mmirage-儚い夢-43.チェイス
そして5時間後、JFK空港に着陸すると、フランクはパーキン夫人より先にタラップを降り ローザ・パーキンもまた彼の後方を少し離れて歩いた。 空港の駐車場ではレオが予定通りフランクの到着を待っていた。 僕は車の前で待つレオに目線だけで応えた 「おい!ボス!・・・いったい・・まさか・・おまえ・・」 「いいから・・乗れ!」 少しも言葉になっていない状態のレオにそう言い放つと僕は レオは後ろを終始気にかけながらも、僕が顎で合図すると仕方なさそうに 「ボス・・その方は・・・もしかして・・・ 「この後はいかがなさいますか?・・・パーキン夫人・・・」 僕はレオの疑問に答えるでもなく夫人に向かって声を掛けた。 「その書類・・私は今すぐにも欲しい 「私がこの書類と一緒にあなたと行動を共にするわ」 「あなたにも危険が及びます」 「せっかくだけど・・ご心配は無用・・・」 パーキン夫人がそう言って後ろを振り向くと、フランクもそれに習って後ろを振り向いた。 「・・・・」 「さあ・・まず・・何を致しましょうか?フランク・・」 「明日レイモンドに会います」 「そう」 「あなたのお嫌いなレイモンドですが・・・それでもご一緒に?」 「・・あの子に会うのは・・・五年ぶりかしら 「さあ・・」 「今日からNYグランドホテルに宿泊するわ」 「NYグランドホテル?」 そこはパーキン家の息が掛かったホテルだった。 「ええ、そうよ・・・フランク・・・もちろん、あなたも私と一緒に・・・ 「・・・・」 「私がLAに無事に帰るまで・・・ 「・・・・」 「レイモンドともそこで会いましょう」 その時、突然妙な動きをした車の中でフランクと夫人が互いの体がぶつかるほどに 「レオ!どうした!」 「付けられてる」 「後ろの車は夫人の・・」 「いや・・別の車が割り込んだ!」 レオの緊迫した声にフランクが後ろを振り向くと、一台の黒い車が明らかに 「タイヤを狙われるぞレオ!スピードを上げろ!」 「上げてる!」 その車がこちらにわざと接触しながら止まるよう合図を送ってきた。 「もっとだ!」 「これ以上は無理だ!」 レオの声は悲鳴にも似ていた 「レオ!代われ!」 「何バカなこと!」 「いいから!シートベルトを外せ!シート倒すぞ・・ 「わ・・わかった・・」 レオはフランクに言われた通り、まず、自分のシートベルトを外した。 そして僕は後ろから運転席へと体を滑り入れた瞬間 レオの表情にはさっきまでの緊迫した中に今度は恐怖に混乱していた。 「我慢しろ! 「ええ」 フランクが後部座席に視線を送ると、パーキン夫人がグリップにしっかりとつかまり フランクはそれまでの車の通りの少ない道路から、街中へと進行方向を変え、 「どうだ・・」 「もう大丈夫だ・・付いて来てない」 そして当初の目的地グランドホテルへと軌道修正した。 「いったい・・」 レオが大判のハンカチをポケットから取り出して顔の汗を拭きながら文句をいうように 「あの男は・・レイモンドの側近ソニーの手下だわ」 「レイモンド?」 「ええ・・間違いないわ・・」 「そうすると・・レイモンドには 「そういうことね・・ 「あなたの連れこそ・・何の役にも立ちやしない」 僕は自分達の車の後を一向に付いて来る気配がない彼女の護衛車に向かって言った。 「ふふ・・確かに・・・」 しばらく走った後にフランクは安全な場所で一旦車を停車させ、今度はちゃんと そして、夫人に向かって開口一番こう言った。 「・・・・」 「こうしてあなたや僕がそれを持っている以上 「・・・嫌だと言ったら?」 「腕ずくでも」 フランクは彼女の手首を瞬時に掴むと鋭く睨みつけた。 「このまま・・折ってしまっても構いませんよ」 「そんなことできるわけ・・」 「あなたも命は惜しいでしょう? 「あなたが私を守る保障は?」 「離したら?」 「あなたの命は必ず守る」 夫人は握っていたアタッシュケースのグリップから白い指をゆっくりと離した。 「わかった」 レオは彼女のアタッシュケースを手に、マンハッタンの街中へと消えた。 「本当に折るつもりでした。あなたが鞄を渡さなかったら」 「レディにすることじゃないわ」 彼女は自分の手首をさすりながら、彼を睨んだ。 「失礼しました・・・」 「許せないわ」 「お詫びはどのように・・」 「お詫び?・・ふふ・・そうね・・・キスしてくれたら・・」 「・・・・」 「ここへ」 彼女は至って真面目な顔をしてそう言いながら 彼女は不思議な人だった さっきまで彼女からアタッシュケースを 僕はそんな彼女に苦笑いを向けながら、 今度は優しく手を添えて・・・
フランクとローザ・パーキン、互いの思惑を乗せて飛行機はLAを飛び立った。
彼女とはまるで無関係であるかのように、歩き進んだ。
そして僕がおもむろに後部座席のドアを開けて、後ろから現れた女を
エスコートしていることに怪訝な顔を向けていたレオが突然声を上げた。
彼女の後から同じ後部座席へと乗り込んだ。
エンジンを掛けながら冷静を装い言った。
いや・・ローザ・パーキン夫人とは言わないでくれ」
その瞬間、運転席のレオがハンドルを握っていた右手を自分の額に当てがい
とたんに無口になった。
「・・・・」
しかし、あなたはそれを手放さないとおっしゃる・・
私はどうしたらいいのでしょう」
そこには彼女の護衛らしき男達が数名乗り合わせた車がこの車にピッタリ付いて
走っているのが見えた。
パーキン婦人は不適に笑みを浮かべ、言った。
フランクはその笑みを侮蔑して、坦坦と答えた。
相変わらず・・いい男?」
しばらくそこに滞在してもらうわ」
あなたとしても私の身は心配でしょう?」
バランスを崩した。
この車を狙って接近していた。
もともと後ろについていたはずの夫人の護衛車は、その後ろでバランスを
崩したかのような動きを見せ、遭えなく路肩に逸れていた。
直進になったらすばやく移動だ!いいか!」
そしてフランクが運転席のシートを横から操作して後ろへ倒すと、次にフランクが
ハンドルの左側、レオが右側を互いに握ったまま、レオは重そうな体を必死に
助手席へとずらした。
アクセルを思い切り踏み込みそのままその足を離さなかった
「ボス!・・ス・・スピード・・出し過ぎ」
マダム!頭を低く、しっかりつかまって!」
身を庇いながらも怯える様子も無く、至って冷静に見える姿があった。
流石・・・マフィアのボスの妻・・
慣れた路を縦横無尽に走り回ると何んとかその車の追跡をかわすことに成功した。
口を開くと夫人がその言葉に答えるように静かに言った。
僕があなたと会っていたことは知られている・・・」
あなたも・・レイモンドを甘く見たわね」
ドアから後部座席に移動した。
「渡してもらいましょうか・・」
狙われることは必至・・・僕が安全な場所に隠します」
そしてその手に徐々に力を加え締め上げていった。
「・・・痛いわ・・」
僕もこんなものの為に死にたくは無い・・」
「あなたが・・・あなた自身の意志でかばんを離したら・・・」
フランクもまた、強く握った彼女の手首を静かに離した。
そしてそのケースを受け取ると、そのままレオに手渡した。
「レオ・・今すぐ車を降りろ。僕達とは別行動を・・」
「本当に折れるかと思ったわ」
僕がたった今まで強く握り締めていた自分の手首を
僕の目の前に差し出した
不気味なほどに冷静で
何を考えているのかわからない怖さを
持ち合わせているかと思うと
時に女性としての可愛さを垣間見せる
奪い取る為には手荒な行動も辞さないと
覚悟を決め本気で向かっていた僕に、
こうして肩透かしをするような
想像も付かない言動をする
痛々しそうに赤くなった彼女の華奢な手首に
そっと・・・
・・・くちづけをした・・・
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