2010/04/12 09:28
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-22.告白

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「星がいっぱい・・・」

「ん・・・」

「綺麗ね~」

「ああ、綺麗だ」

夕食を済ませると僕は、ジニョンを抱いてテラスに置かれたロッキングチェアーの上で
満天の星を見上げていた。

今日一日、食料品や日用品の買い物以外を新しい家の周辺を散策しながら
静かに時間(とき)を過ごした。

彼女とふたりで今夜のメニューを考えながらスーパーのカートを押し、
彼女との約束の釣竿も買って、明日からのふたりの生活を夢見ていた。

他の誰の姿も無く、誰の声も無く、今このときに存在するものは、そよと吹く風の流れに
重なり触れ合う葉の音と、小さくこだまする小鳥の囀りと、そして・・・

   僕の・・愛しい・・ジニョン

今までただの一度も味わったことのない、この安らぎのときを僕は決して離すまいと
幾度も幾度も彼女を抱きしめていた。

彼女への、えもいわれぬ愛しさに恐れさえ抱き、神に祈る思いで天空を仰ぎ見る。

都会の空とは比べ物にならないほど輝きを放つ星ぼしが、まるで僕達ふたりを
無条件に祝福しているかのようで心から安堵した。

この僕がそんな感傷に浸たりきることができるのも・・・きっと・・・
この腕の中で無邪気に笑うこの天使のせいに他ならない。


「私ね・・・」

「ん?」

「フランクのアパートで見上げる星空・・・すごく好きだったの・・・
 まるで・・・窓枠が額縁みたいで・・・
 夜空が一枚の大きな絵のようだったから・・・」

「曇り空で・・真っ暗でも?」 彼女が星空を見たくて僕の部屋に来るという大義名分が、
時折、天空に裏切られていたことを、僕はそう言ってからかった。

「意地悪ね・・・」 彼女はクイと顎を上げて、上目遣いに僕を睨んだ。

「あなたの部屋に行っても・・最初の頃・・・あなたは・・殆ど話しかけてくれなくて・・・
 すごく寂しかった・・・ぁ・・確かにね・・・あなたのそばで過ごせてる・・・
 それだけでも幸せだったの・・・それは本当よ・・・

 星が空一面に輝いている日はいいの・・本当に綺麗で・・幸せな気分に浸れてた・・・
 でも・・・曇ってて・・真っ暗な夜空の時は・・
 ちょっとだけでもあなたの声が欲しかったりしたわ・・・

 あなたってそんな時も・・・すごく厳しい顔をして仕事していて・・・
 怖いくらいだったから・・・」

「君が勝手に来てたんだ」

「そうだけど!・・
 確かに私が・・勝手に押しかけて来てたけど・・・        
 ちょっと位相手をしてくれてもいいんじゃない?そう思って・・
 あなたのこと、うんと睨んでやったわ・・・」

   知っていたよ・・・

「それなのにあなたときたら・・私のそんな気持ちにも気付いてくれなかった」

   彼女はそう言いながら・・・今きっと口を尖らせている

「忙しいって・・言ってただろ?」

こんな風に、自分の腕に抱いている彼女をからかうのは実に楽しい。
彼女の抑揚をつけた話し方や甘い声があまりに可愛くて・・・
彼女のそばにいるだけで心が穏やかになっていく、そんな自分を僕は楽しんでさえいた。

「仕事がそんなに大事?・・いつもパソコンをこーんな顔して睨んでて・・・
 私のことなんて眼中になかったもの・・・」

彼女は自分の目尻を上に吊り上げながら、僕の顔を真似ているらしかった。

「・・・・・そう見えた?」

「見えた。」


   それは君の誤解だよ・・・

「確かに・・・君がいることさえ忘れてた・・・
 あー・・きっと、僕は君に少しの興味もなかったのかも」

「え・・・本当に?」

「ん・・本当に・・」

「・・・・・・・・・」

そして僕は僕のからかいに彼女が次第にひしがれて、沈黙し始める頃、
そろそろと自分の本心を打ち明ける。

「嘘。・・・・本当はずっと気にしてた・・・君のこと・・・」


   君が夜空を見上げながら瞳を輝かせていたことも・・・

「・・・・・・・・・」

   時折僕の方を盗み見て・・・可愛い表情を雲らせていたことも・・・


「眼中になかったら、最初から部屋に入れたりしないだろ?
 君の視線が僕に向いてない時・・・僕はしっかり君を見てた・・・」


   君がどんなに僕を見ていたか・・・全部・・・知っていた・・・

「ホント?」 人一倍素直な彼女が一瞬にして笑顔を満面に変えた。

「ん・・・」 

   そうだ、君が言うように・・・僕もたまにはうんと素直になってみよう

「フランクってば・・やっぱり、可愛くないわ」

「ハハハ・・可愛いって・・どういうのを言うの?」

「そんな時、ちゃんと素直な気持ちになってくれてたら
 毎日がもっともっと楽しかったのに・・・」

「・・・・ホント・・・そうだね・・・」

   本当に・・・もったいないことをした・・そう思うよ

僕は彼女の細い体をぎゅっと強く抱きしめると、ふたりを包んだブランケットの
合わせを深く重ねた。

「寒くない?」

ジニョンは僕の胸の上で頭を左右に振った。

「・・・ねぇ・・・覚えてる?・・・」

「ん?」

「初めて逢った時もあなたが・・・
 こうして、私をブランケットに包んで温めてくれた・・・」

「覚えてるさ・・・あの時は君の気迫に僕は君の言うなりだった」

「気迫?」

「そう・・・私を置いていくの!って・・凄い勢いだった。」

「フフ・・・だって、必死だったもの・・・」

「彼の為に?」

「ぁ・・・その時は・・・」

「ジニョン・・・僕を好き?」

僕は自分から聞いておきながら彼女の言葉を遮って、抱きしめていた腕に更に力を込めた。

「好きよ・・・」

「愛してる?」

「愛してるわ・・・・」

彼女は僕の神妙そうな問い掛けに、少し体を僕の方に翻して、怪訝な表情を向けた。

「・・・・・・・」

「・・・・フラ・・ンク?・・・」

「僕はね・・・つい最近まで・・・この世の中に・・・
 僕を愛してくれる人なんてひとりもいない・・・そう思って生きていた・・・」

「・・・・どうして?・・・」

「・・・昼間・・僕が何処で生まれたのか・・・そう聞いたよね・・・」

「ええ・・・でも・・・話したくなければ・・」
「東海・・・」

「東海?・・・韓国の?」

「ん・・・」

「ぁ・・・だから・・・ハングル・・・」

「10歳の時・・・母が死んで・・僕は孤児院に預けられたんだ・・・

 最初のうちはね・・・父が直ぐに迎えに来る・・そう思ってた
 母が亡くなって・・きっと忙しくて・・それで僕は家に帰れない・・
 それだけのことなんだって・・・
 いつ父が迎えに来てくれるのか・・・・指折り数えてた・・・
 窓から孤児院の門を、来る日も来る日も覗いてた・・・

 でも・・父はとうとう現れなかった・・・
 その内諦めて・・・僕は窓のそばにも立たなくなった・・

 そうしている内にアメリカへの養子縁組の話が持ち上がって・・・
 僕の知らない間に大人たちの間で話は進められていた
        
 父はね・・・結局・・・
 僕がアメリカに発つまで会いには来なかったよ
 僕に合わせる顔がなかったのか・・・
 それとももう・・僕のことなんてどうでも良かったのか・・
 本当のことは何ひとつわからなかった

 だけどその頃には僕にとって、そんなこと・・もうどうでも良くなっていた
 父からどんな弁明があったところで・・・
 父は僕を捨てた・・・
 そのことに変わりなかったから・・・
        
 何が何だかわからないまま飛行機に乗せられて・・海を渡った・・・
 そして突然・・“この人たちが今日からお前のお父さんとお母さん”・・・
 そう言われて紹介された人たちは・・・話す言葉すら違ってた・・・

 もちろん・・孤児院を出る前に話は聞かされてたよ・・・
 養父母となる人たちがアメリカ人であることや・・・
 彼らには実子はいないけど・・
 僕の他に、他国からも養子を迎えてること・・・
 敬虔なカトリック信者で・・・ボランティア精神に溢れていること・・・
 でも、10歳の子供が何処まで理解できたと思う?

 それでも・・・
 変わってしまった環境の中で僕は自分の生きる術を懸命に探した

 僕の生きる場所はここだけなんだと自分に言い聞かせた

 そして僕は・・・フランク・シンという人間に生まれ変わった・・」

「フランク・シン・・・それがあなたの・・・」

僕は彼女の言葉に頷きながら先を続けた。

「養子先ではね・・僕は凄く賢くて行儀のいい子・・・そう言われてた・・・
 言葉も直ぐに慣れて、半年もしない内に会話に不自由は無かった

 養父母は本当に優しい人たちだったし・・・そこで出会った義兄弟とも上手くやってた
 でも・・何かが違ったんだ
 本当は我侭も不満も言いたかったし・・・
 周りの子供達が親に甘えている姿を見ると本当に羨ましかった・・・

 “フランク・・・あなたは私達の自慢の子供よ”
 養母にそう言われて心をくすぐられるようだった

 でもその反面・・そのことが凄く重く僕にのしかかっていた
 成績が良くて・・・行儀が良くて・・・大人の言うことを良く聞く・・・だから・・
 ここに置いてもらえてるんじゃないか・・・
 本気でそう思って、僕は正直かなり無理してた・・・
 この居場所を無くしたら、もう何も無くなる・・そう思ったから・・・ 
             
 ある時僕は・・自分が精神のバランスを崩してることに気がついた
 養父母たちの言葉も素直に受け入れられず
 屈折して物事を捉えるようになって・・・いい子を演じることに疲れて・・・
 ことごとく彼らに反発した

 周りの何もかもが嫌になっていったんだ・・・いつしか僕は・・・
 “この家から逃げ出したい”そう思うようになってた・・・

 それが13の時だ・・・
 どうしてもひとりになりたくて・・・
 養父母に頼んで全寮制の学校に入れてもらって・・・
 それからというもの・・・
 僕は必死に勉強して・・・早く独り立ちしようと考えた

 早く大人になりたかった
 自分だけの力で世の中を渡って・・・お金を稼いで・・・
 地位と名誉を我が物にして・・・成功したら
 僕を捨てた実の親を見返してやる・・・そう思ってた・・・
 たった13の子供が本気でそう思ってた・・・

 笑ってしまうよ
 遠く離れたこの地で生まれ変わるはずだったのに・・・
 新しい僕に・・・フランクに・・・なるはずだったのに・・・
        
 結局最後に僕の中に宿っていたのは・・・

 どうでもいい・・・そう思っていたはずの・・父への恨みだけだった・・・」
        
「・・・・・・・・」

ジニョンは僕の淡々とした告白をただ静かに聞いていた。

「僕は人間が嫌いだ・・・だから・・・人を信じたことなんて一度もない・・・
 人を愛したことも・・・一度もない。・・・愛を・・・信じたこともない。

 今までは・・・そうだった・・・

 そんな僕が・・・どういうわけか或る人を・・・愛してしまった・・・

 最初は信じられなかったんだ・・・
 僕自身・・・僕の心が信じられなかった・・・

 でもどうしようもないほど・・・その人を・・・愛してる・・・」

「・・・・・・・」

「胸が締め付けられるくらいに・・・君を・・・愛してる・・
 そのことに嘘はない・・・君は・・・こんな僕を・・・信じられる?」

「・・・・・・・・」

彼女は僕の問いかけに答えずただうつむいていた。

「・・・・信じられない?」

「・・・・・・・・」

そっと指で持ち上げた彼女の顎が涙で濡れていた。
僕はただ静かに涙を流しながら僕を見上げる彼女の瞳に息を呑んだ。

「・・・・どうして・・・君が泣くの?」

「ごめんなさい・・・何も・・知らなくて・・何も教えてくれないって・・
 私・・・さっき・・あなたのこと・・責めた・・・」

彼女はそう言いながら僕の膝の上を降りるとそのまま僕の前にひざまずいて
僕の手に頬ずりをした後、僕の手の甲に涙混じりの唇をそっと落とした。

「・・・・・・」

そして彼女は顔を上げて、彼女のキスをただ黙って受けていた僕と真直ぐに向き合った。

「でも・・・愛してくれる人が誰もいないなんて・・・どうして、そんなこと思うの?
 そんなの・・・悲しすぎる・・・私はあなたを愛してる

 私だけじゃない・・・
 ソフィアさんだって・・・あなたを心から愛してる・・・

 あなたの亡くなったお母様だって・・あなたを愛してたはず・・
 お父様だって・・・きっと、ご事情があったはず・・・」

「ジニョン・・・そんなこと・・・もうどうでもいいことだよ」

「フランク・・・」 

「僕は・・君がいてくれればそれでいい・・・
 そうやっていつも・・愛してると・・・言ってくれる君が・・・」

「だめ・・・」

「・・・・・・」

「嫌よ・・・フランク・・・
 あなたが・・・そんな悲しい心のままに生きるのは嫌・・・」

「・・・・・・」

「親に愛されない子供なんて・・・この世にはいない・・・
 絶対に存在しない・・・私はそう信じてる・・・」

彼女の瞳から尚もとめどなく涙が零れ落ちていた。

僕の手を強く握り締めながら、視線を決して逸らさない彼女の瞳の中に、
僕は神々しい優しさと強さを見つけて圧倒されていた。


   ジニョン・・・君という人は・・・

   人に裏切られて育っては来なかった

   だからそんなにも人間をも信じられるんだね・・・


   ジニョン?・・世の中にはね・・・

   君が想像もつかない人間だって存在するんだよ・・・


   でも・・・可笑しいんだ・・・

   君のその紛いの無い綺麗な瞳を見つめていると・・・

   僕の心が吸い込まれるように君の無垢な心に埋もれていく


   そうかもしれないと・・・


   こんな僕でも・・・本当は母に愛されて・・・

   父にも・・・愛されて・・・
 
   この世に存在したと・・・

 

        ・・・信じてみたくなるよ・・・      

 






 


 






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