2010-05-30 12:37:46.0
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-34.揺れ動く想い

Photo
 



      

 

《ジニョン・・・泣くのはお止め・・・》

その時、そう言って私に慰めの言葉をくれたのはレイモンドだった。
フランクは車で移動する間、私にひとことも言葉をかけなかった。
私もまた、彼に対して何を言えばいいのかもわからず、押し黙ったまま彼の横にいた。

《・・・君がいつか・・僕の元から消えてしまうんじゃないかって・・
 いつも怯えてる・・・》

 

《離れないわ・・・消えたりしないわ・・  
 お願い・・そんなこと言わないで・・ほらね・・私・・ここにいるでしょ?》

 

《フッ・・・まるで・・子供みたいだ・・
 どっちが年上だか・・わかりゃしない・・》

 

《私にはあなただけよ・・ドンヒョクssi・・決して・・離れたりしないわ・・・》


   決して・・・離れたりしない・・・
   


彼が自分の怯える心を吐き出した時、私はどうしようもなく彼を愛しているのだと
胸に刻んだ。

  


僕は自分の目の前で起こっていた出来事に、きっと我を忘れていた。
ジニョンに向かってくちびるを寄せようとしていた男の背中が僕を挑発していた。

   レイモンド・パーキン・・・

   あいつは明らかに僕の存在を意識していた

   奴の目的が何であれ、ジニョンに近づくことは許さない

 

 


「ごめん・・・帰ろう・・今から帰れば門限間に合う  」
僕は吸っていたタバコの火を消すと、車に戻ろうとボンネットから離れた。

「帰るって?・・家はすぐそこ・・」
ジニョンが怪訝そうな顔をして、家の方角を指差した。

「いや・・NYへ帰ろう」

「どうして?フランク・・まだ私のこと怒ってる?」
彼女はそう言いながら、自分の方が怒っているようだった。

「そうじゃないよ・・大事な仕事があるんだ」

「一日くらい・・・駄目?・・・ふたりでいたい」

ジニョンがそう言って、上目遣いに僕の機嫌を伺った。

「無理だ」

「・・じゃあ、あなただけ帰って・・私は・・ここに残る」
僕の冷めた言葉に今度は彼女が機嫌を損ねたような態度をとった。

「どうして・・」

「どうしても」

「・・・・・じゃあ、勝手にして」

「・・・・・」


    ジニョン・・・君が「帰らない」とでも言えば
    僕が考えを変えるとでも思った?

    悪いけど・・・

    今日の僕はそんな君の言葉を
    素直に聞き入れられそうに無い
    いつも君の思い通りに僕が動くと思ったら・・・
    大まちがいだ


僕が無愛想に車に乗り込みエンジンを掛けた傍らで、ジニョンのすがるような眼差しが
サイドミラーに見えた。

「本当にひとりで残る気?こんなところに・・」

彼女の顔をミラー越しに覗いて、少し薄暗くなりつつある周囲を見渡しながら言った。

「ええ!」

勝気な彼女が、こうと決めたら決して意思を曲げないことはよく知っていた。


僕は溜息をこれ見よがしにひとつ落として彼女の目を睨んだ。

「・・・・家は見えてるから・・・送らなくても大丈夫だね」

「フランク・・本当に帰るの?」 彼女が不安を声に現していた

「一緒に帰るなら乗って」

「・・・・いい」

「そう・・・じゃ・・」

僕はそっけなく答えると彼女を振り向くこともなく、車を方向転換させた。
サイドミラーには彼女の不安げな顔が小さく映ったままだった。

僕は一瞬ためらって、それでもそれを振り切るかのように、勢いよくアクセルを吹かせた。

 

 

   フランクは本当に帰ってしまった

         いつもなら・・・

   文句を言いながらも私の言うことを聞いてくれていたのに

         怒ってないなんて・・・
         十分怒ってるじゃない・・・

         フランクの・・・

 「バカ・・・」

 

私も何だか今日は素直じゃなかったかもしれない。
あのままフランクと帰った方が、互いのわだかまりも無くなったかもしれないのに。

私は彼の車が見えなくなっても、もしかしたら、彼が戻ってきてくれるような気がして
いつまでもその方角を見つめていた。

   でも・・・彼は戻っては来なかった


ひとしきり佇んで、私はやっとフランクを諦めると振り返って家に向かった。

車が入る場所には生えていなかった雑草が丁度足首くらいまで伸びていた。

たったの一週間ぶりなのに、すごく懐かしい気がした。
家の中に入ると、それほど広いわけではない部屋が妙に広く感じた。

こうして改めて眺めると、静かな湖畔にポツリと佇むこの家は、ひとりでいるには
少し寂しすぎる。


   怖くないもの・・・

   今までだって・・・

   フランクが帰りが遅かった時・・あったし・・・

   でも・・・

外はうっそうと茂った木々の葉が少しばかり強い風に揺れ、ざわついていた。

 

「今日は風が強いのね・・・で・・でも怖くないもの・・・ひとりだって・・・
 怖く・・・ないもの・・・ひぃっ!・・」

 

急に響いた バタン という音に反応してジニョンは思わず悲鳴をあげた。
今しがた自分が開けたばかりのドアが中途半端に開いていたためだった。
ジニョンは急いで玄関に向かうと、ドアに鍵を掛けた。

 

「フランク・・・フランク・・・怖い・・
 ドンヒョクssi!・・・ドン・・ヒョク・・ssi・・」


   やっぱり・・一緒に帰れば良かった・・・

 

ジニョンは早々とベッドにもぐりこむとブランケットを頭からかぶり、恐怖を堪えた。

 

「いつもそうだったもの・・・」


   フランクが遅い時はこうしてベッドにもぐって・・・

   でも・・いつもは・・・
 
   私が眠ってしまう前にちゃんとフランクが・・・


   この中へ入ってきてくれた


ジニョンは自分の浅はかさが情けなかった。強情を張ってしまった自分を後悔していた。

 

         ヒィ!

 

ブランケットに包まれた狭い空間で電話の着信音が突然ポケットの中に鳴り響いて
またびくついた。

 

「フランク?!」 受話器を取った瞬間に彼を呼んでいた。

『ジニョン・・・どうした?』 その声は彼ではなかった。

「・・・レイ?・・・先生・・・」

『フランクと一緒なんじゃないのかい?』

「えっ?・・あ・・一緒です・・
 今彼は・・ちょっと出かけていて・・その・・」

 

   どうして先生に嘘をつくんだろう

 

『そう・・』

「あの・・何か・・」

『いや・・今日のこと・・謝ろうと思って』

「何を・・謝るんですか?」

『何を・・・そうだね・・何を謝るんだろう』

「先生・・・大丈夫です・・・
 私のこと、気になさらないで」

『それは・・どういう意味?・・
 君に構うなと・・近づくなと?忠告かな・・』

「忠告だなんて・・そんな意味じゃ・・」

『でも悪いけど・・・それはできない』

「・・先生・・・レイ・・・どうして・・」

『どうして・・君が気になるんだろう』


レイのその言葉はまるで自分自身に問いかけているかのようだった。

「えっ?」

『いや・・・止めておこう・・それじゃ』

「あ・・」

『何?・・』
「いえ・・何でも・・ありません」

 

    電話を切らないで・・・

    そう言いそうになった

 

『・・・・ジニョン・・・今どこ?本当にフランクと一緒?』

「一緒です!・・・それじゃ・・おやすみなさい」

私は急いでそう言うと、不自然なほどに慌てて電話を切ってしまった。


    何をそんなに動揺しているんだろう

 

    怖いからって・・・

    寂しいからって・・・

    レイに何を言う気でいたの?・・ジニョン・・・

 

 

「誰と話してたの」


「きゃあ!」

背後から突然声がして驚いて振り返るとフランクが壁にもたれて立っていた。

 


「フランク!・・」

ジニョンは大きく顔をほころばせて、僕に飛びついてきた。

「フランク!帰って来てくれたのね」

「今の電話は・・・誰?」

「あ・・先生が今日のこと気にして・・でも・・どうして?フランク・・・
 大事な仕事があったんじゃ」

「仕事があった方が良かった?」

「・・・・どうして・・・そんな意地の悪い言い方をするの?」

ジニョンが寂しそうな声で小さく呟いた。

「別に・・・」

   僕はまた不機嫌そうに横を向いて
   彼女から笑顔を取り上げる

   気になって急いで引き返したくせに・・・
   いったい何をやってるんだ


「そんなに・・私に怒ってるなら、なんで帰って来たりしたの!」

 

   どうしてなんだろう・・・

 

「・・・・・ごめん・・・
 僕はどうかしてる・・・わかってるのに・・・どうかしてる・・・」

 

   僕はどうしてこんなにも素直じゃないんだ

 

「私の為に戻って来てくれたのよね」

ジニョンは僕の頬を優しく撫でて、うな垂れた僕の顔を覗いた。
僕はそんな彼女の聖母のような眼差しに降参するように「こくり」と頷いた。

「君が怖い思いをしていないか・・心配だった
 君が泣いてないか・・・心配で心配でたまらなかった
 だから・・・」

 

僕は彼女を強く抱きしめた。
本当に壊れるほどに力の限りを込めて抱きしめた。


   フランク・・・お前は何をそんなに

   恐れているんだ

   この手の中にあるものは決して消えたりはしない

 

   どうして・・・それを・・・

 

 

       ・・・信じられないんだ・・・

 






 




 


 

TODAY 288
TOTAL 597233
カレンダー

2024年10月

1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
スポンサードサーチ
ブロコリblog