2010-09-19 13:58:06.0
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mitage-儚い夢-44.リーチ

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緊迫したチェイスの末、フランクはやっとパーキン夫人と共にNYグランドホテルに
到着することができた。

そのホテルで彼女がリザーブしていた部屋はスイートルームひとつだった。

「あなたはそちらの部屋を使いなさい」
彼女はフランクに拒絶を許さないと言わんばかりにそう言った。

フランクは考えていた。

パーキン夫人は敢えて自分を狙っている敵の懐に入ることを選択した。
このホテルはパーキン家の表向きの仕事で成り立つ。
よって、彼らがここで騒ぎを起こすことは絶対に有り得ない。
しかも、ここにいるのが彼女ひとりではなく、第三者であり、彼らが望むフランクが
ピッタリと付いているとあっては手を出しようも無い。

  彼女はそう考えているに違いない
  ということは・・・

今彼女の身柄は、他ならぬパーキン家によって守られていることになる。
ローザ・パーキンという女は、本能で自分を守る術を知っていた。

  僕はしばらく立ち尽くしたまま・・彼女の表情を追っていた。

夫人はドレッサーにしなやかに腰をかけ、身につけていたジュエリーをイヤリングから
先に外していった。


「後ろ・・お願いできるかしら・・」

  僕が彼女からずっと視線を外していないことを楽しんでもいるかのように
  彼女は長いゴールドシルクのような髪を右にかき寄せ白いうなじを露にすると、
  ネックレスを外すよう僕にねだった。


「・・・・」

「何?・・何かご不満でもあるのかしら?ここを宿泊場所にしたこと?
 でも・・・何処よりもここが安全・・・そう思わない?
 それとも・・あなたを同室に留めていること?・・安心なさい・・
 摂って食おうとしてるわけじゃないわ」

「フッ・・あなたという人は何処までが本気で・・何処までが・・」

「何を考えているのかわからないのは・・・お互い様じゃなくて?」

「・・・・・・」

「ただ・・私は・・あなたなら・・」

「僕なら?」

「私の望みを叶えてくれそうな・・・そんな気がしたの」

「あなたの望み?・・・レイモンドをあの世界から追いやり・・あなたが・・
 いや・・あなたのご子息が天下を取ることを?」

「・・・・そうね・・そうだったわ・・」

夫人はフランクの言葉に、思い出したかのように微笑んで頷いた。

「・・・違うのですか?」

「さあ・・どうかしら・・」

「ご子息はどうしてご一緒にいらっしゃらなかったんです?」

「フレッド?・・・どうしてかしらね・・」

フランクは彼女に言われた通りネックレスの金具を外しながら、鏡に映る彼女の
伏せた睫毛の奥に隠された何かがあるようで、気になっていた。
フランクはそれを少し覗くように鏡に視線をくぐらせた。
しかし彼女は決してそれを悟られまいと、次に睫毛を上げたときには
いつもの企みを含ませた青い色を輝かせ、口角を上げた。


  

 

  静かな夜だった・・・

フランクはNYに戻っていながら、ジニョンにまだ連絡を入れていなかった。

ジニョンが無事でいることは、逐一レオからの報告で聞いていたし、そのことは
心配してはいなかった。

  きっと彼女の警護に力を尽くしている人間が他にもいる

自分が留守の間の彼女の安否に不安は感じていなかった。

しかし・・・


  ジニョン・・・怒っているね・・きっと・・
  でも・・・
  今君の声を聞いてしまったら
  逢いたい衝動に勝てる自信がないんだ

  この光の向こうに君がいる・・・
   
ホテルの部屋の窓ガラス越しに彼女の宿舎に視線を送っては溜息混じりに目を伏せ
震える自分の胸の鼓動を懸命に抑えた。

そしてもうひとつ・・・

  やっとここまで漕ぎ着けた・・・

  レイモンドとの・・・勝負・・・

  勝つか・・・負けるか・・・明日がその決着の時・・・

フランクは奮い立つ狩人の本能を初めて味わったような気がしていた。

 


   
翌朝ルームサービスを受けて朝食を済ませると、約束通りレイモンドが部屋を訪ねて来た。

彼が部屋に入った瞬間、夫人は丁度コーヒーカップを口元に近づけたまましばし静止していた。

「お久しぶりです・・・母上・・・」

レイモンドが夫人に向かってそう言うと、彼女はカップをテーブルに戻し立ち上がり、
ゆっくりと彼に近づいた。

「まだ・・母と呼んでくれるの?」

そう言いながら彼女は彼と熱く抱擁を交わした。

「あなたがパーキンの名を捨てない限り・・」

「アンドルフはお元気?」

「ええ・・お陰さまで」

「そう・・」

「ところで・・・フランク・・私に用だとか・・・」

レイモンドは彼女との挨拶もそこそこに、フランクの方へと笑みを向けながら進んだ。

「買っていただきたいものがあります・・・
 あなたが私達を襲ってまで欲しがっているもの・・・」

フランクもまた、単刀直入に話の本題を切り出した。
    

「何処にある?」
レイモンドは終始落ち着いた表情を崩すことなく、フランクを見ていた。

「ここにはありません・・・」
フランクもまた、レイモンドを用心深く見るように、視線を逸らさなかった。
    
「渡してもらおう・・・それはきっと、もともとはこちらのものだ」

「だとしても・・今は私の手元にある」

「君の望みは?」

「たったひとつ。」

「聞こう」

「ソウルホテルから手を引いてください」

「ソウルホテル?何のこと?」

睨み合ったふたりの間に立っていた夫人が、初めて聞くソウルホテルという名前に、
首を捻ってみせたが、フランクもレイモンドもそれには答えなかった。

   
「それだけでいいのか」

「無論、ジニョンにも関わらないでいただきたい」

「フランク!」 夫人が声を荒げた。

「ああそうでした・・こちらの夫人にも要求があるらしい・・・」

「彼女の要求はわかっている」 レイモンドがすかさず答えた。

夫人の困惑に対して、ふたりの男達は彼女に一向に視線をくれるわけでもなく、
向き合ったまま冷静な取引に興じていた。


「では・・呑んでくれますか」

「ああ・・呑もう」

「でしたら・・」

「それは・・・今間違いなく君の手元にあるんだな。」

「ええ」

「レオナルド・パクだな?」

レイモンドは確認するようにフランクに強く念を押した。


「それは・・」

そんな簡単に重要書類の在処など答えられるわけがない、そう思いながらフランクは口をつぐんだ。

しかし次に発したレイモンドの言葉はフランクの予想とは違っていた。

「だとしたら・・彼に直ぐ指示を出せ。その書類を持って、すぐさまFBIへ向かえと。」

「・・・・?」

「それを君達が持っていては危ない。直ぐに手放せ・・この捜査官に直接届けろと言え。
 心配しなくていい、この男はマフィアの息が掛かっていない数少ない捜査官だ」

そう言ってレイモンドは一枚の名刺を差し出した。
    
「いいか・・それまで・・彼に渡しきるまでしっかりと隠し通せ。」
レイモンドは念を押すように繋げた。

「・・・・どういう・・」

   僕は最初、レイモンドの言葉の意味を理解できなくて戸惑いを隠せずにいた

「そういう意味だ」

「しかし・・これがここに渡ったら・・」

「どうなるか?・・バカじゃない・・わかってる」

「・・・・」

「レイモンド!」

さっきからふたりのやり取りに固唾を呑んでいた夫人が、突然、レイモンドの名を叫んだ。

「いったい!何をする気なの?そんなことをしたらアンドルフがどうなるか!
 あなた!父親を売る気?!」

「ええ。」 
レイモンドは夫人の言葉に、躊躇なく答えた。彼女に視線を移さないまま至って冷静に。


「そんなこと!させないわ!フランク!その名刺を渡しなさい!」

夫人はそう大声で怒鳴ると突然、自分のバックから小さな拳銃を取り出し、フランクに突きつけた。

しかし、フランクは彼女の威嚇に不思議と恐怖を感じなかった。それよりも、彼女の怒りの原因が、
決して自分に不利なことにではなく、敵であったはずのアンドルフ・パーキンにとって
不利益なことに端を発しているような気がして、不思議な気持ちだった。

「・・・そんなもの・・おしまいなさい」 レイモンドが夫人に視線を向けて言った。

「来ないで!」 
レイモンドは彼女の制止に耳も貸さず、そのまま彼女に向かってゆっくりと進んでいた。

「止まりなさい!レイモンド!」

「もうお止めなさい・・義母さん・・・あなたの気持ちはわかっている」

「私の気持ちが・・・何だと言うの・・」

「あなたは父さんをまだ愛してる」

「馬鹿なことを言わないで。」

「だから・・ここへ戻ってきたんでしょ?
 あんなものを持って動いたら狙われる、それをわかっていながら・・
 父さんの病気が気になったのでしょう?」

「・・そんなこと・・」

「フレッドは・・・兄さんはもう・・組織に興味などないんです
 それはあなたが一番良くご存知だ・・・
 だから僕が・・・彼をパーキン家から解放したんです」

「・・・・・」
「そしてあなたはライアンから父を守るためにあの書類を持ち出し、身を隠した・・
 あなたにとって・・信用できる人間はパーキン家には誰ひとりいなかった・・」

「・・・・」

「だから・・逃げたんだ」

「・・・・」  

「ライアンはあなたの血を分けた息子だ・・しかし彼を恐れていた
 かと言って、まさか・・私に助けを求めることなど・・できなかったでしょう
 でももしも組織の三代目が私ではなく・・ライアンになっていたら・・
 あなたはあの書類を使うつもりだった・・そうですね

 僕を敵対視していると見せたのも・・
 ライアンが変に勘ぐって僕に危害を加えないため・・・そうでしょ?
 それともそれは僕の思い過ごしですか?」

「どうして・・」

「最初はわからなかった・・あなたがどんな目的で、そんなことをしているのか・・
 本当に・・きっと僕の敵なのだろうと・・そう思ってました・・・
 でもこうしてあなたがフランクと一緒にNYに戻った。大きな危険を冒してです
 知っていましたか?空港で待機していたあなたの護衛と称した男達・・
 あなたはご自分で手配していたのでしょうが・・既にライアンの息が掛かっています」

「・・・・知ってたわ・・・いいえもしかしたらと・・だから・・
 あの時とっさに・・フランクの車に乗ったの」

「奴らは・・先程ホテルの玄関で捕らえました・・・
 白を切ってあなたの元へ戻ろうとしていたんです。フランクがいなかったら、
 きっと書類を奪われるだけでは済まなかったでしょう」

「・・・・」

「義母さん・・・ライアンは・・もう駄目です・・
 先代から続いた違法行為が彼を取り巻く輩によって膨れ上がる一方です

 あなたの血を分けた子供ですが・・法の手に委ねます・・どうか・・・
 許してください・・・」

「レイ・・・」

夫人はレイモンドの言葉に、目に一杯涙を溜めていた。


それはフレッドと同じ血を分けた息子であるライアンへの哀切なのか
今の状況への諦めなのか・・・フランクにはわからなかった。

レイモンドは彼女が構えた小さな拳銃を彼女の手の中から抜き取り、
そっと自分のポケットにしまいこんだ。
そして、さっきよりもとても慈愛に満ちた表情で彼女をしっかりと抱きしめた。

「義母さん・・・その為には・・・あなたがきっと愛して止まない父さんも・・
 罪を償う必要があるんです
 トップとして・・責任を負わなければなりません・・

 いいですか?あなたは・・待てますか?
 5年・・いや・・10年かもしれない・・・それでも待てますか?」

レイモンドはまるで愛する人を宥めるように夫人の髪を優しく撫でながら話を続けた。

「父は・・あなたという人がありながら・・僕の母を深く愛してしまった・・
 そのことにあなたがどれほど傷ついていたか・・
 ごめんなさい・・
 僕はそれを知らなくて・・冷たく当たられたと誤解して・・・
 あなたを憎んで育った・・・

 父を憎んで・・育った・・・

 母に良く似た僕を見ることがどんなにか辛かったでしょうに・・・

 ごめんなさい・・・
 あなたを傷つけていたのは・・他でもない・・僕と母だったのに・・・」

「レイ・・・」

「昔・・あなたが僕をそう呼んだ時・・僕はあなたを睨みつけて・・・
 “母さんでもないのに・・そう呼ぶな”そう言いましたね・・

 あなたは最初・・僕を受け入れようとしてくれていた・・
 それなのに・・僕が・・拒絶したんだ

 あなたの愛に先に背を向けたのは僕でした」

「アンドルフの・・子供だもの・・愛した人の・・子供だもの・・・
 愛したかったのよ・・・あなたを・・・」

「父もきっと・・あなたの愛に気がつく・・それまで・・待ってやってもらえませんか?」

「・・・・・・・待って・・いても・・・いいの?」

「ええ・・そうして欲しい・・父の心を救えるのは・・きっと・・・
 あなたしかいない・・・」

「・・・・・」

「そして・・・パーキン家は・・僕のこの手でマフィア組織を消滅させます

 いいですね・・・
 それでも・・・パーキンの名を捨てませんか?」

「・・・ええ・・ええ・・・あなたがまだ・・私を・・・母と・・・呼んでくれるなら・・・」

「・・・・・・母さん・・・」

フランクは目の前で抱き合うふたりを見つめながら、レイモンドのこれまでの行動の疑問が
パズルのように頭の中で組み立てられていた。

 

  レイモンド・パーキン・・・


  彼の目的は・・・最初から・・・

 
     ソウルホテルでもなく・・・

 

     ジニョンでもなく・・・

 

     そして・・僕自身でもなく・・・

 
       僕が夫人に

 

 

          ・・・辿り着くことだった・・・










 









 


 


 

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