2012/04/01 15:25
テーマ:ラビリンス-過去への旅- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

ラビリンス-エピローグ.明日の青い空

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「どうしてご一緒にお帰りにならなかったんですか?」
レイモンドに向かってミンアが言った。

「別れたくなかったから。君と・・」 レイモンドは真顔で答えた。

「えっ?・・えっ?」 
ミンアは聞き間違いかと、思わずレイモンドを二度見してしまった。

「冗談だ。」 
レイモンドはミンアの間の抜けたような表情に、大げさに笑った。

「!・・冗談がお好きですね。」 ミンアは目尻に力を入れた。
しかしレイモンドはそれに気にもかけず、話を続けた。
「ルカを預かったんでね」 

「えっ?」 
レイモンドの言葉に今度はそばにいたルカが驚き、声を上げた。

「出発は早い方がいい。二・三日の内に準備をしなさい。」
レイモンドはルカに視線を向けて、そう言った。

「出発って?」 ルカはまだ状況が把握できていなかった。

「アメリカに」 レイモンドはさらりと答えた。

「えっ?・・・」 ルカは相変わらずぽかんとした表情をしていた。


実は、ドンヒョクは以前からレイモンドに、ルカが医者の道に
進む手助けを依頼していた。

今回の一件で、ルカを脅かす存在は消え去ったと言えるだろう。
彼さえ望むなら、渡米の時期を早めるにはいい時期だと
ドンヒョクとレイモンドのふたりは考えていた。

突然のことに心ここに有らずのルカをよそに、レイモンドは笑っていた。
アメリカに戻ったジニョンが、今しがた涙ながらに別れたルカと
近い将来再会を果たす。
その時の彼女の涙の感動を思い描いて、面白がっていたのだ。

「大学はアメリカで通うことになる。住居は私の家だ。
 一人暮らしは許さない。アメリカ滞在中は私と
 私の義母が厳しく君を教育する。
 妹君は、二・三年経って、君が向こうに慣れた頃に・・」

レイモンドは自分の前でいつまでも唖然として立ち尽くす
ルカを見て、話を中断した。「どうした?・・・嫌か?」
 
「いいえ。いいえ。僕・・アメリカに行けるんですか?
 フランクやジニョンssiのいる・・アメリカに?」
ルカはやっと飲み込めてきた話を、確認するように言った。

「ああ、車で10分のところに奴らはいるよ」

その言葉に、ルカは無意識に瞳をきらきらと揺らめかせたが、
はっと我に返って表情を曇らせた。
エマを思うと、素直に喜べない自分がいたのだ。

「ルーフィー・・何て顔してるの?
 あなたの小さい時からの夢が叶うんじゃない。
 これ以上のいいお話がある?」
ルカの気持ちを察して、エマは空かさず言った。

「いいの?・・僕・・行っても・・アメリカは遠いんだよ
 会えなくなっちゃうんだよ」

「一生の別れにはならないわ、そうでしょ?」
エマはそう言いながら、ルカの頭を撫でた。

「・・・エマ・・・」 ルカは喜びと寂しさに複雑な心境だった。
しかし、エマの言う通り、その道は自分が幼い頃から
思い描いていた夢だった。

「行くか?」 レイモンドが確認するようにルカの瞳を覗いた。
「ぁ・・・はい。行きます。」 ルカはアメリカ行きを決意した。
大きな瞳を輝かせ、近い未来に心を躍らせながら。

「あの・・ひとつだけ・・・ジュリアーノはどうなったんですか?
 エマはもう危なくない?」 ルカがレイモンドに訊ねた。

「心配するな。奴はFBIの手に委ねられた。」

「逮捕されたということ?」

「ああ、今頃は。
 ジュリアーノ一派は壊滅状態だ。」

「・・でもどうやって・・・」

「この五年間の間に、フランクは奴の不当な取引の証拠を
 集めていたんだ。ひとつ残らずね。
 水面下でじっくりと罠を仕掛けもした。それによって
 今までの罪状もすべて明らかにされたというわけだ。
 生涯、表に出てこられない位にな。」
レイモンドは胸を張ってそう言った。

「・・・フランクが?」

「イタリアにはそのためにいらしたんだ。
 私も何もかも証言することを承諾した。
 いいか、ルーフィー・・これでもう、
 君達がジュリアーノを恐れる理由は何も無いんだ。」
今度はトマゾが言うと、いつの間にか彼の傍らにエマが寄り添い、
二人並んでルカに温かな微笑みを向けていた。

「本当に?」

「フランクが信じられないか?」 レイモンドが言った。

「ううん・・・ううん・・・信じる。信じます。」

レイモンドは続けた。
「これからは君達は何処にも隠れる必要は無い。
 自由に、君達の人生を生きるんだ。
 ご両親に胸を張れるような、人生を・・・」

ルカの目から涙が溢れ出た。
そんなルカを、そばにいたトマゾもエマもミンアもジョアンも
温かな眼差しで見つめていた。

「はい。」
ルカはすべての人に感謝の気持ちを捧げたい気分だった。
自分達兄妹のために、命さえも掛けてくれた人々に、
これからの自分の生涯を掛けて、報いよう、そう誓った。

「あーしかしだな・・・ひとつだけ忠告しておこう・・・」
レイモンドが改まって背筋を伸ばした。

「はい」 ルカもまた背筋を伸ばして彼の言葉を待った。

「アメリカに行ったら・・・・」 
レイモンドは勿体つけたように話し始めた。

「はい。」

「ジニョンを愛してる、という言葉はだな・・・
 フランクの前では使うな。」 最後は小声で言った。

「え?」

「ミンア・・食事の手配をしよう、手伝ってくれ」 
レイモンドはキョトンとしたルカの前を、知らぬ顔で通り過ぎた。




ルカはエマと共に、トマゾの案内で小さな島を歩いて巡った。
亡き父の想いが詰まった教会、そしてフランクが守ってくれた教会。
この数年でリフォームされた内装とは打って変わって
年代ものである概観は、古きよきものを損なわないように
美しく補修されていた。
ルカはそれらを感慨深く見渡した。

ここに来る途中、この教会はルカのものだとフランクが言った。
それならば、とその時ルカは思った。
この教会が、親を亡くした身寄りの無い子供達のために
使われることを提案しようと。


そしてこのルカの島で、初めてのささやかな晩餐会が催され、
未来ある若き当主の前途を祝った。

ルカはこの場にいないフランクとジニョンを思っていた。
ふたりに会ったら、いっぱいキスしよう。
ふたりに会ったら、いっぱい愛してるって言おう。
ふたりに会ったら・・・
喜びの輪の中に居ながら、ルカの瞳はいつしか涙に溢れていた。



ルカと、彼に関わった人々の明るい未来の喜びの中で、
ジョアンの言葉が少なくなっていることにミンアは気づいていた。
「どうしたの?ジョアン・・まだ傷が痛む?・・」
そう言いながらミンアは、まだ新しい頬の傷を指でつついた。

「いいえ・・・」 ジョアンは少しばかり機嫌悪そうに返事をした。

「でもさっきからあまり食べてないじゃない?
 ワインも・・ほら・・進んでないわ」
そう言いながらミンアは、彼の目の前のワイングラスを指した。

「食欲無いんです」
ジョアンが溜め息混じりにそう言うと、ミンアは彼の額に手を当てた。
彼女のその行動を上目遣いに睨んだジョアンにミンアは
呟くように言った。「珍しいと思って・・」

「ふっ・・」 ジョアンは呆れたように笑った。

「ほら・・言ってごらんなさい」 ミンアはしつこく聞いた。

「・・・・・・・ジニョンssiが無事でいてくれて・・・ルカも・・・
 すべて上手くいったんですから、安心しました、すごく。
 だから・・・何も・・・
 あるわけないじゃないですか」

「そう?・・そうは見えないけど」

ミンアが言うと、ジョアンは意味有りげに大きな溜め息を吐いた。

「フー・・・・・・・僕もアメリカに帰りたい」

「アメリカに?どうして?あなたイタリア大好きでしょ?
 それにイタリアの仕事でボスに認められるんだって。
 意欲満々だったじゃない。これからまだ三年位は・・」

「わかってますよ。」 ジョアンは少し投げやりに言った。
するとミンアが意味有りげな眼差しを彼に向けた。

「あなた・・・まさかあなたもルカみたいに
 “ジニョンssiを愛してる~”なんて言うんじゃないでしょうね
 ・・・あ・・うそうそ・・冗談よ」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・うそ」 




エマは人々から離れ、岸辺に佇んでいたトマゾに歩み寄った。
トマゾは彼女の気配に気づいたが、視線は海に向かったままだった。

「ありがとう」 
エマもまた海に向かって佇み、トマゾの横に並ぶとそう言った。

「礼を言われることは何も」 トマゾは返した。

「いいえ、何度言っても・・・言い足りないくらいよ」
そう言いながら涙ぐんだエマを、トマゾは優しい眼差しで見つめた。

「どうやって償ったらいい?」 
エマがそう言うと、一筋の涙が彼女の頬を伝った。

「償う?・・・」
トマゾは彼女の涙を見ないように、視線を海に戻した。

「いいえ、償いじゃない・・・そうじゃないわ・・・
 でも・・・もう少しだけ・・・私のそばにいてくれる?
 その間にあなたの気持ちが私から離れてしまったら・・・
 それはそれで構わない・・仕方ないもの・・・でも・・・」
エマは思っていた。自分の気持ちを今、彼に伝えておくべきだと。

「私の気持ちが?・・・あなたから離れる?
 どうしてそう思うんでしょう」 トマゾはエマに振り向いた。

「いいえ、言わせて・・・私は・・・この五年間・・・
 フランクのことだけを考えて生きて来たの・・・
 だから・・・直ぐにはまだ切り替えることはできない・・・でも・・・
 あなたさえ、待っていてくれたら・・・
 ええ、きっとそう遠くないわ・・・きっと・・・
 だからお願い・・・私を・・・」

エマがそう言った瞬間、トマゾはエマの唇を自分の掌で
優しく塞ぎ、小さく笑った。

「あなたが笑うの・・・初めて見たわ」 
エマは驚いたようにそう言って微笑んだ。

「そうですか?私は・・・
 ・・・あなたの傍で・・・あなたを想って・・・あなたを見つめて・・・
 いつも笑っていましたが・・・」




「ありがとうございました、Mr.レイモンド
 予想もしていなかった晩餐会、みんなとても喜んでいました」 
ミンアはリビングでひとり寛いでいたレイモンドに、ワインを勧めた。
「イタリアのワインはお口に合いましたか?」

「ああ、次回からは自宅にも取寄せよう」

「それは宜しかったですわ」

「今日はゆっくり休むといい、明日からはフィレンチェに戻って
 残務処理が山積みだろ?」 レイモンドはミンアを労った。

「ええ、あなたも今日こそはお休みください
 お疲れになりましたでしょう?」

「ふっ・・世話が焼ける弟夫婦がいるもんでね・・・」 
レイモンドは赤いグラスを目の前で少し傾けると、ホッと息を吐いた。

「ボスはお幸せですね・・・」

「ん?」

「Mr.レイモンド・・Mr.リチャード・・ソフィアさん・・・
 ボスの力になってくださる味方が・・
 しかもかなり強力な味方がいらっしゃるんですもの・・・」

「君達もいるだろ?」

「私達部下は当然です」

「・・・・ところで、宿題はできたか?」

「宿題?」

「ああ、ここに来る前に出しておいた」

「えっ?」

  《やきもち?誰が?誰に?》

  《君が・・・ジニョンに。》

  《私が?ジニョンssiに?・・・何故?》

  《時間がある。その間、考えてろ。》

「あ・・・」

「答えは出たか?」 
レイモンドはワイングラスを持ったまま立ち上がった。

「あ・・・いえ」

「そうか・・それは残念だ」 
そして、ワイングラスをテーブルに置くと、ミンアに近づいた。

「あなたは?」

「ん?」

「あなたはどうして・・・そんな・・宿題を私に?」
ミンアは次第に自分に近づいてくるレイモンドに対して、
僅かに後退しながら聞いた。

「さあ・・どうしてだろう」

「・・・・・・」

「駆け引きは得意なんでね」
ミンアの背中が壁面で行き詰まると、レイモンドは一旦立ち止まった。

「駆け引き・・ですか?」

「さあ・・君が先に答えろ。」
レイモンドが腕を差し出し掌を壁につけられる距離まで近づくと、
ミンアの緊張は頂点に達していた。

「嫌です」 ミンアがそう答えた時には既に、ふたりの唇は
微かに触れそうなほどに近づいていた。
「答えろ。」

「嫌です。」

「そうか。」 
レイモンドはそう言うと、ミンアからあっさりと離れ、
さっき腰掛けていた椅子に戻ると、また腰を下ろした。

「へ・・」 
ミンアはレイモンドの行動にぽかんと口を開けるしかなかった。
それなのに彼女の困惑を他所に、レイモンドは呆れるほど優雅に
ワイングラスを口に運んだ。

「あの!」 ミンアは次第に腹が立ってきていた。
「からかって面白いですか?」 

「いいや、からかった覚えは無い」 レイモンドはワインを飲み干した。

「からかってます。」 ミンアの目にいつしか涙が滲んでいた。

レイモンドはグラスをテーブルに下ろすと、ミンアに視線を向けた。
「答えろ。私が好きか?」 

「・・・・・」 ふたりは少しの間睨み合っていた。

「どうなんだ?」 
ミンアが少し視線を落としかけた時、レイモンドは聞いた。
彼は彼女を射るように見つめていた。
その瞬間不覚にも、ミンアはその目に射抜かれてしまったようだった。
そして、とうとう降参してしまった。

「・・・・・・・・好きです。」

「よし。」 

「・・・・・」 ミンアはまだ悔しさに顔をこわばらせていたが、
レイモンドは満足そうに言った。

「正解だ。」 




ドンヒョクとジニョンは広い海の真ん中でしばしボートを停泊させていた。
そして船首に重なるように腰掛けると、長いこと無言で
オレンジ色の風景に酔いしれていた。

「本当に綺麗ね」

「ああ」

「何だか吸い込まれそう」

「吸い込まれてみるかい?」
そう言いながらドンヒョクは彼女の背中を抱いた。

「ふふ・・いいわ、あなたと一緒なら」

「そう、ふたり一緒なら何があってもいいさ・・・
 だからもう駄目だよ、あんなことしちゃ・・
 もうどんなことがあっても・・・
 どんな時も・・・僕のそばを離れちゃ・・駄目だ」
ドンヒョクはそう言いながら、彼女の頬を撫でるようにくちづけた。

「どんな時も?それは無理があるわね」

「例えばの話だよ」

「じゃあ・・韓国は?ひとりで行ってもいいって・・」
約束が違う、とばかりにジニョンは身構えた。

「あー・・その話はご破算。」 ドンヒョクは彼女をしっかりと抱きしめた。

「えーーーー」 ジニョンは彼の胸を自分の背中で押した。

「自業自得。」 
ドンヒョクは彼女を更に強く抱きしめて身動きを静止した。

「それはないわ~~ドンヒョクssi・・・お願いよ~~
 来月には大きなサミットが・・・
 レイも迎えに来てくれてるじゃない・・」

「レイは二・三日はイタリア。その後はアメリカに帰る。」

「そうなの?レイがどうしてイタリアに残るの?」



島を離れる直前のことだった。
レイモンドが突然ドンヒョクの傍らに寄って来ると、
ぼそりと言った。
「フランク・・フィレンチェの事務所を貸してくれ」

「事務所?何をするんです?」

「あー残した仕事を片付けて帰りたい」
そう言いながら、レイモンドはフランクから視線を外し宙を仰いだ。

「仕事ならホテルで・・」 ドンヒョクは解せないとばかりに言いかけた。

「貸すのか、貸さないのかどっちだ。」
珍しく興奮してドンヒョクの言葉を遮ったレイモンドに首を傾げたが
ドンヒョクは「どうぞ」と答えた。

その直後、レイモンドが向けた視線の先にいた人物を確認して
ドンヒョクはその意味を悟った。
「なるほどね」

「何だ?」 レイモンドがドンヒョクを横目で睨んだ。

「いいえ、何でもありません・・・・ぁ・・レイ・・」

「ん?」

「うちの部下には手を出さないように。」
そう言った自分の背中でレイモンドがどんな顔をしているのか
想像すると、ドンヒョクは可笑しくてならなかった。

「・・・・・チェスをしたいだけだ」 
レイモンドの呟きがドンヒョクの背中に小さく届いた。




ジニョンは必死だった。
「でもね、テジュンssiとも約束したじゃない?・・
 大事なイベントには出席するって・・」
「とにかく・・駄目。」
「えーーーー!」

「無駄な足掻きはお止め。」 
ドンヒョクは敢えて無表情を作り、冷めた口調で言った。
「えーーーー!」
ジニョンの嘆きの声が広い海原を走った。


 《ジニョン・・・
  君と離れることなんて・・・考えたくも無い。
  少なくとも今は。
  そうだな・・・この数日で縮んでしまった僕の寿命が
  君の魔法で・・・延命されるまではね・・・》

ドンヒョクは心でそう呟きながら、ジニョンのうなじにくちづけた。

ジニョンはくすぐったがって首をすくめながら、自分に巻かれた
彼の腕を抱きしめた。
そして甘えるような目で彼の顔を見上げた。

「ね、お願い!!!!」
 
ドンヒョクはしばし宙を仰ぎ、その甘い眼差しをわざと見なかった。
せめてしばらくの間は彼女の魔法に掛かってしまわないように・・・

夕暮の水平線とは対照的に、頭上の空は抜けるような青さだった。
ジニョンは相変わらず、ドンヒョクの大きな腕の中で往生際が悪かった。

「ねっ!お願い!
 許してくれるわよねっ!ドンヒョクssi!」

それでもドンヒョクは彼女の視線から必至に逃れ、
その美しい空に向かって呟いた。


 


      ・・・さあね・・・


 

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