2010-11-19 09:00:36.0
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-11.心に響く声

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         collage & music by tomtommama

 

              story by kurumi



      





教会を出ようとしたその時、フランクが祭壇に向かって十字を切った。
ジニョンは昔から彼のその後姿が好きだった。


   ≪フランクがお祈りしている後ろ姿、素敵≫

   ≪後ろ姿?≫

   ≪うん・・神様を信じてるなって、背中に感じるの≫

   ≪ふ~ん・・・改心したからかな≫

   ≪改心?≫

   ≪そう・・昔は信じてなかった・・神様のこと≫

   ≪昔は?≫

   ≪ん、ちょっと前までね・・・≫


10年前の或る日、そう言ってフランクは私にウインクをした。

   ≪それはきっとね・・君と出逢ってしまったから・・・
    君と出逢ったことは僕にとって奇跡みたいなもんだよ
    だから、信じないわけにはいかなくなった
    だからね、こうして、神様にお礼の気持ちを伝えてるんだ・・・
    君に逢わせてくださってありがとうございますって≫

彼はそう言って十字を切って見せた。いつもそうだった。

フランクはジニョンに対していつもストレートな愛情表現した。
ジニョンはそんな時のフランクの笑顔が好きでたまらなかった。
10年の年月はとても長くて苦しかったけれど・・・
ジニョンはいつも彼のその笑顔を心に描いては自分を宥めていた。

そして今、彼女はこうして彼の強引なまでの行動に驚かされながらも
その時を乗り越えて、その頃の彼に対する狂おしいほどの感情を
また胸に蘇えらせている。

ジニョンは素直にそう思っていた。

 


ジニョンが緊急に呼び出されたのは、ソウルホテルに存亡の危機が
訪れていることをホテルの支配人クラスまでに知らせておきたいという
ドンスク社長の意向によるものだった。

ソウルホテルが経営難に陥っていることは、もう大分前から
従業員の間でも噂にも上り、ホテルの顧問弁護士を父に持つジニョンが、
他の従業員達から問い質されるということもしばしばあった。

しかしこうして改まった形で、社長直々に通達をするということは、
現在の状況がかなり緊迫した状態にあるのだろうと、経営に疎いジニョンでさえ
察しが付くというものだった。

ハンガン流通がソウルホテルを買収するべく、裏で取引銀行に手を回し、
従業員の給料までも支払えない状況に追い込まれつつあることも、
社長は正直に話したが、“皆さんにご迷惑は決して掛けない”と誠意を示した。


テジュンが、従業員一丸となって、この不測の事態に対処していこうと
彼らの士気を上げた。
副総支配人やその臣下は、決してテジュンに対して協力的とは言えなかったものの
多くの支配人達は彼の元、結束を固めることを誓ってくれた。

会議が終了し、出席した者がそれぞれに困惑を顔に描きながら退席していった。

ジニョンも今は何も考えず、自分のできることをやるしかないと
自身に言い聞かせながら姿勢を正し、チェックアウトを控えたフロントへ
宿泊客の対応に向かった。

 


その夜、ジニョンとテジュンは社長室に呼ばれた。

「ジニョンssi・・お父様から先程、連絡があったのよ」

「父から?」

「三日後には帰国されるそうよ・・今の状況で彼がいてくれると心強いわ・・
 ジニョンssi、お父様が帰国されたら、至急役員会を開く予定です・・・
 支配人全員参加して頂きますので宜しくお願いしますね」

「あ・・はい・・・・」

「・・どうかしたの?ジニョンssi・・・そんな顔しないで・・・大丈夫よ、
 心配ないわ・・・皆で協力して乗り切りましょう
 このソウルホテルは先代の・・
 いいえ、私達の夢ですもの・・安心なさい
 決して潰したりしない・・決して他人の手に渡さないわ。」

「ええ・・もちろんです。」 
ジニョンは社長の言葉を聞いて、心に少し灯りを取り戻したようだった。

「それから、お父様もお喜びでしたよ」

「えっ?」

「あなた達のことよ」 
そう言いながら、社長はにこやかにジニョンとテジュンを交互に見た。

「あ・・それは・・」 ジニョンはとっさにそれを否定しようと口を開いた。

「ごめんなさい、私、余りに嬉しくて、ついおしゃべりしちゃって・・
 あなた、まだお父様にお話してなかったんですって?
 私、てっきりお話されてると思って、お祝い申し上げちゃったわ」

「あの・・」

「おめでたいことだから、許してね・・
 ジニョンssi、テジュンssiとあなたが一緒にいて下されば、安心だわ」

「・・・・・」

「どうかしたの?・・」

「あの・・実は・・」

「社長、少しお休みになられた方が・・」
ジニョンの言葉を遮るように、テジュンが言葉を挟んだ。

「社長、ご気分でも悪いんですか?」 ジニョンは社長の顔を覗きこんだ。

「さっき、貧血を起こされた」 代わりにテジュンが答えた。

「そうなんですか?」

「少し疲れただけなのよ・・
 テジュンssiが大げさなの・・ありがとう、でも大丈夫よ」

「とにかくここは、我々に任せて・・今日のところはお休み下さい」 
テジュンが社長の体を支えてそう言った

「そうね、そうさせていただくわ・・」

 

 

テジュンとジニョンは社長室を出てフロントへと向かった。
「テジュンssi・・・話があるの」

「何だ?ホテルのこと以外なら、今は止めてくれ・・
 大事な時なんだ・・気持ちを集中したい」

「大事なことなの」
ジニョンはそう言いながらも、別のことが気になってしかった無かった。

「今は個人的なことより、ホテルのことに神経を注ぎたい」
この時、ジニョンにはテジュンの声は届いてはいなかった。

「社長、お体の調子が悪いというのは本当なの?」
先ほど垣間見たドンスクの様子が気になって仕方なかったのだった。

「言っただろ・・さっき貧血を・・」

「それだけ?・・・」

「・・・・・」

「何か隠してない?・・」

「いや何も?」

ジニョンはテジュンの社長の体を心配する様子が更に気になっていた。
しかしテジュンはそれ以上何も言わなかった。

「信じていいのね」

「ああ」

ふたりがフロントへ向かっていると、前方にフランクが現れた。
フランクはジニョンがテジュンと真剣な面持ちで話している姿を見て
胸が痛むのを感じていた。

「あ・・フ・・お客様・・・いかがなさいましたか?」

「ビジネスセンターを使いたいのですが」 

「あの・・センターは既に終了してしまって・・」
ジニョンは困ったように、テジュンを見た。

「保安課に連絡入れて・・ソ支配人、あなたがご案内してください」
透かさずテジュンがそう言った。

そしてテジュンは
「お客様のご希望に万全を尽くすのがホテリアーの役目だろ?」
とジニョンに小声で呟いた。
それは彼女に、彼が飽くまでも『客』であることを強調しているように思えた。

「それでは・・・失礼致します・・お客様」
テジュンは儀礼的な笑みを浮かべて、ドンヒョクに会釈し立ち去った。

 

 

ジニョンはフランクを呆れたような顔をして振り返りながら
ビジネスセンターの鍵を開けた。

「どうも彼には嫌われているようだ」 フランクが面白がっている風に言った。

「そうかしら・・・」
「仲がいいんだね」
「気になりますか?」
「ああ・・気になる」

「よく言うわ・・散々・・あ・・駄目ね・・またこんな言い方・・」

「胸に刺さる」 フランクはそう言って自分の胸に手を当てた。

ジニョンはフランクのその仕草に笑いながら言った。
「・・ところでお客様?・・・ここでできることは
 お客様のお部屋でもできるようになっているはずですが・・」

「部屋では、君に逢えない・・・」 
フランクは書類に目を通しながら、表情を変えずにそう言った。

「だから、よくここを利用してたのね」 ジニョンは呆れたように笑った。

「その通り。・・・ところで、ソ支配人、忙しそうだね?」 
フランクは受話器を取った。

「ええ・・・不本意ながら
 我侭なお客様のお相手をしなければいけない時もありますので」
フランクは今度は無言で胸を押さえ目を閉じると、傷ついた、という仕草をした。

「ところで・・・」 フランクは電話機のボタンを押しながら切り出した。
「えっ?」

「どうかしたの?・・顔色が悪い・・心配事?」
「え・・ええ・・実は・・・」
ジニョンがフランクに話をしようとした瞬間、彼が掛けていた国際電話が
繋がってしまった。

「ブライアン・・僕だ・・フランクだ・・」 
フランクはジニョンに目で“ごめん”と合図をした。

ジニョンはフランクが仕事の電話を掛けている間、黙って待っていた。

「ああ・・知らない・・今聞いた・・わかった・・確認してみるよ・・
 それじゃ・・・この電話を部屋に回すには?」
一旦、受話器を置いたフランクがジニョンに向かって問うた。

「8を回して部屋番号を・・」
ドンヒョクの顔はつい今しがたまでの優しげな表情を何処かへ
置き忘れたかのように強ばり、電話のプッシュボタンを押した。

「レオ!エリックのことを何故黙ってた!
 保留だと言ったはずだ!俺を何だと思ってる!」

『しかし、ボス・・このまま待っていて何の得がある』

「それは俺が決めることだ!」

『ボス・・しかし・・』

「お前はエリックの部下か!俺の部下なのか、どっちだ!・・
 それともコミッションでももらったか!
 とにかく!明日の朝までに会議の資料を用意しろ!」
フランクは大声を張り上げた勢いのまま受話器を乱暴に置いた。

「あ・・ごめん・・つい大声で・・」
我に帰ったフランクがジニョンの視線を感じて、トーンを下げた。

「まったく知らなかったわけじゃないから・・
 でも迫力・・増してるかも」 
ジニョンはそう言ってわざとらしく天井を見上げた。

「はは・・そうか・・また君に叱られそうだね・・気をつけるよ」
フランクは神妙に言って、ジニョンに笑みを向けた。

「お仕事大変なのね」

「ああ・・・明日、会議室を用意して欲しい・・8時に」

「ええ・・いえ、はい承知いたしました。怒られないように・・
 ちゃんとご用意いたします、お客様」

「ジニョン・・・」 
ジニョンのわざとらしいかしこまった言い方に彼は苦笑した。「それで・・」

「えっ?」

「さっき、言い掛けただろ?何か悩みでも・・」

「ああ・・いいえ、何でもないわ」

「本当に?」 フランクは少し身を屈めてジニョンの顔を下から覗き込んだ。

「ええ・・」 
ホテルの事情、社長のこと、敢えてフランクに話すことではないと
ジニョンは思った。

それから、テジュンと自分のことは自分で解決しなければならない
そう思っていた。

≪フランク・・・たぶん・・・
  またあなたと生きるため・・に?・・・≫

ジニョンはまだ自分のフランクへの想いの変化を、自分自身の心に
認める勇気を探していた。

 

「仕事はまだ終わりじゃないの?」 
フランクがセンターでの仕事を終えようとしている時、書類をまとめながら
ジニョンにそう言った。

「ここへ来なかったら、終わってたけど」 
ジニョンはそう言って小さく彼を睨んだ。

「はは・・そうか・・・じゃあ、外で待っててもいい?」

「・・・・・・」 ジニョンは少しの間言葉を呑んだ。

「駄目?」 フランクはまたジニョンの目を下から覗いた。

「・・・いいわ」 ジニョンは自分の心に決心したように頷き言った。

「本当に?」

「でも・・もう遅いから・・少しだけ・・」

「ああ・・また駅まで送るよ」 フランクは満面を笑みにして喜んだ。

「ええ」


ジニョンが私服に着替えて通用門に現れるのを、フランクは待っていた。
次第に頬が綻ぶ自分に笑いながら、時折眼鏡の中心を指で押し上げた。

「お待たせ」 ジニョンもまた頬を緩めていた。 「ああ」

ふたりは数日前と同じように並んで歩きながら、互いの心が
その時よりもかなり近くにあることを、歩く靴音にさえ感じた。

しばらくの間ふたりとも無言で歩いていたが、先にジニョンが口を開いた。
「フランク・・って・・・」 「ん?」

「私があなたをドンヒョクssiと呼ばずに・・フランクって・・」
「・・・ああ・・」 フランクはジニョンが何のことを話し始めたのか、
やっとわかって相槌を打った。

「決して・・・あなたが本当のあなたじゃないとか・・
 ドンヒョクssiじゃないとか・・そういうことじゃないの・・・」

「・・・・・」

「フランクは・・・私にとって・・フランクは・・・
 フランクでしかなかったから・・・」

「・・・・・」

「初めてあなたと逢った時・・・別れ際に・・・
 ほら・・ブロックの角をあなたが曲がって消える瞬間に・・・
 “フランク”・・・あなたがそう残した・・・覚えてる?」

「ああ・・もちろん・・覚えてる」

「その後・・あなたが行ってしまってから・・
 次の日も次の日も・・また次の日も・・・
 私の頭の中はあなたでいっぱいだった・・
 フランクでいっぱいだった・・・だから・・」

「・・・・・」 フランクは歩くのを止めて、ジニョンの背中を見つめた。

「あの日から・・・いつもいつだって・・・
 私にとってあなたは・・・フランクだったの・・・
 フランクでしかなかったの・・・」 
ジニョンもまた立ち止まり振り返ると、彼を切なげに見つめた。

「ジニョン・・・」

「だから・・・あ~!何だか上手く言えないわ・・私ったら、
 何言ってるのか・・良くわかんなくなっちゃった」
ジニョンは自分自身がじれったいかのように、自分の髪の毛を
ぐしゃぐしゃにした。

「わかるよ・・・言ってること・・・」 フランクは穏やかにそう言った。

「・・・・・」

「ありがとう・・・」

「ありがとう?」

「ああ・・君の中に僕を残してくれていて・・・」

「誰がそんなこと言ったの?」

「その目が言ってる」

「チィ・・わかったように言わないでって・・」
「わかってる・・・」 

「・・・・・」

「さあ、電車に遅れる・・急いで駅へ行かないと・・」

「ええ」

ふたりは互いに照れたように笑いながら周りを見渡して、
そこがもう目的地の駅だったことに気がつくと、更に笑った。

ふたりで歩くにはホテルから駅への道はやはり短か過ぎた。

「それじゃ・・」 
ジニョンはまだ照れたようにスカートの裾を握って会釈した。

「ああ・・また明日・・・」 
フランクは残念そうな眼差しを彼女に送りながら手を振った。

「ええ・・また明日・・じゃ・・」

ジニョンは何度か振り向き、微笑を送りながら構内に消えた。

フランクはフーと溜息をつき、ポケットから煙草ケースを出すと
煙草を一本抜き取った。
しかし次の瞬間、彼はその煙草を素早く元に戻すと、ジニョンが今しがた
下り去った階段を勢い良く駆け下りた。

フランクが走って構内へと向かい、駅の改札の方へと角を曲がった瞬間に、
突然その足を止めた。

目の前にジニョンがこちらを向いて立っていた。

フランクは余りの驚きと喜びに胸を突かれたように混乱しながら
吐き出すように溜息をひとつついて彼女に駆け寄り、その手首を取ると、
ぐいと引き寄せ自分の胸にきつく抱き止めた。


「・・・フランク・・・」 
その瞬間ジニョンが口にした彼の名前はまるで溜息のようだった。

彼は彼女の名前を声には出さなかった。

ただ自分の胸に響くその名を心で聞いていた

 

      ・・・ジニョン・・・



 












 

 


 

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