2011/06/13 08:53
テーマ:ラビリンス-過去への旅- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

ラビリンス-13.偽りの商談

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レイモンドは早速動き出した。
まず彼はソウルのジョルジュに電話を掛けた。

「・・・レイ・・一大事ですか?」
ジョルジュは眠い目をこすりながら、ベッドサイドに手を伸ばした。
そして定位置に置いた腕時計に辿り着くと、迷惑そうに片目を開けた。
「・・・まだ夢の中だと言ってください」

「残念ながら夢じゃない。明日の訪韓は延期だ」

「ええ・・明日の・・・!・・なんですって?」
瞬間的に夢から覚めたジョルジュが、ブランケットを跳ね除け、起き上がった。

「後は頼む。お前を代理人に立てる書類は作成済みだ。
 必要な内容もすべてメールしておいた。じゃ・・」

「じゃ・・って・・ちょっ・・レ・・レイ!」
レイモンドはジョルジュの寝花を襲い、小言を言われる前に電話を切った。
そして彼は子供が悪事を企むようにほくそ笑み、呟いた。「これでOK。」


ソウルホテルに関することはすべてジョルジュに引継いだ。
アメリカの仕事はモーガンとソニーにすべてを委ねる予定だ。
それが済んだら・・・
とにかく自らのイタリア行のために、取引案件を捻り出さなければならない。


イタリアの有力者ビアンコ・ジュリアーノに取引を突然持ちかけることは
容易なことではなかったが、モーガンの伝で潜り込むことに成功した。
無論、ジュリアーノ側が喉から手が出るほどの宝をぶら下げて。

「若、ご一緒に。」 
案の定、イタリア行きを心配したソニーが留守番を拒絶しようとしたが、
レイモンドはそれを許さなかった。

「ひとりの方がいい。奴らを刺激したくない」
彼は敵の前で、決して賢く無い、柔な実業家であらなければならないと考えた。

しかし大事なことは、イタリアで動くに当たり、フランク・シンとの関係が
親密であることを彼らに知られるわけにはいかないことだった。
皮肉なことに長年アメリカのマフィア界で名を馳せていたパーキン家の知名度と
フランク・シンという男が一匹狼を信念としており、レイモンドを含め
他の企業に席を置くことが皆無だったことは好材料だった。

ともあれ、レイモンドはジニョンと話した翌日の夜にはイタリアへ渡り、
その翌朝にはジュリアーノ会長との会談に成功した。



「あなたがアーノルド・パーキン氏のご子息でしたか」
その男は、実に好意的に彼に握手を求めた。

≪ビアンコ・ジュリアーノ・・・何とも胡散臭い男だ≫
「父をご存知で?」
レイモンドは胸の内とは裏腹に、彼と同じように好意を示した。

「無論です。父上とお目に掛かったのは20年程前にもなりますかな。
 仕事を通じて懇意にさせていただきました。」

「仕事を通じて・・・」≪はっ・・どんな仕事なのやら≫

「しかし、こんなりっぱなご子息がいらっしゃったのに
 事業の一切を整理なさるとは、驚きました」
ジュリアーノはそう言いながら、レイモンドに着席を勧めた。

レイモンドは彼が何を言わんとしているかは承知していた。
マフィア界で、その世界から足を洗うことが如何に蔑まれているか。さぞかし、
パーキン一族の愚行はこの世界で大きな笑いものとなっているのだろう。

「この度は、突然の申し出にご快諾いただき、感謝します」
しかしレイモンドは、ジュリアーノの胸の内を読んだ上で、堂々と胸を張った。

「古き友人からのたっての推薦がありましてな。しかし・・・
 申し上げておきますが、商売に伝が通用するのはここまでです
 交渉ごとはすべて私の代理人が引き受けておりますので、
 悪く思わんでください。」

ジュリアーノが高価な人参をぶら下げたレイモンドを歓迎しないはずはなかったが
彼はそのことをおくびにも出さなかった。

「はい、承知しております。
 それで、その代理人にはいつお目にかかれますでしょう」

「今夜にでも引き合わせましょう」

「よろしくお願いします。」

「最初にご忠告申し上げておきますが、私の代理人は手ごわいですぞ。」 
ジュリアーノは殊の外にこやかな笑顔を作って言った。

「お手柔らかに、とお伝えください」 レイモンドもまた笑顔を返した。

「ところで、こちらへはおひとりで?」

「ええ。実は今回、旅先から直接こちらへ伺ったもので
 部下の入国が遅れております。できれば会長の方で
 どなたかこの地をご案内願える方をご紹介いただけると助かります」

「ええ、それはお安い御用です。」 
ジュリアーノは奥で待機していた男に手を挙げ合図を送った。
「この者は英語も堪能ですので、何かと役に・・」

「あー・・申し訳ないが・・・」 レイモンドは彼の言葉を遮った。
「せっかくのイタリアですので観光も兼ねてみたいかと思っております。
 失礼だが・・時を共に過ごすのはやはり無粋な輩より、
 麗しい女性に限ります。」
レイモンドは敢えて男の下心を顔に表してそう言った。

「はは・・それは確かに。しかし弱りましたな・・・私のところは 
 主に男所帯でして・・・無論、観光案内のお供はお好みの女性を・・」
ジュリアーノの言葉の途中で、レイモンドは彼の後ろに控えていた
ひとりの女に視線を向けた。

「ああ、彼女は残念ながら・・・」 
ジュリアーノがレイモンドの視線の先に気がつき、言いかけたが
レイモンドはそれを無視して立ち上がり、その女に近づいたかと思うと、
突然彼女の顎をくいと持ち上げ言った。
「彼女をお借りしたい。」

「あの・・レ・・」
シィー・・
その女性が言いかけた時、レイモンドは歯と歯の間から微かに音を出して、
彼女の言葉を制した。

「それは困りましたな・・」
ジュリアーノが言葉を濁すと、レイモンドは冷たい眼差しで彼を横目に睨んだ。
「まあ、いいでしょう。二日だけでしたら。・・・Ms.グレイス・・
 パーキン氏に失礼の無いように。」 ジュリアーノはそう言った。

正直、彼はフランクを思いのままに操るためにもミンア・グレイスは
まだ手元に置いておきたかった。
本当に手元に置きたいものが手に入るまでは。

しかし彼は、表向き自分が優勢に立ったとはいえ、レイモンドの機嫌を
損ねてしまうことは得策ではないと考えた。
「彼もお供させます。それから車を一台手配致しましょう」 
ジュリアーノはそう言って先ほど紹介した男を示した。

「恐れ入ります。」 レイモンドは淡白に礼を言った。




エマが交渉を固めた企業に向け、作成した契約書を持って
ドンヒョクを訪ねて来た。
「今・・トマゾから連絡が・・会長からの伝言だそうよ。」 
エマはデスクチェアーに座ったドンヒョクに書類を差し出して言った。

「ん・・」 ドンヒョクはそれを受け取り、早速目を通しながら聞いていた。

「アメリカの或る企業の代表と会って欲しいそうよ。」 エマはそう言いながら
備え付けのコーヒーメーカーから、コーヒーをカップに二つ注いだ。

「別件で?まだこっちが片付いてないぞ」 

「ええ。そう言ったわ。でもごり押しされた。」 
エマはドンヒョクにカップのひとつを渡し、話を続けた。
「昨日突然入って来た商談らしいわ。
 でも会長側にとって、かなりいい条件の案件らしいの。
 会長は美味しい飴だと喜んでるようよ。
 でもできるだけもったいつけて、更にいい条件で取引するように。
 それが彼の伝言よ」

ドンヒョクはそれを聞いて顔を上げ、鼻で笑った。
ジュリアーノの仕事を片付ける度に、悪に加担しているような気分になる、
ドンヒョクは胸の中でそう思った。
「お好きにどうぞ。それでいつ?」

「今夜」

「随分急だな。ミンアとのミーティングは外せないぞ」

「そのミンアが彼の付き添いで案内してくるそうよ」

「ミンアが?」






レイモンドはミンアと共に、ジュリアーノが用意したホテルへと向かった。
見張り役と思われる男と同行している間、ふたりは口を利かなかった。

ホテルに到着し、男がチェックインの手続きを済ませて言った。
「Mr.パーキン・・・最上階のスィートをご用意致しました。
 我々は別室にて待機させていただきます
 一時間後、代理人が到着次第、ご連絡をさせていただきますので
 しばらくお部屋でお寛ぎください・・」
男はそう言って、レイモンドにカードキィを手渡した。

「いや、・・彼女は随時私と行動を共にしてもらう。
 部屋は一緒で構わない。しかし悪いが・・・」 レイモンドはそう言いながら、
フロントにカードキィを戻し、部屋を変えるよう指示した。

「お気に召しませんでしたか?」 男が言った。

「狭い部屋が好みなものでね」 そう言ってレイモンドは片方の口角を上げた。
「さて・・一時間。・・ふたりで過ごすには充分な時間だな」 そしてレイモンドは
ミンアの手の甲にキスを落として言った。

「Mr.パーキン、困ります。彼女はそのような・・」 男が言った。

「私は困らない。」 そう言ってレイモンドがミンアを見つめた。

「ご一緒に参ります」 ミンアは答えて言った。
「・・・とうことだ。」 レイモンドは男に対して顎を上げ口元で笑った。

レイモンドはミンアの腰に手を回し、彼女の体を必要以上に引き寄せて、
ベルボーイが彼らの前を歩き案内する後に続いた。

レイモンドはエレベーターに乗り込んだ後も、ミンアに回した手を離さず
時に彼女の髪にキスを落としたり、その頬に指を這わせたりしていた。
ミンアは困惑しながらも彼の成すがままに寄り添った。

部屋に入り、ベルボーイが丁寧な説明を始めたが、レイモンドは
高額なチップを彼に差し出し睨みを利かせると、手の甲をドアに向って振った。
ベルボーイは彼に頭を下げると、できうる限り俊足にドアから出ていった。

ドアが閉じられると同時にレイモンドはミンアから腕を離すと、
椅子にどかっと腰掛ながら言った。

「ここはいったいどこまで奴の目が光ってる?
 ・・ベルボーイすら堅気じゃないぞ。」

ミンアは≪そうなのか≫と笑いを堪えた。

「それより、どういうことなんだ?Ms.グレイス」
「Mr.レイモンド・・・驚きました」 ミンアもホッとしながら同時に言った。

「驚いたのはこっちだ。どうして君があんな場所に?
 フランクと一緒じゃなかったのか」

「ボスはジュリアーノ勢の弁護士を同伴しています。
 私はいわゆる人質なんでしょう。会長が考えそうなことです」

「そんなことを言ってるんじゃない。フランクはどうしてこんなことを許してる?」

「私がそうしたいと申しました。」 

「君が?」

「はい。その方が・・」
「君は馬鹿か。」 
レイモンドは思わず立ち上がり、呆れ顔でミンアの言葉を遮った。

「ば・・!・・どういう意味でしょう」

「馬鹿だから馬鹿と言ったまでだ。」

「!・・・・・・」 

「君も。
 あいつらが今までやって来たことを知らないわけじゃあるまい?
 しかも。これからフランクがやろうとしていることも!
 もしもフランクが何らかのミスを犯したら、奴らが君をどうするか
 予測できないわけじゃないだろ!」 レイモンドは珍しく怒りを露にした。

「ボスはミスなど犯しません。」 ミンアは胸を張って返した。

「フランクとて完璧じゃない。」 レイモンドは更にミンアを睨みつけた。

「それでも。ミスはしません。」 ミンアもまたレイモンドを睨んだ。

「ハッ!・・あいつの周りにいる女はどうしてこうなんだ?
 どいつもこいつも・・恐れを知らない、馬鹿ばかりだ」

「ミスター!先ほどから馬鹿・・馬鹿・・と失言ではありませんか?・・・・
 そんな風にあなたに言われる筋合いは・・・あ・・・」
ミンアが突然、何かを察したように目を見開いた。
「あの・・・どいつもこいつもって?・・
 いったい誰のことをおっしゃってるんです?・・


       ・・・まさか・・」・・・






 













 


2011/06/05 19:52
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ラビリンス-12.警告

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ジニョンはコーヒーを片手に、カーテンを開けた。

窓の向こうは、狭い道路を挟んで建つビルの壁面が視界を阻んでいる。
しかしイタリアの街というのは、それだけでも風情を醸し出すものだと、
彼女は微笑んだ。

彼女は昨夜のドンヒョクからの電話に、充分に応じられなかったことを
少し悔いていた。

『逢えなくて寂しいって・・言わないの?』

≪・・・わかってるじゃない・・・バカ・・・≫

今この時も、2ブロック先のホテルにはドンヒョクがいる。

≪今すぐに・・・私がドアをノックしたら・・・どんな顔をする?ドンヒョクssi≫


「お早いですね」
ジニョンが振り向くとスポーツウエア姿のルカが立っていた。

「ルカ・・何処に行ったかと・・・・ジョギング?」 
ジニョンが30分ほど前に目覚めた時には、隣のベッドに
ルカの姿は無かった。

「ええ・・いいお天気ですよ、気持ちいいです、とても」
ルカは肩に掛けたタオルで額の汗を拭きながら、そう言った。

「旅先でも運動を?」 

「ええ・・いつものスタイルですから・・私の」

「スタイル?」

「ええ・・・どうかなさいました?」

「ふふ、ちょっとね・・あなたと同じこと言った人のこと思い出したの・・・
 ・・・シャワー浴びてらっしゃいな」

「ええ、そうします」

「その後に食事に出ましょう?」

「ホテルを出たところに、素敵なcafeがありました」

「じゃあ、そこで。急ぎなさい、ジョアンは時間に正確よ」

「はい」




その日から、ジニョンとジョアンはルカの案内の元、ミラノでの活動を始めた。

まずは彼のクライアントであるジュリアーノ会長の周辺を探ったが
予測していたこととはいえ、会長サイドの包囲網の硬さは並大抵ではなく、
重要な手掛かりを掴むことなど、容易ではなかった。

「まだ始まったばかりだわ」 
ジョアンの不安げな表情を見て、ジニョンは慰めるように微笑んだ。

「ええ、そうですね」 ジョアンもまた笑顔で返した。

しかし二日目になっても、大きな進展が見られないばかりか、
ドンヒョクとミンアからの連絡さえも無く、ジョアンの不安は募るばかりだった。





一方ドンヒョクの交渉相手であるサイモンは、ドンヒョクが提示した条件に
なかなか首を縦に振らず、交渉は思ったよりも難航していた。
しかし、当のドンヒョクは一向に焦りを見せていなかった。

「会長が催促して来たわ」 エマが言った。

「・・・それで?」 ドンヒョクは平然と口角を上げた。

「あなたと話したがってる・・」

「交渉が終るまでは会わない。任せるはずじゃないのか」

「彼が納得しないわ」

「納得させるのが君の仕事だろ?」 
ドンヒョクはそう言いながら、彼女を睨み上げた。

「・・・承知致しました、ボス」 

「・・・・・・」 ドンヒョクはエマが自分をボスと呼んだことに眉を潜めたが
何も言わず机上の書類へ視線を移した。

エマは一昨日、彼の胸に飛び込んでしまったことを後悔していた。
今はまだその時ではなかった。
こうして彼と共に引き受けている案件の解決に、重きを置かなければ・・・
今はそれを優先させるべきなのだ。

彼の信頼と・・・愛を取り戻すために。そして・・・
命にも等しい彼を守るためにも。

彼に話すべきことは、今しばらく胸にしまおう、エマはそう思った。

しかし、こうして彼を前にする度、胸のざわめきが彼女を攻め立てた。
彼を「ボス」と呼んだのは、そんな自分の激し過ぎる想いへの戒めだった。

「用はそれだけか」 
ドンヒョクは持っていたペンを書類の上に放り投げ、エマに視線を合わせた。

「ええ」 

「他に言いたいことは?」 ドンヒョクは彼女を見据えたまま冷たく言った。

「無いわ。」 エマは淡々と答え、いつの時もすべてを見透かそうとする
彼の視線から逃れるように踵を返した。






そんな折、ジョアンはドンヒョクが交渉を担っているアメリカ企業の
重要な情報を掴むことにやっと成功した。

ジョアンが根気良く、彼らの尾行を続けていた賜物だったが、
ジニョンは、時折彼が自分をホテルに残して出歩くことに
少なからず不満を抱いていた。
しかし、ジョアンにとって自分が大きなお荷物であることを、
彼女は自覚もしていた。
それだけに、その悪条件の中の彼の功績は素直に喜ぶべきだと思った。


ジョアンの調べはこうだった。
アメリカの企業主は、フランク・シンが韓国でホテルを手に入れた経緯を
探っているというものだった。
フランク・シンは自分の利益の為にクライアントを裏切り、大きな損失を与えた。
その事実を突き止める為、念入りに調査しているらしいとのことだった。
その為に今商談を滞らせ、時間稼ぎをしていると。

言うまでも無くそれはソウルホテルのことだった。

「それって、重大なこと?」 ジニョンがジョアンに不安げに聞いた。

「ええ、この手の交渉ごとは優位に立つ方が勝ちですから」 ジョアンが神妙に答えた。

「そう・・」

「しかし・・どうしたものか」 ジョアンは頭を抱えた。

その時突然ルカが言った。
「ボスが韓国で手に入れたホテルって、ソウルホテルのことですか?」 

「・・・どうして?・・それを?」 
ジニョンが驚いて言うと、ジョアンもまた驚きの表情でルカを見た。

「実は・・色々調べてみたんです」

「うちの会社のことを?」

「ええ、会社がどんな仕事をしているのか・・気になるのは当然でしょ?・・・
 ボスは今までに・・いくつものホテルや企業のM&Aに
 係わってらしたんですよね。成功率はかなり高いと評価されてました。
 つまり、奪うと決めたものはかなりの確立で奪ってきた。
 そういうことですよね。
 しかも依頼された仕事は選びに選び抜いて、気が向かない仕事は
 決して引き受けたりはしなかった。
 その代わり、引き受けた以上、どんな手を使ってでも成し遂げる。
 フランク・シンという人は・・ボスはそういう方でしょ?」

ジニョンとジョアンはルカの言葉に目を見張っていた。

「それなのに・・・
 ソウルホテルの一件ではボスはかなりの損失をなさっています。
 自分の財産を注ぎ込んでまで。
 ボスはどうしてそんなに、そのホテルを手に入れたかったんでしょう」

「驚いたわ」 ジニョンは目を見開き、ルカを見つめた。

「えっ?」

「あなたの口からそんな言葉が出るなんて・・・」

「そうですか?」 

「・・・・・・」

「そんなにしてまでそのホテルを奪った理由が気になったんです」

「奪った理由?・・・奪ったりしてないわ。・・・・救ったのよ」 
ジニョンはルカに対して、少し興奮したように語気を強めた。

「救った?」

「ええ、彼は・・いえ、ボスは・・ホテルで働くすべての人の為に
 あのホテルを救ったの。」

「働くすべての人の為に・・・」 ルカはジニョンの言葉を繰り返した。

「そうよ。」

「ボスって・・慈善事業家なんですか?」 ルカの言い方は皮肉に聞こえた。

「慈善・・事業?」 
ジニョンには更に胸の中に怒りに似たものが湧き上がっていた。

「ええ。だって・・誰が好き好んで自分の財産を投じたりするんです?」
この時のルカの言い方はまるでジニョンの怒りを煽っているようだったが、
ジニョン自身にはそれとはわからなかった。

「・・・・愛する人のためさ。」 ジョアンが言った。
「ボスは・・・愛する人の為に、すべてを捨ててもいいと思ったんだ」
そう言ってジョアンはジニョンを優しく見つめた。
ジニョンは彼のその言葉に救われる想いがした。

「愛する人のため?・・・そんなこと、なさる方だとは思いませんでした」
そう言ったルカの表情に何か含んだものを感じた。

「君はボスの何を知ってると言うんだ?」 
ジョアンがまるでジニョンの代わりに言ってくれているようだった。

しかしその後、ルカは何も答えなかった。
「・・・・眠くなったので、もう休みます」 ルカはジョアンから視線を逸らした。

「そうね・・今日はご苦労様。ジョアン・・もう休みましょう。」
ジニョンは納得がいかないような顔をしたジョアンの肩に手を置いて言った。
ジニョンもルカの思いがけない言葉に、つい興奮してしまったが
彼女が思っていることは、きっと世間の多くの人間が思うことなのだろうと、
そう解釈するしかないと考えた。

「それから・・さっきのことは・・私に任せて」

「えっ?」

「アメリカ企業の調査の件」

「任せるって・・どうなさるおつもりですか?」
ジョアンはジニョンに向かって、不安そうに言った。

「大丈夫よ。危険なことはしないわ。さあ、もうお休みなさい。
 それから・・・ありがとう。」
ジニョンはジョアンがルカに言ってくれたことに対して感謝していた。

「・・・わかりました。おやすみなさい」 
そう言いながらジョアンは、既にベッドに横になってたルカに向かって
疑心暗鬼な視線を投げて、部屋を出て行った。




夜中の2時過ぎに、ジニョンはルカに気づかれないように起き上がり
部屋の外に出て、国際電話を掛けた。

「どうした?ジニョン・・君から電話があるなんて・・
 そろそろ韓国に渡るか?それなら迎えに行くぞ」

電話の相手はレイモンドだった。

「あ・・レイ、まだ行けないわ。それよりお願いがあるの」

「お願い?」

「ええ、実は・・・」



ジニョンの話を聞いて、レイモンドは驚いていた。

現在彼はドンヒョクの依頼で、或る案件を調べていたが、まさか
ジニョンがドンヒョクの仕事に係わって来るとは思いもしなかったのだ。

イタリア滞在中、ジニョンを彼の仕事からできるだけ遠ざけておくと
ドンヒョク自身から聞いていたからだ。

≪フランクが知ったら、やっかいだぞ、ジニョン≫

レイモンドは心の中で呟いた。





「Mr.サイモンがサインするそうよ」 
エマがドンヒョクの部屋にやって来て言った。

突然、滞っていた商談の事態が急転した。

「どういう風の吹き回しだ?二日前はあんなに渋っていたのに」

ドンヒョクがいつも以上に慎重に事を運んでいたこともあり、
なかなか交渉が結実しないことに、ジュリアーノ会長も痺れを切らしていた。

しかしドンヒョクにとってはそれで良かったのだ。

無論、彼にとって今回の案件に失敗は許されない。
しかし彼が今何より重きを置いているのは、時間を稼ぐことだった。

「ええ、とにかく、あなたの交渉に応じるそうよ。」

「・・・わかった。」 ドンヒョクは無表情にそう言った。






「調べたよ。確かにソウルホテルを嗅ぎ回っていたやつらがいた。
 でももう心配はいらない、ジニョン」 レイモンドは電話口でそう言った。
「ソウルホテルの件は表向き、私が動いていることにしてある。
 何処からの調査が入っても、フランクの評価がマイナスになることはない。
 むしろ、好材料となるよう仕向けておいた。」
 
「レイ、ありがとう。」

「しかし・・・気に入らない。」

「えっ?」

「どうして君がこんなことを?」

「何でもないの・・でもレイ、お願い。
 私があなたに・・その・・こんなことお願いしたなんて・・彼には・・」

「当然だ。」 レイモンドは怒ったように言った。


ジニョンは思っていた。
何よりも、ソウルホテルの存在が、ドンヒョクの負担になって欲しくないと。
誰が何と言おうと、彼はホテルに係わるすべての人達の為に
ホテルを守ってくれたのだから。
その彼をホテルの為に窮地に追い込むことはできない。

「しかしジニョン、これ以上、フランクの仕事に係わるな。
 これは警告だ。」 レイモンドが強い口調で言った。

「どうして?」 

「どうして?どうしてもだ!
 彼の仕事に首を突っ込むのはここまでにしておけ。いいな。
 もしも聞かないようなら、すべてをフランクに密告するぞ。」
レイモンドはジニョンを脅すように言った。

にも係わらずジニョンはつい噴出してしまった。「密告って、レイ・・」

「冗談じゃないぞ。“はい”と言いなさい。」

「・・・はい」 ジニョンは口を尖らせながら答えた。




「まったく。」
レイモンドはジニョンとの電話を終えると、デスクチェアーに深く座り
大げさに溜息を吐いた。

実際のところ、レイモンド自身もイタリアでのドンヒョクの援護を担っていたが
彼がドンヒョクに依頼されたことは、遠く離れた大陸でもできることだった。
それよりも自分はソウルホテルの復興を進めなければならない、
それが自分の役目だと、レイモンドは認識していた。しかし・・・

「そうは行かなくなったな」 彼は呟いた。



       ・・・ジニョンのやつ・・・

















 


2011/05/31 11:07
テーマ:ラビリンス-過去への旅- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

ラビリンス-11.嘘

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 ジョアンが予約したホテルは、ドンヒョク達のホテルから、2ブロックほど
離れた場所にあった。
ジョアンはチェックインを済ませると、ジニョンとルカの荷物を抱え
まずジニョン達を部屋へ案内した。

部屋は細めのシングルベッドがやっとふたつ入る程の広さしかなく
バスルームはシャワーとトイレが付いているだけの小さな空間だった。
「すみません、今丁度観光シーズンで、部屋が空いてなくて・・・
 こんな小さなホテルで・・」 ジョアンは済まなさそうにジニョンに言った。

「充分だわ」 ジニョンは笑顔で答えた。

「僕の部屋は隣ですから、何かあったら直ぐに電話下さい
 一時間程休んだら、食事に出掛けましょう」
ジョアンはふたりの荷物をベッド脇のサイドボードに置くと、
鍵をジニョンに渡し部屋を出て行った。

 

「ジョアンさんて・・」 
ジニョンとふたりだけになると直ぐに、ルカが口を開いた。

「えっ?」

「ジョアンさんて、ジニョンさんにとても気を遣ってるんですね
 ・・・彼があなたの助手みたい。」 ルカはベッドに跳ねるように腰掛け
弾まないスプリングを確かめながらそう言った。

「ああ、・・私の方が年上だから・・じゃない?」

「・・・・・ねぇ、ジニョンさん、ボスってどんな人ですか?」
ルカが突然ドンヒョクのことを訊ねたが、彼との関係を隠してしまった手前
ジニョンは答えを間違ってはいけないと、一呼吸置いた。

「・・・どんな人って?」

「とても素敵な人だって聞いたものですから」

「あ・・そうね・・まあ・・素敵だわ」 
ジニョンは嬉しさと恥ずかしさが入り混じった気持ちを隠そうと、
人差し指で自分の鼻を撫でながら、ルカの視線から遠ざかった。

「でも・・・人を人とも思わない怖い人」

「えっ?」 ジニョンは小さく背中に届いた声に振り返った。

しかしそこにはルカがとっくに眠ったかのようにベッドに横たわっていて、
しばらくすると本当に寝息を立てていた。

≪疲れたのね・・・でも・・さっきのは・・・聞き違いだった?≫
ジニョンはしばらくベッドの中のルカを見つめていた。

 

 

ドンヒョクがミンアと会うことができたのは、その日の夜だった。
会長の公約通りエマもその席に現れた。
エマはディナーの席にふさわしい優雅な装いで凛と佇み、
ほんの数時間前にドンヒョクの前で見せた儚い女の姿はそこに無かった。

ドンヒョクはミンアの安否の確認ができたことでまずは安堵していた。
「すまない」 彼はミンアに向かって、申し訳なさそうに言った。

「ボス・・・ご安心下さい。
 携帯電話を取られた以外は何の不自由もありません。
 かなり丁重に扱っていただいています。
 こうしてお目にかかって、お話しすることもできるんですから。
 ただ、ボスの手や足になれないことが残念です。
 こんな時にやはりジョアンがいたらと・・・」

「朝、連絡が来た・・今日はフィレンツェ観光だと言っていたよ
 さっき家に戻ったところだ、と留守電も入っていた。
 君から連絡が無い、とも・・・
 ・・してみるか?」 ドンヒョクはそう言って携帯を差し出した。

「いいえ、ボスの携帯から電話したら変に思います。
 私が普段と違うことをすると、何か予期せぬことが起こっていると。
 あの子・・勘がいいですから。」

「そうだな。飛んで来られても困る」 ドンヒョクはそう言って笑った。

その時エマが、俯いて嬉しそうに笑った。
今まで彼女には少しの笑顔も見せてくれなかった彼が
目の前で笑っていたからだった。
ミンアはそんなエマの様子を視線の端で捕らえていた。

「・・後で連絡取れるようにしてみます。それより奥様は・・」
ミンアはそう言い掛けて、エマの視線を感じて口ごもった。

「妻も観光を楽しんでいるようだ」 ドンヒョクが即座に答えた。

「そうですか。良かった」≪ジョアンもやっと観念したのね≫
ジョアンが今回の仕事から外されたことを不満に思っていることを、
彼女は知っていた。
そのせいでジニョンに対し、不満げな態度を取りはしないかと
それだけが気になっていたのだった。

 

「それで・・会長の様子は?」 ドンヒョクが話題を変えると、
ミンアは無言で、警戒するようにエマに視線を向けた。

「気にしなくていい。思ったままを報告しなさい。」 ドンヒョクは言った。

「はい。・・・ボスを警戒するように、部下に指示しておられる姿を
 何度かお見かけしました。ボスの同行を逐一見張っているようです。
 ボスがどう動くのか・・・かなり気になさっているように思います。」

「どう動くも・・僕は会長の仕事をしているだろう?」 
ドンヒョクはまたも笑って言った。

「はい、私もそこがよくわかりません・・・
 Ms.ビアジはどのようにお考えですか?」 
ミンアはエマに視線を移して言った。

「・・そうね。・・・面白がっているのは確かだわ」 
エマはドンヒョクを見つめながら答えた。

「面白がってる?」 ミンアが言った。

「人が面白がる時は・・・その相手が怖い時。
 相手に脅威を感じている時だと、私は思うわ」 
エマは形ばかりの笑みを浮かべながら言った。

「相手って・・今回うちのボスは会長側ですよ。
 ボスに仕事を依頼なさったのも会長です。
 会長が怖がる必要が何処にあるというんでしょう?」 ミンアは言った。

「怖いから自分の手元に置きたい・・・ということかしら。
 自分の自由に動いてもらうために」 エマは答えた。

「ボスは誰の自由にもならないわ。」 ミンアは強い口調で言った。

「自由にならないから欲しいのよ。」 エマも強く返した。

「あなたも?」 ミンアはエマを睨んで言った。

「ミンア。」 ドンヒョクはミンアをたしなめるように名前を呼んだ。

「・・・申し訳ありません」 いつしかミンアは自分がエマに対して
攻撃的な物言いをしていたことに気がついて、自らを省みた。

「今日のミーティングはこの辺で宜しいでしょうか」 エマが言った。
エマがこの場を早く切り上げたがっていることを、ドンヒョクは察していた。

彼女のその目が、この場所を警戒しろと言っていた。
「ああ。」 ドンヒョクはそれに応じた。

 

 

「ジニョン?」 ドンヒョクは部屋に戻ると直ぐにジニョンの携帯に電話した。

「あ・・・・・」 ジニョンの声がそれだけ聞こえて、声が途絶えた。
そして少しして彼女の声が届いた。「ごめんなさい、場所を変えたの」

「誰かいたの?」

「ええ、ジョアンよ・・今食事に来てるの。
 席で話すわけにはいかないから・・」

「そう・・ところで・・・
 今日は何処で美味しいものにありついているんだい?」

「あー・・・あの・・ヴェッキオ橋の近くの・・その・・」

「ココ・レッツォーネ?」

「そう!そこ・・」≪行ったのは嘘じゃないわ≫

「そう、そこの料理は美味しいんだ」

「ええ、とても・・」

「楽しそうだね・・もう怒ってない?」

「んー・・・少し怒ってる・・かも」

「ごめん」

「でもいいの・・大人しくしてるわ。あなたが望むなら」

「ああ、頼むよ・・ジョアンなら・・
 あいつなら、必ず君を守ってくれる・・・安心して、付いておいで」

「ええ、そうする」

「これから少しの間、電話できないかもしれない。
 でも心配しないで、いいね。」

「ええ。わかったわ」

「随分素直だね。」

「そう?」

「ああ、珍しい」

「あら・・素直になりなさい、ってあなたが言ったのよ」

「そうだったね・・・でも・・・」

「ん?」

「逢えなくて寂しいって・・」

「えっ?」

「・・・言わないの?」

「・・あ・・ごめんなさい、ドンヒョクssi・・もう切らないと・・」

そばに人の気配を感じたジニョンは慌ててそう言った。
そしてドンヒョクに対して嘘をついている後ろめたさを抱きながら、
急いで電話を切った。


「ジニョンさん?」 

「あら・・ルカ・・デザートは?」

「はい、今・・それでお呼びしようかと・・・お電話、お済みですか?」

「ええ」

「Ms.グレイス?」

「いいえ、違うわ」

「・・・・デザート、美味しそうですよ」 ルカが満面の笑顔で言った。

「そう?じゃあ行こう。」 
ジニョンもそれに応えて、彼女の腕を取り、店の中へ向かった。


チョコレートで薔薇の花を形どったケーキがジニョンの席に置かれていた。
「まあ、ホント、美味しそう。私、間違いなく太るわね。
 毎日こんなに美味しいものばかりいただいて・・あ・・ジョアン・・・
 ミンアさんだけど・・」 そう言いかけながらジニョンはケーキを口に頬張った。
「彼女ね・・今、電話できるような・・・状況じゃないらしいわ
 近い内に向こうから掛けるからって・・・伝言があった。」

「そうですか」 ジョアンは肩を落として溜息を吐いた。

「・・・どなたからの伝言だったんですか?」 ルカが首を傾げた。

「ジニョンさんの助手からだよ」 ジョアンがすかさず答えた。

「ジニョンさんにも助手がいらっしゃるんですか?」 ルカは目を大きく見開いた。

「ああ・・ま・・まあね」≪かなりできる・・助手がね≫ジニョンは天井を仰いだ。
ジョアンは傍らで俯いて意味有りげに笑みを含んだ。

「凄いな~私も早くそんな仕事がしてみたい。
 いつか私にも助手付きますよね」

「まだ雇うとは決まってないだろ?」 
ジョアンはフォークを口に運びながら淡々と言った。

「ジョアン。」 ジニョンがやんわりと彼をたしなめた。

「私!頑張って、ボスに早く認めていただけるようになります!」
しかしルカはジョアンの言葉に、決してめげることは無いようだった。

 


ドンヒョクはジニョンが穏やかでいてくれる様子に安堵しながらも、
少しばかり落胆したようにベッドに腰を下ろした。

緊迫した状況下にある自分が、唯一心を解きほぐせる場所、
それがジニョンという存在。それは間違いの無い事実だった。
そんな掛け替えの無い彼女を、手元に置くことができない現実を、
ドンヒョクは恨めしく思った。

『逢えなくて寂しい』

さっきの言葉は彼自身の想いだった。

本当は彼が彼女に言いたかった言葉だった。

そして、彼女から聞きたい言葉だった。


  寂しいって言わないの?


    ・・・「言わなかったね・・・」・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 



























 


 


2011/05/17 13:11
テーマ:ラビリンス-過去への旅- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

ラビリンス-10.過去の影

Photo














「お年を聞いてもいい?」 車中、後部座席でジニョンがルカに質問していた。

「二十二歳です。」 ルカは答えた。

「二十二歳か・・うちの妹と同い年だわ。
 でも妹よりあなたの方がちょっと若く見えるわ。」
ジニョンはルカを見ていると、ジェニーと過ごした日々を懐かしんで、
少し感傷的になっていた。
≪私ったら・・ホームシック?・・・
 ソウルを出てまだ三週間しか経っていないのに≫
「あ・・ごめんなさい・・何だか妹を思い出してしまって・・・」
ジニョンは潤んだ目尻に指を宛がい、微笑んだ。

「私・・お姉さんが欲しかったんです。
 ジニョンさんをお姉さんと思っていいですか」 ルカは人懐っこい笑顔で言った。

「慣れ慣れしいぞ」 ジョアンが運転席からすかさず横槍を入れた。

「いいのよ・・嬉しいわ。あなた・・ご兄弟は?」 
ジニョンはジョアンを軽く睨んだ後、ルカに笑顔を向けた。
ジョアンは思わずルカの方を睨んだが、彼女は我冠せずのようだった。

「ひとり。・・妹がいます。」

「そう、あなたにも・・・」 ジニョンはそう言って優しく微笑んだ。
「何処からいらしたの?・・あぁ・・ミラノだったわね」 
ジニョンはさっき聞いたことを思い出したように言った。

「・・・出身はヴェネチアです。祖父の家がそこに・・・
 私はそこで生まれたんです」 

「ヴェネチア・・・水の都ね・・まだ行ったことはないけど、
 素敵な所だと聞いてるわ」

「はい。いい所です・・とても」





エマは会議室を出た後、昼食を外ではなくルームサービスに変更して、
部屋で休息を取っていた。
しかし頭の中は、指折り数え待った男のことでいっぱいだった。

そこへドアの呼び鈴が鳴った。
その瞬間、彼女の顔が綻み、輝いた。≪フランク?≫

彼女はドアに急いで向かうと、覗き穴も確認せずにドアを開けた。
しかし、そこに立っていたのは彼ではなかった。

「・・・・・何か用?」 
彼女は一瞬にして表情を曇らせると、トマゾに向かって冷めた声を投げた。

「会長がお呼びです。」 トマゾは表情を変えることなく用件を言った。

「会長が?」

「はい。上のラウンジでお待ちです」

「・・・用意したら行くわ」 エマは気が乗らないように溜息を吐いて、
乱暴にドアを閉めた。





「どんな様子だ?エマ」
エマが席に付くと、ジュリアーノは手にしていたカクテルグラスを
テーブルに戻して言った。

「はい。すべて順調に進んでいます。Mr.サイモンも・・」
「そんなことは聞いていない。」 ジュリアーノは彼女の言葉を遮った。

「・・では?・・」 エマは首を傾げた。
「フランクとはどうだ?」

「・・・・・・」

「5年ぶりの再会はどうだった、と聞いているんだ」 
ジュリアーノはその目の奥に意味深な影を忍ばせて言った。

「・・・特に・・何も・・・5年も経っているんですもの・・
 拘りはありませんわ。お互いに・・・」

「お互いに?そうか?」 

「ええ・・とうに過ぎたことですから」 エマは微笑んで答えた。

「過ぎたこと・・・・エマ・・ワインでもどうだ?」

「いいえ・・私は・・・」

「フランクの選んだワインの方がお好みかな?」
ジュリアーノがそう言った瞬間に、エマは隣の席に付いていたトマゾを睨んだ。

「私は・・」 トマゾが言い掛けると、ジュリアーノが更に笑った。
その様子にエマは一瞬にして表情を強張らせた。
「盗聴を?」 エマは疑うように言った。

「心配するな。会議室だけだ。」 ジュリアーノは平然と言った。

「どうしてそんなことを?・・」 

「どうして?私がお前やあいつを・・信用しているとでも思っていたのか?」
ジュリアーノは愉快そうに笑った。

「・・・・それでは何故、私を彼の元に?」

「何故?・・・」

「ええ、何故。」

「無論。・・・・面白いからだ。」 ジュリアーノはそう言って小さく笑った。

「面白い?」 エマの目に一瞬力が入ったが、彼女は努めて平常心を保った。

「ああ。そうじゃないか?トマゾ・・・」 
ジュリアーノは思わせぶりにトマゾに同意を求めたが、彼は無言だった。

エマが突然立ち上がった。
「少し体調が思わしくありません。今日は失礼して宜しいですか?」 

「構わん。大事にするといい」 
ジュリアーノはワイングラスを口に運びながら、そう答えた。
エマは彼に一礼すると、踵を返し、そのままラウンジを出て行った。

ジュリアーノは出て行く彼女を一瞥しながら口を開いた。
「トマゾ・・」

「はい。」

「おまえの方はどうだ?」

「はい。首尾良く。」

「そうか・・・早く連れて来い。」

「承知致しました。今しばらくお待ち下さい」





ドンヒョクは先程からジニョンへ電話をかけていたが、繋がらなかった。
「何処にいるんだ?いったい・・」 ドンヒョクは苛立ち呟いた。

そこへドアが激しくノックされる音が聞こえた。
覗き穴の向こうに、切羽詰ったような形相のエマが見えた。

「何のつもりだ。」 ドンヒョクがドアを開けながら言った。
チャイムではなく激しくノックすることで、少なくとも彼女はドンヒョクに
ドアを開けさせることに成功した。

その瞬間にエマがドンヒョクの胸をめがけ飛び込んだ。

「フランク!」





「ここにドンヒョクssiが泊まっているのね」 ジニョンは建物を見上げ呟いた。

「ジニョンssi!もう駄目です。ボスやミンアさんに気づかれたら・・
 車に戻ってください、早く」
ジョアンが必死になって車の中から、声を潜めるように叫んだ。
ジニョンはそんなジョアンを笑いながら、急いで車に戻った。

「ジニョンssi・・ボス達が出て来たらどうするんですか」
後部座席に戻ったジニョンを振り返って、ジョアンは言った。

「ふふ・・そうでした。見つかったら大変ね」 
ジニョンはそう言って両肩を上げた。





「フランク・・・」 エマは彼の腕の中で、今まで押し殺していた想いを
吐き出すように、彼の名を呼んだ。

「どうした・・・」 ドンヒョクは直ぐには彼女を突き放さなかった。
彼女が余りに弱弱しく震えているように思えたからだ。

「いいの・・・このままでいて。少しだけでいい。このままでいて。
 お願い・・・」 エマはそう言って懐かしい彼のぬくもりを自分に移した。





ルカはジニョンとジョアンの会話を聞いて、首を傾げていた。
「ボスって・・私達のボスでしょ?」 と彼女が言った。

「僕のボスだ。まだ君のボスじゃない。」 
ジョアンは勘違いするなというように語気を強めた。

「そのボスと、どうして会うとまずいんですか?」 
ルカはジョアンの言葉を聞き流して重ねた。当然の疑問だった。

「あのね、ルカ・・私達は独自に仕事をして、ボスの手助けをするの。
 でも実は、ボスはそんなことして欲しくないと思ってる」
ジニョンはルカに向かって、朗々と語るように言った。

「つまり、ボスに内緒で動くんですね。私達だけで。」

「そういうこと。飲み込みが早いわね」

「それって・・何だか、かっこいい」 ルカが手を合わせて、浮かれるように言った。

≪軽いやつ・・・≫
ジョアンは思ったが、今はそうであってくれる方が遣り易いと思いホッとした。





「ワインは届いただろ?」 ドンヒョクはエマに言った。
エマはしばし彼の腕の中にいた。しかし、こうしている間も決して
自分の背中に回されることなく、壁に沿ってだらりと伸びた彼の腕を
恨めしく眺めた。「抱いてくれないのね」 エマはポツリと言った。

「・・・・・・」

「昔のように・・・」

「必要なことなのか?」
ドンヒョクがそう言うと、エマは急に笑い出し、彼の胸から離れた。

「・・会長がどうして私をあなたのそばに置いていると思う?」
エマは笑いを堪えながら言った。

「想像付くだろう。駒を並べて面白がっているだけだ」 
ドンヒョクはそう言ってコーヒーを入れた。「飲むか?」 

エマは首を振った。
「そう、面白がってる・・・あなたはわかっていたのね」

「フッ・・」

「ねぇ・・・・必要なことなのか・・そう言ったわね
 必要なことだと言ったら・・・」
エマはそう言いながら、ドンヒョクに近づき、その胸に掌を当て
彼を見上げた。

「・・・・・・」
無言で見下ろした彼の冷めた視線に、彼女は自分を蔑むように笑った。

「少なくとも・・あの頃は・・必要だった?」 それでもエマは彼を熱く見つめた。

「・・・・・・」 ドンヒョクは何も答えなかった。

「もう私に関心すらない?・・・・それが・・私への罰なの?」 
エマは呟くように言いながら、頬に一筋の涙を流した。

そうして彼女はドンヒョクから体を離した。

ドンヒョクはドアに向かった彼女の後ろ姿を目で追っていた。
その眼差しに今まで彼女に見せていた冷たさは無かった。

例え一時でも、互いの寂しさを重ね合った女の後ろ姿に侘しささえ覚えた。

まるで・・・
憎むべき女を憎みきれなかったあの時の自分自身の思いに


    ・・・タイムスリップしたように・・・


             













2011/05/16 22:12
テーマ:ラビリンス-過去への旅- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

ラビリンス-9.ミラノへの途

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「フランク・・・あなたに話しておきたいことがあるの」

エマにはドンヒョクに、話したい大事なことがあった。
それは、どうしても話さなければならないことだった。

彼にはそれがわかっていた。
しかし、彼はそれを無視し続けていた。いや拒絶していた。

「5年前のことなら・・・聞く必要は無い。」
ドンヒョクはエレベーターのドアが開くと同時に、そう言い残すと、
その場を去った。
エマは結局、胸の閊えを取り除くことを許されないまま、彼の後を
追うしかなかった。


会場前には既にトマゾの姿があった。まだ9時を回ったところだった。
「どこにも先回りが得意か。」 
ドンヒョクは皮肉交じりに言ったが、彼は表情すら変えなかった。
そのトマゾがドンヒョクの後ろを歩いて来たエマに向かって
僅かに柔らかな口元を見せた。





「ルカ・レリーニと申します。Ms.グレイス?」 
彼女は質問したジョアンにでは無く、彼の後ろのジニョンに向かって言った。

「いや・・彼女はグレイスではありません。」 ジョアンが直ぐに答えた。
「グレイスは不在中ですが・・君は?グレイスに何の用なのかな?」

「あ・・私・・実はグレイスさんに雇っていただいたんです。
 彼女のお仕事のお手伝いを・・」

「仕事の?・・・聞いてないな・・・
 あ、僕はグレイスの同僚のジョアン・・キム・ジョアンです。」

「そうですか、よろしくお願いします。」 
ルカと名乗った女が、人懐っこい笑みを向け、突然ジョアンの手を取ると
握手した彼の手を大きく振った。

「ちょ・・ちょっと、君。
 あー・・あの・・グレイスはしばらく戻って来ないんだ。
 僕も直ぐに出掛けるし・・この事務所誰もいなくなるよ。
 悪いけど今日のところは帰ってもらえませんか?
 グレイスには伝えておきますから」
ジョアンはルカの突拍子も無い振る舞いに、少し迷惑そうに言った。

「・・・・・・・・」 
ジョアンの言葉に衝撃を受けたように、ルカからさっきまでの笑顔が消え、
彼女は沈黙してしまった。

「悪いんだけど・・・」 それでもジョアンは重ねて言った。
するとルカの目から、みるみる涙が溢れ出た。「・・君・・・・・」

「・・・・・私・・困るんです・・・
 ここに来るのに、アパート解約して来たし・・あ・・グレイスさんが・・
 住む所も紹介してくれるって・・言ってたし・・
 困るんです・・・私・・行く所・・無いんです」
ルカはこぼれる涙を懸命に掌で拭きながら、訴えるように言った。

「そう言われても・・・」 
ジョアンが困り果てていたところに、ジニョンが突然口を挟んだ。

「いいじゃない。一緒に連れて行きましょう、ジョアン・・」 

「ジニョンssi」

「私達、これからミラノに行く所なの。一緒に行く?
 その内、Ms.グレイスとも会えるだろうし」

「いいんですか?」 ルカは涙でいっぱいの目を輝かせた。

「ジニョンssi・・困ります」 ジョアンがジニョンを制するように言ったが
ジニョンは彼に掌を見せ、にっこり微笑んだ。

「ありがとうございます。Ms.ジニョン?
 あなたもMs.グレイスの同僚の方ですか?」

「彼女は・・」 
「ええ、そうよ。」 ジョアンの言葉を遮って、ジニョンは答えた。
「荷物は・・・あー必要なものだけにして・・・ 
 後は事務所に置いて行っても・・いいわね?」
そして彼女はルカが持って来たらしい大きな荷物を見ながら言った。
「これ・・階段を持って上がったの?・・全部?」

「はい。下には置いて置けないので・・・三回位・・往復しましたけど・・」

「若いのね」 ジニョンは感心したように言った。

「はい。」 
ルカは満面の笑顔で答えた。その時にはもう彼女の目に涙は無かった。

ジョアンはそのそばで呆れたような視線をジニョンに向けた。
「ミンアに確認も取ってないのに、勝手に決めては・・」

「だって、可哀相じゃない。このまま放っていけないわ」

ジョアンは天井を仰ぎ、『誰でも信用する』とハングルで呟いた。
「えっ?」 ジニョンはジョアンを見上げた。

『ボスがそう言ってました。ジニョンssiは「誰でも信用する」と・・』
彼はハングルで続けた。

『この子悪い子じゃないわ・・・目を見ればわかるもの』

『それがあなたの口癖だと、ボスから聞いたことがあります』
ジョアンはわざとらしく大きな溜息を吐いて、そう言った。

ジニョンは無言で口を尖らせて見せた。

『気をつけてください。』 ジョアンはそう繋げた。

ハングルが今や、ジニョンとジョアンふたりの共通語になっていた。




ジョアンは仕方なく、というように、ルカを事務所に迎え入れた。

ルカはジニョンより少し背が高く、イタリア系の綺麗な顔立ちで、
ウエーブの掛かった赤い髪を後頭部で一束にしているスタイルが
とてもキュートだった。

「あなた・・ルカ・・だったわね、よろしくね」 ジニョンが言った。
「はい」 
ルカはジニョンのそのひと言と彼女の笑顔だけで緊張を解いたようだった。

「荷物はその辺に置いて?」 ジョアンが傍らで部屋の隅を指して言った。
「ありがとうございます」 無愛想なジョアンに、ルカは笑顔で答えた。

ルカが大きな荷物を部屋の片隅にまとめている姿を目で追いながら、
ジョアンは必要な資料をパソコンに移す作業に取り掛かった。
「グレイスとはどういう縁で?」 
彼がパソコンから目を離さないまま聞いた。

「知り合いの紹介です。」 ルカは直ぐに答えた。

「知り合い?誰?」

「あー大学の教授です」

「仕事の経験は?」

「いえ、まだ大学出たばかりで・・・勉強の為に・・
 資料整理の仕事を下さると」

「そう・・・さっき彼女に電話してみたけど、繋がらないんだ。
 後で掛かってくると思うけど」

「はい。」 
ルカはさっきから、ジョアンという男が何とか自分を連れて行くのを
回避したがっていると察していた。

「ジニョンさんはここでどんなお仕事を?」 
ルカはジニョンに向かって、首を傾げ、満面の笑顔でそう聞いた。
ルカは頼みの綱が彼女であることを直感で悟っていた。

その為に彼女に取り入ろうとしているのだと、ジョアンは疑っていた。

「その人は・・」 ジョアンが口を挟んだ。
「ああ。私はね、ジョアンの助手なの」 ジニョンはすかさず答えた。

「じゃあ、私と同じですね。」

「君とは違う。」 ジョアンが思わずパソコンから顔を上げた。
「そう、同じよ。私も知り合いの伝で、ここで働かせてもらってるの」

ジョアンはジニョンが適当なことを言っているので、呆れてしまった。
≪まったく・・ジニョンssi≫
しかしジニョンがボスである“フランク・シン”の妻だということを、
余り吹聴したくないと考えたジョアンはジニョンの話に合わせることにした。






「本日のところはこの辺で」
ドンヒョクは立ち上がり、交渉相手であるサイモンの方へと向かうと、
胸の内を悟られぬよう、好意的な笑みを向け、彼に握手を求めた。

「それでは・・また明日、よろしくお願いします」 ドンヒョクは言った。

「ええ。お目にかかれて良かった。次回はお食事でも」 サイモンも応えた。

「是非。具体的なスケジュールは、こちらのビアジからお伝えします」
ドンヒョクはエマに視線を向けながら言った。エマはにこやかに頷いた。
そして、サイモン一行を出口まで案内し見送った。


「上手くいったわね。感触がいいわ」 
資料の片づけをしながら、エマはドンヒョクに言った。

「・・・・どうかな」 ドンヒョクは俯いたまま答えた。

「どうして?」 
エマが訊ねると、彼は変わらず彼女に視線を向けることなく答えた。
「まだ警戒している」

「どうしてそう思うの?」

「何となく」

「何となく?・・・だとしたら、その通りね。
 あなたの“何となく”は外れた試しはないわ」 エマは頷きながら言った。

「それはどうも」 彼は淡々と答えた。

「ランチは?」 エマは書類の片づけを終え、バックを手にして言った。

「部屋で摂る」 ドンヒョクも同じくブリーフケースを手にした。

「久しぶりにあなたが選んだワインを戴きたいわ」 
エマはしっとりとした声で言った。

「・・・・・今夜のミンアとのディナーの時にでも」 ドンヒョクが応じた。

「部屋で一緒に・・・とは言ってくれないのね」

「後で届けさせよう・・君の部屋に」 
ドンヒョクはそう言いながら、彼女の横を通り過ぎた。

「それはどうも。」 エマは俯き苦笑して答えた。

ドンヒョクもまた口元に小さく笑みを浮かべ、ドアノブを握ると、
そのままひとり会議室を出て行った。





ジニョンとジョアン、そしてルカの三人は、ジョアンのミニクーパに乗り込み
一路ミラノへと向かった。
結局一時間経ってもミンアからの連絡は無く、ジニョンの口利きがある以上、
ルカ・レリーニという素性の知れない女を同行するしかなかった。

ジョアンにはミンアから何も聞かされていなかった疑念が残っていたが、
ルカという女の子の愛らしさに、次第に警戒心が薄れているのも事実だった。
≪それに・・・≫
数時間の長旅を、ジニョンと二人で過ごすよりはいいような気がした。

何よりもルカと打ち解けたジニョンが明るく、楽しそうにしていることが
ジョアンにとって嬉しいことだった。

「ミラノはどの辺へ行くの?」 
ジニョンが観光ガイドを開きながら運転席のジョアンに訊ねた。

「ドゥオーモのそばです。でも僕・・実はミラノは余り詳しくないんです
 イタリアに赴任してまだ一年経ってないですし
 フィレンツェ在住で仕事してましたから・・・」

「そうなの?」 ジニョンは少しだけ不安そうに言った。

「でも大丈夫です。安心して下さい。向こうでガイド雇いますから」

「あの・・・」 その時ルカがふたりの会話に口を挟んだ。
ジニョンが「ん?」という顔を彼女に向けた。

「私・・ミラノ育ちなんです。2歳から11歳位までいて・・
 二年前からまたミラノに戻って暮らしてました。」

「そう」

「ですから、ミラノならご案内できます、私」

「ほんと?まあ、ジョアン、素敵じゃない?」 ジニョンは嬉々として言った。
ジョアンはルカの顔を振り返って、黙って頷いた。

「お役に立てるんですか?私」

「ええ、とっても。」

「良かった!良かったです・・ほんとに」 ルカは目を輝かせて喜んだ。

「頼むよ」 ジョアンも多少不服に思いながらもそう言った。

「はい!」
ジニョンは嬉しそうに返事したルカを見て、自分も嬉しくなった。

≪そうよ。人の役に立つことほど嬉しいことはないわ。それなのに・・・≫

ジニョンはドンヒョクが自分に対して、「イタリアを満喫していたらいい」と
蚊帳の外にしたことに、少なからず腹を立てていたのだった。
≪私だって・・・あなたの役に立ちたいのに≫


「ジョアン・・疲れたら言って?運転、代わるから」 ジニョンが言った。

「結構です。」 

ジョアンは心の中で思っていた。
≪ここまでの行いでもう何度ボスに殺されただろう≫

ジニョンがおとなしくしていてくれることをジョアンは切に神に祈った。


   ・・・≪お願いです・・ジニョンssi・・・≫・・・
















 


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