2010-05-20 22:01:14.0
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-33.忘却

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「離せ・・・」

緊迫した場面に合っても、フランクは決して声を荒げることはなかった。

ただ、私に向けられた目だけが怒りに燃えていた。
いいえ・・・そう見えたのは、レイモンドの突然の行動に身動きすらできないでいた
自分自身のフランクへの後ろめたさだったかもしれない。

その時私はフランクの鋭い目に射られたかのように言葉を失い、知らず知らず
目の前のフランクが歪んでいく中で、ただ彼の視線を避けないでいることがやっとだった。

「ジニョン・・・泣くのはお止め・・・」

そう言って慰めの言葉をくれたのはレイモンドだった。
その時のレイにはもうさっきまでの怖い目をした男の様相はなく、いつもの柔和な表情を
少し困ったように変えて私を見つめるだけだった。

レイの大きな手が私の涙を拭おうとしたその時だった。
フランクが私の手首を力強く掴んで私の体をレイの直ぐ横をすり抜けさせるように
自分の腕の中に移動させた。
そして私はフランクのなすがまま、彼に抱きかかえられるようにその場を離れた。


   

僕は自分の目の前で起こっていた出来事に、我を忘れていた。
ジニョンに向かってくちびるを寄せようとしていた男の背中が僕を挑発しているのがわかった。

  レイモンド・パーキン・・・

  あいつは明らかに背後にいた僕の存在を意識していた

 

「ドン・・ヒョク・・ssi・・・どこへ・・・」

僕は車にジニョンを乗せると、帰るべきアパートとは逆の方角に向かって車を走らせていた。

「・・・・」

  今君と口を利いたら・・・

「・・・・」

  僕は・・・どんなに嫌な男になるだろう・・・

恐る恐る僕の顔色を伺って口を開いたジニョンを僕の無言が彼女をも
苦しい沈黙の世界に追い込んでいた。

その時、僕は湖畔の別荘に向かっていた。
目的の地までの2時間を僕が正面を睨みつけている隣で、ジニョンは僕を避けるように
視線を車窓に向けていた。

 

  フランクが何に怒っているのか分かっていた

  私は・・・どうしてあの時・・・
  直ぐにもレイを跳ね除けなかったんだろう・・・

  あの時・・・もしもフランクが現れなかったら・・・
  私はレイのくちづけを受け入れたんだろうか・・・

  いいえ・・・そんなことは決してない・・・

    ≪ないわ・・・フランク・・・≫

でも、フランクに対して後ろめたい感情を抱く自分が・・・

  すごく悔しい・・・




 「どうしてあんなことをしたんです?父さん。・・私を信じられませんか・・・
 兄さんがやろうとしたことをあなたは何故止めなかった?
 フランク・シンに資金的な余裕があったなら、
 私達は今頃簡単に敗北してる。」

私はデスクに座ったまま目を閉じていた父に向かって、怒りを抑えてそう言った。

「レイモンド!何だ!その言い方は!まるで俺達が奴に負けたような・・
 株は大半を買い戻したんだぞ!」

パーキン家の二番目の兄、ライアンが私に噛み付かんばかりに怒鳴り散らした。

「違いますか?もう少しで彼にしてやられるところだった」

「お前が父さんの意向に反して、なかなか成果を上げないから
 援護射撃してやろうと動いてやったものを」

「余計なことだ」

「何!」

「止めなさい・・・」

「・・・・・」

「レイモンド・・・私は確かにこの一件をお前に任せた
 しかし・・時間が掛かりすぎているのは事実だ
 私はフランク・シンが欲しい・・お前にそう言った
 それと、韓国のソウルホテルは何の関係があるというんだ
 どうして、フランク・シンにそれほどてこずる・・」

「父さん・・この件は俺にやらせてくれ・・
 フランク・シンという男を何とかすりゃあいいんだろ?
 そんなこと、赤子の手を捻るより容易いことだ」

「余計なことをするな」
 
「何?!兄貴に向かってその口の利き方は何だ!
 お前がわざわざ入り込んだ大学にフランクの女がいるんだろ?
 何をひと月以上もかけて遊んでる?そんな女・・・」

「余計なことをするな・・・
    そう言ったのが・・聞えなかったか・・・」

私がライアンの胸倉を掴んで睨みを利かせた瞬間、ライアンの側近が私の背後を
瞬時に取り巻き、私の側近がそのまた背後にぴたりとついた。

その研ぎ澄まされた緊張を父が静かな口調で解き放った。

「この案件は・・・レイモンドに一任している・・・
 以後、レイモンドの指示を無視するな」

絶対であるボスの言葉に、不満を露にしながらもライアンは部屋を出て行った。


「レイ・・・
 お前がどうしてそれほどにこの案件に熱を入れるのか・・・
 いつも醒めたような仕事の仕方しかしなかったお前が・・・
 フランク・シンはそれほどにお前を熱くするのか・・・」

「熱く?・・・そんなに熱くなっているように見えますか?・・・
 私はいたって冷静ですよ・・ボス・・・」

「私はお前とフランク・シンが組んでくれれば怖いもの無しだと思ってる」


「あなたに怖いものなどあるんですか?」 

「・・・・あるさ・・・ずっと恐れているものがある」


「それは・それは・・興味深いな・・・
 この世にあなたが恐れるものがあろうとは」


「レイ・・・今日が何の日か・・・覚えているか?」

「・・・・」

「お前と私にとって・・・大切な人を失った日だ・・・」

「私にとって。・・・です」

「・・・・レイ・・・」

「そして・・あなたが・・・
 その人から私を・・・奪った日でもある・・・」

「・・・・」

「ふ・・・冗談ですよ・・・遠い昔の話です」

「恨んでいるのか」

「恨み?・・・そんなもの・・・
 エネルギーの無駄遣いだ・・・ボス・・・お任せ下さい・・・」

私は忠誠を誓うかのように胸に軽く手を当てて目を伏せ頭を垂れた。

「フランク・シンは必ずや・・・あなたの御前に・・・」







別荘の近くまで車が近づくと、丁度湖畔に夕日が反射してまぶしいほどだった。
僕はあと数分で別荘に到着しようというところでおもむろに車を止め、車外へ出た。
そして車のボンネットにもたれかかると煙草を咥えた。

燻らせた煙が自分の目の前で空気と交わるその向こうに、広い湖畔の水面と空が
オレンジ色の濃淡に輝く様を、僕はしばらく無言で眺めていた。

「出ておいで・・・夕日が綺麗だ」

さっきから助手席に座ったまま、僕の背中を睨んでいるだろうジニョンに
僕は振り向かないまま静かに声を掛けた。

少しの静寂の後、ドアの開く音が聞こえた時は、さっきまでの何処に向けていいか
わからないほどの怒りは不思議と消えうせていた。

「ごめん・・・」 僕はジニョンに言った。

「どうして・・ドンヒョクssiが謝るの?悪いのは・・」

ジニョンは僕の隣に並んで車に寄りかかり同じ風景に視線を送った。

「悪いのは?」

「悪いのは・・わ・・」

「君は何かしたの?」

「な・・何も・・して・・ない」

「なら・・もういい」

「でも!・・・もしドンヒョクssiが来てくれなかったら」

「僕が行かなかったら・・・あいつと何かしてた?」

「し・・しないわ!・・しない!・・・でも・・
 私・・・あの時、本当に・・・動けなかった・・・何故か・・・わからないの・・・」

「わからない・・か・・・君の得意な・・・“わからない”」

「ごめんなさい」

「あやまるな。・・・その方が怖い」

「怖い?」

「・・・そう・・僕は君に対していつも恐れてる」

「どういう意味?」

「・・・君がいつか・・僕の元から消えてしまうんじゃないかって・・
 いつも怯えてる・・・」

「そんなこと・・有り得ないわ」

「幼い頃からの癖なんだ・・きっと・・」

「癖?」

「・・・・・・だから・・何も望まないようにして生きてきた」

「・・・・・・」

「望んでも・・望んでも・・無駄だったから」

「・・・・・・」

「でも・・・君のことだけは・・・望んでしまう・・
 “お願い・・僕から離れないで・・・”いつもそう祈ってる・・・」


「離れないわ・・・消えたりしないわ・・お願い・・恐れないで・・
 ほらね・・私・・ここにいるでしょ?」


ジニョンが僕の手を取って、自分の心臓に僕の掌を宛がうと、母親のような
慈愛を込めた瞳に涙を浮かべた。


「フッ・・・まるで・・子供みたいだ・・どっちが年上だか・・わかりゃしない・・」

「ごめんなさい・・・あなたを不安にさせたのね・・私・・」

「・・・・・・・」

「私にはあなただけよ・・ドンヒョクssi・・決して・・離れたりしないわ・・・」


「ああ・・・わかってる・・・」


    ・・・わかってるよ・・・
   
  

 


 


 

   

    

 





 


 


 

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