2011/03/22 23:15
テーマ:ラビリンス-過去への旅- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

ラビリンス-1.愛さない

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東日本・関東大地震で被災された皆様に
        心よりお見舞い申し上げます

            






                         1. 愛さない
 




「お待ち申しておりました、Mr.フランク」

ドンヒョクとジニョンがイタリアローマ、フィウミチーノ空港に到着すると、
今回のクライアントであるビアンコ・ジュリアーノの部下と名乗る数名の男達が、
到着ロビーで二人を待ち構えていた。
ジニョンは出迎えがあると聞かされていなかったが、ドンヒョクは
すべてを承知していたようだった。

男達はドンヒョクに向かって深々と恭しく頭を下げた。
しかし、ドンヒョクは、彼らに向かって無言で頷いただけだった。
前方では既に二人がこの地に持ち込んだ荷物が、彼らによって
台車に乗せられ二人の先を進んでいた。

「奥様でらっしゃいますね、お荷物を・・」
そう言って、一人の男がジニョンの手荷物に手を差し伸べた。
「あ・・いえ、これは大丈夫です・・」 
しかし男はジニョンの遠慮を無視して、彼女の荷物を取り上げた。
ジニョンは苦笑いを浮かべながら、ドンヒョクの方を見たが、
その時彼は、もう一人の男に自分の手荷物を、まるでそれが
当然であるかのように手渡していたところだった。

「何?」 
ジニョンの視線に気がついたドンヒョクがジニョンに振り返って聞いた。

「あ・・いえ、何でもないわ」
ジニョンのもの言いたげな様子にドンヒョクは怪訝な表情を浮かべたが、
彼女は彼から視線を逸らし、案内の男に促されるまま歩き出した。
ドンヒョクは首を傾げながら彼女の背中に苦笑いを向け、その後に続いた。


ジニョンがドンヒョクを背中で意識しながら、出口に向かって歩いていると、
出迎えの男達の中でも格上らしい男とドンヒョクとの会話が聞こえて来た。

「フランク様、本日はローマのホテルにご滞在と伺っております
 明日の朝は、我々と共にミラノへ・・
 会長がお待ちでございますので・・」

「いや・・二・三日はローマに滞在する」
男の言葉を遮って、ドンヒョクはそう言った。

「しかし・・予定が」

「・・予定?」 フランクはぎろりと男を睨みつけた。

「あ・・いえ」 
男は彼の威嚇とも取れる眼光に押されたかのように視線を落とした。

「自分のスケジュールは自分で決める。
 私に合わせられなければそれで結構。そう会長に伝えろ。」

そう言ったドンヒョクの声があまりに冷たく、耳にしたジニョンの胸さえ
締め付けるようだった。

「・・・かしこまりました」 男はそう答えた。




広い空港ロビーを抜け表に出ると、そこには縦幅が異常な程長い
黒塗りの車が横付けされており、その扉の前で待機していた男が、
一行を見つけると直ぐにその扉を開け、深く頭を下げた。

ドンヒョクは瞬きだけで男に応えると、開かれたドアから車に乗り込んだ。

「まるで・・国賓級・・・」 ジニョンは小声で呟いた。

ジニョンは驚いた。
いつものドンヒョクなら、必ずジニョンを優先してエスコートに徹しているからだ。
しかも見知らぬ地で、見知らぬ男達に囲まれているこの状況で、
ひとり外に取り残されたことに、時間が経つにつれ腹が立ってきた。
先に車に乗り込んだドンヒョクはこちらを見ようともしていない。
すると、隣にいた男がジニョンを反対側のドアへと、エスコートした。

ジニョンはドンヒョクの横に腰掛けると、すかさず彼を睨みつけた。
「何か?」 ドンヒョクが前方を向いたまま冷静に聞いた。
「・・・いいえ、何も。」

「そう。」 
ドンヒョクは前を向いたままふたりの会話を繋げなかった。

二人を乗せた車は音も無く動き出し、空港を後にした。
ジニョンはドンヒョクの沈黙を気に留めながらも、車窓を流れ行く
外の景色を目で追っていた。
初めて訪れたローマの情緒ある風景が愁いを帯びて見えた。

「何か言いたいことがあるのか?」 ふいにドンヒョクが口を開いた。
ドンヒョクのその言い方にはいつもの彼の優しさが感じられなかった。

≪ええ!言いたことは沢山!≫「・・ここでは・・言えないわ」
ジニョンはそう言いながら、運転席の方へちらりと視線を送った。

「あぁ~」 ドンヒョクは“わかった”と言うように相槌を打ち、
座席横のひとつのボタンを押して、運転席と自分達の座席を遮断した。
「完全に防音されてる、言いたいことがあったらどうぞ」

「向こうには何も聞こえないの?」 
ジニョンは運転席の方を指差しながら小声で言った。
「試しに、・・・してみる?」
「してみる?って・・・」

ドンヒョクはジニョンの言葉を遮るように、突然彼女にくちづけすると、
わざと彼女の胸を服の上から鷲掴みにしてみせた。
そしてその手を彼女の体に這わせ降りたかと思うと、瞬時に
スカートの裾から手を忍ばせた。
彼の突然の素早い行動に、一瞬あっけにとられていたジニョンが、
慌てて彼の手を払い除けた。
「フランク!何するの!」 ジニョンは声を張り上げて言った。

「何って・・言わないとわからない?」 ドンヒョクは彼女の耳元でそう囁いた。
その言い方はいつもの、少しだけ意地悪な、それでいて優しい
ドンヒョクのそれだった。

その時だった。「如何なさいましたか?」 運転席の方からの声だった。
「大丈夫だ・・気にするな。」
ドンヒョクは低い声でその声に向かって応えた。

「・・・だましたのね。」 
ジニョンが小声で言いながらドンヒョクを睨むと、彼はお腹を抱える仕草で
声を殺して笑っていた。

「君の声が大き過ぎたんだよ。防音装置の効き目が無いほどにね」
ドンヒョクは相変わらずジニョンの耳元で小さく囁いた。
「・・・・・・」

「僕達に危険が及ばない限り、彼らには目も耳も無い。
 だから、ここは防音されているのも同じ。」
今度は普通の声で、運転席にも聞こえるように彼はそう言った。

「それって・・」

「ん?」

「何だか横暴」
「横暴?」

「ええ、あなたって・・こんな人だったの?」
「こんな人って?」

「何だか・・・」
「何だか・・何?」

「上手く言えないけど・・人を軽んじてる。」
「人を?」

「これがあなたにとって普通のこと?」

ドンヒョクはジニョンが先ほどから自分に対して、何を言いたいのか、
よくわかっていた。

「彼らに対する僕の言動を言ってるのかな?
 だとしたら・・Yes。」

「・・・・・・」
「不満?」

「好きじゃないわ」
「なら、慣れることだ。」

ドンヒョクはそう言って目を閉じ、その後はホテルに到着するまで、
ジニョンと一言も口を利かなかった。
ジニョンはそんなドンヒョクをただ睨みつけていた。
「私は・・慣れないわ。」
彼女のその呟きにも、彼は応えなかった。




ホテルはローマの中心地、スペイン広場近くにあった。
有名な映画にも頻繁に登場しているというそのホテルの概観、
内装共に申し分の無いものだった。
エントランスを入った瞬間に、まるで宮殿にでも足を踏み入れたような
錯覚を思わせる贅沢なロビーが広がり、ジニョンは目を見張った。

「すごい」 その言葉しか出なかった。
彼女が興奮さながらに、ロビー・フロントを見渡している間に、
ドンヒョクはフロントに向かい、チェックインを済ませていた。

「んっん・・」 ドンヒョクの咳払いにジニョンはやっと我に返った。
「口をポカンと開けるな。」 ドンヒョクが笑いを堪えて言った。

「オモ!・・そんなはず・・」 
そう言いながら、ジニョンは開いた口を手で押さえた。
ドンヒョクは苦笑しながら、ジニョンに手招きした。

「あの人達は?」

「帰したよ・・“奥様が君達を気に入らないようだから”って」

「・・そんなことを?私、そんなこと一言も。」 

「いいから、おいで」
ジニョンの興奮した様子を少なからず面白がっているようなドンヒョクが、
彼女の肩を抱いてエレベーターホールへと向かった。

「ま・・エレベーターも素敵」
怒っていたはずのジニョンが、またきょろきょろと周りを見回した。
「あ・・ドンヒョクssi、私がいつあの人達を追い返すようなことを言ったの?」

「いいじゃない、やっと二人きりになれたんだから」
エレベーターに乗り込むとそう言って、ドンヒョクはジニョンの頬に
急いでキスをした。
すると、その瞬間だけジニョンの顔が緩んで、また直ぐに“まだ怒ってる”と
言わんばかりに頬を膨らませた。

「忙しい人だね、君は」 
ドンヒョクはジニョンのまるで百面相に対して笑って言った。 

「あのね。」
「ほら・・着いたよ」
「!・・・・あら・・この廊下の絨毯、歩き心地がいいわ」

エレベーターから出ると、廊下に敷き詰められた重厚な絨毯が
弾力があるにも係わらずヒールを取られることもなく、歩き易かったことに、
ジニョンはひどく感動して、足踏みを繰り返した。

「流石デラックスさで売っているホテルだけあるわね。
 建物の造りもだけど、ひとつひとつの調度品も見事だわ」
廊下の要所要所に飾られた調度品を眺めて歩きながら彼女は感嘆した。

「豪華さだけじゃないよ、ここは、サービスも群を抜いている」
そう言ったドンヒョクに、ジニョンはフンとあごを上げて見せた。
「そう?・・ソウルホテルなら、客室までお客様を丁寧にご案内するわよ」

「必要ないと言ったからだ」 ドンヒョクは弁明するように言った。

「そう。」 しかしジニョンは、納得できない、と思っていた。




部屋に入った後もジニョンはあっけに取られた様子で辺りを見回した。
広いリビングスペースは壁面に最新式と思われる特大のスクリーンと
反対側に掛けられたラファエロの特大の絵画が特徴的だった。
家具はすべてアンティーク調で揃えられ、新旧のコントラストを
鈍いクリーム色の壁面が調和させ、落ち着きをもたらしていた。
マスターベッドルームはキングサイズのベッドが贅沢を主張していた。
他にもツインベッドルームが二つと大理石造りのジャグジィバス
サウナルームにトレーニングルーム、ゴールドをあしらったレストルーム
そしてすべての調度品が間違いなく最高級品に違いなかった。
ジニョンはそのすべての部屋を嬉々としながら見て回った。
豪華過ぎるきらいはあるが、色調や家具のイメージはジニョンの好みだった。

「ねぇ、ドンヒョクssi、この部屋・・高そう・・いくらなの?」

「さあ、いくらだろう」

「きっと1000ユウロは下らないわね」

≪その10倍はするだろうね≫
とドンヒョクは心の中で思ったが口に出さなかった。
「イタリアに入ったら、一番最初にここに君を連れて来たかったんだ」

「ドンヒョクssiが選んでたの?
 てっきり、あの人たちが用意していたのかと」

「君と過ごす場所は必ず僕が決める、今も。これからも・・・。
 誰かが用意したところには泊まらない。それがここでの鉄則だ。」
 
「え?」

「この地に仕事で入ったら・・油断はしない。決して」
ドンヒョクは真剣な表情をジニョンに向けてそう言った。

「僕のここでの地位・・国賓級?と言ったね、さっき」

「あ・・ええ」

「それ以上の扱いを受けてるよ、表面上は。」

「表面上?」

「ああ・・しかしそれを覆されるのも簡単だ。
 僕は10年の月日を掛けて、この国のビジネス業界での地位を確立した。
 今、僕に舞い込む仕事はソウルホテルの総資産以上の利益を生む。
 そう言えば、数字が読めるかい?」

「総資産?・・知らないわ」
「・・・・・・・・・ははは」
ドンヒョクはジニョンのその言葉に、しばし絶句した後、急に笑い出した。
「笑い過ぎ。」

「ごめん・・・君それでよくソウルホテルの支配人やっていたね」

「だって」

「いや・・君らしい」

「馬鹿にしてる?」

「そうじゃないよ、馬鹿になんかしてない
 君にとって、ホテルは“如何にお客様に気持ちよく過ごしていただけるか”
 それがすべてなんだ」

「・・・・・・」

「君は根っからのホテリアー」 
ドンヒョクはそう言いながら、ジニョンを優しく見つめた。

「褒められてる?」

ドンヒョクは無言で“うんうん”と頷いて見せた。

「ジニョン?」 ドンヒョクはベッドに腰掛けながら彼女を呼んだ。

「え?」

「おいで」 ドンヒョクはジニョンの手を取って、自分の横に腰掛けさせると
彼女の両手を自分の手でそっと包み込んで、彼女を見つめた。

「いいかい?本当は君をまだ・・このイタリアには連れて来たくなかった・・・
 せめて今回の仕事が片付くまでは・・・
 そのことは言ったね」

「ええ」

「それがどういう意味なのか、君はまだわかってはいない」

「・・・・・・」

「しかし連れて来た以上、僕は君を守らなければならない。
 そのためには・・」

「ドンヒョクssi?」

「そのためには・・・彼らに決して弱みを見せない。つまり・・」

「つまり?」

「僕は君を・・・」

「・・・・・」


・・・「愛していない。」・・・




















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