2010/10/26 16:44
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage side-Reymond-25

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「レイ・・お願いがあります」

「ジニョン・・・」

私がジニョンの病室を訪れると彼女が悲愴な顔つきでそこにいた。

「レイ・・お願いです・・私をここから連れ出して下さい」

「・・・・・」

「お願いです」

「・・・・わかった・・待ってなさい・・」

外にはジニョンの父親が待っていた。
私は上の階に未だ入院しているソニーに電話を掛けた。

「ソニー・・動けるか・・・頼みがある
 ジニョンの父上に別れの挨拶をして欲しい・・・」

ソニーは私のその言葉だけで、私が何を求めているかを理解してくれた。


ソニーは期待通りにソ・ヨンスをこの病室の前から連れ出すことに
成功してくれたようだった。

「いいんだね・・」

「はい・・・」

ジニョンの決意を固めたような眼差しが、却って私の胸を突き刺すようだった。


      《ジニョンはきっと・・
       あなたに助けを求めるでしょう

       その時は・・・諦めさせてやって欲しい・・
       それで・・父親とソウルに帰るよう
       説得してやってください》


一昨日のフランクもまた同じだった。

私の意見など、入り込む余地すら残さないほどに彼の心は閉ざされていた。


    どうしても・・・駄目なのか・・・


      《その方が彼女の為です》


    どうしてそんなことが言える・・・


      《愛しているから・・・》


    馬鹿なことを言うな・・・



    この私に・・・

    ジニョンに死の宣告をしろと言うのか、
フランク・・・

    それが君の・・・私への罰だと・・・


    何度君から彼女を奪い去ろう・・そう思ったか知れない

    それでも・・・

    彼女には君しかいない・・・私はそれを認めたんだ


    それでも?・・・それでも行くのか・・・


私は一昨日のフランクの言葉を回想しながら、ジニョンを見つめていた。

 

    ジニョン・・・フランクはもうここへは戻らない

    君の元へは戻らない・・・


ジニョンが次第に青ざめて震えるように私を見上げた。


    どうしてそんなことが言える?・・・

彼女から・・・あの輝くような笑みが消え去る


    その瞬間を・・・


    この私が見なければならないのか?



 


ジニョン・・ごめんよ・・・許しておくれ・・・


フランクのアパートも・・・君達ふたりの別荘も・・・私の手によって処分した。


ジニョン・・・私は今・・・

フランクの決意を知った上で、君を連れて歩いている・・・

君の彼への想いと一緒に歩いている・・・



    フランク!フランク!・・フランク・・



ねぇ・・・ジニョン・・・

彼の名前を繰り返し呼ぶ君を私はこの目で追いながら・・・

自分の胸が圧迫されていく恐怖に震えていた。

   泣くな・・・ジニョン・・・


君の興奮を抑えようと抱きしめた手が、君の彼への激しい想いに・・
簡単に撥ねのけられた。



わかっているんだ・・・

私では・・・駄目なんだということも・・・


まるで子供のように泣きじゃくるジニョンが哀れでならなかった

   ジニョン・・・もうお止め・・・

   そんなに泣いたら・・・

   涙がなくなってしまうだろ?

   そんなに泣いたら・・・

   心の中まで渇ききってしまうだろ?


      

      置いて・・いかないで・・・・

 

       ・・・フランク!-・・・




   君の叫び声が
私の心を押し潰すようだ
 

   
   ジニョン・・・ジニョン・・・ジニョン・・・


   私の・・・君を呼ぶこの声は・・・聞こえないか?


   私のこの想いは届かないのか?



   あぁ・・・愛している・・・


   何度・・その言葉を飲み込んだことか・・・


   今もまたこうして・・・私は君への想いを


   心に封じ込めている


   いや・・・そうじゃない・・・きっと


   君の・・・彼へのその激しい想いが・・・


   私の君への愛を・・・


      容赦なく・・・


          ・・・砕いてしまうんだ・・・ 







2010/10/22 23:23
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-50.冷たい決意

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      ・・・レイ・・お願いがあります・・・

ジニョンからの電話を受けたレイモンドが彼女の病室を訪れた。

「私もやっと・・君に会えたね」

「ご心配をお掛けしました・・・」

レイモンドはジニョンを見舞う前に、彼女の父親を部屋の外に連れ出しておいてもらうことを
事前にジョルジュに頼んでいた。
ジョルジュはレイモンドの正体をジニョンの父親には話してはいなかった。
そのため、ジニョンの父親にとってレイモンドは今でもジニョンの学校の教師でしかなく、
レイモンドが彼女を見舞うことに対して、父親が一縷の疑いをも抱くことはなかった。

「レイ・・どうかお願いです・・私をここから連れ出して下さい」
ジニョンはレイモンドとふたりだけになると、即座にそう言った。

「・・・・・」

「お願いです」

ジニョンはそう言いながら、レイモンドにすがるような目で手を合わせた。
レイモンドは彼女が何故、それを望むのか、十分わかっていた。

「・・・・わかった・・待ってなさい・・」



レイモンドは知っていた。
フランクが今、ジニョンを置いてこの地を去ろうとしていることを。


「一生の頼みがあります」

「・・・聞こう」

「僕は今からここを出ます」

「まだ退院許可は下りてないだろう?」

「ええ」

「ジニョンはどうする・・」

「彼女は明後日、韓国に帰国します」

「帰国?どういうことだ」

「父親が連れて帰ります」

「一時的ということか」

「いいえ・・・」

「それで・・どうして君が慌ててここを出なければならない?」

「・・・・・」

「彼女を置いて行く気か?」

「・・・・・」

「何故だ!」

「・・・・言わなければいけませんか?」
その時、フランクの目が「聞かないでくれ」と訴えていた。
レイモンドは荒げてしまった声を何とか抑えて、言った。

「・・・・それで私にどうしろと?」

「ジニョンはきっと・・あなたに助けを求めるでしょう」

「だから?」

「諦めさせてやって欲しい。僕を・・。
 それで・・父親とソウルに帰るよう、説得してやってください」

「ハッ・・」

レイモンドは呆れたように溜息をついて、フランクを睨み上げた。
そして、それ以上フランクと言葉も交わさず彼に背を向けると、音を荒げて
病室を去って行った。


レイモンドが病室を出た後、ドアの外でふたりの話を聞いていたソフィアが無言のまま、
病室に入ってきた。「・・・・・」

ソフィアはフランクから視線を逸らし、ただ黙々とベッドのシーツを整えていた。

「何?」 冷えた空気に耐え切れず、声を上げたのはフランクの方だった。

「・・・・・」 それでもソフィアはそれを無視するように手だけを動かしていた。

「・・・・何が言いたいの?」 フランクは再度聞いた。

「何も?」
ソフィアはフランクにやっと視線を向けたかと思うと、ただひとことそう言った。
しかし、その瞳は確かにフランクに向かって何かを訴えていた。

「そんな目で見るな。」 フランクはソフィアに向かっていらだつように言った。

「私は何も言ってないわ・・・
 あなたが今・・私の目を見て感じていることは・・・
 きっと・・あなた自身の心よ・・・あなたが・・そう言ってるの」

「・・・・・」

「それがあの子のためだと?・・・それは大きな間違いだわ」

「・・・・・」  

「それでも?」

「・・・・・」

「それでも?!」 ソフィアの声は涙声に変わっていた。

「・・・それでも。」
そんな彼女の問いかけに、まるで自分自身に言い聞かせるように
フランクは彼女の言葉を繰り返した。

「情けない男。」 ソフィアは吐き捨てるようにそう言った。
それでも彼女のフランクを見る目は彼を哀れむように、優しかった。

そして彼女もまたレイモンド同様、それ以上何も言わなかった。


      ・・言えなかった・・・

      あなたのその悲しい瞳が哀れ過ぎて・・

      言うべき言葉すら見失ってしまったの・・・



      フランク・・・

      どうしてあなたはそんなにも不器用なの?・・・

      どうしてもっと・・・自分を愛せないの?


      神は・・・・




外にはジニョンの父親が待っていた。
レイモンドはジニョンの前でポケットから携帯電話を取り出した。

「ソニー・・動けるか」



しばらくして、部屋の外で、男達の声が聞こえてきた。
そして、部屋のドアが開いて、ヨンスがジニョンに声を掛けた。

「ジニョン・・・ソニーと少し話をしてくる。
 ジョルジュが付いていてくれるというから行ってくるよ・・出発の準備をしていなさい」

「あ・・は・・い」

今日ジニョンはこの病院を退院して、父の意志通り韓国に帰国する。


       《フランクが・・・フランクのところへ行かせて》

       《ジニョン・・・彼は駄目だ・・・諦めなさい》

       《パパ・・どうして?》

       《あの男は駄目だ・・・》

       《どうして!・・彼のこと少しもわかっていないのに
        どうしてそんなことが言えるの?》


       《・・・彼は私の気持ちをわかってくれた》

       《どういうこと?・・・》

       《彼はもうここには来ない》

       《嘘よ!そんなこと・・あるはずがない!
        迎えに来るって約束したもの・・
        フランクは私に嘘はつかない
        どうして・・そんな嘘をつくの?パパ・・》

ジニョンはあれから幾度となく父親を説得した。しかし父の意志は固く、揺るがなかった。      


レイモンドはジニョンの目を真直ぐに見つめて、彼女の決意を確かめた。

ジョルジュもまた、ジニョンの気持ちを痛いほどわかっていた。
レイモンドがジニョンに手を貸して部屋を出て行くのを何も言わず見送った。

「ジョルジュ・・」

「ああ・・わかってる・・・急げ」

「ごめんなさい・・」



レイモンドとジニョンはまず最初にNYのフランクのアパートに向かった。
しかしそこは昨日のうちに解約されたらしく、中を覗くと天窓の下に置いたベッドも
何台かのパソコンも何もかも消えていた。

ただキッチンのカウンターに彼が好きだったコーヒー豆の袋がポツンとひとつだけ
寂しく取り残されていた。

ジニョンは目の前で起きている只ならぬ状況に次第に青ざめて、震えるように
レイモンドを見上げた。

しかし、レイモンドは既にこの結果を知っていた。
それでも彼女に諦めろ、と言えずにここまで連れて来たのだった。

しばらくして、ジニョンは慌てたように玄関に向かった。

「ジニョン!何処へ行く!」

「別荘に・・」

「・・・・・」

「別荘に・・行きます」

「行ってどうする?・・そこもきっと・・」 

「・・・・・」

レイモンドはそう言いかけたものの、彼女の返す切ない目にそれ以上の言葉が
つなげなかった。

「わかった・・・行こう・・・」

レイモンドは今はジニョンの気の済むようにしてあげようと思った。

湖畔に向かう車の中で、ジニョンは爪の先を噛みながら窓の外を見続けていた。
時に彼女は、自分で自分の肩を抱きしめて震えを堪えているかのようだった。


別荘に車が到着すると、ジニョンは車が停止するよりも早く車のドアを開け
ふたりの家に向かって走った。
そしてそのドアを開けると、そこは初めてここを訪れた時のように、全ての調度品が
白い布で覆われていた。

ジニョンはその情景を目の当たりにして、愕然とした。

あまりのショックに目が大きく見開き、その瞳からみるみるうちに涙が溢れ出た。


「フランク?・・フランク?・・・」

ジニョンはドアというドアを開けては彼の名前を繰り返し呼んだ。

「フランク!・・フランク!・・フラ・・」

そして・・・とうとう全てのドアを開けてしまった。

「フランク・・・悪ふざけは止めて・・フランク・・お願い、出て来て・・・

 冗談なのよね・・フランク・・
 そうやってあなた・・いつも意地悪ばかり
 私・・あなたの意地悪にはもう慣れっこなんだから・・・
    
  こんなの・・何てこと無いんだから・・・

  私を怒らせて・・隠れて笑ってるのよね
  ね、そうなんでしょ?

  驚かせようとしてるのよね?

  そうよね・・フランク・・・

  答えて!フランク・・フランク!フランク!ー


ジニョンは今度は狂わんばかりに泣き叫びながら、家具を被った布を乱暴に剥いで回った。

「・・・・うそつき・・うそつき!・・」

「ジニョン!」

レイモンドは彼女の興奮を抑えようと必死に捕まえて抱きしめた。
しかし・・ジニョンの狂気は、彼の力さえも簡単に振りほどいた。



「うそつき!・・・

 迎えに来るって言ったのに

 待ってて・・って・・

 待ってて・・そう言ったのに!

 私がいればいい・・いるだけでいい・・そう言ったのに・・

 そうよね・・そんなはずない

 そんなはずない・・・

 あなたが私に嘘なんて付かない

 あなたが私をひとりになんてしない

 だって・・・あなた・・私がいないと駄目じゃない

 私がいないと・・・私がいないと・・・」

ジニョンはまるで呪文のように、自分に言い聞かせるように“そんなはずはない”と
繰り返し呟いていた。

しかしいつまで経っても目の前の風景は変わることがなかった。


「うそだったの?フランク・・・

 ここが私達の家じゃないの?

 ふたりだけの・・家・・そうじゃなかったの?

 ほら・・・

 天井・・まだ穴空けてないじゃない

 約束したでしょ?

 星が見えるようにしてくれるって・・

 約束したでしょ!

  
  フランク!・・・フランクー・・フランクー

  何処にいるの?

  どうして私を置いていくの?

  私は・・どうすればいいの?

  返事して・・嫌よ・・・フランク・・・

  置いていかないで

  私を置いていかないで・・・

  置いて・・いかないで・・・・

  嫌よ・・・嫌・・・フランク・・・

    ・・・フランク!-」・・・


        神は・・・


        大きな悪戯をなさったのね・・・

             ・・・フランク・・・














 

 

 


2010/10/18 20:36
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage side-Reymond-24

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フランクはかなりの怪我を負っていたため、実際のところ動くこともままならなかった。

ソフィアさんの話では、彼にはまだジニョンの状態を告げていないということだった。

ところが、ジニョンの父親がジョルジュに事の次第を詰め寄ることが多くなり、
ジョルジュはフランクの存在を父親に話さなければならない状況に陥っているという。  

「レイ・・・いったいどうしたらいいんでしょう・・・俺・・わかるんです・・・
 おじさんのことは良く知ってる・・・おじさんは決してふたりを認めない」

ジョルジュが私の所へ来て、考え込んでいた。

しかしこれ以上、父親にもそしてフランクにも嘘をつくことはできない

私はヨンスに真実を話すしかないと、ジョルジュに告げた。

そしてジョルジュはジニョンの父に全てを打ち明けた。
その後父親は長い時間考えた末、フランクに会うことを、ジョルジュに求めて来た。

フランクはもちろん彼女の父に会うことに同意した。
彼としてもその時が避けて通れないことも承知していただろう。


そして・・・翌日、父親はフランクの病室を訪ねた。

彼らふたりの間にどんな会話があったのか・・・それはわからない・・・

そして事件から5日目にして、フランクはやっと・・・ジニョンに会うことが叶った。

それは本来喜ぶべきことだったはず

互いにどんなにか求め・・探していたのか

この私とて・・・

彼らが抱きあうことを願っていた

しかし・・・


「動けるようになったのか」

彼の病室で待っていた私を見つけた彼は私の問いかけにも答えもせず、
窓辺に向かい外に視線を送りながら言った。


「頼みがあります」

  君の頼みごとなら・・・

  私はどんなことであろうと聞かねばならない・・・

 


「一生の頼みです」

  それならば・・・尚更だ・・・

  しかし・・よせ・・・・・


私の横で遠くをみつめるフランクの・・・
とうに全てを結論づけたかのような表情に私は珍しく動揺していた。

 


  フランク・・・君は・・・今何を考えている?・・・

  どうか・・・私の想像を


  裏切ってくれないか・・・



「あなたに礼を言っていませんでした」

「何の礼だ」

「ジニョンを救ってくださった」

「救ったのは君だ」

「僕は結局・・あそこまででした・・
 あのまま・・あなたが現れなかったら、僕は彼女を守りきれなかった」



  その後悔が君を苦しめるのか?


「私がいなかったら・・・
 君達があの場所にいることもなかった。それが真実だろ?」

「フッ・・・確かにそうだ」


  私さえ・・君達の前に現れなければ・・・

    私の後悔は救ってくれないのか・・・

 

「ここから・・あの赤い薔薇がよく見えるんだな」


「ええ・・・とても・・・美しい薔薇です」


   フランク・・・その薔薇は・・・

   ちょっと頑固で・・気難しいのを知っているか?


   どんなに求めても・・・

   自分がこうと決めたことは決して曲げない

   そんな強い意志を持っていることを・・・

   知っているか・・・


   きっと・・・その花は・・・

   この世でたったひとりの

   誰かのそばでしか咲くことは無い


   そうだろ?


   咲かない花は・・・哀れで悲し過ぎる・・・



   だから・・・フランク・・・止めてくれ



     その先の言葉を・・・


     私に・・・




          ・・・聞かせるな・・・



2010/10/17 16:07
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mirage-儚い夢-49.もうひとつの愛

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翌日の朝、その人は訪れた。ソ・ヨンス・・・ジニョンの父・・・

ヨンスはフランクの病室に入ると、まずソフィアの存在に気がついた。
「あなたは・・・確か・・・
 ジニョンの大学のご友人ではなかったのかな?」

「友人です・・・彼女も・・・」
彼はソフィアに薄い笑みを浮かべて、改めてフランクに視線を移した。
     

「君が・・・フランクさんですね」

「はい・・・」

フランクはベッドの上で姿勢を正そうと無理に起き上がろうとした。
「そのままで・・」ヨンスがフランクの腕に触れてそう言った。

昨日の夜ジョルジュが病室に現れて、ジニョンの父がフランクに会いたがっていると言った。

フランクは彼女の父との対面前に自分なりの青写真を描いていた。
ソウルホテルを守り、自分自身の過去をも払拭するような仕事の成功と富を得ること。

    ソウルホテルは結果的に守ることが出来た

    仕事は成功の途を辿っている

    それに伴い、いくらかの富も得るだろう・・・

しかし・・・フランクの胸の内は暗かった。

それは彼女の父親の心がまるで鏡に映したように、フランクの心に映し出されていた
からかもしれない。

「そのままで結構・・楽にしてください」

「すみません・・」

「いや、まだ回復されていないのに、私が無理を申し上げたんですから」
「いいえ・・こちらから伺うべきところでした」

「・・・・」  「・・・・・」
ふたりは挨拶を済ませた後、しばし沈黙を保っていた。

「ご挨拶が遅れて申し訳・・」    
「いや・・改まった挨拶はいい・・ふたりで・・・話せますか?」
フランクが先に口を開きかけた時、ヨンスが遮ってそう言うと、彼はソフィアに視線を向けた。

「彼女は・・大丈夫です・・聞かれて困ることもありません」 フランクはそう答えた。

「随分と・・信頼なさってるんですな・・・」
そして、ヨンスの言葉の棘をフランクは敢えて無視した。

フランクが何故、ソフィアをこの席に同席させたのか・・・
それは彼自身がジニョンの父の前で、どれほど冷静でいられるのか
想像ができなかったからだ。

フランクは自分が、ジニョンのことになると自制が聞かないことを知っていた。
もしも自分が取り乱したり、理性を無くした場合、ソフィアなら必ず自分を食い止めてくれる、
そう思っていた。

ジニョンの父親の話がどんなものなのかは想像に難くはない。
フランクはそれでもふたりの為に、それを切り返さなければならない
そう決心していた。

「ジニョンを・・助けてくださったそうですね・・・」

「いえ・・元はといえば・・僕が・・・」

「・・ソウルホテルも救って下さったとか」

「いいえ・・あれは・・」

「ありがとう・・・私にとっても大事なホテルです。改めて深く・・・感謝します」

「あの・・・ジニョン・・ジニョンさんは・・」  フランクが聞きたいことはそれしかなかった。

「ジニョンは・・明後日韓国へ連れて帰ります」 ヨンスは冷たい表情でそう言った。

「明後日・・ですか・・」

「体の方は特に悪いところがないそうですから」

「・・・・・」

「私はね、フランクさん・・・ジニョンには平凡な幸せを送って欲しいと願ってます・・
 健やかに・・楽な気持ちで生きていける・・・普通の幸せを送ってもらいたい・・・」

「普通の・・幸せ・・・」 フランクはヨンスの言葉を呟くように繰り返した。

「あなたは幼い頃・・親御さんの元を離れて育ったとか・・」  
「・・・・・」
「随分と苦労をなさったんでしょうね・・きっと一生懸命努力して来られた・・・
 そして・・今のあなたがある・・・

 あなたはこのアメリカで成功しようとしている
 いや・・もう既に成功しているのかもしれない。あなたのような・・いや・・」
ヨンスはそこまで言うと、言葉を淀ませた。

 
「はっきりおっしゃってください・・・構いません・・
 “あなたのような親に捨てられた子は・・”そうおっしゃりたいのでしょう?」

次第にフランクはヨンスが言わんとすることが理解できていた。

「そんなことを言ってるんじゃない・・
 いや・・そうだね・・・こんな時に詭弁は止めましょう・・・
 恥ずかしいことだがきっと・・私が言おうとしていることはそういうことなんだろう・・・
 どうか・・・・私を蔑んでくれて構わない・・・
 私とて・・人間として、そういう差別は好まない。そう思っていた・・・
 一生懸命努力して成功を収めた男。きっとあなたはそういう生き方をするでしょう

 娘と関係なくあなたのような人と出会ったら、きっと私も手放しで褒め称える。
 しかしね・・フランクさん・・・親というものは馬鹿なものです・・・
 自分の子供に対しては別なんです・・・ 
 自分の子供に対してだけは・・・定規で推し量れない感情が生まれてしまう

 あの子には普通に育った男と・・普通に出会って・・
 普通の幸せを掴んで欲しいと思ってしまう

 生まれた時から今まで愛しんで育てた娘です
 その娘に平凡な幸せをと望むことが罪とは、どうか・・・言わないで欲しい。

 私は・・・少なくとも決して・・・こんな事件に巻き込まれるような
 人の恨みや、妬みを買うような男のそばには・・・娘を・・・置けない・・・」

ヨンスは言葉を選びながら、それでも自分の思いの丈をフランクにぶつけた。

「・・ジニョンの気持ちは・・」

「君のような男のそばで・・這い上がって生きることを強いられた男のそばで・・・
 これから先も果たしてジニョンは・・安穏と暮らしていけるのだろうか・・・・」    

「・・・・・」
ヨンスの訴えるような言葉にフランクは返す言葉を探せなかった。

「あなたにはその確信がお有か?」

「・・・・・」

「いつかきっとあの子にもわかる。」

「・・・・そうでしょうか」 フランクがやっと口を開いたが、ヨンスは構わず続けた。

「君も・・ジニョンを愛しているのなら・・・わかって欲しい・・親としてのこの気持ちを・・
 君もきっと・・人の親になったらわかる時が来る」

「人の・・・親に・・・ですか・・・」

「ああ・・」

「親というものは・・・子供の幸せを願うもの・・・
 以前ジニョンも・・僕に・・同じことを言いました
 きっとジニョンは・・あなた方に愛されて・・愛されて・育ってきたんですね・・・
 でも残念ながら僕には・・親の愛というものの実感が何ひとつない・・・」

「・・・・・」

「人の親になったらわかる・・・それなら・・・
 それなら僕は・・・親というものにはなりません。」
そう言いながら、フランクはヨンスを睨み付けた。

「・・・・・」

「僕は・・・自分の都合で簡単に子供を捨てたり・・・
 子供の意志に反して・・自分の思い通りの幸せを押し付ける
 それが・・親と言うものなら・・・僕は!・・親にはならない。」

「親のエゴ・・・そうおっしゃりたいのかな。・・・しかし・・
 私はどう思ってもらおうと構わない。」

「・・・・・」

「君に理解してもらえるとも思っていません」

「・・・・・」

「ただ・・・私の気持ちを聞いていただいただけです」

「・・・・ジニョンさんに・・一度会わせてもらっていいですか」

「・・・あの子は今・・・誰と会っても話すらしない」 

「・・・・!・・どういう・・」
フランクは言葉を詰まらせ、壁際に佇んでいたソフィアを睨みつけた。
 

「大きなショックに因るものらしいが・・・・どんなショックを受けたのでしょうね。」

ヨンスはその原因がフランクにあることを強調するように語気を強めた。

「・・・・・」

「しかし・・心配は要りません。一過性のものらしいので・・
 時間が経てば、元に戻ります」

「・・・・・」

「ですから一刻も早く、韓国に連れ帰って治療する予定です
 生まれ育った場所でならきっと・・」

「会わせてください!・・お願いします。」
フランクはヨンスの言葉が頭に入っていないかのように、彼の言葉に被せて言った。




ヨンスが病室を出て行った後、フランクはベッドに座ったまま、しばらく呆然としていた。

「ごめんなさい・・・」

「・・・・・」

「言えなかったの・・・」
ソフィアはフランクのベットの傍らに近づいてそう言ったが、フランクはただ正面を
見据えているだけだった。

「・・・・・」

「フランク・・・」

「僕を・・・待ってるんだ・・・」
フランクは一筋の涙と一緒にポツリとそう呟いた。


      
フランクが病室に入るとジニョンは静かに眠っていた。
ヨンスの話では、意識を取り戻してから四日間何も食べず、水さえも飲まず
起きている時でも、目を開けているだけで誰とも話さないという
周りの人間が声を掛けても、まるで誰も見えていないかのように
起きている間天井を見つめ、そして眠りに付くその繰り返しだと・・・

 

   《私は・・・あの子に普通に育った男と・・普通の出会いをして・・
    平凡な幸せを送ってもらいたい

    少なくとも決して・・・こんな事件に巻き込まれるような
    人の恨みや、妬みを買うような男のそばには置けない・・・

    君のような男のそばで・・・這い上がって生きることを強いられた男のそばで・・・
    これから先も果たしてジニョンは・・安穏と暮らしていけるのだろうか・・・》

 
ベッドの中の彼女の顔には少し傷が残っていた。
その傷をそっと指で撫でながら、彼女の少しやつれた姿を見つめていると
ヨンスが言った言葉がフランクの脳裏に繰り返し繰り返し蘇った。

      
「ジニョン・・ごめんよ・・・ジニョン・・・ジニョン・・・」

フランクは眠ったままのジニョンの顔を両手で挟み、彼女の額に自分の額を
押し当てて念じるように彼女を呼んだ。

   ・・・ジニョン・・・

彼の目から滴り落ちた涙がまるで彼女が流した涙のように、彼女の目尻から滑り落ちていく。

その時、その涙に反応してジニョンが薄く目を開けた。

「ん・・?・・・・」

「・・・ジニョン?・・・」

はっきりと目覚めたジニョンはフランクの顔を確認すると、大きく目を輝かせて
突然彼の首に抱きついた。

「フランク!」

この時、ジニョンは意識を回復してから初めて声を発していた。

「ジニョン・・・話せるのかい?僕がわかるの?」

「フランク・・・ああ・・逢いたかった・・どこへ行っていたの?探していたのよ」

「遅くなってごめん・・」 

「いいの・・・逢えたもの・・・やっと逢えたもの・・ずっとね・・夢を見ていたの・・
 夢の中で何度も目を覚ましてるのに・・どうしてだか
 いつもそこにあなたがいないの・・

 来る日も来る日も・・今日こそはって目を開けるのにあなたがまたいないの・・・
 怖くて・・怖くて・・だからずっと目を閉じてた・・
 あなたの声が聞こえるまで・・ずっと目を閉じてた・・・」

ジニョンは愛しいものを抱くようにフランクの頭をしっかりと抱いていた。

「ごめんよ・・こんな思いをさせて・・ごめん・・ごめん・・ごめん・・ごめん・・」

フランクは彼女の体を思い切り抱きしめて、泣きながら謝り続けた。


フランクは涙が止まらなくてどうしようもなかった。
ジニョンもまたそんなフランクを見ていると涙が込み上げて来て、一緒に泣きながら
彼の頭を撫でていた。

「フランク・・・どうして泣くの?泣かないで・・ね・・泣かないで・・・お願い・・」

     このままずっと・・・君を・・・

     抱きしめらていられたら・・・

 

「フランク・・・ここはどこなの?」 

「・・病院だよ・・」 

「病院?私・・どうしたの?」

「怪我をしたんだ」

「怪我?どうして?・・あ・・あなたも・・・ひどい・・大丈夫?フランク・・」
ジニョンはフランクの外傷を改めて確認するように彼を見回した。

「僕は大丈夫・・・」

「ね・・フランク・・帰りましょう・・私達の家へ・・・」

ジニョンが突然深刻な顔をしてフランクを見上げた。

「何だか怖いの・・・ね・・帰りましょう?・・早く帰らないと・・」

「・・・・?」

「早く帰らないと・・・胸騒ぎがする・・・」 そう言いながら、ジニョンは顔を曇らせた 。

「ああ・・そうだね・・・」

彼女の言葉にフランクは彼女を再び強く抱きしめてそう言った。

「フランク・・・どうかしたの?」

彼女はフランクの顔を覗きこんで、彼の心を探っていた。

 

「何でもないよ」

「嘘・・・フランク・・ねぇ・・こっちを見て・・私を見て・・・何か隠してる?」

「馬鹿だな、ジニョン・・僕が・・何を隠してると言うの?
 明日・・そう・・明日帰ろう?・・・

 君はここで待ってて・・・明日・・必ず迎えに来るから・・・」

「いやよ・・明日なんていや・・今すぐ・・一緒に連れてって・・」

「困らせないで・・ジニョン・・・僕もほら・・怪我してる
 まだ退院の許可出てないんだ」     

「明日には・・出るの?」   

「ああ・・」

「ホント?」

「ああ・・」

「待ってれば・・いいの?」

「ん・・」

「ほんとね?・・」 ジニョンはフランクの顔を覗いて、何度も何度も確認するように言った。

「ん・・」

「約束よ」

「ん・・」

 

そこへドアの外で待っていたヨンスとジョルジュがジニョンの声に気がついて
慌てて病室に入って来た。

「この人たちは・・誰?フランク・・」

ジニョンはフランクの腕の中でふたりに向かって、怯えたような顔を向けた。
しかし、ヨンスにとっては、ついさっきまで誰とも話すらしていなかったジニョンの
変化の方が喜びだった。

「ジニョン・・話せるのかい?」

ヨンスはジニョンに駆け寄って彼女をフランクから奪い取り抱きしめた。

「・・きゃっ!何!」 一瞬ジニョンはヨンスに驚いて、彼を突き放した。

「パパだよ・・・心配したんだよ・・ジニョン・・ジニョン・・」

「パパ?・・・・・・・!・・・・パ・・パ・・?」

ジニョンはやっとヨンスの存在を思い出した。
そして彼女は一瞬にして、今自分が置かれている状況を把握することが出来た。

「ジニョン・・思い出してくれたんだね・・」

ヨンスの肩越しにフランクを見たジニョンの目が大きく見開いた。
それは全てを思い出したことへの喜びとは程遠く、思い出してしまったことへの
恐怖の眼差しのようだった。

    フランク?・・・


その先にあったフランクの目が余りに悲しげで彼女の不安を煽った。

ジニョンは思わずヨンスの腕を振りほどきフランクに手を差し伸べた。

「フランク?・・」

しかしフランクはそのまま彼女に背中を向けて、病室を出てしまった。

「フランク!・・」

ジニョンは慌てたようにベッドから滑り降りたが足がもつれて床に倒れてしまった。
それでも何んとか立ち上がろうとしたが、この数日間の彼女の容態はその力すら
奪ってしまっていた。
ヨンスはそんな彼女を捕まえるように離さなかった。

「パパ・・離して!・・行かないと・・行かないと・・行かないと・・フランクが・・

 フランクが・・・」

   

 

フランクが自分の病室に戻ると、レイモンドがベッドの横に座っていた

「動けるようになったのか」

「頼みがあります」

「?・・・・・」

「一生の頼みです」

 

      ・・・「聞こう・・・」・・・

 



 

   
        


2010/10/14 08:13
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage side -Reymond-23

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私は、例の書類をユイ捜査官に渡し、組織の全てを彼に委ねた。
このことが引き金となって間違いなく、我が父を初めモーガンや組織の者達の多くに
捜査の手が及ぶことになるだろう。

もちろんこの私にも多くの責任がある。しかし可笑しなことに・・・
組織を壊滅させる重要な材料を提供した私にはその手は及ばない。

その代わり、私にはやらなければならないことがある。

パーキン家という永く暗黒街に蔓延った組織を壊滅させ、そこで生きていた者たちを
再生させる責任がある。

それはモーガンが言う通り決して簡単なことではないだろう。
どれ程の人間が私の敷いたレールに乗って光差す途へと軌道修正できるのか。
予測することすら難しかった。

しかしもう既にその火蓋は切られた。
これから私は力の限り、彼らの行く途に転がる石を取り除いていく。
それがこの私に課せられた刑とも言えよう。

そして今は・・・その私の目的の為に、巻き込んでしまった愛しい者たちを
この手で救わなければならない。

FBIの事情聴取を受けながらも、私の心はここに無かった。

ジニョンの元へ・・・

フランクの元へ・・・

ソニーの元へ・・・

私の心は飛んでいた。


彼らの容態に関する報告は随時受けていたものの、この目で確認するまでは
安心できるものではなかった。
しかも、ジニョンの深刻な様子を知った時は、少しでも早く飛んで行きたい衝動に駆られた。



私が彼らが運ばれた病院に向かうことが出来た時には、既に二日を経過していた。

ジニョンのそばには連絡をしておいたジョルジュが、ジニョンの父親を伴って付き添っていた。

「ジョルジュ・・・すまない・・・ジニョンをこんなことに巻き込んでしまった
 ジニョンの父上にも・・陳謝したい・・そして・・君の父上にも・・・」

「レイ・・・話は先日の電話で大体理解しました
 しかし・・今は・・・ジニョンの父親にその事実は伝えたくはありません
 フランク・シンの存在も・・今はまだ・・」

「しかし・・フランクは君達のソウルホテルを救おうと私に向かっていたんだ・・・
 ソウルホテルと・・・ジニョンを救うこと・・彼はそれだけのために動いていた
 私は・・・」

「レイ・・・もう止めましょう・・・俺はあんたが好きだ・・・
 しかし・・ジニョンがあんな目に遭ったのがあんたのせいだとしたら・・・俺は・・・
 あんたを簡単に許すことができない
 しばらく・・俺たちをそっとしておいてもらえませんか」

ジョルジュはそう言うと、私から視線を逸らし背中を向けた。



ジニョンには軽い傷以外に身体的な異常は全く見られなかった。
しかし、不思議なことに、目覚めていても周囲にいる父親やジョルジュの姿さえ、
目に入らない状況だという。
医学的にはその原因すら見出せず、三日が過ぎた。

私は来る日も来る日も、彼女の病室の前で彼女の回復を待った。


   ジニョン・・・


   きっと君は・・・

   彼を待っているんだね・・・



私は彼らの入院手続きを代理の者に依頼していた。
その時ジョルジュの意向もあって、敢えてフランクの病室をジニョンの病室から離すことを
病院に願い出ていた。

私がここへ訪れた時には既にフランクの病室は別棟へと移されていたが
ジョルジュは決して、フランクをジニョンから遠ざけようとしていたのではなかった。
ふたりのことをジニョンの父親に素直に認めてもらうには、余りにタイミングが悪過ぎると
ジョルジュは思っていたようだった。

「時間が必要です・・・おじさんは頑固な人ですから・・・
 今は・・何も話さない方が・・・」

今は仕方の無いこと・・・私もそう思っていた。
しかし・・・例えそうであったとしても、ふたりが哀れでならなかった。
きっとフランクを待っているだろうジニョンが不憫でならなかった。

ジニョンの父は目覚めぬジニョンのそばを離れようとせず、たったの一度も
病室を出て来ることはなかった。

ジョルジュが時折、病室を出入りしていたが、病室の前で待つ私とは視線すら
合わせてはくれなかった。

無論ジニョンに会うことなど到底叶うところではない、そのことは重々わかっていながら
私は待つことしかできなかった。



      
ある時、フランクに付き添っているというソフィアという女が、ジニョンの病室の前に
大きな花瓶に生けた赤い薔薇を持って現れた。

彼女はジニョンの部屋をノックすると中から出てきたジョルジュにこう言った。

「この花を・・・病室の窓辺に飾ってください」

「窓辺に?」

「ええ・・窓辺に・・・外からよく見えるように・・・」
       

   外からよく見えるように・・・

   フランクの病室からよく見えるように・・・


私にはそう聞こえた。


ジョルジュにもきっとそう聞こえていたのだろう。
彼はまぶたをゆっくりと閉じて彼女に応えていた。

彼女がその花瓶をジョルジュに手渡した時だった。

「ちょっと・・待って」

彼女が急に振り返って、私の前に進み出ると手を差し出して唐突に言った。

「あなたのそのお花を・・・」

「・・・・・・?」

「一緒に・・・」

そう言って彼女は、私の手の中から私の赤い薔薇を奪うように取り上げ、
ジョルジュの手に渡った花瓶にその薔薇を入れ、彼女の薔薇と馴染ませるように生けた。

「これだけあると豪華ね」

そして彼女は、私に振り返るとにっこりと微笑んだ。

受け取ったジョルジュもまた、今までの私へのわだかまりの全てを解くかのように
私に向かって柔らかく頷いた。


もしかしたら、彼女は私が毎日こうして花を抱えここに座っているのを
見ていたのかもしれない。

そしていつも・・・
それを渡すことすら叶わず、そのまま持ち帰ってしまっていることも・・・
知っていたのかもしれない。


     フッ・・・きっとそうだ・・・

彼女が用意した花束にはあの花瓶は少し大き過ぎた。


多くを語らずとも・・・

フランクとジニョン・・ふたりの行く末を案ずる者同士

祈る心がここにあった


   通じ合う・・・


       ・・・心がここにあった・・・


         




 


 

 







































 


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