2010/08/09 23:56
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mmirage-儚い夢-43.チェイス

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フランクとローザ・パーキン、互いの思惑を乗せて飛行機はLAを飛び立った。

 

そして5時間後、JFK空港に着陸すると、フランクはパーキン夫人より先にタラップを降り
彼女とはまるで無関係であるかのように、歩き進んだ。

ローザ・パーキンもまた彼の後方を少し離れて歩いた。

 

空港の駐車場ではレオが予定通りフランクの到着を待っていた。  

 

  僕は車の前で待つレオに目線だけで応えた
  そして僕がおもむろに後部座席のドアを開けて、後ろから現れた女を
  エスコートしていることに怪訝な顔を向けていたレオが突然声を上げた。

 

「おい!ボス!・・・いったい・・まさか・・おまえ・・」

「いいから・・乗れ!」

 

  少しも言葉になっていない状態のレオにそう言い放つと僕は
  彼女の後から同じ後部座席へと乗り込んだ。

  レオは後ろを終始気にかけながらも、僕が顎で合図すると仕方なさそうに
  エンジンを掛けながら冷静を装い言った。

 

「ボス・・その方は・・・もしかして・・・
 いや・・ローザ・パーキン夫人とは言わないでくれ」

「この後はいかがなさいますか?・・・パーキン夫人・・・」

 

  僕はレオの疑問に答えるでもなく夫人に向かって声を掛けた。
  その瞬間、運転席のレオがハンドルを握っていた右手を自分の額に当てがい
  とたんに無口になった。


「・・・・」

「その書類・・私は今すぐにも欲しい
 しかし、あなたはそれを手放さないとおっしゃる・・
 私はどうしたらいいのでしょう」

「私がこの書類と一緒にあなたと行動を共にするわ」

「あなたにも危険が及びます」

「せっかくだけど・・ご心配は無用・・・」

パーキン夫人がそう言って後ろを振り向くと、フランクもそれに習って後ろを振り向いた。
そこには彼女の護衛らしき男達が数名乗り合わせた車がこの車にピッタリ付いて
走っているのが見えた。

 

「・・・・」

「さあ・・まず・・何を致しましょうか?フランク・・」 
パーキン婦人は不適に笑みを浮かべ、言った。

「明日レイモンドに会います」
フランクはその笑みを侮蔑して、坦坦と答えた。

「そう」

「あなたのお嫌いなレイモンドですが・・・それでもご一緒に?」

「・・あの子に会うのは・・・五年ぶりかしら
 相変わらず・・いい男?」

「さあ・・」   

「今日からNYグランドホテルに宿泊するわ」

「NYグランドホテル?」

そこはパーキン家の息が掛かったホテルだった。

「ええ、そうよ・・・フランク・・・もちろん、あなたも私と一緒に・・・
 しばらくそこに滞在してもらうわ」

「・・・・」

「私がLAに無事に帰るまで・・・
 あなたとしても私の身は心配でしょう?」

「・・・・」

「レイモンドともそこで会いましょう」

 

その時、突然妙な動きをした車の中でフランクと夫人が互いの体がぶつかるほどに
バランスを崩した。

 

「レオ!どうした!」

「付けられてる」

「後ろの車は夫人の・・」

「いや・・別の車が割り込んだ!」

レオの緊迫した声にフランクが後ろを振り向くと、一台の黒い車が明らかに
この車を狙って接近していた。


もともと後ろについていたはずの夫人の護衛車は、その後ろでバランスを
崩したかのような動きを見せ、遭えなく路肩に逸れていた。

「タイヤを狙われるぞレオ!スピードを上げろ!」

「上げてる!」

その車がこちらにわざと接触しながら止まるよう合図を送ってきた。

「もっとだ!」

「これ以上は無理だ!」

レオの声は悲鳴にも似ていた

「レオ!代われ!」

「何バカなこと!」

「いいから!シートベルトを外せ!シート倒すぞ・・
 直進になったらすばやく移動だ!いいか!」

「わ・・わかった・・」

 

レオはフランクに言われた通り、まず、自分のシートベルトを外した。
そしてフランクが運転席のシートを横から操作して後ろへ倒すと、次にフランクが
ハンドルの左側、レオが右側を互いに握ったまま、レオは重そうな体を必死に
助手席へとずらした。

 

  そして僕は後ろから運転席へと体を滑り入れた瞬間
  アクセルを思い切り踏み込みそのままその足を離さなかった


「ボス!・・ス・・スピード・・出し過ぎ」

レオの表情にはさっきまでの緊迫した中に今度は恐怖に混乱していた。

「我慢しろ!
 マダム!頭を低く、しっかりつかまって!」

「ええ」

 

フランクが後部座席に視線を送ると、パーキン夫人がグリップにしっかりとつかまり
身を庇いながらも怯える様子も無く、至って冷静に見える姿があった。


   流石・・・マフィアのボスの妻・・

 

 

フランクはそれまでの車の通りの少ない道路から、街中へと進行方向を変え、
慣れた路を縦横無尽に走り回ると何んとかその車の追跡をかわすことに成功した。

「どうだ・・」

「もう大丈夫だ・・付いて来てない」

そして当初の目的地グランドホテルへと軌道修正した。

「いったい・・」

レオが大判のハンカチをポケットから取り出して顔の汗を拭きながら文句をいうように
口を開くと夫人がその言葉に答えるように静かに言った。

 

「あの男は・・レイモンドの側近ソニーの手下だわ」

「レイモンド?」

「ええ・・間違いないわ・・」

「そうすると・・レイモンドには
 僕があなたと会っていたことは知られている・・・」

「そういうことね・・
 あなたも・・レイモンドを甘く見たわね」

「あなたの連れこそ・・何の役にも立ちやしない」

 

僕は自分達の車の後を一向に付いて来る気配がない彼女の護衛車に向かって言った。

「ふふ・・確かに・・・」

 

しばらく走った後にフランクは安全な場所で一旦車を停車させ、今度はちゃんと
ドアから後部座席に移動した。

そして、夫人に向かって開口一番こう言った。


「渡してもらいましょうか・・」

「・・・・」

「こうしてあなたや僕がそれを持っている以上
 狙われることは必至・・・僕が安全な場所に隠します」

「・・・嫌だと言ったら?」

「腕ずくでも」

フランクは彼女の手首を瞬時に掴むと鋭く睨みつけた。
そしてその手に徐々に力を加え締め上げていった。


「・・・痛いわ・・」

「このまま・・折ってしまっても構いませんよ」

「そんなことできるわけ・・」

「あなたも命は惜しいでしょう?
 僕もこんなものの為に死にたくは無い・・」

「あなたが私を守る保障は?」
    
「あなたが・・・あなた自身の意志でかばんを離したら・・・」

「離したら?」

「あなたの命は必ず守る」

夫人は握っていたアタッシュケースのグリップから白い指をゆっくりと離した。
フランクもまた、強く握った彼女の手首を静かに離した。


そしてそのケースを受け取ると、そのままレオに手渡した。


「レオ・・今すぐ車を降りろ。僕達とは別行動を・・」

「わかった」

レオは彼女のアタッシュケースを手に、マンハッタンの街中へと消えた。


「本当に折れるかと思ったわ」

「本当に折るつもりでした。あなたが鞄を渡さなかったら」

「レディにすることじゃないわ」

彼女は自分の手首をさすりながら、彼を睨んだ。

「失礼しました・・・」

「許せないわ」

「お詫びはどのように・・」

「お詫び?・・ふふ・・そうね・・・キスしてくれたら・・」

「・・・・」

「ここへ」

  彼女は至って真面目な顔をしてそう言いながら
  僕がたった今まで強く握り締めていた自分の手首を
  僕の目の前に差し出した

 

  彼女は不思議な人だった
  不気味なほどに冷静で
  何を考えているのかわからない怖さを
  持ち合わせているかと思うと
  時に女性としての可愛さを垣間見せる

  さっきまで彼女からアタッシュケースを
  奪い取る為には手荒な行動も辞さないと
  覚悟を決め本気で向かっていた僕に、
  こうして肩透かしをするような
  想像も付かない言動をする

  僕はそんな彼女に苦笑いを向けながら、
  痛々しそうに赤くなった彼女の華奢な手首に

  今度は優しく手を添えて・・・


     そっと・・・

 


         ・・・くちづけをした・・・


 


 


2010/08/01 21:32
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mirageside-Reymond-17

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mirage-儚い夢-sidestory Reymond 





「何の戯言でしょう・・・若・・・」

モーガンが私を睨みつけながら、それでも静かな口調でそう言った。

「・・・・」
私は彼から視線を逸らさなかったが、彼への答えをしばし探した。

「私の聞き違いでしたかな?」

「いや・・・聞き違いではない・・むろん・・・戯言でもない。」

「・・・・」
今度はモーガンが言葉を詰まらせていた。

「ご理解願いたい」

「それは無理というものです・・・」

「・・・・」

「30年です・・・」

「・・・・」

「私がボスの下でお仕えして・・30年です」

「私が生まれる前からだ・・・長いな」

「ええ・・私の人生の全てと言ってもいい・・それを今更・・・
 あなたは私の・・いや・・
 我々の生きる道を断つおつもりか」

「そんなことは言っていない。
 私は配下の者ひとりひとりに責任を持つ覚悟がある。」

「若!・・・あなたは勘違いなさっている
 我々はこの世界で生まれ・・この世界に育ったも同じ・・・
 その道を奪われたら、生きていく糧すらもない。」

「そうだろうか」

「あなたはそれでいいかもしれない
 あなたなら・・そうです・・あなたなら何処でも生きていける・・
 その技量が十二分にお有りだ。
 しかし・・若・・・悲しいことにこの世界でしか生きていくことができない・・
 そんな輩もいるんです」

「この世界でなくとも生かせてみせる」


「世の中は甘くはございません!」


「こちらが変われば世の中は変わる!」

互いを睨みつけながら声高に言い交わした後、私達は疲れたように溜息をついた。

そしてしばらくの沈黙の後、モーガンは柔らかい口調で繋げた。

「・・・・・お父上はこのことを?」

「いや・・知らない」

「父上が責任を問われることになりますぞ」

「父には責任を負う義務がある」

「父上を貶めるおつもりか」

「・・・・・」

「そんなに父上が憎いですか」

モーガンが悲しげにそう言った後、彼の言葉が突然途切れた。
私も黙って、ただ彼の目を見据えていた。


「あなたを・・・敵に回すことは避けたい」 
私は互いの沈黙をそう言って破った。

「私が敵になる・・・その覚悟もお有りだと・・・
 そういうことですな。」

「・・・・・」

「この話を聞いてしまった私が・・今ここであなたに刃を向ける・・・
 そのことはお考えになりませんでしたか?」

「その時は・・・」

私は言葉を途切れさせて、タダ黙って懐に手を差し入れた。

「私が・・・やられる・・・そういうことですな・・・」

「仕方がありません」

私のデスクを挟んで、モーガンと私が睨み合ったまま、しばしまた沈黙が続いた。

そして彼は辛そうな笑みを向けながら口を開いた。

「ふー・・・あの小さかった坊ちゃんが・・・」

彼はそう口にすると今度は目を細め、愛しいものを見つめるような笑みに変えた。

「・・・・」

「あなたを連れてくるようボスに進言したのは私です・・・
 そしてあなたが実際に我々の元に現れて・・・
 年月が流れて・・・あなたが成長されて・・・
 組織の中で活躍されるようになって・・・

 あなたなら・・・
 いやあなたこそが我々の組織の救世主になる
 そう思っていた・・・」

「・・・・」

「あなたの気持ちはわからないではない。だがしかし・・・
 今私はここで・・“はいそうですか”と易々承諾できる立場ではない・・
 私にも守らなければならない者たちがおります
 それはご理解いただけますかな」

「承知している」

「もしも・・・結果的に・・・
 私があなたの意に沿うことができなかったら・・・
 その時は・・・他の誰でもないあなたの手で・・私を・・どうぞ。」

「・・・・・わかった。」

モーガンは大きな溜息をひとつ吐いた後、部屋を出ようとノブに手を掛けた。
そしてそのままの姿勢で私に振り返った。

 

「・・・・若」

「ん?・・」

「好きな女でも出来ましたか・・・」

「・・・・」

「やはり、そうですか・・・その女を・・・
 本気で愛したのでしょうな・・若・・・」

「・・・・」

「あなたの父上も・・・一度だけ・・・
 あなたと同じことをなさろうとしたことがある・・・」

「父が?・・・」

「ええ・・・もう28年も前のことです・・」

「28年前?」

「その女と・・・生きたかった・・・
 私にそうおっしゃった
 泣きながら・・・そうおっしゃった・・・」

「・・・・」

「それを命がけで食い止めたのは・・・他ならぬ・・・私です」

「・・・・」

「そしてボスは・・・結果的に
 ご自分に課せられた宿命を受け入れられた」

「・・・・」

「あの時・・・ボスの思いのままにして差し上げていたら・・・
 あなたはここにはいなかった・・・」

「・・・・」

「若・・・あなたが恨むべき人間は・・・父上ではなく・・・
 この・・私でしょうな・・・」

そう言い残して、モーガンはゆっくりとドアを開け出て行った。 
  
  何を言ってるんだ・・・

  父さんが・・・28年前・・・

  全てを捨てて生きようとした女・・・

  それが母さんだとでも?
 
  そんなはずはない・・・

  あの人にそこまでの覚悟など・・

  僕は十年もの間・・

  父の存在すら知らず生きてきた

  母とふたり・・生きてきた・・・

 

  父さん・・・

  母さんと生きたかったら・・何故そうしなかった?

  そうしてくれていたら・・・

  こんなことをせずに済んだものを・・・

 

  今更・・・そんな話

  聞いたところで・・・

 

     ・・・何になる・・・

 

 

 


 

   


 




2010/07/31 00:27
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-42.うわて

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僕はその日既に、あのサロンからさほど離れていない小さなホテルに予約を入れていた。

それは、一度の面談で彼女がすんなりと僕の意向に応じるとは思っても無かったし
一旦僕が引いた後に、もしも彼女がその気になった時、いつでも素早く応じられるよう、
考えてのことだった。

しかし僕は彼女の前から消えた時、このホテルの名を敢えて口にしなかった。


果たして彼女が僕を探すか・・・それはひとつの賭けだった。


少なくとも彼女がその気になれば、彼女が僕が今夜この地に滞在していることを
察っしたとすれば、必ず僕の所在は調べ当てることができるはずだと踏んでいた。

 

 僕と・・・《連絡を取らなければならない》

彼女自身がそう思うこと・・・その事実が重要だったからだ。

 

僕はホテルに着くと直ぐに冷たいシャワーを浴びた。

今日ここへ来ることを、ジニョンに告げずに来てしまったことがずっと気に懸かっていた。


しかし今この時、彼女への想いは断ち切っていたかった。

   僕が今考えなければならないことは・・

   レイモンドとの戦い・・・それだけ・・・

シャワーの水を顔に激しく受けながら僕は自分が置かれた立場だけに集中しようとしていた。

   しかしこんなこと・・・何の役にも立ちやしない・・・

   なんて無駄なことをしている?・・・ジニョン・・・

   この水の音さえも・・・君の声に聞こえてしまうのに・・・


ジニョンには僕が今、ある仕事に追われていることは伝えてある。

ただ仕事の全容は彼女に知られないよう努めていた。

今係っているこのことがソウルホテルにも関係があり、またその奥深くには
彼女の出生の秘密までも係っている、そのことだけは彼女には決して知られたくない。

とにかく彼女のいないところで一日も早く事を終わらせたかった。
その想いが彼女を無意識に遠ざけていた。


電話で話をしているとジニョンが、僕に逢いたがっていることが手に取るようにわかる。

   それは僕も同じ想いだ


しかしその都度僕は、はぐらかすかのように、彼女の心をその場に置き去りにした。
彼女の不安に揺れ動く心を見ない振りをした。

   そうなんだ・・・僕には時間が必要だった・・・

 

   もう少し待っていて・・・ジニョン・・・

   君とふたりで生きるため・・・

 

   僕は目の前の敵を残らず

   倒さなければならない・・・

 

シャワーのコックを捻って水を止めた瞬間、部屋の奥で鳴り響く電話の音に気がついた。

僕は取りあえずバスローブを羽織ると浴室を出て、うるさく鳴り続けている音に向かうと
それを見下ろしながらゆっくりと手を伸ばした。


「フランク・シン様にお電話なのですが・・・
 先様がお名前を教えてくださいません
 繋いでくれればいいと・・・待っているはずだから、と
 そうおっしゃるのですが・・・いかが致しましょう」


        彼女からだ・・・

 

彼女が意外と早く僕を探し当てたことに僕は思わず零れる笑みを隠せなかった。

「繋いでください」

 

「フランク・シンです・・・どちら様でしょう」

僕は電話越しにも落ち着き払った自分を彼女に強調すべく、時折バスタオルで
濡れた髪を拭いながら、ゆったりと応対した。

「あなたが私を待ち焦がれている・・・そう思ったのだけど・・・違ったのかしら・・・
 随分と待たされたわ
 私が誰なのか・・・名乗る必要がお有り?」

彼女はいらつきを隠しもせずにそう言った。

   
「フッ・・・よくここが?」

「この辺で・・・ホテルリストの一番目に出てくるホテルだわ」

「そうでしたか・・それは知らなかった・・ところで、何の御用でしょう」

「あなた・・・私を焦らしているつもり?あなたこそ・・・
 私の電話を待っていたのではなくて?」

「さあ・・・待つべきでしたか?・・・」
「・・・・・」

彼女は焦らされたことが本気で癇に障ったらしく、急に言葉を噤んでしまった。

       この辺にしておかないと・・・

       臍を曲げられても厄介だ

「いや・・失礼・・・最初にこちらがお願いしたことでしたね」

「・・・それで・・・どうすればいいの?」

「あなたが隠しているものを、私にお預け願いたい」

「私が隠しているもの?」

「お分かりのはずです」

「それで?それをどうするの?」

「パーキン家にそれをネタに、レイモンドに退くよう、要求致しましょう
 あなたはそれがお望みでしょう?」

「それくらいのことでレイモンドは退くかしら」

「パーキン家所有の債権を徐々に買い占めています・・・
 あなたがお持ちのものが本物ならば
 それを担保に資金を融資してくれる反骨分子もひとりやふたりではありませんから」

「パーキン家に反発する人間もあなたの手中にある・・・そういうことなのね」

「はい」

「あなた・・・お若いのに、随分とやり手なのね
 敵に回さない方がいいかしら?」

「さあ・・・どうでしょう・・・
 あなたが私を敵に回すか・・味方につけるか・・私はどちらでも構いません」

「今がチャンス・・・そう言いたいのね」

「今しかありません」

「わかったわ・・・それでどうすれば」

 

僕は彼女からの電話を置いた後、すぐさまレオに連絡を入れた。

「レオ・・・明日、夫人から例のものを受け取る
 そのままNYに戻る予定だ」

「ボス・・・気をつけろよ。それを持っていることで、お前は全てのマフィアに狙われる
 そう思え・・・」

「ああ・・わかっている」

 

例のもの・・・

それはパーキン家の数十年に渡る裏取引の証拠書類と裏帳簿の原本だった。

 

それらは、今マフィア界のトップに君臨するパーキン家を簡単に脅かし、
パーキン家の地位を狙う反骨分子にとっては喉から手が出るほどの代物だった。

それが彼らが身を隠すように生きてきた理由でもあったのだと、フランクは思った。

しばらくの間は息を潜め、いつの日かその時が来たら、それを盾に攻撃を仕掛ける
その日を虎視眈々と狙っていたのだろう。

その重要な資料を持ち出していることでパーキン家はもちろん彼らを追っていただろう。
しかし彼らは、ロスの有力者の力を借りることに成功し、この5年もの間、
まんまと地下に潜むことが出来ていた。

しかし僕にはそんなことなどどうでも良かった

僕の狙いはただひとつ・・・
彼らの手元で眠ったものを起し、レイモンドに突きつける。
そして直ちにソウルホテルから手を引かせる、それだけで十分だった。


僕は翌日早朝に、昨日尋ねたサロンに向かうべく、ホテルをチェックアウトした。

目的のものを手にしたらそのまま空港に向かうつもりだったが、僕がタクシーに乗り込み、
目的場所を告げた時、背後から一台の車が時間差で動いたことに気がついた。

タクシーの運転手に少し横道に逸れるよう指示を出し回り道をして見せた。
そしてその車が僕をつけていることを確信した。

僕はサロンに向かうことを断念し、すぐさま彼女に連絡を入れた。


すると彼女は即座にこう言った。

「わかったわ・・・私もNYへ行きましょう
 私が直接持って行くわ
 あなたはそのまま空港に向かいなさい」

 

何んとか、付けられていた車を撒くことに成功して空港に着くと直ぐに、
僕は彼女の指示通り、彼女とも会うことなく、何も受け取ることもせず、
そのまま機上の人となった。

彼女が本当にNYへ行く保障もないものを、僕としたことが彼女の言葉をすんなりと
受け入れるなんて、
僕は少しばかり後悔していた。

しかしそれは杞憂に過ぎなかった。

僕が機内に入ると、僕の座席の隣をしっかりと陣取って座っていた彼女が
僕を見上げて得意げに口角を上げた。

「どうして・・・」

「ふふ・・・あなた・・・私に自分の身元も明かしていない・・・
 そう思っていたんでしょうけど・・・甘いわね・・・」

「・・・・・」

「自分にとっての命に等しいものを・・・
 見ず知らずの人間に簡単に預けるとでも思った?」

「じゃあ・・付けていた車はあなたの?」

「さあ・・」

彼女は空々しく小さな窓から外に視線を向けた。

「あなたがいたら目立ち過ぎる・・・邪魔です」

「もちろん・・表には出ないわ・・・でも・・・
 あなたの後ろには・・いさせてもらう・・・」

「・・・・・」

「嫌とは言わせないわ」

「・・・・・」

僕は呆れたように彼女を睨むと、溜息をつきながら仕方なく席に着いた。

「では・・・あなたのお手並み拝見と行きましょうか・・・」

「書類は?」

「これよ」

僕は彼女が差し出したアタッシュケースを開いて中から分厚い書類を取り出すと、
それらの信憑性を把握するべく急いで目を通した。

「どう?」

「・・・・・・・よく、生きてこられましたね」
僕はため息混じりにそう言って、重大な価値のある書類を、丁寧にケースにしまった。

「ふふ・・・」

彼女は美しい横顔で、含んだ笑みを浮かべていた。

 
     さあ・・・

     これから先は・・・この僕が・・・


       ・・・生きていられるかだ・・・

 

 


 

   


 


2010/07/26 08:45
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mirageside-Reymond-16

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「やはり、レオナルド・パクの情報網は期待通りでした」

「彼らがこのNYから消えて5年、か・・・」

「ええ・・今までよくも逃れていたものです」

「後はフランクが上手く彼らを計画に乗せてくれれば」

「乗って来るでしょうか?」

「フランクなら・・」

「彼を随分と信用なさってるんですね」

「フッ・・」

  そう・・・

いつしか私は彼を自分の目的を叶えられる唯一の男だと確信していた。

「しかし・・いよいよです」

「ああ・・私の計画は彼ら無しでは終決しない」

「・・・・・」

「ソニー・・覚悟はいいか・・」

「覚悟?とっくにできております    
 それに私は・・最後まで若のおそばにいられれば本望ですから・・・」


「・・・・・フッ・・損な人生だな」

「損?・・本望と申し上げました」

「ソニー・・・頼みがある・・・」

「何でしょう」

「・・・私にもしものことがあったら父を・・・」

「・・・・・」

「父を・・・私の代わりに・・・
 母の眠る場所へ連れて行ってくれないか」

「・・・・・」

「頼む」

「若・・それは・・お引き受けしかねます」

「命令だ・・お前は私の命令なら何でも聞く・・そう言ったはずだ」

「いいえ・・・たとえあなたのご命令だろうと・・・
 きっとお父上が承諾なさらない・・・
 あなたご自身がお連れしないことには・・頑として聞き入れてくださらない
 あの方も・・・どなたかによく似ておいでです」

「誰のことだ?」

わざとらしくのたまうソニーを私は下から睨みつけた。

「血は争えぬと申します」

ソニーは睨みつけた私にお構いなく淡々とそう言った。

「フッ・・」

「ですから・・」

「ソニー・・・お前は今まで私の言うことに背いたことがあったか?」

「ございません・・一度として。」

「それなのに?」

「はい・・・」

「お前が・・生涯で唯一、私の命令に背く・・そういうことか・・・」

「はい。」

「なあ、ソニー・・・・・私が強情なのはきっと・・お前に似たんだ・・」

「私に・・・ですか?」

「ああ・・父よりもずっと多くの時間を過ごしたお前に・・・
 きっとそうだ・・・」

私がそう言うと、ソニーは私に、彼にしては珍しく満面に湛えた笑顔を見せた。

私もまた、彼から顔を背けながらも自然と綻ぶ自分の頬を手の甲で押さえ俯いた。

   ソニー・・・お前がいてくれたから・・・

   僕はまだ人間でいられたのかもしれない

   母が残した僕への想いを・・・

   お前だけが忘れずに守ってくれていた

   この世界で・・・縦に厳しいこの世界で・・・

   お前は変わらず母の心だけを守ってくれた

   お前ほど強情な男はいない

   そうだろ?

 

      僕が強情なのは・・・


         ・・・お前に似たんだ

 

 


「・・若、我々はどう動きましょう」

「ああ・・まず、フランク達の護衛を強化しろ
 奴らは自分達の立場が危うくなれば無鉄砲なことをしかねない」

「はい・・・こちら側の幹部達はどのように・・・
 たとえ若のなさることとはいえ、黙ってはいますまい」

「ん・・・」 私は少し考えて、おもむろに口を開いた。   

「モーガンには私が直接、話をしよう」

「はい」

「それから・・例のものをフランクが手に入れたら
 彼から速急に奪い取れ・・
 フランクの手にあっては彼が危ない」

「はい」

「とにかく、フランクの動きを見逃すな
 彼が私の手先と勘ぐられることは避けなければ・・
 彼らにも・・ライアンにも・・・そして警察にもだ・・・
 そのためにも・・・我々は・・徹底的にフランクの敵となるんだ。」

 

「そこまで・・あの男のことを?守る必要があるんですか?」

 

「守らなければならない。」

「わかりました」

「・・・・急げ!」

「はっ!」

 

   

   あの男を守る理由?・・・

   そんなもの考えもしなかった

   いや・・・きっとそれは・・・

   私の心のずっと奥深くに

   いつの間にか根付いていたのかもしれない


   あの男を守らなければならない・・・

   その理由・・・


   それは・・・

  
   あの男にしか

   守ることができないもの・・・


   それが・・・この世に

   たったひとつだけ・・・

         
   ・・・存在するからだ・・・


 


2010/07/25 15:03
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-41.切り札

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僕がその人を訪ねロサンゼルスに飛んだのは、レオからの報告を受けた
その翌日のことだった。

 

昨日、電話でアポイントを取った時、その人は会談の場所にロスにある
自己所有の美容サロンを指定した。

街の外れの静かな場所に存在するそのサロンは、外観は普通のアパート風で
入り口の厳重なオートロックドアを抜け中へ入ると、内装は外観と打って変わって
上層階級御用達風の絢爛たる造りを誇示していた。


大理石の広いエントランスの奥に重厚なドアが二つあり、それぞれのドアに
メンズとレディースの表示の刻印が見えた。
僕が指示された通り、メンズ専用の入り口から入ると、待ち構えていたかのように
受付嬢らしき女性が入り口付近で僕を出迎えていた。

 

「お待ち申し上げておりました・・ご案内申し上げます」

彼女は僕を連れ立って、メンズから通じているらしいレディース専用の個室へと誘導し
僕を尋ね人の元へと案内した。

 

通された部屋はアールヌーボー調の調度品でまとめられ、広々とした空間に
その中央にぽつんと置かれた一台の細いベットが目を引いた。

ベッドの上には背中をむき出しにうつ伏せた一人の女性が横たわっており、
その白い背中を器用な指使いで術を施しているエステティシャンと思われる
東洋の女性がちらりとこちらを向いて会釈をした。


「フランク・シンと申します」

僕は自分の尋ね人がそこに横たわっている人物と解釈して口を開いた。

「・・・・」

その背中は微動だにせず、返事すら無かった。しかし僕は迷わず話を続けた。

「用件はお電話で申し上げた通りです」

「・・・・」

「・・・ご協力いただけますか・・」

「あなたに協力すれば・・私は何を得られるの?」 彼女がやっと声を上げた。

それでもうつ伏せた状態を崩すことなく、僕に視線を向けるわけでもなく、
落ち着き払った声だけが僕に向かっていた。


「きっとあなたの望みが得られるかと・・・」

「ふふ・・・そう・・・でも・・ひとつだけ聞かせて?
 どうして・・あなたは・・・
 私がパーキン家の弱みを握っていると思ったのかしら」

「情報を得たからです・・・」

「情報ね・・・・どこからそんな情報が?」

「私が望めば、調べられないことなど何一つありません」

「随分大きな口叩くのね・・・それにしても・・・
 そのことは決して誰にも漏れないことだと思ってたわ・・・
 それに私はそれを公にする気もさらさらない・・・」

「・・・しかしあなたは・・時を狙っていたはず・・」

「まさか!」

彼女はやっと僕の方に顔を向け、僅かに声を荒げてみせた。
しかし、その声とは裏腹に彼女の冷たい目は一向に動揺を感じさせなかった。

しかし僕と初めて対峙した彼女が僕を見て一瞬だけ驚いたように眼を見開いたのがわかった。

「・・・随分と・・・お若い方なのね・・それにかなりの美男子・・・」

「・・・・・」

「・・・でも・・嫌いな顔だわ・・・」

その言い方は初めて会ったはずの僕をずっと昔から嫌いだったと言いたげな口ぶりだった。

「・・・・」


   ローザ・パーキン・・・


アンドルフ・パーキンの妻・・・現在はパーキン家を離れ、ロサンゼルスの外れに
ひっそりと居を構えていた。
   

彼女の肌はとても白く輝き美しく、そして若々しかった。
年齢を聞かなければまだ三十代後半と言われても納得するだろう。

 

「あなた・・・誰かに頼まれてここへ?あなたのボスは誰?」
   
「私にボスなどいません」

「なら、何故・・パーキン家を狙うの?」

「仕事です」

「仕事・・ね・・・」

「それで・・・」

「それで?・・・何だったかしら・・・」

「ご協力いただけ・・」
「そうね・・・あなた次第」

彼女は僕を睨みつけるように力強くブルーの瞳を向けて、少し薄めの唇の口角を
妖しく上げた。

 

しばらく待つようにと別室に通されて三十分、彼女は体のラインを強調したような
シルクのシンプルなドレスに身を包んで現れた。
抜けるような白い肌に瞳の色と同じ淡いブルーがよく似合っていた。

彼女は僕の顔を覗きこみながら、その脚線美を誇張するかのように僕の前に
優雅に腰を下ろした。

「フランク・・・だったかしら・・・お名前」

「ええ・・」

「時を狙っていたはず・・・
 先程そうおっしゃったわね・・・・・・・・・」

彼女は僕の正体を伺うかのように鋭い視線を向けた。

「ええ・・」

「確かに・・・狙っていたわ・・アンドルフがトップを退く、その時を・・・」

「ご子息の戦線離脱という話はやはり表面上・・・ということですね」

「・・戦線離脱?世の中ではそんな風に?・・
 そうね・・・・・・・・・・」

彼女はスッと斜めに足を組み、目の前のテーブルに置かれた。
ケースに手を伸ばすと、その中から煙草を一本取り出した。

「・・・あなた・・・慣れてないのね」

「・・・・?」

「こんな時は、直ぐに火を点けるものよ」

「・・・・・」

そう言って妖しげな笑みを浮かべながら、彼女は自らライターで優雅に火をつけた。

「・・・フー・・・
 あの子は仕事の失敗でアンドルフから見放されたのよ」

煙草の煙をわざとらしく僕に向かって吹きかぶせながら彼女は話しを続けた。

「・・・といっても、彼には初めからあの子に継がせる気持ちなど
 さらさらなかったでしょうけどね

 レイモンド・・・・・・・」

彼女はその名前を口にしてから、少し間を置いた。

「あの人が生涯で愛したたった一人の女の息子
 彼にはあの子ひとり、いれば良かったのよ
 フレッドもライアンも・・・そして私も・・必要なかった」

彼女はそう言いながら視線を落として小さく溜息をついた。

「・・・・」

「だから、離れてあげたの・・彼の為に・・・」

そう言った彼女の声が少し震えているように感じた。

「・・・・」

「ふふ・・信じた?・・・
 あの人の為・・・そんなわけはないわね・・本当は・・
 いつの日にか・・
 彼の大事な大事なレイモンドを潰すのが私の目的・・・
 そして私のフレッドに光を浴びせるの」

「・・・・」

「その為なら、私は何でもするわ・・・
 それが今・・その時なのかどうか・・それはまだ・・わからないけど・・」

彼女は僕に協力するかどうかわからないと言いたげに、僕に意味ありげな微笑を向け、
煙草を灰皿に置いた。

「あなたが目的を果たそうとされるなら・・私と組んだ方が得策だと。」
僕は彼女から一寸も目を逸らさずそう言った。

「自信家なのね」

「自信?・・・事実です」 そしてそう言って僕は口元だけで笑って見せた。

「そう・・頼もしいのね・・・
 確かに、私とフレッドの力だけでは目的を成し遂げるには厳しいわ
 あの子・・レイモンドの周りには力のある人間が有象無象に
 盾となってあの子を守っている・・
 これもあの人の意志・・・
 全てがレイモンドの為にレールが敷かれているの」

「今がチャンスです・・・ファミリーは分裂しかけている」

「・・・今は何もお答えできないわ・・・今日はお引取りを・・」

そう言いながら彼女は立ち上がり、僕に退室を促すように入り口のドアを開けた。

「わかりました・・今日のところは引き上げます」

僕は敢えて彼女に逆らうことなく直ぐに席を立った。

僕が部屋を出ようと、彼女の横を通り過ぎようとしたその時、突然彼女が
僕の胸に掌を当てて進行を遮った。


「あなた・・・レイモンドに・・・似てるわね・・・」

僕はそう言われて、思わず不愉快そうに彼女を睨んだ。

「その目・・・その目よ・・・
 何度睨まれたかしれないわ
 あの子が幼い頃でさえ、大の大人の私が思わず震えたものよ
 私の・・・大嫌いな・・目」

彼女は僕を睨み返すように見上げてそういい捨てた。

 

   僕はわかっていた・・・
   これからの勝負・・・
   僕にとってこの女が唯一の命綱となる

彼女もまた、それを悟ったかのように僕に挑んでいた。

 

「この目がお嫌いなら・・仕方ありません・・・
 しかし・・・私でなければ・・・
 あなた方を暗闇から救い出すことはできない
 いいでしょう・・・
 私がお気に召さないなら・・・このまま・・・
 この煌びやかな牢獄で安穏と暮らされるがいい」

僕は彼女を振り返ることなく後ろ手にドアを閉めそこを出た。

 

彼女が僕を選ぶのか選ばないのか、これはひとつの賭けだった。
だから敢えて、僕は彼女に背中を向け潔く立ち去った。

 

   僕が優位に立つためには・・・

   追って来るのは彼女の方でなくてはならない

   今ここで・・・

 

   彼女との駆け引きに

 

   僕は決して・・・

 


       ・・・負けてはならない・・・


    


         


       

 


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