2006/12/06 00:27
テーマ:【創作】高句麗王の恋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

海翔ける~高句麗王の恋 訪れ

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 朝からひとり、思い悩んでいた。

すべて夢の中で起こったことのように思われた。

『・・・・今夜、訪ねて行ってもよいか・・』

向けられた彼の澄んだ瞳は、こわいくらい真剣で、
草原を渡る風はタシラカをどこか遠くへ連れて行ってしまうようで、
空の青さはまぶしいほどで・・・、
だから、
タシラカは思わずうなずいてしまったのだった。

彼は驚いたように目を見張り、
なにか言いたそうに小さく口を開きかけたが、
たったひとことつぶやくように言っただけだった。

『タシラカ・・・』

それから、彼女の前髪に長い指でそっと触れて、
彼女の頬に唇でやさしく触れた。

タシラカは、身動きもできなかった、
ただ、それを受け止めるだけで・・・。


あのとき、
時間が止まってしまったのだとタシラカは思った。

そっと頬に手をあてると、そこはまだ、
草原での出来事をあざやかにおぼえているかのようだった。
ふわりと触れた感触はやさしくて、
出会ったときの彼そのもので・・、
魂そのものを抱きとめられたような・・・。

『タムトク様・・・』

そっとその名を呼ぶと、今にも涙があふれてきそうで・・・。

あんなふうに澄んだ瞳で見つめられたら、
あんなふうに無邪気に話しかけられたら、
あんなふうに熱い思いをぶつけられたら、
あんなふうにふわりとくちづけされたら・・・・、
誰だってうなずいてしまう。
抗うことなんてできないわ。
そう、誰だって・・・。


でも・・・、とタシラカは首を横に振る。
どうかしていたのよ。
あの方は敵国の王、
夫となるはずだった百済王子を死に追いやった人・・・。

残虐で野蛮で女好きな・・・
百済王の言葉がよみがえる。
鋭い痛みが胸をさす。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「ちょっといいかしら?」

引き戸を開けて顔をのぞかせたのは、ジョフンだった。
返事も待たずに、タシラカにあてがわれた部屋に入ってくる。

「ずっと姫様が部屋にこもったままだからさ、
侍女たちが心配してね、私に見てこいって・・・、
まったく、人使いが荒いんだから。
仮にも人質っていう身分なんだからさ・・・。」

言葉は荒いが、にこにこしながら言う。

侍女たちとは、タシラカといっしょに人質になった、
百済の侍女たち二人と、倭からいっしょにやってきたハルナのことだ。
草原から戻ってきたタシラカの様子が気になって、ジョフンに相談したらしい。

「ご迷惑をかけて、申し訳ありません。」

タシラカが頭を下げる。
ジョフンは手をひらひらと振った。

「いいえ、いいんですよ、そんなこと、姫様が申し訳ないだなんてさ。
・・・で、草原はどうだったんです?
ずいぶん長い、・・その、散歩だったみたいだけど・・・?」

一瞬詰まったが、言葉を選びながら答える。

「いいお天気でした、風が強くて、・・・雲雀の鳴き声が聴こえて・・・」

ジョフンは、へえ、そうなの、などとうなずいてから、にっこりと笑って続けた。

「で、あのさ、タムトク様は、どうだったの?
なにかお話したんでしょう?」

タシラカも、小さく笑みを浮かべて言った。

「子供の頃のお話など、お聞きしました。」

ジョフンは、あはは・・・、と笑うと言った。

「ああ、そうなのよね~♪
あそこらは、王子にとって遊び場だったものね。
トンボやら蝶やら捕まえては羽をむしったり、ウサギを追い掛け回したりしてさ・・・。まあ、子供の悪さは一通りはやったわね。
ほら、いつもくっついているサトっていうしかつめらしい顔した家来がいるでしょう?
あいつといつもつるんでてさ・・・。」

ジョフンは遠い目になってしゃべっていたが、ふたたびタシラカに視線を戻すと言った。

「そんな話をしたってことは、よっぽど姫様のことを気に入ったってことですよ。」

またまた、にっと笑う。
それから、いかにも何気なさそうな様子で続けた。

「それで、あれかしら、
姫様にお城に来るようにとか、
え~と、まあ・・・、そんなようなことをおっしゃったのかしら?」

タシラカはどきっとした。
とっさに何と答えていいのか、わからなかった。

「いえ、べつに・・」

「あら、そうお?
私の見込み違いだったかしらね。
ほんとに、なあんにも言わなかったの?」

ジョフンは、何もかもお見通しよと言わんばかりの顔をしている。
タシラカはうつむいた。
そんなことはいいませんでした、と否定して済まそうかと思った。
だが、タシラカは確かめたいことがあった。

「あの方、タムトク様は、そんな方なんですか?
すぐに女人をお城にお呼びになるような・・・?」

あら、とジョフンはひとこと言った。
ちょっと気を悪くしたようだった。

「それは、タムトク様が女人にすぐにお声をかけるような
軽い男だってことかしら?
まあ、ずいぶんな言いようじゃないの!
それじゃあ、王子がかわいそうってもんだわ!
姫様のためによかれと思って、あれこれとやってくださっているのにさ。
了見違いもはなはだしいよ!」

ジョフンは一瞬押し黙ったが、再び続けた。

「姫様、あなたはどう思っているか知らないけど、
あなたは仮にも人質っていう身分なんですよ。
ご自分が育ったこの長老家にあなたを預けたのだって、
病気にかかった時に王家の薬師をつかわしてくださったのだって、
どれもこれも、異例中の異例!
みいんなびっくりしてますよ!」


「そんなタムトク様の気持ちを思えばこそ、
私だってせいいっぱいお世話しようと思ってるんですからねえ。
そんなことを言われちゃったら、
私の立場だってないわよねえ。」

あわてて、すみません、とタシラカは謝った。
だが、ジョフンの勢いは止まらない。

「だいたいね、相手はどなただと思っているの?
高句麗王タムトク様ですよ!
あの方がそんな方だとお思いなんですか?
やだねえ・・・、いくらここに来てからまだ日が浅いって言ってもさ・・。
いくら深窓の姫君だからって、それじゃ、人を見る目がなさすぎますよ!」

興奮してきたらしく、口から泡をとばすような勢いになってきた。

「王子は、そんな方じゃないんですよ。
三年前に出陣中にお妃様を病で亡くされたときだって、
おそばについていてやれなかったっておっしゃって、ずいぶん悔やまれてね、
それからは、周りの者がお勧めしてもメスネコ一匹だって近づけなかったっていう方なんですよ。」


「まあ、このところ、やっと新しいお妃を迎えることに同意されて、
私もほっとしていたんだ。
それがまた、実は王子はあんまり乗り気じゃなかったんだみたいだ、
なんて話もちらほらと小耳にはさんだりもしてさ・・・。
ま、それはお相手が、あのハン・スジムの娘だから、
私もあんまり気乗りがしないでいたから、どうでもいいんだけどさ・・・。
あ、あら、そんな話をしたかったんじゃないわよ、
ともかくね、私が言いたいのは、タムトク様ってのは、
女に限らず男にも、誰に対してもまっすぐな方なんだってことです!
そんなこと、この国じゃ、みいんな知ってることだけどさ、
この私が言うことだから、間違いないわよ。
先の王妃様、つまりお母上様亡き後、あの方をちっちゃな頃からお世話したのは、誰あろう、このジョフンさんなんだからね。
そこらへんはきっちりとお育てしたつもりですよ!」

はあ、とタシラカが頭を下げる。

「ともかく、そこんところ、よ~くお考えを。よござんすね!」

ジョフンは立ち上がると、つんと頭を上げて部屋から出て行ってしまった。


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