2011-02-11 21:17:55.0
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-エピローグ“・・・もう一回”

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collage & music by tomtommama 

story by kurumi

 


『どういうことだ?ボス』
フランクからの電話を受けたレオが思わず大声を上げた。

「・・そういうことだ」 フランクはこともなげに答えた。

『イタリアへ行かないって?・・お前・・
 今回の仕事はお前が受けた案件だぞ』

「事情が変わった」

『そんな勝手なこと・・』

「お前が代わりに進めてくれ」

『お前はどうするつもりなんだ』

「アメリカへ帰る・・それじゃ」

『アメリカって・・お・・おい!フランク!・・』 
フランクはレオの言葉を最後まで聞かずに電話を切った。


「フランク・・」 ジニョンが傍らで心配そうにフランクを見上げていた。

「ジョルジュに連絡できた?」

「えっ?・・ええ、“後は任せておけ”って・・
 ・・ねぇ、フランク・・」

「搭乗手続きまで一時間位ある・・お茶でも・・あ、その前にこれ・・
 何とかしないと・・」 そう言いながらフランクはジニョンの制服を摘んだ。
そして彼はジニョンが何か言いたそうにしているのを敢えて避けるように
さっさと彼女の前を歩き始めた。

「私!イタリアへ行くわ」 
ジニョンは彼の背中に向かって追いかけるように言った。

「・・・」 彼が立ち止まって、ゆっくりと振り返ると、彼女の強い眼差しが
彼を捉えていた。

「あなたが行かないと、レオssi困るでしょ?・・沢山の人が困るはずよ」

「君が気にすることは何もない。さっきその話は済んだはずだろ?
 今回の仕事はマフィアがらみで、半年は掛かりっきりになる
 君をそんな環境に置きたくないって・・そう言ったはずだ。」
フランクはうんざりとした表情で言った。

「ねぇ、フランク・・私はこれからフランク・シンと生きるのよ
 どんな覚悟もあるわ。」 そう言ったジニョンは凛として美しかった。

「僕にその覚悟が無い。」 
しかしフランクはジニョンの強い意志を断ち切るように答えた。 

「・・・」

「いいから、君は黙って僕の言うことを聞いて。」
「嫌よ」

「・・・。」

「あなたの言うことは聞かない。」 彼女の眼差しが更に強くなっていた。

「どういうこと?」 フランクは彼女に一歩近づいて言った。

「私は私なの。あなたが私を守りたいように、私も。
 私もあなたを守って生きる」 フランクが近づいて来たせいで、
ジニョンは顎を少し上に上げなければならなかった。

「だからって・・」

「イタリアへ行きましょう。一度引き受けた仕事は全うするべき、
 それがあなたのポリシィだったはずだわ」

「時と場合による。」

「いいえ、それが・・・フランク・シン、あなたよ。」
「僕はシン・ドンヒョクだ」

「あなたの真髄はフランク・シン。」

ジニョンは一歩も引かなかった。ふたりはしばし、無言で睨み合っていた。

「・・・・・・・・ふー・・わかったよ」
ジニョンの強い意志にフランクは、“負けた”とばかりに溜息を吐いた。
「君の言う通りにしよう・・・でも」
「でも?・・・」
「イタリアへ発つ便はさっき・・・」 フランクは指を上に示して見せた。
「あ・・」
「だから、一度アメリカに帰ろう・・・そして改めてイタリアへ
 それでいいかい?」

「・・・いいわ、仕方ないもの」
フランクはジニョンを見つめながら彼女に近づくと、少し呆れた顔をして
彼女の髪を撫でた。「困った子だね、君は・・・」

「・・・?」
彼が不意にその後ろ髪を掴んでグイと下に引き、彼女の顔を自分に向けさせた。
「言っておくけど・・僕はこれでも業界では名の知れた男だ。 
 色んな意味で恐れられてもいる。」 
フランクは厳しい眼光でジニョンを刺した。

「知ってる。」 それでもジニョンは怯まなかった。

「ふっ・・その僕を操ってるのが君だとわかったら、
 僕の威厳は地に落ちる。」

「操るって・・人聞き悪いわ」

「本当のことだろ?」 フランクは掴んでいた彼女の髪から力を抜くと、
その頭を自分の胸に強く押し付けた。
ジニョンは彼の大きな手が動くままに、身を任せ彼にもたれかかった。
「我侭言って・・ごめんなさい」

「我侭ってわかってるんだ」

「ちぃ・・」

「こんなことになるなら、請けるんじゃなかったよ、今回の案件」
フランクはそう言って、天を仰いで見せた。

「もう遅いわ」

「とにかく、決して無茶はしないこと。君が考えているほど
 甘い世界じゃないんだ。それだけは約束して。いいね。」

「ええ、約束するわ。」

「君は必ず僕が守るから・・・」

「ええ」

「それから、ソウルホテルのことも心配しないでいい・・・
 僕が細かく目を配るし・・・助けてくれる人も沢山いる」

「心配してないわ」

「そう?・・・本当は心配だろ?本当のことを言ってごらん?」
そう言って、フランクは自分の胸から彼女の顔を少し離すと
その目を覗きこんだ。「・・・そりゃあ・・」

「だろ?でも僕はここを出たら一年間は入国はできない。」

「ええ、わかってる・・そんなこと最初からわかって・・」

「でも君はできるんだ」

「えっ?」

「君は韓国へ行けるってこと」

「でも・・私は・・」

「ねぇ、さっき二度と離さない、って言ったこと・・撤回するよ」

「えっ?」

「はは、そんな情けない顔するな・・・でも・・・長くは駄目だよ
 そうだな、一ヶ月に三日だけ・・」

「・・・」

「理事代行として・・・」

「えっ?」

「理事代行として・・・それなら、従業員じゃなくても
 一連の業務に関わることも不可能じゃない」

「そんな・・重要な立場にはなれないわ」

「理事夫人なら、その立場にならざる得ないこともあるよ
 社交的な立場で・・」

「・・・」

「さっきそれを考えてたんだ。その手があるって」

「・・・」 
ジニョンが少し困惑した表情を見せる中、フランクの表情は柔らかかった。
「アメリカに帰ったら直ぐに教会へ行こう
 イタリアに発つ前に・・・結婚式を挙げるんだ」

「結婚式?」

「ああ・・しかし身内を呼んでいる時間も無い
 君のご両親には申し訳ないけど・・
 おふたりには少し後で君の花嫁姿をお見せしよう・・・」

「・・・フランク・・・」

「ふたりだけで誓いを・・・」

「ふたりだけ・・の・・結婚式・・・」

「嫌?」 

「いいえ、嫌じゃない。」 ジニョンは晴れやかな表情で姿勢を正した。

「だったら、交渉成立。」 
フランクはそう言いながら、ジニョンの額に唇をあてた。



一時間後、ふたりはアメリカ行きの便に揃って搭乗した。
ジニョンは空港内のショップで制服から、フランクが選んだ服に着替えていた。

座席に着いて、シートベルトを締め、飛行機が離陸準備に入ると
ジニョンが突然唇を尖らせて悪態をついた。

「あなたのせいよ」
「ん?」

「あなたのせいで、心の準備も無く飛行機に乗っちゃったわ」
「頼んでないよ」 
フランクがわざとそう言うと、案の定ジニョンはキッと彼を睨んだ。
「あ・・ごめん、僕がすべて悪いです。だから、機嫌を直して」

「大事なもの・・何も持って来れなかったし」 
フランクの取り繕いをよそに、ジニョンのトーンは更に下がっていった。

「荷物は準備してたんだろ?ジェニーにそのまま送ってもらうといい」

「みんなにお別れも言えなかった・・・
 社長・・エントランスで見送ってくださるっておっしゃったのに・・・」

「向こうに着いたら、お詫びの電話を入れよう」

「・・・・・・」

「・・・どうした?いざ飛行機に乗ったら怖気づいた?
 後悔してるの?・・」

「まさか・・後悔なんてしてない。ただ、ちょっと感傷に浸ってるだけよ
 飛行機が飛び立つ時って、そうなるものなの!知らないの?」
そう言いながら、ジニョンは目尻に滲んだ涙を急いで拭った。

フランクはジニョンの強がりに笑みを向けながら、彼女の背後に腕を回し
その頭に掌を添えると、そのまま自分の肩へと誘導し、言った。
「泣いていいよ」

「・・・・・」

「ねぇ、ジニョン・・これからもきっと泣きたくなる時はあると思う・・・
 でも約束して・・泣く時は必ず、僕の傍で・・・
 僕がこうして涙を拭えるように・・・わかった?」
そう言いながら、フランクはもう片方の掌で彼女の涙を優しく拭った。

ジニョンは黙って頷きながら、静かに目を閉じた。



夕暮れ迫る茜雲の中、飛行機が飛び立ち、ふたりはソウルを後にした。

フランクにとって、生まれ故郷にして、21年ぶりに訪れた懐かしい地。
たった二ヶ月の間に起きた出来事が走馬灯のように脳裏を巡った。

≪長年恨みに思っていた父との再会があった・・・
 少なからずそれは和解の道を辿っているだろう

 幼い時に別れた妹にも自分が兄であることを
 認めてもらえたような気がする・・・

 仕事以上の絆を結んでしまったソウルホテルの存在も大きい

 それはすべて、今僕の肩に眠る女により、もたらされた
 シン・ドンヒョクとしての世界

 そして僕は、フランク・シンとして生きるもうひとつの世界も、
 これから先・・この女を軸とするだろう

 間違いなく、僕は彼女によって育成され、
 彼女によって生かされている

 僕は認めなければならない
 僕のすべては彼女のものなのだと

 僕のすべてが・・・彼女のもの・・・それって・・・

 それって、凄く素敵なことじゃないか?≫

フランクは穏やかに口元を緩め、心地良さに揺れながら目を閉じた。
柔らかい眠りに誘われていた時、突然ジニョンの頭が彼の肩から離れ、
現実に引き戻された。
フランクは不満げに薄目を開けた。「・・・どうした?」

「ねぇ・・どうして三日なの?」

「ん?」

「さっき、一ヶ月に三日ならって・・」

「・・・?」 ジニョンが韓国に一時帰国する話をしているとわかるのに
数秒を要した。「・・・ああ、あの話?」

「三日じゃ何もできないわ・・
 移動時間を差し引くとほんの一日ちょっとじゃない?」

「だから?」

「せめて一週間はないと、十分なことはできないわ」

「駄目。」

「でも」

「忘れたの?君・・僕と離れたくないって、さっき泣いてた」

「あなたほどじゃないけど・・」
「!・・・・・・」

「それにね、ほら・・役に立たなきゃ、行く意味がないじゃない?」

「じゃあ、四日」

「六日」

「五日」

「・・・・・五日?・・しょうがないわね、手を打つわ」 
ジニョンは“仕方ない”というように、表情を曇らせて見せながら
承諾した。

「最初から五日が目的だったね」 フランクは横目で彼女を睨むと
その表情を探った。

「・・あなたのまねをしただけ・・たまにはいいでしょ?」

「あ、言っておくけど、その期間は必ずレイモンドが同行する」

「レイ?」

「ああ、第一にレイも必ずその時期に韓国に入る予定がある。
 第二に僕の妻となれば、狙う奴がいないとも限らない。 
 最後に第三、おっちょこちょいの君をひとりで遠出させるには心もとない。」

「うー!」

「唸るな、事実を言ってる」

ジニョンはプイと顔を横に向けたが、フランクの右手で直ぐ元に戻された。
「とにかく。今後、僕の手の届かない場所に行く時は
 必ず僕の信頼する人間と共に動くこと。」

「パパが言ってたわ、フランクは過保護過ぎるって」

「余計なお世話だと“パパ”に言っておいて・・・もう、寝てもいい?」 
フランクは心の中で愉快に笑っていた。

「いいわよ・・私の肩にもたれて?」 そう言いながら、ジニョンは
さっきフランクが自分にしたように彼の頭を自分の肩に誘導した。
フランクは心もとない彼女の肩に一度は頭を落としたものの
結局目が冴えてしまって頭を上げた。

ジニョンが“どうしたの?”というように、首を傾げた。
するとフランクがジニョンの耳元で囁いた。「キスしたくなった

「・・・駄目よ、こんな所で」 ジニョンはきょろきょろと周りを見渡し、
困ったような顔をした。

「君が起こしたんだ」 そう言いながら彼は彼女に顔を近づけていった。

「だって・・」 ジニョンは少しだけ頭を後ろに後退させたが、
結局フランクに飛行機の窓に追い詰められてしまった。

「ちょっとだけ」 フランクのまるで子供のおねだりみたいな言い方に
ジニョンはクスリと笑うと、照れたように目を閉じた。

ジニョンのシャイな承諾にフランクはニヤリと口角を上げると
彼は彼女の頬を両手に挟み、その唇に自分の唇をそっと押し当てた。

静かなくちづけだった。
優しくそしてなまめかしく、時に溜息混じりに愛しさを込めた
長い長いくちづけだった。
ジニョンは徐々に陶酔し、いつしか自分の腕を彼の首に回していた
頭の中が白くなり、ここが何処なのかさえわからないほどだった
甘く酔いしれる中、彼女は自分の頬が赤く火照っていくのを感じていた。

しばらくして、唇を付けたままフランクは彼女に優しく囁いた。
ジニョン・・・

ん?・・・

これ以上は・・・

ん・・・・

求めちゃ・・駄目だよ

「・・!フランク!私はそんな・・」 
ジニョンは突然正気に戻ったように彼から顔を離した。

「シー・・・」 フランクは唇に人差し指を当てて笑った。
そして次にはお腹を抱えるようにして、声を殺し笑っていた。

「ごめん
・・・」 笑いを堪えてフランクは謝ると、彼女の耳元にまた囁いた。

「これ以上続けると・・僕がもたないんだ」

ジニョンは彼の言葉に今度は頭まで真っ赤になったようだった。
フランクはそんなジニョンが愛しくてならなかった。

孤独だった氷のような世界が嘘のように暖かな風に溶けていく

今、目の前に・・そしてこれからも永遠に・・ジニョンがいる

いいや、それはきっと遥か遠い時間からに違いない

ふたりがこの世に生れ落ちる前からずっと

彼女の魂はずっと彼の元にいたのだから

彼の魂は必ず彼女の胸で生きていたのだから

   ≪男と女は・・・

    神様に生を受ける前はひとつの体だったの

    神はそれをわざと引き裂いて

    この世に遣わすという意地悪をなさった

    引き裂かれたそのふたつの体は

    ひとつの体に戻ろうと

    もうひとつの体を懸命に探すの・・・
   
    そしていつの日にか・・・

    彼らは自分の意志と関係なく

    惹き合い・・・出逢って・・・

    必ず・・・愛し合うのよ・・・≫


昔ソフィアがそう教えてくれた・・・

それが半身というものなのだと 

昔はそんな話を聞いても、気にも留めなかった

この世に信じられるものなどひとつも無いと思っていた

この世に僕の幸せなど存在しないと思っていた

でもジニョン・・・今は信じられる

君さえいれば・・・


「ジニョン・・・」

「ん?」

フランクはジニョンの唇の上ではじくようにくちづけると、
彼女の瞳の中で幸せそうに微笑んだ。


  そのすべてが叶うことを・・・


     ・・・「愛してる」・・・











      叫びたいほど・・・愛してる・・・












       「フランク・・・」 


       「ん?・・・」


       「・・・・もう一回」


       そう言ってジニョンが頬を染め目を閉じた



            ・・・えっ?・・・




 

              passion epilogue  the end  2010.2













 

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