2011/01/11 09:44
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-28.証

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi

 






翌朝ジョギングから戻ると、部屋の前にジェニーが立っていた。
彼女の目が、ジニョンから事情を聞いてそこに来たことを物語っていた。

「・・・・・朝ごはんは・・・食べた?」

「ええ・・朝ごはんはちゃんと食べないと、
 仕事にならないからって、テジュンssiが・・・」

「これから仕事?いつもこんなに早いの?」
フランクはジェニーの口から出たハン・テジュンの名前を一度は無視した。

「厨房で認めてもらえるまで、みんなより30分早く出て
 30分遅く帰りなさいって・・テジュンssiが・・・」

「テジュンssiが・・・そんなことを?」
フランクは妹ドンヒにとって、ハン・テジュンという男が
いかに重い存在であるのか認めざる得なかった。

「ええ、テジュンssiは私に色んなことを教えてくれます」

「そう・・・」

「私昔・・・とても人に言えない生活してたんです」

「苦労したんだね」

「忘れました・・・でもテジュンssiがいつも親身になってくれたから・・・
 生きてこられたんだと思います・・」

「・・・・」

「・・・慰めてくれたり・・叱ってくれたり・・
 命がけで助けてくれたこともありました・・」

「そう・・・」 フランクは視線を下げて静かに呟いた。

「今・・こうして大好きな料理の仕事をさせてもらえるのも
 みんな・・テジュンssiのお陰です」

「料理が好きなの?」

「ええ」

「・・・・・・」

「あ・・でも・・・本当のお兄さんが・・・成功してくれていて・・
 良かったです・・・本当に・・・」

「・・・・・・」

「・・・・いい人だったら・・・もっと良かったけど・・・」

フランクは俯きがちにそう言ったジェニーの言葉を聞いて、
寂しそうに苦笑した。

「あの・・もう行かないと・・仕事の時間なので・・」 
ジエニーがそう言いながら立ち上がろうとした時、フランクは言った。
「・・・・両親のことを知りたいかい?」 

「生きているんですか?」 
生まれて初めて対面した肉親を前に居心地の悪さから、できるだけ早く
その場を立ち去ろうと構えていた彼女が目を輝かせ、再度腰を下ろした。

「ああ・・父親は・・・。
 母親は君を生んで一年後に亡くなったけど」

「もう誰も生きていないのかと・・」

「君が会いたいなら・・・」
「会いたい!」 フランクの問いかけにジェニーは即座に答えた。

フランクはジェニーの悲痛なほどの眼差しに、心を乱されていた。
もう二度と会わないと、あの日自分が突き放してきた父親に、
会いたいと望む妹が今目の前にいる。

≪僕達を捨てていった人なんだよ
 それでも・・・そんなに会いたいの?≫

「会わせて下さい」

「ああ・・わかった・・」 ≪君がそんなに望むなら≫ 
フランクはまたも寂しげに視線を落とし、溜息をついた。

 




「いよいよ明日ね・・お父様・・来て下さること承諾下さって・・
 本当に良かった・・」 ジニョンは本当に嬉しそうにそう言った。

「ん・・」 しかしフランクは気乗りしない思いを露に俯いた。

フランクはレオに頼んで東海まで父親を迎えに行ってもらったものの
フランクの要請を一度は父が≪自分にはその資格が無い≫と、
頑なに拒んだと聞いた。
フランクは正直、“それならそれでもいい”と思った。
彼自身は父という存在をとうに棄てていたからだ。

しかし結果的に父はレオに説き伏せられ、明日彼に連れられ
やってくることになった。

「嬉しくないの?」

「どうしてあの子はあんなにも、あの人に会いたがるんだろう」

「どうしてって?」

「あの人があの子にどんな仕打ちをしたのか・・
 恨んで当然なのに・・」 フランクは不服そうに眉を顰めた。


「ジェニーね・・・二歳の時アメリカに渡ってからずっと・・
 養子先で幸せに暮らしていたらしいわ
 七歳の時まで、自分がその家の本当の子供だって
 信じて疑わなかったらしいの・・・
 学校に通うようになって、友達に言われるまで・・」

ジニョンは今日はこの話をフランクにしようと、サファイアを訪れていた。

「パパとママと肌の色が違うねって・・」

今まで自分の生い立ちについて多くを語ろうとしなかったジェニーが、
ジニョンに自ら語り始めたのはきっと、彼女を通して兄フランクに
伝えたかったのだとジニョンは察していた。

「・・・・」

「養父母達は、本当のことを話す機会を作ろうとしていたらしいわ
 きっと実の親のことも話して聞かせる用意があったんだと思う
 でも、ジェニーがそのことに触れないようにしていたって・・
 その頃は本当の両親に会いたい、なんて思わなかった・・
 今の幸せを失いたくない、ただそう思ってたって・・」

「・・・・」

「あなたがあの子をどうして捜さなかったのか・・後悔してること・・
 伝えたの私・・・そしたらあの子、こう言ったわ・・
 “私は自分のルーツを知る機会を・・自分から捨てたんだ”って・・」

「・・・幸せに暮らしていたんだね」 
フランクはホッと安堵したかのように溜息をついた。

「ええ・・十三の年までは・・」

「十三?」

「その年に養父母が交通事故でふたりとも亡くなって・・・
 車の衝突事故だったらしいわ」

「・・・・・!」

「あの子も一緒だったらしいの・・その事故の時・・
 三人とも後部座席にいて・・
 ご両親があの子を両側から抱きしめて守って下さった
 それであの子は辛うじて助かったの・・・」

「・・・・・」
  
「養父母には親御さんもご兄弟もいらしたけど
 縁もゆかりも無いジェニーを引き取ろうという人は
 ひとりもいなかった・・・
 それで結局あの子は家族が通っていた教会の牧師さんの元に・・」

「・・・・・」

「そこで親に捨てられた多くの子供達と遭遇して
 自分がそういう子供達と同じだったって・・改めてわかって・・・
 やりきれない思いだったって・・
 血の繋がらない育ての親は命がけで自分を守ってくれた・・
 でも・・本当の親は自分を捨てたんだって・・・
 その頃かららしいわ・・あの子が荒れ始めたのは・・」

「・・・・・」 フランクはジニョンから顔を背けたまま
彼女の話を無言で聞きながら、溢れ出る涙を堪えることができなかった。
「フラン・・ク?」
 
彼の胸に言いようのない悔しさが込み上げて仕方なかった。
「どうして・・・その時・・」

「・・・・」

「どうしてその時に・・・
 僕が・・あの子と・・出会わなかったんだろう」

「フランク・・・」

「捜すべきだったんだ・・・僕は捜すべきだった
 その頃の僕なら・・できたはずなのに・・
 あの子を捜すことも・・守ることも・・できたはずなのに・・
 僕はそうしなかった・・・」

「自分を責めないで・・お願い・・フランク・・」

フランクは依然としてジニョンから顔を背けたままだった。
頬を止め処なく伝う涙を彼女に見られたくはなかった。

「それなのに・・・」 フランクは苦しい呼吸を懸命に整えながら続けた。

「えっ?・・」

「それなのに・・どうしてあの子は・・・あんな親に会いたがる?
 恨んだはずだろ?・・恨んで当然なんだ
 本当の親は・・あの人は・・あの子を守らなかったんだから・・」

「・・・・・・・・あの子・・ここに来る前にもね・・
 死ぬ程危ない目に遭ってるの
 テジュンssiが命懸けで助けたのよ・・」

「・・・・」 

「そこから彼女を逃げ出させるためにテジュンssiも
 住んでいた場所を離れたの・・
 その時、彼女が彼に言ったそうよ・・
 “本当の家族に会いたい”って・・
 “韓国に連れて行って欲しい”って・・
 何でもするから・・今度困らせるようなことをしたら
 今度こそ放り出してくれていいからって、頼んだの・・
 きっと・・死ぬような思いをして・・・
 潜在していた家族への思いが蘇ったんじゃないかしら・・
 私は・・・そう思うわ・・」

「・・・・・」 
フランクは変わらず、ジニョンの話しを顔を逸らしたまま聞いていた。

「それに遅いことなんてない・・・
 あなた達はこうして出会ったんだもの・・
 ねぇ、フランク・・思わない?・・・・」
ジニョンはフランクが自分の方を向くのを待った。

フランクはひとつだけ深呼吸をするとやっと、ジニョンに視線を戻した。

「私は思うの・・・今だからこそ
 あなた達を神様が会わせて下さったって・・
 今のあなただからこそ
 あの子の想いをわかってあげられるんじゃない?

 それに・・こんな偶然・・あるわけないじゃない・・
 だってほら・・私とジェニーが今一緒に暮らしてるのよ
 あなたにとって妹なら・・私にとってもそうでしょ?
 あの子・・私のこと“オンニ”って慕ってくれてるのよ
 そうよ・・これって運命なのよ・・
 だから・・遅いことないの・・それに・・
 あの子は本当に肉親に会いたがってたの
 あなたは今・・あの子の一番の望みを叶えてあげている
 そうでしょ?」

「・・・ジニョン・・・」 
ジニョンが身振り手振りを交えて、懸命に彼を慰めている姿に
フランクは思わず噴出して笑った。

「何が・・可笑しいのよ」 ジニョンは口を尖らせてフランクを見上げた。

「ハハ・・・ごめん・・・
 だって君の顔があまりに真剣だから・・」
フランクは少し大げさにお腹を抱える仕草で笑って見せた。

「フランク!・・笑い過ぎ・・」 

しかし彼女にはわかっていた。

フランクは今、妹ジェニーを思って張り裂けそうな程の後悔に
懸命に耐えているのだと。








翌朝、サファイアの前で待つフランクの前に、ジニョンに連れられた
ジェニーが照れくさそうに現れた。

フランクは遠い日に妹の身に起きていた悲しい出来事を思いながら
彼女を愛おしそうに見つめた。
白いブラウスに、同じく白い長めのスカートをはいた妹を
まるで労わるように。

 ≪あの子ね・・足に傷があるの・・事故の時の・・・
   右足の膝下に・・残ってるの
   だからいつも長いパンツしかはかないの
   でも明日は・・おしゃれさせるわ・・・≫

そしてフランクは誓っていた。

≪もうこれからは決して・・・
  お前を不幸にはしない・・・≫



ジェニーはほんの数日前に兄となった男を前に、心が複雑に
揺れ動いていた。

自分にとって、心の兄はテジュン以外になかった。
今更、彼以外に本当に心を許せる兄などできるはずはない。
ジェニーはそう思っていた。

そのテジュンがこう言った。

≪あいつがどんな奴だろうとお前と血の繋がった兄貴なんだ・・・
  会いたくてたまらなかった本当の家族に会えたんだ・・
  お前は素直に喜べ・・≫

彼のその言葉に、ジェニーは黙って頷いた。

テジュンの言うことに間違いなどあるはずがなかったから・・・。

でも・・・その兄は・・・
≪大切なホテルの敵・・テジュンssiの敵≫

そして・・・
≪ジニョンオンニを・・テジュンssiから奪った人≫

しかし目の前で自分を温かな眼差しで見つめるフランクに
ジェニーは心を囚われていた。

それでも・・・ ≪私の・・・オッパ・・・≫



「行きましょう」 
ジニョンが目の前のまだぎこちない兄妹を温かい眼差しでいざなった。

「ああ」 フランクは昔よく繋いでいた小さかった手を思いながら
ジェニーに手を差し伸べた。
ジェニーは戸惑いながらも、差し出されたその手に包まれた。
それは彼女にとって、初めての肉親の手だった。

≪大きな手・・≫ 

彼女は自分の胸が何かに圧迫される恐怖に震えながら
それでも何故か心地良い温もりをその手から感じ取っていた。




ダイアモンドヴィラの一室が、テジュンの心遣いによって、
ジェニーと父との再会の場所となっていた。

レオに連れられソウルホテルへと案内されて来たその父は
馴染めないテーブルの前で落ち着かない様子だった。
フランクとジェニーがジニョンに案内されて中へ入ると、
父はすぐさま椅子から立ち上がった。

テジュンやジニョン達は長い時を経て巡り合った家族の為に
静かに席を外した。


対面を果たした三人は、互いから少しだけ視線を逸らしていた。
家族と呼ぶには、余りに長い年月をそれぞれに過ごし過ぎていて
その緊張を破るのに少しの勇気が必要だった。

「お父さんだ・・・挨拶を・・・」 
フランクはジェニーに向かって静かにそう言った。

  ≪君を捨てた男だよ、ドンヒ・・
    さあ、好きなだけなじるといい
    君にはその権利がある≫

するとジェニーは緊張の面持ちのまま前に進み出て、初めて見る父に
ホテルの仲間達に教わった韓国式の正式な挨拶を捧げた。
父は自分が捨ててしまった娘の、心を込めた挨拶を目の当たりにすると、
込み上げるものに堪えきれなくなったのか、思わず彼女に駆け寄り
ひざまずく彼女を泣きながら立たせると自分の犯した罪を詫びた。

「会いたかった・・・死ぬほど会いたかった」
ジェニーは父の腕の中で子供のように泣きじゃくっていた。

  ≪何を言うんだ、ドンヒ・・
   そんなこと言うんじゃない!≫


そして彼女は止めることのできない嗚咽の中で
「生きていてくれてありがとう」と父に繰り返した。


  生きていてくれてありがとう

彼女のその言葉の重みを、フランクは心の奥で噛み締め、目を閉じた。

その言葉を口にする妹が恨めしかった。

いいや本当は羨ましかったのかもしれない。
しかし・・・

  ≪僕は・・・言えない≫

涙ながらに抱きあう父と妹の姿は、フランクにとって余りに衝撃だった。


 僕は21年もの間、この父を恨んで・・
 憎んで・・そして捨てた

 しかし僕にとってのたったひとりの存在の証は・・・
 ドンヒは・・・あの人をあんなにも求めている


フランクは居たたまれなかった。

気が付くと、ふたりから目を背け、きびすを返しドアを開けていた。

ドアの外にはジニョンがいた。
しかしフランクは、心配そうに彼を伺う彼女からさえも目を逸らし
逃げるようにその場から立ち去った。




ジニョンがフランクの後を追いかけると、彼は漢江に向かって
静かに佇んでいた。

彼女は少しの間黙って、彼のその広い背中を見つめていた。
彼がまるで景色の中に溶けてしまいそうなほど、儚く見えた。

彼女は堪えきれず駆け寄ると、彼の背中を後ろからそっと抱きしめた。

「ドン・・ヒョクssi・・・」 

ジニョンはフランクをそう呼んだ。

「ドンヒョク・・・お願い・・・


      ・・・泣かないで・・・」・・・










 




 
















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