2010-04-16 08:37:11.0
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-23.恋しきもの

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「ボス・・・新しい棲みかの住み心地はどうだ・・・」

「ああ・・悪くない・・」

「そうか・・・それは良かった・・・・」

「・・・何の用だ?・・・三日間は電話もしない約束じゃなかったか」

携帯電話の着信音が鳴った時、僕は思わず眉をひそめていた。
案の定、受話器の向こうから聞こえてくるレオの声は、僕の反応を予想したかのように
言葉を濁ごして歯切れが悪かった。

「悪いが明日NYへ戻ってくれないか」

「・・・・・」

「すまない。しかし・・・今度の案件について早い内に
 耳に入れておきたいことがある」

「今、話せ。」

「いや・・・直接会って話したい。・・・明日午後1時
 いつものところで・・じゃ」

「おい・・」

レオは僕の返事をわざと聞かないというように急いで電話を切った。

最近レオは僕の操縦方法を心得ているように思う時がある。
僕への意見や忠告も、是が非でも通さなければならない時には僕に有無を言わせない。
癪に障ることもあるが、結果としてそれは正解だと言えた。
だからこそ、そのレオが今、僕にNYに戻ることを要求するということは、
それなりに大きな理由があることだと僕も理解せざるえないのだ。


『お仕事なの?』

「ん・・」

ジニョンは濡れた髪をタオルで拭きながらシャワー室から出て来ると
彼女をひとりでここへ置いていくことを考えてうなだれていた僕を気遣うように
優しげに声を掛けた。

『NYへ?』

「ん・・」

『明日?』

「ん・・・ジニョン・・ごめん」
『ケンチャナヨ』

「・・・・・・」

『ケンチャナ・・・フランク・・・私は大丈夫・・・
 ここであなたを待ってるわ・・・』

「ジニョン・・・」

ジニョンがさっきから僕に話す言葉がハングルであることにとっくに気付いていたが、
僕は敢えて英語で返していた。

「どうしたの?」

『え?』

「ハングル・・・」

『わかるんでしょ?フランク・・・』

「忘れた・・とっくに・・・」

『嘘ばっかり・・・
 私、興奮すると時々英語使わないでハングル使ってたでしょ?
 それでも・・あなたとの会話・・不自由したこと無いわ
 あなたの答えはいつも英語だったけど・・・」

「フッ・・・」

『私といる時はハングルを使って?・・・フランク・・・』

「どうして?」

『あなたが祖国を忘れないように・・・』


   祖国?・・・


「・・・・・・・祖国じゃない。」 僕は強く拒否するように言った。

『祖国よ。』

力強い瞳の彼女を前に僕は思わず下を向いて笑った。
 
   さっき話した僕の身の上話のせい?

   それで・・・ハングル・・なの?


『可笑しい?』

「いや・・・可笑しくない・・・」

『フランク・・・その笑い方・・・感じ悪い。』

ジニョンはそう言って、瞳に軽く力を入れて僕を睨んだ。

 

「フッ・・・きっと・・・そうだな・・・
 僕が・・・君に初めて出逢った時・・・
 あの場所で足を止めたのは・・・君のそのハングルのせいだった・・・

 君と・・・ジョルジュが話すハングルに無性に腹が立っていたのは
 君達が羨ましかったから・・・そうなのかもしれない・・・
 きっと嫉妬していたんだ・・・君達の交わす・・・懐かしいハングルに・・・

 もう二度と使うまいと決めていた・・・

 世界中の言語の中で・・・一番嫌いだった・・・
 僕は・・・僕という存在を否定した韓国が嫌いだった。」


『・・・・・・・』

「でもそうじゃなかったんだ、きっと・・・一番・・・恋しい国だった・・・
 一番耳に優しい原語だった・・・

 君の話すハングルがどれだけ僕の心に沁みたのか・・・
 きっと、君には想像もできないよ・・・
 だって・・・僕自身・・・今・・初めて気がついたんだから・・・」

そう言って僕は彼女に向かって微笑んだ。

『フランク・・・』

「僕は素直じゃないね・・・」

『そうね・・・あなたは素直じゃないわ・・・』

『ミアネ・・・ジニョンssi・・・』

『フラ・・ンク・・・?』

『ドンヒョク・・・』

『え?』

『シン・ドンヒョク・・・僕の韓国名・・・それが・・・
 僕の本当の名前・・・“ドンヒョク”・・・言ってみて・・・』

僕は彼女の瞳を真直ぐに見つめて『ドンヒョク』という名をハングルでゆっくりと発音した。

『ドン・・ヒョク・・・・・ドンヒョク・・ssi・・・
 あぁ・・何だか・・・素敵な響きだわ・・・ドンヒョクssi・・って・・・』

彼女は僕のその名前を輝くように音にした。

たった今まで、心の奥底に封印され続けた僕の幼い日の心の拠り所が
まるで・・・暗闇の中から・・・ジニョンという光に導き出されていくようだった。

   そうなんだ

女神のような彼女の微笑みに僕は完全に降伏していた。
 

『ジニョン・・・おいで・・・』

僕は彼女の手を取ると力強く引き寄せて自分の膝の上におろした。
そして彼女の肩に掛かったタオルで彼女の髪を包み込み、思い切り力を込めて
乱暴にその髪を拭き始めた。

『痛いわ!フラン・・・ドンヒョク!痛い!』

『黙って!急いで乾かさないと、風邪引くだろ?』

『でも、痛いわ!もう少し、優しくして!・・ドンヒョクssi!・・・』

『駄目!』


   駄目だよ・・・今は駄目・・・

   お願いだから今はこのまま僕に背を向けていて・・・

   せめて・・・


僕達の会話は今を境に英語からハングルに変わり、彼女が僕を呼ぶ名は「ドンヒョク」と
なっていくのだろうか。

   シン・ドンヒョク・・・

11年もの間、僕は誰にもその名で呼ばれたことが無い・・・


「あなたは今日からフランク・・・」

そう言われたあの日から・・・抵抗する術も知らなくて・・・
ただ・・・

   ・・・心で叫んでいた・・・

 

   僕はフランクなんかじゃない・・・ドンヒョクだと・・・


それがいつの頃からか・・・
僕自身も拒絶してきた父がつけたドンヒョクという名・・・

その僕の名が、今・・・愛する人の声で蘇った

 

   ジニョン・・・お願い・・・もっと・・・

   もっと呼んで・・・僕の名を・・・君の声で呼んで・・・

   もっと・・・もっと・・・ジニョン・・・

 

しばらくすると・・・
さっきまで抵抗していた彼女が突然大人しくなって
僕がするままに身をまかせ、そしてゆっくりと僕にもたれかかった。

 
    きっとそれは・・・

 
僕はそのまま彼女を受け止めるように優しく、力強く抱きしめると、
彼女の背中に顔を埋めた。

 

    きっとそれは・・・

 

    僕の涙に気がついたせいだね・・・ジニョン

 


君が静かに・・・

   僕の心が落ち着くのを待っている・・・

 

君がそっと・・・

   君に回した僕の腕を抱いてくれる・・・

 

言葉のいらない静かな時の流れを・・・


   僕は君とふたり・・・


   漂う幸せに酔いしれていた・・・


   コマウォ・・・

 


        コマウォ・・・ジニョン・・・

 

   

 

 


 


 




 


 

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