2010-11-09 20:16:55.0
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-5.薔薇の決意

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi

 



フランクはいつもの朝と同じように、ロードワークで汗を流していた。
こうして風に吹かれていると≪しばし心の騒ぎに休息をくれる≫


フランクは決意していた。
もう一度、彼女を取り戻すことを。

それが彼女が望まないことだとしても、もう自分の心に嘘はつけない。
昨夜自分自身が起こした事実に正直になると決めた。




ジニョンは今朝もまた、アラームが鳴る前に目覚めた。
フランクが目の前に現れてからというもの、いつもそうだった。
でも今朝はいつもとまた違っていた。
昨夜はなかなか寝付けなくて、さっき眠ったばかりだと思ったのに
気がつくと東には既に朝日が昇っていた。

≪離さない≫ 
フランクのあの声が何度も何度も繰り返しジニョンの胸に響いていた。

≪あれはどういうこと?あなたは何のつもりで、あんなことを?≫
ジニョンは、フランクの理解しがたい行動に対して、
困惑と憤りとそしてあろうことか甘い疼きを感じている自分の心に
苛立っていた。




ジニョンがホテルに出勤すると、オフィスに人だかりができていた。

「どうしたの?何かあったの?」
ジニョンが尋ねると、その人だかりが一斉にジニョンに振り返って
彼女は一瞬後ずさりした。

「ジニョン!」 スンジョンがその輪の中から飛び出て来て、
ジニョンの鼻先に自分の鼻先をつけんばかりに近づいた。

「な・・何ですか・・・先輩・・」 ジニョンは更に後ろへ下がるしかなかった。

「あなた、花屋の御曹司とでもお付き合い始めたの?」
スジョンが一大事でも起きたかのように目を見開いて、そう言った。

「えっ?」≪何のこと?≫

「これ」 
彼女が差した指の先に、今までに決して目にしたことがないような、
それは大きな花束がジニョンの机を占領していた。

「まあ・・すごい・・・」 
花束のあまりの美しさと豪華さにジニョンの笑顔が花開いた。

「薔薇の花!」 スンジョンは腕組して言った。

「見ればわかるわ」 ジニョンはさらりと答えた。

「300本だって!」 スンジョンの声が次第に強くなってい
た。

周りの空気を察したジニョンが自分を指差して“私に?”と目で尋ねた。
スンジョンは口を尖らせながら黙って頷いた。

「いったい・・誰が・・こんな」 ジニョンはちょっと困ったように苦笑しながら、
中に差し込まれたカードを抜き取った。

それはフランクからだった。ジニョンは目を閉じて溜息をついた。

「あ・・これね・・お礼にって、お客様が・・」
ジニョンは自分の反応をそばでじっと待っていたスンジョンに
弁解するように言った。

「お客様?何で、お客様がこんなことを?
 これって、行き過ぎじゃない?
 あなた、いったい、お客様に何してあげたのよ!
 あ・・まさか・・・・・・」 スンジョンはよからぬことに想像を巡らせ
ジニョンを疑いの眼差しで見た。

「スンジョン先輩!まさかって・・って、何よ!」 



ジニョンは急いで、フランクの部屋に電話を入れたが、あいにく彼は留守だった。
しかし、行き過ぎた贈り物をこのままにしておくわけにはいかないと、彼女は
ホテルの中にいるという彼を必死に探した。



「ここにいらしたんですね」

フランクはホテル内に常設されているビリヤード場にいた。

「よくわかりましたね、ここが」
フランクはナインボールに興じながら、ジニョンに柔らかい視線を送った。

「お客様がホテルにいらっしゃる間は、どちらにいらしても把握できます
 ・・・ホテリアーですから。」 ジニョンは少し自慢げに言った。

「ほう・・それは感心だ」 
フランクは笈の先にチョークを塗りつけながら言った。

「それで・・あの・・お花・・」 
≪早く本題を・・≫そう思ってジニョンは切り出した。

「ああ、届きましたか?ルームサービス」 

「あんなことをされては困ります、お客様。」

「どうして?昨日のお礼です、そう書いてあったでしょう?
 受け取って下さい、遠慮なさらずに」 
フランクはさらりと答えた。

「オフィスの人間が驚きます」
≪ここで引き下がるわけにはいかない≫ジニョンはフランクを見据えた。

「それじゃあ、今度からご自宅に届けましょう」

「あの!そうではなくて・・・
 私はお客様から、プレゼントを頂く理由がありません
 ・・だから・・」

「だから?」 フランクはジニョンとの会話の間も笈の動きを止めなかった。

「だから・・・あんなことはなさらないで頂きたいんです」

「んー・・・僕はそうしたい。・・・優秀なホテリアーは
 客の望みは聞いてくれるんじゃなかったかな」
フランクがそう言っている間に、彼が放った笈の先は俊敏にボールに当たり、
そのボールがまた別のボールを潔い音ではじかせた。

「でも」
「でも?」

「わからないわ」

ジニョンのその言葉を聞いて、フランクは初めて手を休めて、笈を自分の前に立てた。

「わからない?・・何がわからない?
 あの花が何の花なのか?それとも・・・
 僕が単なる客なのか・・君の男なのか?」

「嫌な言い方。」 ジニョンは彼を睨みつけるように言った。

この時既にジニョンは、ホテリアーとしての仮面を脱ぎ捨て、遠い昔
フランクを知るジニョンとして、その彼を睨みつけていた。
フランクは彼女のそんな変化に気がついて、俯き口元だけで笑った。
≪ジニョンだ・・・≫

「嫌な言い方・・・結構。
 しかし僕は戻りたい・・・君の男に。」

「何言ってるの?ふざけないで!」 

「ふざけてなどいない」

「そんなに面白いの?私をからかって・・
 わかってるわ、あなたは!・・・・」

「あなたは・・・何?」

「あなたは・・・昔自分を好きだった女が
 他の男に心を動かされているのを見て
 気分が悪くなったのよ・・そうよ
 あなた、自分のプライドが許さなかったんだわ」

「君は他の男に心など動いていない」

「どういうこと?」

「僕を愛している」 フランクは彼女を見据えたまま、力強くそう言った。

「はっ・・何言ってるの?・・ふざけないで!」
ジニョンは怒りでカーと熱くなる自分を感じていた。

これ以上ここにいると、自分がとんでもないことを言いそうな気がして、
急いでその場を離れようとした。

「ソ・ジニョン!」
ジニョンはフランクのその声に驚いてぴたりと足を止めた。
フランクは持っていた笈を床に立てたまま、ジニョンを見据えていた。

「どうして韓国へ来たのか・・・そう聞いたね」

「・・・そんなことどうでもいいわ。」

「君に逢いに来た」

「・・・うそつき。」
「うそじゃない・・」

「信じないわ!」

「君も・・・僕を待っていた」

「勝手なこと言わないで!」 ジニョンは彼に激しく言葉を投げつけた。
そして、逃げるようにその部屋を出て行った。


フランクはわかっていた。こんなやり方に彼女が酷く怒ることも。

しかし彼は敢えてそうした。
今、彼女に怒って欲しかったから。
自分に対する怒りを思い切りぶつけて欲しかったから。

だから彼は、強引に彼女に向かって行くと決めたのだった。


≪ジニョン・・・もっと怒れ・・・
 もっと・・・僕にその怒りをぶつけるんだ≫

彼女が心の奥深くに彼に対する怒りを押し込めている以上、
≪彼女を取り戻すことなどできない≫
フランクはそう思っていた。



「何言ってるの!何言ってるの!・・
 ふざけないで!、私はあなたなんか・・・
 あなたなんか!待ってない、愛してない!」
ジニョンは屋上に上がり、漢江に向かって怒鳴り散らした。

しかし、怒鳴った瞬間に虚脱していく自分の体を支えられなくて、
彼女はその場にしゃがみこんでしまった。

≪愛してなんか・・・ない・・あなたなんか・・・

  あなたなんか・・・あなた・・なんか・・・≫





夜勤明けの次の朝、ジニョンは鳴り響く電話の音で眠りを妨げられた。

「はい・・ソ・ジニョン・・・」 電話の主はフランクだった。

ジニョンは慌てて飛び起きて、電話の向こうの声が言うままにベランダから下を覗くと、
携帯電話を耳に当てたフランクが上を見上げて、こちらを伺っていた。

「どうして携帯の電源を切ってるの?」

「あなたが何度も電話してくるからでしょ!」

あの薔薇の事件があってからというもの、フランクはことあるごとにジニョンを追い
挙句にはホテル内のみならず、彼女の携帯にまで電話をよこすようになっていた。

「しかし苦労したよ・・自宅の電話番号調べるの・・」
フランクはジニョンが迷惑だと言っている言葉を全く無視していた。

「・・・・・!」

その直後、玄関のベルが鳴り、デパートの配達人が持ちきれないほどの
届け物を抱えて部屋に入って来た。それがすべて、フランクの仕業だとわかって、
ジニョンは頭を抱えた。


しばらくして、ジニョンが両手いっぱいに箱と袋を抱えて、エントランスを出て来た。

「どうして?」フランクは不満そうに言った。

「あなたこそ・・どうしてこんなことを?」

「今日、君の誕生日だから」

「えっ?・・」
ジニョンは自分の誕生日のことなどすっかり忘れていた。

「今まで君の誕生日、祝ったことがなかったから・・・
 10年分のお祝い・・・」
そう言って、フランクは満面の笑みをジニョンに向けた。

「とにかく・・あなたに祝っていただく義理はないわ・・
 これはお返しします」

「返されても困るよ・・僕が持ってても仕方ないし」

「でも、受け取れないわ・・お店に返してください」
ジニョンは決して引き下がらなかった。

「わかったよ・・・その代わり、食事は一緒に行ってくれる?
 もう・・予約してあるんだ」

「・・・・・・・」 
ジニョンは呆れて怒った顔のまま、それでも溜息混じりに頷いた。




フランクが予約していたのは、最近韓国にできた
“three handredroses”だった。

「覚えてる?」

「ええ・・あ・・だから・・・」

「そう・・300本の薔薇・・」

「・・・・・」

「君がどうしても行きたいって、あの時そう言った・・・
 あの頃僕はちょっとばかり稼いだ全財産を叩いて
 家を買ったばかりで余りお金を持ってなかった。
 だから君にも余りおしゃれをさせて上げられなくて・・・」

「そんなの必要なかったわ」

「あの頃もそう言っていた・・・」

「・・・・・」

「でも今はどんな贅沢もさせてあげられる」

「だから?」

「だから・・・」

「あの時も・・・今も!私はそんなこと
 ひとつも望んでいなかったし・・・望んでいない」

「わかってる」

「わかってないわ・・・
 高い物を贈ればいいってことないの
 私が欲しかったのは・・・」

「欲しかったのは?・・・」
フランクはその先の言葉が聞きたい、というように、彼女の目をみつめた。

「・・・・わ・・私は。・・・
 韓国に戻ってから、自分の望みを叶えるために
 必死になって勉強して、今、小さい頃の夢を叶えたの。」

「君の夢は僕だったはずだ」

「そうじゃなくしたのはあなたでしょ!」 

つい声が大きくなってしまって、ジニョンは周りを気にして、左右を見た。 

「もう一度、君の夢になりたい」 
フランクはジニョンのその怒りに決して怯まなかった。

「無理よ。」 ジニョンは今度は静かに、無表情に言った。

「どうして」

「フランク・・・」 
ジニョンは呆れたような溜息と一緒にその名前を口にした。

「やっと名前を呼んでくれたね」 
それでもフランクはそのことを素直に喜んだ。

「・・・・・・」 彼の輝くような笑顔と対照的に彼女は黙り込んだ。

「待ってたんだ・・・君が僕の名前を呼んでくれるのを」

「いったいどうしたって言うの?急に・・・おかしいわ
 あなた、ホテルに初めて来た時も・・あんなに落ち着いて
 私とだって、ホテルの客と従業員として
 冷静に対応してくれていたじゃない
 だから私も、ホテリアーとして精一杯あなたに・・
 可笑しいわ・・急にこんなこと・・・」

「気持ちを抑えられなくなった・・それじゃ、答えにならない?」

「この前会ったでしょ?彼なの・・・
 私の方からプロポーズした人って・・
 彼も・・受け入れてくれてる・・・私達、婚約してるの」

「君は“違う”と言った」 フランクは冷ややかな表情でそう言った。

「言ってないわ」

「言った。・・・それが君の本心だ」

「わかったように言わないで!」 
小声を意識しながらもジニョンの語調は強かった。

「わかってる。」

「何が?私の何をわかってるの?」

ジニョンの瞳が堪えた涙で潤むのを見て、
フランクは自分も胸を詰まらせているのを実感していた。

「止めましょう・・・こんなところで・・・
 これ以上話しても・・・帰るわ」
ジニョンは席を立ちかけて言った。

「ごめん・・気分を悪くしたなら謝る・・・
 でも帰らないで・・・少しでいい・・・
 君の誕生日に・・・もう少し、ここにいて・・」

ジニョンは動揺を抑えるように胸に手を宛がって、小さく深呼吸をした。

「いいわ・・・でも、もうホテルの外では逢ったりしない。」

ジニョンは、それが自分の本心と、断固とした口調で彼を見た。
 
「・・・外で会うことは望まない・・しばらくの間。」
フランクは、今のこの場に彼女を留めて置くために、そう言った。

「しばらくじゃないわ・・プレゼントももう止めて・・」
 
「わかった・・・ルームサービスももう止めよう・・・
 その代わり・・・」

そう言いながらドンヒョクはジニョンの後ろに回った。

「その代わり・・・これだけは受け取って」
フランクはジニョンの首にネックレスを掛けた。

「困るわ・・こんな高そうなもの」

「やっぱり似合ってる・・・」 そう言いながらフランクは目を細めた。

「高いんでしょ?」

「領収書見せる?」 
そう言ったフランクの笑顔が昔と少しも変わらなくて、ジニョンは
胸を締め付けられるように動揺した。

「・・・いつだって強引・・・」 ジニョンは怒りの表情を崩さなかった。
それでもいつしか自分の声が柔らかくなっているのを、彼女は感じた。

≪いつもそうだった・・・
 喧嘩をして、私がどんなに怒っても、
 いつの間にかフランクのペースに巻き込まれて
 いつの間にか・・私は気持ちを落ち着かせている・・・
 でも・・・昔とは違うのよ、フランク・・・
 もう私は、昔のような子供じゃないの≫

「誕生日・・・おめでとう」 フランクはグラスを差し出した。

彼が差し出したグラスに、ジニョンは自分のグラスをそっと添えて、
泣き笑いのような顔で答えた。「ありがとう・・・」




レストランを後にして、フランクはまたジニョンが固辞するのも聞かず
強引に彼女をアパートまで送った。

「ありがとう・・・君の誕生日を一緒に過ごさせてくれて」

「・・・あ・・ありがとうございます・・それじゃ・・」
ジニョンが車を出ようとすると、フランクは急いで車を降りて
助手席へ回り、ドアを開けて彼女の手を取った。

「部屋の前まで送らせて」 フランクのその言葉に、ジニョンは
返事こそしなかったが、瞳は拒んではいなかった。
フランクは彼女の後を付いて、階段を上り始め、彼女の横に並んだ。

ジニョンは自分が可笑しかった。
フランクと、まるでまた新たな出逢いをしているような錯覚を
覚えている自分を見ていた。


「あ・・ありがとう・・ここなの・・それじゃ」

「こんな時・・・お茶でもって誘わない?」

「フランク!・・調子に乗らないで」

「ごめん」

それでも少し動揺してしまったジニョンがバックから取り出そうとした鍵を
落としてしまい、同時に拾おうとしたふたりの指が触れ合った。

「あ・・」

フランクはジニョンににっこり微笑んで、その鍵を拾うと、
彼女の部屋のドアを自分が開けてあげた。
「さあ・・入って?・・・」 そして、彼女に入るように促がした。

「え・・ええ・・」

部屋に入ろうとしたジニョンが、後ろに聞こえた音に振り返ると
フランクが鍵の束を彼女の目の前で揺らしてからかうように笑っていた。
そして、手を差し出したジニョンの掌にそっとその鍵を落とすと
それまで鍵を握っていたフランクの手が、ジニョンの掌を被って
彼女の手首を掴むと、彼は真剣な面持ちで彼女を見つめながら
ジニョンと共に部屋へと入った。

彼の自分を見つめる眼差しに圧倒されて、彼女はまるで
金縛りにでもあったようだった。


  彼の手が自分の髪に触れる優しさを忘れてはいない

  彼の唇が自分の唇に触れる柔らかさを忘れてはいない

  そうよ・・・いつも恋しくて・・・恋しくて・・・待っていた

  ≪でも・・・≫ 裏切られた悲しみは、もっと忘れてはいない

ジニョンは自分に近づく彼の唇の前で俯き顔を伏せ、拒絶した。

「駄目・・・」

「どうして?」

「できない。」

「僕を許せないから?」

「・・・・・・」

「・・・待ってる・・・」

「・・・・・・」

「おやすみ・・・」


  待っている・・・

  君が僕に心ゆくまで怒りをぶつけてくれるまで・・・

  その怒りが涙となって・・・

  綺麗に洗い流され・・・



      君が・・・僕に戻るまで・・・





 



 

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