2011/01/28 23:53
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-38.別れと再会の朝

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi





 

レイモンドはジニョンのアパートの前でタクシーを止めると、
運転手にそのまま待つようにと伝え、彼女を部屋の前まで送った。

「それじゃ・・ひとりで大丈夫かい?」
彼がそう言って優しく頭を撫でると、彼女は満面に微笑んで見せた。

「ええ・・ありがとう・・大丈夫よ、レイ・・
 ジェニーももう直ぐ戻ってくるし・・」

「そう・・」

「それじゃ・・明日はアメリカに帰るのね・・・
 お別れなのね・・・」 ジニョンは改めて別れを惜しむように言った。

「ああ、お別れだ・・・今回はジョルジュは置いていく・・
  あいつもお母さんのそばにいたいだろうし
 ソウルホテル関連の仕事は彼に任せるつもりだ
 もちろん私も時々顔を見せるよ」

「もう本当に大丈夫なのね」

「力を尽くさせてもらうよ・・君たちのソウルホテルに」

「ありがとう・・レイ」

「だから君は・・」≪安心してフランクの所へ・・≫
そう言い掛けて、レイモンドは止めた。

「・・・・・・」

「あ、いや・・止めておこう・・」

「レイ・・?」

「いいかい?ジニョン・・君は私にとって・・たったひとりの妹・・」

「妹?」

「ああ、少しばかり気が強くて・・泣き虫で・・・
 優しいお兄様としてはとうてい放っておけない妹だ・・
 それならあいつも文句はあるまい?」
レイモンドはジニョンの頬に軽く指を触れながら、そう言って笑った。 
「だから・・・」

「・・・・・・」

「頼りにしてくれていい・・フランクの次に。
 何か困ったことがあったら、必ず連絡するんだ」 

「ええ・・]

「約束だよ」

「ええ、ありがとう・・レイ・・本当に・・」 
ジニョンは、彼の温かい心に胸を熱くして、涙が込み上げていた。
「ありがとうございました。」 そして彼への深い感謝を込めて、
深く頭を下げた。


  ソウルホテルを・・・

  守って下さって・・・ありがとうございました





ジニョンがレイモンドと別れ、部屋のドアを開けた時、
バックのポケットに刺さっていた携帯電話の着信が光った。
フランクだった。「もしもし?」
ジニョンは今しがた、レイモンドの前で涙を飲み込んだばかりで
発した声が震えていた。

「ジニョン?・・どうかした?」 
フランクは瞬時に彼女の声に異変を感じて、動揺したように聞いた。

「ドンヒョクssi・・ううん、何でもないわ」

「今どこ?」 

「アパート・・たった今戻ったところよ
 レイにここまで送ってもらったわ」

「そう・・迎えに行ったのに・・レストラン・・」

「知ってる・・・」

「それなら、待っててくれれば良かったのに・・」

「ちょっとあなたに悪戯してみたの・・レイと一緒に」

「フッ・・悪戯ね・・」

「驚いた?私たちがいなくて」

「いや・・あの人がやりそうなことだから」

「ふふ・・私が言い出したのよ」

「君が?」

「ええ」

「それは許せないな」

「ふふ」

「楽しかったかい?今日は・・」

「ええ、とても」

「それも、許せそうにない」

「ふふ・・あなたが計画したのよ」
「そうだけど」 
ジニョンが笑いながらそう言うと、フランクは拗ねたように答えた。

「ごめんなさい・・」 
ジニョンが最初はフランクをからかって面白がっていたものの、
突然神妙な声で彼に謝った。

「どうかした?」

「ううん・・」

フランクがどんな想いをして、ジニョンの決意を待っているのか
レイモンドに言われるまでも無く、彼女自身にもわかっていたからだった。
「これから、そっちへ行くよ」

「駄目。」

「どうして?」

「どうしても・・・今夜は・・ひとりにして」
≪それなのに・・・≫
ジニョンは、まだ答えが出せないでいる自分が歯がゆくてならなかった。

「・・・・・・」

「怒ったの?」

「別に・・」
「怒ってる・・」
≪そうよ・・怒る権利があるわ・・・
 あなたは何の迷いもなく、私に全てをくれたのだから・・・≫

「怒ってないよ」

「そう?」

「ああ・・怒ってない・・ただ逢いたいだけだ」

「今日はお昼まで一緒だったわ」

「今は一緒じゃない」

「わがままね」

「我侭?朝も昼も夜も・・そばにいて欲しいだけなのに?」

「ふふ・・それを我侭というのよ」

「そうなの?・・なら、我侭で結構」

「ドンヒョクssiったら・・」

ふたりは電話を通して聞こえてくる互いの明るい声にホッとしていた

「明日・・」
「えっ?」
「明日レイモンドのお見送り、行くの?」

「いや・・そのつもりはないよ」

「そうなの?」

「ああ、彼が嫌がるんだ」

「私も断られたわ」

「はは・・あの人はセンチメンタルだから・・」

「レイが?・・センチ・・?」

「ああ・・君が行ったら、間違いなく泣いてしまうよ・・」

「ふふ、あなたたちって、いつもお互いの悪口ばかり・・・」

「別に悪口じゃないさ」

「そうね・・お互いに愛し合ってるわ」

「愛?・・冗談は止めてくれ・・」

「ふふ・・・ねぇ・・明日私お休みなの・・」

「知ってる」

「行きたいところがあるの」

「行きたい所?」

「ええ・・連れて行ってくれる?」

「いいよ、何処でも・・」

「ありがとう」

「それで?」

「えっ?」

「何処?」

「内緒・・」

「・・・・・・」

「明日教えるわ」





翌日の朝、ジニョンはオフにも係らずフロントの前に立ち
レイモンドのチェックアウトを見守っていた。
手続き中にジニョンに気がついたレイモンドは思わず顔をほころばせた。
「来てくれたの?」 

「ええ、空港までのお見送りは却下されたから・・」
ふたりは並んで話しながら、表玄関へと向かった。

「はは・・苦手なんだよ、あれ・・」

「ええ、・・泣かれると困るから、行くの、止めておくわ」

「泣く?」

「フランクがそう言ったの」

「あいつが?・・」

「ええ、レイモンドはセンチメンタルだって・・そう言ってたわ」

「お前には負けるよ・・そう言っておいてくれ」

「ふふ・・言っておく」
ジニョンはフランクとレイモンドの間で、まるで楽しんでいるかのように、
含み笑いをしていた。

「今日はフランクと出かけるんだって?」

「聞いたの?」

「ああ、昨日あの後、逃げたことをあいつがしつこく責めるんでね
 君とのデートがどれだけ楽しいものだったか、力説してやった
 そうしたら逆襲されたんだ・・明日が楽しみだ、ってね」

「まあ、あなた達って、まるで・・」

「まるで?・・悪がき?」

「ええ」

「はは・・ソニーにもよくそう言われるよ
 あなた達の喧嘩はまるで幼い兄弟のそれだとね」

「ふふ・・きっとそうね・・ソニーさん・・お元気?」

「ああ、あいつも元気過ぎて、うるさいくらいだ」

「きっとレイが困らせてるんだと思うわ」

「おや?奴の味方?」

レイモンドとジニョンがエントランス前に待機中の送迎車の横で、
にこやかに話し込んでいると、クラクションが高らかに鳴り響いた。
その無粋なクラクションはレイモンドを待つ車からのものではなく
その向こうでジニョンを待つ、フランクの車からだった。

「あいつ・・」 
レイモンドはフランクの方を横目で睨みながら、「じゃあ、また」
そう言って、フランクにこれ見よがしにと、ジニョンを抱擁した。
そして彼女の耳元で静かに囁いた「早く、行っておやり・・」

ジニョンは、車に乗り込むレイモンドに満面の笑顔を返すと、
フランクの待つ車に小走りに近づいて、素早く助手席へと乗り込んだ。

フランクはその直後に車を発進させると、クラクションを軽く二回鳴らした。

ふたりの目の前を走る車の後部座席で、振り向かないまま後ろ手に
レイモンドが手を振った。

それから二台の車は右と左に分かれて進んだ。




「行ってしまった・・・」 ジニョンがポツリと寂しげに呟いた。

「寂しい?」

「そりゃあ・・」

「ふ~ん・・」

「あ・・ドンヒョクssi、今、焼もちやいた?」

「別に?」

「いいえ、焼いてるわ・・焼いてる・・焼いてる」
ジニョンはフランクの前に自分の顔を乗り出し、囃し立てた。

「ジニョン、うるさいよ・・運転中なんだよ」

「ふふ・・可愛い」 
ジニョンはそう言いながら、にっこりと微笑み、正面に向き直った。
フランクは、久しぶりに見るジニョンのあどけない笑顔が嬉しかった。

「・・・・・・で・・何処行くの。」

「東海」 ジニョンは正面を向いたまま、即座に短く答えた。

「東海?」

「ええ」

フランクが突然、車道を逸れてブレーキをかけると、ジニョンが
前のめりになった体を起こしながら言った。「どうして止まるの?」 

「何のつもり?」 フランクは正面を見据えたまま、冷たい口調でそう言った。

「何のって・・お父様に会いに・・」

「わざわざ行く必要はないよ」 フランクは更に冷たく答えた。

「どうして?・・あれ以来、お父様にお会いして無いでしょ?」

「ジェニーが行ってる」

フランクは最近、東海に小さな家を買った。
休暇の度にジェニーが東海へと父を訪ねていることを聞いて
彼女が心置きなく滞在できるようにと、心を砕いたのだった。

「ジェニーが言ってたわ・・お父様、口には出さなくても
 寂しがってらっしゃるって・・
 あなたに会えなくて・・
 再会してから、あなたと一度もお話が出来なくて・・」

「話すことは何も無いよ」

「いつまでそうしてるの?」

「会いたくない。」

「子供みたい。」 
フランクの頑なな態度に向かって、ジニョンは言い捨てるように言った。
その彼女の顔をフランクは鋭く睨み付けた。
「駄目よ・・そんな怖い顔したって、私怖くないもの・・」
そして彼は彼女から顔を背けた。

「お父様・・話を聞いて欲しい、って・・そう言ったんでしょ?」

「・・・・・・」

「あなたが東海に行った時・・
 そう叫びながらあなたの車を追いかけて来たって・・
 レオssiが言ってたわ」

「・・・・・・」

「ジェニーに会わせるために、ホテルにお呼びした時だって
 結局あなたは、ひと言もお父様とお話しなかった」

「必要無いからさ。」 
フランクは正面を見据えたまま顔を強ばらせ、彼の中で
怒りが頂点に到達しているのがわかった。
「そんなはずない。」 
それでもジニョンは彼の頑なさを一喝するように言った。

「君には関係ないだろ!君に何がわかる!」 
フランクは思わず怒鳴ってしまった。
その瞬間、ジニョンがフランクの瞳の中で、悲しげに項垂れた。

「あ・・ごめん・・・・・」

「そうね・・・私には関係がないわ・・・」

「ごめん・・そういう意味で言ったつもりは・・」

「わかってる!でも!このままじゃ・・
 このままアメリカに帰ってしまっちゃ・・駄目・・・
 絶対に・・駄目。」
そう言いながらフランクを見つめるジニョンの瞳に涙が浮かんで
今にも零れ落ちそうだった。

「卑怯だな・・・」

「・・・・・・」

「そうやって・・」

「そうやって?」 ジニョンの声は涙で震えていた。

「・・・いつもそうやって・・・僕を懐柔するんだ・・君は。」

「・・・何とでも言って。」 ジニョンはフランクを睨み付けた。
フランクはジニョンの睨み付けた眼差しに圧倒され、
遂には降参したように一度足元に視線を落として、小さく笑った。

ジニョンは彼のその様子にほっとして、張り詰めた緊張を解いた。
零れ落ちそうだった彼女の涙が、泣き笑いのせいで
急いで頬を伝い落ち、消えて行った。「忘れるところだったの・・・」

「ん?・・」

「お墓参り」

「・・・・・・」

「今日でしょ?
 このところ・・ちょっと精神的に参ってて・・・忘れてしまうところだった」

「・・・・・・」

「やっと・・・あなたと一緒に会えるわね・・お母様に・・」

フランクはジニョンのその言葉に、胸が熱くなる自分を感じて少しうろたえた。
しかし自分を見つめるジニョンの瞳が、素直になれ、と説いていた。

フランクは彼女に向かって静かに微笑むと、彼女の頭を右手で抱き寄せ
その髪にそっと唇を落とした。


   ああ・・・・


      ・・・そうだね・・・




























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