2006/12/28 20:10
テーマ:ひとりごと カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

ドンヒョク、『ピエタ』を創る男

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浅田次郎氏の小説『ピエタ』を読みました。
『ピエタ』の何たるかをちゃんと理解しないまま読み始めたのに、その短い小説の核心部分に触れたとき、私はすぐに『ドンヒョク』を想ったのです。

 『ピエタ』。ミケランジェロが23歳の若さで創ったサンピエトロ大聖堂の傑作。
嘆きの聖母、十字架から降ろされたキリストを抱く聖母マリアの像。
その悲しみの表情は見る者を圧倒すると言います。
 
小説『ピエタ』の中で、浅田氏は、主人公友子の視線で、その像を刻むために鑿を振るったミケランジェロの想いを語らせています。
すなわち、この像を彫ったとき、ミケランジェロの胸には、6歳のときに亡くした母への想いがあったのではないかと言うのです。
いや、そんな簡単な言葉では不十分でしょう。
去って行った母に取り残されたミケランジェロの、激しいまでの想い・・、それが、彼をして、キリストを抱くマリアの、なんともいえない深い悲しみの表情を創らせたのではないかと・・。
そして、それは芸術だとか、名誉だとか、そんな単純な世俗なものにまみれた言葉では説明できないものなのだと、氏は言うのです。

 一方、ドンヒョクも幼いころ母に死なれています。それが元で、彼が父にも捨てられたことは、もう説明するまでもないですね。

 ここで、『愛の群像』のジェホにならないところが、私の私たるゆえんです。ごめんなさい。
ジェホじゃなく、どうしてドンヒョクなのか・・。
それは、ミケランジェロに匹敵されるほどの大きな成功を収めた男だから、と言いたいところですが、実は、そうとばかりいいきれません。
主に、ドンヒョクに会ったときの、私の個人的な衝撃度によるものでしょう、おそらく・・・。

 まあ、それはそれとして、幼いころに彼を見舞った不幸、その呪縛から逃れようとして、彼はアメリカで必死に生き、周囲からうらやまれるほどの成功と名声を手に入れました。
そして、その成功と名声が、ドンヒョクの創った「ピエタ」なのだと思います。
母に父に去られた彼がアメリカの地で必死に彫り続けたもの、外見は冷徹なまでに凄腕のMBAの専門家でありながら、実はキリストを胸に抱く聖母の姿かたちを求め続けていたのです。だからこそ、ドンヒョクは、あれほどまでに『ジニョン』を求めたのでしょう。

 ヨンジュンssiは、ドンヒョクの聖母を思慕する気持ちを、心深くに沈め、冷徹なビジネスに徹するシン・ドンヒョクを、見事なまでに演じきりました。
それが、ヨンジュンssi の意図するところであったかどうか、私は知りません。
でも、『ホテリアー』を見るとき、ヨンジュンssi1の、いえ、ドンヒョクの悲しいまでのまなざしの中に、私は『ピエタ』を彫り続けたミケランジェロと同じものを見るのです。


2006/12/11 20:56
テーマ:【創作】高句麗王の恋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

海翔ける~高句麗王の恋 初めて

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 初めて触れた唇はやわらかく、そして熱かった。
その瞬間、タシラカの感性は、タムトクという人間を形作っているものを感じ取っていた。

コノ方ハ、特別ナ人。
信ジルコトノデキル人・・・。


今はもう、百済王の言葉も、敵国の王という彼の立場も、正妃のことも、
何もなかった。

私ハ、コノ方ヲ愛シテイル。
コノ方モ、タブン・・・。


タシラカの中にある固く凝り固まったものが、溶け出していく。

私、お待ちしていたんです・・・

おずおずと、タシラカはその思いを伝えた。
が、タムトクは、激しく熱い思いをストレートに返してきた。

そなたを抱きたかったのだ。
私のそばにいよ・・・。


タムトクさま、
ちょっと待って・・


タシラカの心の声を聞きつけたかのように、彼は唇を離すと、
ふっと笑った。
それから、大きな手のひらで、
やわらかい布で素肌をやさしく包み込むように、
タシラカの髪をなでる。

「タシラカ、こわがらなくともよい。
ほら、こんなに愛している。
私はそなたを傷つけはしない。」

耳元でささやく声・・・
魔法のようなその声音!

つられるように、タシラカはうなずく。
それを待ちわびていたかのように、
彼は首すじに顔をうずめた。


タムトクさま?

点々と首すじをなぞっていく彼の熱い唇・・。

タムトクさま・・・?

ああ・・、タムトクさま!


それは不思議な感覚だった。
今まで知らなかったタシラカの内なる部分に、
強く甘い世界を、次々によびさましていくかのような・・。


気がついたときは
タシラカは鍛え上げられた身体に抱きとめられていた。

すべては、あるがままの姿で・・。
すべては、あるがままの通りに。


タシラカの胸のあたりに顔をうずめる彼・・。
閉じたまぶたはちょっとかげりを帯び、
口元にはかすかな笑みを浮かべ、
うっとりと動かないでいるその横顔。

「タムトクさま・・・?
眠っていらっしゃるの?」

タシラカは笑みを浮かべる。
胸のあたりにある少しクセのある長い髪、
それを、タシラカはそっとつまんで、細い指にからめる。

その瞬間、
なに?というふうに、彼は顔を上げる。
だが、すぐに自分の望んだもののほうに顔を伏せて・・・、
そして・・・、
今度は、動かないということはなかった。

まあ、まるで赤子のような・・・。

だが、そんな手白香の微笑みは、すぐに消えてなくなる。
それは、さらに鋭い甘さとなって、彼女の指の先まで貫いていった・・・・。


やがて、彼女は彼の胸におさまった。
すべては、
この世の始まりのときに、
神のさだめたものの、
あるがままの通りに、
あるべき姿、あるべきかたちのままに・・・。


「タシラカ、今、はっきりとわかった。
やはりそなたは、私のタシラカだ。
私の・・・・・」


涙に濡れたタシラカのまぶたに、ひとつ口づけを落とすと、
彼はゆっくりと眠りに落ちていった。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 サトが長老屋敷に到着したのは、昼近くになってからのことだった。

北の砦が破られたらしい・・・・、緊急の、そして極秘の知らせがもたらされたのは、もうとっぷりと日が暮れた後のことだった。
すぐに、城内では、王を中心に側近や武官たち数名での、極秘の協議が始められたのだった。

北の砦が破られれば、騎馬なら王都まで数日で到達できる。
まして、侵入したのが獰猛なセンピということなら、すぐに王が出陣する必要があるかもしれなかった。

砦に、それから、今は半島の西の砦近くの近海に停泊中の数隻の軍船に、また、王直属の『かげの者たち』とやらにも、つぎつぎに急使が派遣された。
センピと同じように東の海にある倭の動向にも、気を配らねばならなかったからだ。

夜通しの協議が終わり、とりあえず打てる手はうち、砦からの使者が帰るのを待つということで、ひとまず解散ということになったのは、明け方近くのことだった。


 夜通しの忍耐と緊張を強いられて、サトはくたくたに疲れていた。
だが、もうひとつ気がかりな事があったから、王から目を離してはいけないと思っていたのだった。
なのに、サトはついうとうととしてしまった。
そして、気がついたときには、日は高くのぼり、王はどこかへ出かけた後だったというわけなのだ。


「タムトク様がここにおいでだということは、わかってます。
隠し立てすると、国益にかかわります!」

サトは押し殺した声で言った。

ジョフンは、ふんと鼻先で笑った。

「国益だなんてねえ、サト、あんた、大げさなんだよ。
子供の頃から、どうもあんたは杓子定規なところがあったよねえ・・。
ま、それがあんたのいいところでもあるんだけどね。
・・にしても、真面目なあんたが、今朝王子と一緒じゃなかったって言うのは、
いったいどうしたわけ?」

ジョフンの問いに、思わず、サトはいやな顔をしてしまった。

「それは・・、ちょっとうたたねしてしまいまして・・、
い、いや、ちょっと目を話したすきに、いつのまにかお出かけになったあとで・・・。」

サトがそう言うと、ジョフンはおもしろそうな顔をした。
思わず、顔が赤くなる。

「俺だって、なにも好きこのんで、あの方の行動に目をひからせてるわけじゃないんです!
そんなこと、もうわかっておられると思っていたのに・・・。
なのに、王は・・・。」

ちょっと目がうるうるしてしまう。
ジョフンは、あはは・・と笑った。

「まあ、まあ、そんな顔しないのよ!
それがあんたの仕事なんだからさ。
王子だって、あんたのことはちゃんとわかってるんだよ。
ちっちゃい時からいつもいっしょだったじゃないか。
あんたがいっつもちゃんと見ていてくれるってわかってるからこそ、だよ。

だから、一番たいせつなことは、ちゃんとあんたの意見を容れるだろう?
あんたのことを、それだけ信頼してるってことだよ。」

それから、真顔になって続けた。

「お察しどおり、王子は今ここに来ているよ。
タシラカ様のところだよ。

・・すこ~し、お疲れかしらね?
昨日は寝てないんだろう?
だからってわけじゃないけどさ、
いくら側近のあんたでも、ジャマをさせるわけには行かないね。
このジョフン、お城の仕事とは、もうなあんにも関係ないけど、
タムトク様の乳母だってことは変わりないんだからね。
あの方のためなら、私は何でもするよ。」

「しかしながら・・、しかしながら・・・、かの姫は問題です。
それに、ご婚儀のこともあります。
何が王のためかは、一目瞭然ではないですか!」

サトはあせって言ったが、ジョフンの表情は変わらなかった。

「あんたね、すこし固い頭をやわらかくしたほうがいいよ。
ハン家から正妃を迎えるなんていうのも、この際だから、もう少し考え直したほうがいいと、私は思うよ。
いくらなんでも、7歳の姫じゃ、お世継ぎをすぐに作るってわけにもいかないじゃないの!
たとえば、あの姫なら、すぐにでも・・・。」

何をいってるんだ!とサトは思った。
わかってるくせに、そういう過激なことを無責任に・・・、と。

「敵国の姫では妃にはできません!
ここは正統なハン家の姫でないと・・・」

「だから、もう少し頭をつかいなさいって、言ってるんじゃないの!
たとえば、どうしても正妃はハンの家からって、あんたが思うのなら、

ハン・スジムにいってやりなさいよ、
もっとタムトク様にふさわしい姫は、おまえんとこにはいないのかってね。
直系じゃなくったって、いいじゃない。
それに、ハン家じゃなくったってさ、他の貴族の娘だっていいんじゃないの?
せっかく、タムトク様が正妃を娶ってもいいっていう気になったんだからさ。


・・・今までだって、タムトク様のお目にとまりたいっていう貴族の娘は大勢いたんだよ。

ただ、王子がその気にならなかっただけでさ・・・。
倭の娘はだめだっていうのなら、

タムトク様を納得できるような高句麗の娘をつれてきなさいっていうのよ!」


サトはなおも反論しようとした。
が、ジョフンの言う事も一理あるかもしれなかった。
あとでよく考えてみなければ、そう思い直すと、口調を改めて言った。

「わかりました、
・・それはそれとして、タムトク様にお取次ぎを願いたい。
いや、それがだめなら、せめて、ご伝言を・・。
昼には城にお戻り願いたいと。
それならいいでしょう?」


2006/12/10 00:21
テーマ:ひとりごと カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

透明人間が好きです

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 先日、ある韓国の新聞をネットで見ていたら、こんなことが書いてありました。

『ぺ・ヨンジュンは先ごろ韓流エキスポのイベントに出席、日本から多くのファンがチェジュに集まり、イベントは大盛況に終わった。それ自体はすばらしいことだが、彼はここ二年ほど、韓国のファンの前に姿をほとんど見せていない。現在、チェジュで次回作品の撮影中とのことだが、もう少し国内のファンのことも考えてほしい。ヨンサマもいいが、ぺ・ヨンジュンとして・・・。』

 だいたいこんな感じだったと思います。
まあ、マスコミの言う事だから・・、とスルーしようと思ったのですが、これを読んだ後、私はひとつ思い出したことがあったのです。

 それは、二年ほど前に、新大久保のある韓国料理店で食事をしたときのことです。
当時すでにヨンジュンにはまっていた私は、友人数人と新大久保に出かけ、帰りがけにちょっと食事でもと、たまたま通りがかったそのお店に初めて入ったのでした。

 そのお店には、20歳くらいの娘さんが働いていました。彼女は、一ヶ月ほど前に韓国から留学生としてやってきたばかりだとのことでした。
日本語を勉強しているという彼女に、ふと興味をおぼえて、私は彼女に、「ぺ・ヨンジュンってどういう人?」
と聞いたのでした。
すると、彼女はたどたどしい日本語ながら、にこにこしながらこんな話をしてくれました。
「韓国ではすごく有名な人です。私が小学生のころすごく人気がありました・・・。」

 言葉がイマイチだったこともあって、そこで終わりになりそうな気配だったのですが、私はもう少し彼女の話が聞きたいと思って、なおもたたみかけて尋ねたのでした。
「今はどうなんですか?」

この問いにちょっと困ったような顔で、彼女はこう答えたのでした。
「今は外国に行ってしまった人。だから、あまりテレビに出てこない。」

 ふうん、そうなんだ~。
それ以上でもなければ、それ以下でもない・・。
それでおしまいでした。

 でもね、その時、私はこう叫びたかったんです。
「私たちにとっては、お隣の国の王子様みたいな方なんですよ。
でも、その同じ国にいたあなたが、彼は外国にいるって思ったってことは、どういうこと??だって、彼は韓国内にいたはずだし・・・。
え?彼は、じつのところ、どこにいるの?」

私はひどく不思議な気持ちになったのでした。

 そして、今回の韓国マスコミの論評です。
公式の来日もなく、タムトクの映像はもとより、他の情報もほとんどない、彼、ぺ・ヨンジュン・・・・。

じゃ、ほんとのところ、彼はどこに??

 魔法を使って透明人間になり、変幻自在にあちらこちらの国に出かけているというのが、私の彼、ぺ・ヨンジュンのような気もしてくるんですけどね。

 まあ、いいですよ、私は透明人間が好きですから。

 


2006/12/08 21:28
テーマ:ひとりごと カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

『ベルばら』を読んだ事はありますか?

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 ものすごく久しぶりに『ベルサイユのばら』を読んでいます。

 フランス革命前夜を舞台池田理代子さんのこのコミックについては、ここで改めて説明する必要など、なにもないですね。
 ここで私が言いたいのは、同じようにこれを読んだ友人が力説したことについてです。

 言うまでもなく、彼女はヨンジュンssiをこよなく愛する一人なのですが、これを読んだのは初めてとのことでした。
 これが超有名だということは、十分知っていたのですが、なんとなく今まで手にとる機会がなかったようなのです。
そして・・・、彼女はすぐにとりことなってしまったのでした。

 このあたり、ヨンジュンssiの超有名なドラマのようですね。

 まあ、その超有名なドラマはさておいて、ベルばらにはまってしまった原因として、彼女は、私の顔を見るたびに、熱くかたったのです。
 それは、やはりというか、ヒロイン(いや、ヒーローかな?)であるオスカルにあるというのです。


 ご存知のように、オスカルは、貴族の令嬢として生まれながら軍人とさせるために男として育てられたのでした。そして、その心のうちには、愛する男性への思いが秘められていたのです。
彼女は、そのあたりに魅かれたというのです。

 もうおわかりでしょう?
 心のうちに愛の炎をおしかくして、自分の課せられた任務にまい進するオスカルの姿に、『彼・ヨンジュン』を、わがヨン友は重ね合わせたというのです。
 任務に忠実であること、自ら良いと信じる人々に忠実であること、それがオスカルの魅力のひとつなのですが、そのために彼女は、愛や女としての部分を犠牲にしなければならなかったのでした。
 男と女の違いはありますが、そのあたりが『彼』と重なるというのです。

 もちろん、オスカルの両性的な部分が、ヨンジュンssiが時々感じさせるものに通じるものがあるとも言いたいのでしょうが・・・。

 なるほど・・、と思うと同時に、私などは、心に抱いた愛を押し隠そうとして苦しむオスカルを、かげにひなたに守り、かつ心から愛していたアンドレにも、また、『彼・ヨンジュン』の姿に重ね合わせてみたりもするのです。

 これを読んでくださる方がいるのなら、ちょっとお聞きしたいです。

皆さんは、『ベルばら』を読んだ事はありますか?


2006/12/07 22:58
テーマ:【創作】高句麗王の恋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

海翔ける~高句麗王の恋 耐えること

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☆「ひっぱりますねえ・・。」なんて言われちゃったので、何とかここまで書いてみました。

でも、Rまでには至らなかったので、期待はずれかも・・・・。

ブログにはRは入れないほうが・・、というご意見もあるので、どうしようかと思案中です。

でも、いずれ避けて通れない道なんですけどね。

次回は、そのあたりも入れてみようかな。

 

~~~~~~~~~~~

 

ジョフンの言葉は、しばらくの間タシラカをしあわせな気持ちにさせた。

高句麗王タムトクとは、百済王によれば、『残虐で野蛮で女好きな・・』とのことだったのに、この国に来てから耳にした話では、若いながら、北方の雄、高句麗の名を不動のものにした英雄だということだった。

そして、彼の乳母であるジョフンは、女であれ男であれ、まっすぐな方なのだといったのだ。

ジョフンの言う通りかもしれないと、タシラカは思った。

彼女がその日草原で見たタムトクとは、無邪気に雲雀の姿を追う少年の心を持ち、
今夜訪ねて行ってもよいかなどと唐突に言って、彼女を戸惑わせた人であり、
それから、ふいにタシラカの頬にくちづけして、驚かせた人だった。


 だが、彼がどんなに心魅かれる人であっても、彼女がどんな思いを抱いたとしても、彼は敵国の王であり、タシラカは人質の身なのだ。
それは、何も変わらないままなのだと、彼女は当たり前のことをかなしい気持ちで受け止めた。


それに、タムトクはもうすぐ正妃を迎えるとのことだった。
妃となるはずの姫をさしおいて、なぜ彼は自分などに声をかけたのだろう?
彼の言葉のどこに、ジョフンの言う真実があるというのか・・・?

本当は、彼にとってタシラカは、ほんのいっときの気まぐれな相手でしかないのかもしれなかった。
となれば、彼がやってきたとき、タシラカはどうすればいいのだろう?


 その一方で、彼が訪ねてきたら長老屋敷の人々はどう思うだろうと、タシラカは思った。
誰にも何も知らせていなかったから、その時がきたら皆さぞびっくりするだろう。
だいたい、自分たちの屋敷にいる人質の娘のところに王が毎朝通ってくるのさえ、
ジョフン以外の屋敷の人々は、首をかしげている様子さえあったのだ。
もしかしたら、タシラカのことを、彼らの敬愛する王をたぶらかしたふとどきな娘などと考えるかもしれない・・・。

また、タシラカといっしょに人質として引き渡された侍女たちは、百済や倭に対する裏切り者だと思うに違いなかった。
特に、ハルナなどは、あからさまにタシラカにきびしい視線を浴びせているのだ。

どちらにしても、彼が今夜やってきたら、彼女は孤立することになるのかもしれなかった。
それでもいいわと彼女は小さな笑みを浮かべた。
頬には、まだ、あのふわりとしたくちづけの感触が残っているような気がしていたのだ。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 タシラカは落ち着かない気持ちのまま、夜を迎えた。
だが、その夜遅い時刻になっても、タムトクは姿を見せなかった。

何ごとか城であったのかと思ったが、何の知らせもない。
タムトクの重臣であり、長老家の長でもあるジュンギも、いつものように夕刻には城からもどっていたのだ。
屋敷の中は変わったことは何もなく、すべていつものままだった。
ジョフンさえ、昼間、つんとして彼女の前から立ち去ったのに、
けろりとして、言ったのだ。

『早くおやすみになったほうがいいですよ。
明日は朝からまた、タムトク様がいらっしゃるでしょうからねえ。』

仕方なしに、タシラカは侍女たちといっしょに、早々に床についたのだった。

 
 寝静まった屋敷の中で、目をさえざえとさせたまま、タシラカは馬の駆けてくる音がしないかと耳をすませていた。

だが、何の物音もしないまま時は経っていく。

今となっては、物静かなたたずまいも、やさしい笑みも、『そなたといっしょにいたい』などという言葉の熱さも、どこか遠い世界のことのように思えてくるのだった。

そして、残ったのはただひとつの思いだけだった。

やっぱり、彼は高句麗の王。
そして、私は人質・・・。

不安な目をした人質の娘に同情して、
ほんのいっときいい夢をみせてやったとか・・?
それとも、ほんの余興程度に、からかってみただけとか・・・?
そういうことなの、タムトク様?

もしかしたら、明日の朝、彼はいつものように馬で駆けてきて、
何事もなかったかのように、
血のついたままの山鳥か何かをどさりと彼女の前に投げ出したりするのだろうか?
ならば、そのときは、私も何食わぬ顔で朝の挨拶などをしなければならない。
にこやかに?
そう、この上なくにこやかに。
いかにも夜中お待ちしていましたのに、などという顔で出迎えてはいけない。
そう、間違っても、赤い目のままうらみ言を言ったりしてはいけないし、
涙をみせたりしてはいけない・・・。

彼は敵国の王なのだから。
私は人質の身なのだから。
何を、どうされても仕方がないけど、
でも、私は、倭の王族に連なる身、
心を強く持って・・、
泣かないで・・、
そう、高句麗の王などには負けないで・・・。

タシラカはそう心に決めた。

それでも、たとえようもなく、タシラカはさびしかった。

タシラカの思いだけが空回りして、部屋の隅にひっそりと息づいたまま、
夜は更けていった。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 どれくらい時間が経ったか・・・、
うとうととまどろんだタシラカは、短い夢をみた。


明るい朝の日差しの中、いつものようにやってきたタムトクにタシラカは言う。

『昨夜は、お見えにならなかったんですね。』

タムトクは無邪気に笑った。

『ハハハ・・・、
私を待っていたのか?
許せ、ほんの戯言のつもりだったのだ。
まさか、そなたが本気にするとは思わなかった。
まもなく、私は妃を迎えることになるが、
そなたがその気ならば、一度くらい相手をしてやってもよいぞ。』

あら、本気になんかするはずはないじゃないですか、
タシラカはそう言おうとした。
でも、涙があふれて・・・、
心がずきずきと痛んで・・・。


タムトク様!
思わず、そう叫んでいた。


そして目が覚めた。
頬が涙でぬれていた。
胸が痛かった・・・。


あたりはまだ薄暗かったが、薄く朝の光が差し込もうとしていた。
やはり彼は来なかったのね、そう心の中でつぶやく。
私は、こんなところで何をやっているのだろう、
ちょっとからかわれた言葉を真に受けて、ひとりでどきどきしたりして、
ばかみたいだと・・。
もう、やめよう、
誰も信じるのは・・・。
誰も愛するのは・・・。
誰も・・・。


そのとき、屋敷の外で、馬のいななきが聞こえた。


 おもわず、タシラカは立ち上がっていた。
引き戸を開け、部屋の外に出る。
薄暗い回廊には誰もいなかった。
静けさに包まれたままの回廊を、小走りに走る。
表門に通じる扉のある方へ・・。

途中、見覚えのある侍女が、続いてジョフンが・・、
突然現れたタシラカを見て、驚いたような顔で何か言ったようだったが、
彼女は何も答えなかった。

タムトク様・・!

ほどなく、外に通じる扉を開けた。

冷たい外気が頬に触れる。


タシラカの視線の先に、見覚えのある姿が、馬からひらりと跳び下りるのが見えた。
胸の奥につんと痛みを感じる。
私は、こんなにもこの方が好きなのだ・・・、
この方を待っていたのだ、
タシラカはぼんやりとそんなことを思いながら、
開け放った扉の前に立ちすくんでいた。

 

「こ、これはタムトク様、今日はまたお早いことで・・・。」

屋敷の門を守る長老家の家臣のひとりが、びっくりしたような声を上げる。

「早いのではない、遅すぎたのだ。」

そんなことを言う大きな声・・・。

そして、後ろに従者らしい若者を一人従えて、彼は足早にこちらに向かって歩いてきた。
すぐに、扉の前にたたずんでいる彼女を見つける。
足を止めて、うれしそうな笑みを浮かべる。

「・・・待っていたのか?
すまない、急用ができてどうしても来る事ができなかった。」


。。。。。。。。。。。。。。。。


 彼女は何も答えないまま、扉の前に立っていた。

「タシラカ、怒っているのだな?」

タムトクの言葉をきっかけに、彼女はくるりと後ろを向くと、
屋敷の中に入っていってしまった。

泣いていたような・・・?

すぐに、彼女の後を追う。


 屋敷の中に入ると、そこで待ち構えていたジョフンが、がしっと彼の腕をつかんだ。

「ちょっと!どうなってるのよ?」

「なんでもない!」

短く答え、その手を振りほどくと、小走りに駆けてゆく彼女の後ろ姿を追った。


 彼女が駆け込んだ部屋の引き戸の前まで来ると、声をかけた。

「入るぞ。」
 
中からは返事はなかったが、かまわず手をかけると、すっと戸は開いた。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


彼女は向こうを向いたままでいる。

「どうしようもなかったのだ、タシラカ。
事情があって、連絡もできなかった。許せ。」

向こうを向いたまま、意外なほど明るい声で、彼女は言った。

「もう、お見えにならないと思っていました!」

「タシラカ・・・」

「タムトク様は、・・・からかわれたのかと思いました。」

「そのようなことを・・・・」

ふっと笑いかけて、今度は真剣な顔になる。

「そなた、本当に、そんなことを思っていたのか?
私がそなたをからかって、それで・・・?」

タムトクはたまらない気持ちになった。
彼女の小さくふるえる肩に手を置くと、後ろから抱き寄せていた。
こめかみのところに唇を寄せて言う。

「私がそんなことをすると思うか?」

彼女はいやいやをするように、首を横に振る。

「私は・・・、タムトク様のことをよく存じません。
お会いしたのも数えるほどですもの。
でも、この方は信じられると、そう思えたから、だから、私は昨日・・・。
なのに、タムトク様は・・・。」

涙がすーっと頬をつたう。

「タシラカ・・・」

「・・いいえ、ほんとは私、
タムトク様はおいでにならないと・・そう思っていました。
お待ちしてなんか、・・いませんわ。
さっさと・・寝てしまいましたもの・・・。」

「わかった。もう、よい。私が悪かった。」

タムトクは、彼女をくるりと自分の方に向けた。

「もう、よい、よくわかったゆえ・・。」

濡れた瞳をじっと見つめながら、タムトクは彼女の唇に、自分のそれを重ねていった。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「ね、ジョフン様、静かになったけど、どうしちゃったんでしょうね?」

いぶかしげに、倭の姫の部屋の方をながめながら、ジョフンの侍女は声をひそめて言った。

「え?そんなことは決まってるじゃないの・・。」

「ってことは、つまり、・・ってことですか?
タムトク様のお相手は、人質の姫君ってことですか?」

「そういうことになるかねえ・・・。」

ジョフンは苦笑しながら言った。

「いいんでしょうかねえ、タムトク様ともあろう方が寵愛されるのが、倭の姫君だなんて・・。」

「いいんじゃないの、べつに・・。
あの王子が選んだのなら、間違いないわよ。
ハン家の娘より、よっぽどいいよ。」

「そ、そうでしょうかねえ・・・。
まあ、あちらはねえ、ハン家の腹黒いスジムが後ろについているわけですからねえ・・。」

うんうん、とうなずいて、ジョフンは続けた。

「まあ、それはそれとしてもさ、ハン家直系の娘は一人しか残っていないからってさ、
まだ7歳の子供をタムトク様の正妃にっていうのはねえ、最初から無理があるんじゃないかと、私は思っていたんだよ。」

「で、でも、形だけだって聞きましたけど・・・。
だって、ハン家から正妃を出すのが慣例だからって、タムトク様も同意されたんでしょう?」

「そうなんだけどさ・・、最初から私は気に入らなかったんだよ。
だから、王子にちゃんとそう言ったのにさ、
王子ったら、『ジョフン、それが政治だ』なあんて、こ~んな難しい顔して言っちゃってたけどさ。
いくら高句麗の王様だからって、そんなにガマンすることないのにさ・・・。」

 


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