2010/04/02 08:52
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-17.迷い…そして…

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  何を言えばいいのかわからなかったのは・・・僕の方・・・

  ソフィア・・・今ならよくわかる
  あなたが僕の孤独をいつの日もその手に抱いていてくれたことを・・・

  それなのに結局僕は、あなたに何も与えては来なかった
  ただあなたの優しさに甘えていただけだった

  僕にはあなたを包み込む度量など無かったんだ・・・


  肉親の愛の欠片も知らない寂しさから・・・

  いつの間にか慰めのすべてを・・・

  あなたに求めていたのかも知れない・・・

  
ソフィアが部屋を出て行ってからというもの、僕の心はぽっかりと穴が空いたようだった。

きっと泣きながら僕を待っているだろうジニョンのことさえ、考えてやれないほどだった。

無気力にベッドに寝転んで、僕は眠ることも食べることもできず、ひとりただそこにいた。
暗い空虚の中にありながら、天窓から見える上空の微かに移り行く時間(とき)の神秘を
ただ無心に見送っていた。

  僕はこんなにも弱い人間だったんだろうか・・・


ジニョンと出逢い、彼女との愛に目覚めたことが僕のすべてを変えた。
今まで気にも留めなかったものが激しく、僕を責め立てた。
そしてジニョンとの愛と引き換えにまるで、身にまとった鎧をすべて剥ぎ取られた
戦士のように深い手傷を負ってしまった。


  ソフィア・・・僕は本当に・・・

  あなたに何を言えばいい?・・・


時間(とき)はスカイブルーからグレイを帯びたオレンジへ、そしてまた・・・
ラピスラズリの世界へと移りゆく・・・まるで・・・

僕だけがこの世界に静止して宙に浮いたまま・・・
あらゆるものが僕の周りを無意味に回っているかのようだった。

 

気が付くと、二回目の朝を迎えていたことを時計の表示が教えた。

僕はベッドから這い出てやっと顔を洗った。鏡に映る無精ひげが情けなく僕を笑う。

冷たい水のシャワーは僕の弱さに鞭を打ち、体に流し込んだミネラルウォーターは
“それでも生きている”と僕を慰めた。

この二日間、枕元で幾度となく聞こえていた電話の着信記録はすべてレオのものだった。


  “なんてざまだ、フランク・シン”・・・

  レオの呆れた声が聞こえるようだ・・・


結局僕は彼のコールを無視して部屋を出ると宛てもなく外を歩いた。

無意識の内に僕が辿り着いた場所は数日前ジニョンと二人で見つけた小さな公園だった。

僕はベンチに座って目の前の噴水をただ無気力に眺めていた。

何気に横を向くと、いるはずのないジニョンが僕の隣で微笑んでいた。
それを幻覚だと理解するのに少しの時間が必要だった。

それでも、その幻影ですらジニョンという女は、しぼんでしまった僕の心を
再生へと導こうとする。僕は戸惑いながら幻とわかった彼女に笑顔を返した。


  ジニョン・・・

  君の力って・・・凄いんだね・・・

彼女とここへ訪れたのはいつだっただろうか。
あの時もそうだった。この噴水を前に、僕達はこうして座っていた。

『こんな時間に・・・こんなとこ来たの初めてだ・・・』

『そうなの?』

『昼も・夜も・・・部屋で過ごすことが多いから』

『そうなんだ・・・』

『昼間の・・・太陽の光に反射してる噴水って・・・・
 まぶしいくらいに・・・綺麗なんだな・・・』

『フフッ』

『何が可笑しい?』

『いいえ・・・フランクが言うと・・・もの凄く綺麗に感じて・・・
 不思議だなあ、と思って・・・でも・・・』

『でも?・・・』

『綺麗に見えるのはきっと・・・私といて幸せだからよ』

『そうだな・・・』

『えっ?』

『ん?』

『やだ・・フランク・・・どうしたの?すっごく素直・・・調子狂っちゃうわ』

『ハハ・・・君が言ったんだ・・・素直になれって』

あの日の君とのやりとりが僕の微かな笑みを呼び起こした。

  本当にそうなんだ・・・ジニョン・・・

  君の存在が・・・すべてのものを愛しくさせる・・・

 


 

「ジニョン・・・出発までもう少しある・・・飲むか?」

ジョルジュが缶コーヒーを差し出しながら私の手荷物に手をかけた。

「・・・・いらない・・・」

私は彼の手を跳ね除けて拒絶の姿勢を貫いた。


「まだ怒ってるのか?勝手にチケット用意してたこと・・・」

「・・・・・・・」

「おじさんとも話しただろ?とりあえず帰る・・
 それで、今後のことを話し合おうって・・・
 それを納得したんじゃないのか?」

「納得したわけじゃないわ・・・でも・・・」

「でも・・何だ・・・」

「もういいわ・・・ひとりにして・・・」

「好きにしろ」

私はジョルジュから少しだけ離れた待合室の椅子に腰掛けた。


父たちの強引なやり方を納得したわけじゃない。父はジョルジュが帰国するなら、
ひとりでアメリカに置く訳にはいかない・・・そう言っていた。
私は幼い頃から父の意見は絶対だと思っていた。

『電話で話したところで埒は明かない・・・とにかく一度帰ってきなさい』
それが父の結論だった。

一度ちゃんと話をして、その上でもう一度フランクのところへ帰って来よう、そう思った。
・・・でも・・・

本当にそれでいいんだろうか・・・私はひとり心の中で繰り返し問うていた。

  このまま、フランクに逢わないで帰ってしまって、
  もしも、二度と戻って来ることができなかったら?・・・

怖かった。
このまま、フランクに逢えなくなるような、そう思うとからだが震えてしかたなかった。

本当は自分の置かれた状況をフランクに知らせたかった。

聞いて欲しかった・・・でも・・・

あの日の・・フランクとあの人のことに拘って、彼の部屋に行く勇気が持てなかった。

フランクからも連絡が無くて・・・
もしかして・・・あの人と・・・そう思っただけで心が壊れそうだった。
   
フランク・・・

私は・・・今・・・間違ったことをしている?           

 


ふと気が付くとポケットの携帯が震えていた。
レオに連絡することを忘れていたことを思い出して、ポケットから携帯を取り出し着信を確認した。

  !ジニョンだった・・・

 

「ジニョン?」

「フランク・・・」

「ジニョン!今どこから?直ぐに逢いたい」 僕は早口にそう言った。

「空港・・なの・・韓国へ・・・帰るの・・」 

「韓国?・・何言ってる!意味が・・」

言葉が途切れ途切れのうえに小声のジニョンが何を言っているのか要領を得なかった。

それでも、今彼女がいるところが空港で、これから韓国へと向かおうとしていることが
電話の奥から流れるアナウンスや騒音で知ることができた。

瞬時に僕の心臓が音を立てて騒ぎ出した。

「今、そっちへ行く!ジニョン!行くな・・
 何処にも行くんじゃない!いいね!」

僕は急いでアパートにとって帰り車を出した。


  韓国へ帰る?そう言ったのか・・ジニョン・・


僕はまだ事の次第を飲み込めていなかった。ただそれでも本能の察っする危惧が
僕を突き動かしていた。

何が何だかわからず、頭の中が真っ白になりそうな状態を何とか、運転に集中できるように
コントロールしてアクセルを吹かせた。


  ジニョン!・・・どうか・・・そこにいて・・・

 



「ジニョン・・・そろそろだ・・・」

「・・・・・・」

「ジニョン・・・?」

「わかってるわ!」

私は出発時間が近づくに連れて動悸が激しくなる自分の胸を落ち着かせようとしていた。

  わかってる・・・

  父の言うことは・・・絶対・・・

  それでも・・・話せばきっとわかってくれる・・・

  こうすることが正解・・・

   
  でも・・フランク・・・


   


空港に着くなり、僕は急いで韓国便のゲートに向かった。
混雑するフロアを焦りの色を隠せないまま、懸命に走っていた。

しかしその時既に、空港の電光掲示板が無情にもソウル行き最終便の離陸の完了を
表示していた。

心臓の動悸が音を立て波打ち、僕の周りから一瞬にしてすべてのものが消え失せ
目の前がまた白い闇と化した。


  何故だ・・・

  何故だ!ジニョン!  ジニョン!

 

「ジニョン?・・・ジニョン・・・ジニョン・・・

 ジニョン!・・ジニョン!・・ジニョン!」

僕はそれでも諦め切れなくて、彼女の名前を叫び続けた。


 ジニョン! 


  そんなはずはない・・・・

  そんなはず・・・ない

  君が・・・僕を置いて行くはずがない・・・

 


《・・・ンク・・・フランク・・・》 絶望の中に・・・声が聞こえた・・・

それまで真っ白と化していた僕の周りが一瞬にして光の色を帯びた。
その希望の声を僕は背後に聞いて振り向きざま走り出した。


ジニョン?


「ジニョン!」 確かに聞こえた。


《フランク!》 聞き違いではない・・・確かに・・・聞こえた!


  ジニョン!何処だ!


その瞬間、ひしめく雑踏の中から羽をつけた天使が突然閃光を放ったように現れた。
僕を目掛けて走って来る天使の、涙交じりの笑顔が僕に次第に近くなった。


「 ジニョン! 」

「 フランク! 」

そしてその天使が僕の腕に勢い飛び込み、羽を閉じた。
僕は彼女を力強く抱きしめた。壊れそうなほどに抱きしめた。


「声が聞こえたの・・・あなたの声が・・・聞こえたの・・・
 だから・・・走ったの・・・あなたの声がする方に・・・走ったの・・」

「ジニョン・・・ジニョン・・・ジニョン・・・あぁ・・・」 
止めどなく零れ落ちる僕の涙が彼女の髪を濡らしていた。「心臓が・・止まるかと思った・・」

「フランク・・・」

「いったい・・何の悪ふざけ?」 
僕は彼女の髪に強く挿し込んだ自分の指がひどく震えているのがわかった。

「フランク・・・」

彼女はまだ僕の名前を口にするのが精一杯な様子で、声をあげて泣きながら
僕にしがみついていた。

僕は少しだけ心を落ち着けて、彼女の頭を自分の肩から離すと目の前の彼女を
確かめるかのように、彼女の顔中、少しの隙間の無いほどにキスを繰り返した。

そして最後に、まだ嗚咽が止まらない彼女の唇を奪うように塞いだ。
彼女のしょっぱい涙が無性に・・・愛しかった。


  僕は・・・

  何を・・・迷っていたんだ・・・

  こんなにも・・・愛してる・・・震えるほどに愛してる・・・

  心臓が止まりそうなほどに愛してる・・・

  ジニョン・・・

「許さない・・・僕を置き去りにするのは・・・許さない・・・ジニョン・・・」

 

 

「 ジニョン! 」

ジニョンの肩越しに息を切らしたあいつが見えた。ジニョンの肩がその声に一瞬ピクリと動いた。
しかし彼女は僕に顔を埋めたまま離れなかった。


『こんなことして・・・許されると思ってるのか』

『オッパ・・・私は・・・帰らない・・・』

彼らの間でハングルの言葉が交わされていた。


『そんなこと!許されるはず無い!』

『許されなくても!構わない!』 

ジニョンはやっと勢いをつけたように彼に振り返った。


『何処へ逃げても無駄だ・・ジニョン!俺は必ず、連れて帰る!必ず!
 ジニョン!こっちへ来い!来るんだ!』  

あいつの叫びのような言葉にジニョンはまた僕の肩に顔を伏せて、頭を大きく左右に振った。

あいつは一向に僕と視線を交えようとはしなかった。


『もうよせ・・・彼女は帰らないと言ってる・・』 僕は彼らを前に初めてハングルを使った。

その時、あいつがわざと合わせていなかった視線を鋭い眼光に変えて僕に放った。

『うるさい!・・・お前が口を挟むな!』

あいつは敵意をむき出しにして僕へと踏み出した。


そして彼が、ジニョンの手を掴もうと手を伸ばした瞬間、無意識に僕は
彼の顎を目掛けて拳を振るっていた。

彼は僕たちの目の前でもろくもその場に崩れ落ちた。


『 ジニョン!来い! 』 


そう言うなり僕は彼女の手を掴んだ。一瞬、彼を心配げに顧みたジニョンが

次の瞬間、意を決したように僕の手を強く・・・

 

   ・・・握り返した・・・ 


 


 

   


 


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