2011-05-17 13:11:12.0
テーマ:ラビリンス-過去への旅- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

ラビリンス-10.過去の影

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「お年を聞いてもいい?」 車中、後部座席でジニョンがルカに質問していた。

「二十二歳です。」 ルカは答えた。

「二十二歳か・・うちの妹と同い年だわ。
 でも妹よりあなたの方がちょっと若く見えるわ。」
ジニョンはルカを見ていると、ジェニーと過ごした日々を懐かしんで、
少し感傷的になっていた。
≪私ったら・・ホームシック?・・・
 ソウルを出てまだ三週間しか経っていないのに≫
「あ・・ごめんなさい・・何だか妹を思い出してしまって・・・」
ジニョンは潤んだ目尻に指を宛がい、微笑んだ。

「私・・お姉さんが欲しかったんです。
 ジニョンさんをお姉さんと思っていいですか」 ルカは人懐っこい笑顔で言った。

「慣れ慣れしいぞ」 ジョアンが運転席からすかさず横槍を入れた。

「いいのよ・・嬉しいわ。あなた・・ご兄弟は?」 
ジニョンはジョアンを軽く睨んだ後、ルカに笑顔を向けた。
ジョアンは思わずルカの方を睨んだが、彼女は我冠せずのようだった。

「ひとり。・・妹がいます。」

「そう、あなたにも・・・」 ジニョンはそう言って優しく微笑んだ。
「何処からいらしたの?・・あぁ・・ミラノだったわね」 
ジニョンはさっき聞いたことを思い出したように言った。

「・・・出身はヴェネチアです。祖父の家がそこに・・・
 私はそこで生まれたんです」 

「ヴェネチア・・・水の都ね・・まだ行ったことはないけど、
 素敵な所だと聞いてるわ」

「はい。いい所です・・とても」





エマは会議室を出た後、昼食を外ではなくルームサービスに変更して、
部屋で休息を取っていた。
しかし頭の中は、指折り数え待った男のことでいっぱいだった。

そこへドアの呼び鈴が鳴った。
その瞬間、彼女の顔が綻み、輝いた。≪フランク?≫

彼女はドアに急いで向かうと、覗き穴も確認せずにドアを開けた。
しかし、そこに立っていたのは彼ではなかった。

「・・・・・何か用?」 
彼女は一瞬にして表情を曇らせると、トマゾに向かって冷めた声を投げた。

「会長がお呼びです。」 トマゾは表情を変えることなく用件を言った。

「会長が?」

「はい。上のラウンジでお待ちです」

「・・・用意したら行くわ」 エマは気が乗らないように溜息を吐いて、
乱暴にドアを閉めた。





「どんな様子だ?エマ」
エマが席に付くと、ジュリアーノは手にしていたカクテルグラスを
テーブルに戻して言った。

「はい。すべて順調に進んでいます。Mr.サイモンも・・」
「そんなことは聞いていない。」 ジュリアーノは彼女の言葉を遮った。

「・・では?・・」 エマは首を傾げた。
「フランクとはどうだ?」

「・・・・・・」

「5年ぶりの再会はどうだった、と聞いているんだ」 
ジュリアーノはその目の奥に意味深な影を忍ばせて言った。

「・・・特に・・何も・・・5年も経っているんですもの・・
 拘りはありませんわ。お互いに・・・」

「お互いに?そうか?」 

「ええ・・とうに過ぎたことですから」 エマは微笑んで答えた。

「過ぎたこと・・・・エマ・・ワインでもどうだ?」

「いいえ・・私は・・・」

「フランクの選んだワインの方がお好みかな?」
ジュリアーノがそう言った瞬間に、エマは隣の席に付いていたトマゾを睨んだ。

「私は・・」 トマゾが言い掛けると、ジュリアーノが更に笑った。
その様子にエマは一瞬にして表情を強張らせた。
「盗聴を?」 エマは疑うように言った。

「心配するな。会議室だけだ。」 ジュリアーノは平然と言った。

「どうしてそんなことを?・・」 

「どうして?私がお前やあいつを・・信用しているとでも思っていたのか?」
ジュリアーノは愉快そうに笑った。

「・・・・それでは何故、私を彼の元に?」

「何故?・・・」

「ええ、何故。」

「無論。・・・・面白いからだ。」 ジュリアーノはそう言って小さく笑った。

「面白い?」 エマの目に一瞬力が入ったが、彼女は努めて平常心を保った。

「ああ。そうじゃないか?トマゾ・・・」 
ジュリアーノは思わせぶりにトマゾに同意を求めたが、彼は無言だった。

エマが突然立ち上がった。
「少し体調が思わしくありません。今日は失礼して宜しいですか?」 

「構わん。大事にするといい」 
ジュリアーノはワイングラスを口に運びながら、そう答えた。
エマは彼に一礼すると、踵を返し、そのままラウンジを出て行った。

ジュリアーノは出て行く彼女を一瞥しながら口を開いた。
「トマゾ・・」

「はい。」

「おまえの方はどうだ?」

「はい。首尾良く。」

「そうか・・・早く連れて来い。」

「承知致しました。今しばらくお待ち下さい」





ドンヒョクは先程からジニョンへ電話をかけていたが、繋がらなかった。
「何処にいるんだ?いったい・・」 ドンヒョクは苛立ち呟いた。

そこへドアが激しくノックされる音が聞こえた。
覗き穴の向こうに、切羽詰ったような形相のエマが見えた。

「何のつもりだ。」 ドンヒョクがドアを開けながら言った。
チャイムではなく激しくノックすることで、少なくとも彼女はドンヒョクに
ドアを開けさせることに成功した。

その瞬間にエマがドンヒョクの胸をめがけ飛び込んだ。

「フランク!」





「ここにドンヒョクssiが泊まっているのね」 ジニョンは建物を見上げ呟いた。

「ジニョンssi!もう駄目です。ボスやミンアさんに気づかれたら・・
 車に戻ってください、早く」
ジョアンが必死になって車の中から、声を潜めるように叫んだ。
ジニョンはそんなジョアンを笑いながら、急いで車に戻った。

「ジニョンssi・・ボス達が出て来たらどうするんですか」
後部座席に戻ったジニョンを振り返って、ジョアンは言った。

「ふふ・・そうでした。見つかったら大変ね」 
ジニョンはそう言って両肩を上げた。





「フランク・・・」 エマは彼の腕の中で、今まで押し殺していた想いを
吐き出すように、彼の名を呼んだ。

「どうした・・・」 ドンヒョクは直ぐには彼女を突き放さなかった。
彼女が余りに弱弱しく震えているように思えたからだ。

「いいの・・・このままでいて。少しだけでいい。このままでいて。
 お願い・・・」 エマはそう言って懐かしい彼のぬくもりを自分に移した。





ルカはジニョンとジョアンの会話を聞いて、首を傾げていた。
「ボスって・・私達のボスでしょ?」 と彼女が言った。

「僕のボスだ。まだ君のボスじゃない。」 
ジョアンは勘違いするなというように語気を強めた。

「そのボスと、どうして会うとまずいんですか?」 
ルカはジョアンの言葉を聞き流して重ねた。当然の疑問だった。

「あのね、ルカ・・私達は独自に仕事をして、ボスの手助けをするの。
 でも実は、ボスはそんなことして欲しくないと思ってる」
ジニョンはルカに向かって、朗々と語るように言った。

「つまり、ボスに内緒で動くんですね。私達だけで。」

「そういうこと。飲み込みが早いわね」

「それって・・何だか、かっこいい」 ルカが手を合わせて、浮かれるように言った。

≪軽いやつ・・・≫
ジョアンは思ったが、今はそうであってくれる方が遣り易いと思いホッとした。





「ワインは届いただろ?」 ドンヒョクはエマに言った。
エマはしばし彼の腕の中にいた。しかし、こうしている間も決して
自分の背中に回されることなく、壁に沿ってだらりと伸びた彼の腕を
恨めしく眺めた。「抱いてくれないのね」 エマはポツリと言った。

「・・・・・・」

「昔のように・・・」

「必要なことなのか?」
ドンヒョクがそう言うと、エマは急に笑い出し、彼の胸から離れた。

「・・会長がどうして私をあなたのそばに置いていると思う?」
エマは笑いを堪えながら言った。

「想像付くだろう。駒を並べて面白がっているだけだ」 
ドンヒョクはそう言ってコーヒーを入れた。「飲むか?」 

エマは首を振った。
「そう、面白がってる・・・あなたはわかっていたのね」

「フッ・・」

「ねぇ・・・・必要なことなのか・・そう言ったわね
 必要なことだと言ったら・・・」
エマはそう言いながら、ドンヒョクに近づき、その胸に掌を当て
彼を見上げた。

「・・・・・・」
無言で見下ろした彼の冷めた視線に、彼女は自分を蔑むように笑った。

「少なくとも・・あの頃は・・必要だった?」 それでもエマは彼を熱く見つめた。

「・・・・・・」 ドンヒョクは何も答えなかった。

「もう私に関心すらない?・・・・それが・・私への罰なの?」 
エマは呟くように言いながら、頬に一筋の涙を流した。

そうして彼女はドンヒョクから体を離した。

ドンヒョクはドアに向かった彼女の後ろ姿を目で追っていた。
その眼差しに今まで彼女に見せていた冷たさは無かった。

例え一時でも、互いの寂しさを重ね合った女の後ろ姿に侘しささえ覚えた。

まるで・・・
憎むべき女を憎みきれなかったあの時の自分自身の思いに


    ・・・タイムスリップしたように・・・


             













 

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