mirageside-Reymond-18
「はい・・申し訳ありません」 「フッ・・・相手はフランクだぞ・・・甘く見るなと言っただろ?」 「邪魔者がいたようでして」 「邪魔者?ま・・心配するな・・さっき、彼から連絡が入った」 「奴本人からですか?」 「ああ・・“あいにくでしたね”とのたまった」 「それで・・」 「明日、会う」 「では私もご一緒に・・」 「いや・・私ひとり・・・彼の条件だ」 「しかし・・向こうには夫人がいます。彼女の周辺には用心なさらないと・・ それにフランクもあなたを敵だと思ってる。彼が突然向かってくることも有り得ます」 「はは・・誰よりフランクの方が私は恐ろしい」 「若・・楽しんでる場合じゃないですぞ・・」 「楽しんでなどないさ」 「そうでしょうか・・私にはあなたがどこか もう直ぐ・・それも終わる・・・ 「若・・・」 「・・しかし・・若・・決して無茶をなさらないように・・・」 「ん・・」 しかし・・・彼女が戻って来るとは・・・ いったい・・・ 目的は何なんだ・・・まさか・・・ 母上・・・あなたは・・・ 「レイ!お久しぶりです・・偶然ですね 「ああ・・君こそ・・元気だったかい?」 「えっ?ええ・・・」 「どうした?とても元気そうだとは言えないね」 「・・・・」 「少しその公園まで歩かないかい?」 「え・・ええ・・」 「元気が無いのは・・・フランクに会ってないからかな?」 「・・・・」 「どうして?」 「・・君の顔を見ればわかる」 「本当に?」 「ほら・・そこに書いてる」 そう言いながら私は彼女の頬に指先を触れた。 「また~レイ・・冗談」 「いや・・冗談じゃないさ・・本当だ・・ 君が寂しげに沈んでいる時はフランクが病気か・・んー彼と喧嘩したか・・ 忘れてくれるかい?・・・彼を・・・ とても早口にフランクの話を続けた私の顔を覗いていた君が驚いたように口を開けていた。 「まあ・・まるで私ってバカみたい」 「はは・・いいさ・・バカで・・・んー名づけて・・“フランクバカ”とでも?」 「レイ!」 「はは・・ごめん・・」 「レイ・・・何だか・・変わりましたね」 「何が?」 「いいえ、変わったんじゃないわ・・・出逢った頃のレイに戻った感じ」 「出逢った頃?・・最近・・違ってたかい?」 「ええ・・違ってました・・・とても・・・」 「どう違った?」 「・・・・・」 「いいよ・・言ってごらん?」 「・・・・何だか・・怖かった・・・」 「怖かった・・・そう・・・悪かったね・・・怖い思いをさせて・・・」 「でも・・良かった・・だって・・“レイ”って、呼べるもの」 「さっきから呼んでたけど」 「いいえ・・最近はちょっと苦しかったんです、本当は・・そう呼ぶの・・・」 「そうなの?・・・そうか・・・良かった・・・」 「最初にレイが教壇に上がった時、 みんなに言ったでしょう? 「ああ・・」 「あの時はみんな、驚いたんですよ~ホントは・・・ 「だって・・先生だもの・・ 「そうか・・」 「でもレイが・・あなたが・・ 「そうだったね・・」 「ほぼ強制的だったわ」 「ええ・・だから、ちょっと変だったのレイを・・その・・“レイ”って呼ぶでしょ? 「フランクはフランクだったじゃない」 「だって・・フランクは・・」 「恋人だから?・・・」 「いいえ・・韓国では恋人もオッパと呼ぶことが多いです・・」 「そうなの?」 「でも・・フランクは・・・ 「そう・・・何故だろうね」 「・・・・・・・・・・・ もう逢えないかもしれない・・ そして・・探したんです・・ 「・・・・・・」 「・・・フランクは・・最初からフランクでしかなかった・・」 「えっ?そうなんですか?・・・・・だったら・・どうして・・」 「・・・・たったひとりの人を除いてね・・・」 「たったひとりの人?」 「ああ・・」 「?・・・・・・」 ・・・レイ・・・ まるで幼い頃そう呼ばれた 母と別れてからそれまで・・・ だから・・ それなのに、君に会った瞬間・・・ でも突然出会ったばかりの教師をそう呼べとは言えない だから・・・ 「・・レイ?・・・」 「あ・・・何でもないよ・・・ジニョン・・・」 「・・・・・」 「そろそろ・・午後の授業が始まるね」 「ええ・・」 「じゃあ・・行って?・・それから心配しないで・・・ 「えっ?」 「あ、それと、ジニョン・・今日でお別れだ」 私はできるだけ、“ついでに”を装って別れを告げた。 「学校・・もう辞めた・・さっき、届けを出してきた」 「どうして?」 「家業が忙しくなるんだ」 「家業?」 「ああ・・これでも・・御曹司なんでね・・ジニョン・・今からでも遅くないぞ 「レイ・・・」 「冗談だよ・・君達はその・・何だっけ?半身、というのだろう?」 「えっ?私・・レイにそんなこと話ましたか?」 「ああ・・話したよ・・・さっきも・・そうだ・・・ 「・・・・・・」 「あー・・そうだ・・ジョルジュは可哀想だけど・・ 「ふふ・・ジョルジュ・・あなたのこと好きです」 「おい・・そんな趣味は無い」 「きゃはは・・」 その調子だ・・・ 君にはそのくったくのない笑顔が良く似合う 今まで・・・ 悲しい顔をさせてしまってごめんよ・・ 君の悲しい顔を見るのは辛い フランクから本当に奪いたくなってしまう・・・ そうしたら・・また・・君を辛くさせてしまうだろう? 僕が離れていく・・そのわけを・・・ だから・・さっきの答えを聞かないんだろ? ね・・ジニョン・・・安心おし・・ ・・・辛抱だよ・・僕の・・・ ・・・ジニョン・・・
「逃げられた?・・・」
そう言いながら、レイモンドは口元だけで笑った
奴らは間違いなくあなたを狙っているんですぞ。
フランクとの戦いを楽しんでいるように見えますな」
そうだな・・そうかもしれない・・・しかし・・
「フッ・・・生死を賭けてるんだ
少しばかり楽しんだところで罰は当たるまい」
「はは・・冗談だ・・・」
ソニーは本心から、彼の無謀とも言える行動を案じた。
私は義母・・ローザ・パーキンがフランクと一緒にNYに戻ることを想像していなかった。
この地に足を踏み入れることがどれほど危険なことなのか
様々な危機を掻い潜って来たあの人が察しないわけがない
「ジニョン」
このところお見かけしませんでしたがお元気でしたか?」
決して・・偶然ではないけどね・・・
ごめん・・・理由はわかっているよ・・・
「図星か・・・」
大の大人が・・・
そうした瞬間に心を疼かせた。
フッ・・何を・・・
笑ってしまうな・・・
あー君の顔にはいつもフランクが見える!」
本当に・・・そうだね・・・
「君が嬉しそうに輝いている時はフランクもきっと元気なんだろう
君のそばにいない時・・・」
このまま彼を何処かに隠してしまったら・・・
「それ以外何も無いな・・きっと君はわかりやすいから・・」
“レイ”・・そう呼んで下さいって・・・」
特にアジア系の人たちはね。私もなかなかそう呼べなくて・・」
そうだったね・・・君が一番遅かった・・・
「どうして?」
韓国では・・年上の人を呼び捨てになどする習慣・・無いし・・」
“ずっとみんなからそう呼ばれて来たからそう呼べ”って・・」
ああ・・君には特にね・・・
「韓国では・・・オッパ・・だったね。だから、ジョルジュはオッパなんだ」
ジョルジュを“オッパ”・・ちょっとちぐはぐ」
最初から・・フランクでしかありませんでした」
初めて出逢った時・・彼・・自分の名前だけを私に残したんです・・
“フランク”って・・・
次に・・いつ逢えるのか・・それすらわからない・・
そんな出逢いでした・・・
でも私信じてました・・必ず逢える・・・そう信じてた・・・
彼の名前を・・心の中でフランクを叫びながら・・・
“フランク・・フランク・・フランク・・・”
逢いたい・・逢いたい・・逢いたい・・
そうやって・・やっと・・見つけたんです・・だから・・・」
「・・・・・・・・・・・・
実はね・・・今だから話すけど・・・
君達に出逢うまで誰からも呼ばれたことなんて無いんだ
“レイ”って・・・」
「その人は・・」
「今度も・・たったひとりの人にそう呼んで欲しくて・・・
みんなに強制したのかも・・・」
きっとそうなんだ・・・
初めて君に会った時・・・母が戻ってきたかと驚いた
その声が聞こえるようだった
僕は人にそう呼ばれるのが異常なほど嫌だった
親しくなった人間が僕をついそう呼ぼうとしたときでさえ
睨みを利かせてまで阻止していたくらいなんだ
どうしても君にそう呼んで欲しくて・・・
教壇に立った時、生徒達全員にそう呼ぶよう強制したんだ
そうすれば君の口から・・・
その声が聞こえるから・・・
もう直ぐ・・戻るよ・・フランクも・・・」
「えっ?」
フランクから乗り換えるか?」
君がどれだけフランクという男を想っているか・・
うんざりするほど・・話した・・・」
そう言って、レイモンドはジニョンを優しく睨んだ。
僕が可愛がって・・諦めさせてあげよう」
ジニョン・・・
でも・・・私もフランクと同じなんだ・・・
だから・・・君にはもうお別れを言おう
このまま君のそばにいると
君も感じているね・・・
もう直ぐフランクを君の元へ返す・・・
それまで・・もう少しの・・・