2010/04/12 09:28
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-22.告白

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「星がいっぱい・・・」

「ん・・・」

「綺麗ね~」

「ああ、綺麗だ」

夕食を済ませると僕は、ジニョンを抱いてテラスに置かれたロッキングチェアーの上で
満天の星を見上げていた。

今日一日、食料品や日用品の買い物以外を新しい家の周辺を散策しながら
静かに時間(とき)を過ごした。

彼女とふたりで今夜のメニューを考えながらスーパーのカートを押し、
彼女との約束の釣竿も買って、明日からのふたりの生活を夢見ていた。

他の誰の姿も無く、誰の声も無く、今このときに存在するものは、そよと吹く風の流れに
重なり触れ合う葉の音と、小さくこだまする小鳥の囀りと、そして・・・

   僕の・・愛しい・・ジニョン

今までただの一度も味わったことのない、この安らぎのときを僕は決して離すまいと
幾度も幾度も彼女を抱きしめていた。

彼女への、えもいわれぬ愛しさに恐れさえ抱き、神に祈る思いで天空を仰ぎ見る。

都会の空とは比べ物にならないほど輝きを放つ星ぼしが、まるで僕達ふたりを
無条件に祝福しているかのようで心から安堵した。

この僕がそんな感傷に浸たりきることができるのも・・・きっと・・・
この腕の中で無邪気に笑うこの天使のせいに他ならない。


「私ね・・・」

「ん?」

「フランクのアパートで見上げる星空・・・すごく好きだったの・・・
 まるで・・・窓枠が額縁みたいで・・・
 夜空が一枚の大きな絵のようだったから・・・」

「曇り空で・・真っ暗でも?」 彼女が星空を見たくて僕の部屋に来るという大義名分が、
時折、天空に裏切られていたことを、僕はそう言ってからかった。

「意地悪ね・・・」 彼女はクイと顎を上げて、上目遣いに僕を睨んだ。

「あなたの部屋に行っても・・最初の頃・・・あなたは・・殆ど話しかけてくれなくて・・・
 すごく寂しかった・・・ぁ・・確かにね・・・あなたのそばで過ごせてる・・・
 それだけでも幸せだったの・・・それは本当よ・・・

 星が空一面に輝いている日はいいの・・本当に綺麗で・・幸せな気分に浸れてた・・・
 でも・・・曇ってて・・真っ暗な夜空の時は・・
 ちょっとだけでもあなたの声が欲しかったりしたわ・・・

 あなたってそんな時も・・・すごく厳しい顔をして仕事していて・・・
 怖いくらいだったから・・・」

「君が勝手に来てたんだ」

「そうだけど!・・
 確かに私が・・勝手に押しかけて来てたけど・・・        
 ちょっと位相手をしてくれてもいいんじゃない?そう思って・・
 あなたのこと、うんと睨んでやったわ・・・」

   知っていたよ・・・

「それなのにあなたときたら・・私のそんな気持ちにも気付いてくれなかった」

   彼女はそう言いながら・・・今きっと口を尖らせている

「忙しいって・・言ってただろ?」

こんな風に、自分の腕に抱いている彼女をからかうのは実に楽しい。
彼女の抑揚をつけた話し方や甘い声があまりに可愛くて・・・
彼女のそばにいるだけで心が穏やかになっていく、そんな自分を僕は楽しんでさえいた。

「仕事がそんなに大事?・・いつもパソコンをこーんな顔して睨んでて・・・
 私のことなんて眼中になかったもの・・・」

彼女は自分の目尻を上に吊り上げながら、僕の顔を真似ているらしかった。

「・・・・・そう見えた?」

「見えた。」


   それは君の誤解だよ・・・

「確かに・・・君がいることさえ忘れてた・・・
 あー・・きっと、僕は君に少しの興味もなかったのかも」

「え・・・本当に?」

「ん・・本当に・・」

「・・・・・・・・・」

そして僕は僕のからかいに彼女が次第にひしがれて、沈黙し始める頃、
そろそろと自分の本心を打ち明ける。

「嘘。・・・・本当はずっと気にしてた・・・君のこと・・・」


   君が夜空を見上げながら瞳を輝かせていたことも・・・

「・・・・・・・・・」

   時折僕の方を盗み見て・・・可愛い表情を雲らせていたことも・・・


「眼中になかったら、最初から部屋に入れたりしないだろ?
 君の視線が僕に向いてない時・・・僕はしっかり君を見てた・・・」


   君がどんなに僕を見ていたか・・・全部・・・知っていた・・・

「ホント?」 人一倍素直な彼女が一瞬にして笑顔を満面に変えた。

「ん・・・」 

   そうだ、君が言うように・・・僕もたまにはうんと素直になってみよう

「フランクってば・・やっぱり、可愛くないわ」

「ハハハ・・可愛いって・・どういうのを言うの?」

「そんな時、ちゃんと素直な気持ちになってくれてたら
 毎日がもっともっと楽しかったのに・・・」

「・・・・ホント・・・そうだね・・・」

   本当に・・・もったいないことをした・・そう思うよ

僕は彼女の細い体をぎゅっと強く抱きしめると、ふたりを包んだブランケットの
合わせを深く重ねた。

「寒くない?」

ジニョンは僕の胸の上で頭を左右に振った。

「・・・ねぇ・・・覚えてる?・・・」

「ん?」

「初めて逢った時もあなたが・・・
 こうして、私をブランケットに包んで温めてくれた・・・」

「覚えてるさ・・・あの時は君の気迫に僕は君の言うなりだった」

「気迫?」

「そう・・・私を置いていくの!って・・凄い勢いだった。」

「フフ・・・だって、必死だったもの・・・」

「彼の為に?」

「ぁ・・・その時は・・・」

「ジニョン・・・僕を好き?」

僕は自分から聞いておきながら彼女の言葉を遮って、抱きしめていた腕に更に力を込めた。

「好きよ・・・」

「愛してる?」

「愛してるわ・・・・」

彼女は僕の神妙そうな問い掛けに、少し体を僕の方に翻して、怪訝な表情を向けた。

「・・・・・・・」

「・・・・フラ・・ンク?・・・」

「僕はね・・・つい最近まで・・・この世の中に・・・
 僕を愛してくれる人なんてひとりもいない・・・そう思って生きていた・・・」

「・・・・どうして?・・・」

「・・・昼間・・僕が何処で生まれたのか・・・そう聞いたよね・・・」

「ええ・・・でも・・・話したくなければ・・」
「東海・・・」

「東海?・・・韓国の?」

「ん・・・」

「ぁ・・・だから・・・ハングル・・・」

「10歳の時・・・母が死んで・・僕は孤児院に預けられたんだ・・・

 最初のうちはね・・・父が直ぐに迎えに来る・・そう思ってた
 母が亡くなって・・きっと忙しくて・・それで僕は家に帰れない・・
 それだけのことなんだって・・・
 いつ父が迎えに来てくれるのか・・・・指折り数えてた・・・
 窓から孤児院の門を、来る日も来る日も覗いてた・・・

 でも・・父はとうとう現れなかった・・・
 その内諦めて・・・僕は窓のそばにも立たなくなった・・

 そうしている内にアメリカへの養子縁組の話が持ち上がって・・・
 僕の知らない間に大人たちの間で話は進められていた
        
 父はね・・・結局・・・
 僕がアメリカに発つまで会いには来なかったよ
 僕に合わせる顔がなかったのか・・・
 それとももう・・僕のことなんてどうでも良かったのか・・
 本当のことは何ひとつわからなかった

 だけどその頃には僕にとって、そんなこと・・もうどうでも良くなっていた
 父からどんな弁明があったところで・・・
 父は僕を捨てた・・・
 そのことに変わりなかったから・・・
        
 何が何だかわからないまま飛行機に乗せられて・・海を渡った・・・
 そして突然・・“この人たちが今日からお前のお父さんとお母さん”・・・
 そう言われて紹介された人たちは・・・話す言葉すら違ってた・・・

 もちろん・・孤児院を出る前に話は聞かされてたよ・・・
 養父母となる人たちがアメリカ人であることや・・・
 彼らには実子はいないけど・・
 僕の他に、他国からも養子を迎えてること・・・
 敬虔なカトリック信者で・・・ボランティア精神に溢れていること・・・
 でも、10歳の子供が何処まで理解できたと思う?

 それでも・・・
 変わってしまった環境の中で僕は自分の生きる術を懸命に探した

 僕の生きる場所はここだけなんだと自分に言い聞かせた

 そして僕は・・・フランク・シンという人間に生まれ変わった・・」

「フランク・シン・・・それがあなたの・・・」

僕は彼女の言葉に頷きながら先を続けた。

「養子先ではね・・僕は凄く賢くて行儀のいい子・・・そう言われてた・・・
 言葉も直ぐに慣れて、半年もしない内に会話に不自由は無かった

 養父母は本当に優しい人たちだったし・・・そこで出会った義兄弟とも上手くやってた
 でも・・何かが違ったんだ
 本当は我侭も不満も言いたかったし・・・
 周りの子供達が親に甘えている姿を見ると本当に羨ましかった・・・

 “フランク・・・あなたは私達の自慢の子供よ”
 養母にそう言われて心をくすぐられるようだった

 でもその反面・・そのことが凄く重く僕にのしかかっていた
 成績が良くて・・・行儀が良くて・・・大人の言うことを良く聞く・・・だから・・
 ここに置いてもらえてるんじゃないか・・・
 本気でそう思って、僕は正直かなり無理してた・・・
 この居場所を無くしたら、もう何も無くなる・・そう思ったから・・・ 
             
 ある時僕は・・自分が精神のバランスを崩してることに気がついた
 養父母たちの言葉も素直に受け入れられず
 屈折して物事を捉えるようになって・・・いい子を演じることに疲れて・・・
 ことごとく彼らに反発した

 周りの何もかもが嫌になっていったんだ・・・いつしか僕は・・・
 “この家から逃げ出したい”そう思うようになってた・・・

 それが13の時だ・・・
 どうしてもひとりになりたくて・・・
 養父母に頼んで全寮制の学校に入れてもらって・・・
 それからというもの・・・
 僕は必死に勉強して・・・早く独り立ちしようと考えた

 早く大人になりたかった
 自分だけの力で世の中を渡って・・・お金を稼いで・・・
 地位と名誉を我が物にして・・・成功したら
 僕を捨てた実の親を見返してやる・・・そう思ってた・・・
 たった13の子供が本気でそう思ってた・・・

 笑ってしまうよ
 遠く離れたこの地で生まれ変わるはずだったのに・・・
 新しい僕に・・・フランクに・・・なるはずだったのに・・・
        
 結局最後に僕の中に宿っていたのは・・・

 どうでもいい・・・そう思っていたはずの・・父への恨みだけだった・・・」
        
「・・・・・・・・」

ジニョンは僕の淡々とした告白をただ静かに聞いていた。

「僕は人間が嫌いだ・・・だから・・・人を信じたことなんて一度もない・・・
 人を愛したことも・・・一度もない。・・・愛を・・・信じたこともない。

 今までは・・・そうだった・・・

 そんな僕が・・・どういうわけか或る人を・・・愛してしまった・・・

 最初は信じられなかったんだ・・・
 僕自身・・・僕の心が信じられなかった・・・

 でもどうしようもないほど・・・その人を・・・愛してる・・・」

「・・・・・・・」

「胸が締め付けられるくらいに・・・君を・・・愛してる・・
 そのことに嘘はない・・・君は・・・こんな僕を・・・信じられる?」

「・・・・・・・・」

彼女は僕の問いかけに答えずただうつむいていた。

「・・・・信じられない?」

「・・・・・・・・」

そっと指で持ち上げた彼女の顎が涙で濡れていた。
僕はただ静かに涙を流しながら僕を見上げる彼女の瞳に息を呑んだ。

「・・・・どうして・・・君が泣くの?」

「ごめんなさい・・・何も・・知らなくて・・何も教えてくれないって・・
 私・・・さっき・・あなたのこと・・責めた・・・」

彼女はそう言いながら僕の膝の上を降りるとそのまま僕の前にひざまずいて
僕の手に頬ずりをした後、僕の手の甲に涙混じりの唇をそっと落とした。

「・・・・・・」

そして彼女は顔を上げて、彼女のキスをただ黙って受けていた僕と真直ぐに向き合った。

「でも・・・愛してくれる人が誰もいないなんて・・・どうして、そんなこと思うの?
 そんなの・・・悲しすぎる・・・私はあなたを愛してる

 私だけじゃない・・・
 ソフィアさんだって・・・あなたを心から愛してる・・・

 あなたの亡くなったお母様だって・・あなたを愛してたはず・・
 お父様だって・・・きっと、ご事情があったはず・・・」

「ジニョン・・・そんなこと・・・もうどうでもいいことだよ」

「フランク・・・」 

「僕は・・君がいてくれればそれでいい・・・
 そうやっていつも・・愛してると・・・言ってくれる君が・・・」

「だめ・・・」

「・・・・・・」

「嫌よ・・・フランク・・・
 あなたが・・・そんな悲しい心のままに生きるのは嫌・・・」

「・・・・・・」

「親に愛されない子供なんて・・・この世にはいない・・・
 絶対に存在しない・・・私はそう信じてる・・・」

彼女の瞳から尚もとめどなく涙が零れ落ちていた。

僕の手を強く握り締めながら、視線を決して逸らさない彼女の瞳の中に、
僕は神々しい優しさと強さを見つけて圧倒されていた。


   ジニョン・・・君という人は・・・

   人に裏切られて育っては来なかった

   だからそんなにも人間をも信じられるんだね・・・


   ジニョン?・・世の中にはね・・・

   君が想像もつかない人間だって存在するんだよ・・・


   でも・・・可笑しいんだ・・・

   君のその紛いの無い綺麗な瞳を見つめていると・・・

   僕の心が吸い込まれるように君の無垢な心に埋もれていく


   そうかもしれないと・・・


   こんな僕でも・・・本当は母に愛されて・・・

   父にも・・・愛されて・・・
 
   この世に存在したと・・・

 

        ・・・信じてみたくなるよ・・・      

 






 


 






2010/04/11 01:28
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-21.ふたりだけなら

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僕たちは二人でキッチンに向かい、蛇口を捻ったり、コンロを操作したりして
まず使い勝手をチェックして楽しんだ。
それから、引き出しという引き出しを開けてみて、何が何処に入っているのかも
一応確認してみたりした。
そうしてここが僕達“ふたりの家だ”ということを噛み締みしめた。

ちょっとした食材や日用品は業者に委託して、準備してもらっていた。

「ジニョン・・・冷蔵庫開けてみて?何が入ってる?」

「ちょっと待って?・・・卵でしょ・・ベーコンやハム・・・
 バターとジャムと・・・レタス・・セロリ・・それから・・」

「あーじゃあ・・・卵とバター、ベーコン出して・・・スクランブルエッグにしよう・・・
  それからセロリとレタスも出して?
 パンもあるみたいだし・・・朝はそれで十分でしょ」
僕はシンク下の引き出しからフライパンやボールを出しながら言った。

「は~い」

僕が次にコーヒーの豆を挽いていると、ジニョンがどう見ても不慣れな手つきで
卵を割ろうとしている様子が視界に入った。

「・・・何してるの?」 僕はわかっていながらそう聞いた。 

「卵割ってるの」 彼女は明るくそう答えた。

どう見ても、器用とは思えない彼女の手つきに、僕は溜息をこれ見よがしに吐いた。
「・・・君・・・料理やったことある?」

ジニョンは照れ笑いを浮かべながら、堂々と大きく首を横に振った。

「ジニョン・・・コーヒーの続き・・・頼むよ」

僕は彼女に手招きをして、貴重な卵が無事なうちにクッキングの主導権を僕が
握ることに決めた。
そのことを期待していたと言わんばかりに、彼女は満面の笑みで頭を大きく縦に振った。

僕は再度溜息を吐きながら彼女とすれ違いざま、彼女が僕に向けた小さな掌に
ハイタッチをして、バトンを受け取った。

彼女は僕に屈託の無い笑みを送りながら、とても慣れた手つきでコーヒーを淹れる。

  ≪そう・・そっちなら、安心して任せられる≫

そんな彼女の姿に自分の頬が緩んでいくのを僕は実感していた。
傍らにいる人をこんなにも柔らかな気持ちで見つめている自分が、信じられなかった。

  これが君の言う・・・“幸せ”・・・なんだね・・・

          ジニョン・・・


僕はスクランブルエッグを手際よく作り、パンとコーヒーを添えてふたつのトレイに用意した。

「ジニョン・・・用意できたよ・・・?」 

ふと辺りを見渡すと、さっきまでそばにいたはずの彼女が見当たらなかった。
僕は慌てて彼女の名を叫んだ。

「 ジニョン?ジニョン! 」 部屋中探しても彼女の姿が見えなかった。

 ジニョン! 」 自分の声が緊張に包まれていると感じた。その時・・・

「 フランク!こっちよ・・」 彼女の大きな声が外から聞こえた。

声のする方に慌てて赴くと、ジニョンは湖畔に面したテラスのテーブルや椅子を
綺麗に拭いているところだった。

「 ジニョン! 」 彼女の姿を見つけてホッと胸をなでおろした僕の様子に、
彼女はきょとんとした表情を僕に向け、首を傾げた。

「フランク、ここで食べましょ?きっと気持ちいいわ」 ジニョンはにっこりと笑ってそう言った。

「あ・・ああ・・・」 さっき僕が抱いた不安を彼女に悟られまいと、咄嗟に平静を装った。

「どうしたの?」

「いや・・・何でもない・・・」 僕は急いで彼女に背中を向けると、彼女の姿が
ちょっと見えなかっただけで慌てふためいた自分をもごまかした。



僕はキッチンに戻って、さっき用意したふたつのトレイをテラスへと運んだ。

昨日ここに着いた時にはめっきり夜が更けていて、見ることができなかった全貌を、
こうして明るくなって改めて眺めると、白いカントリーハウス風の建物が周りの樹木と
湖畔とのコントラストを描いていて、絶妙な美しさを誇っていた。

そして、湖畔の水面を走ってきたかのような心地よい風がジニョンの笑顔と
コラボレーションして、僕の心に言いようの無い安らぎをもたらす。

  今までにこんなにも・・・愛しい朝を迎えたことがあっただろうか・・・

僕の奥深くに眠っていた何かが呼び覚まされる妙な感覚が、間違いなくあった。

君という存在が、僕の中の危険な闘争心の刃をも仕舞わせてしまいそうになる。

  このまま君と・・・こうして暮らせたら・・・

「フランク?」

「ん?」 

僕は彼女の呼ぶ声を聞き逃してしまうほど、彼女との幸せの中に浸っていたようだった。

「ヤ~ネ・・・真面目な顔しちゃって・・・」

「そう?何?」

「今日はお仕事はないの?って聞いたの・・・」

「ああ・・・うん・・・仕事ね・・・休み。」

「ホント?」

僕は深く頷いた。

先日の案件を終了させた後、3日間の休暇をレオに宣言してきた。
レオも次の案件までに休養も必要だろうと、その間は電話はしないと約束をした。

「じゃあ・・今日は何して遊ぶ?」

「遊ぶ?・・・はは・・・遊ぶんだね・・・」

「可笑しい?」

「いや・・・」

そう言いながらも、僕は声を立てて愉快に笑っていた。

「何だか感じ悪い・・フランク・・・」 彼女が口を尖らせて僕を睨んだ。

「ごめん・・・ 」 僕は更に可笑しくなってお腹をかかえていた。

  それはきっと彼女には理解できなかっただろう・・・

  君の“遊ぶ?”という言い方が

  何故だか僕の遠い記憶にあったものを

  懐かしく思い起こさせたような気がしていた

  そんなこと言っても・・・

  僕の過去を何ひとつ知らない君にはまだ・・・

     理解できないね・・・


「ね・・フランク・・・さっき言ってた、ボート・・・あるの?」

「ああ・・あるはずだよ・・・ほら・・あそこに見える・・・」

僕は前方に見える小さな桟橋に繋がれた小ぶりの白いボートを指差した。

「ホントだ・・・あれ・・使ってもいいの?」

「ここにあるものはみんな、自由にしていいんだ」

「じゃあ、後で乗せてね」

「いいよ」

朝食の後、僕達は改めて部屋の中を見て歩き、椅子やテーブルを動かして
好みのレイアウトに変更したり、他に必要なものは無いかを確認したりして、
ふたりで戯れながら、うららかな時を過ごした。


昼には、さっき彼女と約束したボートにランチ用に作ったサンドウィッチを持って乗り込み
穏やかな水辺に漂ってみた。

「フランク・・・凄く綺麗ね・・・
 私こういうの・・・生まれて初めて・・・」

「僕も初めてだよ・・・生まれたのは海の近くだったけど・・・
 こういうところはなかったな・・・」

僕は思いがけず、自分の生まれた地を話題にしてしまい、自分でハッとした。

「海の近く?・・・フランクは何処で生まれたの?」 当然、ジニョンはそう聞いた。

「あ・・・ジニョン・・・見てごらん・・・魚がいる」

     何故・・・ごまかす?・・・

「わぁ・・・本当だ・・・ね、フランク・・・今日、買い物行ったら、釣竿買って?」

「釣竿?」

「そう・・・魚釣るの・・・美味しそうでしょ?」

「そうか・・・お前たち・・・
 食いしん坊のジニョンに食べられる運命なんだね・・・」

僕はボートの上から水面に向かって神妙を装い、魚達に呟いてみせた。

「フランク!そんな言い方ないわ!」
ジニョンの拳が僕目掛けて飛んで来ると、僕はわざとボートを揺らして見せた。
案の定、バランスを崩した彼女は、拳よりも先に頭から僕の胸に飛び込んで来た。
そして僕はしてやったりと、彼女をしっかりと抱き取った。

「もう!」 彼女は用意していた拳で柔らかく僕の胸を叩いた。

「ところでジニョン・・・釣った魚は誰がさばくの?」

彼女は甘えたように見上げて僕を指差した。

「やっぱりね・・・」
僕は彼女の首に片腕を回して引き寄せ、軽く締め上げた。

彼女は僕のその腕にしがみつきながら可愛く弾けるように笑っていた。

  本当に幸せだった・・・


「ジニョン・・・おいで・・・」

「ん?・・・」 僕はボートに寝そべって彼女に隣に横になるよう促した。

「見てごらん・・NYのアパートより広く空を仰げる・・・」

「本当だ・・・」

「綺麗だね・・・」

「ええ・・・とっても・・・透けるように青い・・・・・・・・・」
そう言ったまま彼女の言葉が止まってしまったことに、僕は怪訝な顔を彼女に向けた。

「どうかしたの?」

「ううん・・・何となく・・・ 
 この空は何処までも続いてるんだろうなって・・・」

「何処までも?」
「ええ・・・何処までも・・・だって・・空はひとつだもの・・・
 この同じ空の下で・・・私の愛する人たちが 
 生活をしてるわ・・・父や・・・母や・・・あなただって・・・そうでしょ?」

「・・・・・・・」

「心配してる・・・かな・・・」

彼女のぽつりと言った言葉が僕の胸をチクリと刺した。
僕が起き上がり彼女を見下ろすと、彼女は小さく笑いながら寂しそうな瞳を僕に向けた。

「後悔してるの?・・・」

「・・・・・・・」
彼女はそれには何も答えず、僕の後から起き上がると、さっきまでの自分の弱さを
振り払うかのように首を横に振り、微笑みで寂しさを隠したようだった。

「ジニョン・・・もう少し待って・・・ 
 僕が君のご両親に自信を持って会えるまで」

「自信?フランクは十分立派な人じゃない・・・」

「立派?何処が?僕の何処が立派なんだ!
 君は僕の・・・何を知ってる?」

僕は思わず、自分を卑下するかのような言葉を吐きながら、彼女に厳しいまなざしを向けた。
そして直ぐに、そんな自分を省みて思わず視線を伏せた。

「何も知らないわ・・・だって、フランク・・何も教えてくれないもの・・・
 あなたのファミリーネームも・・あなたの生まれたところも・・・
 あなたのご家族のことも・・あなたのお仕事のことも・・・
 私は何も知らないもの・・・でも・・でも・・
 ソフィアさんは知ってるんでしょ?
  あなたのお仕事が凄く大変なことも知ってたわ
 彼女は私よりも・・・うんとあなたのこと知ってる・・・」

彼女ははらはらと涙を頬に伝わらせながら、僕を悲しそうに睨んだ。


「ごめん・・・そんなつもりで言ったんじゃない・・・ 
 お願い・・・泣かないで・・・」

彼女の涙を見るのが辛くて、うつむき加減の彼女の額に自分の額を押し当て目を閉じた。
それでも・・・彼女の頬を伝う涙の音が僕の心に切なく伝わってくる。

「・・・・・・」


「ごめん・・・」


  話さなければならないことは沢山ある・・・

  僕がどういう人間なのか・・・

  君が沢山の愛情を受けて育ったことと
  真逆な人生を送ってきた僕・・・

  君はそれを知っても・・・
  僕を変わらず愛してくれるだろうか・・・

  僕が歩く道を・・・
  君は僕に寄り添い一緒に・・・歩いてくれるだろうか・・・

  そうだね・・・
  君と僕とは生きた世界が違う

  君には僕以外に愛する家族が存在することを
  僕は受け入れなければならない・・・

  それでも・・・ごめん、僕は思ってしまう

  この世の中に・・・君とふたりだけなら・・・

  ここにいるとつい・・・そんな絵空事を望んでしまう・・・

  ただ愛してる・・・それだけでは・・・

  駄目なんだね・・・


     ・・・どんなにいいだろう・・・


  君に隠したこの想いを・・・僕は目を閉じ・・また封じ込めた・・・  



     どんなに・・・いいだろう

     この世の中に・・・     
  
        君と・・・ 


          ・・・ふたりだけなら・・・

 






 




 


2010/04/08 22:06
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-20.さざなみ

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「そろそろ・・・こっちを向いてもらってもいい?」
「・・・・・・」

「キスしたい・・・」
僕が彼女の耳元でそう囁くと、彼女は不意に振り返り僕の首に飛びつくなり
僕の唇に自分の唇を強く押し当てた。

彼女の突然の行為に驚いた僕はその瞬間、不覚にも彼女から手を離してしまったけれど
急いでもう一度彼女を抱きしめ直すと、先を越されてしまった甘いくちづけの主導を
今度は僕が握った。

   確かめ合うかのような甘美で執拗なくちづけが
   息を付かせることさえ許さない愛撫の繰り返しが
   逢いたかった激しい思いを互いへ訴えると
   恋人達は逢えなかった時間を取り戻していく

その狂おしいほどの自分の感情をなだめた後で僕はやっと、彼女を解放した。
そして潤んだ眼差しで見上げる彼女の髪を撫でながら、その濡れた唇に誘われて、
また、何度も何度も小さいキスを繰り返えした。

 
   逢いたかった・・・ジニョン・・・


   触れたかった・・・ジニョン・・・


   呼びたかった・・・


「ジニョン・・・・・・・・
 ねぇ・・本当のことを言ってごらん・・寂しかっただろ?」

僕は彼女を抱きしめたまま、彼女の髪を愛しげに梳きながらそう言った。

「いいえ・・少しも・・・」

「本当に?」

「・・・言わない。・・・悔しいから・・・」

彼女は僕の背中に回した両手で僕の服を握り締めながら口を小さく尖らせた。

「悔しいから?・・・それって・・寂しかったって
 言ってることじゃない」

「・・・・・・・」

「いいから素直に言ってごらん?・・・寂しかったって・・・」


「・・・・・・・言わない。」

「強情だな」


「あなたこそ・・・
 どうして、そんなにしつこく言わせたがるの?」

「寂しかったから。」 僕は即座にそう答えた。


「・・・・」

「僕が寂しかったから・・・
 君の“寂しかった”をいっぱい聞きたい」


「フランク・・」

「ん?」


「・・・・・寂しかった・・・すごく寂しかった・・・
 死ぬほど寂しかった・・・
 寂しくて寂しくて・・・いつもベッドの中で泣いてた・・・
 あなたの・・・声が聞きたくて・・・
 寝る前に目を閉じて、あなたの“愛してる”を思い出してた
 逢いたくて・・逢いたくて・・・こうして・・・
 あなたの顔を・・・この目を・・・この唇を・・・思い出してた・・・」

そう言いながら彼女は目を閉じて僕の顔に細い指を這わせた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

僕は彼女の瞳を熱く見つめながら、僕の顔に触れた彼女の細い指先一本一本に
丁寧にキスをした。

そして僕達は、しばらくの間言葉もないまま、ただ強く抱きしめ合っていた。


「・・・行こうか・・・」

「え?・・・」

「このままこうしていても・・・いいけどね・・・
 もっと他のことをしたくなった・・・」

彼女を見つめた僕の瞳の中にその意味を見つけた彼女が頬を赤く染めた。

僕はそんな彼女を愛しく思いながら手を取ると、ソフィアの部屋とは反対の方角へと進んだ。

「待って・・・行くって?・・・ソフィアさんが・・・」

「いいんだ」

「いいって・・・ビネガー待ってる・・」

「待ってないよ・・・」

「・・・・・?」

「ソフィアがそうしろと言ったんだ」


      《迎えに来ないで・・・フランク・・・》


「・・・・・でも・・・何処に行くの?」

「僕たちの家・・・」

「・・・・・?」

「いいから・・・おいで・・・」

僕は握ったジニョンの手を更に強く握り締めると、道路の向こうに止めてあった車に急いだ。

 


    迎えに来ないで・・・フランク


ジニョンさんと過ごしたこの三日間は意外とシンプルだったわフランク。

   本当はね

   彼女のこと・・・もっと憎らしく思うのかと思ってた

   でも・・・何故か彼女と一緒にいると・・・

   穏やかな気持ちになっていく自分に驚いたわ

   不思議な子ね・・・あの子・・・

   
   フランク・・・
   
   あなたも苦しんだのね・・・


   でももう戻りましょう

   私達にこんなのは似合わない


   私はいつもの私に・・・

   あなたもいつものあなたに・・・


   ひとつだけ・・・

   戻れないことはあるけれど・・・

   それでも・・・あなたを失うよりは・・・

   絶えられそうな気がする・・・


   あなたの辛そうな目は・・・


   いつまで経っても・・・苦手なのよ・・・私・・・

 

 

  ルルルーー♪  
 

「ハロー・・・」

「ソフィア?」

「リチャード?・・・何してるの?」

「何してるって?・・・」

「だって、あなた・・今頃はNYで・・」

「ああ・・コンサートのこと?あれは・・・
 ある女に断られた時点で、既に消滅・・・」

「消滅?」

「破って捨てたってこと・・・」

「まあ、もったいないことするのね・・・あれプラチナ・チケット・・・よ」

「僕にとってはその女と行けなければゴミ同然・・・」

「・・・・・・」

「どう?」

「どう?って?」

「少しは感動した?」

「・・・・あなたって・・・変な人・・・」

「それは褒め言葉と取ってもいい?・・・」 

「・・・リチャード・・・ところで・・ご用は何?」
  
「ああ、僕の声を聞きたいんじゃないかと思って」

「フフ・・・何の冗談?・・」

「・・・聞きたかっただろ?」

「リチャード・・」  
 
「実際思ってなかった?ああ、そういえば今日はまだ・・・
 彼の声を聞いてなかったなって・・ね」

「・・・・・・」

「毎日聞いていた声が聞こえないと・・・妙な気分になる・・・」

「リチャード・・・」

「だから僕は・・・こうして君に毎日電話してる・・・」

「・・・強引な人は好きじゃないわ・・・」

「食事でもどう?・・・迎えに行く・・・」

「・・・悪いけど・・・切るわ」

「・・・会いたい・・・」

「ごめんなさい・・・じゃあ・・・」

「・・・・・」
 
 ピンポーン♪

 

   ・・・・・強引な人は嫌いだと言ったでしょ?

 
   でもまだ・・・電話・・・切ってないね・・・

 

 



僕はレオに頼んでNY郊外に人里離れた小さな家を探してもらった。


    『どうして、家なんかを?』


    理由がないといけないか?


    『いや・・・しかしボス・・これから俺達は嫌でも忙しくなる
     そうなると殆どホテル住まいが多くなるぞ』


    ・・・・・・


    『ま、いい・・・ご希望の物件当たってみるさ・・・』


   

       

「この辺のはずなんだ・・・」

「暗いのね・・・まるで森の中みたい」

「家の周りに灯りを灯してくれることになってるんだけど・・・
 あ・・あった・・・あそこだ・・・」

「何だか怖いわ」

「大丈夫・・・僕が付いてる」

「ええ・・・」

レオが用意してくれた家は白いカントリーハウスだった。
それはジニョンが表現した通り森のような樹木に覆われていた。

見渡す限り隣家と思しき建物ひとつ見当たらず、闇の夜に浮かんで見えるのは
白っぽい小さな家とそれを照らすひとつの灯りと妖しげな朧月だけだった。

玄関を入ると、右手にしゃれたダイニングキッチン、左手にはソファーやテーブル、
キャビネットが白い布で覆われたまま僕たちを出迎えた。

そしてその奥に白い壁で半分仕切られただけのベッドルームが見える
大きなワンルームタイプの間取りになっていた。

 

「気に入った?」

「え?・・・」

「気に入らないの?」

「そんなことないわ・・・素敵なお家」

「ここが僕たちの新しい家・・・さあ・・布を外そう・・・」

「え?・・ええ・・・」

僕はふたりの新しい生活の幕開けに白布を大きな音を立てて勢いよく取り除いた。
中からは小ぶりながらもセンスのいい家具が現れ僕は満足だった。

しかし、僕の後に続いて外した布を片付けるジニョンの、少し元気の無い様子が
気になってしかたなかった。

「 ジニョン! 」 僕は彼女に不意にクッションを投げつけてふざけて見せた。

彼女は一瞬驚いてそれを受け損なってしまったけれど、直ぐに僕の行動に反応して、
僕以上の攻撃を仕掛けてきた。


いつもの明るい・・子供みたいなジニョン・・・

それなのに彼女の不安げな憂い顔が僕の心にさざなみを立てる。 

 

   ジニョン・・・何がそんなに不安なんだい?・・・

   僕との生活が?・・・

   韓国のご両親のことが心配なんだね

   ジョルジュというあいつのことも・・・


   ジニョン・・・僕は・・・君の

   その手を掴んで来てしまったこと・・決して後悔はしていない・・・

   でも・・・君のその・・・

   瞳の中の憂いを僕はどう受け止めればいいんだろう


   ジニョン・・・

   どうか僕に・・・君のくったくのない笑顔だけをくれないか・・・

          


僕たちはその夜、いつの間にかベッドに倒れ込むように眠ってしまった。
僕はこの数日ろくに寝ていなかったこともあって珍しく熟睡していた。


薄く射し込んだ光彩に揺り起こされて目覚めると、ジニョンは僕に体を添わたまま
まだ深い眠りの中だった。


しばらくの間、彼女の寝顔を見つめながら、僕は昨日までのことを思い起こしていた。


   自分達に降りかかった現実と・・・


   まだ見えないふたりの未来・・・


今までは僕に想像できないものなど存在しなかった
それなのに・・・彼女との未来が見えてこない・・・


ただはっきりしていることは・・・


   僕がもう彼女を失えない・・・

   そのことだけだ・・・

 

僕はその自分の決心だけを信じて生きようと思った・・・
彼女さえそばにいてくれれば・・・何もいらない・・・


そして僕は彼女の額にそっとキスをしてベッドから起き上がると、窓辺に向かい、
朝日が薄く差し込むカーテンを開けて、まばゆいばかりの光をジニョンの眠るベッドに採り込んだ。


「ジニョン!起きて!ジニョン!」

「んっ?・・・ん・・・」

「来てごらん・・・湖だ・・・朝日が反射して綺麗だよ」

僕の誘いにまだ眠気まなこの彼女がベッドを降りて窓辺に近づいた。

「うわー本当ね・・・凄く綺麗!」

昨夜の彼女の不安げな顔が、湖畔に映る朝焼けを前に輝きを取り戻したように見えた。

「ジニョン・・・朝食を作ろう・・・」

「材料は?」

「少しは用意してもらってる・・・あとで買い物にも行こう
 足りないもの、調べないといけないね・・・」

「ええ」

僕に向けた彼女の笑顔はいつもの明るいジニョンだった。


   どうしたんだろう・・・僕は・・・昨日から

   何故か彼女の笑顔を探しては、その都度胸をなでおろしている


「ジニョン・・・これから・・・
 ふたりで色んなことをしよう・・・」

「色んなこと?」

「ああ・・・ふたりで映画を観たり・・・
 ミュージカルを観たり・・・
 素敵なレストランで食事をするのもいい・・・

 あの湖畔にボートを浮かべるのもいいね・・・

 とにかく・・・
 君がやりたいことは何でも言ってごらん?
 君の言うことなら、何でも叶えてあげる

 ふたりで沢山のことを経験して・・・君と・・・
 幸せを描いていきたい・・・」

「ええ・・・」

僕はジニョンの背中を自分の胸に抱いて窓辺に少し体を預けた。

しかし、湖畔に向けたままの彼女の表情を僕は覗かなかった。

胸の中のざわめきが彼女の心の奥深くを僕に覗かせなかった。

それでも、水面にきらめく神秘な光華が僕の心を少しだけ慰めてくれていた。


   フランク・・・大丈夫だ・・・


      彼女はきっと・・・

 


      ・・・お前の元で笑ってくれる・・・


 




    

 





 


 


2010/04/06 11:03
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-19.抱擁

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「そんなに睨まないでくれる?」

「えっ?」

「さっきから、あなたの視線が痛いわ」

ソフィアさんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら私は、自分でも気づかない内に
ずっと彼女を凝視していたようだった。

「あ・・ごめんなさい・・・そんなつもりじゃ・・・」

「・・・何か付いてる?私の顔・・・」

「あ・・・・いえ・・あの・・お肌が・・・綺麗だなって」

「ふふ・・ありがとう・・・・・?」

ソフィアさんは私の慌てぶりに少しばかり苦笑しながら視線を下ろした。

「・・・・・・」

「申し訳ありません・・・あの・・私みたいな・・・」

私はまだ彼女とどんな話しをすればいいのかもわからず、自分の身も何処に
置いていいものなのかすらわからない中途半端な心境だった。

奇妙なことに、そんな中で彼女を目で追うことが唯一冷静を保つ手段だった。

「誤解のないように言っておくわ・・・
 あなたを預かったのは私にとっても得策と思ったからよ・・・
 私はね・・・学校を出たら弁護士になる予定なの・・・
 彼が成功しているということは大きなコネクションにも繋がる

 つまり今後の私自身の仕事にも関わるということ・・・それだけのことよ・・・
 だから、あなたが恐縮する必要は何も無い。・・・いい?」

彼女はそう言って、先ほどまでの温和な表情を少し険しく変えた。

「あ・・・は・・い」

「そうだわ・・・お腹すいたでしょ?
 少し遅くなったけど・・・何か作るわね・・・」

そしてまた、元の温和な彼女に戻って、キッチンへと向かった。

「あの・・お構いなく・・・」

口ではそう言いながら、悲しいことに自然現象には勝てなかった。
お腹が小さく鳴る音を彼女に聞かれて、私は気まずく照れ笑いを浮かべた。
彼女は“クスッ”と優しい笑みを返してくれた。

  こんな時・・・食べ物が喉を通らない・・・

  そんな女だったら・・・カッコいいのにな・・・  

ソフィアさんが「有り合わせね」と言いながら振舞ってくれた料理は想像以上に美味しくて
食事を摂りながらの彼女との会話もまるで私を緊張させない心遣いに溢れていた。

彼女の所作ひとつひとつが優雅で上品で、この世の中にこんな女性がいるのかと
本気で思え、何故か悔しかった。

事実、今日一日彼女に付いて歩いただけで、どれほど彼女が優秀で人望が厚く
完璧と言える女性であることを思い知らされた。


   フランク・・・やっぱり・・・この人と残るんじゃなかったな・・・

   彼女のそばにいるとひどく自己嫌悪に陥りそうよ・・・


   あなたとソフィアさんて・・・

   似合い過ぎるくらい・・・似合ってる・・・

 

「シャワーどうぞ・・・疲れたでしょ?これに着替えて・・・
 もう休むといいわ・・・そっちのベッド・・・使ってね」

彼女は自分の部屋着を私に差し出してそう言った。

とても几帳面にベッドメイクされた少し大きめのベッドは、その上に落ち着きのある
色調のスプレッドが掛けられ、住まう人のセンスを覗わせるものだった。

「あ・・でも・・・ソフィアさんは・・・」

「私はここでいいの・・・まだ、やりたいこともあるし」

そう言って彼女は腰掛けている椅子に視線を流した。

「でも・・それじゃ、あまりに窮屈・・・申し訳ないです」

ラブチェアー程の長さしかないその椅子はとても休むのに使えるとは思えなかった。

彼女はもう一度その椅子を眺めた後、私に振り返った。

「・・・確かに・・そうね・・・じゃあ、一緒に・・いい?」

そしてベッドを指差してウインクしながらそう言った。

「あ・・はい・・・」

改めて見渡すと、何もかもが洗練され落ち着いたレイアウトの彼女の部屋が
どことなくフランクの部屋に似ているような気がして私は思わず視線を落とした。


バスタブの柔らかいソープに身を包まれながら、今自分の身に起きていることの重大さに
おののくことよりも、ソフィアさんの存在が大きくのしかかってくることの方が切なかった。

   ソープの香りが・・・彼女の香りと同じ

   そして・・・何より・・・

   フランクが好きそうな・・・香り・・・


心地よいはずのこの香りさえもひどく私を動揺させた。



「もしかして・・・気にしてるのかな?」

お風呂から出て、私がベッドの傍らで立ち尽くしていると、背後から彼女が声を掛けた。

「えっ?」

「フランクはここには来たことないのよ・・・」 彼女は微笑みながらそう言った。

「あ・・いえ・・そんなこと・・・」

「気になってたでしょ?・・フランクが好きそうな部屋だなって・・・」

「いいえ・・そんな・・」


   ≪気になっていた・・・≫

       
「フランクとは・・・何処で?・・・あ・・ごめんなさい・・・」

自分の意思に反してつい口にしてしまったというように、ソフィアさんは一瞬後悔の色を
顔に浮かべた。でも私はきっと、彼女のその問いかけを待っていた。

「助けてもらったんです・・・不良に絡まれてるところを」

「へ~らしくないわね・・・余程あなたに惹かれたのかな」

「いいえ、私が追いかけました・・ごめんなさい
 あなたという方がいらっしゃることも聞いていました・・
 彼ははっきり、恋人がいる・・邪魔をするな、そう言いました、
 でも私が無理やり・・追いかけたんです」

私はつい早口になっている自分に気づきながらも、勝手に動く自分の口を止められなかった。
「だから、あの人は悪くないんです・・・私が・・・
 凄く好きになって・・・しつこく付きまといました」

「そんなに・・・必死に庇うことはないわ・・・」 彼女は驚いたような顔をして、笑った。

「でも・・・本当のことです」

「じゃあ、あなたが私から彼を横取りしたの?」

冗談のような口調とは裏腹に、彼女は私に少し厳しいまなざしを向けていた。

「えっ?・・」

「例え、あなたが無理やり彼を追ったところで・・・
 彼は誰にでも簡単に心を許したりしない男よ・・わかってるでしょ?」

「・・・・・・」

「私が愛した男を・・そんな簡単な男だと言って欲しくないわ」

「あ・・・」

「ふふ・・冗談よ・・・そんなに怖がらないで?

 こうは思えない?
 あなたたちが出逢ったのはある意味必然で・・・
 あなたでなければならなかった・・・」

その言い方はまるで、ソフィアさんが自分自身に言い聞かせているように聞こえた。

「フランクの・・・何処が好き?」

「えっ?」

「フランクって・・・ぶっきらぼうで・・・一見、決して優しいとは言えないわ・・・
 そんなフランクの何処に惹かれたのかしら・・・」

「・・・・・・考えたこと・・・ありません・・・
 初めて逢った日から・・・あの人のことが頭から・・・
 いいえ・・心から離れなくて・・・必死に探したんです・・・
 何処の誰かもわからなかった・・・知っていたのは・・・
 フランクという名前だけ・・・でも・・・
 きっと逢えるはずだと信じてました・・・」

「信じてた?・・・どうして・・・信じられたと思う?」

「それもわかりません・・・」

「わかりません・・・か・・・」

「フフ・・・」

「な~に?」

「フランクにもよく、“また・・わかりません・・・か・・”って・・・」

「そう・・・でも、好きになるのに理由なんてないわよね
 “こんなところが好きです”と言われるより・・・ずっとここに伝わるわ・・・」

彼女は自分の胸に掌を当てて、そう言いながらにっこり笑った。

「・・・・・」 私はその時、この人の大きさを心に感じた。

「私のことを・・・何処までご存知?」

「大切な人だと・・・」

「フランクが・・・そう言ったの?・・・あなたに?」 彼女は目を丸くして言った。

「はい・・・」

「ばかね・・・・女心がひとつもわかってないのね・・・」

私は彼女のフランクを非難するような言葉の中にも、彼への愛を感じて切なかった。

「気になる?私のこと・・・」

「あ・・・いいえ・・・」

    ≪本当は凄く・・・気になります・・・≫

「愛されている・・・自信かな?」

「あ・・いいえ!」

「冗談よ・・・ごめんなさい・・・ちょっといじわる言ってみただけ・・・
 フフ・・・心配することないわ・・・私は・・彼にとって家族のようなものよ
 大切というのは・・・そういう意味・・・
 あなたにも大切な家族・・・いるでしょ?」

「本当に・・・そうでしょうか・・・」

「自信がないの?」

「彼はあなたを愛してると思います・・・
 あなたも・・・あなたは・・・どれほど彼を愛してきたんでしょう・・・
 そして今でも・・・
 私はあなたの・・・彼への愛に敵うことができますか?」

私は不躾と知りながら、偽らない本心を彼女にぶつけていた。

「私の・・・彼への愛に?・・・・」

「・・・・・・」

「それは・・・無理だわ・・・」 彼女は凛とした顔でそう答えた。

「・・・・・・」

「私の心は・・・私だけのものだもの・・・
 あなたの心も・・・あなただけのもの・・・ねぇ、思わない?

 人を思う心を・・どちらが勝っていて・・・どちらが劣ってる・・・
 そんなこと・・・どうやって計れるかしら・・・」
それは彼女が、彼女自身の彼への想いがどれ程に大きいのかを私に告げていた。

「・・・・・・」

「ただ・・・彼が必要としたのが私ではなく・・・
 あなただった・・・それだけのことよ・・・」

「・・・・・・・」

「男と女はね・・・
 神様に生を受ける前はひとつの体だったんですって・・・

 神はそれをわざと引き裂いて・・・この世に遣わした

 引き裂かれたそのふたつの体は何とかひとつの体に戻りたくて
 もうひとつの体を無意識に探すの・・・
 そして・・・惹き合い・・・愛し合う・・・

 でもね・・・誰もかれもがその引き裂かれた体と巡り会う訳じゃないわ
 だから世の中には上手くいかないカップルもいる

 その代わり・・・本当に引き裂かれたふたつの体なら・・・
 まるで磁石のように引きあい離れないはずよ・・・」

「・・・・・・」

「フフ・・・昔母にね・・・教わったの
 “あなたも・・・その半身に巡り会うといいわね”って・・・」

「半・・身・・・」

「そう・・・半身・・・あなたたちがもしそうなら・・・」

彼女はそう言ってしばらく言葉を呑みこみ、繋げなかった。

      あなたたちがもしそうなら・・・


彼女はその後にどんな言葉を繋げたかったのだろう。

「・・・・・・」
「ひとつだけ・・・お願いしてもいい?」

「・・・・・・?」

「彼を・・・フランクを・・・いつも・・・抱きしめてやって・・・
 心が壊れないように・・・いつも・・抱きしめてやって・・・

 フランクの心はガラスみたいで・・・あなたよりも・・・うんと子供で・・・
 誰かが抱いていてやらないと・・・
 いいえ・・・あなたが・・抱いていてやらないと・・・
 きっと簡単に砕け散るわ・・・」

「・・・・・・・・どうして・・・」

「・・・・・・?」

「どうしてあなたは・・・そんなに・・・」

「そんなに?」

「いいえ・・・何でも・・・ありません・・・」


   ≪どうして、そんなに彼のことがわかるんですか?≫


そう言いかけて私は口を噤んだ。聞いてしまったところで・・・どうすると言うの?

聞いてしまったところで、ソフィアさんがフランクをどれだけ愛しているのかを
思い知るだけ。
  
   ≪きっとそう≫


   ソフィアさん・・・
   私はあなたのように大人ではありません・・・


   あなたのことが気にならないなんて・・・嘘・・・
   あなたを・・・大切な人だという・・・フランクの心が・・・
   まだ胸の奥に突き刺さっていて・・・凄く・・・苦しいんです・・・


   あなたたちが半身同士なら・・・
   あなたのその先の言葉を訊ねなかったのは・・・

   もしかして・・・フランクの半身が・・・
   私ではなく・・・本当はあなたではないのか・・・

   そんな自分の思いを恐れたからです・・・

 


 

 

俺はまず、韓国のジニョンの父親に帰国の延期を連絡しなければならなかった。
もちろん・・・あいつに彼女を連れて行かれたなどとは言えない。

ジニョンは誤解していたが、俺は親父さんにあいつのことを一切話していなかった。
そんなことを話でもしたら、親父さんは直ぐに飛んで来ただろう。

家出同然に国を出ていた俺自身が心を入れ替え帰国を決意したことを理由に、
親父さんにジニョンの帰国を提言した。
もともとジニョンの留学に乗り気ではなかった親父さんは直ぐに同意してくれた。

とにかく、今回のことは上手く理由をつけて、親父さんに当面の帰国延期を
納得してもらうしかない。


あいつのアパートを俺が知っていることはジニョンも知っているはず。
だからきっとそこにはいないだろう。しかし、今の俺にはそこしか手掛かりは無かった。

翌日、あいつはひとりでアパートに戻ってきた。≪ジニョンは?≫

   ジニョンを・・・何処へ?

俺はしばらく奴の行動を追うしかなかった。

 


レオと待ち合わせたホテルのロビーで彼を見かけた。アパートから僕をつけているのは
わかっていた。
僕は彼に気づかない振りをしながら、今はとにかく急ぎの仕事に集中した。

「ボス・・・流石だな・・・昨日一晩でよくこれだけの準備を・・・
 またこれで・・俺たちの勝利は確実だ」 レオはホッとしたようにそう言った。

「待たせて・・・済まなかった・・・」

「実際のところ、お前を信じてもいいんだろうか・・今回は本当にそう思ったぞ。
 ボス・・しかし、これで何んとか上手く切り抜けられそうだ・・
 やはり、俺の目に狂いは無かったな」 レオがそう言って笑顔を向けた。

「・・・・・・」

「だが・・・これから先も上手く行くとは思うなよ・・・
 お前の実力は今、この業界でも認知されつつある・・・
 出過ぎる杭は打たれるのが常・・・もちろん・・・
 闇に潜む黒幕たちとねんごろにやっていくというなら、話は別だがな・・・
 それなら、奴らもお前を歓迎するだろうよ」

「どういう意味だ」

「どういう意味かは・・・自分で考えろ・・・
 俺はお前のするように動く・・・それはこれまでと同じだ
 ただひとつ・・・覚えておいてくれ・・・
 お前に信用が持てなくなったら・・・もしそうなったら・・・
 俺はあっさりとお前を切り離す・・・いいな。」

「・・・・・・」

   出る杭は打たれる・・・

そんなこと・・・今までにも何度も経験してきた・・・


   やれるものならやれ・・・

僕にはどんなものにも負けない自信があった。
僕の周りに潜む闇がどんなものであるかは想像はつく


「ところで・・・今度の利益もいつものように投資に?」

「いや・・・今回は少し使いたいことがある」

「・・・・・・」

しかし・・・僕は必ずこの世界で頂点に立つ・・・
その決意は変わっていない・・・


  心配するな・・・レオ・・・


  僕の歩く途は・・・誰であろうと・・・


  絶対に邪魔はさせない・・・

 

 


   

「あ・・いけない・・・買い忘れたわ・・・
 ジニョンさん・・・悪いけど、ビネガーを・・・買って来てくださらない?」

「あ・・はい・・・」

ソフィアさんの部屋にお世話になって五日目、フランクからの連絡がこの二日なくて、
私は少し心細くなっていた。
それでも彼女は、学校へも必ず私を連れ立って、レポート作りや資料作りなどを
手伝わせてくれたり、私が気が紛れるようにとの配慮を惜しまなかった。


      彼女はやはり凄い人だと思う


彼女との時間は互いの微妙な関係をも忘れさせてくれるほど、楽しかった。
もしもフランクとのことがなければ、私はこの人と親しい関係になれたかもしれない、
そんなことを思っていた。
一緒に映画を見たり・・・食事に行ったり・・・買い物をしたり・・・
この人になら、何でも打ち明けられそうな気がした。

     でも・・・そんなこと・・・許されるわけがない

彼女の立ち居振る舞いを目で追いながら、自分のそんな感情が余りに身勝手であることを
私は寂しい思いを感じながらも、恥じていた。

「何?」 
私の沈黙の中にあった熱い視線に彼女は不思議そうに首を傾げ、笑顔を向けた。

「いえ・・何でもありません・・・それと同じものでいいんですね」

私は彼女が手にしたビネガーの瓶を指差して言った。

「ええ・・気をつけてね・・・外暗くなってるから・・・」

「はい」

私は彼女の部屋を出て、歩いて5分程のストアに向かった。
そこは彼女の知り合いが経営していて、私が彼女に唯一ひとりで行動することを
許された場所だった。

ソフィアさんに頼まれたビネガーだけをレジに運んで精算をすると、足早にそこを後にした。

その瞬間、私と同時に闇を動く人影が視覚に入ってきた。
いつも外出する時は気をつけるように彼女に言われていた。


      付けられてる?
      いいえ・・・気のせいかもしれない

私は小走りにソフィアさんの部屋へと急いだ。
しかしその影も私の速度に合わせたように動きを速めた。


      やっぱり・・・付けられてる

目の前にソフィアさんのアパートが見えてホッとして、更に速度を速めたとたん、
私はその影に背後から腕を掴まれ細い路地に引き込まれてしまった。

「 きゃー! うっ!」

悲鳴をあげた瞬間、私は口を塞がれ驚愕した。手から離れたビネガーのビンが
地面に叩きつけられ、割れて砕ける音が更に私の緊張と恐怖を煽った。

「うっ!うっ!・・」

私は必死にもがいたけれど、強い力で封じ込められた体は自由を妨げられ
ただ足だけを小さくばたつかせるしかなかった。

「シー」

その時、私の耳元に聞き慣れた低く響く音が届いた。

「うっ・・うっ・・」 でも口を塞いだその手はまだそのままだった。

「ごめん・・・そんなに驚くとは思わなかったんだ・・・
 いい?離すよ・・・もう叫ばないで」 その声がそう言った。

私はその大きな手が口から離れた後も、後ろを振り向くことはできなかった。
余りの驚きと安堵が入り混じって大きく息を吐きながら、体が脱力し屈み込みそうになった。

そんな私の体を、背後の大きな腕はまるで救い上げるように抱きしめた。
私はしばらく言葉もなく、その力強く優しい抱擁にただ身を任せていた。

 

     ・・・フランク・・・




 「・・・・待たせてごめん・・・心細かっただろ?」

彼女は無言のまま頭を左右に振った。

 

      フランク・・・本当はね・・・

      うんと・・・寂しかったわ・・・

彼女の仕草と裏腹の感情を、僕の腕を抱きしめた彼女の手の震えが教えてくれた。

「ごめん・・・これでも・・・急いだんだ・・・」

僕はしばらく彼女の背中を抱きしめたまま、彼女の体温を自分の冷えた胸に移して
少し疲れた心を温めていた。
 

  あぁ・・・

  こうして抱いていると・・・このまま君が・・・

  僕の胸の中に溶けていってしまいそうだ・・・

  ジニョン・・・もっと・・・もっと強く・・・

  抱きしめてもいいかい?・・・

  この小さな肩を・・・

  壊してしまいそうなほど君が・・・

 

    君が・・・


                          
       ・・・恋しかった・・・

 










 









 


 


2010/04/04 23:32
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-18.逃避行

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空港を後にした車の中で僕たちはしばらく無言だった。

この二日間に・・・
僕が自分自身に打ちのめされていた間に、彼女の身に起こっていたことを思って
身が切られる思いだった。

本当に失えないたったひとつのものを、実際に失うところまで来て僕はやっと自分の心に
決着をつけることができたというのだろうか。

しかし今はまだ・・・この想いを言葉に出して彼女に告げることを躊躇する自分がいた。

それは・・・まだ僕の奥底に潜むソフィアへの想いなのか・・・
それでも、僕は彼女の手をしっかりと握って離さなかった。

「怒ってるの?」

僕が前方を見据えたように黙したままハンドルを握っていると、彼女が恐る恐る
僕の顔を覗きながら声を掛けた。

「・・・・・」

「手・・・痛い・・・それに・・・フランク・・・怖い顔してる・・・」

「・・・・・」

「やっぱり・・怒ってるのね・・あなたに黙って帰国しようとしたから?」
「・・・・・」

「でも、あなただって。・・・その・・・連絡もくれなかったし・・・
 それに・・・きゃー!」
僕は突然、車を乱暴に路肩に移動すると、急ブレーキをかけ止めた。

「びっくりした・・・フランク・・・どうしたの?危ないじゃない!」
「・・・・・」

「フランク?・・・」
「・・・・・・愛なんて・・・」 僕は相変わらず、彼女から視線を外したままだった。
「・・・・?」
「愛なんて・・・邪魔なだけだ・・・そう思ってた・・いつも・・
 そう思ってた・・・」
「・・・・・」

「これから僕は・・・世の中を這い上がっていかなきゃならない・・・
 愛だの恋だのと、生ぬるいことに囚われてる暇なんて無い・・・
 そう思ってた・・・
 それなのに・・・その僕が・・・今何処か・・可笑しくなってる・・・
 とても本当の自分とは思えない・・・

 自分自身をコントロールできないなんて・・・どうかしてるんだ・・それって・・ 
 それって・・みんな・・・
 君のせいだ。・・・・すべて君のせいだ・・
 君のせいで・・・ 僕はまるで可笑しくなってしまった・・・」

「私が・・いない方がいいってこと?」
彼女の声は怒ったように、少し震えていた。しかし僕はその声を無視して続けた。

「・・・君さえいなければ・・・こんな苦しい想いをせずに済んだんだ・・・
 人の気持ちなんて・・・僕には何ら関わり知らぬこと・・・
 ただ仕事のことだけを考えて・・・ただ・・上に上り詰めることだけを考えて・・・
 世の中なんて楽に渡れたはずだった・・・」

「じゃあ・・迎えに来なきゃよかったじゃない」 彼女が不満を露に目に力を入れた。

「君さえ現れなかったら・・・」 それまで正面を見据えていた僕は彼女に向き直って続けた。
「君からの電話を受けてから・・・さっき、空港で君を見つけるまで
 僕がどれほど心配したか・・・わかる?

 君が遠くへ行ってしまうと思って・・・狂いそうだった・・・
 本当に・・・死ぬかと想うくらい心臓が張り裂けそうだった・・・

 君が・・僕の前からいなくなることが・・どれほど僕を恐怖に陥れることになるのか・・・
 君はきっと・・想像もできないんだろうね?・・・」 

僕はそう言って、彼女の目を更に強く睨んだ。

「・・・・・・」

「どうするつもりだったんだ?」

「・・・・・・」

「もし・・・あのまま、韓国へ戻ってしまって・・僕に何も言わずに戻ってしまって・・
 ・・・あのまま・・・はぐれてしまってたら・・・僕は・・・
 どうやって・・・君を・・見つければ・・・」 

        フランクはそう言ったまま・・・

        深く澄んだ褐色の瞳の端から一筋の涙を落とした

「フランク・・・」

「・・・・・・」

「フランク・・・ごめんなさい・・・もう・・しないわ・・・もうこんなこと・・しない・・・」

        今 私の目の前で涙を流すこの愛しい人は・・・
        私の・・・私だけの・・・フランク・・・
        そうよね・・・

        あなたを信じて・・・いいのね?・・・

        私は彼の頬に掌を添えて・・・指でその涙を拭いた

        彼は私の手を自分の手で包みこむと

        涙を拭った私の指にそっとくちづけをくれた

「ごめんよ・・ごめん・・君の方が辛かったのに・・・
 君のこと・・ずっと・・・ごめん・・・」 
僕は自分が何を言いたいのかわからなかった。言いたいことが言葉に現せなかった。

                         

「ひとつだけ・・・聞いてもいい?フランク・・・」
「・・・・・・」

「彼女のこと・・・」  
「・・・・・・」          
「・・・・・・・私・・・あの人に会って・・・凄くショックだった・・・
 いいえ・・・あの人の存在がショックだったんじゃないの・・・

 でも私・・・あの人に初めて会ったあの日・・・
 あの人の目に・・・簡単に射抜かれたみたいで・・・
 まるで逃げるように部屋を駆け出した・・・

 あの人のあなたを想う気持ちがきっと・・私にそうさせたんだと思う・・・
 私は・・・あの時・・あの人に簡単に打ちのめされて・・
 降参したんだわ・・・きっと・・・」

「それで?」

「えっ?」

「それで・・・降参したまま・・・逃げようとしたの?」

「・・・・・・・そう・・・なのかな・・・」

「彼女は・・・ソフィアは・・・僕にとって大切な人だ・・・」

「・・・・・・・」
僕がそう言った時の彼女の目は今にも泣きそうな程だった。

「そんな顔しないで・・・ジニョン・・・
 ごめん・・・きっとこの想いはこれからも変わらない・・・

 今更この感情が・・男と女としてじゃない、と言ったら卑怯かもしれない・・・

 彼女が僕を深く愛してくれていることも・・・
 その彼女の想いを僕が断ち切れず悩んだことも・・・事実・・・
 僕は彼女にあらゆる意味で愛を求めていた・・・それも事実だ

 でも今・・・
 どんなに考えても・・・どんなに悩み抜いても・・・
 僕の中に息づいている女はたったひとりだった・・・

 ただひとりだけなんだ・・・僕が愛している女は。」

「・・・・・・・ただひとり?・・それは・・誰?」
彼女の涙が少しずつ渇き、僕へ向ける眼差しに、微かな余裕が見えた。
僕を信じる余裕が生まれていた。

「・・・・・・・教えない。」
僕は込み上げた涙をすすり上げて、タダひと言そう言った。

彼女は呆れたような笑顔で一度フロントガラスの方を向いて、再度僕に向き直り
小さく睨んだ。 「フランク・・・」

この時僕たちは、互いの瞳の中に映る自分の微笑みに満足していた。
だからこそ、優しく愛しさを込めて抱き合い、互いを慰めることができた。

「愛してると言って・・・」 ジニョンが大人びた口調でそう言った。

「愛してる・・・」 僕はそんな彼女に真摯に答えた。

「君だけだと・・・言って・・・」

「君だけだ・・・」      

     だったら・・・

     だったら・・・いいわ・・・あの人があなたの大切な人でも・・・  

     本当はね・・ちくりと胸が痛いけど・・・許してあげる・・・

「私も・・・」

「ん?」

「私も・・・愛してる人はひとりだけ・・・」

「・・・それは・・・誰?」

「・・・・・・教えない・・・」

「いいよ・・・教えてくれなくても・・・」

       彼はそう言いながら私の唇に静かにくちづけて

       私の言葉を心で聞いた

       静かに流れるこの時間(とき)を・・・

       ふたりだけで漂っていたかった・・・


       いつまでも漂っていたかった・・・


   君だけを・・・      あなただけを・・・


        ・・・愛してる・・・

 

 

あいつの前から彼女を連れ去ったことが何を意味するのか、これから僕は彼女の為に
何をしなければならないのか。

・・・ただ・・・
彼女を自分から切り離すことはもうできない。
    

彼女の話から、このまま彼女を僕のアパートに連れ帰ってもあいつに、簡単に
探し当てられてしまうだろう。

  今はまだ・・・僕には何も無い・・・

  何より韓国の彼女の身内に語れる歴史が無い・・・
  それはジニョンを愛する人達にとって、きっと重大なことだろう

僕は自分の断たれた歴史を一笑に付すような、名声と地位と財産を手に入れたいと
今まで以上にそう思った。


彼女との愛を成就するために成さなければならないことがある。今は、それだけが
僕の成すべきことだと、そう思っていた。

 

僕は取り敢えず、彼女をマサチューセッツの学校へ連れて行った。

夜遅く着いた時、校舎にはまばらに灯りが灯っているだけだった。僕は迷わず
自分の研究室に向かった。部屋に入ると、彼女は周囲を見回して言った。

「ここが・・・フランクがお勉強してるところ?」

「ああ・・・」

「ここ・・・さっき、門のところに、ハーバードって・・・
 もしかして・・・あの、ハーバード?・・・」

「あの?・・ハハ・・確かここは世界にひとつだと思うよ」

「・・・・・フランクって・・・凄い人なのね・・・」 彼女が頷きながら、感心して言った。

「ここでは変わり者で通ってるよ。・・・ね、疲れたでしょ?・・少し寝るといい・・・
 隣の部屋に仮眠用のベッドがあるから、使って?・・・」
僕はそのドアを目で示しながら、彼女に言った。

「でも・・・」 彼女が不安げに僕を見上げた。
「この部屋は僕の個室みたいなものなんだ。ベッドも僕の専用だよ・・・
 だから安心しておやすみ?・・・明日のことは、明日考えよう・・・」 
僕は彼女の不安を拭うように優しく言った。

「ええ・・・フランクは?」

「ん・・僕はちょっとやることがあるんだ」

「そう・・じゃあ、お先に・・・おやすみなさい」 彼女はやっとドアノブを握った。

「おやすみ・・・あ・・待って・・・」

「・・?」

僕は彼女の手首を掴むと、グイと抱き寄せて彼女の耳にくちづけながら囁いた。

「大丈夫・・・大丈夫だよ・・・君のことはきっと僕が・・守る・・・
 どんなことがあっても・・・離さない・・絶対に離さない・・いいね。」

「うん・・・」 彼女は僕の背中に回した腕に力を込めてただ頷いた。



『いったい!何を考えてるんだ!お前・・俺を殺す気か!』

レオの怒鳴り声が受話器を耳に当てるまでもなく響き渡った。

「すまない」 僕は素直に彼に謝るしか無かった。

『すまない?そんなことで済む仕事じゃないんだぞ!
 取り敢えず今回は俺の判断で切り抜けた・・しかし。
 お前・・本当に・やる気はあるんだろうな。』

僕をボス・・と呼ばないレオの言葉が怒りの程を現しているようだった。

「必ずやる。」 僕は何んとかそう答えた。

『・・・・・・明日、いや・・もう今日だな・・・
 会って話がしたい・・・それまでに資料の用意を・・・いいな。』

「あ・・・ああ」

この三日間、ろくに寝ていないことなど何の理由になろうか・・・
レオの怒りは当然のことで、僕は何ひとつ言い返す術を持たなかった。

『何だ?何か問題があるのか?』

「いや・・・何も無い。」


僕はレオとの会話を終えると直ちに、仕事に取り掛かった。
資料の分析に手間取って、やっと目処が付いた頃、気がつくともう朝日が昇っていた。

「フランク・・・」
一瞬睡魔が襲った時、隣の部屋のドアが開いて、ジニョンが不安げにこちらを見ていた。
「ん?・・・あ・・おはよう・・・起きたの?」

「寝なかったの?・・・」

「ん・・・」 僕は両目の間を指で摘んで、気休めに疲れを和らげた。

「大丈夫?」 彼女は心配そうに僕の顔を下から覗いていた。

「大丈夫・・・君のキスがあれば・・・」 僕は彼女を心配させまいと微笑んで見せた。

「フランク・・・フフ・・・じゃあ・・」
彼女はまるで女神のように微笑んで僕の頬を啄ばむようなキスをした。

「コーヒー・・・それ?」
「ああ」
それから、僕の部屋と同じコーヒーセットが置かれているのを見つけた彼女は、
慣れた手つきでコーヒー豆を挽いた。
僕はそれを彼女に任せて、資料の最終仕上げを急いだ。

 

「フランク?・・・」

研究室のドアをノックもせずに開け、僕の名を呼びながらソフィアが入って来た。

その瞬間、ジニョンは思わず隣の仮眠室へと走り去った。

逃げるな!」 僕は彼女に向かって叫んだ。「・・ジニョン・・出て来い。」 

ジニョンはゆっくりとドアを開けて、僕とソフィアの前に立った。


ソフィアは僕たち二人を交互に見て一度目を閉じた後、ひとつため息をついて僕に顔を上げた。

「昨晩・・何度もレオ弁護士から連絡があったわ。
 あなたの所在を知らないだろうかと・・・
 ・・・知らないと答えた・・・本当のことだったから ・・・
 でも朝方になって、どうしても気になって、ここへ来てみたの・・・
 そしたら明かりが・・・いったいこれは・・・どういうこと?」 
ソフィアは冷静な口調でそう聞いた。

「彼女を連れて・・逃げて来た」 僕は結果だけを率直に言った。

「逃げて?・・・」

「理由は言わないよ・・・でも・・・
 今、彼女をひとりにするわけにはいかない。」

「ハッ・・・それで?フランク・・ここは学校よ
 しかもこの棟は部外者立ち入り禁止。・・あなたはここの責任者でもあるわ
 そのあなたがあろうことか・・・」

ソフィアが呆れたようにため息をついて、僕ではなく、ジニョンに視線を向けた。

「住む場所を用意するまで・・・見逃して・・・」 僕はソフィアにそう言うしかなかった。

「あなた・・・大詰めを迎えた仕事があるんじゃないの?」 

その通りだった。正直僕は今、或る取引において窮地に立っている。

「ああ・・これから・・NYに帰る。レオと会わなけりゃならない」

「・・・彼女は?」

「一緒に・・・」

「あ・・フランク・・私は・・・何処か小さなホテルに
 あなたのお仕事の邪魔したくない」 ジニョンが口を挟んでそう言った。

「いや・・・一緒に連れて行く。」 僕は彼女に強く言った。

「だって・・」 ジニョンは困惑したように口ごもった。

「・・・・・・私が・・・預かるわ・・・」 その時ソフィアが言葉を挟んだ。

「・・・・・!」

ソフィアの突然の言葉に僕もジニョンも驚きを隠せず、彼女を振り返った。

「あなたの仕事が落ち着くまで・・・彼女を私が預かる・・・
 今、取り掛かってる仕事・・・不意にしたら、今までのあなたの苦労が無駄になる・・・
 そうでしょ?違う?」

「だけど・・・せっかくだけど、それはできない。」≪そんなこと・・できるはずがない≫

しかし、ソフィアは少しも引かなかった。そして彼女は僕にではなくジニョンに聞いた。

「あなたはどう?フランクはあなたをひとりにしたら誰かに連れて行かれる・・・
 きっと、そう思って恐れてるみたいね・・・理由はわからないけど・・
 でも、彼の仕事に、間違いなくあなたは邪魔になるわ・・・
 それでも・・・彼に付いていく?」 ソフィアはジニョンを真直ぐに見据えてそう言った。

「・・・・・・・いいえ。」 ジニョンはソフィアを前に姿勢を正した。

「じゃあ・・・どうするの?」

「・・・・・・・ここに・・残ります。あなたと。」 

「そう・・・なら、話が早いわ・・・フランク・・・
 そういうことだから・・・」 ソフィアは僕に振り向いてそう言った。

「ソフィア・・・どういうつもり?」 僕はソフィアの真意がわからなかった。

「どういう?・・・私が彼女を・・・どうにかするとでも?」 彼女が小さく笑って見せた。

「そんなこと思ってない。」

「なら・・任せなさい。」

「フランク・・・私は大丈夫・・・お仕事行って来て・・・
 お願い。・・・これ以上あなたの邪魔をしたくない」

必死に懇願するジニョンの目を見ていると、僕は仕方なく頷くしかなかった。


確かに、NYに連れ帰っても、仕事の間、結局は彼女をひとりにしてしまう。

まだ、彼女をNYから遠ざけていた方が安心はできた。

「・・・ソフィア・・こんなこと・・あなたに頼めた義理じゃないのはわかってる・・
 でも僕は・・・彼女をもう・・・失えない・・・」 
僕のその言葉はどれほどソフィアを傷つけていただろう。
しかし今の僕には、そんなことを考える余力など残されていなかった。

「いいから・・・早く、行きなさい。」 ソフィアは僕を真直ぐに見てそう言った。

結局僕はジニョンをソフィアの元に残してレオの待つNYへと急いだ。

 

ソフィアさんはフランクを見送った後、しばらくドアを見つめ小さくため息をついた。
そしてゆっくりと私に振り返った。

「・・・・さて・・・自己紹介がまだだったわね・・・ソフィア・ドイルよ
 多くは語らなくても・・・いいわね・・・」

そう言いながら彼女は白くて細い手を、私にそっと差し出した。

「ソ・ジニョンと申します」

「知ってるわ・・・この前あなたが自己紹介したじゃない?
 フランクの生徒だって・・」 彼女はそう言って笑った。

私は罰が悪くなって、苦笑いして俯いた。

「私が少し校内の用事を済ませる間・・・ここに・・・あ・・
 いいえ・・・私に付いて来る?」

「あ、はい。」

ソフィア・ドイル・・・

私はこうして彼女と初めて、真直ぐに対面した。

   理知的で・・・

   何もかもに隙がない・・・

私は彼女が校内の用事を片付けて歩く間、彼女の後を黙って付いて歩いた。

   斜め後ろから覗く彼女の凛としたうなじが私に、

   小さく・・ため息をつかせた


   フランクを・・・心から愛している・・・


         美しい人・・・

 

   でも・・・

      私もあなたに負けないほど・・・フランクを・・・


        ・・・愛しているんです・・・





 


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