2010/04/08 22:06
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-20.さざなみ

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「そろそろ・・・こっちを向いてもらってもいい?」
「・・・・・・」

「キスしたい・・・」
僕が彼女の耳元でそう囁くと、彼女は不意に振り返り僕の首に飛びつくなり
僕の唇に自分の唇を強く押し当てた。

彼女の突然の行為に驚いた僕はその瞬間、不覚にも彼女から手を離してしまったけれど
急いでもう一度彼女を抱きしめ直すと、先を越されてしまった甘いくちづけの主導を
今度は僕が握った。

   確かめ合うかのような甘美で執拗なくちづけが
   息を付かせることさえ許さない愛撫の繰り返しが
   逢いたかった激しい思いを互いへ訴えると
   恋人達は逢えなかった時間を取り戻していく

その狂おしいほどの自分の感情をなだめた後で僕はやっと、彼女を解放した。
そして潤んだ眼差しで見上げる彼女の髪を撫でながら、その濡れた唇に誘われて、
また、何度も何度も小さいキスを繰り返えした。

 
   逢いたかった・・・ジニョン・・・


   触れたかった・・・ジニョン・・・


   呼びたかった・・・


「ジニョン・・・・・・・・
 ねぇ・・本当のことを言ってごらん・・寂しかっただろ?」

僕は彼女を抱きしめたまま、彼女の髪を愛しげに梳きながらそう言った。

「いいえ・・少しも・・・」

「本当に?」

「・・・言わない。・・・悔しいから・・・」

彼女は僕の背中に回した両手で僕の服を握り締めながら口を小さく尖らせた。

「悔しいから?・・・それって・・寂しかったって
 言ってることじゃない」

「・・・・・・・」

「いいから素直に言ってごらん?・・・寂しかったって・・・」


「・・・・・・・言わない。」

「強情だな」


「あなたこそ・・・
 どうして、そんなにしつこく言わせたがるの?」

「寂しかったから。」 僕は即座にそう答えた。


「・・・・」

「僕が寂しかったから・・・
 君の“寂しかった”をいっぱい聞きたい」


「フランク・・」

「ん?」


「・・・・・寂しかった・・・すごく寂しかった・・・
 死ぬほど寂しかった・・・
 寂しくて寂しくて・・・いつもベッドの中で泣いてた・・・
 あなたの・・・声が聞きたくて・・・
 寝る前に目を閉じて、あなたの“愛してる”を思い出してた
 逢いたくて・・逢いたくて・・・こうして・・・
 あなたの顔を・・・この目を・・・この唇を・・・思い出してた・・・」

そう言いながら彼女は目を閉じて僕の顔に細い指を這わせた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

僕は彼女の瞳を熱く見つめながら、僕の顔に触れた彼女の細い指先一本一本に
丁寧にキスをした。

そして僕達は、しばらくの間言葉もないまま、ただ強く抱きしめ合っていた。


「・・・行こうか・・・」

「え?・・・」

「このままこうしていても・・・いいけどね・・・
 もっと他のことをしたくなった・・・」

彼女を見つめた僕の瞳の中にその意味を見つけた彼女が頬を赤く染めた。

僕はそんな彼女を愛しく思いながら手を取ると、ソフィアの部屋とは反対の方角へと進んだ。

「待って・・・行くって?・・・ソフィアさんが・・・」

「いいんだ」

「いいって・・・ビネガー待ってる・・」

「待ってないよ・・・」

「・・・・・?」

「ソフィアがそうしろと言ったんだ」


      《迎えに来ないで・・・フランク・・・》


「・・・・・でも・・・何処に行くの?」

「僕たちの家・・・」

「・・・・・?」

「いいから・・・おいで・・・」

僕は握ったジニョンの手を更に強く握り締めると、道路の向こうに止めてあった車に急いだ。

 


    迎えに来ないで・・・フランク


ジニョンさんと過ごしたこの三日間は意外とシンプルだったわフランク。

   本当はね

   彼女のこと・・・もっと憎らしく思うのかと思ってた

   でも・・・何故か彼女と一緒にいると・・・

   穏やかな気持ちになっていく自分に驚いたわ

   不思議な子ね・・・あの子・・・

   
   フランク・・・
   
   あなたも苦しんだのね・・・


   でももう戻りましょう

   私達にこんなのは似合わない


   私はいつもの私に・・・

   あなたもいつものあなたに・・・


   ひとつだけ・・・

   戻れないことはあるけれど・・・

   それでも・・・あなたを失うよりは・・・

   絶えられそうな気がする・・・


   あなたの辛そうな目は・・・


   いつまで経っても・・・苦手なのよ・・・私・・・

 

 

  ルルルーー♪  
 

「ハロー・・・」

「ソフィア?」

「リチャード?・・・何してるの?」

「何してるって?・・・」

「だって、あなた・・今頃はNYで・・」

「ああ・・コンサートのこと?あれは・・・
 ある女に断られた時点で、既に消滅・・・」

「消滅?」

「破って捨てたってこと・・・」

「まあ、もったいないことするのね・・・あれプラチナ・チケット・・・よ」

「僕にとってはその女と行けなければゴミ同然・・・」

「・・・・・・」

「どう?」

「どう?って?」

「少しは感動した?」

「・・・・あなたって・・・変な人・・・」

「それは褒め言葉と取ってもいい?・・・」 

「・・・リチャード・・・ところで・・ご用は何?」
  
「ああ、僕の声を聞きたいんじゃないかと思って」

「フフ・・・何の冗談?・・」

「・・・聞きたかっただろ?」

「リチャード・・」  
 
「実際思ってなかった?ああ、そういえば今日はまだ・・・
 彼の声を聞いてなかったなって・・ね」

「・・・・・・」

「毎日聞いていた声が聞こえないと・・・妙な気分になる・・・」

「リチャード・・・」

「だから僕は・・・こうして君に毎日電話してる・・・」

「・・・強引な人は好きじゃないわ・・・」

「食事でもどう?・・・迎えに行く・・・」

「・・・悪いけど・・・切るわ」

「・・・会いたい・・・」

「ごめんなさい・・・じゃあ・・・」

「・・・・・」
 
 ピンポーン♪

 

   ・・・・・強引な人は嫌いだと言ったでしょ?

 
   でもまだ・・・電話・・・切ってないね・・・

 

 



僕はレオに頼んでNY郊外に人里離れた小さな家を探してもらった。


    『どうして、家なんかを?』


    理由がないといけないか?


    『いや・・・しかしボス・・これから俺達は嫌でも忙しくなる
     そうなると殆どホテル住まいが多くなるぞ』


    ・・・・・・


    『ま、いい・・・ご希望の物件当たってみるさ・・・』


   

       

「この辺のはずなんだ・・・」

「暗いのね・・・まるで森の中みたい」

「家の周りに灯りを灯してくれることになってるんだけど・・・
 あ・・あった・・・あそこだ・・・」

「何だか怖いわ」

「大丈夫・・・僕が付いてる」

「ええ・・・」

レオが用意してくれた家は白いカントリーハウスだった。
それはジニョンが表現した通り森のような樹木に覆われていた。

見渡す限り隣家と思しき建物ひとつ見当たらず、闇の夜に浮かんで見えるのは
白っぽい小さな家とそれを照らすひとつの灯りと妖しげな朧月だけだった。

玄関を入ると、右手にしゃれたダイニングキッチン、左手にはソファーやテーブル、
キャビネットが白い布で覆われたまま僕たちを出迎えた。

そしてその奥に白い壁で半分仕切られただけのベッドルームが見える
大きなワンルームタイプの間取りになっていた。

 

「気に入った?」

「え?・・・」

「気に入らないの?」

「そんなことないわ・・・素敵なお家」

「ここが僕たちの新しい家・・・さあ・・布を外そう・・・」

「え?・・ええ・・・」

僕はふたりの新しい生活の幕開けに白布を大きな音を立てて勢いよく取り除いた。
中からは小ぶりながらもセンスのいい家具が現れ僕は満足だった。

しかし、僕の後に続いて外した布を片付けるジニョンの、少し元気の無い様子が
気になってしかたなかった。

「 ジニョン! 」 僕は彼女に不意にクッションを投げつけてふざけて見せた。

彼女は一瞬驚いてそれを受け損なってしまったけれど、直ぐに僕の行動に反応して、
僕以上の攻撃を仕掛けてきた。


いつもの明るい・・子供みたいなジニョン・・・

それなのに彼女の不安げな憂い顔が僕の心にさざなみを立てる。 

 

   ジニョン・・・何がそんなに不安なんだい?・・・

   僕との生活が?・・・

   韓国のご両親のことが心配なんだね

   ジョルジュというあいつのことも・・・


   ジニョン・・・僕は・・・君の

   その手を掴んで来てしまったこと・・決して後悔はしていない・・・

   でも・・・君のその・・・

   瞳の中の憂いを僕はどう受け止めればいいんだろう


   ジニョン・・・

   どうか僕に・・・君のくったくのない笑顔だけをくれないか・・・

          


僕たちはその夜、いつの間にかベッドに倒れ込むように眠ってしまった。
僕はこの数日ろくに寝ていなかったこともあって珍しく熟睡していた。


薄く射し込んだ光彩に揺り起こされて目覚めると、ジニョンは僕に体を添わたまま
まだ深い眠りの中だった。


しばらくの間、彼女の寝顔を見つめながら、僕は昨日までのことを思い起こしていた。


   自分達に降りかかった現実と・・・


   まだ見えないふたりの未来・・・


今までは僕に想像できないものなど存在しなかった
それなのに・・・彼女との未来が見えてこない・・・


ただはっきりしていることは・・・


   僕がもう彼女を失えない・・・

   そのことだけだ・・・

 

僕はその自分の決心だけを信じて生きようと思った・・・
彼女さえそばにいてくれれば・・・何もいらない・・・


そして僕は彼女の額にそっとキスをしてベッドから起き上がると、窓辺に向かい、
朝日が薄く差し込むカーテンを開けて、まばゆいばかりの光をジニョンの眠るベッドに採り込んだ。


「ジニョン!起きて!ジニョン!」

「んっ?・・・ん・・・」

「来てごらん・・・湖だ・・・朝日が反射して綺麗だよ」

僕の誘いにまだ眠気まなこの彼女がベッドを降りて窓辺に近づいた。

「うわー本当ね・・・凄く綺麗!」

昨夜の彼女の不安げな顔が、湖畔に映る朝焼けを前に輝きを取り戻したように見えた。

「ジニョン・・・朝食を作ろう・・・」

「材料は?」

「少しは用意してもらってる・・・あとで買い物にも行こう
 足りないもの、調べないといけないね・・・」

「ええ」

僕に向けた彼女の笑顔はいつもの明るいジニョンだった。


   どうしたんだろう・・・僕は・・・昨日から

   何故か彼女の笑顔を探しては、その都度胸をなでおろしている


「ジニョン・・・これから・・・
 ふたりで色んなことをしよう・・・」

「色んなこと?」

「ああ・・・ふたりで映画を観たり・・・
 ミュージカルを観たり・・・
 素敵なレストランで食事をするのもいい・・・

 あの湖畔にボートを浮かべるのもいいね・・・

 とにかく・・・
 君がやりたいことは何でも言ってごらん?
 君の言うことなら、何でも叶えてあげる

 ふたりで沢山のことを経験して・・・君と・・・
 幸せを描いていきたい・・・」

「ええ・・・」

僕はジニョンの背中を自分の胸に抱いて窓辺に少し体を預けた。

しかし、湖畔に向けたままの彼女の表情を僕は覗かなかった。

胸の中のざわめきが彼女の心の奥深くを僕に覗かせなかった。

それでも、水面にきらめく神秘な光華が僕の心を少しだけ慰めてくれていた。


   フランク・・・大丈夫だ・・・


      彼女はきっと・・・

 


      ・・・お前の元で笑ってくれる・・・


 




    

 





 


 


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