【創作】タムドクの復活~24話の後に(その2)
☆心痛むあまりに、『24話のあとに(その2)』の代わりに、こんなお話を書いてしまいました。いわば、自分の気持ちにけじめをつけるためのお話です。
はっきり言って、まだ不十分なところが多々あります。たぶん、手直しすることになると思います。
・・・たとえば、『パイレーツ・オブ・カリビアン』も、死んだと思われていた主人公の海賊さんを復活させましたよね。
となれば、愛するタムドクについても、こんな感じにしてしまってもいいんじゃないかと思うんです。
ご不快に思われた方、ごめんなさい、スルーしてくださいませ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
扉を開けると、ほのかな灯りの中に寝台の上に、その人がすわっているのが見えた。
「遅くなってごめん。おなかすいたんじゃない?」
声をかけると、かすかな笑みを浮かべる。
「アジクは寝たのか?」
「うん。
親子そろって、ほんとに手がかかるんだから。」
わざとそんなことを言ってみると、その人は恥ずかしそうな顔になった。
「すまない、俺のことを一番よくわかっているのは、やっぱりおまえだから。」
「あ・・、そんなつもりで言ったんじゃないの。
イングニムは、いばってていいんだからね。
スジニ、おれは空腹だ、もっと早く夕餉を運んで来い、とかさ・・。」
あはは・・、と笑ってみせたけど、やっぱりその人は、無精ひげにおおわれた端整な顔に、さびしそうな笑みを浮かべただけだった。
元気になるまでもうちょっとかな、
スジニは手に持った盆を寝台近くの座卓に乗せた。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
アブラム寺の決戦の日から二か月近くがたっていた。
あの日、黒朱雀に変身した姉のキハといっしょに眩い光の中にタムドクが消えていったとき、スジニはキハの子アジクを腕にかかえたまま、声の限りに叫んでいた。
イングニム~!と。
それを聞きつけたのか、まずクァンミ城主チョロが、次に斧を片手にチュムチが駆けつけてきたのだった。
すぐに何か大変なことが起こりつつあるのを見てとったふたりは、ためらう様子もなく、鮮烈な光の向こう側に飛び込んでいった。
ふたりが死んだように動かないひとつの身体を抱えて引き返してきたのは、それからしばらく経ってからのことだった。
『取り返して来たぞ!』
チュムチの焼け焦げた顔がにっと笑い、確かめるようにふり向いたスジニに、ちりちりになった長い髪を振り乱したままチョロが黙ってうなずいた。
そばに寄ってのぞいてみると、それは、鎧や胴着などあちこち焼けただれていたが、確かに彼だった。
いつものようにきれいな顔で、静かに眠っているように見えた。
『ほんとに、帰ってきてくれたんだよね?』
あとからあとから、ぽろぽろと涙がこぼれて仕方がなかった。
イングニムはただ眠っているだけだよね、すぐに目を覚ますよね、と。
本当は、「もうひとりの人」のことについても、どうしたのかとちゃんと聞きたかった。
でも、なぜかそれはとても聞いてはいけないことのような気がした。
そうでなくても、いつのまにか目を覚ましたアジクがわあわあと泣き喚いていたからだ。
スジニが姉のことを聞いたのは、あれから何日も経ってからのことだった。
尋ねてもいないのに、誰にともなくクァンミ城主チョロが、ぼそりと言ったのだった。
「結局、大神官はみつけられなかったんだ。」
やっぱり・・、とスジニは思った。
姉貴はイングニムをこっちの世界に追い返して、そうして、ひとりで逝ったんだ。
私はだいじょうぶ、と。
なぜなら、イングニムが姉貴のかなしみをひとりで引き受けようとしていたのがわかったからだ。
だって、イングニムのことをいちばんわかっていたのは、姉貴だったもの。
そして、イングニムだって・・。
だいたい、イングニムはやさしすぎるんだ。
だから、姉貴をひとりで逝かせられなくて、
だから、あのとき、天弓で射ることができなくて・・・。
もしかしたら、イングニムが天弓を破壊したのは、もっと別の理由があったのかもしれないと、スジニは思った。
でも、どっちにしても、姉貴は帰ってこない、それがすべてだ・・・。
こうして、やっとスジニは自分の中で区切りをつけたのだった。
そしてともかくも、タムドクは、生きて国内城に帰ってきたのだった。
火傷のあとはあちこちにあったが、不思議なことに致命傷となるようなものはひとつもなく、まさに奇跡だ、さすがチュシンの王だと人々は噂しあった。
本当のところ、それから何度か危険な状態になるときもあったのだ。
だが、そのたびに、生き残ったコムル村の人々や城内の人々の手厚い看護と、それからタムドク自身の驚異的な体力で、それを乗り越えたのだった。
とはいえ、タムドクが心に受けた衝撃はかなりなものがあったようだ。
横になって一日のほとんどをすごすという日々が、まだ続いていた。
以前の快活さは陰をひそめ、必要なこと以外は話す気になんかならないという顔でいる。
あのとき、なぜ、光の向こうに行こうとしたのか、そこで何があったのか、周囲の者たちは気遣って彼に尋ねようとしないし、彼も何も語ろうとしないままなのだ。
元通りに政務が取れるようになるまで、まだ時間がかかりそうな気配だった。
そんな中で、タムドクは、食事の世話やら着替えやら身の回りのことについては、何かにつけてスジニを側に呼びたがった。
スジニとしてもそれがうれしいのだが、どうしても他の用事で呼ばれてもすぐに駆けつけることができないこともある。
それに、キハの子アジクの母親代わりを務めなければならない。
チョロの目も気になる。
「おまえは忙しいのだから、ほかの女に頼めばいいだろう?」
スジニの男でもないのに、おせっかいにもそんなことを言ったりする。
普段はすごく口数の少ない男なのだが。
だが、それはまだいい、
クァンミ城主はまだ聞き分けがいいのだから。
問題は、ほかの女たちなのである。
「スジニはアジク様のことで手が離せないので、代わりに私が参りました、なんて言っても、全然だめなのよ。スジニの手が空いてからでいい、なんておっしゃるんだもの。」
ほんと、しょうがないイングニムだねなんてあきれたふりをしながら、スジニは胸がどきどきするのだった。
姉のことを思えば、そんなことさえうしろめたい気持ちになるのだけど。
その一方で、このごろになってだが、タムドクは師匠のヒョンゴを呼んで、長い時間ふたりだけで話し込んだりするようにもなった。
イングニム、なんだって?などと、周囲の者たちが期待に満ちた顔で尋ねると、ヒョンゴは、いつものように本気とも冗談ともつかない口調で答えるのだ。
「ああ~、
王が生きてここにおられるのは、まさに天の神のなせるワザというものだ、
とかなんとかいう話をしたんだ。
・・・王よ、あなたは光の中でご覧にならなかったか、
天の神が、おごそかに現れたのを。
そして、神はこうおっしゃったのではないか、
・・タムドク王よ、そなたはまだこちらに来てはならぬ。
下界でやるべきことがまだ残っているはずだ、なんてな。
あ~、つまり、人は生きて何をなすべきなのか、
まさにそういったことをだな、尊い神がお決めになっておられる、そういうことだな。」
そうかなと、その時スジニは思った。
もしそういうことをイングニムに言った人がいるとしたら、それは姉のキハじゃないかという気がしたからだ。
でも、とスジニは思い返す。
誰でもいいけど、そういうことをほんとにイングニムに言ってくれた人がいたのなら、あたしは、その人にこう言うよ、
ありがとうございます、
ほんとに、ありがとうございますって。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。
ともかく、生きて帰ってきてくれたんだから、
それに、このごろ、ちゃんとお粥も食べてくれるようになったんだから。
ほのかな灯りの中で、スジニは、タムドクが粥を口に運ぶのを見ていた。
「おいしい?イングニムが食べるんだからって、腕によりをかけて作ってもらったんだからね。」
「ああ、そうだな。
・・そういえば、昼間、アジクがここへ来たよ。」
「え?!
そうだったの?
知らなかった、いつのまに・・?」
勢い込んで聞くと、やわらかな笑みが返ってくる。
「手習いを見せてくれた。
お前が教えているのか?なかなかよい字を書いていたぞ。」
ああ、とスジニはうなずいた。
誰かに教えられたらしく、アジクはいつのまにか、イングニムと皆が呼んでいる人が、自分の父だということを知っていたのだった。
父上に見せるんだと言っては、一生懸命に、習いたての文字の練習をしたり、棒術の稽古に取り組んだりしている。
それはそれでいいのだが、油断していると部屋中墨だらけにしたり、額にコブを作ったりする。
なにしろ、ワンパクざかりなのだ。
しかたがないだろう、このタムドク王の血を受け継いでいるのだから。
スジニはそう思って、くすりと笑ってしまった。
「なんだ?」
「なんでもない。すごくいいことを思いついたんだ。」
スジニはそういって、またくすりと笑った。
このおだやかな日々が続いて、イングニムが元気になって、またみんなで楽しく笑えるときがくるといい。
姉貴もきっとそう思ってるよ、きっとさ・・・。
★読み返してみたら、あんまりな箇所がたくさんありましたので、あちこち修正しました。つくづくいやになりました。読んでくださった方に申し訳ないです。
コメント作成するにはログインが必要になります。