2010/04/11 01:28
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-21.ふたりだけなら

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僕たちは二人でキッチンに向かい、蛇口を捻ったり、コンロを操作したりして
まず使い勝手をチェックして楽しんだ。
それから、引き出しという引き出しを開けてみて、何が何処に入っているのかも
一応確認してみたりした。
そうしてここが僕達“ふたりの家だ”ということを噛み締みしめた。

ちょっとした食材や日用品は業者に委託して、準備してもらっていた。

「ジニョン・・・冷蔵庫開けてみて?何が入ってる?」

「ちょっと待って?・・・卵でしょ・・ベーコンやハム・・・
 バターとジャムと・・・レタス・・セロリ・・それから・・」

「あーじゃあ・・・卵とバター、ベーコン出して・・・スクランブルエッグにしよう・・・
  それからセロリとレタスも出して?
 パンもあるみたいだし・・・朝はそれで十分でしょ」
僕はシンク下の引き出しからフライパンやボールを出しながら言った。

「は~い」

僕が次にコーヒーの豆を挽いていると、ジニョンがどう見ても不慣れな手つきで
卵を割ろうとしている様子が視界に入った。

「・・・何してるの?」 僕はわかっていながらそう聞いた。 

「卵割ってるの」 彼女は明るくそう答えた。

どう見ても、器用とは思えない彼女の手つきに、僕は溜息をこれ見よがしに吐いた。
「・・・君・・・料理やったことある?」

ジニョンは照れ笑いを浮かべながら、堂々と大きく首を横に振った。

「ジニョン・・・コーヒーの続き・・・頼むよ」

僕は彼女に手招きをして、貴重な卵が無事なうちにクッキングの主導権を僕が
握ることに決めた。
そのことを期待していたと言わんばかりに、彼女は満面の笑みで頭を大きく縦に振った。

僕は再度溜息を吐きながら彼女とすれ違いざま、彼女が僕に向けた小さな掌に
ハイタッチをして、バトンを受け取った。

彼女は僕に屈託の無い笑みを送りながら、とても慣れた手つきでコーヒーを淹れる。

  ≪そう・・そっちなら、安心して任せられる≫

そんな彼女の姿に自分の頬が緩んでいくのを僕は実感していた。
傍らにいる人をこんなにも柔らかな気持ちで見つめている自分が、信じられなかった。

  これが君の言う・・・“幸せ”・・・なんだね・・・

          ジニョン・・・


僕はスクランブルエッグを手際よく作り、パンとコーヒーを添えてふたつのトレイに用意した。

「ジニョン・・・用意できたよ・・・?」 

ふと辺りを見渡すと、さっきまでそばにいたはずの彼女が見当たらなかった。
僕は慌てて彼女の名を叫んだ。

「 ジニョン?ジニョン! 」 部屋中探しても彼女の姿が見えなかった。

 ジニョン! 」 自分の声が緊張に包まれていると感じた。その時・・・

「 フランク!こっちよ・・」 彼女の大きな声が外から聞こえた。

声のする方に慌てて赴くと、ジニョンは湖畔に面したテラスのテーブルや椅子を
綺麗に拭いているところだった。

「 ジニョン! 」 彼女の姿を見つけてホッと胸をなでおろした僕の様子に、
彼女はきょとんとした表情を僕に向け、首を傾げた。

「フランク、ここで食べましょ?きっと気持ちいいわ」 ジニョンはにっこりと笑ってそう言った。

「あ・・ああ・・・」 さっき僕が抱いた不安を彼女に悟られまいと、咄嗟に平静を装った。

「どうしたの?」

「いや・・・何でもない・・・」 僕は急いで彼女に背中を向けると、彼女の姿が
ちょっと見えなかっただけで慌てふためいた自分をもごまかした。



僕はキッチンに戻って、さっき用意したふたつのトレイをテラスへと運んだ。

昨日ここに着いた時にはめっきり夜が更けていて、見ることができなかった全貌を、
こうして明るくなって改めて眺めると、白いカントリーハウス風の建物が周りの樹木と
湖畔とのコントラストを描いていて、絶妙な美しさを誇っていた。

そして、湖畔の水面を走ってきたかのような心地よい風がジニョンの笑顔と
コラボレーションして、僕の心に言いようの無い安らぎをもたらす。

  今までにこんなにも・・・愛しい朝を迎えたことがあっただろうか・・・

僕の奥深くに眠っていた何かが呼び覚まされる妙な感覚が、間違いなくあった。

君という存在が、僕の中の危険な闘争心の刃をも仕舞わせてしまいそうになる。

  このまま君と・・・こうして暮らせたら・・・

「フランク?」

「ん?」 

僕は彼女の呼ぶ声を聞き逃してしまうほど、彼女との幸せの中に浸っていたようだった。

「ヤ~ネ・・・真面目な顔しちゃって・・・」

「そう?何?」

「今日はお仕事はないの?って聞いたの・・・」

「ああ・・・うん・・・仕事ね・・・休み。」

「ホント?」

僕は深く頷いた。

先日の案件を終了させた後、3日間の休暇をレオに宣言してきた。
レオも次の案件までに休養も必要だろうと、その間は電話はしないと約束をした。

「じゃあ・・今日は何して遊ぶ?」

「遊ぶ?・・・はは・・・遊ぶんだね・・・」

「可笑しい?」

「いや・・・」

そう言いながらも、僕は声を立てて愉快に笑っていた。

「何だか感じ悪い・・フランク・・・」 彼女が口を尖らせて僕を睨んだ。

「ごめん・・・ 」 僕は更に可笑しくなってお腹をかかえていた。

  それはきっと彼女には理解できなかっただろう・・・

  君の“遊ぶ?”という言い方が

  何故だか僕の遠い記憶にあったものを

  懐かしく思い起こさせたような気がしていた

  そんなこと言っても・・・

  僕の過去を何ひとつ知らない君にはまだ・・・

     理解できないね・・・


「ね・・フランク・・・さっき言ってた、ボート・・・あるの?」

「ああ・・あるはずだよ・・・ほら・・あそこに見える・・・」

僕は前方に見える小さな桟橋に繋がれた小ぶりの白いボートを指差した。

「ホントだ・・・あれ・・使ってもいいの?」

「ここにあるものはみんな、自由にしていいんだ」

「じゃあ、後で乗せてね」

「いいよ」

朝食の後、僕達は改めて部屋の中を見て歩き、椅子やテーブルを動かして
好みのレイアウトに変更したり、他に必要なものは無いかを確認したりして、
ふたりで戯れながら、うららかな時を過ごした。


昼には、さっき彼女と約束したボートにランチ用に作ったサンドウィッチを持って乗り込み
穏やかな水辺に漂ってみた。

「フランク・・・凄く綺麗ね・・・
 私こういうの・・・生まれて初めて・・・」

「僕も初めてだよ・・・生まれたのは海の近くだったけど・・・
 こういうところはなかったな・・・」

僕は思いがけず、自分の生まれた地を話題にしてしまい、自分でハッとした。

「海の近く?・・・フランクは何処で生まれたの?」 当然、ジニョンはそう聞いた。

「あ・・・ジニョン・・・見てごらん・・・魚がいる」

     何故・・・ごまかす?・・・

「わぁ・・・本当だ・・・ね、フランク・・・今日、買い物行ったら、釣竿買って?」

「釣竿?」

「そう・・・魚釣るの・・・美味しそうでしょ?」

「そうか・・・お前たち・・・
 食いしん坊のジニョンに食べられる運命なんだね・・・」

僕はボートの上から水面に向かって神妙を装い、魚達に呟いてみせた。

「フランク!そんな言い方ないわ!」
ジニョンの拳が僕目掛けて飛んで来ると、僕はわざとボートを揺らして見せた。
案の定、バランスを崩した彼女は、拳よりも先に頭から僕の胸に飛び込んで来た。
そして僕はしてやったりと、彼女をしっかりと抱き取った。

「もう!」 彼女は用意していた拳で柔らかく僕の胸を叩いた。

「ところでジニョン・・・釣った魚は誰がさばくの?」

彼女は甘えたように見上げて僕を指差した。

「やっぱりね・・・」
僕は彼女の首に片腕を回して引き寄せ、軽く締め上げた。

彼女は僕のその腕にしがみつきながら可愛く弾けるように笑っていた。

  本当に幸せだった・・・


「ジニョン・・・おいで・・・」

「ん?・・・」 僕はボートに寝そべって彼女に隣に横になるよう促した。

「見てごらん・・NYのアパートより広く空を仰げる・・・」

「本当だ・・・」

「綺麗だね・・・」

「ええ・・・とっても・・・透けるように青い・・・・・・・・・」
そう言ったまま彼女の言葉が止まってしまったことに、僕は怪訝な顔を彼女に向けた。

「どうかしたの?」

「ううん・・・何となく・・・ 
 この空は何処までも続いてるんだろうなって・・・」

「何処までも?」
「ええ・・・何処までも・・・だって・・空はひとつだもの・・・
 この同じ空の下で・・・私の愛する人たちが 
 生活をしてるわ・・・父や・・・母や・・・あなただって・・・そうでしょ?」

「・・・・・・・」

「心配してる・・・かな・・・」

彼女のぽつりと言った言葉が僕の胸をチクリと刺した。
僕が起き上がり彼女を見下ろすと、彼女は小さく笑いながら寂しそうな瞳を僕に向けた。

「後悔してるの?・・・」

「・・・・・・・」
彼女はそれには何も答えず、僕の後から起き上がると、さっきまでの自分の弱さを
振り払うかのように首を横に振り、微笑みで寂しさを隠したようだった。

「ジニョン・・・もう少し待って・・・ 
 僕が君のご両親に自信を持って会えるまで」

「自信?フランクは十分立派な人じゃない・・・」

「立派?何処が?僕の何処が立派なんだ!
 君は僕の・・・何を知ってる?」

僕は思わず、自分を卑下するかのような言葉を吐きながら、彼女に厳しいまなざしを向けた。
そして直ぐに、そんな自分を省みて思わず視線を伏せた。

「何も知らないわ・・・だって、フランク・・何も教えてくれないもの・・・
 あなたのファミリーネームも・・あなたの生まれたところも・・・
 あなたのご家族のことも・・あなたのお仕事のことも・・・
 私は何も知らないもの・・・でも・・でも・・
 ソフィアさんは知ってるんでしょ?
  あなたのお仕事が凄く大変なことも知ってたわ
 彼女は私よりも・・・うんとあなたのこと知ってる・・・」

彼女ははらはらと涙を頬に伝わらせながら、僕を悲しそうに睨んだ。


「ごめん・・・そんなつもりで言ったんじゃない・・・ 
 お願い・・・泣かないで・・・」

彼女の涙を見るのが辛くて、うつむき加減の彼女の額に自分の額を押し当て目を閉じた。
それでも・・・彼女の頬を伝う涙の音が僕の心に切なく伝わってくる。

「・・・・・・」


「ごめん・・・」


  話さなければならないことは沢山ある・・・

  僕がどういう人間なのか・・・

  君が沢山の愛情を受けて育ったことと
  真逆な人生を送ってきた僕・・・

  君はそれを知っても・・・
  僕を変わらず愛してくれるだろうか・・・

  僕が歩く道を・・・
  君は僕に寄り添い一緒に・・・歩いてくれるだろうか・・・

  そうだね・・・
  君と僕とは生きた世界が違う

  君には僕以外に愛する家族が存在することを
  僕は受け入れなければならない・・・

  それでも・・・ごめん、僕は思ってしまう

  この世の中に・・・君とふたりだけなら・・・

  ここにいるとつい・・・そんな絵空事を望んでしまう・・・

  ただ愛してる・・・それだけでは・・・

  駄目なんだね・・・


     ・・・どんなにいいだろう・・・


  君に隠したこの想いを・・・僕は目を閉じ・・また封じ込めた・・・  



     どんなに・・・いいだろう

     この世の中に・・・     
  
        君と・・・ 


          ・・・ふたりだけなら・・・

 






 




 


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