2010/04/20 21:13
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-25.黒い影

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NYに戻ると、僕はまずアパートに向かった。
部屋の階でエレベーターの扉が開いた瞬間に、僕の部屋の扉に寄りかかっていた
あいつの姿が見えた。

   ジョルジュ?

彼はもう随分長いことこうして僕を待っていたのだろう。
僕を見つけるなり睨みつけた彼の視線が僕の動向を執拗に追いかけていた。

僕はそんな彼に一瞥をくれたあと、その視線を無視して彼の横をすり抜け
沈黙のまま部屋の鍵穴にKEYを差し込んだ。

「お待ちしてました」 彼が満を持して言った。
「・・・・・・」

そして彼は努めて冷静を装い、落ち着いた口調で僕に尋ねた。
「あいつを・・何処へ?」

僕は依然として無言のまま、彼に部屋に入るよう目だけで促した。
彼も無言で僕の前を横切り、僕に勧められるまま先に部屋に入った。

「・・・・・・コーヒーは?・・いかがです?」
「いいえ・・結構です・・・」

「そう・・・僕は飲んでもいいかな・・・」
「どうぞ・・・」

決して僕から逸らさない彼の視線を背中に感じながら、僕はコーヒー豆を挽いていた。

「答えてもらえませんか?
 わかっているでしょ?この数日、あなたの消息を探してました・・・
 あなたの学校へも訪ねました・・・」

「学校?・・よく・・・わかりましたね・・・」
「必死ですから・・・」

彼はきっと、僕と対峙しながら自分の興奮を抑えようと、懸命に耐えていたのだろう。
鋭い眼光とは裏腹に丁寧な言葉遣いを使いながらも、僕への憎悪が握った拳に見て取れた。

「それは僕も同じだ・・・」≪必死だったさ・・君から逃れるのに≫

「あいつの親にはまだ
 あなたのことは話していません」

「そう・・・」

「今はまだ・・・僕の都合で帰国が遅れていることになってる・・・
 しかし・・・それももう限界だ・・・」

「・・・・・」

「あいつはまだ未成年です・・・
 あいつの親がこのことを知ったら・・・」

「・・・・・」

「警察沙汰になりますよ・・・」

「それで?」

「一週間遅れると話してます・・・あと二日です・・・
 あいつを・・・返してくれませんか・・・」

「返す?」

「ええ・・・」

「彼女は品物じゃない・・・彼女は彼女の意思で僕の元にいる・・・
 それは君もわかっているはず」

「あいつはきっと、後悔します」

「後悔?」

「あいつは親に背いて平常心でいられる奴じゃない
 自分の意思を貫き通せるほど大人でもない」

「彼女のことは“自分が一番知っている”・・・
 そう言いたいわけだ」

「少なくともあなたよりは知っている!」

彼と僕は互いに睨み合った視線を譲れないまま、しばらくの間、沈黙に耐えていた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

その沈黙を彼の方が先に破った。

「それに・・あいつには夢があります・・・」

「・・・・・・」

「いつの日か・・・ホテリアーになるという夢が・・・
 あなたはご存じないかもしれないが」

「・・・・・知ってます」

「そうですか・・・では・・
 あいつが働きたいホテルもご存知だろうか・・・」

「・・・・・」

「私の父のホテルです・・・
 小さい頃から、そこで・・・私と一緒に働くことが夢でした
 いいえ・・・今でもまだその夢は捨てていないはず」

「・・・・・」

「僕は・・・あいつの夢を叶えるためなら
 どんなことでもする・・どんなことでもできる・・
 今までもそうしてきたし・・・それはこれからも変わらない

 あなたはどうだろう・・・今、あいつの夢を知っているとおっしゃった
 それなら・・あいつにそれを尋ねたことがありますか?
 本当にやりたいことを聞いてやったことがありますか?

 あいつは・・・
 あいつはあなたの前で本心を語ってるんだろうか・・
 語れてるんだろうか・・・
 あなたは・・・あいつの真実を・・・
 本当にわかってると言えますか・・・」

「・・・・・真実?・・・
 今 彼女と僕の肌が触れ合う・・・それだけが真実だ・・・」

僕のその言葉に彼の眼光が力を増し唇が震えた。
「・・・・・・!」

「・・・・夢なんて・・・現実の元には儚いものだ・・・
 彼女の幼い頃からの夢が例え・・・君と歩むことだったとしても
 現実の彼女は今・・・僕と歩こうとしている・・・
 その現実を・・・君は認められないのか
 彼女のご両親にはいずれ、必ずお話をする・・・
 ご両親とて・・それが彼女の幸せと思えば・・・」

「あいつの親はあなたを認めない!」

「・・・・・」

「あなたのような!・・」

彼は即座に、自分が間違ったことを言い掛けたというように言葉を詰まらせた。
僕は彼のそんな様子を冷たく見つめながら口を開いた。

「僕のような?・・・」

「・・・・・・」

僕は彼に対して口元だけで小さく笑って見せた。

「君は、何不自由なく育ったお坊ちゃんなんだな・・・
 人を傷つけようと思うなら、もっと激しく罵倒しろ!
 それでなければ、相手は君を甘く見るだけだ・・・
 こんな時ははっきり・・・
 “あなたのような・・親に捨てられた人間は彼女にはふさわしくない”・・・
  そういうべきだ」

「・・・・・・」

「調べたんだろ?」

「・・・・・・」

「それで?」

「えっ?」

「それで・・・返さないと言ったら、どうなりますか?」

「・・・とにかく、あいつと話をさせてください」

「彼女が望まなかったら?」

「あいつの父親に全て話すまでです」





「ボス・・・遅かったな・・・時間に遅れるなんて
 珍しいじゃないか・・・」

「すまない・・・野暮用が・・・」

「ま・・いい・・・早速始めよう・・・休暇中悪かったな・・・しかし・・
 以前からお前が狙っていたホテル関連の重要な案件だ・・・
 急いだ方がいいと思ってな・・・

 知っていると思うが
 あの業界は新参者は受け入れにくい    
 しかしだ・・・お前はどうも別格らしい・・・
 最近M&A業界を賑わしてるヒーローだからな・・・
 そのお前の力を見込んで、是非にと乗ってきた会社がある・・・
 しかも、かなり大物だ・・・」

「何処だ」

「JAコーポレーション」

「JA?・・・そんなところに、入れるのか」

「ああ・・お前次第だ・・・今、そこが手掛けているM&Aがある
 NYグランドホテルとカナダのプリンスヒルホテルとの合併だ」

「ああ・・知ってる・・・それを僕に?」

「ボ~ス・・それを成功させてみろ・・・どうなると思う?」

レオは意味ありげな目つきを僕に向けた。

「かなりの利益だ」

「利益なんてもんじゃない・・・今後の俺達の礎となること
 間違いない・・・その代わり・・・」

「その代わり?」

「お前はこれを引き受けることで、どえらい相手を敵に回すことになる」

「どえらい相手?」

「お前も知らないわけじゃないだろう・・・
 JAには、今まで遣えたジェームス・パーキンという男がいる・・・
 奴の伯父が誰だか知ってるか・・・」

「マフィアのボス・・・パーキンと言えば知らない奴はいない」

「奴を敵に回すということはどういうことかわかるな・・・
 しかしひとつだけ、奴らを敵に回さない手立てがある」

「何だ」

「奴の傘下に入る」

「僕にマフィアに加担しろと?」

「奴もたとえ相手が甥であったとしても仕事となれば話は別だ
 ジェームスとお前では力の差は歴然
 お前が手に入るなら、きっとお前を選ぶ」

「マフィアとは仕事はしない」

「そうだったな・・・それはお前のポリシーだ
 それなら・・・」

「それなら?」

「弱みを見せるな」

「弱み?」

「守らなければならないものをそばに置くな・・・
 そういうことだ」

「・・・・・・」

「あいつらのやり方・・・知ってるか・・・
 攻撃したい人間がいるとする・・・その場合
 直接その人間をやるのは最後の最後だ
 まずはその人間の弱みに付け込む
 その辺は俺達のやり方と変わらないよな・・
 ただ俺達と歴然と違うのは・・・
 あいつらがその相手に直接手を下すということだ」

「フッ・・・そんなこと・・・」

「今更・・か?当然・・知ってることだよな・・・
 だが・・・敢えて言ってる
 ボス・・・いや・・フランク・・・
 お前に今・・・弱みはないか・・・」

「・・・・・・」

「ないか?・・・」

レオの僕を問いただす真剣な眼差しが、事情を深く尋ねるまでもなく
理解していると言っていた。

  僕の弱み・・・それは・・・

  ひとつだけ・・・

「・・・・・ある・・・・」

「なら・・・この仕事はやるな」

「どうして」

「どうして?・・・それはお前が一番・・・」

「この仕事を成功させたら・・・お前がさっき・・そう言った・・・
 僕にとって大きなチャンス・・・僕達の仕事の礎となる・・・
 そういうことだよな・・・」

「それはそうだ」

「なら・・・考えるまでもない・・・僕は必ず成功させる」

「しかし・・」

「守らなければならないものはひとつだけ・・・
 それは僕が・・・命を懸けても守ってみせる
 心配するな・・・
 お前はとにかく、話を進めてくれ・・・」
      
「・・・・・いいのか・・・覚悟があるんだな」

僕はレオに向かって黙って頷いた。


  守らなければならないものはこの世にひとつだけ・・・

  ジニョン・・・彼女だけ・・・

  そして・・・

  彼女と生きるためにも僕は成功を急ぎたい・・・

  誰もが認めざる得ない・・

  僕という人間の歴史を作るため・・・


          あいつの父親に全てを・・・
          あなたのことを話します・・・
           
          親父さんは頑固一徹な人間です
          決して間違ったことを許さない

          あなたは・・・あなた達は・・・
          既に間違ったことを・・・したんです


  間違ったこと?・・・

  ジニョンとの愛が間違ったことというなら

  この世の全てが間違ってる・・・

  彼女のいない人生が・・・正しいというのなら・・・

  僕は永遠に・・・間違った世界で生きる

  それが・・・僕の選んだ道だ・・・


僕はレオとの話を終えた後、その場所からさして遠くない、three hundred rosesへと
歩いて向かった。

もうひとつブロックを曲がると店が見える・・・そう思った時だった。

       《ソ・ジニョン・・・可愛い人だ・・・》

通りすがりに不意に、低くしゃがれた声が僕の耳に届き、僕は不気味なその声の主を
探して勢い振り返った。

  ジニョン・・・今・・そう言ったのか

しかしその瞬間、ひとつの黒い影が直ぐのブロックから消えた。
僕は慌てて、走ってその影を追いかけブロックを曲がってみたがその影は忽然と
消えてしまっていた。

瞬時に胸が締め付けられるような恐怖が僕を襲い、ジニョンの元へと走らせた。

「 ジニョン! 」

丁度その時、店に入ろうとする彼女の姿が目に入って、慌てて声を掛けた。

「フラン・・あ・・いえ・・ドンヒョクssi・・・
 驚いた・・私も今、着いたところよ・・
 早かったのね・・・もう少し待つかと・・・」

僕を見つけたジニョンの満面の笑顔を前に、僕は大きく安堵のため息をつきながら、
彼女をきつく抱きしめた。

「どうしたの?ドンヒョクssi・・・苦しい・・わ」

「何でもない・・・」

「フ・・ラ・・ンク・・?」

「何でも・・・ない・・・

    すごく・・・


   ・・・逢いたかっただけ・・・」

      








2010/04/20 11:53
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-24.いじわる

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「ねぇジニョン・・・キスしていい?」
僕は後ろから彼女をしっかりと拘束したまま、彼女の耳元に囁いた

「ドンヒョクssi・・・そんなこと・・・聞かないといけないの?」
彼女はまたいつものようにそう言った。

「僕は紳士だから・・・」

「紳士?・・紳士ね~・・・じゃあ、淑女の私は・・・そんな時どう答えれば?」

「んー・・・どうぞ・・って・・・」

「えー・・・そんなの何だか変だわ・・・」

「じゃ・・こうやって・・“いいわ”・・・とか?」 僕は唇を突き出して見せた。

「えー・・・!」
人一倍照れ屋の彼女をからかうのは実に楽しい。
目の前で彼女がみるみる頬を赤く染めていき、一生懸命に僕の言葉を切り返そうとする。

   さっき僕を・・・泣かせた罰だよ・・・
   ちょっとだけ意地悪させて

「いいから・・・していい?」

僕は照れ隠しにおしゃべりを絶やさない彼女の顎を、クィッと後ろ向きに誘導すると
真顔で彼女の答えを待った。

「いい?」

「だから・・いちいちそんなこと・・聞かないで・・・」

「言ってくれないとできない・・・」

彼女は僕から視線を落として、更にその頬が真っ赤に色づく。
僕はその顎を指で持ち上げて彼女の瞳の中に僕を戻した。

「言って・・・“いいわ”って・・・」
あまりに真剣な僕の眼差しに彼女がやっと観念する。

「い・・いいわ・・・」
震えたようなその返事に僕は薄く微笑んでそっと唇を合わせた。
僕の唇と彼女の唇がゆっくりと触れ合って、互いを確かめるようになまめかしく音を立てた。
次第に濡れゆく彼女の唇を軽く啄ばみながら、彼女の吐息さえ許さないほどの
執拗なくちづけに変えていく。

彼女の右手が僕の胸を押し息苦しさを訴えると、僕の腕が彼女の背中をグイと引き寄せた。

彼女のまだ少し濡れた髪が僕の指に絡んで冷たかった。

僕は唇を離さないまま、彼女を抱き上げそのままベッドへと運んだ。
ふたり同時に倒れ込むように横たわりスプリングを弾ませる・・・

その拍子にふたりの唇が離れて、彼女の吐息が小さく漏れた。
そして僕はまた、ジニョンを真顔で覗き込んでわざと尋ねる。

「抱いてもいい?・・・」

「だ・・駄目って言ったら・・・ど・・どうするの?」

「どうしよう・・・」 

「どうしようって・・・」

「どうして欲しい?」

「どうして欲しい・・って・・・」 

「あ・・今・・何を想像した?」

「何も・・想像したりなんか・・」 

「言ってごらん?・・・」 

「・・・・・・」
   彼女が少しべそをかいてきた・・・ 

「フラ・・ンク・・・どう・・して・・・そんなこと・・」 

「君のその反応が見たくて・・」

「・・・・・・」

    この辺で・・・止めないと、本気で拒絶されそうだね

「ドンヒョクって・・・フランクよりも意地悪な人?・・・」

「そうかも・・・」

僕は彼女がまだつむじを曲げない内に、急いで彼女の首筋に唇を這わせた。
そして・・・ゆっくりと彼女を少女から女へといざなう。

「いじわるして・・・ごめん・・・」

「許せない・・・」

「愛してるから・・許して・・・ジニョン・・・」

 
    愛してる・・・愛してる・・・愛してる・・・愛してる・・・

    言葉にするのももどかしいほどに・・・


    だから・・・少しばかりの意地悪は大目にみて・・・

    僕の・・・君への愛しさが・・・溢れすぎて・・・

    君の白く滑らかな肌に零れ落ちていく

    そして・・君は・・・


「もう・・・許したでしょ?・・・」

「い・・・」

    じ・・・わ・・・・・・

君に伝えたい僕の愛を、ひとつひとつ君の吐息と絡めながら

いつしか僕が君に埋もれていく・・・

    あぁ・・・ジニョン・・・

    僕は・・・このまま・・・


    君の中に沈んで・・・しまいたい・・・




「やっぱり・・・ベッドから空が見える方がいいな~」

「うん・・・今度用意するときはそうしよう」

「あ・・でも、ここも素敵よ・・・自然がいっぱいで
 気持ちいいもの・・・」

「じゃあ、あそこ・・・開けちゃう?」 僕はそう言って天井を指差した。

「ふふ・・」

「明日・・業者に聞いてみるよ」

「・・・・・ドンヒョクssi・・本気なの?
 いいわよ、そんなことまでしなくても・・・」 

「言っただろ?
 僕は君のやりたいことは何でも叶えるって」

「でも・・・」

「ジニョン・・・明日は少しドレスアップして、街へ出掛けないか」

「え?だって明日は・・お仕事・・・」

「夕方までには必ず終わらせる・・・迎えをよこすから
 君は準備していて?」

「でも・・・ドレスアップって・・私・・ドレスなんて・・・」

「こっち来て?・・・このクローゼット開けてみて」
僕は彼女のその言葉を待っていたとばかりに、彼女をクローゼットに誘導した。

ジニョンは不思議そうな顔をしながら、バスローブを羽織るとベッドを降りて
僕に近づき、クローゼットの扉を開けた。
そこには事前に用意した数着のドレスやワンピースなどが隙間無く掛けられているはずだ 。

「どうしたの?これ・・・」

「皆、君のものだよ・・・靴もアクセサリーも
 下着も用意してある・・・
 サイズは・・・多分、合ってるはずだけど・・・」

「下着も?・・・
 サイズなんて聞かれたことあったかしら?」

「いいや・・・大体だよ」

そう言いながら僕は両手で輪を作って彼女を抱いている仕草をして見せた。

「ドンヒョク・・・いいえ・・フランクって・・・
 いつも女の人にそうやってプレゼントするの?」

彼女は少し口を尖らせて僕を睨みながらそう言った。

僕は当然彼女が喜んでくれるものと思っていた。

「心外だな・・ジニョン・・・女の人に洋服や靴なんてプレゼントしたの初めてだよ
 それに、サイズはソフィアが教えてくれた」

「ソフィアさんが?・・彼女にそんなこと聞いたの?」

「何を準備すればいいだろうかって・・・そしたら
 着の身着のままだろうから、すべて準備なさい・・って」

「フー」

彼女は呆れ顔を少しオーバーに現して僕を再度睨んだ。

「何?」

「ソフィアさんの部屋・・・あなたのレイアウトでしょ」

「そうだよ・・・」 僕はあっさりと答えた。

「・・・・・・」 ジニョンはそのことが不満だったらしく、僕を更に睨んだ。

「何?」

「・・・・あなたって・・ソフィアさんの言う通りね」

「言う通りって?・・彼女、何を言ったの?」

「女心がまるでわかってない。」

僕を睨みつけた彼女がわざとらしくため息を吐いて、くるりと背を向けると寝室を出て行った。
そしてバスルームに駆け込んだかと思うと、そこからなかなか出て来なかった。
僕は彼女のそんな様子に、愚かにもたじろいでバスルームのドアを叩いた。

「ジニョン!僕、何か悪いことした?
 何怒ってるの?出て来いよ!ジニョン!・・・」

「怒ってないわ!シャワー浴びるの!」

投げつけるようなジニョンの声が中から届くと、僕は余計に困惑した。

「じゃあ・・・僕も一緒に・・」

「駄目!」

「ジニョン!?」

僕はジニョンがシャワーを浴びている間、そのドアの前に座り込んで、
彼女が急に怒った理由を尋ねていた。


「ねぇ、ジニョン・・教えてよ・・どうして怒るのさ
 洋服を勝手に用意したから?君の趣味に合わなかった?

 僕が下着まで用意しちゃったから?
 それは僕が買ったんじゃないよ・・業者の人間に頼んだんだ

 それとも・・・他に理由が?

 ソフィアの部屋のレイアウトがどうのって・・言ってたね
 それがどうかしたの?・・・」

「・・・・・・・」
「ねぇ・・・」

「そこどけて!出られない!」

「あ・・ごめん・・・」

僕が慌ててドアから離れると、まだ怒ったままの顔の彼女がやっと中から出てきて、
僕の横をすり抜けた。
僕は、その後を、くっ付きそうなほどにぴったりと付いて歩いた。

「ねぇ・・教えてよ・・・何を怒ってるの?」

僕は彼女の後を追いかけながら、彼女のご機嫌をおろおろと伺っていた。

   何で僕がこんなことを?

「何でもないわ」

「何でもなくはないでしょ?・・・十分怒ってる顔だけど」

「・・・・・」

「ジニョン!」

「何でもない!」
彼女が急に立ち止まり僕に振り向くと、決して何でもなくはない表情を僕に向けた。

「改めてわかったわ!あなたって!・・・」

「あなたって?」

「・・・・・・・・・何でもない!」

「それはないだろ?言いかけて止めるのはルール違反だって
 いつも君が言ってることだぞ?」 

「言いたくないの!」

「言わなきゃわからないことだってあるでしょ?!」

「言ったら、嫌な女になっちゃう!」

「ジニョン!」

僕は彼女の両手首を掴んで、背ける彼女の顔を無理やり振り向かせた。 
彼女の目から溢れる大粒の涙が、それまで彼女の行動に少しばかりむっとしていた僕を
一瞬にして萎えさせた。

「ジニョン・・どうして?・・泣くの?・・・
 お願い・・・言ってくれ・・・
 君にどんなことをしてあげたら喜んでもらえるのか・・・
 僕はあんなことしか、思いつかない・・・
 好きな人に喜んでもらえることが何なのか、何ひとつ知らなくて・・・
 今何故、君が怒るのかがわからない・・・」

僕は本当に困惑してそう言った。
すると不意に彼女が歪めた顔を僕の胸に埋めた。
そして僕に回した両手を僕の背中に食い込ませた。

「・・・・・・嫌な女だわ・・・私・・・あなたが・・・
 ソフィアさんを大切な人だと言った・・・
 そのことがいつまでもひっかかってる・・・

 ソフィアさんは、フランクはこの部屋に入ったことない・・・
 そう言った・・・でも、それはきっと私を気遣ってのことよ・・・
 わかってるわ・・・でも・・・やっぱり嫌・・・」

「あ・・・」

「あなたとソフィアさんは恋人同士だった・・・
 割り込んだのは私の方なのに・・・
 彼女は凄く優しくしてくれた・・・それなのに・・・
 あなたと彼女のことを考えるといつも胸が苦しくなる・・・」

「ジニョン・・・僕は彼女の部屋に入ったこと無いよ」

「・・・・・」

「確かに彼女の部屋のレイアウトは僕・・・
 家具も僕が選んだ・・・今時はね・・・ジニョン・・・
 パソコン上でレイアウトも簡単にできるんだよ・・・

 彼女に頼まれて僕がコーディネイトした・・・
 でも・・玄関先にも行ったことがない・・・本当だ・・・

 ソフィアが入れてはくれなかった・・そう言った方が正解かもしれないけど・・・
 彼女はそんなことで君に嘘なんかつかないよ

 そんなに・・・彼女のことが気になる?
 僕が言った言葉が君を傷つけてるの?・・・

 ソフィアを大切な人だと言ったこと・・・
 でも・・・僕はただ君に嘘をつきたくなかっただけだ

 彼女がいなければ、今の僕はなかった・・・
 そう言うとまた君を傷つけることになる?・・・

 でも・・・その事実を話さないでいることは逆に
 君への裏切りのような気がした

 僕は君を・・・真直ぐに見つめていたい・・・

 君にも偽りの無い本当の僕を見つめていて欲しい・・・   
    
 もう僕は・・・君を失えないんだ・・・ 

 誓うよ・・・
 これから先・・・どんなことが起ころうと・・・ 

 僕の心は君だけにしか向かわない・・・    
 だから・・・僕を・・僕の心だけを見て・・・」

彼女は無言のまま、僕に回して作った拳に力を込めた。

「・・・・・・ドンヒョクssi・・・・・・」

「ん?」

「あなたにはきっと・・・女心は一生わからないわ・・・」

「そうなの?」

    聞かなかった方が苦しくないこともあるのよ・・・

    フランク・・・

「でも・・・いいわ・・・私に話すことは全て本当のこと・・・
 それは私だけの・・・ドンヒョクssiの心・・・そうなのね・・・」

    ソフィアさんが言ったわ・・・

    フランクの心は・・・あなたには重すぎる・・・

    でも・・・


    それでも・・・私は・・・

    あなたの心を背負いたい・・・


「ん・・・」

「ドンヒョクssi・・・私、行きたいところがあるの・・凄くおしゃれして・・・」

「何処?」

「Three Hundred roses・・・」

「Three Hundred roses?・・・ラスベガスの?」

「NYにもできたのよ・・・あの高級レストラン・・・
 一度行ってみたかったんだ」

「ああ・・いいよ・・・じゃあ、早速予約入れよう・・
 美容室の予約も入れておくよ・・・」

「うん」

「機嫌直してくれた?」

「ごめんなさい・・・」

「じゃあ・・・キスしてい・・」
「だか・・・ぅっ・・」

     ごめん、もう・・・


        ・・・聞かない・・・
 
    

 


 

      






 

 


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