2010/04/19 03:40
テーマ:野良猫報告書 カテゴリ:生活・日常(家族)

プロローグ#1 月の光とソファーと6匹の猫




ある日、猫が僕のところにやってきた。月の光がこうこうと道を照らしていた夜。誰かが捨てた銀褐色のソファーに、1匹の母猫が5匹の子猫たちといっしょに座っていた。よりによって、僕が住んでいる家の前で彼らに出会った。月の光の中で青い目をぱちくりさせ、母猫の胸の中にうもれていた5匹の子猫たち!僕と目があった瞬間、ぶるぶると震えながら「お願いだからいじめないで!」とも言わんばかりだったあの瞳!

それが、知らない人間に出会った怯えからきたものなのか、零下という寒さのためだったのかはわからない。ただ確かなのは、零時をまわった頃合いの寒い冬の夜だったということと、僕の前に6匹の猫が座っていたということ。僕は彼らをもう少し近くで見ようとソファーに一歩近づいた。それが間違いだった。ソファーに座っていた母猫が、ハァーっとこちらを威嚇するようなうなり声をあげ、子猫たちを連れ、暗い路地の向こうへと行ってしまった。

暗がりの中にそそくさと立ち去る子猫たちの足音。路地の向こうには、もう一度こちらを振り返った12個の目が、キラリと光線を放っている!僕と野良猫の縁はこうして始まった。月と、ソファーと、6匹の猫といっしょに。


その日から、僕の頭の中にはソファーもないのに時折6匹の猫たちが座っていたりすることがあった。それまでの僕は、猫に対して何の関心もなかった。好きだ、嫌いだといった感情を持つこともなかった。ただ、猫は僕の関心の外に生きている、僕とは関係のない動物にすぎなかった。ところが、その日の強烈な記憶は、魔法のように僕を猫の世界に導いたのだった。


彼らに次に出会ったのはそれから半月ほど後だった。散歩でもしようと家を出たところ、コンテナが置かれている家の前の空き地で、母猫と5匹の子猫たちが真昼の日差しの中でじゃれあっていた。虎のような三毛の母猫の姿は、半月前に出会ったあの猫に違いない。僕は彼らをもう少し近くで見ようと、そろりそろりとコンテナに近づいた。しかし今回も、猫たちは僕を見るなりコンテナの下に駆け込んだ。


猫について何も知らなかった僕は、一つ大事なことに気づいた。猫にあまり急に近づいてはいけないということ。この事実は大体のところ最後まで有効だった。

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次の日から僕は彼らのために、猫が好きそうなありとあらゆるエサをさし出し始めた。たとえば、出汁をとったいりこや、食べ残しの酢豚、身の残っている魚のようなもの。ところが、道端でふらふらしている子猫たちをかわいそうに思ったのか、クリーニング屋も食べ物を差し出すようになった。彼らはコンテナを隠れ家に、おそるおそるクリーニング屋のほうをのぞき込んでいた。

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そうしてまた10日ほどが過ぎた。冬にしてはずいぶん暖かな午後だった。彼らは食べ物をくれる僕が恐れるべき存在ではないと判断したのか、それともただ暇でいっしょに時間を過ごす友達が必要だったのか、僕に初めて接近を許した。恐怖心いっぱいに僕を見上げていた目からも、恐れが薄らいでいた。彼らの目はまるで僕にこうささやいているようだった。


「まだ君を信頼することはできないけれども、くれる食べ物はありがたくいただくよ。」


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だからどうなのだ。彼らは明らかに「僕」という人間が自分たちに害を与えないという事実だけは確信したようだった。僕はデートのOKをもらったようにうれしくなって、家からカメラを持ってきた。そして彼らの姿を一枚ずつカメラに収めはじめた。出会ってからほぼ1か月経ってやっと、彼らは僕に撮影を許してくれたのだ。


それまで眺めるだけだった彼らに、僕は名前もつけてやった。虎のような歩き方をする三毛の母猫にはラン、5兄弟中一番年上と思われるトゥントゥン、白地にところどころ黒いまだら模様の猫はチョンバギ、末っ子と思われる一番かよわそうな美貌のキジ猫にはチュニャン、典型的な牛模様の猫はカムニャン、性格がもっとも活発そうで人なつっこいキジ猫はヒボンという名前をつけてやった。


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名前をつけてみると、一気に猫に近づけたような気がした。一度はスーパーに行って無意識のうちに猫の缶詰めを手に取る自分を発見し、しばらくにんまりしてしまった。僕は野良猫がこんなに猫缶が好きだとは知らなかった。猫缶1つをコンテナの前で空けると、まるで戦争のように争奪戦となる。猫に捧げる缶の数が増えるにつれ、彼らと僕との距離は少しずつ近づいていった。


彼らはいつの間にかカメラにも慣れ、目の前に広角レンズを近づけても気にしなくなった。こうして僕は魔法にかけられたかのように、一歩ずつ野良猫の世界にいざなわれ、その流れに僕は喜んで身をまかせた。



(「サヨナラ、猫たち、ありがとう」冒頭より)






2010/04/19 03:12
テーマ:猫は家族 カテゴリ:生活・日常(家族)

ごあいさつ

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はじめまして、猫咲と申します。
ブロコリを運営している某社(わかりますよね?)で、韓国ドラマをインターネットで配信したり
映像に字幕をつけたりする仕事をしています。

今年の1月に出張で韓国に行ったのですが、その際、
韓国の詩人イ・ヨンハン先生の「サヨナラ、猫たち、ありがとう」という本に出会いました。

この本は猫に関心の無かったイ・ヨンハン氏が
ある日突然、近所の野良猫家族に関心を持ったところから始まります。
韓国の野良猫たちのかわいい写真もさることながら、
野良猫たちのおかれた厳しい現実や、それにめげずにたくましく生きる姿を
巧みに切り取るヨンハン先生の文章が、なんだか胸にぐっとくる本です。

それで、はじめはただ個人的に読んでみようという気持ちだったのですが
読み進めているうちにぜひこの本を日本でも紹介したくなり、
会社に戻って「この本どう思う?」「日本でいけるかしら?」と周囲の人に見せまくり
「かわいい~!!」「いいねぇ、やる気が出ます!」という反響を得たので、
韓国の出版社に連絡をし、先生の連絡先を教えてもらい、
イ・ヨンハン先生に許可をいただいて、まずは
ブロコリともう1か所で、翻訳ブログを立ち上げることにしました。


もちろん目標は、書籍化です!!
でも、いくら内容が良くても、なかなか書籍化というのは簡単ではないようです。
ということで、上記書籍のもととなった先生のブログ「雲と鮭と雨期の旅人宿」
「野良猫報告書」を中心に日本語訳してご紹介しつつ、
応援してくださる方を募っていきたいと思います。

また、ブロコリ内のブログでは、せっかくですので先生のブログの翻訳以外にも
いろんな猫話(例えば韓国語で猫はどう鳴くの?など)やそれ以外の話も
していきたいと思います。

会社の本来の業務とは一線を画した、
I○X社内外の猫好き有志が、主にアフターファイブと週末を利用して
地味に進める猫プロジェクトですが、何卒よろしくお願いします!


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