2011/02/08 21:16
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion(終)命の糸

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collage & music by tomtommama 

story by kurumi

 

話してくれてありがとう
 ホテルに何かあったんじゃないかって・・そればかり考えてた・・』

「君のことが心配で仕方ないんだ、みんな・・」

『あなたも?心配してた?私が心変わりするんじゃないかって?』
「いいや」
『うそ・・』
「ほんとだよ」

『あなたが守ってくれたホテルですもの・・私達のホテル・・あなたと私の・・』
「私達のホテル・・・」 フランクは感慨深げにジニョンの言葉を繰り返した。

『ええ、そうよ、だから・・残された二日間、私、精一杯のことをする』
「ああ・・」

『・・・愛してる』 突然ジニョンが言った。
「・・・・・・」

『・・・どうして・・黙ってるの?』 
フランクの沈黙に、ジニョンは少し照れたように返した。

「たまにはいいかなって・・」
『何が?』
「たまには・・君の・・“愛してる”で一日が終わっても・・」
『え?・・・』

「いつも僕しか言ってない」
『そうだったかしら』
「そうだった。」
『・・・・いいわ・・んっ・・ん・・愛してる。これでいい?』
「最後が余計」

『贅沢ね・・わかったわ・・ドンヒョクssi、よく聞いて。』
「心して聞かせて頂きます」
『ふふ、じゃあ、聞いたら同時に電話を切るのよ』
「ああ」

『ドンヒョクssi・・・愛してる・・愛してるわ』
約束通り、ジニョンのその言葉を最後に、ふたりは静かに電話を切った。

 

翌日の朝、ジニョンが出勤すると、彼女の姿を見つけたジョルジュが、
一目散に走って来るのが見えた。そして彼女に辿り着いた彼は、
息を弾ませながらもどかしそうに顔を歪めた。ジニョンはその時、
彼が告げようとしているそのことが、誰もがずっと待ち侘びていたことに
違いないと確信していた。「ほんとに?」 ジニョンは彼より先にそう言った。

「ああ、本当だ」 ジョルジュもまた、それだけを先に言った。
そのことが可笑しくて、彼は笑いを堪えながら続けた。「決まったんだ退院」

ドンスクの病状がすこぶる好調で、一時的に退院の許可が出たのだった。
ジニョンは閊えていた何かが、すっと胸から降りる感覚に幸せを感じた。

「・・・良かった」 そして彼女はひと言そう呟いただけで沈黙してしまった。
こみ上げる熱いものが胸を詰まらせ、その後の言葉を失わせた。
ジェルジュには、ジニョンのその思いが痛いほどにわかっていた。
だから直ぐには言葉を掛けず、労わるように彼女の背中を優しく撫でた。

「フランクにも知らせようと思ってるんだけど・・」
「ええ、そうね・・でも彼は、今日一日出掛けているの
 検察だとか、ソウルでの最後の仕上げがあるからって・・・
 今日は随分と遅くなる、そう言ってたわ・・」
ジニョンは昨夜、フランクが言っていたことを、そのまま彼に伝えた。

「そうか・・じゃあ、電話でもしておくかな」
「ええ、そうしてあげて?彼も凄く心配していたから・・きっと喜ぶわ」
「ああ、そうするよ・・ところで・・いよいよだな」
「えっ?」
「渡米・・明後日だよな・・何時だっけ」
「ええ、10時よ」
「・・フランクが・・話したんだって?」
「ん?」
「国際会議のこと」
「ああ・・ええ・・」
「でも、心配するな。手前味噌だが我が弟はああ見えて優秀だぞ」
「ええ。心配はしてない。その代わり!これからヨンジェの特訓なの。
 今日と明日は徹夜を覚悟してもらうわ」
ジニョンはそう言って、自分の腕に力瘤を作る仕草をした。

「そりゃあ、いい。一ヵ月後にはレイも助っ人を連れてやってくるんだ」
「ええ、聞いたわ。」
ジニョンの笑顔が、全てを吹っ切ったようでジョルジュは嬉しかった。

「やっと・・・なんだな」
「何が?」
「やっと・・お前は幸せになれる」
「今までだって幸せだったわ」
「いいや。お前の幸せはあの人だ。」 ジョルジュが断言するように言った。

「そうなの?」 ジョルジュの至って真面目な言い方があまりに可笑しくて、
ジニョンは疑わしげに笑ってみせた。ジョルジュは“そうだろ?”と首を傾けた。
「・・・そうね。」 ジニョンはまぶたをゆっくり閉じて彼の言葉を素直に認めた。

この十年の永い苦しみは、決してふたりだけに課せられたものではなかった。
その重みを共に背負ってくれた人達がいた。陰から支えてくれた人達がいた。

両親の想い、レイモンドの想い、私達を愛してくれたみんなの想い
そして・・・目の前にいるジョルジュの瞳の中にもそれはあった。

≪私達ふたりがふたたび寄り添えたのは、あなた達のお陰
  あなた達の惜しみない慈悲と祈りがもたらしてくれたもの・・・≫

「ありがとう」 ジニョンはジョルジュに向かって心を込めて言った。
「ん?」 ジョルジュは聞こえない振りをしていただけだった。
「ううん・・何でもない」 ジニョンにもそれはわかっていた。
「あーサファイアに母さんの部屋を用意してるんだ。二時間もしたら
 連れて行けると思う。お前も後で顔を見せてやってくれよ」
ジョルジュはジニョンの頬にそっと指を触れながら、そう言った。
その時彼は心の中で彼女に、今度こそ、“さよなら”を告げた。「もちろんよ」
ジニョンの笑顔は、全ての迷いから解き放たれたように美しかった。

 

その頃フランクはキム会長を訪ねていた。

「今更、何の用かね」 キム会長は憮然として口を結んだ。
「お願いがあって参りました」
「お願い?」
「はい」
「君が私に・・何の頼みがあるというんだ?」
「ソウルホテルをお願いしたいんです」
「・・・・」
「私はしばらくソウルへの入国はできません」
「当然の報いだろう」
「これから韓国でソウルホテルを存続させていく上で、
 あなたと敵対しているのは得策ではないと考えています」
「・・・それで?」
「理事への復活を・・・。ソウルホテルは・・あなたにとっても・・
 ただのホテルではないでしょう?」
「何をバカなことを・・」
「いいえ、わかっています・・・あなたにとっても大事なもの・・・
 それを共に守りたい。」
「・・・・・・」



ジニョンがランチタイムにサファイアのドンスクの部屋に立寄ってみると
ドンスクの穏やかな笑顔が見えた。「ジニョン・・来てくれたのね」
傍らには部屋の準備を自らやっていたテジュンがいた。「またサボりか?」
ジニョンはテジュンに向かって口を尖らせた後、ソファーに寛ぐドンスクの
首に腕を回した。「おめでとうございます」
「ふふ・・まだ、おめでとうは早いわ」 そう言ってドンスクもジニョンの腕を抱いた。
「でも、やっぱり嬉しいです」

「実を言うとね、あなたを安心して行かせたくて、
 ジョルジュとテジュンssiが無理やり私を退院させたの」
「えっ?」 
「う・・そ・・」
「止めて下さい社長、こいつが本気にしますよ」 「・・・・・」
「テジュンssi、社長はあなたよ・・ジニョン、冗談よ・・治療は本当に順調。
 大事な娘の門出をホテルで見送りたくて、急がせたのは事実だけど」
「社長・・お母さんたら・・・」

「ふふ、明後日はホテルのエントランスで見送らせてね」
「・・・はい。」 ジニョンはドンスクの温かい気持ちを笑顔で受け取った。




ジョルジュは先刻からフランクと連絡を取ろうと彼に電話を掛けていたが、
一向に連絡が取れないまま時間ばかりが過ぎていた。
彼がレオとの連絡に切り替えた時には既に正午を回っていた。

『ジョルジュ・・どうしました?』 「フランクと連絡を取りたいんですが」
『ああ、フランクなら今頃空港に向かっているはず・・』
「空港?」 『あっ・・』 ジョルジュの驚きの声に受話器の向こうでレオが思わず
“しまった”というような声を上げた。

「空港って?・・帰国は明後日じゃ・・」
『あ・・ええ、実は次の仕事でイタリアに・・私もこちらの処理が片付き次第、
 後を追います』 「イタリア?・・ジニョンはそのことを?」
『あ・・・いや、・・このことはどうかまだジニョンさんには
 伝えないでいただきたい』  「どういうことです?」
『向こうに着き次第、自分から説明すると、フランクが言っていました』
「では、明後日ジニョンもイタリアへ?」
『いや・・向こうには彼女を連れて行くわけにはいきません
 今回も少々込み入った仕事でして・・半年は行きっぱなしです
 彼女には仕事が終わるまで、ソウルに残るよう・・そうフランクが・・』

「何を・・どういうことなんです?いったい!彼は何を考えてるんだ!
 直ぐに連絡を・・フランクと話がしたい!」ジョルジュは声を張り上げた。
『彼は・・今日は電話には出ないと思います』 
「冗談言うな!教えて下さい!彼は何時の便で・・」





「ジニョン!」

ジョルジュが朝とは打って変わって、血相を変え部屋に入って来るのを
ジニョンは仕事の打ち合わせ中だったヨンジェの肩越しに見ていた。

彼は近づくなり彼女の腕を強い力で掴むと、理由も言わず、
部屋から彼女を連れ出した。「何よ!ジョルジュ・・いったい何なの?」

「いいから!黙ってついて来い。時間が無いんだ」
「チョッと、痛い・・時間って?」 彼は通用口に用意していた車の助手席に
彼女を無理やり押し込むと運転席へと急ぎ、直ちに車を発進させた。

ジニョンはジョルジュに掴まれていた腕を擦りながら、彼を睨み付けていた。
そのジョルジュが運転しながら、ジニョンに何かを投げて寄こした。「何?」
それはパスポートだった。「ジェニーに持って来てもらった」 「だから・・何?」
ジョルジュは一度大きく深呼吸して、ゆっくりと事の次第を話し始めた。

ジョルジュの突然の強行の理由を聞かされたジニョンはしばし無言だった。
フロントガラスを睨み付けたまま、微動だにしない彼女を時折気にしながらも、
ジョルジュは彼女への言葉をみつけられないまま、ハンドルを握っていた。



その時既にフランクは空港にいた。
掲示板にイタリア行の便の案内が表示される中、人々で混雑するロビーを
人待ち顔で見渡していた。
本当ならば二日後には、ジニョンの手を取り、ここに立つはずだった。
今、自らが決意しておきながら、傍らに彼女がいない事実を
落胆している自分が情けなかった。
「明日は覚悟が必要だな」 フランクはそう呟いて、フッと笑った。
イタリアに着いたら直ぐに、ジニョンに連絡して詫びなければならない。

≪君は激しく怒るんだろうね・・僕を酷くなじるだろう
 君の怒った顔が目に浮かぶようだよ、ジニョン・・
 でも僕は間違っていない・・・この選択は正しいはずだ・・
 ホテルのため・・そして君のためにも・・・ソウルホテルは君の・・・
 いいや僕にとっても大切なもの・・・僕達のホテルのため・・・これは・・
 もう少しだけ僕達に与えられた試練だと・・そう思わないか?ジニョン・・・≫

 


ジニョンは小刻みに震える指を唇で噛んで、膨れ上がる不安に耐えていた。
空港に近づくにつれ、窓から飛行機が遠い空へと飛び立つのが見えた。
その時、十年前レイモンドの車でフランクを追ったあの日のことが蘇った。
「許さないわ・・フランク。」 彼女のその呟きは隣にいたジョルジュにも聞こえた。

「着いたぞ」 
ジョルジュの声よりも先に、ジニョンは車のドアを開け、外へと飛び出した。


ジニョンは懸命に走った。
混雑するロビーにひしめく人々を掻き分けて、必死に彼の元へと走った。

「今度こそは」 ジニョンはその言葉を何度も呟いていた。

「今度こそは・・絶対に駄目・・・絶対に駄目よ・・フランク」

≪今度こそは離れるわけにはいかない≫

≪彼をひとりで行かせるわけにはいかない≫

≪自分を置いて行くなんて、絶対許さない≫

ジニョンの頭にはこの時、ホテルのこともドンスクのこともなかった。
彼女にはこの世にたったひとつ・・フランクのことだけだった。まるで・・・
彼に初めて出逢ったあの日のように・・・心がすべて・・フランクで一杯だった。
「フランク!・・フランク!・・フランク!ー」

しかし走っても走っても、そこにフランクの姿は見えなかった。
時は・・・無情だった。
「フランク・・フラ・・ンク・・フラン・・ク・・・」 
彼女のか細くなる声と共に次第に周りの雑音が消えていった。見上げると・・
電光掲示板が、イタリアへ向かう便の「離陸完了」を告げた。
ジニョンは目の前が真っ白になっていく中、ただ呆然と立ち尽した。
終には掲示板さえ霞んで見えなくなった。
肩から力が抜けて、さっきまで必死に走っていたはずの膝が
小刻みに震えたかと思うと、それが急にガクンと下に落ちる感覚を覚えた。

気がつくと、ジニョンは空港ロビーの冷たい床に力なく座り込んでいた。
自分の周りから何もかも消え去って、自分だけが暗い闇に取り残された。
声を上げて泣くこともできなかった。
ただ自分の心臓の音だけが、頭の中を駆け巡るように響いていた。

どれくらい時間が経ったのだろう。
しばらくしてジニョンは、背後の気配に思わず息を呑んだ。

そしてゆっくりと後ろを振り返るとそこに、いるはずのないフランクがいた。
幻覚なのだと思った。

そのフランクがひざまずいて、力なく延ばした彼の指が彼女に触れた時
その頬がピクリと反応して、幻覚ではないことを知った。

目の前の彼は堪えきれないほどの彼女への想いに言葉を失い、
ただ切ない眼差しを向けるだけだった。

「何してるの?」 しばらくしてジニョンが吐き捨てるように言った。
「こんな所で何を?・・・」
ジニョンはフランクを冷たく睨み付けながら、激しくなじろうと試みたが
その声は次第に震え、涙が溢れるのを止められなかった。

そして次の瞬間、まるで彼女の理性が壊れてしまったかのように、
何度も何度も彼の胸を、顔を、激しく叩いた。

「許せない!」 
「ごめん」

「置いていこうとしたのね!私を」 
「ごめん・・」

「許せない!・・許せない!」 

「ごめん・・・」 フランクはジニョンにされるがまま、その制裁を受けた。

「もう離さないって・・約束したでしょ?離れないって・・
 約束したでしょ!嘘だったの!
 何よりも!どんなことよりも!私にはあなたが必要なんだって・・
 あなたにだって・・私が必要だったんじゃなかったの?
 そうじゃなかったの!」

「・・・・・」
「どうして?どうして!こんなこと・・・こんなこと・・」

「君のためだと・・いいや・・」 フランクは言い掛けて、頭を横に振った。
「どうかしてた・・僕はどうかしてた・・綺麗ごとを並べて・・
 君のためだなんて言いながら・・結局、その勇気もなかった・・・
 行けなかった・・・君と離れてしまう・・それが現実になると思ったら・・
 ・・・胸が苦しくなって・・潰れるように苦しくて・・
 飛行機に乗った瞬間・・心臓が止まりそうなほどだった・・・」
そう言って、彼は泣きそうに笑って見せた。「その時、君の声が聞こえたんだ」

ジニョンはフランクを睨んだまま、それでも彼の袖を握り締め離さなかった。

「・・怒らないで」
「許さない」
 
「・・許して」
「許さない。」

「お願い・・・」
「・・・・・他のことは何も考えないでって言ったでしょ?・・・
 もう嫌よ・・・あなたと離れるのはもう嫌・・
 あなたと離れて暮らすなんて・・もう考えられない
 そうなってしまったら・・・
 そんなことになったら、今度こそ私は壊れてしまう・・
 十年前・・起きたことがまた起きてしまったら・・
 もう二度と・・立ち上がれない・・耐えられない
 どうしてそんなことが・・・わからないの?」

「ジニョン・・・」

「・・このまま私を・・連れて行って・・何処へでも行く
 あなたと一緒に・・何処へでも・・」
ジニョンは止め処なく流れる涙を拭うこともせず、フランクを掴んだまま
震えるその手を離さなかった。

フランクはジニョンを見つめながら、彼女に強く掴まれた袖から、
その指をそっと離すと、彼女のひどく泣き濡れた頬を掌で拭い、
少し乱れた髪を指で優しく梳いた。
そして次の瞬間、激情にまかせて彼女を強く抱き寄せた。
そうして彼は彼女の肩に顔を伏せると、声を上げて泣いた。

ジニョンは彼がこんな風に泣くのを初めて聞いた。
いつもは静かに、心で泣く癖がある彼の・・・その泣き声を聞いた。
そして彼がその泣き声のまま、声を搾り出すように言った。

「もう・・・絶対に・・・離さない。どんなことがあっても。」
「・・・・・」

「決して・・離さない。」
「本当ね」
「ああ」

「もう・・・絶対に、置いて行かないわね」
「ああ」
「だったら・・・」

「・・・・・」
「だったら・・・許してもいい。」 それでも彼女は彼を睨み続けていた。

「・・・・もう睨まないで」
「・・・元に戻るのに時間が掛かるわ」 
彼は小さく笑って、更に彼女を強く抱きしめた。

ジニョンは目を閉じたまま彼の抱擁に身を任せながら思っていた。
このまま、自分の存在が彼に埋もれてしまえばいいと・・・
そうしたら本当に≪彼以外のすべてを捨ててもいい≫そう思った
この温もりに抱かれたままいられたら・・・そうしたらきっと、
≪私は・・私になれる・・ずっと私でいられる≫

ジニョンの顔が柔らかく微笑むのを、フランクは腕の中で感じた。
「フランク・・・」 安心しきった彼女が溜息混じりにやっと、
その名を口にすることができた時、彼は思っていた。

もう離せるはずがなかったんだ
君を僕の中に閉じ込めてしまうことができたら・・何度そう思っただろう

十年前、僕は泣き叫ぶ君の声を聞きながら・・・
心が砕け散らんばかりに君を求め、足掻き、そして自分を失くした
あの日本当は・・・君を行かせたくなかった・・・

いや違う・・・

僕達の運命の糸はとうに手繰り寄せられていたはず
最初から決まっていたはずだった

そう、初めて君に出逢ったあの時から・・・
僕達の糸はとうに結ばれていた

今ならわかるよ、ジニョン・・・

あの時・・・
ビルの角を曲がってしまった僕は・・・

本当は引き返して・・・
こうして・・君を抱きしめたかった・・・

あの時からずっと・・・


    君を・・・


    ・・・離したくなかった・・・
 

 





                passion-果てしなき愛- 完

 


2011/02/08 00:49
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passion-45.ふたりの帰る場所へ

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サムチョクから帰ってからというもの
フランクはNYに発つ前に、新生ソウルホテルの業務拡充に、
ジニョンは、自分が担っていた業務の引継ぎに追われた。

ジニョンの仕事の大半はヨンジェが引き継ぐことになっていたが
それはまだ彼には荷が重過ぎるとの判断から、しばらくの間、
テジュンとジョルジュが彼のフォローをすることになった。

「大体、可笑しいんだよ!」 突然ヨンジェが不服そうに声を荒げた。

「何が?」 ヨンジェをフォローする為、ジョルジュは久しぶりに
ソウルホテルの実務に付いていた。

「俺が副総支配人なんてさ、理事はどうかしてるんだ。
 そうだよ、ヒョンがやればいいだろ?
 ・・・長男なんだからさ・・」 ヨンジェはそう言って口を尖らせた。

「おい・・理事のお考えに不服を申し立てるつもりか?」

「そういうわけじゃないけど・・」

「それに、僕の気持ちはわかってくれたんじゃないのか?
 こうしてお前と一緒に仕事するのも、僕がアメリカに帰るまで・・」

「帰るって・・はぁ・・」ヨンジェは大きく溜息を吐いた。
「アメリカがヒョンの帰る場所ってわけ?このホテルを捨てるのかよ」

「そういうわけじゃ・・」 ヨンジェの言葉に悲しみと怒りを認めて、
ジェルジュは思わず項垂れた。「ごめん・・」

「・・・ヒョンが・・謝ることないけどさ。」 ヨンジェはジェルジュのその様子に、
申し訳なさそうに、ポツリと言った。

「ヨンジェ・・悪いけど、僕はレイモンドの傍で仕事がしたい
 まだまだ・・彼の元で、多くを学びたい
 決してこのホテルを捨てるわけじゃないし、お前達を・・・」

「わかってるよ・・」 ヨンジェはジョルジュの言葉を止めた。
「わかってる、って・・ヒョンの気持ち・・」

ジョルジュはずっと昔から思っていた。
このホテルはヨンジェのために残さなければならないものだと。
そしてその思いは今、更に強くなっていた。
自分に人生をくれた亡き養父と病と闘う養母のためにも。

いつかこのホテルにまた試練が訪れた時、今度こそは自分の手で守りたい。
そう思っていた。
しかし、フランクやレイモンドの傍にいると、自分の未熟さを思い知らされて
歯がゆいばかりだった。
 
「母さんの病状が落ち着いたら、一日も早く帰りたいんだ」

「・・・わかったって・・言ったろ?」 ヨンジェは突き放すようにそう言った。
しかし本当は、ただ、寂しいだけなのだと言いたかった。
兄さんが傍にいてくれないのが寂しいだけなのだと・・・。

ジェルジュにはヨンジェのその想いはちゃんと伝わっていた。
男同士の兄弟が、口に出さなくとも分かり合えることはあると、
ジェルジュは懸命に仕事を覚えようと努力する弟の後姿を目で追いながら、
例え血が繋がっていなくとも、築かれた深い絆は揺ぎ無いものとなったと、
胸を熱くした。



翌日ジニョンがオフィスに入ると、テジュンとオ総支配人が深刻な顔で、
何やら相談しているところに遭遇した。
そのふたりが、ジニョンの顔を見た瞬間に会話を中断したような気がして、
怪訝に思い不愉快そうな表情をテジュンの方に向けた。
しかしテジュンは、とぼけたように彼女に向かって手を上げた。
「お・・ジニョン、おはよう」 

「おはよう。」ジニョンはそれに対して、表情だけで≪何?≫と聞いた。
そして、彼の隣にいたヒョンマンに儀礼的な挨拶をした。
「おはようございます・・オ総支配人」

「おはようございます・・いやぁ、ソ支配人・・いいですな」

「えっ?」

「実に・・幸せそうな顔をしている。」
オ・ヒョンマンが取り繕うような笑顔を向けてそう言った。

「何かあったの?」 
ジニョンは痺れを切らして、声を潜めてテジュンに急かすように聞いた。

「何かって?」 テジュンは首をかしげて言った。

「何かって、何かよ・・」

「何も無いけど」

「ほんと?」

「ああ」

「・・・なら、いいけど・・」

「それより、ヨンジェへの引き継ぎ、進んでるか?
 どうもあいつは、自覚が足りないからな」

「そう?随分頑張ってるわよ、あの子・・」

ジニョンはテジュンに話を逸らされたような気がして、不服だったが、
ジニョンにとって今の最大任務は、ヨンジェの教育に他なかった。

ヨンジェにホテル幹部としての自覚と経営陣のひとりとして
自立させること。
それが一刻の猶予も無い課題だった。

「早くマシにしないとな、少なくともひと月以内に・・」 テジュンは呟いた。
「えっ?」
「いや・・何でもない・・」




ジニョンがヨンジェを探して、ホテル中を回っていると、
ビジネスセンターにいるジョルジュとヨンジェを見つけて、
ジニョンは小走りに近づき、唐突にドアを開けた。

突然入って来たジニョンを見たふたりは一様に驚いた顔をして
言葉を詰まらせた。

≪また?≫「何?」 ジニョンはふたりの顔を交互に見て聞いた。

「何って?」 ジョルジュとヨンジェは首を傾げて、同時に言った。

「・・・・・・」
瞬間、ジニョンの顔がみるみる不機嫌になっていくのがわかった。
またも自分の顔を見て、話を中断されたように感じたからだった。

「何だよ」 ジョルジュがジニョンのその態度を問い質すように言った。

「何でもないわ」 ジニョンはふたりにぷいと顔を背け、踵を返し、
そのままセンターを出て行った。




「おかしいのよ」
「何が?」

ジニョンが突然、部屋に現れたかと思うと、さっきから、不機嫌を露に
腕組をしたままデスクの周りを歩き回っていたが、フランクは
机に向かったまま、ジニョンに顔を上げなかった。
それでもジニョンは続けた。

「だってね、みんなそうなの・・・
 テジュンssiやジョルジュたちだけじゃないの
 スンジョン先輩なんてね、
 私と顔を合わせないようにしているとしか思えない。
 ヨンジェやヒョンチョルだってそう・・まるで皆が私を避けてるの・・

 第一、人の顔を見て口を閉ざすなんて、失礼じゃない?
 何かきっと私に隠してる
 それとも・・私がホテルを辞めることに本当は腹を立ててるの?
 口ではおめでとう、なんて言いながら、実は
 “あいつは悪い女だ”なんて思ってるとか・・
 ねぇ・・ドンヒョクssi・・・」

ジニョンは自分の気持ちをフランクに聞いてもらいたかったが
彼を見ると、デスクの上に積まれた書類の山と戦っているらしく
ジニョンの話など、とても聞いてくれているようではなかった。

フランクのその様子に、ジニョンはわざとらしく大きく溜息を吐いた。
しかし、その溜息すら、彼には届いてないようだった。

ジニョンの声が止まったことに、気がついたフランクがやっと顔を上げ
ジニョンを見ると、彼女はデスクの前で自分に向かって腕組したままま
まさに仁王立ちしていた。

「な・・何?・・」 フランクの背中が思わず後ずさるように、背もたれを押した。

「何でもない。」 ジニョンはその表情のままそう言った。
「何でも無くはないでしょ」

「聞いてなかったくせに」
「聞いてたよ・・あー君の顔を見てみんなが・・逃げる?」

「そんなこと言ってない。」
「だったら、何?」

「だから・・私の・・」

「ねぇ、ジニョン・・君はあと三日もするとここを出る身だよ・・
 こんなところで油売ってる余裕ないんじゃない?」

「油なんて売ってないわ」

「やることは山ほどあるだろ?」

「そうだけど・・・」

「ジニョン?・・」

「何よ・・」

「ここに想いを残さないで」 

「えっ?」

「ホテルに君の心を置いていかないで・・そう言ってるんだ」

「・・・・・・」

「心残りが無いように・・」

「残さないわ」

「そうかな?」

「どういう意味よ」

「そういう意味」
「・・・・・・」 ≪わかってるわ・・・≫

「もういい?」
「えっ?」

「用が済んだら、席をはずしてくれない?
 本当に時間がないんだ、これ・・」
フランクはそう言いながら、目の前に積まれた書類を指差した。

「あ・・あぁ、そうね・・忙しいのよね」
ジニョンは少しばかり不服そうな面持ちで、ドアに向かった。
そしてドアノブを掴むと、ジニョンはフランクに振り返った。「フランク!」

「ん?」 
しかし彼は既に仕事に掛かっていて、ジニョンの方を向いてはいなかった。
彼女はそんな彼が無性に憎らしくなって歯を剥いた。

「今夜!電話しないで。」

「えっ?」 その声にフランクが顔を上げた。

「い・そ・が・し・い・の。」 ジニョンは語彙を強調しながら言うと、
プイと顔を逸らして部屋を出て行った。

その場に取り残されたフランクは、しばし呆然として
ジニョンが出て行ったドアを見つめていた。

そしてポツリと呟いた。「僕が何かした?」



ジニョンは自分でもわからなかった。

≪どうしてこんなに苛立っているの?

  みんなが私に隠し事したりしているなんて
  疑う必要なんてないはずじゃない?
  フランクの言う通りよ
  私には今、そんなことで時間を費やしている暇はない・・・
  わかっているわ・・・でも・・・≫


ジニョンはカサブランカの二階に来ていた。
気持ちを切り替えて仕事に集中するために、少し自分の気持ちを
整理したかった。

アメリカに発つ日まであと三日。
時が進むにつれ、ジニョンは確かに少し焦って来ていた。
自分で決心しておきながら、こんな気持ちのまま、フランクと共に
ここを去ってもいいのだろうか。
自分の選択は正しかったのだろうか。

その不安な思いが繰り返し心を掻き乱し、そのことが余計に、
皆が自分を避けているような錯覚を、誘っているのかもしれない。

≪ここに心を置いていかないで≫
さっきフランクから言われた言葉が、余計に心を乱した。

   私は・・・心をここに残している?

   だからこんなにも落ち着かないの?

   

フランクはさっきジニョンが出て行った後、気になって彼女を追った。
彼女が走って行った方角から推測して、カサブランカに寄ってみると
案の定彼女はここにいた。

彼女は彼に気が付いていなかった。

フランクは、二階の手摺りにもたれ想いにふけったように佇むジニョンに
声を掛けることが出来なかった。

   ジニョン・・・

彼は彼女のその様子をただ黙って見上げていた。




その夜、ジニョンはアパートに戻って、アメリカ行きの荷物の整理をしていた。
フランクから、ソウルからは何も持って行かなくてもいいように
向こうでレイモンドとソフィアが準備してくれている、と聞いてはいたが
やはり、持って行きたい大切なものもある。
ジニョンは、身の回りの品と一緒に、ソウルでの仲間達との記念写真を
数枚トランクに詰めようと手に取った。

  その中の一枚には、今は亡き先代の社長・・そしてドンスク社長・・
  スンジョン先輩・・テジュンssi・・ヨンジェ・・ジョルジュ・・
  みんなが映っていた・・
  
    ・・みんな、笑ってる・・・

  それは5年ほど前に、撮った写真だった

  フランクと別れて、苦悩の中に生きていた自分に
  ソウルホテルという生きる場所をくれた
  そして支えてくれた・・・人たち

彼らとの思い出が、走馬灯のように脳裏に浮かんでは消えていった。

共に笑って・・泣いて・・喧嘩して・・
そうして一緒にソウルホテルという家を築いてきた家族・・

ジニョンはその写真の中のひとりひとりに、別れを告げるように
それぞれを指で撫でた。

その時電話が鳴って、ジニョンは急いで掌を頬に這わせ涙を拭った。
フランクからだった。

「電話・・しないでって言ったでしょ?」

『本気じゃなかったくせに』 

「忙しいの!」
『そう。・・じゃ・・』 
フランクは思わせぶりに素っ気無く答えて、ジニョンを慌てさせた。

「あっ・・」
『何?』

「少し・・くらいなら・・」
『少しくらいなら?』

「話しても・・いいわ」 ジニョンは勿体つけるように言って、顎を上げた。

『そりゃあ、ありがたい』 フランクはわざと単調な口調で冷たく返したものの、
心の中ではジニョンの反応を面白がっていた。

「・・・・・・」

『また泣いてたのかい?』

「泣いてなんか・・」

『君はどうして、嘘つきになったんだろうね』

「・・・きっとあなたのせい。」

『その理由は?』

「我慢を覚えたの。」

『なるほど・・納得。』

「ふふ・・・・今ね、準備してたの」

『準備?』

「ええ、アメリカに持っていくものの・・準備」

『何も要らないって・・言わなかった?』

「そうだけど・・どうしても持って行きたいものって、あるわ」

『そう・・・それで・・終わったかい?準備』

「ええ・・大体ね」

『なら、良かった』

「うん・・・」

『あー君が気になってることだけど・・・』

「えっ?」

『今日一日・・ずっと気にしていたこと・・
 皆が私から逃げるって・・』

「そんなこと言ってないって言ったでしょ」

『はは・・・そうだったね』

「それがどうかしたの?」

『ん・・知らせると、君が気を揉むんじゃないかって・・
 テジュンssiが緘口令を敷いたんだ』

「・・何のこと?」

『聞きたい?』

「いつから意地悪になったの?」

『昔から』

「チィ・・」

『大事な国際会議がこの先半年の間に五つ計画されている
 殆ど毎月のペースでね・・・しかも
 その内のひとつは、六カ国協議・・』

「!・・・あなたも知ってたの?」

『僕が取ってきた』

「・・・それってソウルホテルにとっては大きなチャンスよね」

『ああ、そう思ってる。』

「それじゃ、ビップ担当はヨンジェじゃ・・」

『わかってるよ・・僕は承知の通りこの場にいるわけにはいかない
 だからそれなりに考えてる・・レイモンドにも来てもらう予定だ・・』

「・・・・・・」

『どうしたい?』

「どうしたいって?」 ジニョンの声が上ずっているのがわかったが
フランクはそれを指摘することなく続けた。
『この一連の仕事に顔を出してしまったら・・』
「わかってるわ・・」 ジニョンはすかさず彼の言葉を遮った。
「言わなくてもわかってる。そんなところに顔を出した人間が、
 無責任なことできる訳ないじゃない・・
 私だって、そんなバカじゃないわ」

『そう』

「・・・・それで・・・みんなが・・
 気を回し過ぎよ。テジュンssiも、ジョルジュも・・」
ジニョンは納得したように頷きながら言った。

『それだけ、君が頼りだったわけだ・・ソウルホテルは・・』

「私は・・・もう決めたの。」

『じゃあ、いいんだね。
 出発は予定通り、明々後日の朝。』

「ええ。もちろんよ」

『良かった・・・ところで・・向こうへ行ったら、
 君は最初に何処へ行きたい?レオはね、可笑しいんだ・・
 帰ったら直ぐにどういうわけか、韓国料理・・』
「家に帰りたい」 ジニョンはフランクの言葉を遮って小さく呟いた。

『家?』

「ええ・・・私達の家へ」≪そうよ、それが私の一番の望み≫ 

『ああ、そうだね・・そうしよう』≪そうだよ・・それが僕の唯一の願い≫


      帰りたい・・・私達の家に・・・



        そうだね・・・帰ろう・・・


           ・・・僕達の家に・・・



       













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