2010-06-10 09:18:53.0
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond8 Hisname③

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その人が僕の父だということはきっと最初から感じていたのだと思う。

初めて会った時、何処かで会ったことがあるような・・・不思議な感覚だった。

僕が少しの警戒心もなくその人を受け入れていたのも潜在的な思いが、
いいやきっと僕の血が・・・そうさせていたんだと思う。


その人は僕を抱きしめたまま、しばらく動かなかった。
その人の温かく広い胸の中で、僕はさっきまでの興奮を静かに沈めていった。

そしてその人は僕をゆっくりと自分から離した後、立ち上がり、母をゆっくりと
その腕に抱き寄せると、彼女の額に優しくくちづけて、僕の家から出て行った。

 


母も僕もしばらくの間、何も話さなかった。
互いに触れられたくない何かから逃れるように黙っていた。

母は僕がベッドに入る時間になってやっと決心したかのように、大きく溜息を
吐ききながら口を開いた。


  「レイ・・・何が聞きたい?」

  「・・・・・」

  「ママに話して欲しいこと・・あるでしょ?」

  「無いよ」

  「あの人はね・・」

  「無いよ!」

  「・・・・・」

僕の中にわけのわからない不安が過ぎっていた。

あの人を父として認めるということが、僕と母が今までふたりだけで築いて来たものを
簡単に壊されてしまいそうで、意味もなく怖かった。


僕はその夜、母を避けるようにブランケットを頭からかぶり、夜通しその恐怖に
震えていた。

 


眠れなかったはずなのに、いつの間にか朝方にはぐっすりと眠りに落ちていた。

夢を見ていた・・・

目が覚めた時には何の夢だったか忘れていた。
でも、僕の目尻に滲んだ涙がどんな夢だったかを思い出させた。

   笑顔だった母が急に悲しそうな顔を残して
   街のブロックの角を曲がって消えた
     
        ・・・マム!・・・

   僕は追いかけて追いかけて・・・
   母に追いつこうとしていたけれど
   どんなに走っても・・・走っても・・・
   母が曲がって消えたその角に辿り着くことが
   できなかった・・・

      

下へ降りると、母がキッチンに立っていた。
いつもなら、仕事に出掛けていて既にいないはずの母が・・・


   《やはり・・・あなたの仕業だったんですね・・・
    昨日、仕事を失くしました・・・》

昨日の母のあの人への言葉が頭を過ぎった。


  「おはよう・・マム・・」

  「あ・・おはよう・・レイ・・」

母はいつものように僕を抱きしめてキスをした。

  「朝ごはん用意したら、出かけてくるわね」

  「仕事探しに行くの?」 僕がそう言うと、母は一瞬顔を曇らせた。

  「えっ?・・ああ・・・あなたが心配することは
   何も無いのよ・・・」

  「宛があるの?」 僕は無表情なままそう言った。

  「レイ・・・大丈夫よ」

  「本当に?」 突然僕の胸の奥に、言い知れぬ不安が押し寄せていた。

  「ええ・・」

  「僕はママと一緒にいられる?」

僕は母から目を逸らしたまま、ミルクのカップを口に運んでそう言った。

  「何を言ってるの?当たり前じゃない・・・」

  「マム・・・僕は何もいらないよ・・・
   昨日みたいなご馳走なんて・・いらない・・・
   そうなんだ。本当はハンバーガーだって食べたく無い。

   僕達はふたりで楽しく暮らしていたよね・・・
   マムは僕のこと・・・大好きだよね。
   僕はマムと一緒なら、他には何もいらない・・・
   マム・・・お願い・・・僕を何処にもやらないで・・・」

 

僕は母の首にしがみつくように抱きついて、さっきの夢の続きにやっと辿り着いたと
自分自身に言い聞かせていた。

  「レイ・・・わかってる・・・
   わかってる・・・何処にもやらないわ・・・
   あなたがいなければ・・・
   ママは生きていけないもの・・・」

 

 


             マム・・・
        僕のお父さんってどんな人だった?


             優しい人だったわ・・・

   
        どんな声?

             とても素敵な甘い声よ・・・


        どんな顔をしてた?


             あなたに良く似ていて・・
             ハンサムだったわ

 
        愛してたの?

             ええ・・とても・・・
             だから、あなたが生まれたの・・・


        どうして・・死んじゃったの?


             ・・・・・・・・・・


        ごめん・・・
        いいよ・・マム・・話さなくても・・・

 

 

僕は小さい頃から、母が父のことを話す時の笑顔が好きだった。

とても大切な人のことを話しているように母の笑顔は輝いていた。

その美しい母の笑顔が見たくて、僕は父のことをよく訊ねたものだった。

でも、どうしても最後の質問になると母の笑顔が曇ってしまう。

僕はいつの間にか、父のことを聞かなくなっていた。

 

 

     僕の父さんはどんな人?


        あなたに良く似た・・・ハンサムな人よ・・・


     愛してた?

          とても・・・


               とても・・・愛してたわ・・・


 


 

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