2010/05/08 22:55
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-29.かけひき

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「何してるの・・・」

僕がシャワーを浴びて寝室に戻るとジニョンがボストンバックにいそいそと
身の回りのものを詰めていた。

「明日、ドンヒョクssi、NYでしょ?一緒に出ようと思って・・・」
心なしか嬉しそうに見えた彼女が癇に障った。

「一緒にって?」 僕は冷めた口調でそう言った。

「寮に・・」 彼女はそう答えながら不思議そうに首を傾げた。

「どういうこと?」

「だって・・学校行かないと・・でも、ここからでは通うのは無理だわ」

「ここを出て行くってこと?」

「そうじゃないわ・・・学校に通う間は寮で・・
 週末はこっちへ戻ってくる・・・ドンヒョクssiだって
 お仕事はNYの方が便利でしょ?」

「駄目だ・・・勉強なら、僕が教える・・」

僕は彼女からボストンバックを取り上げるとそれをクローゼットの棚に投げ入れた。

「ドンヒョクssi・・・教えるって・・・そりゃあ、あなたは教え方上手だけど・・・」

「なら・・問題ないでしょ?」

「でも・・・」

「でも・・何?」

「でも!・・・昨日までとは状況が違うわ・・父も学校へ行くことを認めてくれた」

「だから?」

「だから・・・私は学校で勉強がしたい」

「何故?」

「何故って・・」

「あいつがそう言ったから?」

「あいつって?・・・レイモンド先生のこと?この前のこと、まだ怒ってるの?
 あの方は関係ないわ・・・でも!
 私にだって、夢がある・・・学校で学びたいことも沢山ある」

「一番の夢は僕だと、言わなかった?」

そんなことを言いたかったんじゃない。でも言わなくてもいい言葉がつい口を突いて出た。
僕のその言葉に彼女が一瞬悲げに瞳を曇らせた。

   君の言いたいことはわかってる・・・

   僕の言葉は揚げ足取りに過ぎない・・・だけど・・・


「あなただって!私のやりたいこと・・何でもさせてあげる・・・そう言ったわ!」

   そうだよ・・その気持ちは嘘じゃなかった・・しかし・・・

   あいつがのうのうと待ち構える学校に・・・

   どうして君を行かせられる?


「・・・・とにかく・・・明日は連れて行かない。ここで待ってて・・」

僕は聴く耳を持たないというようなそぶりで彼女に背を向け、ベッドに横たわった。

「・・・・・・私はここで・・・毎日・・じっと、あなたの帰りを待ってるだけ?」 
静かにそう言った彼女の声は至って冷静だった。

僕はその言葉を背中で聞きながら黙って目を閉じた。

   
   いいよ・・・僕のわがままと思うなら・・・

   それでもいい。・・ジニョン・・それでも・・行かせたくない・・・

 

 

 

僕がNYグランドホテルのエントランスホールに入ると、姿勢を正したふたりの黒服の男が
僕に近づき深々と頭を下げた。

「お待ちしておりました・・・こちらへ・・・」

「・・・・・」

僕は彼らに誘導されるままに、エレベーターホールへと向かい、エレベーターの前で
待っていたもうひとりの男に促がされて、僕はホテルの重厚なエレベーターBOXへと
足を踏み入れた。

   この中の向こうには、どんな運命が待ち受けているのだろう

   少なからず、この先にあいつが・・・

   そのボスとやらと共に待っているわけか・・・

ホテルの最上階に降り立つと、迎えの男達が更に加わった。
広々とした廊下にはスーツをきちんと着こなしたいぶかしい男達が等間隔で居並び、
僕に深々と頭を下げたまま微動だにしなかった。

どうも、この階は全てパーキン家の占有スペースのようだった。
そして、一番奥の部屋に通された僕を例の男が涼しい顔で待ち受けていた。

   レイモンド・パーキン

「お待ちしてました・・・Mr.フランク・・・
 先日はお楽しみのところをお邪魔して・・申し訳ありませんでした」

奴はにこやかに握手を求めながら僕に近づいたが、僕は彼の握手には応じなかった。
今日はジニョンの手前を気にして、奴に愛想を振り撒く必要などなかったからだ。

「用件を・・」 

「フッ・・・どうやら、私は嫌われたようですね」

「無駄な時間を費やしたくない。」 僕は無粋なまでに端的に言った。

「そうですか・・・しかし私は、結構あなたを気に入っている・・・
 あなたとの会話を、決して無駄とは思わないが・・・
 まあ・・いいでしょう・・・ではこちらへ・・」

僕を案内した男達は、入り口付近で佇んだまま動かなかった。
そしてその先を案内したのはレイモンド直々だった。

そのスイートルームの中で一番奥の部屋のドアを彼は開けると、
僕に中へ入るよう、目で促がし、僕はそれに黙って応じた。

広々としたその部屋の窓側に置かれた大きなデスクの向こうに、ひとりの男が
穏やかな顔で僕を迎えていた。

「Mr.フランク・・・やっと会えましたね・・恋焦がれてましたよ・・・」

ボスと呼ばれるその男は、至って温和な口調で僕に親しみを込めた。

「ご用件を伺いましょう」

しかし僕はここでも、無駄な時間を惜しむようなそぶりを強調していた。

「自己紹介もさせていただけないのかな?」

「存じ上げています・・・そちらも私をよくご存知のようだ・・・」

「そうですか・・・では・・・」 男はレイモンドに視線を向けて、顎をしゃくった。

「仕事に関することは全て私が一任されています
 私がお話いたしましょう・・・
 Mr.・・・あー・・フランク・・とお呼びしても宜しいかな・・・時間を省く意味で・・」

奴は皮肉を込めてそう言うと、にやりと口元だけで笑った。

「どうぞ・・」

「では、フランク・・・率直に伺います。このNYグランドホテルの案件・・・
 今、何合目まで来てますか?・・・」

「・・・・・」 僕は奴の問いかけに最初から言葉を詰まらせてしまった。

    何もかも・・・お見通しということか?
    

「あなたが既に着手していることは承知してます
 私の調べでは・・・2合目・・・といったところかな・・・」

「ご存知なら、訊ねる必要もないのでは?」 しかし僕は努めて冷静を装った。

「ごもっとも・・・まぁ、確認です・・・
 あ・・それから・・誤解のないように申し上げますが・・・ 
 我々はそれについて意義を申し立てたいのではありません・・・
 あなたが動くことには何ら問題はない・・・
 何せ父は、我が従兄殿よりあなたの・・・
 実力の方が勝っていると考えていますのでね・・・
 それに仕事は早いに越したことはない・・・だが・・・」

「・・・・・」

「・・・ここは私達の・・・この言葉は私は好きではないが・・・
 いわゆる縄張りです。つまり我々にも面子というものがある・・・

 そこで・・・です・・・
 あなたには存分に力を発揮なさって成果をあげて頂くとして・・・

 その代わりと言っては何だが・・・
 最終的にはジェームスの・・・あ・・ご存知ですよね・・
 我が従兄弟です・・・その彼の仕事としてもらいたい・・・
 もちろん・・分け前は存分にお払いしますよ」

「分け前?」 僕は首を傾げて、奴の言葉に対して呆れたように訊ねた。

「・・・はっ・・・何を言うのかと思ったら・・あいにくだが、従えない話だ」

      
「んー・・・・・ということですよ・・ボス・・・」

そう言いながらレイモンドは、ただふたりの会話を前に目を閉じ黙したままのボス、
アンドルフ・パーキンを見た。

アンドルフは口元に笑みを浮かべるだけで、結局のところ言葉を発しなかった。
代わって、続けたのはやはりレイモンドだった。

「フランク・・・あなたはまだ、若い・・・今・・
 この世界で生きていくレールをひとつひとつ敷いている段階とも言える
 君のその純粋で真直ぐなレールに・・・
 小さな石ころで邪魔をしてもいいんだろうか」
レイモンドはゆっくりとした口調で、笑顔を交えながらそう言った。

「回りくどい。」

「ジニョン・・・」

「ジニョンの名前を口にするな」

「フッ・・・それは無理だ・・・私は彼女の・・」

「・・・・・・!」

奴の知ったような口ぶりが、奴がジニョンの名を口にすること自体が・・・
ひどくしゃくに障っていた。

「フランク・・そんな怖い顔しないで・・・落ち着きなさい
 いつも冷静沈着なあなたが彼女のこととなるとそれを失ってしまう
 あなたはそのことに・・・ご自分で気付いておられるかな?」

「・・・・・」
     
「韓国のソウルホテル・・・もちろん、ご存知ですよね・・・」

「・・・・・」

「そのホテル、結構繁盛してます・・経営状態は全く問題ない・・・しかし・・・
 そのホテルを潰す力が我々にはあります・・・
 しかも、さほど時間をかけることなく・・・簡単に。」

「それが僕と何の関係が?」

「関係・・・確かにあなたとは何の縁もない・・・しかし、ジニョンにはどうだろう・・・
 彼女にとって・・彼女の家族にとって・・ソウルホテルというところが
 どれほど思い入れのあるものか・・・あなたはご存知かな?

 そのホテルを・・・経営にまったく問題ないホテルを瞬時に失う
 その原因が、あなたの・・・一言・・・そういうことになる。」

 

    
       
見送りを頑なに拒んで僕は急いでエレベーターを降りた。
とにかく一秒でも早くここを出たかった。エントランスに向かい、ホテルのドアマンから
車のKEYを受け取ろうとした、その時だった。背後から突然男の声が僕に向かっていた。

「やっぱり・・・あなただったのか・・・」 振り向くとそこにはジョルジュが立っていた。

「君か・・・」

「この・・NYグランドホテルで働くことになりました」

彼が何を言わんとしているのかは想像がついていた。

「それが?」

「父から突然、言われました・・・ついこの間まで
 私の帰国を喜んでいた父が・・・帰ってくるなと・・そう言ったんです」 

「・・・・・・」

「当然、ジニョンの留学も続行の許可が出ました・・・
 随分と・・都合のいい話だ・・・誰かにとっては・・・」

「言ってる意味がわからない」

「とぼける気ですか」

「言っておくが・・・君がこのホテルで働くことと・・僕は何ら係りはない・・・」

「まあ・・いい・・・
 ジニョンも学校へ通うことは望んでいたことだ」

「僕は正直、彼女を学校には行かせたくはない」

「傲慢だな」

「そう思ってもらっていい」

「あなたの思い通りになるかな」

「とにかく・・」

「あいつには・・・こうと決めたら、意志を曲げない
 誰にも止められない頑固さがある」

「フッ・・・確かに・・・」

「私があなたのことをあいつの父親に話さないのは
 あなたの為じゃないことはわかっていますよね
 あいつの頑固さと父親を戦わせたくない・・・それだけのことです」

「いつの日か彼女の父上には認めていただく」

「その前に目を覚まさせる。」 ジョルジュの目は真剣そのものだった。

「・・・・・・」

「きっとあいつも気付く時がくる・・・
 共に歩くのがあなたではないことに・・・」

「共に歩くのは君だと?」

「この地に留めることには成功したかもしれないが・・・
 あいつの夢まではあなたには壊せない」

「夢・・・か・・・」

「そうです・・・私と・・・ジニョンの夢だ・・そこにあなたはいない。」

彼の力強い瞳に僕は何故か腹立たしさを覚えなかった。
彼もまたジニョンを心から愛している男。僕と同じ想いを抱えた男なのだと、
この時素直にそう思えた。

「君に頼みがある・・・」 僕はジョルジュに切り出した。

「頼み?」

彼は自分の挑発に動じた様子を見せないばかりか、頼みがあると言った僕を怪訝そうに見た。


「彼女が学校にいる間・・・目を離さないでもらえないか・・・」

「・・・・・?」

「じゃ・・・」 僕はそれだけを言うと、彼を残してホテルを後にした。

 




「これで彼はこの仕事を急ぐはずです」

「お前の思う壺・・・そういうことか・・・」

「ええ・・・この案件の出所がもともと我々であること・・・
 それに気付く頃には、彼はきっと成功の道を辿っている・・・」

「その後はどうなる・・・奴は私の手元に残るかね」

「最後には・・・背後に必ず我々がいることに気付く・・・
 この世界で生き抜くためには・・我々の力が必要不可欠であることにも・・・
 そして・・・それに気がついた時には・・・もう既に遅い」

「用意周到なお前の手腕には流石のフランクも敵うまい・・・」

「用意周到?・・・フッ・・・
 それはあなたには敵わないことです・・・父上・・・」
      

 


「レオ・・・時間を作れ・・・今すぐだ」

僕は確かにこの時、少しあせっていた。仕事のことと、ジニョンのことが同時に絡み合って
僕の思考を冷静に保たせてはくれなかった。

   落ち着け・・・フランク・・・

   焦ったところで・・・何も生まれはしない


   あいつの真意が何処にあるのか・・・

   今回の案件を僕に成功させた上で・・・
   それを飽くまでも自分達の手柄としたい・・それだけのことなのか?

   しかしたったそれだけの為に・・・
   韓国のソウルホテルをも巻き込む必要が何処に?・・・


僕にはまだアンドルフ・パーキンの、いや、レイモンド・パーキンの真意が測れなかった。

僕はジニョンをこの手に抱いたまま・・・

奴らが放つ鋭い弾丸を・・・


    ・・・避けることができるだろうか・・・

   


    


         


       

 


2010/05/01 17:49
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-28.リスク

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店内にラプソディが流れている間、僕はふたりだけの世界に酔いしれていた

まるで・・・僕達を・・・
周囲にうごめく暗黒の渦から遠ざけてくれるかのように、わずかな休息を与えてくれた。

こうして彼女を・・・腕の中にさえ抱いていれば・・・

きっと守ることができる・・・

僕は自分自身にそう言い聞かせていた。

   

「それじゃあ、ジニョン・・・おふたりの邪魔をしてもいけないから・・・
 これで私は失礼するよ・・・
 でも学校には出ておいで・・・
 この前・・・勉強が楽しくなったって言ってたじゃない・・・
 それとも何か、込み入った事情でも?」

僕達がダンスを終えて戻ると、あいつがまた席に近づいて心配そうにそう言った。

「いいえ・・・あ・・はい・・・
 実は・・・父に帰国するよう言われています・・・」

「帰国?」

「学校も辞めるようにと・・・」

「ジニョン」

僕は彼女に“余計なことを言うな”と言わんばかりの視線を送った。
しかし、当のジニョンは彼を、ことの他信用しているようで、事情を打ち明けることに
少しの躊躇も伺えなかった。

「そうなの?・・」

「はい・・でも、何とか説得するつもりです
 アメリカを離れるわけには行きませんので」

ジニョンは僕の顔をちらりと覗いてそう言った。
それに対して僕は仕方ないような笑みを向けた。

「そう・・頑張って・・・待ってるよ・・・では・・」

今度は彼が僕の方に向き直って姿勢を正した。

「Mr.フランク・・・またお会いできると嬉しいです・・・
 いや・・きっとお会いできそうだ・・・」

「・・・そうでしょうか・・・」 僕は冷ややかな口調で彼に答えた。

彼は少し苦笑いを浮かべながら、“それでは・・”と僕達の前から去っていった。

僕の彼への応対が気に入らないようだったジニョンが、彼が店を後にしてからずっと
僕を睨みつけていた。

僕はそんな彼女の様子に気付きながらもそ知らぬ振りをして、ディナーコース最後の
エスプレッソを口に運んでいた。

「ドンヒョクssi!」
「何?・・・」

「あなたがあんなにも失礼な人だとは思わなかったわ!」

「何のこと?」

「しらばっくれないで・・・私の学校の先生よ
 少しは愛想よくしてくれてもいいんじゃない?」

「それは悪かったね・・・しかし僕はあいにく君の保護者じゃない・・・
 何も君の先生だからといって、愛想振りまく義理が何処にある?」

「まあ!フランク!」

僕はジニョンの怒りを軽くかわしながらも、用意周到とも言える奴らの手口に
どう対抗していくか・・・今後の手段を考えていた。

 

「レオ・・・レイモンド・パーキンを調べろ」

「レイモンド・パーキン?」

「ああ・・きっとパーキン家の縁続きだろう」

「フランク・・・本当に知らないのか?・・・
 レイモンド・パーキン・・・調べるまでもないさ・・・
 パーキン家の三男28歳・・・腹違いだがな
 アメリカ生まれ、母親と一緒に幾つもの国を転々として育ってる
 十歳の頃からはイギリスで暮らしてたらしい・・・
 父親の希望で三年前にアメリカに戻った
 母親は韓国籍・・・十八年前に亡くなってる・・・
 オックスフォード大学を首席で卒業
 頭脳明晰・容姿端麗・・・
 マフィアの中にあって一風色が違う・・・
 しかし、本格的に組織の仕事に就いて二年・・・
 彼は瞬く間に、組織の中心人物となった・・・
 兄貴達を差し置いて、跡取りは彼だと専らの噂だ」

レオはレイモンド・パーキンについて、ろうろうと演説をぶった。
「その・・レイモンドが・・・どうした?」

「今日会った・・・ボスに会えと言って来た」

「話は断ったぞ・・・お前の望み通りにな」

「奴らはひと月も前から僕の周りを嗅ぎ回ってる」

「ひと月?・・・
 俺らがホテル業界に目を向け始めた頃か・・・」

「あぁ・・」

「それで・・どうするつもりだ・・」

「まだ何も・・・」

「そうなると、今回の案件に支障はないか?
 どうする?少し時間を置くか」

「いや・・進めろ・・奴らに怯むな」

「わかった」

 

        

 

「フランク・シン?・・いったい、そいつは何者ですか?」

「新進のM&Aハンター・・・」

「M&Aハンター?・・・それが?」

「その男が欲しい」

「欲しいって・・・父さんがその気なら、いくらでも方法がおありでしょう・・」

「いや・・それが面白い男だ・・・
 M&Aの手口は冷徹・・非道・・・法にこそ触れないが
 マフィア顔負けの強引さがある・・・
 しかし、頑としてマフィアが絡むことを拒む」

「金を積んだらどうです?」

「やってみたさ」

「それで?」

「易々と乗らない」

「なら・・潰しますか?」

「いや・・出る杭は打たず、育てて、我が家の柵にする主義だ・・・」

「フッ・・・そうでした」

「奴は最近ホテル業界に狙いをつけたらしい・・・
 そこでだ・・・
 NYグランドホテルとカナダのプリンスホテルの合併をえさに蒔いた・・・
 きっと食いついてくるに違いない・・・」

「あれはJAコーポレーションの話では?」

「ああ」

「そこは確かジェームスが・・」

「レイモンド・・・あいつの力なんて・・どれだけのものだ?
 お前だって知っているだろ?今は身内だから使ってやってる」

「・・・・・」

「フランク・シンには類まれな才能がある・・・
 きっとジェームスなど足元にも及ぶまい・・・
 私は何としても奴の頭脳をこの手にしたい・・・」

「それほどの男ですか?この・・・フランク・シン・・・22歳・・・
 ハーバード大学院生・・・飛び級か・・・なるほど・・かなり優秀なんだ・・・
 しかし・・まだ若い・・言ってみればひよっこじゃないですか?」

私は父に差し出されたフランク・シンという男の身上書を軽く指で捲りながら
興味なさげに呟いた。

「いや・・私の目に狂いはない・・・奴なら、きっとこの世界でも一流になる・・・
 お前と同じ匂いがするんだ・・・」

「私と同じ匂い?」

「ああ・・冷静沈着・・・いや冷酷・・冷淡・・・ということかな・・・
 そして人間を誰ひとりとして信用していない・・・」
        
「私が父上すら信用していないとでも?」

「違うかな?・・・」

「フッ・・・・」

「まあ・・いい・・・しかし、全てにおいて完璧・・・
 やることには抜かりがない・・・
 法を犯す人間はお前のように頭が良くなければならない・・・」

マフィアの世界などまったく興味すらなかった私を、強引なまでの手段で
自分の思うようにしてきた父の頑として引かない強い眼差しがそこにあった。

「褒められてるんでしょうか・・・」

「褒めてる」

「有難うございます・・・
 とにかく・・父さんがそれほどに惚れ込んだ男、ということですね・・・
 それで私に何を?・・・」

「奴の弱みを探せ・・・
 用心深く、弱みと言えるものが見つからん・・・」


今からひと月前、こうして父に、“探せ”と命を受けた「フランク・シンの弱み」・・・


   驚いたろうね・・・フランク・・・

   君にこうして面通りする前に・・・

   私は君のその弱みとやらに近づかせてもらっていた


   君の弱みは意外と簡単に見つかったよ・・・


   ソ・ジニョン・・・

   本当に可愛い人だ・・・

   人間を信じない君が彼女を信じた理由が

   私にはわかるよ・・・フランク・・・


   さあ・・・これからが君と私の本当の闘いとなる・・・

   用意は?・・・良さそうだね・・・

 

 

翌日、ジニョンはジョルジュに電話を掛けていた。

「わかっているわ・・・オッパ・・ごめんなさい・・・
 でも、私の決心は変わらないわ・・・・・・・・・・
 父には私から連絡する・・・・・・・・いいえ・・・
 駄目よ・・・・・・・・ね・・お願い・・わかって・・・」

ジョルジュとのやりとりがどんなものなのか想像はつく。
彼としても、諦めきれないものがあるだろう・・・
しかし・・・彼女の深刻そうな応答をそばで聞きながら、自分自身が
解決してやることができない歯がゆさに僕は唇を噛んだ。

電話を切った後、彼女はしばらく黙って電話を握り締めたままソファーから動かなかった。

「ジョルジュは父に自分からは言わないって・・・
 私達のこと・・・」

「諦めたってこと?」

「・・・・・・」


        『ジニョン・・・きっと後悔する時が来るぞ・・・
         親父さんに俺がお前達のことを話さないのは・・・
         親父さんを悲しませたくないからだ
         親父さんにお前のことを悪く思わせたくもない・・
         わかるな・・・ジニョン・・・』

               ジョルジュ・・・

       
僕は彼女の横に腰掛けて、彼女の肩をそっと抱いた。
彼女はそのまま言葉もなく僕の肩にもたれかかっていた。

彼女の心を何んとか慰めたくて、僕はその髪にそっと唇を落とした。
彼女の辛い想いが僕の唇を伝って胸を疼かせた。


「父への電話は・・・明日にするわ・・・」

「ああ・・・」

その日の夜、僕達はなかなか寝付けないでいた。

  彼女は多分遠い祖国の父親達に想いを馳せて・・・

  僕は昨夜、目の前に現れた戦うべき敵のことを考えて・・・

 


そして・・・翌日の朝・・・
ジニョンはやっと決心をつけたかのように韓国に電話すると言った。
大きなため息をひとつついて、ソファーの上で正座をすると

「きっと・・わかってくれる」 僕に向かってそう言った。

「困ったら・・僕に代わって?その時は、僕がお話しする・・・」

彼女はにっこり笑って頷いた。

そして父親と話を始めた彼女が突然狐につままれたような表情をした。

「え・・パパ・・・わかったわ・・・
 大丈夫・・私は元気よ・・ジョルジュも元気だわ・・・
 ・・・・・・・・・ありがとう・・・頑張るわ・・・・・・
 元気でね・・・・・・・・・・うん・・待ってる・・・・・・
 ・・・・・・・・・・はい・・・お休みなさい・・・」

彼女は思いのほか早く受話器を置いた。

「どうしたの?」

「今、ジョルジュの父親と酒を飲んでたとこだって・・
 NYでね・・・あ・・NYグランドホテルって知ってる?」

「ああ・・もちろん」

「そのホテルで、ジョルジュがホテリアーとしての
 見習いをさせてもらえることになったんですって・・・
 帰国を望んだジョルジュにおじ様がそのまま残るように命令なさったみたい」

「それで?」

「ジョルジュは韓国で有名なホテルの息子なの・・・
 いずれはそこを継ぐことになってるわ・・
 その父親のところにNYグランドホテル理事から直々に
 まだ学生の身だけど、修行させてみないかって・・お話があったそうなの・・・
 大学卒業後も数年面倒を見ると・・・
 
 もちろん、おじ様はこんないいお話は無いって・・
 そうなると、ジョルジュの帰国が私の帰国と関係していたわけだから、
 私はそのまま大学に通うべきだと・・

 父達はね・・昔から仲が良くて、何でも相談し合ってるの・・」

「・・・・・」

「さ来月、父親同士でふたりの様子を見に渡米するって」

「昨日ジョルジュはそんなこと言ってた?」

「いいえ・・どうも、向こうの時間で今朝の話らしいわ・・
 私がジョルジュと話した後だわ・・きっと・・」

「・・・・・」

「だから・・ごめんなさい・・・拍子抜けしちゃって・・・
 あなたのこと話そびれちゃった」

「それは・・いいさ・・・君がアメリカにさえいてくれれば・・・
 さ来月か・・・2ヶ月はあるね・・・その時にはきっと・・・
 君のお父さんがアメリカにいらっしゃる時には・・・
 きちんとお目にかかってご挨拶しよう・・・」

「挨拶?・・何て?」

「もちろん、決まってるだろ?」

「だから・・何て?」 ジニョンはグイと顔を僕の顔に近づけて言った。

「・・・・知りたい?」

「知りたい」

「教えない・・・」

「ドンヒョクssi ぃー・・・」

彼女は輝く笑顔のまま僕の首に巻きつけた腕で、僕の首を締め上げた。






   しかし・・・話ができ過ぎている・・・

NYグランドホテルと言えば、格式を重んじた特級ホテル・・・
易々と学生ごときを見習いなどに迎えるはずはない

そのことを巧みに巧作できるとすれば・・・

   奴らしかなかった・・・


案の定その日の夜、奴から電話が入った。


   レイモンド・パーキン・・・


「彼女はアメリカに残ることができましたか?」

「やはり、お前達の仕業だったのか・・・目的は?」

「目的は・・・もちろんあなたです・・・考えたんです、彼女がもし・・
 帰国でもしてしまうことになればあなたは仕事なんてそっちのけで
 追いかけてしまう・・違いますか?
 そうすると、うちのボスが嘆くものでね・・・」

「マフィアなどと仕事をする気はない・・・」

「Mr.フランク・・・諦めなさい・・・ボスが欲しいと思ってしまったら・・・
 あなたはもう我々の力になるしか手立てはない・・・」

「ふざけたことを・・僕は誰の傘下にも入らない。それが信念だ」
 
「今に、そんなつまらない信念・・・
 最初から持ってなかったと思うようになりますよ・・・」

「どうかな」

「あ・・それから・・・彼女を帰国させなかった理由・・・
 あなたの為だけとは限りませんよ・・・」

「!・・・何を考えてる」

「男と女に考えることなど・・・
 愛し合うふたりにステップは・・・必要ないんですよ・・フランク・・・」

「ジニョンに触れたら・・・ただで済むと思うな」

「ははは・・あなたは・・・まだ若い・・残念ながら、我々の敵でもない」

      
それにしても・・・
ジニョンが奴に話したのは父親に帰国を勧められている、ということ・・・

奴はたったそれだけで、ジョルジュをこの地に留めればその問題が解決すると結論付けた。

組織の計り知れない力に僕は正直不気味さを感じていた。

僕一人のことなら、何とでもして切り抜けることができる。その自信はあった。

しかし・・・今はジニョンが僕の隣で眠る・・・

彼女が穏やかな眠りから醒めないように僕は秘かに彼と戦わなければならない。

まずは彼らの思惑を知る・・・そのことが先決だった。


「僕に何を・・・」 ≪手の内を見せてもらおう≫

「父に・・・ボスに会いなさい」

「・・・・・・日時は・・」

「明日・・十二時・・NYグランドホテルロビーでお待ちしてます・・では」


   もちろん・・・
   彼らの言うことを聞くつもりはさらさらない・・・

   そして、受けてたった仕事は必ず成功させる

   奴らの妨害には決して屈しない・・・

 


   何故なら僕は・・・この仕事に人生を賭けた


      ジニョンとの・・・


            ・・・愛を賭けた・・・


 





2010/04/24 00:15
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-27.守る手・壊す指

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          collage &music by tomtommama

                story by kurumi





「ジョルジュといつ?」   

「今朝・・・当然のことだけど・・君を探してた」

「・・・・・」

「話をしたいそうだ・・・」

「・・・・・」

「君のご両親にはまだ・・本当のことを話してないらしい・・・」

「・・・・・」
  
「本来なら僕が、君と一緒に韓国へ行って君のご両親にお詫びする・・・
 それが筋だ。わかってる・・・きっと君もそうして欲しいでしょ?」

「・・・・・」

彼女は僕がジョルジュと会ったことを話している間、ただ静かにそれを聞いていた。

「・・・ごめん・・・でも今はできない・・・」
    
「いいの・・・わかってる・・・
 今あなたはお仕事が大変だってこと、わかってるわ
 あなたのお仕事の邪魔はしたくない」

「もう少しだけ待って欲しい・・・きっと・・・
 君のご両親にも認めてもらえる人間になる」
    
「認めてもらえる人間?・・・
 そのままのあなたを見れば・・・父や母もわかってくれる・・・」

「・・・・・そうかな」

「わかってくれるわ・・きっと。・・・だって・・私を愛してる人たちだもの・・・
 私が愛したあなたを愛さないわけないわ・・・」

ジニョンは“当然よ”と言う様にそう言った。
   
    そうかな・・・世の中はそんなに甘くはないよ、ジニョン・・

「ジョルジュには・・・ちゃんと連絡するわ・・それから父にも・・・」

「それは僕が・・」

「いいえ・・・今は私が。・・・その方がいいと思う」

「どういう風に?納得させられる?」

「本当のことを話すの・・・」

「本当のこと?」

「ええ・・本当のこと・・・
 “彼のそばを離れられない”・・・そう話すの」

彼女の瞳の中に頑固なまでの強い決心が見えた。

「ジニョン・・・」

    あとは僕が・・・君のその強い決心に報いるまで・・・

    そうだね・・・



テーブルにジニョンのお目当てのデザートが運ばれた時だった。
携帯の着信音がジャケットのポケットを振動させた。

「ごめん・・・」
僕はジニョンに中座を詫びながら、携帯を手に席を離れた。

「ハロー・・・」

「Mr.フランク・シン?」

「イエス・・・そちらは?」

「そちらがお探しのようでしたので、ご連絡を・・・」 その声がそう言った。

   探す?

「何のことでしょう」
そう言った瞬間、さっき表ですれ違い、追いかけた黒い影が脳裏を過ぎった。
電話の主はその時の声とは別人のようだったが、含んだ物言いがその仲間であることを
物語っていた。 「!・・・誰だ・・」

「私は・・・・」 男はそう言い掛けて続けた。
「・・・まあ、そんなに急ぐことはないでしょう・・Mr.フランク・・・
 近いうちに正式に名乗らせていただきます・・・
 しかし・・我々のボスのことは・・・
 もうあなたにも見当がついてらっしゃるでしょう?」

   確かに・・・見当は付く・・しかし

「何の用だ。」

「それももうおわかりのはず」
「持って回った言い方は止めろ。」 
僕は冷静を装ったが、ジニョンがそばにいることは、決して優位な立場ではない。

「直球がお好みですか?・・・」 男は僕の反応を面白がるように言葉で遊んでいた。

「何処にいる」

「ご心配なく・・・逃げも隠れも致しません・・・
 あなたの席の方をご覧下さい」

僕がその言葉に瞬時に反応し、さっき離れた席に視線を向けると
ジニョンが僕に気がついて笑顔で手を振っていた。
彼女の笑顔に応える自分の頬が少し強ばっていることに気が付いて、
僕は気を取り直して彼女に手を振り返した。

すると携帯電話を耳にあてがったサングラスの長身の男が、僕達の直ぐ後ろの席に近づき
着席する姿が見えた。

そして、男は思わせぶりに僕の方に振り向くと、口元でにやりと笑い小さく指を振った。

肩よりも長い髪を無造作に後ろで束ねたその男が、ゆっくりとサングラスを外し、
素顔を見せた。
目鼻立ちが整った中性的なその容貌は電話から聞こえてくる無機質な声とは
決して似つかわしいものではなかった。

「どういうつもりだ」

「美しい恋人ですね」 その男はまたもやニヤリと片方の口角だけを上げた。

「彼女に構うな・・」

「私が彼女に何かするとでも?
 それは誤解だ・・・私は何もしません・・・」

「いったい、何の用だと聞いてる」

「我がボスに会っていただきたい」

「その必要はない」

「ん~・・・困りましたね・・・」

「何もかもお前達の思うようには行かない・・そう思え」

「そうですか?・・・しかし、それは無理というものです・・・
 我々は今まで・・・どんなことでも・・・
 思うようにしか・・してこなかったものですから・・・
 フッ・・・いや・・失礼・・・しかし大丈夫。
 あなたは・・必ず・・・ボスに会ってくれます」

男は意識したかのようにゆっくりと、言葉を刻んで話した。

「ふざけるな。」

「穏やかにいきましょう、Mr.フランク・・・まずはお話ができて良かった・・・
 今日はあなたにご挨拶申し上げたかっただけです・・・
 あ・・それから最後にひとつ・・・」

「・・・・・」

「私は・・嘘をついたことが無いのが唯一の自慢です・・・
 先ほど申し上げましたね。私は何もしませんと・・・
 あなたにも・・・もちろん、彼女にも・・・
 しかし・・・私の関知しないことも・・ある。」

そう言って男は左右に座っていた強面の男達に交互に視線を送ると、
それまでの柔らかな笑みを冷ややかなそれに変えて、携帯電話を大げさに
パタリと閉じた。

僕は急いでジニョンの元に戻り、何でもなかったように彼女に笑顔を作って席に着いた。
そしてしばらく僕の視線は彼女の肩越しに見えるその男の背中に注がれていた。

「ドンヒョクssi」

「ん?」

「やだ・・さっきから呼んでるのに・・」

「あ・・ごめん・・・何?」

「や~ね・・」

「ごめん・・・ちょっと仕事のこと考えてた」

今このタイミングで彼女に、帰ろう、などとは言えない。
しかし、僕は少しでも早くここを立ち去りたい心境だった。

「そう・・・」

僕はジニョンの怪訝そうな表情から回避すべく、内心の動揺を懸命に隠した。

すると、おもむろに席を立ち上がる男の姿が視界に入ってきた。
そして男はこちらを振り向いたかと思うと、口元だけに笑みを携えて僕に向かって来た。

僕は思わず椅子の音を立て立ち上がり、ジニョンに向かおうとした。
その時だった・・・

「ジニョン?・・ソ・ジニョンじゃないか?」

男はにこやかにジニョンに近づいて柔らかく声を掛けた。
彼女も男の声に振り向いて、彼を見るなり親しげな笑顔を向けた。

「まあ・・レイモンド先生・・・」

「おっと・・・それは・・・だろ?」

男が自分の唇の前に人差し指を立てて横に振る仕草をしながらそう言った。

「あ・・そうでした・・・レイ・・・」

多分、僕の敵であろう男と、目の前で笑みを交わすジニョンの、ふたりだけで
わかりあったかのような会話に僕は驚愕し、それとともに胸が煮えくり返える思いだった。

「ジニョン・・驚いたよ・・・こんなところで会うなんて奇遇だね・・・
 そちらは・・・彼かな?」
男は僕に柔らかな視線を送りながら、しゃあしゃあと言った。

「え・・えぇ・・」

「紹介してくれないの?」

「あ・・ドン・・いえ・・・Mr.フランク・シン・・です
 フランク・・・こちらは・・レイモンド・パーキン先生・・・」

    パーキン?

「大学の臨時講師でいらっしゃって・・
 私のサークルの顧問をなさってるの・・・」


    大学の?講師?

「初めまして・・Mr.フランク?・・・レイモンド・パーキンです・・・
 お目にかかれて嬉しいです」

男は少しの悪びれもなく僕に手を差し伸べ握手を求めた。
僕は彼女の手前仕方なく、それに応じながらも奴を睨みつけていた。

「フランク・シンです・・初め・・まして・・」

「ジニョンにこんなハンサムな彼がいるとはね・・・
 ちょっとショックだな・・・
 もっと早くモーション掛けるんだった」

「えっ?」

「知らなかった?僕はね・・
 君に会えるのが楽しみで学校に行ってたんだよ」

「また、ご冗談を・・」

「冗談なもんか・・・あ・・これは彼氏の前で失礼・・・
 ところでジニョン・・
 最近、学校休んでいたね・・どうしたの?」

「あ・・ごめんなさい・・・
 今、事情があって休学届けを出しています」

「そう・・残念だな・・・早く復帰しておいで・・皆待ってるよ・・・」

「はい・・有難うございます・・・」

「あー・・Mr.フランク・・彼女を少しお借りしても宜しいかな
 ジニョン・・この曲・・・覚えてる?」

男は天井を指差して、彼女の答えを待った。

「あぁ・・はい・・確か・・ラフマニノフの・・」

「そう・・ラプソディ・・・この前のように、踊らないか?」

そう言って男がジニョンの前にしなやかに手を差し伸べた。

「あ・・いえ・・私は・・」
「失礼ですが・・彼女は僕と踊ります・・」

僕はふたりの間に割って入って、ジニョンの肩を抱くと、彼から彼女を遠ざけるように
中央のダンスホールへ向かった。
彼女は彼に振り返りながら申し訳なさそうに頭を下げていた。

「ドンヒョクssi・・・失礼だわ・・」

「・・・・・・彼と・・踊りたかった?」

僕は自分でも驚くほどの冷たい言い方をしていた。

「そうじゃないけど・・」

「奴と踊ったことがあるのか?」

「サークルで・・あ・・ほら、私のサークルね・・・
 ホテル関係の研究してるの・・そこでダンスの講座が」

「・・・・・」

「怒ってるの?」

「別に?」

「嘘・・怒ってるわ・・・あれは、ただのレッスンよ」

「随分親しげに呼び合うんだね」

「あ・・あぁ・・あれは、先生が生徒みんなに・・・
 私達と年齢が近いでしょ?だから、お友達みたいに呼んで欲しいって・・・
 みんな“レイ”って呼んでるわ」

「あいつは・・いつから?」

「あいつって・・・レイモンド先生のこと?・・・
 ひと月ほど前、私が選択している経済学の講師に・・」


    ひと月前・・・そんなに前から?

「あいつ・・君に何かした?」

「私に?何かって?・・・誰にもお優しい方だわ
 ドンヒョクssi・・あいつあいつって、失礼よ」

「君は無防備過ぎるから」

「ドンヒョクssi・・・どういう意味?彼は・・」

僕は彼の方を振り向こうとした彼女の頭を自分の胸に強く押し付けた。

「他の男を見るな!」

「ドンヒョクssi!・・いい加減にして・・」

今度は彼女が僕の胸を強く押し返して僕から離れた。

「何だか変だわ・・ドンヒョク・・・せっかく踊ってるのに
 少しも楽しくない。」

僕は奴らの手が既にジニョンに近づいていたことを、目の前に突きつけられ、
理性を失いかけていた。


    駄目だ・・・こんなことでは・・・

    奴らの思う壺・・・


「あ・・ごめん・・・そうだったね・・・初めてのダンスなのに・・・
 今日の僕はちょっと可笑しい・・・きっと・・・
 突然、君の前に知らない男が現れて、動揺したんだ・・・
 ごめん・・・ジニョン・・・怒らないで・・・

 わかったよ・・・
 今夜は楽しく踊ろう・・・さあ、機嫌直して?・・・」

僕は彼女に余計な恐怖を与えないためにもここはしばらく、彼らの存在を頭から
振り払うしかなかった。

改めてジニョンの前に手を差し伸べ笑顔を向けると、彼女もまた僕に少しばかり
睨んだような笑顔を返して、僕の掌にそっと指を置いた。

そして、僕は彼女の腰に手を回し、ゆっくりと引き寄せ彼女を胸に抱いた。

「私ね・・・ずっと・・・こうして・・・あなたと踊りたかったの・・・
 この日を思い描いて、レッスンしてたわ・・・
 でも・・まだ下手でしょ?」

「いいや・・・僕の方こそ・・・リードできなくてごめん」

「ふふ・・・愛し合ってるふたりにはね・・・」

「何?」

「“愛し合ってるふたりにはステップなんて必要ない”・・・
 レイモンド先生の受け売り・・・」

そう言って彼女はクスッと笑った。

「そう・・・だね・・・」

ジニョンは今度は自分の方から僕の胸にそっと顔を埋めてきた。
僕は優しく彼女を抱きしめると、ゆっくりと視線を上げた。
その先に薄笑いを浮かべながら僕に向かってグラスを掲げる奴の姿が
ホールを揺らめく照明に浮かんで見えた。

僕は抱きしめた彼女の肩越しに、まだ計り知れない敵に向かって
戦いを挑むかのように奴を睨らみつけていた。


    レイモンド・パーキン・・・

    いったい・・・何を企んでいる?


    しかし・・覚えておくといい・・・

    もしも・・・

    例えわずかでも・・・

    その指がジニョンに触れたなら・・・


    決して許さない・・・


    来るなら・・・


         ・・・来い・・・


 








2010/04/22 23:15
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-26.君がいないと僕は・・・

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彼女が行きたいと望んだthree hundred rosesの人が行き交う入り口の前で、
僕は彼女を抱きしめたまま、しばらく離さなかった。

いや・・・離せなかった・・・

僕に巻きつく暗黒の渦に彼女を奪われまいと、必死にしがみついてでもいるかのように。

「ドンヒョクssi・・・人が見てるわ・・・」

「構わない・・・」

僕は彼女が人目を気にする言葉を口にする度に、彼女の肩に回した両腕に力を込めた。

「だって・・・」

「うる・・さい・・・僕がこうしたい時は
 君は黙って・・僕の腕の中にいて・・・」

「・・・・・フラ・・ンク?・・・どうしたの?・・・
 何かあったの?・・・」

「何も?・・どうして?」

「だって・・さっきのあなたの目・・・何だか・・・怖かった・・・」

「怖い?・・・僕はいつもの僕だよ・・・
 こんなことも・・・今に始まったことじゃないでしょ?
 僕は何処でもいつでも・・・君をこうして・・抱いていたいだけ・・・」

「フフ・・・そう・・ね・・・そうよね・・・
 いつもの・・・あなたよね・・・でも・・・」

「でも?何?」
「そろそろ・・・」

「お腹すいた?」
「そんなこと言ってないわ」

「お腹鳴ってる」
「うそ!」

「僕はもっとこうしていたいけど・・・仕方ないね・・・
 食いしん坊ジニョン・・・では・・・エスコートを・・・」
「ドンヒョクssi!」

彼女は頬を膨らませながら、僕の胸をひとつ叩いたあと、それでも僕の差し出した腕に
優しく手を添えた。

彼女のくったくのない笑顔に包まれていると、僕の心に掛かった闇の雲が
嘘のように晴れていく。

僕は、僕の腕に添えられた白い手をそっと上から包み込むと、幸せそうに微笑む
その横顔に固く誓いを立てた。

    たとえ何があろうと決して・・・

    この手は離さない・・・

    たとえ誰であろうと絶対に

    ふたりの愛を壊させはしない・・・

    ジニョン・・・そうだろ?

    
店の中に入ると、アールヌーボー調に施された内装が洗練された様相と
落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

「君がこんな大人っぽいところを好むとは意外だね」      

「ふふ・・素敵なところでしょ?ラスベガスのお店と
 まったく同じように作ったんでっすって・・・
 ドンヒョクssiも気に入ると思ったんだけど・・どう?」

「ん・・・気に入った」

「ホント?良かった・・・」

僕達は案内されて、テーブルに着くと改めて見詰め合い互いに幸せな笑みを交わした。

「ドンヒョクssi・・・ありがとう・・・」
「ん?」

「連れて来てくれて・・・」

「不思議なんだ・・・
 今までは経験しようとさえ思わなかったことでも
 君と一緒なら・・心が弾む・・・」

「そうなの?」

「ああ・・・だから言ってみて?・・・どんなことをしたいとか・・・
 何が欲しいとか・・・君のためなら僕は・・・」

「ありがとう・・でもね、ドンヒョクssi・・・
 そんなの・・あんまりないわ・・・
 ここに来ることはついおねだりしちゃったけど・・・
 本当は・・・あなたといれれば何処でもいいの・・・
 何をしててもいいの・・・」

「本当に?」

「ええ・・・本当よ・・・だからお願いはひとつだけ・・・
 お仕事の時は仕方ないけど・・・できるだけ
 いっぱいそばにいて・・・ね・・」

「それはもちろんだよ・・でも・・・」

    本当にそれだけで・・・いいの?

「どうかした?ドンヒョクssi・・・」

「・・いや・・・何でもない・・・」

「また・・何でもない?・・・
 何だか・・・今日のドンヒョクssi・・・」


    今日の僕は・・・

「変?」

    確かに変だ・・・

「うん・・・何となく」

「だとしたら、君と離れていたせいだな」


    これから立ち向かおうとしているものに

    僕は何故か初めての恐怖を覚えている      
      

「離れてたって・・・朝別れてからまだ8時間しか・・」

「8時間・・も・・だろ?・・・480分・・十分長いよ・・・
 もう死にそうだった」

    それを君に悟られたくはない・・・

「ふふ・・オーバーね・・・」

    君には・・・どうかそのまま・・・

    笑っていて欲しい

「オーバーなもんか・・ 僕はね・・・
 君と離れたその瞬間から・・・君に逢いたくなる・・知らなかった?」

「本当に?」
「ん・・」

「私も・・・」
「ホント?」

「ええ」

    僕が今 どれほどの幸せな顔をしたのか・・・
    僕にもわかったよ・・・ジニョン・・・

    いつもなら・・・
    「もっと幸せそうに笑って」と君が必ず文句を言う・・・

    今・・目の前の君は頬を薄紅色に染め僕を笑顔で包んだ

    君はまるで僕の心の鏡のようだね・・・

    僕が今どれほど幸せなのか・・・

    君のその笑顔が教えてくれる

「ここのお食事はね、すごく美味しいって・・・
 韓国でも有名だったのよ・・・食材もかなり厳選してるんだって」

「そう」

「それにレストランとしての姿勢も超一流だって」

「レストランとしての姿勢?」

「ええ・・例えばね・・・この食器ひとつをとってもそうなのよ・・・
 見て・・このグラスの輝き・・・」

「それがどうかしたの?」

「この輝きはグラスのひとつひとつを丁寧に愛情を込めて手入れしている証拠よ
 れから、このナイフとフォーク・・・シルバーを磨くのってすごく大変なの・・・
 でも見て・・ほら・・顔が映るほどでしょ?
 お肉の切れ味もとてもいいわ・・・」

料理を味わうこととはおよそ関係のないことを得意げに話す彼女は、今まで僕が
知らなかった彼女のような気がして、僕は思わず視線をテーブルに下ろしていた。

「君の感想って・・18歳の女の子が言うようなことじゃないね」

僕は視線を落としたまま、少しばかりムッとしたような口ぶりで彼女の言葉を遮った。

しかし彼女は僕のそんな様子に気付きもしないで話を続けた。

「小さい頃、よく出入りをしていたホテルのレストランでね
 そこの支配人が教えてくれたの・・・
 私がちょっとでも触ろうとするとそれはもう、こっぴどく叱られたわ・・・
 お客様に使っていただく大切なものだって・・」

「小さい頃?・・・」

「ええ・・私・・ホテルが遊び場だったの・・・ホテルの仕事ってね・・・
 どんな些細なことでも、お客様のことを第一に考えて
 従業員ひとりひとりが心を尽くしているのよ・・・」

「ホテル?」

「ええ・・・幼い頃には何気なく見ていたことだけど
 大きくなるにつれて、それがすごく感動的に思えるようになったの・・・
 それで私は・・・」


瞳を輝かせながら嬉々と語っていた彼女が、僕の表情の変化にやっと気がついて
次第にその笑顔を曇らせていった。

「それで君は・・・ホテリアーになりたくなった・・・」 僕が彼女の代わりにそう言った。

「え・・えぇ・・・」

「ジョルジュと・・・」

「・・・・・?」

「・・・・・君はそこで働きたいと・・・まだ思ってる?」

「・・・・・・ジョルジュが?」

「正直に答えて・・・まだそこで・・・彼と・・・
 ジョルジュと働きたいと・・・思ってる?・・・」

「・・・・・・思って・・・ないわ・・・」

    ジニョン・・君は正直な人だ・・・

「・・・・・・僕が・・君の夢を奪ってるんだね」

    僕はいつの間に・・・
    こんなにも君を愛してしまったんだろう・・・

「だから!思ってないわ」


    君の瞳の奥の心までもが見えてしまう
       
「僕はどうしたらいい?・・・
 君を心から愛してるこの僕が・・・

 君の望みならどんなことでも叶えたい・・そう言っているこの僕が・・・
 君のことを一番縛り付けてる・・・」

「そんなこと思ってない・・」

「しかし・・・僕はまだこの地を離れることはできない
 かといって・・・君のことも手放せない。
 僕はどうしたら・・・いいんだろう・・・君がいなくなったら僕は・・・」

「ドンヒョクssi・・・」

「ジニョン・・・もう少し待って・・・
 必ず君の・・・一番の望みを叶えられるように・・」

「私の一番の望みはあなただわ」

僕の言葉を遮った力強い彼女の眼差しが


   “あなたを決して置いては行かない”


   そう言って僕を慰める


「君は・・・僕の希望の・・・全て・・なんだ・・・」


    僕はいつからこんなに・・・弱虫になったんだろう


「わかってる・・・わかってるわ・・・ドンヒョクssi・・・」


彼女はまるで幼子を宥める母のように僕を見つめていた。そして沈黙のまま
泣き笑いのような笑顔を作って見せた。

僕もまた必死に笑おうとしていた。


    さっき君に見せた幸せいっぱいの笑顔は・・・

    ねぇ・・ジニョン・・・

    どうやればまた君に見せられる?


滲んだ涙を隠したくて・・・

僕は大きく深呼吸をすると・・・

彼女の視線から逃れて宙を仰いだ・・・


    情けないな・・・

    君がいないと僕は・・・


        ・・・もう・・・駄目みたいだ・・・
    
    

 







2010/04/20 21:13
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-25.黒い影

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NYに戻ると、僕はまずアパートに向かった。
部屋の階でエレベーターの扉が開いた瞬間に、僕の部屋の扉に寄りかかっていた
あいつの姿が見えた。

   ジョルジュ?

彼はもう随分長いことこうして僕を待っていたのだろう。
僕を見つけるなり睨みつけた彼の視線が僕の動向を執拗に追いかけていた。

僕はそんな彼に一瞥をくれたあと、その視線を無視して彼の横をすり抜け
沈黙のまま部屋の鍵穴にKEYを差し込んだ。

「お待ちしてました」 彼が満を持して言った。
「・・・・・・」

そして彼は努めて冷静を装い、落ち着いた口調で僕に尋ねた。
「あいつを・・何処へ?」

僕は依然として無言のまま、彼に部屋に入るよう目だけで促した。
彼も無言で僕の前を横切り、僕に勧められるまま先に部屋に入った。

「・・・・・・コーヒーは?・・いかがです?」
「いいえ・・結構です・・・」

「そう・・・僕は飲んでもいいかな・・・」
「どうぞ・・・」

決して僕から逸らさない彼の視線を背中に感じながら、僕はコーヒー豆を挽いていた。

「答えてもらえませんか?
 わかっているでしょ?この数日、あなたの消息を探してました・・・
 あなたの学校へも訪ねました・・・」

「学校?・・よく・・・わかりましたね・・・」
「必死ですから・・・」

彼はきっと、僕と対峙しながら自分の興奮を抑えようと、懸命に耐えていたのだろう。
鋭い眼光とは裏腹に丁寧な言葉遣いを使いながらも、僕への憎悪が握った拳に見て取れた。

「それは僕も同じだ・・・」≪必死だったさ・・君から逃れるのに≫

「あいつの親にはまだ
 あなたのことは話していません」

「そう・・・」

「今はまだ・・・僕の都合で帰国が遅れていることになってる・・・
 しかし・・・それももう限界だ・・・」

「・・・・・」

「あいつはまだ未成年です・・・
 あいつの親がこのことを知ったら・・・」

「・・・・・」

「警察沙汰になりますよ・・・」

「それで?」

「一週間遅れると話してます・・・あと二日です・・・
 あいつを・・・返してくれませんか・・・」

「返す?」

「ええ・・・」

「彼女は品物じゃない・・・彼女は彼女の意思で僕の元にいる・・・
 それは君もわかっているはず」

「あいつはきっと、後悔します」

「後悔?」

「あいつは親に背いて平常心でいられる奴じゃない
 自分の意思を貫き通せるほど大人でもない」

「彼女のことは“自分が一番知っている”・・・
 そう言いたいわけだ」

「少なくともあなたよりは知っている!」

彼と僕は互いに睨み合った視線を譲れないまま、しばらくの間、沈黙に耐えていた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

その沈黙を彼の方が先に破った。

「それに・・あいつには夢があります・・・」

「・・・・・・」

「いつの日か・・・ホテリアーになるという夢が・・・
 あなたはご存じないかもしれないが」

「・・・・・知ってます」

「そうですか・・・では・・
 あいつが働きたいホテルもご存知だろうか・・・」

「・・・・・」

「私の父のホテルです・・・
 小さい頃から、そこで・・・私と一緒に働くことが夢でした
 いいえ・・・今でもまだその夢は捨てていないはず」

「・・・・・」

「僕は・・・あいつの夢を叶えるためなら
 どんなことでもする・・どんなことでもできる・・
 今までもそうしてきたし・・・それはこれからも変わらない

 あなたはどうだろう・・・今、あいつの夢を知っているとおっしゃった
 それなら・・あいつにそれを尋ねたことがありますか?
 本当にやりたいことを聞いてやったことがありますか?

 あいつは・・・
 あいつはあなたの前で本心を語ってるんだろうか・・
 語れてるんだろうか・・・
 あなたは・・・あいつの真実を・・・
 本当にわかってると言えますか・・・」

「・・・・・真実?・・・
 今 彼女と僕の肌が触れ合う・・・それだけが真実だ・・・」

僕のその言葉に彼の眼光が力を増し唇が震えた。
「・・・・・・!」

「・・・・夢なんて・・・現実の元には儚いものだ・・・
 彼女の幼い頃からの夢が例え・・・君と歩むことだったとしても
 現実の彼女は今・・・僕と歩こうとしている・・・
 その現実を・・・君は認められないのか
 彼女のご両親にはいずれ、必ずお話をする・・・
 ご両親とて・・それが彼女の幸せと思えば・・・」

「あいつの親はあなたを認めない!」

「・・・・・」

「あなたのような!・・」

彼は即座に、自分が間違ったことを言い掛けたというように言葉を詰まらせた。
僕は彼のそんな様子を冷たく見つめながら口を開いた。

「僕のような?・・・」

「・・・・・・」

僕は彼に対して口元だけで小さく笑って見せた。

「君は、何不自由なく育ったお坊ちゃんなんだな・・・
 人を傷つけようと思うなら、もっと激しく罵倒しろ!
 それでなければ、相手は君を甘く見るだけだ・・・
 こんな時ははっきり・・・
 “あなたのような・・親に捨てられた人間は彼女にはふさわしくない”・・・
  そういうべきだ」

「・・・・・・」

「調べたんだろ?」

「・・・・・・」

「それで?」

「えっ?」

「それで・・・返さないと言ったら、どうなりますか?」

「・・・とにかく、あいつと話をさせてください」

「彼女が望まなかったら?」

「あいつの父親に全て話すまでです」





「ボス・・・遅かったな・・・時間に遅れるなんて
 珍しいじゃないか・・・」

「すまない・・・野暮用が・・・」

「ま・・いい・・・早速始めよう・・・休暇中悪かったな・・・しかし・・
 以前からお前が狙っていたホテル関連の重要な案件だ・・・
 急いだ方がいいと思ってな・・・

 知っていると思うが
 あの業界は新参者は受け入れにくい    
 しかしだ・・・お前はどうも別格らしい・・・
 最近M&A業界を賑わしてるヒーローだからな・・・
 そのお前の力を見込んで、是非にと乗ってきた会社がある・・・
 しかも、かなり大物だ・・・」

「何処だ」

「JAコーポレーション」

「JA?・・・そんなところに、入れるのか」

「ああ・・お前次第だ・・・今、そこが手掛けているM&Aがある
 NYグランドホテルとカナダのプリンスヒルホテルとの合併だ」

「ああ・・知ってる・・・それを僕に?」

「ボ~ス・・それを成功させてみろ・・・どうなると思う?」

レオは意味ありげな目つきを僕に向けた。

「かなりの利益だ」

「利益なんてもんじゃない・・・今後の俺達の礎となること
 間違いない・・・その代わり・・・」

「その代わり?」

「お前はこれを引き受けることで、どえらい相手を敵に回すことになる」

「どえらい相手?」

「お前も知らないわけじゃないだろう・・・
 JAには、今まで遣えたジェームス・パーキンという男がいる・・・
 奴の伯父が誰だか知ってるか・・・」

「マフィアのボス・・・パーキンと言えば知らない奴はいない」

「奴を敵に回すということはどういうことかわかるな・・・
 しかしひとつだけ、奴らを敵に回さない手立てがある」

「何だ」

「奴の傘下に入る」

「僕にマフィアに加担しろと?」

「奴もたとえ相手が甥であったとしても仕事となれば話は別だ
 ジェームスとお前では力の差は歴然
 お前が手に入るなら、きっとお前を選ぶ」

「マフィアとは仕事はしない」

「そうだったな・・・それはお前のポリシーだ
 それなら・・・」

「それなら?」

「弱みを見せるな」

「弱み?」

「守らなければならないものをそばに置くな・・・
 そういうことだ」

「・・・・・・」

「あいつらのやり方・・・知ってるか・・・
 攻撃したい人間がいるとする・・・その場合
 直接その人間をやるのは最後の最後だ
 まずはその人間の弱みに付け込む
 その辺は俺達のやり方と変わらないよな・・
 ただ俺達と歴然と違うのは・・・
 あいつらがその相手に直接手を下すということだ」

「フッ・・・そんなこと・・・」

「今更・・か?当然・・知ってることだよな・・・
 だが・・・敢えて言ってる
 ボス・・・いや・・フランク・・・
 お前に今・・・弱みはないか・・・」

「・・・・・・」

「ないか?・・・」

レオの僕を問いただす真剣な眼差しが、事情を深く尋ねるまでもなく
理解していると言っていた。

  僕の弱み・・・それは・・・

  ひとつだけ・・・

「・・・・・ある・・・・」

「なら・・・この仕事はやるな」

「どうして」

「どうして?・・・それはお前が一番・・・」

「この仕事を成功させたら・・・お前がさっき・・そう言った・・・
 僕にとって大きなチャンス・・・僕達の仕事の礎となる・・・
 そういうことだよな・・・」

「それはそうだ」

「なら・・・考えるまでもない・・・僕は必ず成功させる」

「しかし・・」

「守らなければならないものはひとつだけ・・・
 それは僕が・・・命を懸けても守ってみせる
 心配するな・・・
 お前はとにかく、話を進めてくれ・・・」
      
「・・・・・いいのか・・・覚悟があるんだな」

僕はレオに向かって黙って頷いた。


  守らなければならないものはこの世にひとつだけ・・・

  ジニョン・・・彼女だけ・・・

  そして・・・

  彼女と生きるためにも僕は成功を急ぎたい・・・

  誰もが認めざる得ない・・

  僕という人間の歴史を作るため・・・


          あいつの父親に全てを・・・
          あなたのことを話します・・・
           
          親父さんは頑固一徹な人間です
          決して間違ったことを許さない

          あなたは・・・あなた達は・・・
          既に間違ったことを・・・したんです


  間違ったこと?・・・

  ジニョンとの愛が間違ったことというなら

  この世の全てが間違ってる・・・

  彼女のいない人生が・・・正しいというのなら・・・

  僕は永遠に・・・間違った世界で生きる

  それが・・・僕の選んだ道だ・・・


僕はレオとの話を終えた後、その場所からさして遠くない、three hundred rosesへと
歩いて向かった。

もうひとつブロックを曲がると店が見える・・・そう思った時だった。

       《ソ・ジニョン・・・可愛い人だ・・・》

通りすがりに不意に、低くしゃがれた声が僕の耳に届き、僕は不気味なその声の主を
探して勢い振り返った。

  ジニョン・・・今・・そう言ったのか

しかしその瞬間、ひとつの黒い影が直ぐのブロックから消えた。
僕は慌てて、走ってその影を追いかけブロックを曲がってみたがその影は忽然と
消えてしまっていた。

瞬時に胸が締め付けられるような恐怖が僕を襲い、ジニョンの元へと走らせた。

「 ジニョン! 」

丁度その時、店に入ろうとする彼女の姿が目に入って、慌てて声を掛けた。

「フラン・・あ・・いえ・・ドンヒョクssi・・・
 驚いた・・私も今、着いたところよ・・
 早かったのね・・・もう少し待つかと・・・」

僕を見つけたジニョンの満面の笑顔を前に、僕は大きく安堵のため息をつきながら、
彼女をきつく抱きしめた。

「どうしたの?ドンヒョクssi・・・苦しい・・わ」

「何でもない・・・」

「フ・・ラ・・ンク・・?」

「何でも・・・ない・・・

    すごく・・・


   ・・・逢いたかっただけ・・・」

      








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