2010/07/18 13:00
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-15

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   その人を・・・守ってやりなさい・・・

   愛する人は・・・ 何としても・・・

      守らなくてはならん・・

   お前には・・・
   私のような後悔をさせたくはない

 
父は背を向けた私にそれだけ言い残して部屋を出た。


        守ってやりなさい・・・

 

「フッ・・
 あなたにそんなことを言われるとは・・・思わなかった・・・」

私は父が出て行ってしまった後にひとり月に向かって呟いた。
「あなたに何がわかる」 そう続けた私の心の中は不思議と穏やかだった。

 

   しかし父さん・・・
   残念ながら僕にはその資格がない

 

   自分の思惑の為に愛した女すらも陥れる
   ・・・そんな男です

 

   それに彼女には・・・
   きっと命がけで彼女を守もりぬく
   最強の男がいる


   父さん、教えてあげましょうか・・・

 

   愛することと・・・愛されること・・・

   その違いはあまりに大き過ぎるということを・・・

   フッ・・・


   ソニーがそう言ったんです

   もしかしたら・・・あなたよりもずっと深く
   母さんを愛していたかもしれない・・・

   ソニーが・・・そう言ったんです

   父さん・・・あなたは知ってますか?

   母さんはあなたをとても愛していた・・・

 

   あなたは母さんに愛されていた

   そうです・・・それならば・・・

 

   僕よりもあなたの方が・・・遥かに幸せだ・・・


   あなたは自分の人生に価値がなかったと言った・・・

   本当にそう思いますか?

 

   あぁ・・・そうでした・・・

   あなたのことを言葉にする時の
   母さんの美しく優しい笑顔・・・

   あの笑顔を今・・思い出してしまった

   その笑顔がとても好きで・・僕は良く
   母さんにあなたのことを尋ねたりしたものです


   そうなんですね・・・

   あなたの存在の価値は・・・


   きっとそうだ・・・

   僕の母さんに愛を教えたこと・・・

   今の僕には・・・それがよくわかる・・・

 

   父さん・・・

   あなたはそれだけでは・・・


       ・・・不足ですか・・・

 

 

「若・・・フランク・シンが動き出しました」

「ん・・・上手く情報が伝わったんだな」

「おそらく・・」

「それで彼らには辿り着けそうか」

「いえ・・それはまだわかりません・・
 どうもフランク・シンはひとりで動いているようです」

「ひとりで?」

「その方が情報が漏れる可能性が少ない・・そう考えてのことだと・・」

「危険だな・・・ライアンの動きは?」

「相変わらず、張り付いています」

「ソニー」

「はい」

「フランクが彼らと接触しそうな動きがあった時は・・・」

「・・・・・」

「もしもそれを邪魔するような奴がいたら・・」

「承知しています・・・あなたはそれ以上何もおっしゃらなくていい・・・」
    
  フランクは私の思う通りに動いてくれるだろうか

  思うところへ辿り着いてくれるだろうか・・・

私はソニーからの電話を切った後、父が残したワインを眺めながら、
私の最後の戦いがきっと、父を追い詰めることになるだろうことを心の中で詫びていた。

 

   でも、父さん・・・

   その戦いが終わったら・・・あなたを・・・

   母さんの元へ送れそうな気がする・・・

   その時こそあなたを・・・

   許せそうな気がするんです

 


私は机の引き出しから小さな木箱を取り出すと、その中から焼けかけた一枚の写真を
手に取った。

   私の手元に残るたった一枚の母の写真・・・

   少し伏目がちに想いにふけったような・・・

   美しい横顔・・・

   これは・・・僕があなたに内緒で
   そっと撮ったものだ・・・

   シャッターを押した瞬間に・・
   あなたが僕に「何でもないのよ」と言いたげに
   笑顔を向けた・・・
   それが却って・・悲しかったのを覚えています

   今こうして改めて見ると

   きっとあなたは静かに
   心の隅に父さんを刻んでいたんですね

 
母が一人で逝ってしまった後、その行為が許せなくて、私は感情のまま
母の写真を残らず燃やしてしまっていた。

その時、慌てたソニーがその火を消し、燃えかかった最後の一枚を取り上げて
私を睨みつけながら黙って持ち去ってしまった。


それから随分長いこと、私がこの写真を目にすることはなかった。

あれは私が二十歳になったころだったろうか・・・
ソニーが何も言わずこの木箱を私に差し出した。

私は最初不思議な顔をしながら蓋を開け、その中にこの写真を見つけると、
思わず苦笑いを浮かべながら彼からこれを受け取った。
 

   母さん・・・
   本当はあの時のことを凄く後悔しています
   あなたとの思い出を消してしまおうなんてこと・・・
   するんじゃなかった

   僕の大好きだったあなたの美しい笑顔
   それが一枚も残っていない

   このたった一枚の写真の中のあなたは
   余りに悲しげで・・・

   まるで僕を責めているようだ

   
   忘れてしまいそうだったんです

   あなたの幸せそうな笑顔を・・・

   それを彼女が思い出させてくれた
      

   だから余計に彼女に惹かれるのかもしれない・・・

   僕の記憶の中の・・・

   あなたの笑顔に・・・惹かれるのかもしれない・・・


       母さん・・・

 

          それもまた・・・

 

        あなたの・・・僕への・・・

 


 

            ・・・罰ですか?・・・

 

 



2010/07/17 22:25
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-40.決別

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「・・おじさんから連絡があったか?」 

「ええ・・」

「それで・・・どうする?」

ジョルジュはさっきからずっと、私の顔を見ないまま静かな声でそう言った。

「・・・・」

「俺は帰国する・・・お前は・・・どうする?」

「どうするって・・」

「おじさんは本気だぞ」

「・・・わかってる」

「あいつには話したのか」

「・・・・」

ついさっき、フランクの車を降りようとした時、ジョルジュが私の視界に入ってきた。
フランクも彼の存在に直ぐに気づいたようだった。

いつもならジョルジュとの接触を避けるかのように、そのままアクセルを
吹かせるはずの彼が一旦エンジンを切り車から降りると私の隣に寄り添い、
ジョルジュが私達に近づいて来るのを一緒に待っていた。

 

「何の用ですか」

急いで走って来たジョルジュが息を荒く継ぎながら、私ではなくフランクに向かって
開口一番そう訊ねた。
私は、フランクとジョルジュの顔を交互に見比べながら、昨夜フランクについた嘘が、
彼にはとうにお見通しだということに私は小さく溜息をつくしかなかった。

「ジニョン・・ちょっと席を外して」

フランクはそう言って私を車の中に戻すと、ジョルジュとその場から離れて行った。
互いに深刻そうな顔つきで向き合っていたが、彼らの声が届かない私には、
ふたりを心配げに見つめることしかできなかった。

    

 

「今週末にはおじさんが渡米して来るぞ」

「さっき、フランクと何を?」

「なあ・・ジニョン・・・お前・・あいつといて・・・幸せか・・・」

ジョルジュが私の質問をわざと無視した。

「どうしてそんなことを聞くの?フランクが何か言ったの?」

 

私が再度問い質すように彼の目を睨みつけると、彼はしばらく黙り込んで
私の先を大またで歩き始めた。


    『約束は守ってもらわなきゃ困る』

    『約束?』

    『君にとってもジニョンは大事な人だろ?』

    『君にとっても?俺にとって・・だ』

    『彼女から目を離すな・・そう頼んだはずだ』

    『いったい、あんたの周りで何が起こってるんだ
     ジニョンに何か起きるのか!
     それに・・どうしてジニョンが巻き込まれなきゃならない
     何の事情も聞かされず!
     あんたにあいつのことを頼むなどと言われる筋合いもない!』

    『事情は知らない方がいい・・それから・・
     レイモンドに用心しろ・・いや、奴の周辺にいる輩に
     用心して欲しい』

    『レイモンド?レイとあんた・・何の関係があるんだ?
     レイも巻き込んでるのか・・このところ
     レイの様子がおかしいのはあんたのせいか?』

    『とにかく・・ジニョンをひとりにしないで欲しい
     今、こんなことを頼めるのは君しかいないんだ』

そう言ったあいつの目が余りに真剣で、俺はそれ以上のことを問い質すことが
出来なかった。

    『あんたに言われなくとも・・・ジニョンは俺が守る』

 

あいつは俺の言葉をまるで聞かなかったみたいに、車で待つジニョンに視線を向けると、
俺の言葉にこうかぶせた。

 

    『僕達がこうして話していることが気になっているだろう
     ジニョンには・・彼女が僕についた嘘を責められた
     そう言ってくれ』

    『嘘?』

 


 

「あいつと一緒にいて・・・これから先のお前の幸せが見えるか」

しばらくしてジョルジュが、黙って彼の後ろを歩いていた私に急に振り向いたかと思うと
突然にそう尋ねた。

「どうして!・・そんなこと聞くの!」 私は思わず声を荒げてしまった。

「答えろ。」 彼もまた声を荒げた。

「・・・・・・」

「お前・・不安なんだな・・・」

私の目の奥にある何かを読み取りでもするかのように、私の顔を覗きこんだ彼が
私の心の中を簡単に結論付けた。

「不安なんか!不安なんかないわ!私・・フランクを愛してる・・凄く愛してる
 死ぬほど愛してるもの!」

「軽々しく死ぬほどなんて言葉使うな!お前はまだ子供なんだ!
 あいつの全てを背負えるほどの器量はお前にはない。     
 そんなこともわからないのか!」

「わからないわ!オッパが何を言いたいのか。少しもわからない!」

昔からジョルジュといつもこんな風に喧嘩をしていた。
ジョルジュが私に怒鳴る時はいつも私のことを想ってのことだということも知っていた。
知っているからこそ余計に、反抗してしまうのかもしれない。
言われていることが、図星であることを認めてでもいるように、私は彼に対して
意味もなく怒鳴り散らした。

  わかってるわ・・・そうよ・・私はフランクといても
  いつも不安を抱えている

  彼を愛している・・・それは紛れもない事実
  彼も私を愛している・・・それもきっと・・・事実

  でも・・・時々
  彼が消えてしまう夢を見る
  彼が私を置いていってしまう夢を見る


「夢を見るの・・・」

「夢?」

「ええ・・・」

「嫌な夢なのか」

「ええ・・・」

こういう会話だけで・・・私がどんなにその夢に怯えているのか、わかるのは
きっとこの世でジョルジュだけだと思う。

小さい頃から、私が嫌な夢を見るといつの日かそれが現実になることがよくあった。
と言っても今までのそれらの殆どはとても些細なことで、例えば、
楽しみにしていた旅行の前にお腹を壊すとか
とても欲しかった限定品が手に入らないとか
みんな後になって、笑って話せることばかりだった。

でも時々、本当に嫌なことを夢見ることがあって、その都度、私はジョルジュに
その恐怖を話していた。

そしてその中にひとつ・・・
私の記憶の奥に潜在しているものがある
ずっとずっと昔・・・
私はきっと凄く大事にしていた何かを失くしている
それが何なのかはわからないけれど
記憶にないほどの遥か昔、
私は何か大切なものを失くす夢を見ていたような気がする
そしてそれはきっと現実になった・・・と思う・・・
でもそれが何なのかは・・・今でもわからない

 

私の見るフランクの夢は・・・その夢に近い
何故だかわからないけれど・・・意味もなくそう感じていた。

「俺は・・・おじさんの言う通り、
 お前が俺と一緒に帰国してくれればいいと思ってる
 俺のそばにいてくれればいいと思ってる
 たとえ、お前がおじさんの言うなりになって・・・
 帰国することがお前自身の本心に沿わないことだとしても
 お前の・・俺への気持ちがなかったとしても
 俺はそれでも構わない・・」

「心がなかったら・・幸せにはなれないわ」

「お前の心は必ず取り戻してみせる!
 お前は・・俺のそばでしか幸せになれない!
 俺はそう信じてる。
 今のお前がたとえあいつを・・・死ぬほど愛してるとしても
 俺が・・お前を愛してることにはきっと叶わない!」

「そんなの!」

「叶わない!。決して。・・文句があるか!」

ジョルジュは私の肩に指を食い込ませながら、力強くそう言った。

「ジョルジュ・・・ジョルジュ・・・
 そんなこと言わないで・・私にそんなこと言わないで
 私・・あなたを愛してる・本当に愛してる・・
 でも・・それはね・・兄に対する愛でしかないの
 きっとこの気持ち・・これ以上にはならない・・決してならない。」

「それでもいい」

ジョルジュは私の肩から手を離すと、私に哀願するような眼差しを向けた。

「ジョルジュ・・」

「それでもいい・・」

「ジョルジュ!」

「それでもいい!」

目にいっぱいの涙を溜めたジョルジュの悲愴な姿が次第に歪んでいった。
私は溢れ出る涙を拭おうともしない彼を目の前にしてひどく苦しかった。

でも彼の想いには、決して応えられないことを私はとっくに知っていた。
彼が言うようにたとえ、フランクとの愛が実ることがなかったとしても
彼の想いは決して受け取ってはいけない・・そう想った。

ジョルジュは私のことを一番わかっているかもしれない。
彼といれば私はきっと幸せをもらえるのかもしれない。
でも・・・彼を・・・私が・・・決して幸せにできない・・・
どんなに時間が過ぎ去ろうとそのことはきっと変わることはない。

「ジョルジュ・・オッパ・・・ごめんなさい・・ごめんなさい・・
 ごめんなさい・・ごめんなさい・・・ごめ・・」

私は何度も何度も彼に対して謝っていた。
ジョルジュはそんな私をただ呆然と見つめているだけだった。

互いに頬を伝う涙は途切れることなく流れ続けていた。ジョルジュはきっと・・・

私の彼への心の決別を

この瞬間に・・・

   認めていたのかもしれない・・・

 


 

「ボス・・どうした・・顔色が悪いぞ」

「いや・・何でもない・・それより居場所はわかったか」

「ああ・・・ボス、もう一度聞くぞ。本気だな。」

「ああ」

「・・・・わかった・・・」

「連絡先をくれ・・僕が直接会う」

「いや・・それは俺が・・」

「駄目だ・・レオ、お前にはソフィアと一緒に残った仕事をやって欲しい」

「しかし・・お前ひとりでは・・」

「ひとりの方がいい」

「・・・・」

「奴らに気づかれないうちに・・


       ・・・片をつける」・・・

 


 


 





2010/07/12 08:49
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mirageside-Reymond-14

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ジニョンをフランクのアパートに送り届けた後、私はまっすぐに自分のアパートへ向かった。

部屋の階でエレベーターを降りると、玄関の前に父が立っているのが見えた。


「どうしたんです?お一人で?」 私は驚いたというように父を見た。

「いや・・そこの路地で待たせている・・・」 
数日前、父に反抗的な態度をとって依頼、互いの中に微妙な気まずさが残っていた。
いつも誰かが互いのそばにいるこの環境の中で、私達は次第に親子関係が
希薄になっていることに、いつしか慣れてしまっていた。

しかし、こうして玄関の前で俯き加減に私を待つ父は、マフィアのボスその人ではなく、
息子と向かい合いたい、ただそれだけを願っている哀れな親の姿にしか見えなかった。

私がドアを開けて父の前で右手を室内に向かって差し出すと、父はホッとしたように、
私の誘いを受け入れた。

「初めてだな・・・ここへ来るのは・・・」

父がそう言って部屋を見渡している様子が何故か滑稽で、それでいて何故か温かくて、
そう感じた自分を私は父に知れないように、秘かに笑っていた。

「そうでしたか?」

 

「ああ・・・お前と一緒に暮らしたのは
   お前が17になるまでだった」

「・・・・・」

「私はそれ以来・・一人暮らしだ・・・」 父はそう言って項垂れた。

「どうぞ・・・お掛けください・・ワインでも・・」

「レイモンド・・・」

父は私に背を向ける形でソファーに腰を下ろすと、私に振り向かないまま、
改まったように口を開いた。

 

「何でしょう」 私もまた、父に敢えて視線を向けることなく、
ワイングラスを二つカウンターの上に用意すると、その脇のワインセラーから
その中でも一番最高のワインを取り出していた。


「私はいったい・・・何をしてきたんだろう」 父は独り言を言っているかのように呟いた。

「・・・・・」

「このところよく・・・幼い日のお前を思い出すんだ
 お前に・・・初めて会った時のことを・・・」

「・・・・・」

「あの日・・目の前を走ってくる少年が・・・
 賢さを瞳に輝かせた少年が・・・
 私の子・・・そう思った瞬間に涙が溢れ出た・・・」

「・・・・・」

 

「覚えているか?
 私の横でお前はハンバーガーを頬張って・・」

「・・・・・」

「最初は、頑として食べなかったんだ・・
 知らない人からはもらえない・・そう言って・・
 食べてくれなかった・・」

「・・・・・」

「ハンバーガーひとつを・・・むしゃぶりつくように
 頬張るお前が・・・    
 ・・無性に愛しかった・・・」

「・・・忘れました・・・」 私はやっとそう答えた。


「・・・本当は・・・お前達に・・・
 お前と彼女に逢いたかっただけなのに・・・
 結局言えなくて・・・
 お前達さえいてくれれば・・・良かったはずなのに・・・
 それすら・・言えなくて・・・
 結局お前達に悲しい思いだけをさせた・・・」

 

「・・・・・」
   
「愛する人を悲しませるだけの人生に・・・
 いったい価値などあるんだろうか・・・」

父の声には人生を心から悔いているような響きがあった。

「価値?・・・あなたの存在の価値を否定したら・・・
 僕は・・・僕自身も否定することになる・・・」

そう言いながら私が父の前にワイングラスを置き、手にしたワインのビンをゆっくりと
グラスに傾けていると父は私の顔を静かに覗いていた。

「・・・あの日からお前は、ずっと私を許しては・・・」

そう言いかけて父は言葉を変えた。


「・・あの時はそうするしか、私に選択の余地はなかった
 病気と生活に苦しんでいる彼女を放ってはおけなかった」

「僕をここへ連れてきた理由は・・・それだけ?」

「・・・・・・」

「それだけの意味でしたか?」

「・・・・・いや・・・違っていた・・・しかし・・」

父はグラスを手にすると、ひと口流し込んでひと息ついた。

「いや・・止めておこう・・・
 何を言ったところで・・言い訳にしかならない
 お前に許されないなら・・・私は彼女の元へ行くのも・・・」

「止めますか?・・・」

「・・・・・」

「覚えていますか・・・あの日・・・
 あなたと初めて会ったあの日・・・
 僕はあなたに銃を突きつけた・・・」

「ああ・・・覚えている・・・」

「あの時・・・その引き金を引いてしまっていればよかった
 何度・・・そう思ったかしれない」

「ああ・・・そうなるべきだった」

「いつの日か・・・
 僕があなたを許す日が来るんでしょうか」

「来なくとも・・・いいさ・・・」

「そうしたら・・・
 僕は一生苦しむんでしょうね・・・
 母と僕を引き離した・・あなたを許せなくて・・・
 僕を置いて死んでしまった・・母を許せなくて・・・
 そして・・・きっとあなたを許すことができない・・
 僕自身も許せなくて・・・
 人を愛することもできなくて・・・きっとそうやって
 一生・・苦しむんでしょうね・・・」

「・・・・愛する人がいるのか」

「・・・・・」

「その人は・・・」

「その人は・・まるで母さんのようなんです
 笑顔がとても綺麗で・・温かくて・・・
 彼女の笑顔に包まれていると心が柔らかく安らいで・・・
 彼女に睨まれると・・・まるで・・
   母さんに諌められているようで・・・
 彼女を抱きしめると・・・
 僕が寝付く前に必ず抱いてくれていた
 あの人の・・甘い匂いがするんです
 あの時で途切れてしまった・・・母さんの匂いがするんです」


私はいつの間にか、父の前で大粒の涙を流しながら、初めて愛した人の話を
語っていた。


逃げてしまわないかと恐れるみたいに、次第に早口にその言葉を運んで彼女を
語っていた。

父を前にして・・・いや、きっと父だからこそ・・・
今まで誰にも・・・
自分自身にさえ認めなかったことを・・・

彼女を愛してしまったことを・・・認めてしまっていた。

 

窓の外に輝く月が揺れたまま、原型を留めてくれなかった。

父は私の話を何も言わず黙って聞いていた

私はそんな父の柔らかい視線を背中に感じながら・・・

 


いつまでも・・・

 

   いつまでも・・・

 


      ・・・月明かりだけを見ていた・・・

 


2010/07/11 15:28
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-39.眠れない夜

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「着いたよ・・・じゃあ、ここで・・・」

「はい・・・あ・・ありがとうございました」

「これからは・・」

「これからは決して一人では歩いたりしません」

「ん・・・じゃ」

レイモンドは一度だけフランクの部屋の方を見上げると、他には何も言わず、
頬を少し上げただけの笑みを向けながら軽く手を振り、私に背中を向けた。
そして振り返ることなく、今ふたりで歩いてきた道を戻っていった。
私はその後姿を何故か溜息混じりに見送っていた。


「ジニョン?」

その声に振り返ると、今しがたアパートのエントランスから出てきたらしい
フランクと・・・
そしてその横にはソフィアがジニョンに向かって笑顔を向けていた。

「あ・・・」

「お久しぶりね・・・ジニョンさん・・・お元気だった?」

「えっ?・・・ええ・・・ソフィアさんも・・・」

「じゃあ、フランク、ここでいいわ・・・」

「いや・・車まで送る・・・ジニョン、部屋に入ってて」

「え・・ええ・・」

「ジニョンさん・・じゃ・・また・・・今度はフランク抜きで会いましょう」
ソフィアはそう言ってジニョンにウインクをしてみせた。

「はい・・是非・・さようなら・・」

フランクとソフィアがジニョンを残して、彼女が駐車しているらしいパーキングの方へと
向い歩き出した。

  私は今度はつい先程まで私の視界にいたレイモンドとは逆の方向を
  歩くふたりの背中を黙って見送っていた
  そして同じように溜息をひとつついた

  その溜息を吐くと同時にふたりから視線を逸らせると
  フランクに言われた通り、彼の部屋に向かい、彼の帰りを待っていた


  私は冷えた体を温めようと冷蔵庫からミルクを取り出すと
  それをカップに注ぎ入れ、レンジにかけた
  二分程して少し熱くなり過ぎたミルクを未だ口にできないでいると
  玄関のドアが乱暴に開く音がして驚いて振り返った

  そこには走って戻って来たらしいフランクが大きく息を整えながら
  私を睨んで立っていた
  そして
  問い質すような口調で私に向かって来た

「どうしたの!? 急に・・・まさかここまで・・一人で?」

「走って来たの?」

「聞いているのはこっちだ・・・
 あれほど・・ひとりで行動しては・・駄目だと言ったでしょ!
 しかもこんな暗い夜道を・・歩いて?」

「大丈夫よ」

  私はフランクの心配を十分承知していながら、彼の厳しい視線に
  反抗でもするかのように不機嫌を装ってそっぽを向いた。

 

「大丈夫って・・君ね!」

  フランクはそっぽを向いた私の肩を自分の方に強い力で振り向かせると
  私を更にきつく睨んだ。


  私はそんなフランクに対して、引くに引けない感情を持て余したように
  彼のその目を睨み返すしかなかった。

「大丈夫だから、大丈夫なの!ちゃんと送ってもらったもの!」

「送って?・・誰に・・」

「だ・・誰だっていいでしょ?フランクだって・・」

「僕だって・・何!」

「フラ・・ンク・・だって・・・」

「・・・・まさか・・・ソフィア?・・・疑ってるの?」

「疑ってなんか・・・」 

  私は答えに困って睨み合わせたはずの視線を逸らしていた。


「じゃあ、何!・・その言い方・・」

「・・・だって・・・」

「だって?」

「だって・・逢いたくて・・・あなたに逢いたくて・・・
 どうしても逢いたくて・・・来たのに・・・あなたは・・・」

「ソフィアとは仕事の打合せだ・・・
 彼女は今、僕の仕事を手伝ってくれてる
 その話・・したでしょ?」

「したけど・・・」

「僕と彼女のこと・・・ふたりを信用してる・・
 君・・そう言ったでしょ?」

「言ったけど・・・」

「だったら・・どうしてそんな顔する?」

「ごめんなさい・・・」

  私は謝りながらも、彼から視線を逸らしたままだった。

「・・・・・」

「・・・・・」

「で?」

「えっ?」

「誰に?」

「えっ?」

「ここまで・・・誰に?」

「・・・・ジョル・・ジュ・・・」

「ジョルジュ?・・・
 彼がよくここに連れて来てくれたね」

「・・・・」

「まあ、いいよ・・・ひとりで行動しなかったのなら
 それでいい・・・」 

  フランクはそれ以上私を追及することをしなかった。

「・・・・」


  私はフランクに嘘をついた


  本当はひとりでやって来たこと・・・そしてついさっき
  フランクがこのところ異常なまでに心配していた
  その「危ない目」に遭うところだったこと・・・

  そして・・・ここまで送ってくれたのがジョルジュではなく
  レイモンドだったこと・・・
  そのどれもが、フランクを怒らせることになる・・・

 

     そう思った・・・から?

 

  ソフィアさんと彼のこと、私は本当に疑ってなどいない
  今ではソフィアさんは私にとっても頼りになる人となっていた

  でもつい・・・そういう言い方をしてしまった

  そのことに腹を立てたわけじゃないのに・・・

  じゃあ・・何故?

  何故私は・・・フランクに対して怒ってるの?

  そうよ・・・きっと私は・・・

 

     私の・・・レイモンドに対する感情に・・・

     私自身に・・・腹を立てている・・・

 

 

 

 

「レイモンドにしてやられた?」

ライアンの側近が若い男達に向かって叱責を浴びせていた。

「申し訳ございません」

「何のためにお前達を雇ってると思ってるんだ?
  たかが女ひとり、連れて来られないのか!」

「・・・・」

「他の奴にやらせてもいいんだぞ!」

「いいえ!今度こそ必ず!お任せを・・・」

「如何なさいますか」

「・・・・チャンスをやれ」

ライアンは彼らに背中を向けたままひと言だけ声を出した。

「そういうことだ・・・しかし三度のチャンスはないと思え!」

「はい!・・必ず!」

男達は、ライアンの背中に深く一礼をして部屋を出ていった。


「彼らに任せるだけでいいでしょうか」

「いや・・お前たちも動け・・時間がない
 親父が引退を内外に表明する前に、片をつけたい」

「承知しました」

 

 

 


「フランク・・・」

「ん?」

「・・・・・」

ジニョンが急に僕の胸に抱きついて、僕の背中に握った小さな拳を押し付けた。

「どうしたの?」

「離さないでね・・・」

「ん?・・・」

「私を・・・離さないでね・・・」

「離さないよ」

「約束してね」

「約束する・・・」

「何があっても・・・」

「ああ・・」

「誰かが・・・私たちを引き裂こうとしても・・・」

「誰が僕達を引き裂けるの?」

「そうね・・・」

「そうだよ・・・」


     あぁ・・・フランク・・・

     私のいるべき場所はこの胸の中だけ・・・

     あなたのこの胸だけ・・・


「こうして・・・眠りたい・・・」

ジニョンは僕の胸にもたれかかるように頬を埋めた。

「立ったままで?」

「くすっ・・・」

僕の冗談にジニョンは僕の胸で可愛く笑っていた。
しかし、それは心から笑っているようには思えなかった。


      どうしたの?ジニョン・・・

      何をそんなに恐れている?

      何が僕達を引き裂くというの?


僕は彼女を抱きしめたまま、まるでダンスをするように・・・
彼女を優しく宥めるかのように体をゆっくり揺らしていた。

彼女は何も言わず、僕に体を預けたまま目を閉じた。

彼女が僕に何を言いたいのか、その時僕は何もわからなかった。

 

ただ、今はこのまま・・・
ふたりだけの世界に揺られていたい・・・そう思っていた。

そして・・・

僕自身がいつも心に抱いている不安と・・・

彼女が今抱いている不安・・・

それが辿ればきっと同じところにあることを・・・


     僕は心の中で・・・

 


         ・・・必死に否定していた・・・


 








2010/07/04 13:06
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mirageside-Reymond-13

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ライアンの配下がジニョンを狙っていることを私はソニーからの報告で知った。
それからというもの私は、自分が受け持った授業が無い日であっても、
できるだけ学校に出向くよう努めていた。

フランクとて、十分気をつけてはいるだろう。
しかし私には、悲しいことに奴らの行動が簡単に読めてしまう。

奴らは決して諦めない
ターゲットが動きそうもないと思うその時間にも、決して気を緩めることなく
周到に見張っているものなのだ。

案の定、ジニョンは寮に戻って誰もが寝静まろうとしていたその時に、突然動きだした。
当然彼女の近辺に張り付いていた輩も『ここぞと』動き出す。

その報告を受けた私は、迷うことなくフランクのアパートの方角へと動いた。

私が駅で彼女を待ち伏せて、そっと後を付け始めるとその後方に彼女に狙いを
定めているらしい数人の男の気配を察知した。

私はその男達よりも先に彼女に近づこうと、彼女の進行方向を予測して、
車で先回りをして待った。

 

  「きゃあっ!」

私が彼女の手首を力任せに掴んで無理やり引っ張ると、彼女が驚きのあまり
大声をあげた。
私はその声を奴らに聞かれまいと思わず彼女の口を塞ぎ、乱暴に腕の中に
彼女を封じ込めると急いで物陰に潜んだ。
      
  「シッ・・・動くな!」

その瞬間彼女は、もがいていた体の動きを私の腕の中でぴたっと止めた。

     《見失ったのか!》

     《確かにここに入ったぞ!》

     《探せ!》

     《何としてもあの女を捕まえるんだ!》

彼らの気配が次第に遠ざかってしまった後も、私は抱きしめた彼女を離せないまま、
時を数えていた。

彼女はまだ私の腕の中で恐怖に打ち震えていたが、気持ちをやっと落ち着けて
静かに口を開いた。


  「離して・・・下さい・・・レイ・・・」

  「・・・・」

  「離して・・・」

  「離さない」

私はそう言うと、彼女を抱きしめていた腕に力を込めた。

 

     何をやってる・・・

     何を・・・言っているんだ

 

     こんな子供相手に・・・
 
     何を・・・

 

  「レイ・・・」

  「どうして、ひとりで歩いてた?フランクにも注意をされたはずだろ?」

  「どうして・・それを?」

  「世の中は・・・君が思うよりずっと物騒なんだよ」

  「フランクも・・・同じことを・・・言います」

  「君は・・・本当に・・・見ていられないほど・・・危なっかしい子だね」

  「だったら・・・見ないで・・・下さい」

彼女のその言い方は決して子供ではなく、ひとりの女のそれだった。

  「・・・・ああ・・そうしたい」

 

     そうしたいさ・・・
     どうしてこうも君に拘るのか・・・自分にも尋ねたい
     私が拘ったのは・・・フランク・シン・・・
     その男ただひとり・・・だったはず

 

  「もう・・離してください」

 

彼女の懇願の声に私は腕の力を緩めると、腕の中で震えていた彼女にやっと
顔を向けることができた。

 

  「あの人たちはいったい・・・誰なんですか?」

  「さあ・・」

 

     奴らが誰なのか・・・
     その先に誰が存在するのか・・・
     君には・・・知られたくない


  「私を探しているようでした」

  「そう?」

 

     ああ・・・君を・・・いや、君の大切な
     フランクを標的にしているやつらだ・・・
     そして君をも犠牲にしようとしている・・・

     私もまた、言ってみれば・・・その一味・・・


  「あなたはどうして・・ここへ?」

  「フランクに仕事のことで用があったんだ・・・」

  「仕事って?・・・あなたはいったい・・・」

  「公園に入るところで君を見かけて声を掛けようとした
   そしたら、あいつらが君の後ろを・・・
   公園なんて静かなところを、女の子がひとり歩くもんじゃない
   君は常識を知らなさ過ぎる」

私は厳しい目で彼女を睨みつけていた。

余りに無防備で、恐れを知らない彼女の無垢が無性に憎らしかった。

 

  「・・・ごめんなさい」

  「送ろう」

  「何処へ?」

  「フランクのところだろ?」

  「あなたが・・フランクのところへ行ったら・・・」

  「フランクが怒る?・・フッ・・アパートの下までだ」


      彼を怒らせるのが私の目的・・・
      しかし・・・君が嫌がるとわかっていることに
      私は何故か今夜は・・・
      少しばかり消極的になっていた


  「・・・・」

  「送らせてもらえないなら、このまま君を車に乗せて
   フランクのいないところへ連れて行くよ・・・ん?」

君の顔を覗きながらそう言うと、君は私の言葉を冗談に捉えたのか、
少しばかりホッとしたようにくすっと笑った。

 

      このまま君を・・・
      フランクのいない所に連れて行くよ

      冗談じゃないと言ったら君は
      どんな顔をするんだろう・・・

私が真顔になったことに少し戸惑っていたはずなのに君はその戸惑いを懸命に
私に隠していた。

  「・・・彼に・・・逢いたくて・・・」

  「・・・愚問だったね」

私がそう言って言葉を途切れさせると、彼女もまた口を噤んだ。

そうして私たちふたり、何も言葉を交わさないまま、しばらくの間、
暗闇の時を一歩一歩刻んでいた。
    

  「私のことが気になるのかい?」

  「えっ?」

  「さっきからずっと・・・見てる」

 

     私は彼女の方を向くことなくそう言った

     さっきから・・・
     君の視線が私に注がれる度に・・・
     頬が無意識に緩む自分を心の中で笑っていた

 

  「い・・いいえ・・何も・・」  
  「着いたよ」

  「あ・・はい・・・ありがとうございました」

  「これからは・・」

  「これからは決してひとりで歩いたりしません」

  「ん・・・じゃ・・」

  「はい・・・」

 

     私のことが気になるのかい?

     何を馬鹿なことを・・・



 

彼女と別れた後、背後にうごめく黒い複数の影に向かって私はおもむろに近づいた。

彼らは私の存在を認めると、少しばかりたじろぐ様子を見せながら後ずさりした。

  「私が何者なのか・・・わかっている顔だな」

その中の兄貴分らしい男の襟首を乱暴に掴んで私は睨んだ。

  「・・・・」

  「お前のボスに伝えろ・・・勝手なまねをするなと・・・
   私に歯向かう奴は、たとえ誰であろうとも・・・
   許さない。・・・今私が言ったことを一字一句間違いなく・・・
   伝えろ。・・・いいな。・・・」

  「・・・・」

  「行け!」

男達は身の置き所に困ったように落ち着きをなくし、そそくさと私の前から消え去った。


  「若・・」

ソニーが私の後を追っていた車の中から降りて来た。

  「見かけない奴らでしたな・・・」

  「ん・・・だから余計に何をするかわからない」

  「手柄を立てて、幹部に取り入ろうとしている末端の奴らだと?
   いかがなさいますか?」

  「しばらくの間目を光らせてくれ・・」

  「若・・・あの子がそれほど気になりますか」

  「・・・・」

  「ま・・聞きますまい・・・あの子はソ・ヨンスの娘・・・
   私も守りたい気持ちは同じです」

  「頼む・・・お前にしか頼めない」

  「承知しました」


     フランク・・・急げ・・・

     お前の大切なものをいつまで守り通せるか・・・

     保障はできないぞ・・・


     いやそうじゃない・・・私のこの気持ち・・・


         保障ができないのは・・・きっと

 


            ・・・そっちの方だ・・・


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