2006-11-14 22:41:18.0
テーマ:【創作】高句麗王の恋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

海翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

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 倭の手白香(タシラカ)は、じっと相手の顔を見つめたまま、百済王から聞かされた言葉を胸の中で思い出していた。

『高句麗は山国じゃ、文化のかけらもない野蛮な所じゃよ。・・・・
高句麗王タムトクとはの、それはもう乱暴で残虐で女好きで・・・・、まだ若いからの、
まあ、見かけは少しばかり様子がいいもんじゃから、女などすぐにころりとだまされるがの・・・。
いやいや、それがどうしてどうして、これがなかなかの食わせものでの・・・、
そなたも知っての通り、わが息子もヤツの手にかかり、あえない最期を遂げたのじゃ・・・。
いや、まこと、不憫じゃった。
・・・妃になるべく倭から渡ってきたそなたの顔も見ずに逝ってしもうた・・・。まこと口惜しかったじゃろう。
それを思えば、そなたをヤツに引き渡したくはない・・・。
じゃが、国を守るためには、心を鬼にして決断せねばならぬこともあるのじゃ。』

『・・・なに、そなたほどの美貌じゃ、ヤツとて悪いようにはすまいて・・・。
先ほどから言うておるように、ヤツは無類の女好きじゃ、
おとなしくしておれば、命までとろうとはすまい・・・・。
うまくいけば、そば近くに侍る女の一人とするやもしれぬ・・・。
そうなれば、そなたにとっては亡き夫であるわが息子のカタキを討つこともできるというものじゃ・・・・。』

 
 カタキを討つ・・、百済王に言われるまでそんなことは考えてもみなかった。
だが、相手はごく当然のようにさらりと言った。
回りの侍女たちの話によれば、戦死した親族のあだ討ちは百済王家の美徳のひとつだとか・・・。

『姫様、こう申してはなんですが、
百済王は、その・・どちらかといえば武張ったことのお嫌いな、そのう・・・、
おやさしい、・・・そうそう、おやさしい方です・・・、
すでに高齢であらせられ、アテにはなりませぬ。
・・・となれば、亡き王子の恨みを晴らすのは、妻となられるはずだった姫様こそふさわしいかと・・・・・。』

 戦死した、顔も知らない夫のあだ討ちをする、しかも相手は百戦錬磨の高句麗王・・・、
それは理不尽な話のように思えた。
が、それならそれでいいと彼女は思った。
一通りの武術はこころえているつもりだった。
たとえそれが自分の身をまもるための若い女の手習いでしかなくても、
たとえ返り討ちにされて命を落とすことがあっても、
私にはもう何も残されていないのだから・・。
どちらにしても、二度と故国になど帰ることなどないだろうと心に決めてきたのだから。

だが・・・・。

 最初に百済王都で出会ったときから、高句麗王タムトクはいやな感じでは決してなかった。
むしろ百済王から聞いていた印象とはだいぶ違うと思った。
端正な容貌といい、物静かなたたずまいといい・・・・。
それに・・・、

『安心してよい、どんないきさつがあろうと、ここに来たからには、そなたの命は私があずかる。
そなたは私が守る。』

切れ長のすっとした目で見つめられ、そんな言葉さえかけられた。
なにかふわりと抱きとめられたようで、思わず涙ぐみそうになってしまった。

だが、人質の身であることに変わりはない。
窓も何もないみすぼらしい馬車に三人の侍女たちといっしょに押し込められ、
高句麗王都に連行される間、手白香は苦痛と心細さと屈辱に耐えなければならなかった。
やさしそうな顔をしていても、所詮は勝利に驕った敵王、
力のままに思い通りに支配しようとするのだと・・・。

高句麗王都に着いてから、風邪をこじらせてくずれるように病床についたのも、
そんなことがあったからかもしれない。
高熱と体中に走る痛みの中で、手白香は百済王の言葉を心の中でくりかえしていた。
高句麗王タムトクとは残虐で野蛮で女好きで、
そして、手白香を生かすも殺すも自在の男なのだと・・。

そう、たとえ、心魅かれるような男であっても・・・。


 そんな彼女が身を寄せていた長老一族の屋敷に、『女好きで野蛮な』高句麗王は、
王室付きの薬師(くすし)を派遣してきた。
それは、彼女の固くなった心の一部をちょっとばかり揺り動かしたが、
そんなうわべのやさしさなどに惑わされまいと、彼女は思ったのだった。

 そして、月見の宴に来るように声をかけられ、
王があんなことをおっしゃるなんてめずらしいのよ、などとジョフンに言いくるめられて、
城にやってくる途中、彼女は考えたのだった。
もう、このあたりで終止符を打とうと・・・・。

顔も見た事のない夫のカタキとしてでも、彼女を意のままにしようとする男としてでも、
もう何でもよいのだ。
あれこれと思い悩むのは、もうやめよう・・・。

そして、彼女は決行し・・・、すぐにそれは失敗に終わった。
かえってほっとした思いだった。
高句麗王の激しい怒りと刃が今にもその身にふりかかってくる、
そう思って覚悟を決めたのだった。

なのに・・・。
 
手白香は戸惑っていた。

「・・命令ではない。・・・そなたと話がしたい。
もう少しここにいてくれないか?」

手白香は耳を疑った。
慣れない高句麗の言葉を聞き間違えたのかと思った。
だが、王の目の中にあるのはせつない光だ。

「私を意のままになさろうとするのでは・・・?」

思わずそんな言葉が口をついて出てしまった。
その瞬間、彼は意外な表情になった。

「意のままにしてもよいと・・・?」
苦い笑みを浮かべる。

「そうだな・・・。そのようにそなたに思われても仕方がない。
私の本音は、そうかもしれない。」

やっぱり!
どきりとして身構えると、彼はなだめるように言った。

「そんな顔をしないでくれ。
なんて言ったらいいのか、私もよくわからない。
ただ、そなたと話がしたいのだ、
そなたの顔を見ていたいのだ、
・・・そなたといっしょにいたいのだ。」

最後のほうは真剣な顔になる。

「私は・・・、私は虜囚の身です。
王がそのように言われるなら、私は・・・」

「虜囚の身だなどと・・、
そのようにそなたのことを考えたことはない!
そなたが私の顔なぞ見たくもないというのなら、このままジョフンのところに留まればよい。
戦死した夫のカタキを討ちたいというのなら、それもよい、いつでも相手になる・・・、もっとも私はまだ死ぬわけにはいかないから、おとなしく討たれるつもりはないが・・・。」

長い腕がすっと伸びて、彼女の肩に置かれる。

「百済で最初に会ったときのそなたが好きだ。
凛として、まっすぐ私に目を向けていたではないか。
ふわりと笑ってくれたではないか。
姫、そなたには、虜囚の身だなどと恥じて、私の前にいてほしくない。」

「タム・・トクさま・・」

私も・・・。
あの時あなたにお会いして、やさしく包んでくださったような、そんな気がして・・・。
そう言おうとしたが、うまく言葉にならなかった。
涙があふれてきそうで、手白香はただうなずくだけだった。

タムトクはすっと手を伸ばすと、彼女の前髪にそっと触れる。
それから頬に手のひらをあてた。

と、そのとき、部屋のほうから侍女の呼ぶ声が聞こえた。

「タシラカ様、・・・どちらですか?・・・ジョフン様がお帰りですよ・・・」

はっとしたように、二人ともそちらをふり返った。

「帰るのか・・・?そうだな、今夜はうるさい目も光っているようだ。」

彼は口元に笑みを浮かべた。

「今夜は楽しかった。・・・少しでも話ができてよかった。」

ええ、つられるように、彼女は笑みを浮かべる。

「それで、姫、いや、タシラカと呼んでいいか?
明日の朝早く、迎えに行ってもよいか?
いっしょに朝駆けに行きたい!」

朝駆け?と手白香は目を見開く。
それは馬で、ということでしょう、タムトク様・・・。
くすくす笑いながら、手白香は言った。

「私、馬に乗れません。お供はできませんわ、タムトク様。」

思わず名前を言ってしまって、はっとなる。
私ったら、さっきはこの方に刃を向けたばかりなのに・・・。
そう思うとひどく恥ずかしくなる。
そして、もうこの方のことが何もかもわかったような気がしていると・・。

そんな手白香を、彼はまぶしそうにみつめて言った。

「では、朝駆けの帰りに、長老屋敷のそなたのところに立ち寄ってもよいか?」

「ええ・・、でも、ジョフン様は・・・?なんとおっしゃるでしょうか?」

「ああ、ジョフンなら心配ない。私はあの屋敷で育てられたようなものだ。
・・・では、姫、約束だ。明日の朝、そなたのところに行く、必ずだ。」

 

~~~~~~~~~~~

☆画像加工は sakabou 様です。



[コメント]

1.Re:海を翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

2006-11-14 23:15:42.0 まるごん

運命に翻弄され、投げやりな気持ちになっているタシラカ。そんな彼女をフワリと受け止めつつ、すごく率直なタムトク。いいですね~、若い恋♡ 月見の後の朝駆けではどんなドラマが生まれるのでしょうか(*^。^*)


2.Re:海を翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

2006-11-15 00:18:05.0 BABAR

壮大な曲が聞こえてきそう。   薬草摘みのシーンも私の創造力が物を言ってます。 これからが、また楽しみです。


3.Re:海翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

2006-11-15 19:43:02.0 天の青

まるごんさん、そうね、確かにタシラカは、もうどうにでもなれっていうような気持ちでいるのかも。タムトクにふわりと受け止めてもらって、戸惑っているのですね。


4.Re:海翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

2006-11-15 19:45:47.0 天の青

BARBARさん、来てくださってありがとう。 万葉の時代、鹿狩りは男たち、そして薬草摘みは女たちの楽しみの一つでした。それをここに持ってきて見ました。二人のさりげない再会のシーンとしていいんじゃないかと。 月見は、タムトクって月が似合うと思ったからです。


5.Re:海翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

2006-11-15 22:30:38.0 pocha♪

『そなたは私が守る』 そして最後の 『そなたのところに行く、必ずだ』 この言葉、鳥肌が立ってしまいました。タムトクは若くとも、やはり王につくべき人物だったんでしょうね。 そのタムトクの心を見透かすことの出来るタシラカ!馬に乗れないことがどういう展開になるんでしょう~楽しみです!


6.Re:海翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

2006-11-16 06:17:56.0 やしち

青様の言われたように、こちらは若い2人の素直な感情がストレートに伝わってきますね。 タムトクにここまで気持ちを伝えられて、心が揺さぶられない女性がいるのでしょうか??? ジョフン、今度はお邪魔虫にならないでね♪


7.Re:海翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

2006-11-16 17:48:55.0 キヨリン

どんな状況で会ったとしても、半身は半身。会ったその瞬間、頭ではなく心と心が惹きあうんでしょうね。 二人の運命はもう走り出してしまった・・・。明日の朝が楽しみだ~♪


8.Re:海翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

2006-11-16 19:34:56.0 天の青

pochaさん、前にも言いましたが、タムトクは生まれながらの王だと思うんです。その心のうちをのぞき見ることができるっていうことは、それはもうたいへんなこと。しかも、本人は自覚がないっていうところに、彼女が本質的に彼と結ばれる星のもとにあると、私はにらんでいるのです。


9.Re:海翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

2006-11-16 19:37:38.0 天の青

やしちさん、いや~、そうなんですよ、ジョフン、ときにはお邪魔虫になってしまうことも・・・。でも、ま、彼女は賢いからだいじょうぶでしょう。タムトクの言葉って、私が言われたいものを列挙しているようなものなのです、うふふ。


10.Re:海翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

2006-11-16 19:38:50.0 天の青

キヨリンさん、半身なんて言葉が出てくるあたり、やっぱりあなたはキヨリンさん。そういえば、そうだった、ドンヒョクのところの双子でしたね。はい、そうでした。


 
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