2011/01/23 21:25
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-32.愛ゆえに

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi

 








    どうぞ今はあなた方だけで・・・


     ・・・ソウルホテル完全勝利の祝杯を・・・


会議室を後にしたフランクの心は清々しい想いに溢れていた。

フランクはジニョンの想いを叶えることだけの為にこのソウルの地を踏んだ。
しかし、このたったふた月の間に彼の心に芽生えたものは
ジニョンとの再燃する愛だけではなかった。

父や妹との再会が、眠っていた彼の心を揺さぶる何かを生んだ。

レオやレイモンドの揺ぎ無い友情は何ものにも負けない勇気を与えた。

ハン・テジュンという男が
21年もの昔生き別れた妹に与え続けてくれた慈悲への感謝。
そしてその妹ドンヒの
テジュンを助けたい、恩返しがしたいという切ない願い。

≪その全てに報いなければならない≫

フランクはそう思っていた。

無論今回の一件で、フランク・シンという事業家が失うものは多大である。

しかしフランクにとって財産などはどうでも良いことだった。

確かに今回、彼はM&Aという世界で今まで培ってきた信用の
全てを無くすことになるだろう。
それはフランクのような孤高の事業家にとって死にも値する。

それでも彼は実行した。

それは何故か・・・

「フッ・・・すべて・・・愛のため・・・」
フランクはレイモンドをまねて、ひとり呟き小さく笑った。






「しかし、どうしてあなた方が今日のこの日に・・ここへ?」 
テジュンはその答えがとうにわかっていながらも敢えてそう聞いた。

「さきほど申し上げた通りです」 
しかしレイモンドはそう言って微笑んだだけだった。

「えっ?」 
テジュンはレイモンドの言葉の先にあるものを興味深げに探った。

「愛のため」 
そしてレイモンドはそのひと言だけを言って、ジニョンを見た。
ジニョンは彼のその言葉と優しい眼差しに胸を熱くしていた。

「シン・ドンヒョクssiですね」 
テジュンはレイモンドからの真実の答えを待たずにそう言った。
しかし、レイモンドはそれに対しても何も答えようとはせず、
ただ口元の笑みだけがそれを肯定しているように見えた。

テジュンにしてみれば、真相を知っておきたいところだった。
その様子を見ていたジョルジュがふたりのそばに歩み寄り、
口を開いた。

「ヒョン・・、レイモンドとシン・ドンヒョクssiには
 何の繋がりもありません
 そのことをくれぐれもお忘れなく・・」

テジュンはジョルジュの言葉の意図を汲んで、黙って頷いた。

「ところでジニョン・・チェックインを頼むよ・・そして
 今夜は私の部屋で再会の祝杯をあげないか」
レイモンドはそう言って、その場の空気を変えるべくジニョンの肩を抱いた。
「もちろん、フランク抜きでだよ」 彼は小声でそう付け足した。

「まあ、レイ・・それではフロントへどうぞ、ご案内致します」

「それでは君のホテリアーとしての仕事ぶり・・見せていただこうか」
レイモンドがジニョンの肩を抱いたまま、彼女を連れ立って
部屋を出ようとしたその時だった。

「母さん!」 
ジョルジュの緊迫した声が、既に他には誰も居なくなっていた
広い会場に響き渡った。

ジニョンがその声に驚いて振り返ると、目の前で
ドンスクがジョルジュの腕の中に力なく埋もれていた。

「社長!」






「どうして・・言ってくれなかったの!」 
病院の廊下でジニョンはテジュンに詰め寄った。
「社長のお体があんなに悪くなっていらしたなんて!」

テジュンはその場に立ち尽くしたまま
ジニョンからの罵倒を甘んじて受けるかのように項垂れていた。

「知ってたんでしょ!何んとか言いなさい!テジュンssi!」
ジニョンは泣きながら更にテジュンを責めた。

「ジニョン、よしなさい」 
レイモンドがジニョンの手を掴んでテジュンの胸倉からその手を離した。

テジュンは長椅子にゆっくりと腰を下ろし、今までの経緯を話し始めた。
そして彼は自分が知っていることを全て話し終えると、
少し肩の荷を降ろしたかのように溜息をついて静かに立ち上がった。
そして、「後は頼む」と言い残し、彼らの前から立ち去った。

「彼も苦しかったんだ」 
レイモンドがそう言って、ジニョンの肩に手を触れた。
ジニョンは黙ってコクリと頷いた。


しばらくしてジョルジュとヨンジェが担当医師に呼ばれた。

ジョルジュはジニョンの手を取ると、黙って彼女の目を見た。
ジニョンもまたジョルジュの目を見て頷いた。
三人は、それまで一緒にいてくれたレイモンドに一礼をして
医師が待つ部屋へと向かった。

ドンスクが肺がんを患い、予断を許さない容態であることは
先程テジュンから伝え聞いていた。

医師は緊張を隠せないまま入って来た三人の顔を順に眺めると、
彼らに向かってにっこりと笑った。そしてとても穏やかに口を開いた。

「まだ光は見出せます
 私達は決して望みを捨ててはいません。」

医師は真摯な口調でそう言った。

   医学は日一日と進歩を続けている
   その凄まじい進歩と患者本人の生きるという強い意思が
   噛合ったなら・・・きっといい結果が生まれるでしょう

   だから私達は決して
   最後まで諦めてはいけないのです

   何よりも・・・お母様を待っているあなた方がいるんですから
   そのことをお母様に教えて差し上げなさい

と・・・医師は笑顔のままそう続けた




ジニョンと、ドンスクのふたりの息子ジョルジュとヨンジェは
互いに言葉も交わすことなく、病室のベッドに横たわるドンスクのそばで
彼女が目覚める時を待っていた。

三人が苦渋の面持ちで見守る中、
しばらくしてドンスクはゆっくりとまぶたを開けた。

「母さん!」「社長!」
三人はベッドの傍らで、待っていたとばかりに声を上げた。

「どうしたの?三人とも・・・」 ドンスクは同様に悲愴な顔つきをした
三人の子供達の様子をひとりひとり眺め、静かに口を開いた。

「酷いよ・・母さん・・僕に何も言わないなんて」
ヨンジェが子供のように泣きながら、ドンスクの手を握った。

「何のこと?」 ドンスクは小さく微笑みながら言った。

「母さん!」 今度はジョルジュが彼女を嗜めるように言った。

「わかってるわ・・ごめんなさい・・でも・・
 私は倒れるわけにはいかなかったの
 あなた達に話せば、きっとこんな風になって・・・
 私は自分の病気を思い知ることになる・・
 そうしたら・・・気力すら崩れてしまってたでしょう」
ドンスクは項垂れた頭をベッドに押し付けていたヨンジェの髪を
優しく梳きながらそう言った。

「そんなこと・・」 
ジョルジュは嘆きとも怒りとも付かない表情をドンスクに向けた。

「ああ、でも幸せだわ・・あなた達がこうして揃っているなんて」 
ドンスクは三人の困惑を他所に再度彼らを眺めながら言った。

「ヨンジェ・・泣くのはよしなさい・・みっともないわよ
 しっかりしなさい・・・
 これからあなたはテジュンssiの下で、修行を積むのよ
 テジュンssiには厳しく育てて頂く様によ~く伝えておいたわ」

「母さん・・」 ヨンジェが困ったような笑みを向けた。
その後ろでジョルジュが同じような表情をしていた。

「ジョルジュ?」 
ドンスクは数年ぶりに帰って来た愛しい息子の顔を愛情深げに覗いた。
「母さん・・・」

「ジョルジュ・・・そばに来て・・」
ジョルジュはドンスクに言われるまま、ヨンジェと入れ替わった。

「ジュルジュ・・ああ、会いたかったわ・・・
 親不孝な子ね・・あなたは・・・」 ドンスクは愛しげにそう言った。

「ああ・・ごめんよ、母さん・・心配かけたね」

「でも・・・ありがとう・・・
 ホテルを救ってくれて・・」

「僕が救ったわけじゃない」

「そうね・・でもあなたもそのつもりだったでしょ?」

「ああ・・そうだね・・・僕もそのつもりだった
 そして幸運なことに・・・僕やジニョンのそばには
 それを叶えられる優秀な人達がいたんだ」

「そうね・・・そうね・・・感謝しないと・・・」

「ああ・・そうだね」

「ジニョン・・・」 ドンスクはジニョンの手を探した。

「はい・・社長・・・」 
ジニョンはジョルジュに促がされて彼女の枕元に座った。

「ジニョン・・さっきね私・・
 あなたが生まれた時の夢を見ていたわ」

「えっ?」

「私はね、昔から女の子が欲しくて・・
 でも結婚して何年経っても、なかなか子供に恵まれなくて・・
 そんな時、私達の大切な友人があなたを生んだ・・・
 羨ましくて・・いつか私もあなたのような女の子をって・・
 そう思ってたのよ・・・」

「・・・・」

「でも駄目だった・・・
 あ・・もちろん、この子達は私の宝物よ・・
 むさくるしい男の子だけど・・」
そう言って、ドンスクはジョルジュとヨンジェを見やっていた。
彼らは少し拗ねたようなそぶりを見せて、互いに笑った。

「そして、あなたの成長を間近で見守る内に、 
 あなたが私の娘だったらって・・そう思うようになったの・・」

「社長・・・」

「社長は止めて?・・昔のように・・可愛らしく“お母さん”・・
 そう呼んで頂戴・・・
 あなたは私のことそう呼んでいたでしょ?」

「ええ、そうでした・・・
 子供の頃・・母のことを“ママ”社長のことは・・
 “お母さん”・・でしたね」

「ジョルジュとあなたが・・とても仲良くなった時・・
 私は心の中で“やった!”って・・ふふ・・・
 そう思ったのよ・・
 あなたが・・ジョルジュのお嫁さんになってくれれば
 あなたは本当に私の娘になるんですものね・・」

ジニョンが返事に困ったような顔をしていたが、
ドンスクはそれにお構いなしに続けた

「もうとっくにその望みは叶えられてもいいはずなのに・・・
 ・・・なかなか叶えられなかった」

ドンスクの言葉にジニョンもジョルジュも次第に
母の記憶の異変に気が付いたが何も言わなかった。

「ねぇ、聞かせて・・もう駄目なの?・・・あなた達は・・・」

「母さん・・その話は止めてくれ・・」 
やっとのことジョルジュはドンスクを嗜めるように言った。

「ジニョン、本当のことを聞かせて?
 テジュンssiはいい人だけど・・
 彼も私達夫婦にとって息子のような存在だけど・・
 ジェルジュでは駄目なの?ジニョン・・・」

「あの・・・」 ジニョンは困ったようにジョルジュに助けを求めた。

「母さん・・」

「・・本当は今頃、
 あなた達の子供を抱いていたはずなのに・・・」

「母さん!その話はもう止め・・」 ジョルジュがそう言い掛けた時
ジニョンはジョルジュを制し、首を振った。

ジニョンはドンスクの記憶が途切れ途切れに繋がっているのだと
はっきりと理解した。
彼女の記憶にはきっと、ジニョンが心から愛する男の存在は
消えてしまっているのかもしれなかった。

「ねぇ、ジニョン・・・あなたにお願いがあるわ
 ジョルジュのこと・・ヨンジェのこと・・
 そしてホテルのこと・・
 昔からあなたはこの頼りないふたりの男の子達を
 守ってくれていた・・そうだったわね」

「ええ・・そうでした」

「そうよ、いつもあなたが一番頼りになったわ」 
ドンスクはそう言って明るく笑った。

「ふふ・・弱虫でしたから・・ジョルジュもヨンジェも・・」
ジニョンは笑いながら、ジョルジュとヨンジェを交互に見た。
ふたりは不満そうに口を尖らせながらも、楽しそうに笑っていた。

「ふふ、そうね・・そうなの・・・ジニョン、だから
 心残りなの・・・この子達が・・・ホテルのことが・・・」

ドンスクは少し朦朧とし始めた意識の中、話をしていた。

「お母さん・・・そろそろ、お休み下さい・・・」
ジニョンはそう言いながら、ドンスクの胸の辺りを優しく叩いた。

「ええ・・そうね・・・」 ドンスクはそう応えると優しく微笑んだ。
そして「お願いね」と繰り返しながらやっと眠りに付いた。




眠ってしまったドンスクをヨンジェに任せて、ジョルジュはジニョンを
病室から連れ出した。

「ジニョン・・母さんが言ったことは気にするな・・・いいか
 お前は今度こそフランクと幸せになるんだ・・」

ジニョンはジョルジュの声を意識の奥で聞いていた。

「お前達は苦しんで苦しんで・・やっと・・」

ジョルジュは返事もせず、遠くを見ているようなジニョンの肩を掴んだ。
「ジニョン!」 振り向かせると、ジニョンの目には涙が溢れていた。

「・・・・私ね・・小さい頃・・オンマが仕事で忙しい時
 ホテルが遊び場だった・・知ってるでしょ?」

「ああ・・僕達はふたりでホテルの中や外・・厨房・・屋上・・
 色んな所を走り回っていた・・」

「社長は・・いいえ、お母さんはいつも・・
 そんな私を危なくないように・・母に代わって
 見守って・・育てて下さった・・」

「ああ・・そうだな・・僕も・・・
 三つの時、義父と義母に養子縁組をしてもらって・・・
 その最初の日に突然病院に連れて行かれて・・
 お前が生まれたことを知った
 その日がお前と初めて会った日だ」

「覚えてないけど?」 ジニョンは無理に笑顔を作った。

「今でも覚えているよ・・お前は小さくて、近づくと甘い匂いがした
 僕は小さなお前を抱っこさせてもらって
 余りに可愛くて・・頬ずりをしたんだ
 それからは毎日、母さんと一緒にお前に会いに行って・・
 毎日毎日、お前を見ていた」

ジニョンは遠い昔話をするジョルジュの横顔を黙って見つめていた。

「或る時僕が言ったんだそうだ
 “ジニョンを・・僕のお嫁さんにしていい?”って・・
 そしたら、母さん・・凄く嬉しそうな顔をして
 “そうね・・そうなるといいわね”って・・
 僕がきっとお前に執着したのは、
 お前を嫁さんにすることを母さんが
 あんなに喜んだからかもな」 ジョルジュは悪戯っぽくそう言った。

「ふふ・・そうなの?」 ジニョンは涙を流しながら笑った。

「でも・・・駄目だぞ」

「何が?」

「フランクは今回の一件で国外追放は免れなくなる
 少なくとも一年以上は韓国への入国を阻まれるかもしれない」

「えっ?どうして?」 

「知らなかったのか・・
 彼はキム会長のものになるはずの債券を
 自分の財産を使ってソウルホテルに有利になるよう動かした
 キム会長がそれを知れば、きっと彼を訴える」

「そんな・・・知らなかった・・」

「それは誰のためでもない・・
 全てお前のためだぞ・・わかってるな。」

「・・・・・」

「お前は彼についてアメリカに行くべきだ」

「・・・・・」

「ジニョン・・・僕がお前を離したのは・・・
 お前を不幸にするためじゃないんだぞ・・」

「でも・・でも・・ジョルジュ・・・
 社長は私にとってもうひとりの母も同じなのよ・・・
 その社長が大事な時に私・・・」
ジニョンは堪えきれずに言葉を詰まらせ、顔を両手で覆った。

「諦めないよ。」 ジョルジュが唐突にそう言った。

ジニョンは顔から覆っていた手を離してジョルジュの顔を見上げた。

「お医者さんが言っただろ?
 諦めるなって・・・
 母さんもきっと諦めない・・いや、諦めさせない
 今はちょっと気弱になっていて
 現実から逃げているのかもしれない
 だからお前に甘えてるんだ
 
 でも大丈夫・・
 僕がちゃんと母さんをここに引き戻すよ
 だからお前は安心していていい・・・わかったな。」

「ジョルジュ・・・」





「ドンヒョクssi?」 ジニョンの声は震えたように聞こえた。

「ジニョン?・・今何処?」 フランクはその理由を知っていた。

「桜が・・・とてもきれい・・・」 ジニョンはまるで呟くようにそう言った。

「・・・・そこを動かないで・・・待ってなさい」 

フランクはただ静かにそう言って、電話を閉じた。


 
   私達は決して・・・


    ・・・最後まで諦めてはいけないのです・・・



   
 























   






  



 


 


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