2011/02/04 22:58
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-43.すべてを君に

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi





 

 

 

ジニョンは屋上に上がるエレベーターの中で考えていた。

テジュンに“行け”と言われるまま向かってはみたものの・・・
≪こんな時間に・・屋上?≫

怪訝な思いを抱きながらも、エレベーターが屋上に着きドアが開くと、
外へと繋がるドアの隙間から一筋の灯りが薄く漏れているのが見え、
首をかしげた。

ジニョンは少しだけ息を呑むと、そうっとそのドアを押し開けた。
ドアが少しずつ開かれるにつれ、彼女の体が白い光に覆われていき
ドアが全開した瞬間には、彼女は余りの眩しさに手の甲で
目を覆わなければならなかった。

呼吸をひとつ置いた後、目を凝らして辺りに視線を送ると、
正面からライトが自分を照らしているようだった。
それからまた数秒経ってやっとその光にも目が慣れてくると、
光の向こうに何かが見えてきた。

見渡すと、彼女がいつも自分の憩いの場としているその一角に
食器やグラスが美しくコーディネートされた円形のテーブルがひとつ
スポットライトの中に浮かんでいた。

そして、そのテーブルの横には神妙な面持ちのフランクが立っていた。
ジニョンは彼の姿を認めると、一度ホッと息を吐いた。

「・・・ドンヒョクssi・・これって・・何のまね?」

ジニョンはフランクに向かって、困惑気味に笑みを浮かべて言った。

フランクもまた薄く笑みを浮かべながら、ジニョンが近づくのを待った。

そして彼女が彼の目の前に立つと、彼はおもむろにポケットに手を入れ、
ひとつの小さな箱を取り出した。

フランクはその箱の蓋をそっと開けると、やっと口を開いた。

「今回のことで・・・・
 僕の財産の殆どは・・ソウルホテルの債権に変わってしまった
 それは理由があって、直ぐに売ることはできない
 だから今僕に残されたものは本当に僅かなものだけ・・・

 でも・・そんなことはどうでもいいことなんだ 
 僕は君がいれば・・・
 君さえいれば・・例えマイナスからのスタートであったとしても。
 何度でも、いくらでも・・這い上がる自信がある

 だから・・・君はただ、僕を信じてくれればいい
 僕のそばにいて、僕を抱いていてくれれば・・それでいい。
 わかっているよね・・・
 僕が・・君の他に何も・・何もいらないこと。」

フランクはジニョンを真直ぐに見つめて、切々と想いを伝えた。
ジニョンはただ無言で、彼の言葉を噛み締めるように聞き、
そして彼の問い掛けにゆっくりと頷いた。

「・・・ソ・ジニョンssi・・・あなたを・・・心から愛しています・・・
 僕と・・・結婚して下さい」

そう言ってフランクは、箱の中から小さなリングを取り出した。
ジニョンはフランクの誠意溢れたプロポーズに胸を熱くした。
そして彼女は感動に極まった胸を、開放するかのように深呼吸をすると
彼に向かって笑みを添え、ゆっくりと左の手を差し出した。

フランクは、差し出された彼女の手に安堵の笑みを返すと、
その手を優しく受け取り、白い指先に輝くリングをくぐらせた。
そしてそのままその手をグイと自分に引き寄せ、彼女を強く抱きとめた。

「愛してる・・・どうしようもないほど・・愛してる。」 
フランクは彼女を抱きしめた力と同じだけの力を込めて、
自分の想いを搾り出すようにそう言った。

「・・・私も・・私も・・私も・・・」 ジニョンの想いは言葉にならなかった。
だから、その激しい想いを彼に伝えようと、力の限り彼にしがみついた。

たったひとつのテーブルの横にふたりのシルエットがひとつになって
長い時間揺れていた。



「アジシ・・・いつまでこうしてるの?」

ジェニーは自分が作った料理を乗せたワゴンの取っ手を掴んだまま
屋上に続くドアの前でなりを潜めていた。

「もう少し待て」 その横で、テジュンもまた声を潜めて言った。

「だって、せっかくの料理が冷めちゃう」

「しょうがないだろう!」

テジュンは少し後悔していた。
昨日、シン・ドンヒョクから、屋上にテーブルをセッティングして欲しいと頼まれた。
料理はさほど必要ないので、ちょっとしたオードブルとワインがあればいいと。
しかし、それだけでは味気ないだろうと考え、ジェニーと相談して
ふたりで軽いディナーを用意し、後で彼らを驚かそうと企んだ。
≪それがどうだ?これじゃあ、出て行けないじゃないか≫

「アジシ・・・」

「うるさい!」

ジェニーはテジュンに一喝されて、口を尖らせた。
その時、外から声がした。「誰?」 シン・ドンヒョクが物音に気づいたのだ。
テジュンは大きな溜息を吐くと観念したように、ドアを開けた。



ドアの向こうで何やら物音がしたのを、フランクは聞いた。
ここにはもう誰も上がって来ないはずだったが、ドアを開けて出てきたのは
テジュンと妹ジェニーだった。

「オッパ・・お邪魔してごめんなさい」

たった今までフランクと抱き合っていたジニョンが少し照れたように俯き
乱れた髪を指先で直した。

「料理をお運びしました」

「料理?・・あ・・こんな遅い時間に従業員の手を煩わせては・・」

「ご心配には及びません・・きっと理事はそうお考えだろうと・・・
 他の従業員は残しておりませんのでご安心を・・
 ジェニーと私であなた方へ心ばかりの品です」

そう言って微笑んだテジュンの誠意にフランクは感謝の眼差しを送った。

「お客様。」 ジェニーが突然声を上げた。「どうぞ、お席へ・・・」

フランクとジニョンはジェニーに促がされるまま、並んで席に付いた。

ジェニーとテジュンが運んできた器をテーブルに並べ終わると
ふたりはフランクとジニョンの目の前で料理を被っていたクロッシュを
少し大げさな動作で上げて見せた。
そしてジェニーは言った。「ようこそお客様・・星空レストランへ」

「星空?・・星出てないぞ」 隣でテジュンが空を仰ぎながら横槍を入れた。

「いいの。・・・オッパ、貸切のレストランよ」 ジェニーはフランクにウインクしてみせた。
フランクは呆れたように顔を背けたが、その顔には綻ぶような笑みが浮かんでいた。

用意した料理のお披露目が終わると、テジュンとジェニーは
「どうぞごゆっくり・・お客様」と声を揃えて、屋上から素早く去って行った。
彼らが自分達に気を利かせたように、慌てて去って行く姿を見送ると、
ふたりはお互いに顔を見合わせて笑った。



「美味しそう・・」 ジニョンは並べられた料理を見渡して、溜息混じりに言った。

「ああ、そうだね」

「急にお腹すいてきちゃった」

「それじゃ、遠慮なく戴こうか」

「ええ」

テジュンとジェニーの気持ちが嬉しかった。
自分達の結婚が、皆に祝福されているようで、料理を味わいながら
フランクは自分の体中に幸せが深く染入るのを実感していた。


「でも・・こんなところに・・・こんなものを作るなんて・・」
しばらくしてジニョンは改めて、周囲を見渡しながら言った。

「決めていたんだ」

「えっ?」

「君にプロポーズする時は、レストランをひとつ借り切るって・・」

「レストラン?」

「ああ、実はこの前ジェニーにそんなことを話してた・・
 だから彼女、さっき、あんなことを・・」

「あなたがジェニーにそんなことを?・・」

「最近、ジェニーとよく話をするんだ・・
 長く一緒にいられなかった分を少しでも埋めたい、彼女そう言ってた・・
 “オッパのことを沢山教えて”って・・」
フランクはジェニーとの会話を思い出して、小さく笑った。

自分がジェニーに話していた過去のことの殆どが、ジニョンと過ごした
数ヶ月だけだったような気がしたからだった。
「彼女に話していたこと・・君とのことが殆どだったな・・考えてみたら・・
 話すことが何もなかった・・」

「・・・・・・」 ジニョンはその笑顔が少し切なかった。

「その時、質問されたんだ・・“オンニにプロポーズする時は
 どんなサプライズを考える?”って・・
 あー・・韓国では男性が女性に告白する時は、
 サプライズを考えるのが常らしいよ」

「聞いたことがあるわ」

「ジェニーには情報をくれる人たちが沢山いるからね
 あの子も大分韓国文化に精通してきたみたいだ」

「ああ・・」 ジニョンは厨房のイ主任達を思い描いて笑みを浮かべた。

「本当はね、いつの日か君にプロポーズする時・・その場所は
 君と初めて行ったあのレストランだと思ってた。」

「ニューヨークの?」

「ああ、でも気が変わったんだ」

「えっ?・・・」

「今はどうしてもこのソウルで僕の気持ちを伝えたかった」
フランクはそう言って、ジニョンを熱く見つめた。

「・・・・・・」 ジニョンは彼のその眼差しに、胸が圧迫されるほどに
感動していた。

「ここでも本当はレストランのひとつも借り切りたかったんだけどね
 ほら、東海の家の改装の手配したら本当に何も無くなって・・
 だからハン社長に理事の特権を使わせてもらったというわけ。」

「ふふ、だったら、無理しなくてもよかったのに・・・
 これだって、高かったでしょ?」
ジニョンは既に自分の指に納まったリングを見つめながらそう言った。

「いや、それは・・・最近買ったものじゃない」
「えっ?」

「10年前に・・買ってあった」
「10年前?」

「ああ、だから余り高い物じゃないよ。その頃もそんなにお金なかったから・・」
「・・・・・・」

「ショック?安物で・・」
「ええ。ショック。」

「あーでも困ったな・・直ぐには新しいのは買えそうもない」
「10年間も眠らせていたなんて・・」

「えっ?・・」
「もっと早く私の指に納まるべきだったのに・・・可哀想に・・・」
ジニョンはそう言いながら、薬指に光るリングをそっと撫でた。

「はは・・確かに・・・早く君のところに行きたいって
 夜毎泣いていたような気がする」

「あなたのせいね」 ジニョンはそう言ってフランクを睨んだ。
「そうだな」

「許せないわ」
「どうしたら、許してくれる?」

「そうね・・・どうしよう」

ふたりは見つめ合ったまま、互いの胸の内の熱いものを心で感じた。
ふたりにはそれ以上の言葉はいらなかった。
ジニョンはフランクから視線を優しげに外すと、10年の時を経て
やっと自分の指に納まったリングをいつまでも愛しそうに眺めていた。

フランクはそんなジニョンを愛しく抱きしめるように見つめた。
そして心の中で呟いた。

   いいよ・・どんな罰でも受けるよ、ジニョン・・・

   今この時が・・・・
   神がたったひとつの僕の望みを叶えてくれたことに違いないから

   神が君を・・・僕に残してくれたに違いないから・・・



「・・おいで」 フランクが手招きをして、自分の膝の上を指差した。
ジニョンが“座るの?”という表情をすると、彼は黙って頷いた。

ジニョンが頬を赤らめながらもフランクに従って、彼の膝の上に座ると、
彼は彼女の背中を自分の胸に埋めるように後ろからしっかりと抱きしめた。

「覚えているかい?・・
 10年前、あの家で、こうしてふたりで星空を見上げたこと・・」

「ええ・・覚えているわ・・」

「本当はジェニーが言うように“星空レストラン”だったら
 よかったんだけど」

「オモ・・今夜だって、私には見えるわ、綺麗な星空が・・・」

「嘘つき・・」

「ふふ・・心で見てるのよ」

「はは、なるほど・・うん、とても綺麗だ」 そう言いながら、
フランクは彼女を真似て、暗い夜空を見上げて見せた。

「ね。」 ジニョンは“見えたでしょ?”と瞳を輝かせた。

「あの日・・」

「えっ?」

「あの日こうして星空を見上げながら・・・僕は君に、
 自分の生い立ちを話した・・・」

「ええ、そうね」

「自分のことを人に話すのはね、本当に初めてのことだったんだ」

「・・・・・・」

「10歳の時に親に捨てられたこと・・
 アメリカに渡って、養父母との関係が上手く行かなかったこと・・
 自分が誰にも愛されずに育ったと・・だから・・
 人間なんて・・これっぽっちも信じていない・・って」

「ええ・・」

「僕は人間が嫌いだ・・・
 人を信じたことなんて一度もない・・・

 人を愛したこともない・・・
 愛を・・・信じたこともない・・・、そう言った」

「そうだったわ」

「その時、君が僕になんて言ったか、覚えているかい?」

「う~ん・・・何て言ったかしら・・」

「あなたが・・そんな悲しい心のままに生きるのは嫌・・
 そう言ったんだ」

「・・・・・・」

「あの頃僕は18歳の君に・・愛するということの潔さと・・
 愛されるということの心地良さを教えてもらっていた」

「・・・・・それじゃあ私は、あなたの先生ね」

「そうだね・・先生だ」

「じゃあ、少しは尊敬してね」

「尊敬してるよ」

「嘘ばっかり」

「本当さ・・」

「ふふ・・ねぇ、覚えてる?」

「ん?・・」

「その後、私があなたに何をしたか・・」

「その後?」 

ジニョンはおもむろにフランクの膝の上から下りて、彼に向き合った。
そして彼の前にひざまずくと、彼の手を取り、その甲に唇を付けた。
そして、顔を上げ、彼の目を優しく見つめた。

「私は・・あの時・・あなたを慰めたかった・・・
 あなたの心を撫でてあげたかった・・
 でも・・18歳の私は・・上手く言葉が見つけられなくて・・
 あなたに・・・何をしてあげればいいのか・・わからなくて・・・
 こうして、あなたの手にくちづけたの・・・」

「・・・・・・」

「10年経った今でも・・・私・・あまり成長していなくて・・
 まだ上手く気持ちを伝えられないけど・・・
 ・・・愛しています・・・ドンヒョクssi・・・心から・・
 愛しています・・・だから、もう・・・泣かないで・・・
 決して・・心で泣かないで・・・」

「・・・・・・」

「私がずっと・・・抱いていてあげるから・・・」
ジニョンは瞳に涙を一杯溜めて、フランクに熱い心を届けた。

「・・・・ああ・・・そうして・・・」 彼女のその想いに胸を詰まらせたフランクは
そう答えるのがやっとだった。


     私がずっと・・・あなたを・・・



          ・・・抱いていてあげる・・・
























 






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