2010-09-21 10:20:48.0
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-45.狂気

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レイモンドはフランクに対して今までの非礼を詫びた上で、自分の堅い決心について
具体的に話をした。

今回のソウルホテルの買収に関しては飽くまでもフランクを奮い立たせることが目的であったこと。
結果的に自分が押さえたソウルホテルの債券はフランクの言い値で彼に譲る用意があることを告げた。

「・・・・・」
その間、フランクは口を閉ざしたまま、レイモンドを睨みつけていた。

「君が怒るのも無理はないな・・・
 しかし結果的に・・・君がソウルホテルを救ったことになる・・
 だとしたら・・ジニョンの父上も文句はあるまい」
レイモンドの言い方は至って淡々としていた。

     
   正直彼への憤りを抑えることはできなかった
   しかしどうしたというのだろう・・・
   さっきまで目の前で繰り広げられていた彼と夫人の愛憎劇が
   僕の怒りを鎮めていくような錯覚を覚えていた

   それでも・・・

「勝手なことを言うな。・・・僕にはそんな小細工など・・必要ない」

「そうこだわるな・・」

「こだわり?」 彼のひと言ひと言が癇に障った。

「そうか・・しかし困ったな・・・私はあの債券は君にしか譲らない
 君が受けなければ・・結果として
 ソウルホテルは人手に渡るぞ・・いいのか」

「ふざけたことを!・・人を馬鹿にしてる」
レイモンドの理不尽極まりない発言にフランクは思わず声を荒げた。

「してない。」

   彼の僕を見る目には一点の濁りもないことを僕自身、認めざる得なかった。

「・・・・」

「君達への詫びと言ってもいい。私は自分の思惑の為に、君達を利用した」

「利用?・・ジニョンも?」

「ああ・・ジニョンも利用した」

「!・・・」

フランクは突然彼に殴りかかりそうになって直ぐにその拳を戻した。


   利用した・・・


そう迷わず言ったはずの彼の目が、決してそうではなかったことを如実に物語っていたからだ。

「殴らないのか・・・」

「殴りたい・・・」

「そうしろ」

   彼は本当にそうして欲しいという目で僕の目を見据えていた。
   しかし僕は、決して彼の望みを叶えなかった。

   僕はわざとらしく乱暴に音を立てソファーに腰を下ろした。

   そうやってまるで・・・
   絆されそうになる彼の目から逃れでもするかのように・・・

「・・・・・」

「とにかく・・今はあの資料を一刻も早く・・FBIに・・その後のことは後で話し合おう」

「・・・・・」

そこへ、部屋のチャイムがけたたましく鳴り響いた。
それと同時にレイモンドの携帯電話も鳴った。

電話の主もチャイムの主も、部屋のドアの前で待機していたレイモンドの側近ソニーだった。


電話を受けるや否やレイモンドが慌てたように、部屋のドアに向かった。
そして彼はドアを開けるが早いか、ソニーに向かって怒鳴りつけた。
「どういうことだ!」

「たった今・・連絡が・・・」

「それでジニョンは!」
彼らふたりの表情が緊迫した様を呈していた。

レイモンドの口から「ジニョン」の名前が出ると、今度はフランクが矢のように素早く駆け寄り、
ソニーの首根っこを締め上げた。


「ジニョンに何があった!」
ソニーはそれを振り払うでもなく、言葉を続けた。


「連れ去られました」

「何やってる!見張っていろとあれほど!」 レイモンドが横から彼を怒鳴りつけた。

「申し訳ございません!若い者が目を離した隙に・・
 ライアンの手のものです」

その瞬間、フランクの顔面が蒼白になっていた。

   彼らのやり取りが次第に遠くに聞こえてきた。
   頭の中が真っ白で、何かが僕の思考回路の邪魔をした。

「それで・・何か言って来たか・・」

「いえ・・まだです・・しかしきっと・・直ぐに・・」

フランクが彼らの話もそこそこに部屋を出ようとした。

「何処へ行く!フランク・・」

「探しに行く。」
レイモンドはフランクの腕を掴み、彼の動きを制した。

「待て!何処を探す!当てもなく探して何になる」

「何にもならなくても!こうしていられない!」

「落ち着け!君らしくないぞ!もう少し待て・・奴らの目的は
 あの書類と君だ・・
 その二つが揃わない限りジニョンは無事だ」

「どうしてそんなことがわかる!これも・・お前のせいだ!
 お前さえ・・」
フランクはレイモンドに詰め寄り胸倉を掴んだ。

「わかってる・・とにかく待ってくれ
 ジニョンは必ず無事で君の元へ返す。必ずだ・・私を信じてくれ・・」

レイモンドはフランクを落ち着かせることに努めた。
正直言ってレイモンド自身、現在の状況下の中で、ジニョンに何事も起こらない保障は
どこにもないことを懸念していた。
認めたく無いマフィアの実態がレイモンドの脳裏をかすめていた。

   ・・・そうなんだ・・・
   マフィアというものは

   自分が欲するものの為ならば・・・
   相手を恐怖に陥れることで、いいなりになることを
   余儀なくさせる

   しかし・・・

   フランク・シンという男が
   決して彼らの思い通りにならない男だということを
   彼らは余りに知らなさ過ぎる

   フランクは・・・

   愛するジニョンを奪われたが最後・・・
   
   奴らのいいなりになるどころか
   全てを破壊しかねないことを・・・

   彼がマフィアの定義に外れた男だということを・・・

   彼らは知らなさ過ぎる・・・

   だから余計にジニョンが・・・危ない・・・


フランクはそれでも、レイモンドの言うように今動くことが得策でないことを理解するしかなかった。

その時・・フランクの携帯電話の着信が鳴った。
「フランク!」 ジニョンの声だった。
「ジニョン!」

ジニョンの声はそれきり何かで封じられたかのように聞こえなくなった。
そして、突如聞きなれない男の声が耳に届いた。

「フランク・シンさんですね」

「誰だ!」

「状況は既におわかりのようですね
 ご安心ください・・彼女は大切にお預かりしています」

「ジニョンに何かあったら・・」
「・・・・」
「もしもジニョンに何かあったら・・・覚悟しろ。
 係った人間一人残らず・・・」

「それはそれは・・」

「冗談だと思うなよ・・どんなことをしても・・
 生涯を掛けて・・何処までも追いかける」

「・・・・」
興奮を抑え淡々としたフランクの言葉と声色はそばにいたレイモンドやソニーまでもが
背筋が凍るほどだった。

フランクは見るからに常軌を逸していた。
「フランク・・代われ」

レイモンドがフランクの電話を急いで取り上げた。


「レイモンドだ・・条件を言え」

「レイモンド様・・お話が出来て光栄です・・・
 条件は二つ
 それは言わなくともおわかりですね」

「ジニョンは無事だな・・もう一度彼女の声を聞かせろ」

フランク・・・私は大丈夫・・
ジニョンの小さな声が届いた瞬間、レイモンドの胸が締め付けられた。

「もういいでしょう?」
「彼女に危害は加えていないな」

「もちろんです・・・大切なお預かりものですから」

「ライアンは何処にいる」

「ライアン様はこの件に関しては関係ございません」

「高みの見物か・・ライアンに伝えろ。覚悟をして待っていろと」

「レイモンド様・・ここにいる女性、あなたにとってもいい人なのだとか・・
 その為にも・・
 フランクと書類を差し出して頂きましょう」

「わかった。・・・かならず差し出す。その代わり、ジニョンに指一本触れるな。 
 もしも彼女に何かあったら・・・」

「彼女に何かあったら・・・あなたが黙っていませんか?」

「フッ・・・私を甘く見てるのか?・・・
 しかし・・残念だな・・きっと恐ろしいのはこの私じゃない

 覚えているか?・・・さっき彼が言っていた・・・
 冗談だと思わない方がいいぞ。奴なら必ず・・・
 一人残らずお前達の息の根を止める・・
 その為なら・・・恐らく地の果てまで探しぬくぞ・・私が保証しよう。」

レイモンドは相手の男に覚悟して待っていろ、と言わんばかりに凄みを利かせていた。

「・・・・・」

「さて・・まずどうすればいい」

「・・・・・・あ・・フランク・シンに・・・まずこちらへ来ていただきます
 そしてあなたがその後で・・書類を手にご足労ください
 彼女と引き換えに・・・それで如何でしょう・・・それからもうひとつ・・・」

「ふたつと言わなかったか?」

「申し訳ございません・・・これが一番重要なことでした
 あなたには組織から退いて頂きたい」

「わかった。」

「えっ?」
「わかったと言ったんだ・・・容易いことだ。」

 

電話の趣旨はそばで聞き耳を立てていたフランクにも通じていた。
しかしフランクは一向に口を開こうとしなかった。

「フランク・・場所はソニーが案内する・・一緒に行け
 いいか・・決して逆上するなよ

 これは大事なことだ・・聞け
 君は決して余計なことをするな
 必要とあればそれはソニーがやる
       
 あの子の笑顔は何としても守らなきゃならない
 わかるな・・
 その笑顔の先には君が必ずいなければならない・・
 それを忘れるなよ・・

 ひとつだけ、言っておこう
 奴らの目的は君だ。
 君に手を掛けることはない・・しかし・・
 奴らにとってジニョンの存在は重要じゃない

 どういう意味かわかるな・・・それだけは認識しておけ

 いいな・・・私が行く前にもしも
 ソニーがチャンスを作ったらふたりで逃げろ。

 君はただジニョンを守れ
  
 そしてもしも・・・上手くふたりで逃げられなかったら・・・
 それでも・・・何があってもジニョンだけは逃がせ。
 いいか!」

フランクは呆然としていた。レイモンドの言葉をまるで理性の外で聞いていた。
今のフランクは誰が見ても、決して冷静な精神状態とは言えなかった。
レイモンドはそれを懸念したようにフランクの目を食い入るように覗いて念を押した。

「いいか、お前は何も行動を起こすな。ただジニョンを守れ、いいな。」

しばらく口を閉ざしていたフランクがやっと口を開きレイモンドに向かって静かに呟いた。

・・・さっき・・奴らに言ったな・・・

「?・・・・・」

「“冗談だと思わない方がいい。一人残らずお前達の息の根を止める”
   ・・・そう言った・・・」

「ああ・・言った・・」

「覚えておけ。奴らだけじゃない・・・あんたもだ・・・
 その時は・・・あんたも・・・決して・・・許さない。」

フランクの目は激しい怒りに燃えていた。


   ジニョンにもしものことがあったなら・・・

   ひとり残らず息の根を止める

   例え、何処へ逃げようとも・・・


   誰ひとり逃がさない



   誰ひとり・・・



       ・・・許さない・・・

         

   

 

       

 

 

 

     

     

     

 













 

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