2010-07-25 15:03:05.0
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-41.切り札

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僕がその人を訪ねロサンゼルスに飛んだのは、レオからの報告を受けた
その翌日のことだった。

 

昨日、電話でアポイントを取った時、その人は会談の場所にロスにある
自己所有の美容サロンを指定した。

街の外れの静かな場所に存在するそのサロンは、外観は普通のアパート風で
入り口の厳重なオートロックドアを抜け中へ入ると、内装は外観と打って変わって
上層階級御用達風の絢爛たる造りを誇示していた。


大理石の広いエントランスの奥に重厚なドアが二つあり、それぞれのドアに
メンズとレディースの表示の刻印が見えた。
僕が指示された通り、メンズ専用の入り口から入ると、待ち構えていたかのように
受付嬢らしき女性が入り口付近で僕を出迎えていた。

 

「お待ち申し上げておりました・・ご案内申し上げます」

彼女は僕を連れ立って、メンズから通じているらしいレディース専用の個室へと誘導し
僕を尋ね人の元へと案内した。

 

通された部屋はアールヌーボー調の調度品でまとめられ、広々とした空間に
その中央にぽつんと置かれた一台の細いベットが目を引いた。

ベッドの上には背中をむき出しにうつ伏せた一人の女性が横たわっており、
その白い背中を器用な指使いで術を施しているエステティシャンと思われる
東洋の女性がちらりとこちらを向いて会釈をした。


「フランク・シンと申します」

僕は自分の尋ね人がそこに横たわっている人物と解釈して口を開いた。

「・・・・」

その背中は微動だにせず、返事すら無かった。しかし僕は迷わず話を続けた。

「用件はお電話で申し上げた通りです」

「・・・・」

「・・・ご協力いただけますか・・」

「あなたに協力すれば・・私は何を得られるの?」 彼女がやっと声を上げた。

それでもうつ伏せた状態を崩すことなく、僕に視線を向けるわけでもなく、
落ち着き払った声だけが僕に向かっていた。


「きっとあなたの望みが得られるかと・・・」

「ふふ・・・そう・・・でも・・ひとつだけ聞かせて?
 どうして・・あなたは・・・
 私がパーキン家の弱みを握っていると思ったのかしら」

「情報を得たからです・・・」

「情報ね・・・・どこからそんな情報が?」

「私が望めば、調べられないことなど何一つありません」

「随分大きな口叩くのね・・・それにしても・・・
 そのことは決して誰にも漏れないことだと思ってたわ・・・
 それに私はそれを公にする気もさらさらない・・・」

「・・・しかしあなたは・・時を狙っていたはず・・」

「まさか!」

彼女はやっと僕の方に顔を向け、僅かに声を荒げてみせた。
しかし、その声とは裏腹に彼女の冷たい目は一向に動揺を感じさせなかった。

しかし僕と初めて対峙した彼女が僕を見て一瞬だけ驚いたように眼を見開いたのがわかった。

「・・・随分と・・・お若い方なのね・・それにかなりの美男子・・・」

「・・・・・」

「・・・でも・・嫌いな顔だわ・・・」

その言い方は初めて会ったはずの僕をずっと昔から嫌いだったと言いたげな口ぶりだった。

「・・・・」


   ローザ・パーキン・・・


アンドルフ・パーキンの妻・・・現在はパーキン家を離れ、ロサンゼルスの外れに
ひっそりと居を構えていた。
   

彼女の肌はとても白く輝き美しく、そして若々しかった。
年齢を聞かなければまだ三十代後半と言われても納得するだろう。

 

「あなた・・・誰かに頼まれてここへ?あなたのボスは誰?」
   
「私にボスなどいません」

「なら、何故・・パーキン家を狙うの?」

「仕事です」

「仕事・・ね・・・」

「それで・・・」

「それで?・・・何だったかしら・・・」

「ご協力いただけ・・」
「そうね・・・あなた次第」

彼女は僕を睨みつけるように力強くブルーの瞳を向けて、少し薄めの唇の口角を
妖しく上げた。

 

しばらく待つようにと別室に通されて三十分、彼女は体のラインを強調したような
シルクのシンプルなドレスに身を包んで現れた。
抜けるような白い肌に瞳の色と同じ淡いブルーがよく似合っていた。

彼女は僕の顔を覗きこみながら、その脚線美を誇張するかのように僕の前に
優雅に腰を下ろした。

「フランク・・・だったかしら・・・お名前」

「ええ・・」

「時を狙っていたはず・・・
 先程そうおっしゃったわね・・・・・・・・・」

彼女は僕の正体を伺うかのように鋭い視線を向けた。

「ええ・・」

「確かに・・・狙っていたわ・・アンドルフがトップを退く、その時を・・・」

「ご子息の戦線離脱という話はやはり表面上・・・ということですね」

「・・戦線離脱?世の中ではそんな風に?・・
 そうね・・・・・・・・・・」

彼女はスッと斜めに足を組み、目の前のテーブルに置かれた。
ケースに手を伸ばすと、その中から煙草を一本取り出した。

「・・・あなた・・・慣れてないのね」

「・・・・?」

「こんな時は、直ぐに火を点けるものよ」

「・・・・・」

そう言って妖しげな笑みを浮かべながら、彼女は自らライターで優雅に火をつけた。

「・・・フー・・・
 あの子は仕事の失敗でアンドルフから見放されたのよ」

煙草の煙をわざとらしく僕に向かって吹きかぶせながら彼女は話しを続けた。

「・・・といっても、彼には初めからあの子に継がせる気持ちなど
 さらさらなかったでしょうけどね

 レイモンド・・・・・・・」

彼女はその名前を口にしてから、少し間を置いた。

「あの人が生涯で愛したたった一人の女の息子
 彼にはあの子ひとり、いれば良かったのよ
 フレッドもライアンも・・・そして私も・・必要なかった」

彼女はそう言いながら視線を落として小さく溜息をついた。

「・・・・」

「だから、離れてあげたの・・彼の為に・・・」

そう言った彼女の声が少し震えているように感じた。

「・・・・」

「ふふ・・信じた?・・・
 あの人の為・・・そんなわけはないわね・・本当は・・
 いつの日にか・・
 彼の大事な大事なレイモンドを潰すのが私の目的・・・
 そして私のフレッドに光を浴びせるの」

「・・・・」

「その為なら、私は何でもするわ・・・
 それが今・・その時なのかどうか・・それはまだ・・わからないけど・・」

彼女は僕に協力するかどうかわからないと言いたげに、僕に意味ありげな微笑を向け、
煙草を灰皿に置いた。

「あなたが目的を果たそうとされるなら・・私と組んだ方が得策だと。」
僕は彼女から一寸も目を逸らさずそう言った。

「自信家なのね」

「自信?・・・事実です」 そしてそう言って僕は口元だけで笑って見せた。

「そう・・頼もしいのね・・・
 確かに、私とフレッドの力だけでは目的を成し遂げるには厳しいわ
 あの子・・レイモンドの周りには力のある人間が有象無象に
 盾となってあの子を守っている・・
 これもあの人の意志・・・
 全てがレイモンドの為にレールが敷かれているの」

「今がチャンスです・・・ファミリーは分裂しかけている」

「・・・今は何もお答えできないわ・・・今日はお引取りを・・」

そう言いながら彼女は立ち上がり、僕に退室を促すように入り口のドアを開けた。

「わかりました・・今日のところは引き上げます」

僕は敢えて彼女に逆らうことなく直ぐに席を立った。

僕が部屋を出ようと、彼女の横を通り過ぎようとしたその時、突然彼女が
僕の胸に掌を当てて進行を遮った。


「あなた・・・レイモンドに・・・似てるわね・・・」

僕はそう言われて、思わず不愉快そうに彼女を睨んだ。

「その目・・・その目よ・・・
 何度睨まれたかしれないわ
 あの子が幼い頃でさえ、大の大人の私が思わず震えたものよ
 私の・・・大嫌いな・・目」

彼女は僕を睨み返すように見上げてそういい捨てた。

 

   僕はわかっていた・・・
   これからの勝負・・・
   僕にとってこの女が唯一の命綱となる

彼女もまた、それを悟ったかのように僕に挑んでいた。

 

「この目がお嫌いなら・・仕方ありません・・・
 しかし・・・私でなければ・・・
 あなた方を暗闇から救い出すことはできない
 いいでしょう・・・
 私がお気に召さないなら・・・このまま・・・
 この煌びやかな牢獄で安穏と暮らされるがいい」

僕は彼女を振り返ることなく後ろ手にドアを閉めそこを出た。

 

彼女が僕を選ぶのか選ばないのか、これはひとつの賭けだった。
だから敢えて、僕は彼女に背中を向け潔く立ち去った。

 

   僕が優位に立つためには・・・

   追って来るのは彼女の方でなくてはならない

   今ここで・・・

 

   彼女との駆け引きに

 

   僕は決して・・・

 


       ・・・負けてはならない・・・


    


         


       

 


 

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