あの夜のことを覚えていますか?~17話から
これまで、17話では派手な斬り合いのシーンでの雄々しいタムドクに目を奪われてきました。
でも、あらためてテレビの画面で見ると、このほかにも、もっと見過ごしてはならないシーン、大切なものものがあったような気がします。
今夜ここに書きたかったのは、もうひとつの17話の見どころ、神堂でのキハとのやりとりについてです。
「あの夜のことを覚えていますか?」
「あの夜のことは忘れた。」
この会話に、私は胸をつかれる思いがしました。
そんなこと言われたら、キハ、あなたはつらいよね、自然にテレビ画面に向かって、そんなことを口にしていました。
彼女のお腹には彼の子がいるのですが、今となっては、そのことを彼に告げることもできないのですから。
はっきり言って、私は、大神官と副神官を手にかけた時点で、キハという女性を見限っていました。
どんな理由があろうと、何の罪もない、否、彼女の育ての親とも言うべき大神官らの命を奪うというのは、人間として許されないと単純にそう思ったからです。
でも、あまりにも重いものを背負って生きて行くしかないこの女性に、この17話で、また別の一面を見つけたような気がしたのです。
それは、彼女がお腹の子に託した一筋の夢のようなものです。
これからの展開をほんのちょっとは知っている者としては、それは、夢と呼ぶにはためらわれるような黒い色をしたものかもしれません。
それは多くの人々の血にまみれていて、そして、善なるもの=天を否定することから始まるものなのですが。
それでも、彼女は自分が罪をすべて引き受けることによって、生まれてくる子の未来を切り開こうとしているのだと思います。
そこに、ある意味、聖母の姿に似たものさえ感じられるような気がするのです。
一方、そんなことを言い放ったタムドクに対しては、何て男なの!などと、咄嗟に私は叫んでしまったのですが、これはちょっと早まった判断だったようです。
『まだ、未練があった、でも、これで終わりだ!』と歯を食いしばるように言い切っているところを見ると、もしかしたら、これは自分に向けての言葉だったのかもしれません。
この日を境に、彼女と永遠に決別すると、キハに心を残す自分自身に言い聞かせていたのかも・・。
それが、あの神堂を出るときに、張られた綱を断ち切るという行動になって現れたのだと思います。
そんなタムドクに、チュシンの王というよりはむしろ限りなく人間的なものを感じるのは、多分私だけではないのでしょうね。
天を否定するキハにある種の聖母的なものを、チュシンの王であるタムドクに人間的なものを感じてしまうなんて・・。
これも、バランスを取ろうとする監督の意思、いいえ、「天の配剤」のようなものといったら、言い過ぎでしょうか。
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