2007/06/10 09:57
テーマ:【創作】タムトクの恋・番外編 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【創作】契丹の王子③

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 そんなことを言ったものの、私はそのあと、何をしても心重いままでいました。
 ただでさえ体調が今ひとつだったのに、あれでよかったのかという思いが何度も心に浮かびました。
 そうです、あの契丹の女官だったという人がその後どうなったのか、私は気になって仕方がなかったのです。
それで、すぐに侍女の一人を警護兵たちのところにやって、決して罰を与えたりしないでほしい、王にも内密に・・、と伝えさせようとしたのですが、侍女はタムトク様の側近らしい人と戻ってきたのでした。

「王がお呼びです。
あちらのお部屋でお待ちになるように、とのことです。」

 その若い側近の人は一緒に来るように私を促しましたが、私は咄嗟に首を横にふりました。

「いいえ、まだ仕事が残っていますので、あとで参ります。」

 素直についてくるとばかり思っていたらしい若い側近は目を丸くしましたが、私はかまわずに、侍女三人と警備のためと主張する警護兵三人をつれて、スヨン様のいらっしゃる東の宮殿に向かうことにしました。

「あの・・・、それでは私が困ります、タシラカ様。
タムトク様がお待ちですので、なにとぞ・・・。」

そんなことを言いながら、その若い側近は困ったような顔でついてきます。
でも、私は知らん顔で、ずんずん歩いていきました。


 すぐにでもタムトク様にお会いしたくてたまらなかったのに、その命令には素直に従いたくないような気がしていました。
なぜって・・、それは、タムトク様が、そんなに重大なことを私に話してくださらなかったからですわ。

 それにもうひとつ、タムトク様にお会いする前に、どうしても自分の中でけじめをつけておかなければならないことがあったのです。

あんただって、昔人質だったこともあったじゃない・・・、そう、あの人が投げつけた重い言葉の中のひとつ・・・。

 確かに、かつて私も、その契丹の王子と同じように、囚われの身でした。
だから、悔しいほど、その契丹の王子の気持ちはよくわかったのです。
 多感な年頃の少年は、誰かにたきつけられるままに、衝動的にタムトク様の命を狙ったのでしょう。
 いえ、もしかしたら、突然知らないところに連れてこられて、ただ心細かっただけなのかも・・。

 そう、私があの日、あの方にかんざしを突きつけたように・・・。

 あの時、私は何をしようとしていたのでしょう?
タムトク様の命を奪おうとでも考えていたのでしょうか?
そして、あのとき、タムトク様は私を罰しようとは思わなかったのでしょうか?

 ともかく、あの夜、あの方は私を求め、そして、そのまま私は初めて抱かれたのです。
それは・・・?

 どんなに考えても、答えは出ませんでした。
私は心も身体も重苦しいままに、東の宮殿にスヨン様を見舞い、正妃様付きの侍女に容態を尋ね、頼まれていた人参を手渡し、必要なものがあったら言ってほしいと伝えたりしました。

 スヨン様にお会いできないかと頼んでみたのですが、今はお休みになられてますゆえ・・・、などと、やんわりと断られてしまいました。
お方様になんということを・・・、とこちらの侍女が口々に言うのをなだめながら、そんなことが妙にずしりと応えて、ああ、私は疲れているのだと思いました。

でも、遠くから、ちらりとですが、眠っているチャヌス様のお顔を拝見することができたのです。

「まあ、かわいいわ。
やっぱり、タムトク様に似てらっしゃるのね。」

思わずそんなことを言うと、正妃様付きの侍女も、はい、とうれしそうな顔をしました。

 ほんのつかの間ですが、体調の悪さを忘れあたたかいものが身体の内側に満ちていくようで、それと同時に、ねたましさもおぼえて・・・。

 私って嫌な女だわ、そう思いながら、気を取り直そうと、中庭に足を運んだのでした。
そこでワタルが剣術の稽古をしていると知っていたからです。

仲間たちといっしょに大きな声を上げて剣をふりあげているワタルの姿を遠く眺めて、チャヌス様も似てらっしゃるけど、ワタルもそっくりだわ、と心の中でつぶやき、すぐに、自分が馬鹿みたいだと恥ずかしくなったりして・・・。

「王に似て、ワタル様は筋がいいと、みなが言っております。」

側にいた若い側近がにっこりとそんなことを言い、私もそうでしょうか、などとうなずきかけました。

そのとき、私は初めて気がついたのです、
あの契丹の王子も、ワタルとそんなに年齢の変わらない15歳の少年だということに。

今、にこにこと汗をかいているけれど、いずれワタルも少年らしい正義感と性急さを身にまとい、いずれ人に刃を向けたりするのだろうかと・・・。
しあわせそうにすやすやと眠っているチャヌス様だって・・・。


 突然ひどく息苦しくなって、私はそばの列柱のひとつに手をかけたのでした。

「タシラカ様?」

侍女のひとりが心配そうにかけた声が、ひどく遠くに感じられました。

「お顔の色がよくないですわ!」

「ああ・・、これは・・、いけません。
だから、あちらでお休みを、と申し上げたのに!」

側近の人がそんなふうに言ったときでした。
私は、内側からの突き上げるようなむかつきを感じ、はっとしたのでした。

もしかしたら・・・?


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