2011/03/29 00:13
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ラビリンス-4.ドンヒョクの街

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4.ドンヒョクの街








ドンヒョクのイタリアの事務所は、フィレンツェの大聖堂広場から
少し奥に入った通りにあった。

「この街は歩いて巡るに越したことは無い」というドンヒョクに従い、
S.M.N駅周辺の駐車スペースに車を止め、ふたりは肩を並べ歩いた。

赤い屋根に白壁や石壁、街並みの均整の取れた色合いは、
ローマとはまた別の趣があり、柔らかな風情を醸し出している。
ジニョンは時に深呼吸して街の空気を味わいながら、麗しき
ルネッサンスとの出会いを楽しんでいた。

フィレンツェは、街全体が美術館だと言われているほどの美しい街だ。
こうしてこの街が、その評価を維持し続けている事実は、元は
いつの時代かの、だれそれかの意思が強く働いたに違いない。
ジニョンは勝手な空想の中の、その誰かに感謝の気持ちで一杯になった。

ふたりは途中、“サン・ロレンツォ”という教会に立ち寄った。
事務所に一番近い教会らしく、彼がよく訪れていたのだという。
「素敵な教会ね」 ジニョンは中に入ってやっとその言葉を使った。
外観からは想像できない優雅さがそこにはあったからだ。

聞くと、この教会のファサードは未完のままなのだという。
それもまた、ドンヒョクがここを好む理由のひとつなのかもしれないと、
ジニョンは思った。

「どうして未完のままにしたのかしら」

「さあ・・・でも・・それがいいんだ。観光客も少ないしね」
ドンヒョクはそう言って笑った。

「そうね・・」

「ねぇ・・ここでもう一回結婚式なんて・・どう?」

「ふふ・・」
ジニョンは一週間ほど前にアメリカで挙げた式のことを思い出した。
レイモンドの立会いのもとふたりはやっと、生涯を誓い合ったのだった。
そこには三年前に結婚したソフィア夫妻の姿もあった。

『ふたりだけで挙げる』と言い張ったドンヒョクに、レイモンドが
『結婚に証人がいることも知らないのか』とお膳立てを全てやってしまった。
挙式に向かう間中、ドンヒョクは終始不機嫌な顔付きを露にしており、
ジニョンが取り成すも一向に効果は無かった。

この日、ジニョンの両親やドンヒョクの父、妹ジェニーの姿は無かった。
それは、近い時期にジニョンを理事夫人という立場で、彼の代理として
韓国に送り込む為に、取り急ぎ、ふたりだけで式を挙げようと、
ドンヒョクが計画したことだったのだが・・・。

『我慢の限界だったからだろ?』 
レイモンドの愛ある悪態は、ドンヒョクの機嫌を更に損ねた。
無論、その原因は、レイモンドの言葉が図星だったからに違いなかった。

家族の代わりにふたりの誓いを見届けてくれたレイモンドとソフィア夫妻
彼らもまた、ふたりの家族のような存在だった。

やはり10年ぶりに再会したソフィアが『私の半身よ』と言って紹介してくれた
リチャードという紳士は、ドンヒョクの仕事のブレーンでもある人物だった。

10年の間に、ドンヒョクは着実に事業を成し遂げていたが、そこには
彼の良き理解者である彼らの力が大きかっただろう。
ソフィア夫妻のドンヒョクに向ける暖かい眼差しが、それを如実に
物語っていた。

その時ジニョンは不思議な感覚に囚われた。
この10年の時が濃縮してしまったように、彼らと離れ過ごした時間が
まるで存在しなかったかのような錯覚に囚われたのだった。
自分自身もまた、彼らのこの10年に存在していたのだと・・・。


ジニョンはその日、赤いロードをレイの腕に引かれて、ドンヒョクの元へと歩いた。
ジニョンが祭壇に近づくに連れて、ドンヒョクの気難しそうな顔は綻んでいった。
しかしこの期に及んで、レイモンドがドンヒョクに彼女をなかなか
渡そうとしないことにドンヒョクの顔がみるみる強張った。

『冗談も通じないのか。面白くない奴だな』 レイモンドがそう言って笑うと、
ドンヒョクがジニョンの腕を彼から奪い取り、彼を睨み付け言った。
『面白くなくて結構。』

ジニョンはそんなふたりを呆れたように見つめながら、長い間待ち望んだ
ドンヒョクとの幸せを噛み締めていた。




「何が可笑しいんだい?」 
祭壇の前でジニョンが思い出し笑いしているところに、ドンヒョクが近づき、
彼女の顔を深く覗き込んで言った。

「ふふ・・結婚式の時のことを思い出してたの」

「ああ・・あの日は最悪だった」 ドンヒョクは口を尖らせて言った。

「最悪?」 ジニョンは彼を軽く睨んでみせた。

「あ・・いや・・そうじゃないよ・・レイが・・」

「ふふ・・・でも楽しかった」

「結婚式って楽しむものかい?僕はもっと厳かにやりたかった」

「充分厳かだったけど」

「そう?」

「ええ。そうよ」



≪式は実に厳かに進行した。≫
『汝・・・シン・ドンヒョク・・・病める時も健やかなる時も・・・・・・』

『汝・・・ソ・ジニョン・・・病める時も健やかなる時も・・・・・・』

『愛することを・・・誓います。』

そしてふたりは誓いのキスを交わした。

ジニョンが少し頬を染め列席に振り向くと、ふたりを見守る人達の
優しい眼差しがそこにあった。

ソフィアが満面に笑顔のまま、目を真っ赤にして涙を拭っていた。
リチャードはそんな彼女の肩を優しく抱き、その髪にくちづけていた。
レイモンドが感慨深げに、何度も何度も頷いていた。

ジニョンはその瞬間感極まり、突然ドンヒョクのそばを離れると
彼らの元へと駆け出した。
そして、ソフィアの胸に飛び込み、声を上げ泣いた。

『ジニョンったら・・困った花嫁さんね。泣かないの。泣かないの!』 
ソフィアがそう言いながら、ジニョンの背中を優しく叩くと、
ジニョンは更に泣きじゃくった。

『ありがとう』 ソフィアがそんなジニョンを抱きしめて言った。
『フランクを・・待っててくれて・・ありがとう、ジニョン・・』

それは、ジニョンにとって、何ものにも替え難い一日だった。

『あいつも泣いていたよ』
式の後、レイモンドがジニョンにこっそり耳打ちして、言った。
しかしそれをドンヒョクに言うと、彼はこともなげに答えた。
『レイが血迷ったんだ、きっと。』



「本当にもう・・・」 ジニョンはその時を思い出して呟いた。
「えっ?」

「何でもないわ。素敵な式だった。とても。」 ジニョンはきっぱりと言った。

「君がいいならいいさ」 ドンヒョクは少しだけ唇を尖らせてそう言うと
いつものように祭壇に向かい十字を切った。
ジニョンはそんな彼を横目に可笑しさを堪えながら、彼の十字を真似た。

≪本当はあなただって、すごく感動したくせに≫





「ここだよ」 教会を出て、数分のところでドンヒョクが立ち止まった。
ジニョンがその建物の前で、ゆっくりと周囲を見渡すと、斜め向こうに
大聖堂の赤い先端が見えた。
石壁に覆われたさほど高くないその建物は周囲のそれと違わず
ルネッサンスの歴史が残っていた。

ジニョンは以前に、彼の事務所がこのような場所にあるということを、
レイモンドから聞いていた。

≪フランクなら、イタリアの中でもミラノという都市を選ぶと思っていた
 あの街を選んだ男は、シン・ドンヒョクなんだ・・・
 ・・・・行ってみると、君もわかるよ、きっと≫

ジニョンはレイモンドが言った言葉がその時よく理解できなかった。
しかし今、こうしてこの街並みを歩き、この空気に包まれると、
彼が言いたかった意味が何となくわかるような気がした。

≪シン・ドンヒョクが愛した街≫ そしてそれは・・・きっと・・・

≪私が愛せる街≫

「どうした?」
「えっ?・・あ、いいえ・・・」

「この最上階だ。・・・と言っても、四階しかない
 それにエレベーターは無いよ。見ての通り、古い建物だから」
ドンヒョクは上を指差してそう言った。
ジニョンは彼の言葉を聞きながら、彼の指先を追って建物を見上げた。
「素敵」

「そう?」
「ん」

「それでは・・参りますか」
「ええ」




エントランスを入ると、大きく吹き抜けた中央に、りっぱな螺旋階段が
その存在を主張していた。
一階の天井の高さがかなりあるこの建物の螺旋階段を四つ分昇るのは
ジニョンには少し厳しいものだったが、ドンヒョクは憎らしいほどに
涼しい顔で段を進んでいた。

「んっん?」
三階目に差し掛かった時、ジニョンは咳払いしながら、無言で自分の手を
ドンヒョクに差し出した。
彼はしょうがないな、という顔を形だけして見せて、その手を取った。
「運動不足だな」

「その内慣れるわ」
「その必要はないさ・・君がここに来ることは無いから
 言っておくけど・・今日は特別。」

「私も何か仕事させて」
「だめ」

「え~どうして?」
「邪魔だから」

「うー」
「唸るな」

「じゃあ、私は何をしてたらいいの?」
「イタリアを満喫していたらいい」

「そんなの・・」
「観るところは沢山あるよ、この国は。きっと感動の嵐だ」

「そうだろうけど」
ジニョンはドンヒョクに手を引かれたまま、口を尖らして不満を露にした。

「着いたよ」

螺旋階段の終点には、廊下が左右にそれぞれ5メートル程伸びていた。
ドンヒョクはその左側に向かい、一番奥のドアを目指した。
ドアのガラスに「Ltd.S.J.」と書かれていた。

「株式会社・・S・・J・・ソ・・ジニョン・・」 ジニョンが読んだ。

「まさか」 ドンヒョクが笑った。

「冗談よ・・・ね、どういう意味?イタリア語でしょ?」
ジニョンが興味深げにドンヒョクの顔を覗いた時、部屋の中から、
物音が聞こえたかと思うと、こちらが開ける前にそのドアが開かれた。

「ボス・・お待ちしておりました」 
そこにはジニョンと同じ年頃の女性が立っていた。

「ああ、ご苦労様・・・・入って」 ドンヒョクがジニョンを振り返って、
彼女を中へといざない、彼女は彼に促されるままそこに入った。

この部屋もまた、ドンヒョクらしさで彩られていた。
本棚や机、椅子はローマのホテルの部屋とはまた違った趣の調度品だったが、
永い時代を生きて来たダークブラウンの洒落たデザインながら、
機能性を重視していることがよくわかった。
華美過ぎず、かといって、重厚感は損なっていない。
≪好きだわ≫ジニョンは思った。
壁には小さな絵が幾つか飾られていた。≪彼が好きなラファエロの絵≫

ジニョンが感動の眼差しで部屋を見渡している間、入り口のそばでは、
二人の男女がこちらを向いたまま直立して彼女の視線を待っていた。

「あ・・ごめんなさい」 ジニョンはふたりに失礼を詫びた。

「紹介しよう・・こちらは、秘書のミンア・グレイス・・・妻のジニョンだ」
ミンア・グレイス・・・理知的な美しい女性だった。
≪この人が、例の秘書なのね≫
ジニョンは心の中で昨日のドンヒョクの言葉を思い出していた。

「よろしくお願いします、Ms.グレイス」

「お目にかかれて嬉しいです。ミンアとお呼び下さい、奥様」
ミンアは毅然としながらも、穏やかな笑みを浮かべて、好意的に言った。

「あ、私も・・・ジニョンと。・・・」 
ジニョンはミンアに手を差し伸べ、二人はにこやかに握手を交わした。

「そしてこちらが・・・」
「キム・ジョアンと申します。」 
二十代半ばの若い男が、一歩足を進めてジニョンの前に立つと、
頭を深く下げた。
ジョアンはドンヒョクに少し面影が似ている綺麗な男だったが、
彼はジニョンに対して、緊張したかのような無表情な顔を崩さなかった。
ジニョンはその表情に気を取られて、握手するタイミングを失った。

「ジョアンが君と行動を共にする」 ドンヒョクがジニョンにそう言った。
「えっ?」

その時ミンアが緊張した面持ちでドンヒョクを急かすように言った。
「ボス。いらしたばかりで申し訳ございません。
 早速お耳に入れなければならないことが」

「ああ、わかった。ジョアン・・早速だが、今から彼女を頼む」

「かしこまりました。」 ジョアンは即座に答えた。
「ドンヒョクssi・・今からって・・私、今昇って来たばかり」
ジニョンはそう言って、今苦労して昇って来たばかりの階段の方角を指差した。

「悪いけど、僕は今から仕事に掛からなきゃならないようだ。
 彼が僕のアパートに案内してくれるから安心しなさい。
 あーそれから・・
 出掛ける時は必ず彼を呼ぶように・・ミンア・・」

「はい。」 ミンアは直ぐに用意していた携帯電話を差し出した。

「これが君のだ。ジョアンの番号や必要な連絡先が既に入ってる
 彼は随時、君のそばにいる」 
ドンヒョクはジニョンにその携帯電話を渡しながら、ジョアンを指して言った。

ジニョンは困惑を隠そうとせず、ドンヒョクから手渡された携帯電話と、
自分の前で依然無表情に立つジョアンを交互に見た。

「それじゃ。・・ミンア、状況報告を」 
ドンヒョクはジニョンに手を挙げて言った後直ぐに、ミンアに向き直った。
「はい。」 ミンアは即座に返事をして、彼の後に続いた。

「それじゃって・・ド・・」
ドンヒョクはジニョンの声を無視して、ミンアからの報告を聞きながら
別室へと入って行った。
ミンアは一度ジニョンに振り返り、「失礼致します」と頭を深く下げると、
ドンヒョクが入って行った部屋へと消えた。

「あ・・・」
ジニョンはしばし呆然とその場に立ち尽くしていたが、ドンヒョクは
戻ってはくれなかった。

「ふー」
彼女が溜息を吐いた時、隣でもうひとつの溜息が漏れたことを
ジニョンは見逃さなかった。

「ジョアン・・さんだったかしら・・・あの・・いいのよ、私、
 場所を教えて下さったらタクシーに乗って、
 彼のアパートに行きますから」 ジニョンは本気だった。
≪知らない人とずっと一緒だなんて、窮屈で仕方ないわ。≫

「いえ。そんなことをしたら、ボスに殺されます。」 ジョアンは真顔で言った。

「ころ・・そ、そんなこと・・・」≪あるわけないでしょ≫
ジニョンは軽く彼を睨むと、苦笑しながら続けた。
「本当に私のことは心配しなくていいですから・・・」 

「奥様。ボスの言いつけは絶対ですから。」 彼は引かなかった。

「・・・・・奥様は止めて?」 ジニョンはジョアンの目を見て言った。

「奥様は奥様です。」 ジョアンもまた彼女の目を真っ直ぐに見て姿勢を正した。

「・・・そう。」
ジニョンはジョアンの頑なな態度に、心の中で大きく溜息を吐いた。

≪それにしても・・・≫とジニョンは再度ドンヒョクが消えたドアを見た。

『それじゃ。』
ドンヒョクの先ほどの態度を思い出して、ジニョンはまた無性に
腹が立ってきた。

≪それじゃ。って・・・
  よくもひとりにしてくれたわね、ドンヒョクssi≫
  

こんな時せめて・・・



     ・・・≪キスのひとつくらいしない?≫・・・











※ファサード=建築物の正面のデザイン

※サンロレンツォ教会=メディチ家代々の菩提寺で15世紀にブルネレスキによって建てられた
               典型的なルネッサンス様式の建物。

【登場人物】
  シン・ドンヒョク(フランク・シン)この物語の主人公・実業家

  ソ・ジニョン ドンヒョクの妻・元ホテル支配人

  レイモンド・パーキン 実業家
    元アメリカNYマフィア界トップファミリーの三男にして
    そのパーキン家をマフィア界から脱却させた張本人
    フランクの強力なブレーンのひとり

  ミンア・グレイス フランクの弁護士兼秘書

  キム・ジョアン フランクの助手

  ソフィア・ドイル(現コーレル夫人)弁護士
    フランクのハーバード大学での同胞であり
    フランクが10代の頃からの良き理解者

  リチャード・コーレル  実業家
    ソフィアの夫・フランクによって、会社再生を果たし
    以来フランクのブレーンとなる



2011/03/25 22:06
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ラビリンス-3.時空を超えて

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3.時空を超えて






「君のホテル」

ドンヒョクの声が風に流されて、ジニョンの耳に微かに届いた。

「ス・・ストップ!」
ジニョンの叫びに反応した瞬間、ドンヒョクはバイクのブレーキに手を掛けた。
バイクが急に止まって、思わずドンヒョクに回した腕に力が入ったジニョンは
しばらくそのままの姿勢で沈黙していた。

そしてジニョンは、混乱した頭の中が整理できないとばかりに首を傾げ、
ドンヒョクの体から腕を離すと、ヘルメットを外しながら言った。
「何て言ったの?今・・」 

「君のホテル・・そう言った」 ドンヒョクは前を向いたままそう答えた。

「それって、どういうこと?」

「厳密に言えば、五年前に僕が手に入れたホテル・・
 半月前、君の名義に変えた」

「・・・・・・あ・・あのホテル?・・全部?」

「ああ、僕達が使っているあの階はプライベートスペースだ。
 だから・・値段は無い。」

≪この部屋っていくらくらいするの?≫
ドンヒョクは、ホテルの部屋でのジニョンの質問に今答えた。

「あの階って・・・あ・・あの階全部・・プ・・プライベート?・・」

「ああ、ワンフロア全部。
 他の部屋は遊戯室やトレーニングルーム、エステルーム・・・
 大浴場も作ってみた。君とふたりで入るために・・
 帰ったら全部見てみるといい。あーそれから・・
 喧嘩した時の為に君だけの部屋も用意しておいた」 

そう言ってドンヒョクは笑い、肩をすくめて続けて言った。
「ここからジェニーのところに逃げるわけにはいかないだろ?」

「・・・け・・・」

「とにかく、セキュリティーや掃除の名目以外で、あの階へは
 誰も入れない。君と僕以外は・・・。
 だから言っておくけど、決してサービスが悪いわけじゃない。」

≪ソウルホテルならお客様を丁寧にお部屋までご案内するわ≫
先刻のジニョンのソウルホテル自慢に対抗して言った。

「・・・・・・・・・」 ジニョンは言葉を失っていた。

「どうしたの?・・君の質問にちゃんと答えたけど」

「だ、だって、あなたついこの間・・・ソウルホテルの為に全財産を・・・」

「だから・・あそこは君の名義。僕のじゃない。そう言ったろ?
 それにソウルホテルの為に処分したのは僕の資産であって
 会社や君の資産は処分してない。」

「まさか・・他にも?」≪あるの?≫

「ん。ソウルの家とNYの家も君の。」 とドンヒョクは満面の笑顔で頷いた。

「あ・・あの・・・・・」
開いた口がふさがらないというのは、きっとこんな感じなんだろうと
ジニョンは心の中で思っていた。

「どうして私?・・それに・・何も聞いてない。」
ジニョンはそう言いながら、バイクから降り、ドンヒョクの横に立った。

「『どうして私?』・・・君が僕の妻だから。
 あー正確にはその時は妻になる予定の人だったから。
 『何も聞いていない?』・・・教会で言った。・・・君は寝ていたけど。」

「チィ・・」

「君と別れた後、僕は我武者羅に仕事した。
 10年を掛けて、アメリカやヨーロッパを中心にマーケットを拡大したし
 必然的に・・望むも望まぬも資産は増えていった 
 僕の所有物件はイタリア全土だけでも50は超えていた。
 ところが数ヶ月程前から、それらが狙われ始めた・・
 気がついた時には幾つかの物件が人手に渡っていた
 その頃僕はたったひとつのことに集中していたんでね」
そう言いながらドンヒョクはジニョンを見て苦笑して見せた。

「無論その為に、この二・三ヶ月で自ら処分したものも多い。
 しかし自分で処分するのと、他人に奪われるのでは意味が違う。
 ただ他のことに注意を払う余裕が僕に無かったのも事実だ。
 だから或る程度は止む得ないことだと諦めもした。
 それに・・・別に物に対して執着が強かったわけでも無い。
 奪い奪われる・・そんなやくざな世界に身を置いている僕としては、
 そんなことは本当にどうでも良かったんだ。しかし・・・」

「・・・・・・」

「あのホテルだけはどうしても失いたくなかった。」 
そう言ってドンヒョクはジニョンを熱く見つめた。

「・・・・・・」

「・・・・・君の為に買ったホテルだったから・・・」 
そしてドンヒョクは少しの沈黙の後にゆっくりとそう言った。

「私のため?」

「ああ・・僕がこの5~6年、ホテル専門のM&Aに専念したのは
 君の夢が・・“ホテリアー”・・・だったから。
 そう言ったら信じるかい?」

そう言いながらドンヒョクもバイクのエンジンを切って、そこから降りた。
ジニョンはまだ声を出せないまま、ドンヒョクを見つめていた。

辺りには川が流れ、川向こうには城のような建物が見えた。

「少し歩く?」 ドンヒョクはバイクを川沿いの脇に駐車して言った。

ジニョンはまだ事の次第を飲み込めないような複雑な表情のまま、
ただ頷いた。

「君がホテリアーになる。・・・僕がホテルを舞台に仕事する。・・
 それだけが君との繋がりのような気がしてた。
 真剣に・・・そう思ってた。」
ドンヒョクは歩きながら、まるで回想するように天を仰ぎ話を続けた。

「・・・・・・」

「10年間ずっとそうだったわけじゃない。
 仕事に追われて、君のことを思い出さないことも事実あったと思う。
 自分自身にそう言い聞かせて来たから・・・。
 それまでホテルに興味があったわけでもないし・・
 それを仕事にしようと思ったこともなかった。
 でも数年を掛けて世界中の多くのホテルを見て歩く内に、気がついた。
 僕がいつもその中にいる君を見ていたことに・・・。」

「・・・・・・」

「丁度その頃君が夢だったホテリアーになったことを知ったんだ。
 それからはいつもホテルの中で・・君の働く姿を想像してたよ
 君はどんなホテリアーになっているだろう。
 あの輝くような笑顔で、きっと人の心を暖かくしてるだろう。
 僕自身が君にそうしてもらったように・・・
 そんなことを想像するだけで、僕も幸せな気分になれたんだ」

ジニョンはそんな話をするドンヒョクの背中を愛しげに見つめていた。

「そしてあのホテルに出会った時、ホテルの魅力に取り付かれて
 自分に抑制していたはずの君への想いが更に止まらなくなった。」
ドンヒョクは少し歩いて、橋のたもとで立ち止まった。

「いつしかあの部屋で君と過ごすことを夢見た
 君が好きなアンティーク家具をひとつひとつ用意しながら
 君だったら・・ここに何を置くだろうか・・・
 君だったら、ここで何をするだろうか・・・
 いや、ホテリアーとしての君だったらどう考えるだろう
 あのホテルで働く君を想像してみたりもした
 僕の休息の場所だった・・・君を夢見る・・場所だった。」

彼の過去の告白がジニョンには無性に悲しく心に響いた。
ジニョンは立ち止まったドンヒョクの背中に額を付け、目を閉じた。
涙が知らず知らず込上げ、いつの間にか彼のジャンバーを濡らしていた。

≪いつもそう思う。
 ふたりが離れていた10年の月日が恨めしいと。≫

そして知るのだ。
いつの時もふたりは遠く離れた地で、互いを想い合っていた。
ドンヒョクはジニョンとふたりで過ごす夢の城を築き上げ、ジニョンは、
ドンヒョクの生まれた地を巡り、彼の幼い日の時空に身を置いて
いつも彼を悲しく求めていた。

「綺麗」 ジニョンが突然、空を仰いで言った。

「ん?」

「空が綺麗」

今日はことのほか天気が良くて、本当にドライブ日和だった。
ローマの空は広いと何かで読んだことがある。
その通りだとジニョンは思った。透き通るような色のせいだろうか。
≪同じ空のはずなのに・・・≫

「笑わないって約束する?」 ドンヒョクが突然、ジニョンに振り向いて言った。

「な・・何?・・」 ジニョンは慌てて涙を拭った。

「昔・・・この同じ空の何処かに君がいる・・そう想うとね
 時間を駆け戻りたくて仕方なかった・・
 もしかしたら叶うかもしれないって・・
 この川沿いを思い切り走ってみたことがある。」

ドンヒョクは笑い話でもするような言い方でそう言った。

「私も・・・」
「・・・え・・」

「私も・・・戻りたかった。」

突然ジニョンが真顔で返したのでドンヒョクは戸惑い、口を噤んだ。


ドンヒョクはジニョンの切ない眼差しから逃れるように向きを変え、
背中にジニョンを感じながら聞いた。「・・・・・きらい?あのホテル・・」 

「私は・・・あんな贅沢な部屋より・・・何よりも・・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・あなたにそばにいて欲しかった。」

それがたったひとつの真実だった。

「・・・・・・・・・・・・・ごめん」

わかっていた。時は戻ることは無い。
しかしふたりは再び結ばれた。それはとても幸せなことだった。
ふたりでいればいるほど、離れていた時間の流れの中に置いて来てしまった
それぞれの孤独を見つけてしまう。
その度にふたりは、心をえぐられるような悲しみを味わうのだろうか。
あまりに苦し過ぎて、その度に泣くのだろうか。

それでも離れたくない。
≪だからこそ、一時も離れていたくない≫
ジニョンはドンヒョクの背中を強く抱きしめて、そう思った。

「ドンヒョクssi・・・」
「ん?」

「あのベッドは・・・・ちょっと派手過ぎるわ」

「・・・・そう?」 ドンヒョクは背中で笑った。





「明日の夜には会長の元へお連れできるかと。」

フランク・シンが即刻動かねばならないよう、手を回した結果報告は
ジュリアーノの気分を多少なりとも上昇させた。

「ん。エマには連絡したか」

「はい。明日の夜8時には事務所にと。」

「喜んでいたか?」

「・・・・さあ、そのようなことは。」

「フッ・・喜ばないわけがあるまい。あいつの夢が戻ったんだ。」





「・・・・・いいところね、ローマって・・」

「ああ、いいところだ」

「来て良かった」

「ん・・・そろそろ戻る?」
そう言ってドンヒョクはバイクが置いてある方角を指差した。

「今度は何処へ?」

「内緒」
ドンヒョクはジニョンの手を取って、今歩いた道を引き返し始めた。
「え~」
ジニョンは彼に引かれるまま小走りに付いて行った。

そして駐車しておいたバイクに戻ると、ふたりはヘルメットをかぶり
揃ってバイクに跨った。

「ねー!何処に行くの?」 
ジニョンがドンヒョクの腰に腕を回しながら、またも尋ねた。

「僕達が2000年前に出逢った場所。」 

「え?」
ジニョンのその声は直ぐに風にかき消されてしまった。




しばらく走ってドンヒョクがエンジンの音を止め、辿り着いた場所は
パラティーノの丘と呼ばれる場所だった。
この場所からフォロロマーノやコロッセオを見渡すと、まるで古代ローマに
タイムスリップしたような錯覚に陥る。

「ここ写真で見たことがあるわ」 
ジニョンもまた、今まで写真で見たことがあるだけの遺跡を見渡すと、
瞬時に時空を超える感覚にとらわれ、感動の溜息を吐いた。「すごい・・・」

「ああ」 
ドンヒョクもまた、ここに立つ度に覚えてしまう感動を顔に描いていた。

「それで?」

「ん?」

「ここなの?・・私達が2000年前に出逢った場所って」

「ああ」

「その時代、あなたは皇帝だった?」
ジニョンはドンヒョクの浮世話に合わせるようにそう言った。

「ん。きっとそうだろうな」

「そして私は・・」
「そして君は・・・僕が飼っていたシャム猫」

「!・・・シャ・・ねこ!?」

「そ。これが気が強くて、言うこときかなくて大変だったんだ」
ドンヒョクは腕を組み、本当に困ったという顔をして見せた。

「フランク!」

「はは・・でも当たってる感じしない?」

「もう!・・・・・・でも、当たってるかも」
ジニョンはそう言いながら、壷に嵌ったかのように突然笑い出した。

「だろう?」 

「あなたはちゃんと可愛がってくれてた?」

「ん。いつも一緒に寝てたよ」

「お后様はいなかったの?」

「んー」

「いたの?」

「君が時々お后に化けてくれた」

「え?・・私って・・まさか化け猫?」

「ん。そのまさか・・」

「チィ・・」

ジニョンは舌打ちをしながらも、ドンヒョクの腕に自分の腕をからめた。
ドンヒョクは微笑みながら、ジニョンの腕を自分の腕から外して、
彼女の背中を自分の胸に包み込むように抱きしめた。

「僕達は、何処にいても・・・どの世界で生まれ変わったとしても・・・
 必ずそばにいた・・・僕はこうして君を抱きしめていた
 ・・・ここはね、そんなことを信じさせてくれる場所なんだ」

「ここが?」

「ああ・・・この丘に立つと・・不思議とそう信じられた
 だから・・・生きられた。」 それはドンヒョクの心の叫びだった。

「・・・・・・」

静かだった。
不思議と観光客の姿も無く、緩やかな風と、時空を超えた空気と・・・
そこに・・・ドンヒョクとジニョンだけだった。

「愛してる」 彼女を抱きしめた腕に力を込めて、彼は言った。

「・・・愛さないんじゃなかったの?」 
彼の胸に自分の背中を強く押し当て顎を上げ、彼を見上げて、
彼女は言った。

「愛してる。」 彼は彼女の肩に唇を落とし、愛しさを込めて言った。

そして・・・

ふたりを撫でる風までも、優しくささやいた


     ・・・愛してる・・・



















2011/03/23 23:07
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ラビリンス-2.もっと・・・

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「本当は君をここには連れて来たくなかった・・・
 それがどういう意味なのか、君はまだわかってはいない・・・
 しかし連れて来た以上、僕は君を守らなければならない。
 そのためには・・・奴らに決して弱みを見せない。つまり・・」

「つまり?」
「僕は君を・・・愛していない。」

ドンヒョクはジニョンへの愛が迸るほどの眼差しで彼女を見つめながら
冷たい声を装い言った。

「愛していない・・・」 ジニョンは無表情に彼の言葉をただ繰り返した。
「ああ。」 ドンヒョクは彼女の瞳から視線を逸らさなかった。

「・・・愛してるくせに。」 
ジニョンもまた彼から視線を逸らすことなく、そう言った。

「いいや。」 
ジニョンの瞳の中の自分にも、彼は言い聞かせるように言った。

「死ぬほど愛してるわ・・私を。」 ジニョンはきっぱりと言った。

「いいや。」 
ふたりは少しの間、睨みあったまま、互いの瞳の中の心を見つめた。

次第に・・・
互いの唇が、まるで吸い寄せられるようにわずかずつ近づいていった。
そして・・・
ドンヒョクはまずジニョンの唇を緩く、甘く、愛しさを込めて噛んだ。

「もっと・・・私を・・・噛んで・・」 
ジニョンが彼の耳たぶを唇で噛みながら吐息混じりに囁いた。
彼女は自分の口から出てしまった言葉に恥じらい、思わず俯いた。
ドンヒョクは薄く笑みを浮かべながら、彼女の俯いたままの顔を
自分の唇で押し上げると、彼女の唇を追い詰め、奪い、激しく飲み込んだ。
その瞬間ジニョンはドンヒョクの溢れる愛を、彼の荒々しい呼吸で聞いた。

 

 

「来ないだと?」

「はい。二・三日はローマで寛がれるとか」

「この私を無視するとは。・・・生意気な若造が!」 
ジュリアーノはデスクを拳で叩き怒りを露にした。

「申し訳ございません。
 我々が用意したホテルも拒否されてしまいました」 

「それで?。」

「あの方からご連絡下さるそうです」

「それでおめおめと引き下がって来たのか。」

「申し訳ございません」

「相変わらず忌々しい男だ。」 ジュリアーノは憎憎しげに言った。
「しかし今に思い知ることになるだろうさ。何の為に引きずり出されたのか。
 必ず私の前に跪かせてやる。息の根が止まる前に。
 せいぜい今の内、浮かれているがいい。」

「・・・・・・。」

「お前も・・わかっているな。」

「はい。承知しております。既に駒は進めておりますので、ご安心を。」

 

 

「あなたの胸に、こうして頬ずりするのが好きなの・・・」 
ジニョンが実際に彼の胸に頬ずりをしながらそう言った。
ドンヒョクは、こんな時少しだけ大胆になる彼女を愛でるのが好きだった。
彼は、自分の胸にしな垂れかかった彼女の髪を、無言のまま
大きな手で包み込むように、しなやかに、優しく撫でた。

彼女はその心地良さに沈みながら、いつの間にか眠りに落ちていった。
夢うつつに、ソウルを発ちアメリカに着いた日のことを思い起こしながら。

あの日ふたりの家に戻り、10年前そこで過ごした時を懐かしく振り返った。
そしてベッド上方に開けられた天窓を見つけた時、レイの仕業を笑った。
ドンヒョクも一緒になって笑ってくれた。

『こんな風に、この家であなたと笑い合えるなんて・・・
 あなたの腕に抱かれて、星空を仰げるなんて・・・
 ねぇ・・ドンヒョクssi』 

そう言いながら横を向くと、そこに彼はいなかった。

見上げるとその部屋には天窓も開いておらず、次第に薄暗くなっていた。
ドク・・ドク・・と異様な音が頭の中を駆け巡った。
それは激しく波打つ自分の鼓動の音だと直ぐにわかった。
辺りを見回すと、傍らでレイが悲しげにジニョンを見つめていた。
ジニョンは部屋中を走り回り、ドンヒョクの姿を探した。
しかしどのドアを開けても、そこは暗い闇でしかなかった。

≪ドンヒョクssi?・・ドンヒョク?・・フランク?・・どこにいるの?

 置いていかないで・・フランク!・・≫

≪フランク!≫ 
ジニョンが悪夢に魘されて目覚めると、隣には本当に彼の姿がなかった。

ジニョンは慌ててベッドを降り、寝室のドアを乱暴に開けた。
すると、目の前に彼が見え、彼女はその場に立ち尽くした。

彼はたった今シャワー室から出たばかりのようで、濡れた髪を
タオルで拭きながらこちらに向かっていた。

ジニョンはその時、目を大きく見開いたまま、呼吸するのを忘れていた。

ドンヒョクは目の前に顔面蒼白のジニョンを見つけると、
驚いて思わず立ち止まった。
「どうした?まだ早いよ」 彼は彼女に向かって微笑んで見せた。

「・・・・」

「ん?」 
ジニョンが急に自分に駆け寄り抱きついて来たことに、
ドンヒョクは更に驚いて、首を横に傾げ彼女の顔を覗いた。
「どうしたの?」

「いなくなったかと思った。」 
ジニョンは彼にしがみついたまま、不安な思いに体を震わせ、
瞳を揺らし、消え入りそうな声でそう言った。
そして逃すまいとするように、彼を抱きしめた腕に渾身の力を込めた。

「ねぇ」 
「え?」 ドンヒョクの呼びかけにジニョンが顔を上げると、
そこには悪戯な色を浮かべた彼の眼差しがあった。

「抱いて欲しいの?・・もう一回?」 

「・・・オモ!、そんなこと・・」

「あーそれならそうと、ちゃんと言ってくれれば・・
 いいよ・・何回でも」 
ドンヒョクはそう言ってジニョンをひょいと抱き上げた。

「そんなこと言ってない!」 ジニョンは彼の突然の行動に狼狽して、
彼の腕の中で手足をばたつかせた。

「いいからいいから・・遠慮しないで」 

「ドンヒョクssi・・・フランク!」

ジニョンはドンヒョクにベッドに放り投げられ、そのスプリングに合わせて
二度・三度と体を緩く弾ませた。
そして間を置かず、その上からドンヒョクの体を受け止める形で
思い切り彼に抱きすくめられてしまった。
「きゃあっ・・く・・くるしい!」

「言ってご覧?・・抱いてって。」 ドンヒョクは自分の体で彼女の体を、
両手で彼女の両手首をベッドに押し付けて言った。

「そ・・そんなこと・・思ってないわ・・くる・・しいったら、フランク!・・」

「これでも?」 ドンヒョクは更に強くジニョンを押しつぶし、
彼女の首筋に唇を押し当てた。

「フ・・フランク~」

「参った?」

「参った。」 ジニョンは急に可笑しくなって、こみ上げる笑いと、
彼の体重の重みに耐えるのに苦労した。

「よし。」 そう言って、ドンヒョクはやっとジニョンから体の重みを
除いてあげると彼女を熱く見つめた。
そして、彼女の顔を隠した乱れ髪を、指で梳くように戻し、
続けて言った。
「僕は・・・どんなことがあっても。・・・わかるね。」 真剣な眼差しだった。

「・・・ええ」

「もうあんな目をするんじゃないよ」 こよなく優しい声だった。

「ええ」

「いい子だ・・」 
ドンヒョクはジニョンの髪を梳きながら、彼女の額を顕わにして
その額に唇を押し当てた。
そして彼は彼女の横にごろりと仰向けになり、二人で天井を見上げた。

「今日一日はゆっくり観光しよう」

「いいの?」

「ああ・・式を挙げただけで、新婚旅行もできなかったからね
 このローマが新婚旅行ということで我慢して?」

「あなたといればどこでも新婚旅行だわ」
ジニョンがそう言うと、ドンヒョクは微笑みながらジニョンの額を、
軽く指で弾いた。

「今日は何して遊ぶ?」 
ジニョンは彼の胸の上で両方の頬に杖を宛がって言った。

久しぶりに聞くジニョンの「何して遊ぶ?」にドンヒョクは応えるように
「ローマの休日ごっこ。」 と悪戯っぽく答えた。

「ローマの休日ごっこ?・・ふふ楽しそう」 

「本当は二・三日ゆっくりするつもりだったけど、
 そうもいかないようなんだ」

「そうなの?」

「ああ、さっきスタッフに連絡したら、“休暇返上”を宣告された。」

「へぇ~・・こーんなに怖いフランク・シンにそんな命令する
 スタッフがいるのね」 ジニョンはドンヒョクの目尻を上に上げて言った。

「ああ、いるよ。彼女のスケジュールには従わざる得ない」

「彼女?・・女性なの?」

「優秀な秘書だ。・・明日紹介する」

「ふ~ん・・・それじゃあ明日は・・」

「フィレンツェ。まずは事務所に寄って・・それで君を・・」

「私のことなら心配要らないわ、ひとりでも・・」

「駄目。」

「えっ?」

「僕が仕事の時は、僕の部下が君に付き添う」

「え~、嫌だわ、知らない人と一緒なんて・・・」

「それが嫌なら今すぐソウルへ帰りなさい。」
ドンヒョクはジニョンの頬を両手でぎゅっと潰しながら、言った。
ジニョンは潰された頬のまま、ぷーと唇を尖らして見せた。

「かわいい。」
ドンヒョクはにっこり笑って、その尖った唇に自分の唇を強く押し当てた。

 

 

「彼・・・来たのね」 女が言った。

「はい。昨日ローマに到着なさいました。」 男が答えた。

「そう・・・それでいつ?」

「明日の夜には。お会いできるでしょう。」

「そう・・・明日・・・」

「もう少しのご辛抱です。」 

「ええ」

「長かったですね。」 男は女を労わるように言った。

「・・・・・・」 女は静かに受話器を置いて目を閉じ、呟いた。
「ええ。・・・死ぬほどに・・・」

 

 

「さあ、これを着て」
ジニョンはドンヒョクから差し出された服を、素直に身につけ始めた。

「これって・・・」
「ん?」

「ライダースーツみたい」
「みたいじゃなくて、そのもの」

「バイク?」
「ん」

「ドンヒョクssiって、バイク乗るの?」
「ああ、こっちでは車より楽なんだ」

「へぇ~」
「それに・・・見張りを巻きやすい」

「見張り?」
「ああ、僕はいつも見張られてるから」

「えっ?」

複雑なことや厄介なことでも、ドンヒョクが余りにさらりと言ってのけるので
ジニョンはそれがそんなに大変なことのようには思えなくなることが
可笑しくてならなかった。

「冗談だよ・・風を切って走るのが好きなんだ」

「私も」 ジニョンも嬉々と答えた。

「バイク?」 本当?というようにドンヒョクは言った。

「自転車」 

「はは」

「あら、同じよ~」

「同じ?」 
ドンヒョクはジニョンの肩を抱いて、彼女の顔を覗き込むように言った。
ジニョンは声を出さず「んっ」という顔を見せた。

 

ジニョンはドンヒョクに手を引かれたまま、エレベーターを降りたが、
彼はフロントロビーには向かわなかった。

「何処に行くの?もっとロビーやホテルの中を見学したいわ」
昨日眺めたあの感動はきっと何度見ても味わえると、
ジニョンは思っていた。

「そんなのいつでもできるよ」

「だって、明日からはフィレンツェに行くって・・」

「また来ればいいさ」

「だって、ここ高いわよ、きっと。
 そんなに何度も来るのはもったいないわ」

「そう?」

「もう!あなたって本当に金銭感覚ないんだから。
 これからは私の言うこともちゃんと聞いてねって言ったでしょ?
 正しい金銭感覚を身につけないと」

「正しい金銭感覚?」

「そう。」

「ははは・・ご教授いただきましょう」

ジニョンがドンヒョクに向かって説教めいたことを講じている内に、
ふたりはいつの間にかバックヤードに入っていた。

「ドンヒョクssi?こんなところ、入っても大丈夫なの?
 ここ、バックヤードじゃない?」

よく見慣れた風景がそこにあった。
様々な制服のスタッフが行き交う靴の音、時間に追われた怒号が飛び交い、
食事を運ぶ台車の音や厨房の忙しないざわめきが充満する
戦場のような場所だ。

ところが彼は慣れたように悠然と、バックヤードの通路を歩いた。
注意を受けるどころか、すれ違う人が例外なく、ふたりに向かって
丁寧に頭を下げていることに、ジニョンは首を傾げた。

「・・・・ドンヒョクssi?」

長い通路を抜けると従業員通用口があり、ドンヒョクはそのドアを開けた。
出口を出ると直ぐ目の前のシャッターの前に彼は立った。
そして彼がそれを開けると、中には一台の大きな二輪車があった。

「使ってもいいの?勝手に・・」
ドンヒョクはジニョンの問いかけに対して、無言で微笑むだけで、
ハンドルに掛けられたヘルメットのひとつを手にして彼女にそれをかぶせた。
そしてもうひとつを自分がかぶり、颯爽とそれに跨った。
「乗って。」

「あ・・あのドンヒョクssi・・このホテル・・」
「早く」

「あ・・はい」
ジニョンは急かされるまま、彼の後ろのシートに跨った。

「掴まって。」
「は・・い・・・それより、ねぇ、このホテルって・・」

ドンヒョクはエンジンを掛けた。
そして、バイクは爆音と共に、その場から猛スピードで滑り出した。
「きゃあー!」 ジニョンは余りの勢いに圧倒されて、思わず悲鳴を上げた。

バイクはスペイン広場のさほど広く無い裏通りをひた走り、通りを抜けた。

「どうー?! 同じー?!」 ドンヒョクが声を張って言った。

「えー?」 ジニョンは聞き返した。

「自転車の風とー」

「ふふ・・違ったー!」

「そうだろ~!」

「気持ちいいー!」

「・・・・・・君のだよ」 

風を切って走るバイクのエンジン音が邪魔をして、ジニョンには
ドンヒョクの声がよく聞こえなかった。

「えっー?」

「君の!」

「何がー?」 ジニョンは更に声を張り上げた。
その後に、ドンヒョクの声が風に乗って、ジニョンの耳に小さく届いた。

 

    ・・・「君のホテル」・・・














2011/03/22 23:15
テーマ:ラビリンス-過去への旅- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

ラビリンス-1.愛さない

Photo

東日本・関東大地震で被災された皆様に
        心よりお見舞い申し上げます

            






                         1. 愛さない
 




「お待ち申しておりました、Mr.フランク」

ドンヒョクとジニョンがイタリアローマ、フィウミチーノ空港に到着すると、
今回のクライアントであるビアンコ・ジュリアーノの部下と名乗る数名の男達が、
到着ロビーで二人を待ち構えていた。
ジニョンは出迎えがあると聞かされていなかったが、ドンヒョクは
すべてを承知していたようだった。

男達はドンヒョクに向かって深々と恭しく頭を下げた。
しかし、ドンヒョクは、彼らに向かって無言で頷いただけだった。
前方では既に二人がこの地に持ち込んだ荷物が、彼らによって
台車に乗せられ二人の先を進んでいた。

「奥様でらっしゃいますね、お荷物を・・」
そう言って、一人の男がジニョンの手荷物に手を差し伸べた。
「あ・・いえ、これは大丈夫です・・」 
しかし男はジニョンの遠慮を無視して、彼女の荷物を取り上げた。
ジニョンは苦笑いを浮かべながら、ドンヒョクの方を見たが、
その時彼は、もう一人の男に自分の手荷物を、まるでそれが
当然であるかのように手渡していたところだった。

「何?」 
ジニョンの視線に気がついたドンヒョクがジニョンに振り返って聞いた。

「あ・・いえ、何でもないわ」
ジニョンのもの言いたげな様子にドンヒョクは怪訝な表情を浮かべたが、
彼女は彼から視線を逸らし、案内の男に促されるまま歩き出した。
ドンヒョクは首を傾げながら彼女の背中に苦笑いを向け、その後に続いた。


ジニョンがドンヒョクを背中で意識しながら、出口に向かって歩いていると、
出迎えの男達の中でも格上らしい男とドンヒョクとの会話が聞こえて来た。

「フランク様、本日はローマのホテルにご滞在と伺っております
 明日の朝は、我々と共にミラノへ・・
 会長がお待ちでございますので・・」

「いや・・二・三日はローマに滞在する」
男の言葉を遮って、ドンヒョクはそう言った。

「しかし・・予定が」

「・・予定?」 フランクはぎろりと男を睨みつけた。

「あ・・いえ」 
男は彼の威嚇とも取れる眼光に押されたかのように視線を落とした。

「自分のスケジュールは自分で決める。
 私に合わせられなければそれで結構。そう会長に伝えろ。」

そう言ったドンヒョクの声があまりに冷たく、耳にしたジニョンの胸さえ
締め付けるようだった。

「・・・かしこまりました」 男はそう答えた。




広い空港ロビーを抜け表に出ると、そこには縦幅が異常な程長い
黒塗りの車が横付けされており、その扉の前で待機していた男が、
一行を見つけると直ぐにその扉を開け、深く頭を下げた。

ドンヒョクは瞬きだけで男に応えると、開かれたドアから車に乗り込んだ。

「まるで・・国賓級・・・」 ジニョンは小声で呟いた。

ジニョンは驚いた。
いつものドンヒョクなら、必ずジニョンを優先してエスコートに徹しているからだ。
しかも見知らぬ地で、見知らぬ男達に囲まれているこの状況で、
ひとり外に取り残されたことに、時間が経つにつれ腹が立ってきた。
先に車に乗り込んだドンヒョクはこちらを見ようともしていない。
すると、隣にいた男がジニョンを反対側のドアへと、エスコートした。

ジニョンはドンヒョクの横に腰掛けると、すかさず彼を睨みつけた。
「何か?」 ドンヒョクが前方を向いたまま冷静に聞いた。
「・・・いいえ、何も。」

「そう。」 
ドンヒョクは前を向いたままふたりの会話を繋げなかった。

二人を乗せた車は音も無く動き出し、空港を後にした。
ジニョンはドンヒョクの沈黙を気に留めながらも、車窓を流れ行く
外の景色を目で追っていた。
初めて訪れたローマの情緒ある風景が愁いを帯びて見えた。

「何か言いたいことがあるのか?」 ふいにドンヒョクが口を開いた。
ドンヒョクのその言い方にはいつもの彼の優しさが感じられなかった。

≪ええ!言いたことは沢山!≫「・・ここでは・・言えないわ」
ジニョンはそう言いながら、運転席の方へちらりと視線を送った。

「あぁ~」 ドンヒョクは“わかった”と言うように相槌を打ち、
座席横のひとつのボタンを押して、運転席と自分達の座席を遮断した。
「完全に防音されてる、言いたいことがあったらどうぞ」

「向こうには何も聞こえないの?」 
ジニョンは運転席の方を指差しながら小声で言った。
「試しに、・・・してみる?」
「してみる?って・・・」

ドンヒョクはジニョンの言葉を遮るように、突然彼女にくちづけすると、
わざと彼女の胸を服の上から鷲掴みにしてみせた。
そしてその手を彼女の体に這わせ降りたかと思うと、瞬時に
スカートの裾から手を忍ばせた。
彼の突然の素早い行動に、一瞬あっけにとられていたジニョンが、
慌てて彼の手を払い除けた。
「フランク!何するの!」 ジニョンは声を張り上げて言った。

「何って・・言わないとわからない?」 ドンヒョクは彼女の耳元でそう囁いた。
その言い方はいつもの、少しだけ意地悪な、それでいて優しい
ドンヒョクのそれだった。

その時だった。「如何なさいましたか?」 運転席の方からの声だった。
「大丈夫だ・・気にするな。」
ドンヒョクは低い声でその声に向かって応えた。

「・・・だましたのね。」 
ジニョンが小声で言いながらドンヒョクを睨むと、彼はお腹を抱える仕草で
声を殺して笑っていた。

「君の声が大き過ぎたんだよ。防音装置の効き目が無いほどにね」
ドンヒョクは相変わらずジニョンの耳元で小さく囁いた。
「・・・・・・」

「僕達に危険が及ばない限り、彼らには目も耳も無い。
 だから、ここは防音されているのも同じ。」
今度は普通の声で、運転席にも聞こえるように彼はそう言った。

「それって・・」

「ん?」

「何だか横暴」
「横暴?」

「ええ、あなたって・・こんな人だったの?」
「こんな人って?」

「何だか・・・」
「何だか・・何?」

「上手く言えないけど・・人を軽んじてる。」
「人を?」

「これがあなたにとって普通のこと?」

ドンヒョクはジニョンが先ほどから自分に対して、何を言いたいのか、
よくわかっていた。

「彼らに対する僕の言動を言ってるのかな?
 だとしたら・・Yes。」

「・・・・・・」
「不満?」

「好きじゃないわ」
「なら、慣れることだ。」

ドンヒョクはそう言って目を閉じ、その後はホテルに到着するまで、
ジニョンと一言も口を利かなかった。
ジニョンはそんなドンヒョクをただ睨みつけていた。
「私は・・慣れないわ。」
彼女のその呟きにも、彼は応えなかった。




ホテルはローマの中心地、スペイン広場近くにあった。
有名な映画にも頻繁に登場しているというそのホテルの概観、
内装共に申し分の無いものだった。
エントランスを入った瞬間に、まるで宮殿にでも足を踏み入れたような
錯覚を思わせる贅沢なロビーが広がり、ジニョンは目を見張った。

「すごい」 その言葉しか出なかった。
彼女が興奮さながらに、ロビー・フロントを見渡している間に、
ドンヒョクはフロントに向かい、チェックインを済ませていた。

「んっん・・」 ドンヒョクの咳払いにジニョンはやっと我に返った。
「口をポカンと開けるな。」 ドンヒョクが笑いを堪えて言った。

「オモ!・・そんなはず・・」 
そう言いながら、ジニョンは開いた口を手で押さえた。
ドンヒョクは苦笑しながら、ジニョンに手招きした。

「あの人達は?」

「帰したよ・・“奥様が君達を気に入らないようだから”って」

「・・そんなことを?私、そんなこと一言も。」 

「いいから、おいで」
ジニョンの興奮した様子を少なからず面白がっているようなドンヒョクが、
彼女の肩を抱いてエレベーターホールへと向かった。

「ま・・エレベーターも素敵」
怒っていたはずのジニョンが、またきょろきょろと周りを見回した。
「あ・・ドンヒョクssi、私がいつあの人達を追い返すようなことを言ったの?」

「いいじゃない、やっと二人きりになれたんだから」
エレベーターに乗り込むとそう言って、ドンヒョクはジニョンの頬に
急いでキスをした。
すると、その瞬間だけジニョンの顔が緩んで、また直ぐに“まだ怒ってる”と
言わんばかりに頬を膨らませた。

「忙しい人だね、君は」 
ドンヒョクはジニョンのまるで百面相に対して笑って言った。 

「あのね。」
「ほら・・着いたよ」
「!・・・・あら・・この廊下の絨毯、歩き心地がいいわ」

エレベーターから出ると、廊下に敷き詰められた重厚な絨毯が
弾力があるにも係わらずヒールを取られることもなく、歩き易かったことに、
ジニョンはひどく感動して、足踏みを繰り返した。

「流石デラックスさで売っているホテルだけあるわね。
 建物の造りもだけど、ひとつひとつの調度品も見事だわ」
廊下の要所要所に飾られた調度品を眺めて歩きながら彼女は感嘆した。

「豪華さだけじゃないよ、ここは、サービスも群を抜いている」
そう言ったドンヒョクに、ジニョンはフンとあごを上げて見せた。
「そう?・・ソウルホテルなら、客室までお客様を丁寧にご案内するわよ」

「必要ないと言ったからだ」 ドンヒョクは弁明するように言った。

「そう。」 しかしジニョンは、納得できない、と思っていた。




部屋に入った後もジニョンはあっけに取られた様子で辺りを見回した。
広いリビングスペースは壁面に最新式と思われる特大のスクリーンと
反対側に掛けられたラファエロの特大の絵画が特徴的だった。
家具はすべてアンティーク調で揃えられ、新旧のコントラストを
鈍いクリーム色の壁面が調和させ、落ち着きをもたらしていた。
マスターベッドルームはキングサイズのベッドが贅沢を主張していた。
他にもツインベッドルームが二つと大理石造りのジャグジィバス
サウナルームにトレーニングルーム、ゴールドをあしらったレストルーム
そしてすべての調度品が間違いなく最高級品に違いなかった。
ジニョンはそのすべての部屋を嬉々としながら見て回った。
豪華過ぎるきらいはあるが、色調や家具のイメージはジニョンの好みだった。

「ねぇ、ドンヒョクssi、この部屋・・高そう・・いくらなの?」

「さあ、いくらだろう」

「きっと1000ユウロは下らないわね」

≪その10倍はするだろうね≫
とドンヒョクは心の中で思ったが口に出さなかった。
「イタリアに入ったら、一番最初にここに君を連れて来たかったんだ」

「ドンヒョクssiが選んでたの?
 てっきり、あの人たちが用意していたのかと」

「君と過ごす場所は必ず僕が決める、今も。これからも・・・。
 誰かが用意したところには泊まらない。それがここでの鉄則だ。」
 
「え?」

「この地に仕事で入ったら・・油断はしない。決して」
ドンヒョクは真剣な表情をジニョンに向けてそう言った。

「僕のここでの地位・・国賓級?と言ったね、さっき」

「あ・・ええ」

「それ以上の扱いを受けてるよ、表面上は。」

「表面上?」

「ああ・・しかしそれを覆されるのも簡単だ。
 僕は10年の月日を掛けて、この国のビジネス業界での地位を確立した。
 今、僕に舞い込む仕事はソウルホテルの総資産以上の利益を生む。
 そう言えば、数字が読めるかい?」

「総資産?・・知らないわ」
「・・・・・・・・・ははは」
ドンヒョクはジニョンのその言葉に、しばし絶句した後、急に笑い出した。
「笑い過ぎ。」

「ごめん・・・君それでよくソウルホテルの支配人やっていたね」

「だって」

「いや・・君らしい」

「馬鹿にしてる?」

「そうじゃないよ、馬鹿になんかしてない
 君にとって、ホテルは“如何にお客様に気持ちよく過ごしていただけるか”
 それがすべてなんだ」

「・・・・・・」

「君は根っからのホテリアー」 
ドンヒョクはそう言いながら、ジニョンを優しく見つめた。

「褒められてる?」

ドンヒョクは無言で“うんうん”と頷いて見せた。

「ジニョン?」 ドンヒョクはベッドに腰掛けながら彼女を呼んだ。

「え?」

「おいで」 ドンヒョクはジニョンの手を取って、自分の横に腰掛けさせると
彼女の両手を自分の手でそっと包み込んで、彼女を見つめた。

「いいかい?本当は君をまだ・・このイタリアには連れて来たくなかった・・・
 せめて今回の仕事が片付くまでは・・・
 そのことは言ったね」

「ええ」

「それがどういう意味なのか、君はまだわかってはいない」

「・・・・・・」

「しかし連れて来た以上、僕は君を守らなければならない。
 そのためには・・」

「ドンヒョクssi?」

「そのためには・・・彼らに決して弱みを見せない。つまり・・」

「つまり?」

「僕は君を・・・」

「・・・・・」


・・・「愛していない。」・・・




















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