との間には、純然たる契約書が存在することを
 忘れたわけじゃあるまい?フランク。」

「・・・・・」

「ボス・・俺達はここへキム会長の依頼で来たんだ
 俺達の仕事というのは何だ?
 請け負ったクライアントの望み通りに事を運び
 成功に導き、その利益に応じたコミッションを頂く
 ただそれだけのことじゃなかったか?」

「・・・・・」

「レオの言う通りだな・・フランク・・」

「・・・・とにかく・・少しお考えになった方が・・」 

「考える余地は無い!」 キム会長はフランクが差し出していた
ファイルをテーブルの上に叩き付け威嚇した。
しかしフランクは背筋をピンと伸ばしたまま、眉ひとつ動かさなかった。

「わかりました。今日はこれで失礼します・・レオ!」 
そしてフランクはキム会長の制止も聞かず部屋を出た。
レオは仕方ないという表情を浮かべながら席を立った。

 


フランクとレオはホテルに戻る車の中で、ひと言も口をきかなかった。
フランクは険しい顔のまま、車窓から外を眺めていた。
レオはただ黙々とハンドルを握っていた。


「どういうつもりだ」
部屋に戻ると、フランクはブリーフケースをソファーの上に放り投げ
デスク前の椅子に腰を下ろし、レオを睨み付け詰問した。

「それはこっちが聞きたい。」 
レオは落ち着いた様子でテーブルの端に腰を掛けた。

「お前は僕が雇った弁護士のはずだ」 
フランクは鋭い眼差しでレオを更に睨み上げた。

「俺達はfifty-fifty・・・そうじゃなかったのか?」

「・・・・」

「フランク目を覚ませ・・
 目の前に大きな利益が転がってるんだぞ 
 どうしてそれを拾わない!お前らしくないだろ」

「このホテルは売らない。」

「それはお前が決めることじゃない。
 大半の債券は今やキム会長のものだ・・
 いや・・そうだったよな・・
 お前は最初からこのホテルをキム会長のものに
 するつもりなんてなかった
 お前の狙いは会長を利用して、資金調達をさせている間に
 ホテルの自立を促がし、持ち直そうという計画か?
 教えてくれ・・結果的にもしもそんなことになったら、
 俺達はいったい何処から利益を得るんだ?」

「・・・・・」

「ジニョンssiか・・・彼女の為か?」

「・・・・・」

「なるほど・・しかしよくも今まで俺に隠して、事を進めたな
 俺との10年の積み重ねより
 別れていた女との愛を取るというわけか・・
 青臭い餓鬼じゃあるまし・・
 俺をバカにするのもいいかげんにしろ!」

「お前の利益は僕が保証する」

「はっ!俺の利益?
 俺はそんなことを言ってるんじゃない!
 どうして最初から、本当の計画を話さなかった!
 影でこそこそとお前が動いていることに
 俺が気が付かなかったとでも?ふざけるな!」

「そうじゃない!」

「だったら何だ!・・お前がその気なら・・
 俺は構わんさ・・
 しかし、俺一人ででもホテルは売る
 クライアントであるキム会長は売りたがってる
 買いたいという企業も揃ってる
 今ならお前より俺の方が有利に立ってると思わないか?
 ・・・そうだろ?」

レオはフランクに向かって、言いたいことを並べ立てると
ひと言も口を挟めずにいたフランクを置いてさっさと部屋を出て行った。

 


レオが部屋を出ようとした時、出会いがしらにジニョンとぶつかった。

「きゃっ!」 
レオはジニョンを睨み付けた。
ジニョンは彼の形相に思わず後ずさりした。
レオはそのまま、ジニョンに言葉も掛けず坂を下りて行った。

ジニョンがフランクの部屋に入ると、彼が仕事用のデスクの前で
難しい顔をしていた。

「どうしたの?・・今、レオさんが・・」

「何でもない」 フランクは無愛想に言いながら立ち上がった。

「何でもないって・・」

「何でもない!」 フランクは上着を乱暴に拾い上げると
レオと同じように部屋から出て行った。

「何よ!・・な・・何よ!せっかく・・」 
ジニョンの声だけがフランクを追いかけた。

「逢いに来たのに・・・」

 

 


「もう十年も前の話です・・
 いくらで僕と組む?奴はそう言った
 俺はね、fifty-fifty、そう言ってやったんだ・・
 そしたらあいつはこうやってポケットから70ドルを出して
 これが今日の僕の儲けの半分、そう言いやがった」

レオはポケットに手を突っ込んでそれをまた出す仕草を付けて言った。

「あいつの獲物を狙うような鋭い目には身震いがした
 俺はそれに惚れて、まだ若造だったあいつと手を組んだ・・
 俺はね・・こう見えてもその当時から名うての弁護士だったんだ
 聞いてくれ・・その俺がだよ・・
 まだ海のものとも山のものともわからんあいつを
 その場でパートナーに選んだ」

「そんなに若い時から・・・」

「そう!それからずっと・・・
 ずっと一緒にやってきたんだ」

「ジニョンもそういう彼を好きになったのかしら・・・」
 
私服姿のイ・スンジョンが、フランク・シンという男の人となりを
興味深げに聞き入り、感心したように頷いた。
彼女もジニョンからいつも聞かされる彼のことが気になっていた。
それで先日このカサブランカで少しばかり意気投合したレオからの
誘いを受けたのだった。

「好き?知るもんか・・そんなこと!」
レオは少々酔い潰れていた。

「あいつは非情で・・冷徹で・・
 拳銃をこめかみに当てられてさえ怯まない奴だった
 そんな奴が・・たかが女の為に全てを捨てようとしてる」

「たかがとは失礼ね・・素敵な話だわ」

「何が素敵なもんか・・血迷ってるに決まってる」

「そうかしら・・」

「しかしだ!・・」 
レオの熱弁が続きそうな気配を背後から低い声が遮った。
「邪魔して悪いかな」 
フランクがふたりの間の後ろに立っていた。

レオはフランクから顔を背けたが、スンジョンは席を譲って
自分とレオとの間にフランクの席を作った。

「あ・・この方、今、あなたのことを自慢してらしたの」

「自慢?バカ言え」

「バカとは何?聞き捨てならないわ」

「バカだからバカと言ったんだ」

「まっ!」

「友達?」

「いいえ!」
「友達なもんか」

「あの・・少し、いいでしょうか」 
フランクはスンジョンに向かって申し訳なさげに言葉を淀ませた。

「えっ?・・あ、ああ・・私はこれで・・失礼します・・
 酔っ払って管を巻くだけなら、呼びつけたりしないでね」
フランクに軽く会釈をした後、レオに向かって悪態をつきながら、
気を利かせたスンジョンが席を立った。

「いつから彼女と親しく?・・」 
イ・スンジョンのことはジニョンから聞かされていたが、まさか
レオと親しく話をするようになっていようとは思わなかった。

「お前とジニョンssiが宜しくやっていた時だ」
そう言いながら、レオは顎をしゃくって二階を指した。

「・・・・・」

「何の用だ」 レオの言葉は変わらずぶっきらぼうだった。

「もう一杯どうだ?」 フランクは穏やかに言った。

「もう飲み過ぎた・・水くれ・・」

「ここだと思わなくて、外を探したんだ」

「俺を・・探したのか・・お前が?」

「ああ」

「俺の考えは変わらんぞ」

「ああ・・いいよ・・・
 ただ聞いて欲しいだけだ」

「・・・・」

「お前に話さなかった理由」

「・・・・」

「それは・・」

「聞かなくてもわかってるよ・・
 どうせ、俺に火の粉が掛かるのを防ぐとか何んとか・・
 そんなところだろ?
 何年お前と仕事してると思ってる」

「僕にとってジニョンは何にも換えられないものだ・・・
 彼女が全てなんだ・・・」

「ぬけぬけと・・」

「しかし・・彼女との事は・・・飽くまでも個人的なこと・・
 お前を巻き添えにするわけにはいかなかった
 でも、僕がひとりで韓国に渡るなんて、
 お前は許さなかっただろ?だから・・」

「だから・・俺を蔑ろにしたわけか」

「レオ・・・」

「・・・・」

「こっちに来て・・父に会って・・妹にも会えた・・
 血の繋がった人間と21年ぶりの対面を果たしたんだ・・
 嬉しいことなんだよな、これって・・
 でも・・まだその実感が沸かないんだ・・・
 父とどう接していいのかわからない
 幸せにしてやりたいと思ってた妹なのに
 どうやって幸せにしたらいいのか・・わからない
 もともと僕は大切な人に何をしてやったらいいのか
 その術をまったく知らない人間だ」

「だからどうした」

「それでも僕は今まで自分の思うように生きて来られた
 仕事で成功もできたし・・金も・・
 食うには困らない・・・」

「どれだけ食う気だ?」

「フッ・・レオ・・・今までこんなこと言ったことないが
 今までこうして生きてこられたのはきっと・・・
 お前が僕の我侭を許してくれていたからだと
 今更ながら・・そう思うんだ
 この10年間・・僕にとっての家族はお前だけだった」

「・・・・・」

「なぁレオ・・家族の幸せを願うのはいけないことか?
 僕がお前の幸せを願うことは・・余計なことか?」

「だから・・何だと言うんだ」

「だから・・言えなかった。」

「だから!言うべきだったんだ!」 
強い口調で言い放ったレオはその目に涙を浮かべていた。

「・・・・・」 フランクはレオのその様子に息を呑んでいた。

「10年前・・お前がジニョンさんを命がけで救おうとしたことを
 俺が知らないわけじゃないだろ?
 ここの一件がレイモンドから回されたと聞いた時から
 お前がいつ打ち明けるのか・・そう思ってた
 待ってたんだ!・・お前の言葉を・・」

「レオ・・」

「何年付き合ってるんだ?俺達は・・
 家族だって?・・今頃気づきやがって・・
 俺は最初からそう思ってたんだ!」 
レオはその言葉を最後にフランクからそっぽを向いて
カウンターにうつぶせた。

フランクは込み上げてくる熱いものを堪えるようにグラスの淵を
口元に近づけたが、結局その液体を口の中に流しこむことは
できなかった。

 

 

ジニョンがアパートで眠りに就いた矢先、枕元に置いていた
携帯電話のベルが鳴った。

「はい・・ソ・ジニョン・・・」

「ジニョン?」

「フランク?」≪あ、またフランクって・・≫
ジニョンはとっさに後悔したが、言い直さなかった。
「な、な~に?眠ってたのよ」
ジニョンはあくびを堪えるような声を作って言った。
実の所彼女は、数時間前のフランクの様子が気になり、
今まで眠れずにいたのだった。

「ごめん・・どうしても声が聞きたくて・・」
ジニョンにはフランクの声が寂しそうに聞こえた
「ん~しょうがないわね・・今日、何かあったのね」

「ま~ね・・」

「話したい?」

「いや・・いい・・君の声を聞けただけで・・」

「そうなの?」

「ん・・・」

「そう・・」

「それじゃ・・お休み・・」 
「あ・・待って・・」 
電話を切ろうとしたフランクを、ジニョンは慌てて止めた。

「眠いんでしょ?」

「もう目が覚めたわ・・もう少し話を・・しててもいいわ・・」

「そう?」

「ええ・・」

「だったら・・・逢いたい」

「えっ?」

「窓の下」

ジニョンは慌ててベランダに続く窓を開け外へ出ると、下を見た。
暗闇にポツリと立つ一本の外灯のそばに上を見上げたフランクが見えた。
ジニョンは呆れた顔でベランダの手摺りにもたれると、
受話器を口に近づけた。

「行ってあげない」

「それはないでしょ?」

 


二分ほどして勢いよく走って下りて来たジニョンが、
フランクの前で立ち止まると、小さく呼吸を整えながら優しく睨んだ。

「何時だと思ってるの?」

「ん~2時?・・」

「呆れた」

「逢いたくなったんだから仕方ない」

「困った人ね」

「そうだね・・おいで・・」 フランクはジニョンに両手を伸ばした。
ジニョンは少し困ったような顔をしながらも、彼の腕の中に
体をすっぽりと埋めると、緩めた頬を彼の胸に付けて目を閉じた。

「寒い?」 フランクは彼女の体を自分の上着で包み込むように抱いた。

「ううん・・大丈夫」 ≪いったい何が・・あったの?・・≫

「少しこうしていてもいい?」

「いいわ」 ≪私はあなたに・・何ができるの?≫

「ジニョン・・・」

「何?」

「愛してる」

「そうだと思った・・」

「はは・・ばれてたか」

フランクは今の自分の幸せの全てを決して離すまいとするかのように
ジニョンを抱く両腕に渾身を込めた。

「そうよ・・・とっくに」 ≪こうしていればいいのね≫


そしてジニョンもまたそんなフランクの心を理解したかのように
彼を抱きしめた。


  私はこうして・・・

  あなたを抱いていれば・・・いいのね・・・



     ジニョン・・・僕は君のぬくもりに抱かれていれば

     どんな試練をも乗り越える勇気をもらえる

     だからいつもこうして・・・僕を・・・

       
         ・・・抱きしめていて・・・









   






  



 


2011/01/15 02:33
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passion-29.心の涙

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「ドンヒョク・・・」 ジニョンはフランクをそう呼んだ。

しかしそのことを当のジニョンも気が付いてはいなかった。

ただ・・・

今、彼女の目の前に寂しく佇むこの人は・・・

21年前別れた父と妹を前にして、彼らを・・・いや
自分自身を受け入れることの難しさに足掻き苦しむこの人は・・・

間違いなく“シン・ドンヒョク”その人だった。

「ドンヒョク・・・泣かないで・・・」

フランクは泣いてなどいなかった。

しかし、彼自身、説明のできない感情が息苦しく胸を突き上げ
それを持て余したまま、立つのがやっとであるかのように
ただそこに立ち尽くしていた。

少しして、ジニョンの温もりに呼び戻されたかのように我に帰った彼は
目を閉じたまま背中から回された彼女の手にそっと手を重ねた。

前にもこんなことがあった、とフランクは思った。

  まだジニョンと出逢って間もない頃・・・

  あの時もそうだった

  涙など流していない僕の頬を撫でながら

  ジニョンは言った・・・

  ・・・泣かないで・・・

  僕はその時、彼女のその行為に衝撃を受けた

  自分の心を簡単に見透かされたことに・・・

  そして彼女のその温かさに

  本当に泣いてしまいそうな自分に驚いたんだ・・・


「ジニョン・・・僕は今・・・泣いているの?」
フランクは目を閉じたまま上を仰いで静かに口を開いた。

ジニョンは彼のその言葉に、ただ黙って彼に回した腕に力を込めた。

「ごめん・・・」 
しばらくしてフランクはジニョンの手を自分の体から少し緩めると
彼女にゆっくりと振り返って言った。
「ごめん・・・せっかく君達が用意してくれた席を・・
 台無しにしてしまったね」

「・・・・・」 ジニョンはただ黙って彼を見上げていた。

「どうしようもないな・・僕は・・」

「・・・ドンヒョク・・・」

「フランクじゃないのかい?・・今の僕は・・」 
フランクは愉快そうに笑いながらそう言った。

「あ・・・」 ジニョンは彼に言われて、自分が彼をそう呼んでいることに
初めて気がついた。

「フッ・・何だか、変な気分だ」

「そうね・・・でも・・・今のあなたはフランクじゃない
 シン・ドンヒョク・・そうでしょ?」

「ああ・・・そうだ・・・そうだね・・・きっとそうだ」 
ジニョンはそう答えた彼が戸惑いながらも自分自身の存在を
素直に認めたようで何故か嬉しかった。

「ごめんなさい・・」

「何が?」

「あなたにとって、ドンヒョクという名前は・・・
 あなたという存在そのものだったのに・・・私・・」

「ジニョン・・・謝る必要なんて無い
 そんなに大層なことじゃないだろ?」
フランクは少し困ったように、ジニョンの頭を撫でた。

「・・・・・・」 ≪そんなことないわ・・・≫
ジニョンはフランクに掛けるべき言葉を探せないまま、
彼の胸に顔を埋め、その背中に腕を回すと優しく彼を抱きしめた。

「君にとって僕は・・僕であればいいんだ」

「・・・・・・」 ≪そうじゃない・・・あなたは・・・
シン・ドンヒョクに戻りたかったのよ・・・そうよね・・・≫

「あの子に・・ジェニーに悪いこと・・したな・・・」

「ええ・・」

「でも・・・」 フランクはゆっくりと視線を落とした。

「戻りたくない・・・そうなのね・・今は・・・」 
ジニョンは彼の言葉の続きを代わりに言った。

「ああ・・いいだろうか?」

「残念がると思うわ・・ジェニーも・・お父様も・・でも・・」

「・・・・少し・・頭を冷やしたい・・・」

「・・・ひとりで?」 ≪今は私も・・いない方がいいのね≫

「ん・・・ごめん・・・」

「わかったわ・・」 ジニョンはそう言って、また彼の胸に頬を添えた。
「いい?ドンヒョクssi・・・これだけは言わせて・・」

「ん?・・」

「・・・あなたは・・ひとりじゃないのよ」

「ん・・・わかってる・・・」

「なら、いいわ・・・わかっているならいい
 ・・・ひとりにしてあげる」
ジニョンはそう言いながら、彼を抱きしめた腕に更に強く力を込めた。

「ん・・」 
そしてフランクもまたジニョンを包み込むように優しく抱きしめると
彼女の髪に唇を落とした。







「彼はどうした?」 
ジニョンがテジュンの元に出向くと、彼は開口一番にそう言った。

ジニョンは「大丈夫・・」とただ小さく笑みを返した。
「でも今はひとりでいたいんだって・・・」

「ふ~ん・・」

「彼・・・家族という存在に困惑しているの・・・
 たったひとりで生きることに慣れ過ぎてしまっていて・・
 突然目の前に現れた血の繋がった人間と
 どう接していいのかわからないのよ」

「それはジェニーだって同じだろ?」

「そうね・・・同じよね・・でも違うのよ・・・
 彼は親に捨てられたことで深く傷ついて生きてきた
 10歳の時よ・・遠いアメリカに連れて行かれて・・
 言葉もわからない大人達の中に放り込まれたんだわ
 私・・そんなこと想像しただけで震えてしまう
 でもジェニーには父親に捨てられた記憶が無いわ 
 それって・・大きな違いじゃない?・・」

「寂しい男は女心をくすぐる・・か・・」 

「ちゃかさないで」

「あいつのこと・・わかってるんだな」

「いいえ・・わかっていないわ・・」

「・・・・」

「わかっていたら・・・
 何をしてあげればいいのかわかっていたら・・
 こんなに苦しくないもの・・」 
ジニョンが声を詰まらせながらそう言うと、彼女の頬を涙が伝った。

「フッ・・」

「何が可笑しいのよ」 ジニョンはテジュンを涙目で睨み付けた。

「・・・わかってるから・・苦しいんだ」

「・・・・・」

「あいつが羨ましいよ・・あ~あ、
 俺も養子にでも行くんだったな」 テジュンはそう言いながら
両腕を頭の後ろに回して背伸びをした。

「酷いわ・・そんなこと言うの」 

「・・・そうだな・・悪かった・・」

「悪いと思ったなら・・・いいわ」 

「はっ・・」

「思ってないのね」

「思ってるよ」

テジュンとジニョンはふたりで顔を見合わせて笑った。

「彼、言ってたのよ」

「何を?」

「あなたが羨ましいって」

「何で?今やホテルはあいつの思うままだし・・
 お前だって、あいつの・・」 テジュンは言い掛けて止めた。

「ジェニーがあなたのことを自慢げに話すから」

「ああ・・」

「焼もちやいてるの・・彼・・」

「いい気味だ。」

「酷いわ」

「それくらい・・思ったっていいだろ?俺だって・・
 いや、何でもない・・」
テジュンは自分がジニョンへの想いをどれほど制御しているのか
彼女には到底わからないのだろうと、諦めたように溜息をついた。

「・・・それよりジェニーは?」 ジニョンは確かにわかっていなかった。
彼女の心の中は今、フランクへの想いではちきれそうで、
テジュンの心を慮る余裕などなかった。

「ああ・・大丈夫だ・・
 あの後、料理長がフルコースを振舞って
 今は奴が予約を入れたスゥィートで親子で寛いでいる・・
 兄貴のことは気にしていたがな・・」

「そうでしょうね・・後でジェニーには私から話しておくわ」

「ああ・・そうしてやってくれ・・それよりこの前
 ジョルジュから連絡があった」

「ジョルジュ?」

「奴の雇い主が、韓国に事業展開をするらしい
 その手助けをして欲しいと頼まれた
 それが成功したら、ホテルに資金を出してくれると・・」

≪レイ・・・≫ 「そうなの?」

「俺が何の手助けができるのかわからんが
 話を聞いてみようと思う」

「そう・・・ジョルジュ、戻ってくるって?」

「いいや・・そのつもりはないようだ
 今の仕事に生きがいを見出した、そう言っていた」

「そう・・」

「ジニョン・・」

「ん?」

「いや・・何でもない・・・」 ≪もう俺達に望みは無いか≫

「言い掛けて止めるなんて・・失礼・・」
ジニョンはそう言い掛けて、テジュンの熱いまなざしにやっと気が付いた。
「私・・・」

「わかってるさ・・・俺だって、お前のことはよくわかってる
 あいつに負けないくらいにな」

「テジュンssi・・・ごめんなさい」

「それじゃ・・これからジョルジュとまた国際電話だ」

「そう・・頑張って」

「ああ」 テジュンはジニョンに背中を向けたまま手を振り立ち去った。






フランクがサファイアを出て、車で坂を下りかかった時、
坂を上がってくるジェニーの姿が見えた。
フランクは慌てて、レオに停車を命じた。

「ドンヒ!」

ジェニーはフランクの声に驚いて振り返った。

「・・・・僕のところへ?」

「あ・・ええ・・あの・・昨日は・・
 ホテルに部屋を用意してくれて・・・ありがとう・・ございます」

「・・・他人じゃないんだから・・そんなふうに
 言わないでくれないか?」

「お父さん・・お兄さんに会わないで帰って・・
 申し訳ないって・・これ・・お父さんのお土産・・」
ジェニーはそう言いながら、手に持った袋をフランクに渡した。

「ああ・・昨日は・・悪かったね・・」

「ジニョンオンニが・・
 急に仕事が入ったって・・」

「あ・・ああ・・本当にごめん」
フランクが項垂れて謝ると、ジェニーは大きく頭を横に振った。

「・・父さんには家を買おう・・・
 そうしたら君はいつだって父さんに会いに行ける
 それから君は、僕の仕事が終わったら
 一緒にアメリカに帰るんだ
 これからは、今まで出来なかったことを沢山やるといい
 遊びも・・勉強も・・」

「やりたいことなんて・・・ありません・・・
 ただここで料理の勉強をしたかった・・・」
ジェニーはそう言うと表情を曇らせ、俯いた。

「・・・・・」

「この前・・ソ弁護士に呼ばれました」

「あ・・・」

「私・・・リストラされるんですね」

「いや・・それは・・」

「いいの・・・
 もともと厨房には無理を言って入れてもらってたんだし
 経験も浅いし・・それに・・
 私が残るわけにはいかないのもわかる・・だから、私はいいの」

「そんなにここにいたいの?
 君はもう、何ひとつ苦労することなんてないんだよ」

「苦労だなんて・・思ったことないわ
 ここの人達は優しくて・・・居心地が良かった
 本当の家族みたいで・・・」

「僕と一緒にアメリカに帰るのがそんなに嫌かい?」

「あ・・いいえ・・・でも・・・」

「でも?」

「でも・・・私・・テジュンssiに恩返しがしたい
 オッパ・・・オッパにホテルを奪うほどの力があるなら・・
 救うこともできるでしょ?」

「・・・・・」

「このホテルを助けてくれない?ね、オッパ・・お願い・・」

「・・・・・」

「だめ?・・」 ジェニーは切なげにフランクを見上げていた。

「ボス!時間が無いぞ!」 レオが車のウィンドー越しに声を張った。

「ジェニー・・・ごめん・・今は何も言えない
 ごめんよ・・仕事があるんだ、急がないと・・
 また今度、ゆっくり話そう・・ね。」

フランクはドンヒの肩に手を掛けながら心の中で思っていた。
≪この子の為にも・・・失敗は許されない・・・≫







フランクとレオがキム会長とのランチミーティングの席に到着すると
キム会長は既に席に就いていた。

「お待たせして申し訳ございませんでした」

「いや・・今到着したところだ」

「では早速、今までの経緯と・・次回の株主総会についてですが」

フランクが着席するなり、ブリーフケースから書類のファイルを抜き出し
それを開いた時、キム会長は言葉を挟んだ。

「株主総会で、現社長の退任を提議する」

「・・・・・」

「現在のホテルの状況では、彼女の持ち株を処分しなければ
 立ち行かないよう、既に手は打ってある」

「そうですか」

「それから・・これを・・フランク・・」 
キム会長は、持っていた資料をフランクに差し出した。

「これは?」

「その手はずが済んだら・・・」

「・・・・・」 

「ホテルを欲しいという企業が現れたんだ」

そう言いながら、キム会長は資料を顎をしゃくって指した。
フランクは差し出された資料を無言で捲っていた。

「どういうことですか?・・・
 ホテルを手に入れるのが目的だったのでは?」

「そのチェーンに株を譲ると決めた」

「・・・・・」

「先方は君が携わるなら、もう少し高値をつけてもいいと
 言っている・・早速その仕事に掛かってくれ」

「アメリカの企業ですね?」

「ああ」

「そうなると・・・
 ソウルホテルの名前は・・消えてしまう」
フランクはそう言葉にしながらも、胸の内の動揺を悟られまいと、
努めて平静を装った。
 
「名前なんぞ、どうでもいい・・ 」

「ソウルホテルの伝統も・・何もかも・・」 フランクは呟くように言った。

「私は利益さえあれば文句は無い」
キム会長は冷ややかにフランクを見やり、そう言った。

フランクは会長のその目を見据えたまま、少しの沈黙の後
口を開いた。


「お前か・・・

   
     ・・・レオ・・・」・・・










   






  



 



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