2010/08/01 21:32
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-17

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mirage-儚い夢-sidestory Reymond 





「何の戯言でしょう・・・若・・・」

モーガンが私を睨みつけながら、それでも静かな口調でそう言った。

「・・・・」
私は彼から視線を逸らさなかったが、彼への答えをしばし探した。

「私の聞き違いでしたかな?」

「いや・・・聞き違いではない・・むろん・・・戯言でもない。」

「・・・・」
今度はモーガンが言葉を詰まらせていた。

「ご理解願いたい」

「それは無理というものです・・・」

「・・・・」

「30年です・・・」

「・・・・」

「私がボスの下でお仕えして・・30年です」

「私が生まれる前からだ・・・長いな」

「ええ・・私の人生の全てと言ってもいい・・それを今更・・・
 あなたは私の・・いや・・
 我々の生きる道を断つおつもりか」

「そんなことは言っていない。
 私は配下の者ひとりひとりに責任を持つ覚悟がある。」

「若!・・・あなたは勘違いなさっている
 我々はこの世界で生まれ・・この世界に育ったも同じ・・・
 その道を奪われたら、生きていく糧すらもない。」

「そうだろうか」

「あなたはそれでいいかもしれない
 あなたなら・・そうです・・あなたなら何処でも生きていける・・
 その技量が十二分にお有りだ。
 しかし・・若・・・悲しいことにこの世界でしか生きていくことができない・・
 そんな輩もいるんです」

「この世界でなくとも生かせてみせる」


「世の中は甘くはございません!」


「こちらが変われば世の中は変わる!」

互いを睨みつけながら声高に言い交わした後、私達は疲れたように溜息をついた。

そしてしばらくの沈黙の後、モーガンは柔らかい口調で繋げた。

「・・・・・お父上はこのことを?」

「いや・・知らない」

「父上が責任を問われることになりますぞ」

「父には責任を負う義務がある」

「父上を貶めるおつもりか」

「・・・・・」

「そんなに父上が憎いですか」

モーガンが悲しげにそう言った後、彼の言葉が突然途切れた。
私も黙って、ただ彼の目を見据えていた。


「あなたを・・・敵に回すことは避けたい」 
私は互いの沈黙をそう言って破った。

「私が敵になる・・・その覚悟もお有りだと・・・
 そういうことですな。」

「・・・・・」

「この話を聞いてしまった私が・・今ここであなたに刃を向ける・・・
 そのことはお考えになりませんでしたか?」

「その時は・・・」

私は言葉を途切れさせて、タダ黙って懐に手を差し入れた。

「私が・・・やられる・・・そういうことですな・・・」

「仕方がありません」

私のデスクを挟んで、モーガンと私が睨み合ったまま、しばしまた沈黙が続いた。

そして彼は辛そうな笑みを向けながら口を開いた。

「ふー・・・あの小さかった坊ちゃんが・・・」

彼はそう口にすると今度は目を細め、愛しいものを見つめるような笑みに変えた。

「・・・・」

「あなたを連れてくるようボスに進言したのは私です・・・
 そしてあなたが実際に我々の元に現れて・・・
 年月が流れて・・・あなたが成長されて・・・
 組織の中で活躍されるようになって・・・

 あなたなら・・・
 いやあなたこそが我々の組織の救世主になる
 そう思っていた・・・」

「・・・・」

「あなたの気持ちはわからないではない。だがしかし・・・
 今私はここで・・“はいそうですか”と易々承諾できる立場ではない・・
 私にも守らなければならない者たちがおります
 それはご理解いただけますかな」

「承知している」

「もしも・・・結果的に・・・
 私があなたの意に沿うことができなかったら・・・
 その時は・・・他の誰でもないあなたの手で・・私を・・どうぞ。」

「・・・・・わかった。」

モーガンは大きな溜息をひとつ吐いた後、部屋を出ようとノブに手を掛けた。
そしてそのままの姿勢で私に振り返った。

 

「・・・・若」

「ん?・・」

「好きな女でも出来ましたか・・・」

「・・・・」

「やはり、そうですか・・・その女を・・・
 本気で愛したのでしょうな・・若・・・」

「・・・・」

「あなたの父上も・・・一度だけ・・・
 あなたと同じことをなさろうとしたことがある・・・」

「父が?・・・」

「ええ・・・もう28年も前のことです・・」

「28年前?」

「その女と・・・生きたかった・・・
 私にそうおっしゃった
 泣きながら・・・そうおっしゃった・・・」

「・・・・」

「それを命がけで食い止めたのは・・・他ならぬ・・・私です」

「・・・・」

「そしてボスは・・・結果的に
 ご自分に課せられた宿命を受け入れられた」

「・・・・」

「あの時・・・ボスの思いのままにして差し上げていたら・・・
 あなたはここにはいなかった・・・」

「・・・・」

「若・・・あなたが恨むべき人間は・・・父上ではなく・・・
 この・・私でしょうな・・・」

そう言い残して、モーガンはゆっくりとドアを開け出て行った。 
  
  何を言ってるんだ・・・

  父さんが・・・28年前・・・

  全てを捨てて生きようとした女・・・

  それが母さんだとでも?
 
  そんなはずはない・・・

  あの人にそこまでの覚悟など・・

  僕は十年もの間・・

  父の存在すら知らず生きてきた

  母とふたり・・生きてきた・・・

 

  父さん・・・

  母さんと生きたかったら・・何故そうしなかった?

  そうしてくれていたら・・・

  こんなことをせずに済んだものを・・・

 

  今更・・・そんな話

  聞いたところで・・・

 

     ・・・何になる・・・

 

 

 


 

   


 




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