タムトクの母⑤~復讐
☆失礼します。サークルの創作の続きです。
なぜかわかりませんが、あちらにアップしようとしたら、「禁止語句」とやらではねられてしまいました。何度も直したのですが、だめでした。
で、こちらでアップさせていただきます。この続きもこの後に入れます。
どうぞ、よろしくお願いします。
なお、ここまでがつらいお話です。次回のラストは、あま~い部分もでてきますヨン。
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高句麗王の火のような思いが兵たちに乗り移ったのか、契丹の城は十日で落ちた。
父王の仇というだけならば、それほどの激しいものはなかったかもしれない。
だが、少年の日に刻み込まれた母への思いは、何年たってもくっきりとあざやかに消えることはなかった。
家臣の止めるのも聞かず、まだあちこち火の燃えている城内に先頭に立って乗り込んでいった高句麗王は、その人の痕跡を探した。
だが、わかっていた。
どんなに周囲を見渡しても、もはやその人の髪一筋残ってなどいないことを・・・。
タムトクは城の大広間らしき場所に立ちつくした。
珊瑚のかんざしを懐にしのばせたまま・・・。
じゅうたんは切り刻まれ、座卓や椅子は倒れたまま、そこここに、飛び散った血のりや泥だらけの足跡が見える。
思わず、ため息が出る。
そのとき、兵のひとりが思ってもみないことを伝えにきた。
「契丹王をとらえました!」
なに!
どこだ?
どこにいる!
激しい足取りでその後についていく。
そこは、城の中庭だった。
集められた10人ばかりの女たちの間に、後ろ手に縛られ老いさらばえた男の姿がひとつ・・・。
女人の衣装に身を包み、太った体を二つに折らんばかりに縮め、おびえた様子でその場にしゃがみこんでいる。
知らず知らずのうちに、タムトクは叫んでいた。
おのれ!
女たちのかまびすしい悲鳴が、中庭に響き渡る。
その声を聞いて、自分の中に、何か黒いものがむくむくと沸き起こるのを感じた。
すらりと腰の剣を抜く。
制止しようとした側近の腕をなぎはらい、駆け寄ろうとしたサトを突き飛ばす。
異民族の王の二つの目が恐怖に見開かれる。
腰をぬかしたらしく尻を地面につけたまま、こちらを仰ぎ見ている。
それにじっと目をあて、ひとこと、
「そいつに剣を渡してやれ!」
家臣たちの間に動揺が広がる。
その中からひとり、サトがつかつかと歩み寄ると、手に持った剣を、『そいつ』の前に置く。
だが、それは、『そいつ』をおびえさせるに十分なものだった。
置かれた剣など手に取ろうともしないまま、口をだらしなく開けたまま、首を小刻みに振る。
このような男が、母上に!
怒りがいっそう燃え上がる。
「戦え!
私は、高句麗王タムトク!
その方がもてあそんだ女の息子!」
ぎりぎりと歯を食いしばり、
剣をふりかざす。
「立て!
契丹王ならば、立って戦え!」
憤怒の声は限りなく低く、中庭の隅々まで響き渡る。
それは、龍のうなり声とも咆哮とも見紛うようなものだった。
女たちはもちろん、高句麗の男たちも、固唾を呑んで呆然と見る。
相手の口から、情けない悲鳴がもれたが、ためらう気持ちは微塵もなかった。
手に持ったそれを振り下ろすと、それは狙いすましたように相手の右腕に!
あざやかに血が飛び散る!
ぎゃあっという男の叫び声!
逃げ惑う、床の上をはいずりまわる音。
女たちの悲鳴。
ふん、一度で死ねると思うなよ!
今度は左だ!
もう一度、ふりおろす。
ぎゃあっ!
一度でとどめをさす気にはなれなかった。
少しずつ少しずつ、母上が味わった苦しみの、ほんの断片でもいい、
そのブタに味あわせてやるのだ!
家臣たちに新たな動揺が走ったのを、タムトクは心の片隅でとらえていた。
「寄るなよ!」
そちらに冷たい声をかける。
が、今や龍の化身とも見紛う主君と、血を流しながら這いずり回るおいぼれた契丹王に近寄るものはいなかった。
ただ遠巻きにしてながめている。
「そこへ、なおれ!
この卑怯者めが!」
そのとき、呪縛を解き放つような大声が・・・。
「タムトク様!」
声とともに、後ろから羽交い絞めにされる。
それが誰のものか、瞬時にわかった。
「サト!はなせ!
王の命だ!」
が、サトの力は思いのほか強かった。
「タムトク様!
もう、そのへんでよいでしょう。
相手は剣も持つ気力もないような男だ。
そのような下劣な男のために、自ら手をけがすことはありませぬ!
あとは、この私におまかせを!」
「ならぬ!
そなた、王の命にそむくつもりか!」
「どうか、お静まりを!
なにとぞ!」
「サト!はなさねば、そなたとて容赦はせぬ!」
「私のことならいかようにも、ご存分に!」
サトは、なおも強い調子で続ける。
「しかしながら・・、しかしながら、タムトク様!
そのようなお姿、王妃様が、・・・お母上が目にされたら、
なんと思われるでしょうか!」
急に力が抜ける。
ふところにしのばせた珊瑚のかんざしが熱くなったような気がして・・・。
「・・・・・」
「そのような下劣なこと、
王と呼ばれる方のなさることではない、
そう、悲しんでおられます。」
そうだろうか・・・。
タムトクは、手の中にあるものに、ぼんやりと目をやる。
そこに、血のしたたり落ちる剣があるのを・・。
それから、それをぽいとその場に投げ捨てると、
高句麗王タムトクは、足音高くその場を立ち去った。
珊瑚のかんざしを懐にしのばせたまま・・・。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
サトは、床の上に無造作に投げ出された王の剣に目をやった。
大きくひとつ深呼吸する。
そして、血塗られた剣をこの上なく貴重なもののように拾い上げると、瀕死の男を一瞥する。
「あとはまかせたぞ。」
高句麗王の側近第一号は、周囲を取り巻いた同僚たちに軽く言ってのける。
それから、心に深手を負ったままの王のあとを追った。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
「どうなのだ?」
声をひそめて、ジャン将軍は言った。
サトも小声で答える。
「おやすみになられました。
かなり強い酒をお持ちしましたゆえ・・。」
ふうむ・・、とジャン将軍はうなる。
「かなりこたえておられるようだな?
ま、無理もないか・・。
ひとつずつ、龍のしるしの扱いを学んでいっていただかねば・・・。」
はあ、とサトはうなずく。
「それに、契丹がわが高句麗の手に転げ込んできたことは大きい。」
「まあ、そうですね。」
「それにだ、もうひとつ得たものがある。
これで、王が敵の女に手を出さなくなるかもしれないってことだ!」
これには、サトが目をむいて、抗議する。
「あの方は、これまでも、女人におかしなふるまいをしたことはありません!」
ちっちっち・・・、と将軍は人差し指を横にふる。
「あま~い。
今まではそうかもしれないが、これからはわからん。
なにしろ、あの男ぶりだ。
たとえば、人質にとった敵国の姫が妙な気持ちを起こして、王に色目でも使ってだな~、
王もその気になって、つい手を出したりしてみろ!
あのご気性だ、先々、面倒なことになるかもしれない。」
「面倒なこと?」
いぶかしげに、サトがジャン将軍を見る。
「そうだよ~。
たとえばだな~、ちょっとした美貌に目がくらんでだな~、
敵との交渉に使わずに、
そばにおきたいとか、
妃のひとりに迎えたいとか・・・」
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