2011/01/23 21:25
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-32.愛ゆえに

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi

 








    どうぞ今はあなた方だけで・・・


     ・・・ソウルホテル完全勝利の祝杯を・・・


会議室を後にしたフランクの心は清々しい想いに溢れていた。

フランクはジニョンの想いを叶えることだけの為にこのソウルの地を踏んだ。
しかし、このたったふた月の間に彼の心に芽生えたものは
ジニョンとの再燃する愛だけではなかった。

父や妹との再会が、眠っていた彼の心を揺さぶる何かを生んだ。

レオやレイモンドの揺ぎ無い友情は何ものにも負けない勇気を与えた。

ハン・テジュンという男が
21年もの昔生き別れた妹に与え続けてくれた慈悲への感謝。
そしてその妹ドンヒの
テジュンを助けたい、恩返しがしたいという切ない願い。

≪その全てに報いなければならない≫

フランクはそう思っていた。

無論今回の一件で、フランク・シンという事業家が失うものは多大である。

しかしフランクにとって財産などはどうでも良いことだった。

確かに今回、彼はM&Aという世界で今まで培ってきた信用の
全てを無くすことになるだろう。
それはフランクのような孤高の事業家にとって死にも値する。

それでも彼は実行した。

それは何故か・・・

「フッ・・・すべて・・・愛のため・・・」
フランクはレイモンドをまねて、ひとり呟き小さく笑った。






「しかし、どうしてあなた方が今日のこの日に・・ここへ?」 
テジュンはその答えがとうにわかっていながらも敢えてそう聞いた。

「さきほど申し上げた通りです」 
しかしレイモンドはそう言って微笑んだだけだった。

「えっ?」 
テジュンはレイモンドの言葉の先にあるものを興味深げに探った。

「愛のため」 
そしてレイモンドはそのひと言だけを言って、ジニョンを見た。
ジニョンは彼のその言葉と優しい眼差しに胸を熱くしていた。

「シン・ドンヒョクssiですね」 
テジュンはレイモンドからの真実の答えを待たずにそう言った。
しかし、レイモンドはそれに対しても何も答えようとはせず、
ただ口元の笑みだけがそれを肯定しているように見えた。

テジュンにしてみれば、真相を知っておきたいところだった。
その様子を見ていたジョルジュがふたりのそばに歩み寄り、
口を開いた。

「ヒョン・・、レイモンドとシン・ドンヒョクssiには
 何の繋がりもありません
 そのことをくれぐれもお忘れなく・・」

テジュンはジョルジュの言葉の意図を汲んで、黙って頷いた。

「ところでジニョン・・チェックインを頼むよ・・そして
 今夜は私の部屋で再会の祝杯をあげないか」
レイモンドはそう言って、その場の空気を変えるべくジニョンの肩を抱いた。
「もちろん、フランク抜きでだよ」 彼は小声でそう付け足した。

「まあ、レイ・・それではフロントへどうぞ、ご案内致します」

「それでは君のホテリアーとしての仕事ぶり・・見せていただこうか」
レイモンドがジニョンの肩を抱いたまま、彼女を連れ立って
部屋を出ようとしたその時だった。

「母さん!」 
ジョルジュの緊迫した声が、既に他には誰も居なくなっていた
広い会場に響き渡った。

ジニョンがその声に驚いて振り返ると、目の前で
ドンスクがジョルジュの腕の中に力なく埋もれていた。

「社長!」






「どうして・・言ってくれなかったの!」 
病院の廊下でジニョンはテジュンに詰め寄った。
「社長のお体があんなに悪くなっていらしたなんて!」

テジュンはその場に立ち尽くしたまま
ジニョンからの罵倒を甘んじて受けるかのように項垂れていた。

「知ってたんでしょ!何んとか言いなさい!テジュンssi!」
ジニョンは泣きながら更にテジュンを責めた。

「ジニョン、よしなさい」 
レイモンドがジニョンの手を掴んでテジュンの胸倉からその手を離した。

テジュンは長椅子にゆっくりと腰を下ろし、今までの経緯を話し始めた。
そして彼は自分が知っていることを全て話し終えると、
少し肩の荷を降ろしたかのように溜息をついて静かに立ち上がった。
そして、「後は頼む」と言い残し、彼らの前から立ち去った。

「彼も苦しかったんだ」 
レイモンドがそう言って、ジニョンの肩に手を触れた。
ジニョンは黙ってコクリと頷いた。


しばらくしてジョルジュとヨンジェが担当医師に呼ばれた。

ジョルジュはジニョンの手を取ると、黙って彼女の目を見た。
ジニョンもまたジョルジュの目を見て頷いた。
三人は、それまで一緒にいてくれたレイモンドに一礼をして
医師が待つ部屋へと向かった。

ドンスクが肺がんを患い、予断を許さない容態であることは
先程テジュンから伝え聞いていた。

医師は緊張を隠せないまま入って来た三人の顔を順に眺めると、
彼らに向かってにっこりと笑った。そしてとても穏やかに口を開いた。

「まだ光は見出せます
 私達は決して望みを捨ててはいません。」

医師は真摯な口調でそう言った。

   医学は日一日と進歩を続けている
   その凄まじい進歩と患者本人の生きるという強い意思が
   噛合ったなら・・・きっといい結果が生まれるでしょう

   だから私達は決して
   最後まで諦めてはいけないのです

   何よりも・・・お母様を待っているあなた方がいるんですから
   そのことをお母様に教えて差し上げなさい

と・・・医師は笑顔のままそう続けた




ジニョンと、ドンスクのふたりの息子ジョルジュとヨンジェは
互いに言葉も交わすことなく、病室のベッドに横たわるドンスクのそばで
彼女が目覚める時を待っていた。

三人が苦渋の面持ちで見守る中、
しばらくしてドンスクはゆっくりとまぶたを開けた。

「母さん!」「社長!」
三人はベッドの傍らで、待っていたとばかりに声を上げた。

「どうしたの?三人とも・・・」 ドンスクは同様に悲愴な顔つきをした
三人の子供達の様子をひとりひとり眺め、静かに口を開いた。

「酷いよ・・母さん・・僕に何も言わないなんて」
ヨンジェが子供のように泣きながら、ドンスクの手を握った。

「何のこと?」 ドンスクは小さく微笑みながら言った。

「母さん!」 今度はジョルジュが彼女を嗜めるように言った。

「わかってるわ・・ごめんなさい・・でも・・
 私は倒れるわけにはいかなかったの
 あなた達に話せば、きっとこんな風になって・・・
 私は自分の病気を思い知ることになる・・
 そうしたら・・・気力すら崩れてしまってたでしょう」
ドンスクは項垂れた頭をベッドに押し付けていたヨンジェの髪を
優しく梳きながらそう言った。

「そんなこと・・」 
ジョルジュは嘆きとも怒りとも付かない表情をドンスクに向けた。

「ああ、でも幸せだわ・・あなた達がこうして揃っているなんて」 
ドンスクは三人の困惑を他所に再度彼らを眺めながら言った。

「ヨンジェ・・泣くのはよしなさい・・みっともないわよ
 しっかりしなさい・・・
 これからあなたはテジュンssiの下で、修行を積むのよ
 テジュンssiには厳しく育てて頂く様によ~く伝えておいたわ」

「母さん・・」 ヨンジェが困ったような笑みを向けた。
その後ろでジョルジュが同じような表情をしていた。

「ジョルジュ?」 
ドンスクは数年ぶりに帰って来た愛しい息子の顔を愛情深げに覗いた。
「母さん・・・」

「ジョルジュ・・・そばに来て・・」
ジョルジュはドンスクに言われるまま、ヨンジェと入れ替わった。

「ジュルジュ・・ああ、会いたかったわ・・・
 親不孝な子ね・・あなたは・・・」 ドンスクは愛しげにそう言った。

「ああ・・ごめんよ、母さん・・心配かけたね」

「でも・・・ありがとう・・・
 ホテルを救ってくれて・・」

「僕が救ったわけじゃない」

「そうね・・でもあなたもそのつもりだったでしょ?」

「ああ・・そうだね・・・僕もそのつもりだった
 そして幸運なことに・・・僕やジニョンのそばには
 それを叶えられる優秀な人達がいたんだ」

「そうね・・・そうね・・・感謝しないと・・・」

「ああ・・そうだね」

「ジニョン・・・」 ドンスクはジニョンの手を探した。

「はい・・社長・・・」 
ジニョンはジョルジュに促がされて彼女の枕元に座った。

「ジニョン・・さっきね私・・
 あなたが生まれた時の夢を見ていたわ」

「えっ?」

「私はね、昔から女の子が欲しくて・・
 でも結婚して何年経っても、なかなか子供に恵まれなくて・・
 そんな時、私達の大切な友人があなたを生んだ・・・
 羨ましくて・・いつか私もあなたのような女の子をって・・
 そう思ってたのよ・・・」

「・・・・」

「でも駄目だった・・・
 あ・・もちろん、この子達は私の宝物よ・・
 むさくるしい男の子だけど・・」
そう言って、ドンスクはジョルジュとヨンジェを見やっていた。
彼らは少し拗ねたようなそぶりを見せて、互いに笑った。

「そして、あなたの成長を間近で見守る内に、 
 あなたが私の娘だったらって・・そう思うようになったの・・」

「社長・・・」

「社長は止めて?・・昔のように・・可愛らしく“お母さん”・・
 そう呼んで頂戴・・・
 あなたは私のことそう呼んでいたでしょ?」

「ええ、そうでした・・・
 子供の頃・・母のことを“ママ”社長のことは・・
 “お母さん”・・でしたね」

「ジョルジュとあなたが・・とても仲良くなった時・・
 私は心の中で“やった!”って・・ふふ・・・
 そう思ったのよ・・
 あなたが・・ジョルジュのお嫁さんになってくれれば
 あなたは本当に私の娘になるんですものね・・」

ジニョンが返事に困ったような顔をしていたが、
ドンスクはそれにお構いなしに続けた

「もうとっくにその望みは叶えられてもいいはずなのに・・・
 ・・・なかなか叶えられなかった」

ドンスクの言葉にジニョンもジョルジュも次第に
母の記憶の異変に気が付いたが何も言わなかった。

「ねぇ、聞かせて・・もう駄目なの?・・・あなた達は・・・」

「母さん・・その話は止めてくれ・・」 
やっとのことジョルジュはドンスクを嗜めるように言った。

「ジニョン、本当のことを聞かせて?
 テジュンssiはいい人だけど・・
 彼も私達夫婦にとって息子のような存在だけど・・
 ジェルジュでは駄目なの?ジニョン・・・」

「あの・・・」 ジニョンは困ったようにジョルジュに助けを求めた。

「母さん・・」

「・・本当は今頃、
 あなた達の子供を抱いていたはずなのに・・・」

「母さん!その話はもう止め・・」 ジョルジュがそう言い掛けた時
ジニョンはジョルジュを制し、首を振った。

ジニョンはドンスクの記憶が途切れ途切れに繋がっているのだと
はっきりと理解した。
彼女の記憶にはきっと、ジニョンが心から愛する男の存在は
消えてしまっているのかもしれなかった。

「ねぇ、ジニョン・・・あなたにお願いがあるわ
 ジョルジュのこと・・ヨンジェのこと・・
 そしてホテルのこと・・
 昔からあなたはこの頼りないふたりの男の子達を
 守ってくれていた・・そうだったわね」

「ええ・・そうでした」

「そうよ、いつもあなたが一番頼りになったわ」 
ドンスクはそう言って明るく笑った。

「ふふ・・弱虫でしたから・・ジョルジュもヨンジェも・・」
ジニョンは笑いながら、ジョルジュとヨンジェを交互に見た。
ふたりは不満そうに口を尖らせながらも、楽しそうに笑っていた。

「ふふ、そうね・・そうなの・・・ジニョン、だから
 心残りなの・・・この子達が・・・ホテルのことが・・・」

ドンスクは少し朦朧とし始めた意識の中、話をしていた。

「お母さん・・・そろそろ、お休み下さい・・・」
ジニョンはそう言いながら、ドンスクの胸の辺りを優しく叩いた。

「ええ・・そうね・・・」 ドンスクはそう応えると優しく微笑んだ。
そして「お願いね」と繰り返しながらやっと眠りに付いた。




眠ってしまったドンスクをヨンジェに任せて、ジョルジュはジニョンを
病室から連れ出した。

「ジニョン・・母さんが言ったことは気にするな・・・いいか
 お前は今度こそフランクと幸せになるんだ・・」

ジニョンはジョルジュの声を意識の奥で聞いていた。

「お前達は苦しんで苦しんで・・やっと・・」

ジョルジュは返事もせず、遠くを見ているようなジニョンの肩を掴んだ。
「ジニョン!」 振り向かせると、ジニョンの目には涙が溢れていた。

「・・・・私ね・・小さい頃・・オンマが仕事で忙しい時
 ホテルが遊び場だった・・知ってるでしょ?」

「ああ・・僕達はふたりでホテルの中や外・・厨房・・屋上・・
 色んな所を走り回っていた・・」

「社長は・・いいえ、お母さんはいつも・・
 そんな私を危なくないように・・母に代わって
 見守って・・育てて下さった・・」

「ああ・・そうだな・・僕も・・・
 三つの時、義父と義母に養子縁組をしてもらって・・・
 その最初の日に突然病院に連れて行かれて・・
 お前が生まれたことを知った
 その日がお前と初めて会った日だ」

「覚えてないけど?」 ジニョンは無理に笑顔を作った。

「今でも覚えているよ・・お前は小さくて、近づくと甘い匂いがした
 僕は小さなお前を抱っこさせてもらって
 余りに可愛くて・・頬ずりをしたんだ
 それからは毎日、母さんと一緒にお前に会いに行って・・
 毎日毎日、お前を見ていた」

ジニョンは遠い昔話をするジョルジュの横顔を黙って見つめていた。

「或る時僕が言ったんだそうだ
 “ジニョンを・・僕のお嫁さんにしていい?”って・・
 そしたら、母さん・・凄く嬉しそうな顔をして
 “そうね・・そうなるといいわね”って・・
 僕がきっとお前に執着したのは、
 お前を嫁さんにすることを母さんが
 あんなに喜んだからかもな」 ジョルジュは悪戯っぽくそう言った。

「ふふ・・そうなの?」 ジニョンは涙を流しながら笑った。

「でも・・・駄目だぞ」

「何が?」

「フランクは今回の一件で国外追放は免れなくなる
 少なくとも一年以上は韓国への入国を阻まれるかもしれない」

「えっ?どうして?」 

「知らなかったのか・・
 彼はキム会長のものになるはずの債券を
 自分の財産を使ってソウルホテルに有利になるよう動かした
 キム会長がそれを知れば、きっと彼を訴える」

「そんな・・・知らなかった・・」

「それは誰のためでもない・・
 全てお前のためだぞ・・わかってるな。」

「・・・・・」

「お前は彼についてアメリカに行くべきだ」

「・・・・・」

「ジニョン・・・僕がお前を離したのは・・・
 お前を不幸にするためじゃないんだぞ・・」

「でも・・でも・・ジョルジュ・・・
 社長は私にとってもうひとりの母も同じなのよ・・・
 その社長が大事な時に私・・・」
ジニョンは堪えきれずに言葉を詰まらせ、顔を両手で覆った。

「諦めないよ。」 ジョルジュが唐突にそう言った。

ジニョンは顔から覆っていた手を離してジョルジュの顔を見上げた。

「お医者さんが言っただろ?
 諦めるなって・・・
 母さんもきっと諦めない・・いや、諦めさせない
 今はちょっと気弱になっていて
 現実から逃げているのかもしれない
 だからお前に甘えてるんだ
 
 でも大丈夫・・
 僕がちゃんと母さんをここに引き戻すよ
 だからお前は安心していていい・・・わかったな。」

「ジョルジュ・・・」





「ドンヒョクssi?」 ジニョンの声は震えたように聞こえた。

「ジニョン?・・今何処?」 フランクはその理由を知っていた。

「桜が・・・とてもきれい・・・」 ジニョンはまるで呟くようにそう言った。

「・・・・そこを動かないで・・・待ってなさい」 

フランクはただ静かにそう言って、電話を閉じた。


 
   私達は決して・・・


    ・・・最後まで諦めてはいけないのです・・・



   
 























   






  



 


 


2011/01/16 14:49
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

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   drawing by boruneo

music by tomtommama
 

story by kurumi

 

「レオ・・心の準備はいいか」

「ああ、任せておけ・・
 こんな綱渡りは何度もやって来ただろ?」

「ああ・・しかし、今回は泳ぎ慣れたアメリカじゃない
 十分気をつけて、動けよ・・」

「わかってる・・俺はしばらくキム会長側に
 付いていると思わせていればいいんだな」

「ああ、チェーン企業との契約は僕には内密に
 進めていると思わせておいてくれ・・
  できるだけキム会長を安心させておくんだ
 彼を焦らせないよう・・
 まずは株主総会を乗り切らなければ・・」

「お前の取り分だったコミッションは俺が貰うと
 会長に条件を出したら、機嫌が良かったぞ
 完全にお前と仲たがいをしていると奴は思ってるさ」

「油断するなよ」

「了解・・それよりレイモンドの方はどうだ?」

「ああ、順調のようだ・・しかしキム会長の動きを考えると
 少し予定を急いだ方が良さそうだな」

フランクはキム会長が自分に対して抱いていた疑念を
利用しようと考えた。その為にレオは、再三に渡り単独で
キム会長との接触を図っていた。


 

「レイ、そちらの進行状況は如何です?」

「むろん・・抜かりは無い・・私を誰だと思ってる」

「できるだけ早い内に片づけたいのですが」

「いつまでだ」

「早ければ早い方がいい」

「明日が株主総会だと聞いたが」

「ええ・・キム会長の根深い思惑を考えると本当は
 その総会までに解決しておきたいところですが・・
 それはどう考えても無理でしょう、あなたがここへ・・」

「フランク・・今私は何処に居ると思う?」

「何処って?」

「チェジュ島だ」 レイモンドは得意げに言った。

「チェジュ島?」

「ああ・・君からいつ声が掛かってもいいように
 こっちのホテルで仕事をしていた
 総会の開始時間は?・・」

「明朝10時」

「あー10時か・・弱ったな・・こちらで9時に大事な商談がある
 少なくとも1時間は掛かるだろう・・
 その時間にはちょっと無理だな・・だが・・・
 10時半には何んとかなる・・」

「しかしチェジュ島からでは・・」

「任せておけ、奥の手がある・・
 とにかく君はそれまで時間を稼げ」

フランクはレイモンドが何を考えているのか、
直ぐに察知した。

「レイ・・・助かります」

「ソウルホテルが君とジニョンにとって大事な場所なら・・
 私はどんなことでもする・・そう言わなかったか?」

「借りができてしまった」

「借り?今、私がそれを返してるんだ・・君達に」

「レイ・・・」


 
株主総会の当日は雲ひとつ無い快晴だった。

会場となったダイヤモンドヴィラの大ホールには
株主達が次々と現れ、開始10分前には1000もの席も
ひとつ残らず埋まっていた。

議事進行を担ったフランクは開始20分前には着席し、
鍵を握るキム会長を初め、会長側に付いている理事連中の
既に勝利を手に入れたかのように勝ち誇った顔や
逆に、死刑台に引きずり出されでもしたかのように
ソウルホテル社長ドンスクの顔面は蒼白だった。
ハン・テジュンもまた緊張を隠せない様子だった。

それぞれの思惑と決意をひしと感じながら
フランクはひな壇席から彼ら、ひとりひとりを眺めていた。

時計の針が10時を指した瞬間、フランクは口を開いた。

「それでは只今より、ソウルホテル株主総会を
 開催致します。」
彼の声を合図に開場のざわめきはピタリと収まった。



≪10時半頃、屋上のヘリポートにヘリが到着する・・
 君が迎えてくれ≫

株主総会へと向かう直前、フランクがそう言った。

「ヘリ?・・誰が?」

「行けばわかる・・それから彼が到着したら、
 テジュンssiに無線で連絡して欲しい」 
フランクはそれだけ言い残すと、会場へと向かった。

「テジュンssiに?ちょっと!・・ドンヒョクssi?!」

ジニョンは一方的なフランクに口を尖らせていた。
しかしそれでも彼の言いつけ通りに10時半少し前に
屋上に上がると、ヘリを待った。

 

「以上、各議案は承認可決されました。」
フランクの整然とした議事進行は滞りなく、
終焉を迎えつつあった。

「議長!」 
キム会長の隣に着席していたソン理事が挙手をした。

「どうぞ」 フランクはそれを待っていた。

「ここで・・・緊急議案を提議申し上げます・・・
 我々はソウルホテル理事多数の賛同を得て
 ユン・ドンスク社長の解任及び、新社長として
 キム・ボンマン理事を推挙申し上げます」

その言葉に会場全体が一瞬にしてざわめき、
騒然となった。

「静粛に・・」 フランクの声は冷静だった。
「静粛に願います・・・その理由は如何に。」 
そしてフランクはキム会長に視線を移した。

会長は唇を微かに斜め上に押し上げ、
フランクを嘲るように見た。

ソン理事は続けた。

「ソウルホテルの経営状態は悪化を辿る一方であります。
 ご存知のように、銀行融資も差し止められた現在、
 ユン社長の持ち株を持ってしても補えない程の
 膨大な借入金に苦しんでいる以上、ホテル存続は
 難しいと言えましょう。これは同社長の責任が
 多大であると言えます。そこでここはユン社長に
 潔くご退陣頂き、現時点で21%の株を保有している
 キム会長にその任を担って頂くことが最良の策と考えます」

「わかりました・・・この議案へのご意見は・・」
フランクはそう言いながら、ハン・テジュンを見た。

テジュンは大きく深呼吸をして、挙手をした。

「どうぞ」 フランクは頷くように彼に発言を促がした。

「確かに・・ソウルホテルは大きな負債を抱えております
 しかしながら、現在遂行中の21世紀ヴィジョンにより
 経営は大きく変貌を遂げようとしています」

テジュンは当初の緊張も和らぎ、次第に胸を張って
話す様子は自信に満ちていた。

「海のものとも山のものともわからん企画に
 いったい何処の銀行が多額の資金を出すと
 言うんだね」 ソン理事はこともなげに言った。

「銀行からの融資は受けません」 
テジュンは更に胸を張った。

「何を言ってる」 
会場のキム会長側一角がざわめいた。

「静粛に。・・・続けて・・」 
フランクはざわついた会場を一喝した後、
テジュンに視線を向けた。
テジュンは黙って頷くと、キム会長らに視線を戻した。

「ソウルホテルユン社長の持ち株は近日中に
 ある企業に譲られます・・そしてその企業には
 21世紀ヴィジョンの計画実行の統括
 ソウルホテルへの従業員の派遣、各種業務の委託を
 担って頂くことになります、そして・・」

テジュンはここで大きく深呼吸した。

「そして・・・その会社からの条件として・・
 私、ハン・テジュンがソウルホテル社長を
 任命されることになりました。」

「何をバカなことを・・お前ごときが・・社長だと?
 私は21%の株を保有している・・それから・・
 公表は遅らせていたが・・
 他に20%の株も既に私の手にある
 そうだったな、レオ・・・」
先程まで落ち着き払っていたキム会長が
次第に本性を現すかのように語気を荒げ、レオを見た。

レオは一度目を閉じた後、静かにまぶたを上げ口を開いた。
「残念ながら・・・まだ手続きは済んでおりません・・
 現在進行中であると申し上げたはずです」

「なっ・・何をのんびりやってるんだ!」 
キム会長の怒号が会場に響き渡った。

「因みに・・」 フランクがそこで言葉を挟んだ。
「ハン・テジュンssiより提出された資料によりますと
 その企業はチェ社長の株を譲り受けることによって
 ソウルホテル株を42%保有することになる、
 とありますが・・
 それに間違いはありませんか?ハン総支配人」
フランクは余裕ある口調でそう言った。

「相違ありません。」 テジュンは背筋を伸ばした。

「そんなバカな・・何かの間違いだ・・」 

「いや・・今私の手元にあるのは正式な書類に
 間違いはありません・・」 
フランクはキム会長に追い討ちを掛けて言った。

「そんなはずは無い!」

「私が虚偽を申し上げていると?・・
 私、シン・ドンヒョクは中立な立場の議長として、
 申し上げているのですが。」

「・・・・・し・・しかし・・
 まだユン社長の株は動いてはいない・・
 ホテルの資産を銀行に差し押さえられたら・・
 それでこのホテルはお終いだ」
キム会長が同席していた銀行の頭取連中に視線を移すと
頷く彼らを見て胸の内で安堵した。

「これは面白いことになりましたね
 この勝負は・・・
 ホテル側とその企業の提携契約の終結が早いか・・
 キム会長の権利取得が早いか・・
 その如何に依りましょう・・・」
フランクは成り行きを面白がる口調でそう言った。

そしてフランクは腕時計を見た。≪そろそろだ≫

その時社長秘書がテジュンに目配せをした。
「申し訳ございません、緊急の連絡が入りましたので
 失礼を・・」 テジュンはフランクに言った。

「どうぞ」 フランクの視線の端で、テジュンが無線を
使っている様子が見えた。

≪間に合ったか・・・≫
フランクは無表情のまま、心の中で呟いた。

テジュンは無線機を手から離すと、直ちに席へと戻った。
「議長に申し上げます。たった今、この場で
 株譲渡、及び企業提携の契約を執り行うことを
 お認め願えますでしょうか」 
テジュンは声を張ってそう言った。

「今・・ここで?」 フランクは白々しく聞いた。

「はい・・たった今、この度我々と提携する
 企業の代表が当ホテルへ到着致しました・・
 代表が是非に、株主の皆様の御前で今後の
 ソウルホテルの躍進をお約束したいと申しております」

「そうですか・・・株主の皆様、今お聞き及びの通りです
 皆様にとりましても、ホテルの繁栄は望まんとするところでしょう
 如何ですか?」 フランクは出席者に意思表示を促がした。

会場からは一部に対して遠慮がちのまばらな拍手起こった
しかしそれはいつしか、大きな賛同の拍手に変わった。

当然それは、キム会長陣営にとって寝耳に水のことだったが
ここが公の場であるここで、異論を唱える術はなかった。

まるで彼らの歯軋りが聞こえてくるようだとフランクは思った。

「お通しして下さい」 そして彼はテジュンに声を張って言った。


大ホールの観音開きのドアが両側に開くと、二人の男が
支配人ソ・ジニョンに連れられ、入室した。ひとりは
ソウルホテル長男、チェ・ジョルジュだった。その瞬間に
終始青白い顔をしていたドンスク社長の頬に赤みが差した。

そして、長い黒髪を後ろで無造作に束ねたもうひとりの男が
掛けていたサングラスを外すと、その風貌は絵画のように美しく、
凛として少し冷たげな眼差しがその場にいた者を緊張させた。
男は口元に緩い笑みを浮かべ、会場の端から端を見渡した。
そして席へ案内されると、椅子を引いてくれたジニョンに
優しい一瞥をくれ、優雅に着席した。

「ご紹介を願います・・ハン総支配人」 
フランクはその男に一瞥もくれずにそう言った。

「はい・・この方はこの度、ソウルホテルの
 21世紀ヴィジョンにご尽力頂く・・」

テジュンがそこまで言うと、男は席から立ち上がった。
「I introduce myself・・・
 Please forgive a sudden visit.Iam Reymond parkin・・
 I am glad to be able to meet you.」

「Mr.Reymond?Then let's begin it at once・・」 
フランクが手続きを開始する口火を切った時、
キム会長が突然、声を荒げ立ち上がった。

「待ちたまえ!こんな茶番劇など認められるものか!」 

「認められないとは?たった今、多数の株主の皆様より、
 賛同を得られたはず・・・ご覧になりませんでしたか?」
フランクは涼しい顔でそう言った。

「フランク・・裏切るのか」 キム会長はフランクを
睨み付けながら小声で言った。

「私は今、議長として・・飽くまでも中立の立場を
 保持したいと考えます」 フランクは終始毅然としていた。

「・・・・・」 キム会長は力なく腰を椅子に落とした。

「Then let's begin ・・・」 フランクは再びレイモンドに
視線を向けると無表情を崩すことなく、事を進行した。

テジュンが驚いたことには、何もかもが突然のことにも
係らず、この一件の手続きに要する書類が全て
用意されていたことだった。狐につままれたかのような
顔をしたテジュンの視線の先で、まったくの他人のはずの
レイモンドという男とフランク・シンの視線が柔らかく絡んだ
ような気がして、この事実の奥にあるものを納得した。


しばらくして、ユン社長とレイモンド・パーキンの
互いのサインと握手により、ソウルホテルは
大きく変貌を遂げるだろうスタート台に立った。

そして・・・今日この日を境に、ソウルホテルに
「社長ハン・テジュン」が誕生した。


「Mr.レイモンドにお伺いする」 
キム会長は立ち上がるとレイモンドに向かった。
ジョルジュがレイモンドに彼の言葉を通訳した。

「Please talk」 
レイモンドは笑顔を沿えて涼やかに口を開いた。

「あなたはどうして、このホテルを・・
 今にも潰れそうなホテルを手に入れようと
 思われたのですかな?・・お聞かせ願いたい」
キム会長の言葉には諦めと、投げやりな嫌味が含まれていた。

ジョルジュはレイモンドにキム会長の含んだ意味も残さず伝えた。

レイモンドは頷くと、キム会長に向かって満面の笑み
を向け言った。
「It’s sake of the love・・you know?」

「それは・・」と言い掛けたジョルジュをレイモンドは右手で制した。
そしてレイモンドは席を立ち上がると、おもむろに
キム会長のそばへ近づき、彼に握手を求めながら言った。

「ソレハ・・・アイノタメデス」

「愛?」 会長はレイモンドが求めた握手にも応えず
彼の言葉を鼻で笑った。

「Will you be so, too?」 レイモンドは更に笑顔を輝かせた。

「あなたも・・そうですか?・・と」 ジョルジュが間に入った。

「何を・・馬鹿なことを言ってる・・ふざけるな・・
 青二才が・・」 キム会長は吐き捨てるように言った。

「ン?・・」 レイモンドは首をかしげて見せたが、
ジョルジュは黒目を上に上げて、それを訳さなかった。

フランクは俯き笑いを堪えていた。≪レイ、遊ぶのもいい加減にしろ≫
むろんジョルジュが通訳役を“演じていた”ことは言うまでもなかった。

最後にレイモンドは顎を上げ会長に届く程度の小さな声で言った。「We won.」
その顔に不適な笑みを浮かべながら。

キム会長は憤然とした態度を変えられぬまま、出口に向かった。
そしてフランクの席の横を通る時、彼は吐き捨てるように言った。
「これで、済むと思うな・・フランク・・」

「以上を持ちまして、株主総会を閉会致します」 
フランクはキム会長の言葉を背中で聞きながら、悠然と総会を締めた。

 

「ジニョン!」 レイモンドは閉会の合図と共に、席を立つとジニョンに
駆け寄り彼女を強く抱きしめた。「会いたかった・・・」

「私も・・・レイ・・・、さっきは驚いたわ」

ほんの30分前だった。
ジニョンがフランクの言いつけ通り、屋上で待つと、
10時半きっかりに白いヘリコプターがヘリポートへと
降り立った。
そしてプロペラに因って吹き荒れた風の中、そのヘリから
現れ出でたふたりの男がジニョンに満面の笑顔を向けた。

その光景はまるで夢の中の出来事のようだった。

「さっきは急いでいたから、君をこうして抱けなかった
 ごめんよ・・驚かせたかい?・・」

「ホント、意地悪だわ・・言ってくれれば良かったのに」
そう言いながらジニョンはフランクに振り返った。

「彼に頼んだんだ・・ジニョンには内緒にと・・
 10年ぶりだ・・ジニョン・・ああ、何てことだ
 綺麗になったね・・随分と大人になった・・」
レイモンドはジニョンを自分から少しだけ離し、
彼女の頬を両手で挟むと彼女を愛しそうに
見つめながら感慨深げにそう言うと、彼女の額に
優しくキスをした。

「これくらいなら・・許されるだろ?」
レイモンドはそう言いながら、チラリと斜め横に視線を
向けたかと思うと、またジニョンに向き直って微笑んだ。

「まあ・・」
ジニョンも懐かしい人に会えた喜びに心から浸っていた。

「んっ・・んっ!・・レイ・・僕も・・」 たった今、
ドンスク社長やテジュンと挨拶を交わしていたジョルジュが
レイモンドとジニョンに近づいて咳払いをした。

「OK?」 レイモンドは不満げな表情を作って
ジニョンから離れると人知れず出口に向かっていた
フランクに悪戯っぽくウインクをした。

フランクは彼に対して、片方の口角を上に上げると、
無言で会場のドアを押した。

俯き加減の彼のその時の顔は全てに満足したかのように
柔らかく微笑んでいた。

言うまでも無く、キム会長の失敗は、フランク・シンという
男を侮ったことだ。

  どうぞ今はあなた方だけで・・・存分に・・・

 

    ・・・ソウルホテル完全勝利の祝杯を・・・


2011/01/15 20:38
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-30.抱きしめて

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「ソウルホテルの名前が・・消えてしまう」

「名前なんぞ、どうでもいい・・ 
 私は利益さえあれば文句は無い」

「レオ・・・お前か」 

「・・・・」 

「お前の考えか・・」

「ああ・・俺が提案した」 レオはフランクの顔を見据えて答えた。

「・・・・」

「フランク・・やっとわかったよ・・・
 君はどうも、お互いの利益を上げることよりも
 ソウルホテルを存続させることしか頭にないようだな」

「私は理事の立場でソウルホテルを改めて見直ししました
 飽くまでも確固たる理論に基づいた結論です
 ソウルホテルは必ず持ち直します・・時間さえ与えれば・・
 二年・・いや一年あれば経営は軌道に乗るでしょう
 そうなればあなたにとっても・・」

「気に入らないな・・・
 この私が死に掛けたホテルの為に一年もの間、
 無駄金を遊ばせておく道理がどこにある?
 いいからさっさと、売り飛ばしてしまえ」

「それは・・できない。」 フランクは思わず語気を強めた。

「できない?それはどういうことだ
 私と君との間には、純然たる契約書が存在することを
 忘れたわけじゃあるまい?フランク。」

「・・・・・」

「ボス・・俺達はここへキム会長の依頼で来たんだ
 俺達の仕事というのは何だ?
 請け負ったクライアントの望み通りに事を運び
 成功に導き、その利益に応じたコミッションを頂く
 ただそれだけのことじゃなかったか?」

「・・・・・」

「レオの言う通りだな・・フランク・・」

「・・・・とにかく・・少しお考えになった方が・・」 

「考える余地は無い!」 キム会長はフランクが差し出していた
ファイルをテーブルの上に叩き付け威嚇した。
しかしフランクは背筋をピンと伸ばしたまま、眉ひとつ動かさなかった。

「わかりました。今日はこれで失礼します・・レオ!」 
そしてフランクはキム会長の制止も聞かず部屋を出た。
レオは仕方ないという表情を浮かべながら席を立った。

 


フランクとレオはホテルに戻る車の中で、ひと言も口をきかなかった。
フランクは険しい顔のまま、車窓から外を眺めていた。
レオはただ黙々とハンドルを握っていた。


「どういうつもりだ」
部屋に戻ると、フランクはブリーフケースをソファーの上に放り投げ
デスク前の椅子に腰を下ろし、レオを睨み付け詰問した。

「それはこっちが聞きたい。」 
レオは落ち着いた様子でテーブルの端に腰を掛けた。

「お前は僕が雇った弁護士のはずだ」 
フランクは鋭い眼差しでレオを更に睨み上げた。

「俺達はfifty-fifty・・・そうじゃなかったのか?」

「・・・・」

「フランク目を覚ませ・・
 目の前に大きな利益が転がってるんだぞ 
 どうしてそれを拾わない!お前らしくないだろ」

「このホテルは売らない。」

「それはお前が決めることじゃない。
 大半の債券は今やキム会長のものだ・・
 いや・・そうだったよな・・
 お前は最初からこのホテルをキム会長のものに
 するつもりなんてなかった
 お前の狙いは会長を利用して、資金調達をさせている間に
 ホテルの自立を促がし、持ち直そうという計画か?
 教えてくれ・・結果的にもしもそんなことになったら、
 俺達はいったい何処から利益を得るんだ?」

「・・・・・」

「ジニョンssiか・・・彼女の為か?」

「・・・・・」

「なるほど・・しかしよくも今まで俺に隠して、事を進めたな
 俺との10年の積み重ねより
 別れていた女との愛を取るというわけか・・
 青臭い餓鬼じゃあるまし・・
 俺をバカにするのもいいかげんにしろ!」

「お前の利益は僕が保証する」

「はっ!俺の利益?
 俺はそんなことを言ってるんじゃない!
 どうして最初から、本当の計画を話さなかった!
 影でこそこそとお前が動いていることに
 俺が気が付かなかったとでも?ふざけるな!」

「そうじゃない!」

「だったら何だ!・・お前がその気なら・・
 俺は構わんさ・・
 しかし、俺一人ででもホテルは売る
 クライアントであるキム会長は売りたがってる
 買いたいという企業も揃ってる
 今ならお前より俺の方が有利に立ってると思わないか?
 ・・・そうだろ?」

レオはフランクに向かって、言いたいことを並べ立てると
ひと言も口を挟めずにいたフランクを置いてさっさと部屋を出て行った。

 


レオが部屋を出ようとした時、出会いがしらにジニョンとぶつかった。

「きゃっ!」 
レオはジニョンを睨み付けた。
ジニョンは彼の形相に思わず後ずさりした。
レオはそのまま、ジニョンに言葉も掛けず坂を下りて行った。

ジニョンがフランクの部屋に入ると、彼が仕事用のデスクの前で
難しい顔をしていた。

「どうしたの?・・今、レオさんが・・」

「何でもない」 フランクは無愛想に言いながら立ち上がった。

「何でもないって・・」

「何でもない!」 フランクは上着を乱暴に拾い上げると
レオと同じように部屋から出て行った。

「何よ!・・な・・何よ!せっかく・・」 
ジニョンの声だけがフランクを追いかけた。

「逢いに来たのに・・・」

 

 


「もう十年も前の話です・・
 いくらで僕と組む?奴はそう言った
 俺はね、fifty-fifty、そう言ってやったんだ・・
 そしたらあいつはこうやってポケットから70ドルを出して
 これが今日の僕の儲けの半分、そう言いやがった」

レオはポケットに手を突っ込んでそれをまた出す仕草を付けて言った。

「あいつの獲物を狙うような鋭い目には身震いがした
 俺はそれに惚れて、まだ若造だったあいつと手を組んだ・・
 俺はね・・こう見えてもその当時から名うての弁護士だったんだ
 聞いてくれ・・その俺がだよ・・
 まだ海のものとも山のものともわからんあいつを
 その場でパートナーに選んだ」

「そんなに若い時から・・・」

「そう!それからずっと・・・
 ずっと一緒にやってきたんだ」

「ジニョンもそういう彼を好きになったのかしら・・・」
 
私服姿のイ・スンジョンが、フランク・シンという男の人となりを
興味深げに聞き入り、感心したように頷いた。
彼女もジニョンからいつも聞かされる彼のことが気になっていた。
それで先日このカサブランカで少しばかり意気投合したレオからの
誘いを受けたのだった。

「好き?知るもんか・・そんなこと!」
レオは少々酔い潰れていた。

「あいつは非情で・・冷徹で・・
 拳銃をこめかみに当てられてさえ怯まない奴だった
 そんな奴が・・たかが女の為に全てを捨てようとしてる」

「たかがとは失礼ね・・素敵な話だわ」

「何が素敵なもんか・・血迷ってるに決まってる」

「そうかしら・・」

「しかしだ!・・」 
レオの熱弁が続きそうな気配を背後から低い声が遮った。
「邪魔して悪いかな」 
フランクがふたりの間の後ろに立っていた。

レオはフランクから顔を背けたが、スンジョンは席を譲って
自分とレオとの間にフランクの席を作った。

「あ・・この方、今、あなたのことを自慢してらしたの」

「自慢?バカ言え」

「バカとは何?聞き捨てならないわ」

「バカだからバカと言ったんだ」

「まっ!」

「友達?」

「いいえ!」
「友達なもんか」

「あの・・少し、いいでしょうか」 
フランクはスンジョンに向かって申し訳なさげに言葉を淀ませた。

「えっ?・・あ、ああ・・私はこれで・・失礼します・・
 酔っ払って管を巻くだけなら、呼びつけたりしないでね」
フランクに軽く会釈をした後、レオに向かって悪態をつきながら、
気を利かせたスンジョンが席を立った。

「いつから彼女と親しく?・・」 
イ・スンジョンのことはジニョンから聞かされていたが、まさか
レオと親しく話をするようになっていようとは思わなかった。

「お前とジニョンssiが宜しくやっていた時だ」
そう言いながら、レオは顎をしゃくって二階を指した。

「・・・・・」

「何の用だ」 レオの言葉は変わらずぶっきらぼうだった。

「もう一杯どうだ?」 フランクは穏やかに言った。

「もう飲み過ぎた・・水くれ・・」

「ここだと思わなくて、外を探したんだ」

「俺を・・探したのか・・お前が?」

「ああ」

「俺の考えは変わらんぞ」

「ああ・・いいよ・・・
 ただ聞いて欲しいだけだ」

「・・・・」

「お前に話さなかった理由」

「・・・・」

「それは・・」

「聞かなくてもわかってるよ・・
 どうせ、俺に火の粉が掛かるのを防ぐとか何んとか・・
 そんなところだろ?
 何年お前と仕事してると思ってる」

「僕にとってジニョンは何にも換えられないものだ・・・
 彼女が全てなんだ・・・」

「ぬけぬけと・・」

「しかし・・彼女との事は・・・飽くまでも個人的なこと・・
 お前を巻き添えにするわけにはいかなかった
 でも、僕がひとりで韓国に渡るなんて、
 お前は許さなかっただろ?だから・・」

「だから・・俺を蔑ろにしたわけか」

「レオ・・・」

「・・・・」

「こっちに来て・・父に会って・・妹にも会えた・・
 血の繋がった人間と21年ぶりの対面を果たしたんだ・・
 嬉しいことなんだよな、これって・・
 でも・・まだその実感が沸かないんだ・・・
 父とどう接していいのかわからない
 幸せにしてやりたいと思ってた妹なのに
 どうやって幸せにしたらいいのか・・わからない
 もともと僕は大切な人に何をしてやったらいいのか
 その術をまったく知らない人間だ」

「だからどうした」

「それでも僕は今まで自分の思うように生きて来られた
 仕事で成功もできたし・・金も・・
 食うには困らない・・・」

「どれだけ食う気だ?」

「フッ・・レオ・・・今までこんなこと言ったことないが
 今までこうして生きてこられたのはきっと・・・
 お前が僕の我侭を許してくれていたからだと
 今更ながら・・そう思うんだ
 この10年間・・僕にとっての家族はお前だけだった」

「・・・・・」

「なぁレオ・・家族の幸せを願うのはいけないことか?
 僕がお前の幸せを願うことは・・余計なことか?」

「だから・・何だと言うんだ」

「だから・・言えなかった。」

「だから!言うべきだったんだ!」 
強い口調で言い放ったレオはその目に涙を浮かべていた。

「・・・・・」 フランクはレオのその様子に息を呑んでいた。

「10年前・・お前がジニョンさんを命がけで救おうとしたことを
 俺が知らないわけじゃないだろ?
 ここの一件がレイモンドから回されたと聞いた時から
 お前がいつ打ち明けるのか・・そう思ってた
 待ってたんだ!・・お前の言葉を・・」

「レオ・・」

「何年付き合ってるんだ?俺達は・・
 家族だって?・・今頃気づきやがって・・
 俺は最初からそう思ってたんだ!」 
レオはその言葉を最後にフランクからそっぽを向いて
カウンターにうつぶせた。

フランクは込み上げてくる熱いものを堪えるようにグラスの淵を
口元に近づけたが、結局その液体を口の中に流しこむことは
できなかった。

 

 

ジニョンがアパートで眠りに就いた矢先、枕元に置いていた
携帯電話のベルが鳴った。

「はい・・ソ・ジニョン・・・」

「ジニョン?」

「フランク?」≪あ、またフランクって・・≫
ジニョンはとっさに後悔したが、言い直さなかった。
「な、な~に?眠ってたのよ」
ジニョンはあくびを堪えるような声を作って言った。
実の所彼女は、数時間前のフランクの様子が気になり、
今まで眠れずにいたのだった。

「ごめん・・どうしても声が聞きたくて・・」
ジニョンにはフランクの声が寂しそうに聞こえた
「ん~しょうがないわね・・今日、何かあったのね」

「ま~ね・・」

「話したい?」

「いや・・いい・・君の声を聞けただけで・・」

「そうなの?」

「ん・・・」

「そう・・」

「それじゃ・・お休み・・」 
「あ・・待って・・」 
電話を切ろうとしたフランクを、ジニョンは慌てて止めた。

「眠いんでしょ?」

「もう目が覚めたわ・・もう少し話を・・しててもいいわ・・」

「そう?」

「ええ・・」

「だったら・・・逢いたい」

「えっ?」

「窓の下」

ジニョンは慌ててベランダに続く窓を開け外へ出ると、下を見た。
暗闇にポツリと立つ一本の外灯のそばに上を見上げたフランクが見えた。
ジニョンは呆れた顔でベランダの手摺りにもたれると、
受話器を口に近づけた。

「行ってあげない」

「それはないでしょ?」

 


二分ほどして勢いよく走って下りて来たジニョンが、
フランクの前で立ち止まると、小さく呼吸を整えながら優しく睨んだ。

「何時だと思ってるの?」

「ん~2時?・・」

「呆れた」

「逢いたくなったんだから仕方ない」

「困った人ね」

「そうだね・・おいで・・」 フランクはジニョンに両手を伸ばした。
ジニョンは少し困ったような顔をしながらも、彼の腕の中に
体をすっぽりと埋めると、緩めた頬を彼の胸に付けて目を閉じた。

「寒い?」 フランクは彼女の体を自分の上着で包み込むように抱いた。

「ううん・・大丈夫」 ≪いったい何が・・あったの?・・≫

「少しこうしていてもいい?」

「いいわ」 ≪私はあなたに・・何ができるの?≫

「ジニョン・・・」

「何?」

「愛してる」

「そうだと思った・・」

「はは・・ばれてたか」

フランクは今の自分の幸せの全てを決して離すまいとするかのように
ジニョンを抱く両腕に渾身を込めた。

「そうよ・・・とっくに」 ≪こうしていればいいのね≫


そしてジニョンもまたそんなフランクの心を理解したかのように
彼を抱きしめた。


  私はこうして・・・

  あなたを抱いていれば・・・いいのね・・・



     ジニョン・・・僕は君のぬくもりに抱かれていれば

     どんな試練をも乗り越える勇気をもらえる

     だからいつもこうして・・・僕を・・・

       
         ・・・抱きしめていて・・・









   






  



 


2011/01/15 02:33
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passion-29.心の涙

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「ドンヒョク・・・」 ジニョンはフランクをそう呼んだ。

しかしそのことを当のジニョンも気が付いてはいなかった。

ただ・・・

今、彼女の目の前に寂しく佇むこの人は・・・

21年前別れた父と妹を前にして、彼らを・・・いや
自分自身を受け入れることの難しさに足掻き苦しむこの人は・・・

間違いなく“シン・ドンヒョク”その人だった。

「ドンヒョク・・・泣かないで・・・」

フランクは泣いてなどいなかった。

しかし、彼自身、説明のできない感情が息苦しく胸を突き上げ
それを持て余したまま、立つのがやっとであるかのように
ただそこに立ち尽くしていた。

少しして、ジニョンの温もりに呼び戻されたかのように我に帰った彼は
目を閉じたまま背中から回された彼女の手にそっと手を重ねた。

前にもこんなことがあった、とフランクは思った。

  まだジニョンと出逢って間もない頃・・・

  あの時もそうだった

  涙など流していない僕の頬を撫でながら

  ジニョンは言った・・・

  ・・・泣かないで・・・

  僕はその時、彼女のその行為に衝撃を受けた

  自分の心を簡単に見透かされたことに・・・

  そして彼女のその温かさに

  本当に泣いてしまいそうな自分に驚いたんだ・・・


「ジニョン・・・僕は今・・・泣いているの?」
フランクは目を閉じたまま上を仰いで静かに口を開いた。

ジニョンは彼のその言葉に、ただ黙って彼に回した腕に力を込めた。

「ごめん・・・」 
しばらくしてフランクはジニョンの手を自分の体から少し緩めると
彼女にゆっくりと振り返って言った。
「ごめん・・・せっかく君達が用意してくれた席を・・
 台無しにしてしまったね」

「・・・・・」 ジニョンはただ黙って彼を見上げていた。

「どうしようもないな・・僕は・・」

「・・・ドンヒョク・・・」

「フランクじゃないのかい?・・今の僕は・・」 
フランクは愉快そうに笑いながらそう言った。

「あ・・・」 ジニョンは彼に言われて、自分が彼をそう呼んでいることに
初めて気がついた。

「フッ・・何だか、変な気分だ」

「そうね・・・でも・・・今のあなたはフランクじゃない
 シン・ドンヒョク・・そうでしょ?」

「ああ・・・そうだ・・・そうだね・・・きっとそうだ」 
ジニョンはそう答えた彼が戸惑いながらも自分自身の存在を
素直に認めたようで何故か嬉しかった。

「ごめんなさい・・」

「何が?」

「あなたにとって、ドンヒョクという名前は・・・
 あなたという存在そのものだったのに・・・私・・」

「ジニョン・・・謝る必要なんて無い
 そんなに大層なことじゃないだろ?」
フランクは少し困ったように、ジニョンの頭を撫でた。

「・・・・・・」 ≪そんなことないわ・・・≫
ジニョンはフランクに掛けるべき言葉を探せないまま、
彼の胸に顔を埋め、その背中に腕を回すと優しく彼を抱きしめた。

「君にとって僕は・・僕であればいいんだ」

「・・・・・・」 ≪そうじゃない・・・あなたは・・・
シン・ドンヒョクに戻りたかったのよ・・・そうよね・・・≫

「あの子に・・ジェニーに悪いこと・・したな・・・」

「ええ・・」

「でも・・・」 フランクはゆっくりと視線を落とした。

「戻りたくない・・・そうなのね・・今は・・・」 
ジニョンは彼の言葉の続きを代わりに言った。

「ああ・・いいだろうか?」

「残念がると思うわ・・ジェニーも・・お父様も・・でも・・」

「・・・・少し・・頭を冷やしたい・・・」

「・・・ひとりで?」 ≪今は私も・・いない方がいいのね≫

「ん・・・ごめん・・・」

「わかったわ・・」 ジニョンはそう言って、また彼の胸に頬を添えた。
「いい?ドンヒョクssi・・・これだけは言わせて・・」

「ん?・・」

「・・・あなたは・・ひとりじゃないのよ」

「ん・・・わかってる・・・」

「なら、いいわ・・・わかっているならいい
 ・・・ひとりにしてあげる」
ジニョンはそう言いながら、彼を抱きしめた腕に更に強く力を込めた。

「ん・・」 
そしてフランクもまたジニョンを包み込むように優しく抱きしめると
彼女の髪に唇を落とした。







「彼はどうした?」 
ジニョンがテジュンの元に出向くと、彼は開口一番にそう言った。

ジニョンは「大丈夫・・」とただ小さく笑みを返した。
「でも今はひとりでいたいんだって・・・」

「ふ~ん・・」

「彼・・・家族という存在に困惑しているの・・・
 たったひとりで生きることに慣れ過ぎてしまっていて・・
 突然目の前に現れた血の繋がった人間と
 どう接していいのかわからないのよ」

「それはジェニーだって同じだろ?」

「そうね・・・同じよね・・でも違うのよ・・・
 彼は親に捨てられたことで深く傷ついて生きてきた
 10歳の時よ・・遠いアメリカに連れて行かれて・・
 言葉もわからない大人達の中に放り込まれたんだわ
 私・・そんなこと想像しただけで震えてしまう
 でもジェニーには父親に捨てられた記憶が無いわ 
 それって・・大きな違いじゃない?・・」

「寂しい男は女心をくすぐる・・か・・」 

「ちゃかさないで」

「あいつのこと・・わかってるんだな」

「いいえ・・わかっていないわ・・」

「・・・・」

「わかっていたら・・・
 何をしてあげればいいのかわかっていたら・・
 こんなに苦しくないもの・・」 
ジニョンが声を詰まらせながらそう言うと、彼女の頬を涙が伝った。

「フッ・・」

「何が可笑しいのよ」 ジニョンはテジュンを涙目で睨み付けた。

「・・・わかってるから・・苦しいんだ」

「・・・・・」

「あいつが羨ましいよ・・あ~あ、
 俺も養子にでも行くんだったな」 テジュンはそう言いながら
両腕を頭の後ろに回して背伸びをした。

「酷いわ・・そんなこと言うの」 

「・・・そうだな・・悪かった・・」

「悪いと思ったなら・・・いいわ」 

「はっ・・」

「思ってないのね」

「思ってるよ」

テジュンとジニョンはふたりで顔を見合わせて笑った。

「彼、言ってたのよ」

「何を?」

「あなたが羨ましいって」

「何で?今やホテルはあいつの思うままだし・・
 お前だって、あいつの・・」 テジュンは言い掛けて止めた。

「ジェニーがあなたのことを自慢げに話すから」

「ああ・・」

「焼もちやいてるの・・彼・・」

「いい気味だ。」

「酷いわ」

「それくらい・・思ったっていいだろ?俺だって・・
 いや、何でもない・・」
テジュンは自分がジニョンへの想いをどれほど制御しているのか
彼女には到底わからないのだろうと、諦めたように溜息をついた。

「・・・それよりジェニーは?」 ジニョンは確かにわかっていなかった。
彼女の心の中は今、フランクへの想いではちきれそうで、
テジュンの心を慮る余裕などなかった。

「ああ・・大丈夫だ・・
 あの後、料理長がフルコースを振舞って
 今は奴が予約を入れたスゥィートで親子で寛いでいる・・
 兄貴のことは気にしていたがな・・」

「そうでしょうね・・後でジェニーには私から話しておくわ」

「ああ・・そうしてやってくれ・・それよりこの前
 ジョルジュから連絡があった」

「ジョルジュ?」

「奴の雇い主が、韓国に事業展開をするらしい
 その手助けをして欲しいと頼まれた
 それが成功したら、ホテルに資金を出してくれると・・」

≪レイ・・・≫ 「そうなの?」

「俺が何の手助けができるのかわからんが
 話を聞いてみようと思う」

「そう・・・ジョルジュ、戻ってくるって?」

「いいや・・そのつもりはないようだ
 今の仕事に生きがいを見出した、そう言っていた」

「そう・・」

「ジニョン・・」

「ん?」

「いや・・何でもない・・・」 ≪もう俺達に望みは無いか≫

「言い掛けて止めるなんて・・失礼・・」
ジニョンはそう言い掛けて、テジュンの熱いまなざしにやっと気が付いた。
「私・・・」

「わかってるさ・・・俺だって、お前のことはよくわかってる
 あいつに負けないくらいにな」

「テジュンssi・・・ごめんなさい」

「それじゃ・・これからジョルジュとまた国際電話だ」

「そう・・頑張って」

「ああ」 テジュンはジニョンに背中を向けたまま手を振り立ち去った。






フランクがサファイアを出て、車で坂を下りかかった時、
坂を上がってくるジェニーの姿が見えた。
フランクは慌てて、レオに停車を命じた。

「ドンヒ!」

ジェニーはフランクの声に驚いて振り返った。

「・・・・僕のところへ?」

「あ・・ええ・・あの・・昨日は・・
 ホテルに部屋を用意してくれて・・・ありがとう・・ございます」

「・・・他人じゃないんだから・・そんなふうに
 言わないでくれないか?」

「お父さん・・お兄さんに会わないで帰って・・
 申し訳ないって・・これ・・お父さんのお土産・・」
ジェニーはそう言いながら、手に持った袋をフランクに渡した。

「ああ・・昨日は・・悪かったね・・」

「ジニョンオンニが・・
 急に仕事が入ったって・・」

「あ・・ああ・・本当にごめん」
フランクが項垂れて謝ると、ジェニーは大きく頭を横に振った。

「・・父さんには家を買おう・・・
 そうしたら君はいつだって父さんに会いに行ける
 それから君は、僕の仕事が終わったら
 一緒にアメリカに帰るんだ
 これからは、今まで出来なかったことを沢山やるといい
 遊びも・・勉強も・・」

「やりたいことなんて・・・ありません・・・
 ただここで料理の勉強をしたかった・・・」
ジェニーはそう言うと表情を曇らせ、俯いた。

「・・・・・」

「この前・・ソ弁護士に呼ばれました」

「あ・・・」

「私・・・リストラされるんですね」

「いや・・それは・・」

「いいの・・・
 もともと厨房には無理を言って入れてもらってたんだし
 経験も浅いし・・それに・・
 私が残るわけにはいかないのもわかる・・だから、私はいいの」

「そんなにここにいたいの?
 君はもう、何ひとつ苦労することなんてないんだよ」

「苦労だなんて・・思ったことないわ
 ここの人達は優しくて・・・居心地が良かった
 本当の家族みたいで・・・」

「僕と一緒にアメリカに帰るのがそんなに嫌かい?」

「あ・・いいえ・・・でも・・・」

「でも?」

「でも・・・私・・テジュンssiに恩返しがしたい
 オッパ・・・オッパにホテルを奪うほどの力があるなら・・
 救うこともできるでしょ?」

「・・・・・」

「このホテルを助けてくれない?ね、オッパ・・お願い・・」

「・・・・・」

「だめ?・・」 ジェニーは切なげにフランクを見上げていた。

「ボス!時間が無いぞ!」 レオが車のウィンドー越しに声を張った。

「ジェニー・・・ごめん・・今は何も言えない
 ごめんよ・・仕事があるんだ、急がないと・・
 また今度、ゆっくり話そう・・ね。」

フランクはドンヒの肩に手を掛けながら心の中で思っていた。
≪この子の為にも・・・失敗は許されない・・・≫







フランクとレオがキム会長とのランチミーティングの席に到着すると
キム会長は既に席に就いていた。

「お待たせして申し訳ございませんでした」

「いや・・今到着したところだ」

「では早速、今までの経緯と・・次回の株主総会についてですが」

フランクが着席するなり、ブリーフケースから書類のファイルを抜き出し
それを開いた時、キム会長は言葉を挟んだ。

「株主総会で、現社長の退任を提議する」

「・・・・・」

「現在のホテルの状況では、彼女の持ち株を処分しなければ
 立ち行かないよう、既に手は打ってある」

「そうですか」

「それから・・これを・・フランク・・」 
キム会長は、持っていた資料をフランクに差し出した。

「これは?」

「その手はずが済んだら・・・」

「・・・・・」 

「ホテルを欲しいという企業が現れたんだ」

そう言いながら、キム会長は資料を顎をしゃくって指した。
フランクは差し出された資料を無言で捲っていた。

「どういうことですか?・・・
 ホテルを手に入れるのが目的だったのでは?」

「そのチェーンに株を譲ると決めた」

「・・・・・」

「先方は君が携わるなら、もう少し高値をつけてもいいと
 言っている・・早速その仕事に掛かってくれ」

「アメリカの企業ですね?」

「ああ」

「そうなると・・・
 ソウルホテルの名前は・・消えてしまう」
フランクはそう言葉にしながらも、胸の内の動揺を悟られまいと、
努めて平静を装った。
 
「名前なんぞ、どうでもいい・・ 」

「ソウルホテルの伝統も・・何もかも・・」 フランクは呟くように言った。

「私は利益さえあれば文句は無い」
キム会長は冷ややかにフランクを見やり、そう言った。

フランクは会長のその目を見据えたまま、少しの沈黙の後
口を開いた。


「お前か・・・

   
     ・・・レオ・・・」・・・










   






  



 



2011/01/11 09:44
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passion-28.証

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翌朝ジョギングから戻ると、部屋の前にジェニーが立っていた。
彼女の目が、ジニョンから事情を聞いてそこに来たことを物語っていた。

「・・・・・朝ごはんは・・・食べた?」

「ええ・・朝ごはんはちゃんと食べないと、
 仕事にならないからって、テジュンssiが・・・」

「これから仕事?いつもこんなに早いの?」
フランクはジェニーの口から出たハン・テジュンの名前を一度は無視した。

「厨房で認めてもらえるまで、みんなより30分早く出て
 30分遅く帰りなさいって・・テジュンssiが・・・」

「テジュンssiが・・・そんなことを?」
フランクは妹ドンヒにとって、ハン・テジュンという男が
いかに重い存在であるのか認めざる得なかった。

「ええ、テジュンssiは私に色んなことを教えてくれます」

「そう・・・」

「私昔・・・とても人に言えない生活してたんです」

「苦労したんだね」

「忘れました・・・でもテジュンssiがいつも親身になってくれたから・・・
 生きてこられたんだと思います・・」

「・・・・」

「・・・慰めてくれたり・・叱ってくれたり・・
 命がけで助けてくれたこともありました・・」

「そう・・・」 フランクは視線を下げて静かに呟いた。

「今・・こうして大好きな料理の仕事をさせてもらえるのも
 みんな・・テジュンssiのお陰です」

「料理が好きなの?」

「ええ」

「・・・・・・」

「あ・・でも・・・本当のお兄さんが・・・成功してくれていて・・
 良かったです・・・本当に・・・」

「・・・・・・」

「・・・・いい人だったら・・・もっと良かったけど・・・」

フランクは俯きがちにそう言ったジェニーの言葉を聞いて、
寂しそうに苦笑した。

「あの・・もう行かないと・・仕事の時間なので・・」 
ジエニーがそう言いながら立ち上がろうとした時、フランクは言った。
「・・・・両親のことを知りたいかい?」 

「生きているんですか?」 
生まれて初めて対面した肉親を前に居心地の悪さから、できるだけ早く
その場を立ち去ろうと構えていた彼女が目を輝かせ、再度腰を下ろした。

「ああ・・父親は・・・。
 母親は君を生んで一年後に亡くなったけど」

「もう誰も生きていないのかと・・」

「君が会いたいなら・・・」
「会いたい!」 フランクの問いかけにジェニーは即座に答えた。

フランクはジェニーの悲痛なほどの眼差しに、心を乱されていた。
もう二度と会わないと、あの日自分が突き放してきた父親に、
会いたいと望む妹が今目の前にいる。

≪僕達を捨てていった人なんだよ
 それでも・・・そんなに会いたいの?≫

「会わせて下さい」

「ああ・・わかった・・」 ≪君がそんなに望むなら≫ 
フランクはまたも寂しげに視線を落とし、溜息をついた。

 




「いよいよ明日ね・・お父様・・来て下さること承諾下さって・・
 本当に良かった・・」 ジニョンは本当に嬉しそうにそう言った。

「ん・・」 しかしフランクは気乗りしない思いを露に俯いた。

フランクはレオに頼んで東海まで父親を迎えに行ってもらったものの
フランクの要請を一度は父が≪自分にはその資格が無い≫と、
頑なに拒んだと聞いた。
フランクは正直、“それならそれでもいい”と思った。
彼自身は父という存在をとうに棄てていたからだ。

しかし結果的に父はレオに説き伏せられ、明日彼に連れられ
やってくることになった。

「嬉しくないの?」

「どうしてあの子はあんなにも、あの人に会いたがるんだろう」

「どうしてって?」

「あの人があの子にどんな仕打ちをしたのか・・
 恨んで当然なのに・・」 フランクは不服そうに眉を顰めた。


「ジェニーね・・・二歳の時アメリカに渡ってからずっと・・
 養子先で幸せに暮らしていたらしいわ
 七歳の時まで、自分がその家の本当の子供だって
 信じて疑わなかったらしいの・・・
 学校に通うようになって、友達に言われるまで・・」

ジニョンは今日はこの話をフランクにしようと、サファイアを訪れていた。

「パパとママと肌の色が違うねって・・」

今まで自分の生い立ちについて多くを語ろうとしなかったジェニーが、
ジニョンに自ら語り始めたのはきっと、彼女を通して兄フランクに
伝えたかったのだとジニョンは察していた。

「・・・・」

「養父母達は、本当のことを話す機会を作ろうとしていたらしいわ
 きっと実の親のことも話して聞かせる用意があったんだと思う
 でも、ジェニーがそのことに触れないようにしていたって・・
 その頃は本当の両親に会いたい、なんて思わなかった・・
 今の幸せを失いたくない、ただそう思ってたって・・」

「・・・・」

「あなたがあの子をどうして捜さなかったのか・・後悔してること・・
 伝えたの私・・・そしたらあの子、こう言ったわ・・
 “私は自分のルーツを知る機会を・・自分から捨てたんだ”って・・」

「・・・幸せに暮らしていたんだね」 
フランクはホッと安堵したかのように溜息をついた。

「ええ・・十三の年までは・・」

「十三?」

「その年に養父母が交通事故でふたりとも亡くなって・・・
 車の衝突事故だったらしいわ」

「・・・・・!」

「あの子も一緒だったらしいの・・その事故の時・・
 三人とも後部座席にいて・・
 ご両親があの子を両側から抱きしめて守って下さった
 それであの子は辛うじて助かったの・・・」

「・・・・・」
  
「養父母には親御さんもご兄弟もいらしたけど
 縁もゆかりも無いジェニーを引き取ろうという人は
 ひとりもいなかった・・・
 それで結局あの子は家族が通っていた教会の牧師さんの元に・・」

「・・・・・」

「そこで親に捨てられた多くの子供達と遭遇して
 自分がそういう子供達と同じだったって・・改めてわかって・・・
 やりきれない思いだったって・・
 血の繋がらない育ての親は命がけで自分を守ってくれた・・
 でも・・本当の親は自分を捨てたんだって・・・
 その頃かららしいわ・・あの子が荒れ始めたのは・・」

「・・・・・」 フランクはジニョンから顔を背けたまま
彼女の話を無言で聞きながら、溢れ出る涙を堪えることができなかった。
「フラン・・ク?」
 
彼の胸に言いようのない悔しさが込み上げて仕方なかった。
「どうして・・・その時・・」

「・・・・」

「どうしてその時に・・・
 僕が・・あの子と・・出会わなかったんだろう」

「フランク・・・」

「捜すべきだったんだ・・・僕は捜すべきだった
 その頃の僕なら・・できたはずなのに・・
 あの子を捜すことも・・守ることも・・できたはずなのに・・
 僕はそうしなかった・・・」

「自分を責めないで・・お願い・・フランク・・」

フランクは依然としてジニョンから顔を背けたままだった。
頬を止め処なく伝う涙を彼女に見られたくはなかった。

「それなのに・・・」 フランクは苦しい呼吸を懸命に整えながら続けた。

「えっ?・・」

「それなのに・・どうしてあの子は・・・あんな親に会いたがる?
 恨んだはずだろ?・・恨んで当然なんだ
 本当の親は・・あの人は・・あの子を守らなかったんだから・・」

「・・・・・・・・あの子・・ここに来る前にもね・・
 死ぬ程危ない目に遭ってるの
 テジュンssiが命懸けで助けたのよ・・」

「・・・・」 

「そこから彼女を逃げ出させるためにテジュンssiも
 住んでいた場所を離れたの・・
 その時、彼女が彼に言ったそうよ・・
 “本当の家族に会いたい”って・・
 “韓国に連れて行って欲しい”って・・
 何でもするから・・今度困らせるようなことをしたら
 今度こそ放り出してくれていいからって、頼んだの・・
 きっと・・死ぬような思いをして・・・
 潜在していた家族への思いが蘇ったんじゃないかしら・・
 私は・・・そう思うわ・・」

「・・・・・」 
フランクは変わらず、ジニョンの話しを顔を逸らしたまま聞いていた。

「それに遅いことなんてない・・・
 あなた達はこうして出会ったんだもの・・
 ねぇ、フランク・・思わない?・・・・」
ジニョンはフランクが自分の方を向くのを待った。

フランクはひとつだけ深呼吸をするとやっと、ジニョンに視線を戻した。

「私は思うの・・・今だからこそ
 あなた達を神様が会わせて下さったって・・
 今のあなただからこそ
 あの子の想いをわかってあげられるんじゃない?

 それに・・こんな偶然・・あるわけないじゃない・・
 だってほら・・私とジェニーが今一緒に暮らしてるのよ
 あなたにとって妹なら・・私にとってもそうでしょ?
 あの子・・私のこと“オンニ”って慕ってくれてるのよ
 そうよ・・これって運命なのよ・・
 だから・・遅いことないの・・それに・・
 あの子は本当に肉親に会いたがってたの
 あなたは今・・あの子の一番の望みを叶えてあげている
 そうでしょ?」

「・・・ジニョン・・・」 
ジニョンが身振り手振りを交えて、懸命に彼を慰めている姿に
フランクは思わず噴出して笑った。

「何が・・可笑しいのよ」 ジニョンは口を尖らせてフランクを見上げた。

「ハハ・・・ごめん・・・
 だって君の顔があまりに真剣だから・・」
フランクは少し大げさにお腹を抱える仕草で笑って見せた。

「フランク!・・笑い過ぎ・・」 

しかし彼女にはわかっていた。

フランクは今、妹ジェニーを思って張り裂けそうな程の後悔に
懸命に耐えているのだと。








翌朝、サファイアの前で待つフランクの前に、ジニョンに連れられた
ジェニーが照れくさそうに現れた。

フランクは遠い日に妹の身に起きていた悲しい出来事を思いながら
彼女を愛おしそうに見つめた。
白いブラウスに、同じく白い長めのスカートをはいた妹を
まるで労わるように。

 ≪あの子ね・・足に傷があるの・・事故の時の・・・
   右足の膝下に・・残ってるの
   だからいつも長いパンツしかはかないの
   でも明日は・・おしゃれさせるわ・・・≫

そしてフランクは誓っていた。

≪もうこれからは決して・・・
  お前を不幸にはしない・・・≫



ジェニーはほんの数日前に兄となった男を前に、心が複雑に
揺れ動いていた。

自分にとって、心の兄はテジュン以外になかった。
今更、彼以外に本当に心を許せる兄などできるはずはない。
ジェニーはそう思っていた。

そのテジュンがこう言った。

≪あいつがどんな奴だろうとお前と血の繋がった兄貴なんだ・・・
  会いたくてたまらなかった本当の家族に会えたんだ・・
  お前は素直に喜べ・・≫

彼のその言葉に、ジェニーは黙って頷いた。

テジュンの言うことに間違いなどあるはずがなかったから・・・。

でも・・・その兄は・・・
≪大切なホテルの敵・・テジュンssiの敵≫

そして・・・
≪ジニョンオンニを・・テジュンssiから奪った人≫

しかし目の前で自分を温かな眼差しで見つめるフランクに
ジェニーは心を囚われていた。

それでも・・・ ≪私の・・・オッパ・・・≫



「行きましょう」 
ジニョンが目の前のまだぎこちない兄妹を温かい眼差しでいざなった。

「ああ」 フランクは昔よく繋いでいた小さかった手を思いながら
ジェニーに手を差し伸べた。
ジェニーは戸惑いながらも、差し出されたその手に包まれた。
それは彼女にとって、初めての肉親の手だった。

≪大きな手・・≫ 

彼女は自分の胸が何かに圧迫される恐怖に震えながら
それでも何故か心地良い温もりをその手から感じ取っていた。




ダイアモンドヴィラの一室が、テジュンの心遣いによって、
ジェニーと父との再会の場所となっていた。

レオに連れられソウルホテルへと案内されて来たその父は
馴染めないテーブルの前で落ち着かない様子だった。
フランクとジェニーがジニョンに案内されて中へ入ると、
父はすぐさま椅子から立ち上がった。

テジュンやジニョン達は長い時を経て巡り合った家族の為に
静かに席を外した。


対面を果たした三人は、互いから少しだけ視線を逸らしていた。
家族と呼ぶには、余りに長い年月をそれぞれに過ごし過ぎていて
その緊張を破るのに少しの勇気が必要だった。

「お父さんだ・・・挨拶を・・・」 
フランクはジェニーに向かって静かにそう言った。

  ≪君を捨てた男だよ、ドンヒ・・
    さあ、好きなだけなじるといい
    君にはその権利がある≫

するとジェニーは緊張の面持ちのまま前に進み出て、初めて見る父に
ホテルの仲間達に教わった韓国式の正式な挨拶を捧げた。
父は自分が捨ててしまった娘の、心を込めた挨拶を目の当たりにすると、
込み上げるものに堪えきれなくなったのか、思わず彼女に駆け寄り
ひざまずく彼女を泣きながら立たせると自分の犯した罪を詫びた。

「会いたかった・・・死ぬほど会いたかった」
ジェニーは父の腕の中で子供のように泣きじゃくっていた。

  ≪何を言うんだ、ドンヒ・・
   そんなこと言うんじゃない!≫


そして彼女は止めることのできない嗚咽の中で
「生きていてくれてありがとう」と父に繰り返した。


  生きていてくれてありがとう

彼女のその言葉の重みを、フランクは心の奥で噛み締め、目を閉じた。

その言葉を口にする妹が恨めしかった。

いいや本当は羨ましかったのかもしれない。
しかし・・・

  ≪僕は・・・言えない≫

涙ながらに抱きあう父と妹の姿は、フランクにとって余りに衝撃だった。


 僕は21年もの間、この父を恨んで・・
 憎んで・・そして捨てた

 しかし僕にとってのたったひとりの存在の証は・・・
 ドンヒは・・・あの人をあんなにも求めている


フランクは居たたまれなかった。

気が付くと、ふたりから目を背け、きびすを返しドアを開けていた。

ドアの外にはジニョンがいた。
しかしフランクは、心配そうに彼を伺う彼女からさえも目を逸らし
逃げるようにその場から立ち去った。




ジニョンがフランクの後を追いかけると、彼は漢江に向かって
静かに佇んでいた。

彼女は少しの間黙って、彼のその広い背中を見つめていた。
彼がまるで景色の中に溶けてしまいそうなほど、儚く見えた。

彼女は堪えきれず駆け寄ると、彼の背中を後ろからそっと抱きしめた。

「ドン・・ヒョクssi・・・」 

ジニョンはフランクをそう呼んだ。

「ドンヒョク・・・お願い・・・


      ・・・泣かないで・・・」・・・










 




 
















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