地味なひとりごと~撮影延期記者会見と韓流
韓国ドラマの輸出がかなり減っているという。
それを、嫌韓とか反韓のようなことが理由のひとつだとする空気があるけど、それはちょっと違うだろうと、私はいいたい。
そこに感動を与えるものがあれば、誰もがきちんと評価するだろう。
からっぽなままでは、誰もついていかない。
たとえ、ヨンジュンであっても、それは免れないだろう。
姿を見られればいいと考えるファンも多いだろうが、
(もちろん、私自身もそれを否定はしないけど、)
本当はちゃんと作品の中で輝いている彼が見たい。
そんなこと、当たり前だろう。
当たり前のことが当たり前だと思われなくなって、
ただ、目先のことばかりにとらわれてしまうから、
だから、韓流の衰退などといわれることになるのではないか。
常に王の道を歩むこと、
道を見失ったら基本に立ち返ること、
それは意外にシンプルだ。
本質を知っていること、
頑固なまでに、『それ』にこだわること。
目がくらんではいけない。
本流から逸脱してはならない。
そうならないために、ものすごく自分自身を律していかないとならないのだろうが、
それができる人がひとりいることを、私は知っている。
【創作】契丹の王子⑤
ここで、タムトク様がおっしゃった『あの時の子』について、少しお話しておきましょうか。
そのころ、城内には、タムトク様に新しい側室をお薦めしてはどうかという話がありました。
正妃スヨン様は病気がちでしたし、私はといえば、高句麗王都に来てから一年近くが経とうというのに、それまで懐妊の兆しが見られないという状態だったからです。
すでにタムトク様の血を引く王子はチャヌス様とワタルがいましたけど、お子は多いほうがいい、せめてあと数人は・・と周囲が考えるのも無理のないことでした。
戦乱の世にあっては、王の後継候補は何人いても多すぎるということはなかったのです。
タムトク様は、王都にいらっしゃる間、夜はたいてい、私がいただいていた屋敷に帰ってこられましたが、これをよくない傾向だと眉をひそめる人たちもいました。
あの女人は王のご寵愛を受けながら、10年前にお子をひとりあげられただけではないか、それに、何と言っても倭人ではまずい、ここはやはり高句麗貴族の娘をおそばに差し上げなければ・・・、というわけです。
実際に、タムトク様の元には、側室にということで、高句麗貴族の姫君の名前が数人あげられたということでした。
なのに、タムトク様は、『無用だ』のひとことで退けてしまわれたとか・・・。
私はその話を侍女のひとりから聞き、タムトク様に対して申し訳ないのとうれしいのとで胸がいっぱいになりました。
けれども、その話は、それで終わりというわけにはいきませんでした。
それから数日後、私のところに長老家ゆかりの側近の方々が三人訪ねてみえたのです。
長老家といえばジョフン殿とすぐに思いますので、彼女に何かあったのかと私は緊張しましたが、そんなことではありませんでした。
その側近の方々はごくまじめは顔で、これは、と思える貴族の娘を、私から王にお薦めしてはどうか、などと言うのです。
最近の情勢をみると、遅かれ早かれタムトク様は側室を迎えることになると思う、たとえば正妃のご実家ハン家あたりの姫がお側にあがるのを指をくわえて見ているよりは、こちらの息のかかった姫を差し上げるほうがいいのではないか、と。
それは、王家のことだけでなく、私の立場まで考えた提案だったのかもしれません。
でも、私は素直にうなずくことができませんでした。
申し訳ないけど、私はそのようなことはできません、
王のお気持ちがほかの方に移っていったというのならともかく、
私からそのようなことを申し上げるのはいやです、と。
王家の中を取り仕切るご自身の立場もよくお考えを、などと言い置いて、その側近の方々は帰っていきました。
そのことを、居合わせた侍女たちに固く口止めし、私自身、タムトク様にもほかの誰にも申しませんでした。
でも、そういうことはどこからか漏れてしまうものでしょう?
タムトク様は、どこからかお聞きになったようなのです。
いいえ、タムトク様が何か私におっしゃったわけではありません。
ただ、どこがどうのというわけではないのですけど、いっしょにいるとき、いつにもましてやさしくしてくださるとか、そんなことですわ。
うまく説明できませんけど、いっしょに暮らしていれば、ああ、この方はご存知なんだって、自然にわかるものでしょう?
ああ、ひとつだけ、もしかしたらと思うようなことがございました。
ワタルに対する態度がちょっと厳しいものになったことです。
それまでも、タムトク様はワタルと轡を並べて遠駆けしたり、屋敷で剣の手ほどきをしたりすることがございました。
でも、それが少し本格的なものになったのです。
屋敷で夕餉をとっているとき、ワタルに対して、儒学などという難しい学問のことであれこれと質問されたりするようになりました。
また聞くところによりますと、城中にあっても、騎馬や剣術の指南の先生方に、指導方法を問いただされたりしたようです。
もっとも、ワタルは、父上がみてくれるんだよとうれしそうにしていましたが・・。
でも、きっと近いうちに、音を上げることになるのでしょうね。
そうこうしているうちに、北と西の砦に異変があるという知らせが届いて、タムトク様はまたもや出陣していってしまったのでした。
王が戦場に行かれている間は、側室に推挙する姫君がどうのなどという話はひとまず立ち消えになってしまいます。
そう考えますと、王の後継を残さねば・・、などと言い募っている間こそ平和なのだということになります。おかしなことです・・。
ところが、それから二月くらいがたってからのことでした。
戦場からは特に悪い知らせもなく、このまま休戦になるかもしれないとささやかれるようになっていました。
明け方のまだ暗いうちのこと、北の砦にいらしたはずのタムトク様が、突然屋敷に帰ってこられたことがありました。
急に休戦協定が結ばれたので、数人の側近と警護兵10名ばかりをつれて、日に夜をついで駆けてこられたとのことでした。
夜の明けきらない冷たい空気の中で、皆さんといっしょに汗と泥をいつものように洗い流しながら、あの方は白い歯を見せてにっこりされました。
『どうしても、そなたの顔を見たくなったのだ。』
そばにはほかの家来の方々だけではなく、まだ戸惑った顔の、屋敷の侍女たちもいるというのに、そんなことをぬけぬけとおっしゃるのです。
私は、そのまぶしいような笑顔をかわしながら、
『すぐに朝餉をお持ちしますね。』
『朝餉はほかの者たちのだけでよい。
私は、しばらく休みたい。』
『まあ、お休みになるんですの?』
思わず問い返した私に、周囲から側近の方々からくすくす笑う声が聞こえてきて、
私はそれ以上何もいえなくなってしまったのです。
『お方様、俺たちのことはいいですから、
王に気を遣ってやってください。
でないと、あとが大変ですから。』
そう、そのとおりです。
ほんとうに、タムトク様は・・・。
そして、そのあとはご想像の通りでございます・・・。
あの方はたいてい礼儀正しくて誰にでもやさしい方なのですが、時々有無を言わさず・・・、というところがございました。
ほかの方なら、私も、いけませんわ!と強く申し上げたりもするのでしょうけど、この方にはつい許してしまうところがあるのです。
でも、これは私だけではありません。
側近くに仕える方々だけでなく、末端に従う家来の一人にいたるまで、みなさん異口同音に言います、タムトク様だから、まあ、いいか・・と。
そう、その最たる人が、あのサト殿でしょうね。
このときも、タムトク様の留守を守る必要から、陣中に残って代わりに指揮をとるよう言われたとのことでした。
アカネ殿が身重ということでしたから、本当なら、サト殿こそ一番に王都に帰ってきたかったでしょうに。
きっと、すまない、サト・・、なんて言われて、サト殿も承知してしまったのでしょうね。
ほんとうに、タムトク様は・・・。
そんなわがままとも思われかねないところがあるのに、周囲が認めてしまうのは、タムトク様がこれまで多くのたいせつなものを失いながら、王としての任務を果たされていること、・・・軍の先頭に立ち、政務においても常に自分を律して国のために働いていらっしゃるのをみなが知っていたからです。
いいえ、そうではないですわね、そんな理屈だけでは説明しきれないものを、あの方はお持ちでした。
それが、生まれながらの王の証とでもいうものかもしれませんけど・・・。
そう、ひとことでいえば、みんな、タムトク様が大好きだったんですわ。
話が横にそれましたが、『あの時』とは、そのときのことだとタムトク様は思われたのです。私もそう思いました。
ただ、そういうことって、何となくわかっていても口に出したくないことでしょう?
まして、私に同意を求めるなんて・・・。
でも、王家に生まれたタムトク様にとって、いえ、付き従う者たちにとって、これは重要なことでした。
生まれてくるお子がまぎれもなく王家の血筋であること、王にお墨付きを頂いたということになるからです。
私は・・、私は王家の血よりも、タムトク様との間のお子というだけで十分でした。
そばには薬師の先生がいましたから、とても恥ずかしかったですけど、タムトク様が『あの時の子だな』とおっしゃっただけで、私はもう・・・。
「ワタルが聞いたら、喜ぶだろうな!」
「はい、きっと。
・・・あなたも、喜んでくださいますの?」
半分恐る恐るといった感じで、お聞きしてみると、タムトク様は切れ長の目でこちらをちらりとご覧になりました。
「さて・・、どうかな?
そのあたりは明日の夜にでも、
ゆっくりとふたりで確かめようか・・。」
まあ!
で、でも、明日でございますか?
今日はお帰りになれないの?
私が赤くなってそう言おうとしたときでした。
突然、入りますぞ!の大声とともにがらりと扉が開けられて、ジャン将軍が入ってきたのです。
「いや~、聞きましたぞ!
おめでとうございまする!
歩兵訓練を放り出して駆けつけましたぞ!」
『ホテリアー』を抱きしめて
☆六本木の「ホテリアー」最終回に行ってきました。遅まきながら、私なりの感想です。
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いきなり冒頭から現れるのは、大写しになったサングラス姿のドンヒョク、端整な横顔。
迷いも吹っ切れ、確かな目標に照準を定めた男の、力強い足取り。
朝のきらめく光の中、新しい始まりに走る男の、すずやかなまなざし。
シャンデリアきらめく下で口にしたプロポーズの言葉よりも、
幸い薄い幼い日々の思い出、そして、迷子の子供のような言葉とせつないまなざしが、
私は好きだった。
ドンヒョクssi、ちゃんとジニョンにしあわせにしてもらいなさいね。
カサブランカの夜、静かにグラスを傾ける二人の男。
語るのはポーカーのこと?
いいえ、実は、ひとりの女に対する決着の言葉。
先に立っていった方が勝ったのか、負けたのか、
経験不足な私には、わからなかったけれど・・・。
桜の木の下でたたずむふたり。
浮かび上がるシルエットが大スクリーンの画面いっぱいに広がる。
手に持った飛行機のチケットをドンヒョクに返そうとするジニョン、
それを受け取らないまま、ただ彼女を抱きしめるドンヒョク。
表情、言葉は?、いいえ、そんなものは何もいらないわ。
ふたりがどんな会話をし、どんな思いでいるのか、手にとるようにわかるから。
ただただ、息をのむように美しいシーン、そして、
かなしくも、美しい恋人たち。
ホテルを守るため、必死で生きてきた女の静かな最期。
今まで見過ごしていた死の演技の見事さ。
ぞっとするほど素敵でした・・・、そんな言葉で、ヨンジュンを評価した感性ゆたかな女優さん、
さすがです・・・。
ソウルを発つ日、彼女をぎりぎりまで待ち続けた彼。
そこに秘められた思いは、過去の、そして現在のメールの言葉になって、彼の指先からあふれ出る。
『・・海に来ています。父に会いました。・・今日顔を見た瞬間、それは恋しさだったのだとわかりました。・・・・』
『今日、教会ですべてを告白するつもりでいました。僕がなぜソウルホテルにやってきたのか、何をしようとしているのか・・・』
『ごめんなさい、傷つけてしまったね・・・』
『ジニョンさんが望むなら、今あるものすべてを捨ててもいい、だから、僕から離れていかないで・・。』
『疲れ果てた僕をはじめから温かく包んでくれたあなたを、僕は失いことはできません。・・・』
『僕はどこにいようと、心の一番奥にソ・ジニョンという名前を抱いて生きてゆきます。・・・』
『僕たちの愛が試されるときがきました。・・・あなたが僕のもとへ来る日があると約束してください。・・・』
いつもながらの、いいえ、いつも以上に胸にせまるせつない言葉たち。
それらは、確実に彼女のもとへ届いたはず。
なのに、ジニョン、あなたは間に合わなかった・・。
男気と友情とやさしさ・・、それから、自らの強い意思によって、彼は彼女のもとへ帰ってくる。
チェックインする彼、迎える涙の彼女。
これほどの男を、これほどまでに不幸にも幸せにもするジニョンという不思議なキーワード。
ラストシーンは、もちろん、ホテルロビーでの力強い抱擁。
それにしても、ドンヒョク、
あなたは、なんとしあわせそうな顔をしていることか!
見逃せないのがホテリアー終了後の映像。
『ぺ・ヨンジュンと家族のための・・・』で始まる『BYJ FAMILY BOOK』のCM。
髪を伸ばし始めたころの彼の顔がスクリーンいっぱいに登場して語りかける。
『僕はしあわせです・・・』。
いつもの低い声よりもほんの少し高いトーン。
ドンヒョクからチュンサン、インス、そしてタムドク、
確実に歩いてきたあなた・・・。
ああ、ヨンジュンssi、本当に今、あなたはしあわせなんでしょうか?
【創作】契丹の王子④
「あ、タムトク様!
ただいま、お方様にお取次ぎをいたしますので・・・」
外からそんな声が聞こえたと思ったら、いきなり客間の扉が開けられて・・・・、つかつかと入っていらしたのはあの方でした。
寝台に横になっていた私は、あわてて起き上がりました。
「ああ、そのままでよい!」
タムトク様はそうおっしゃいましたが、そんなわけにはまいりません。
胸のむかむかした嫌な感じはほとんどおさまっていましたし、何よりも、あの方がひどく心配そうなお顔をされていましたから。
タムトク様はそんな私のところまで近寄ってくると、いかにもさりげないふうに、私の頬に手を伸ばし、長い指でちょんと軽くつついて・・・、
「・・・心の臓が止まるかと思ったぞ!」
「タムトク様・・・」
「まったく・・。
大事な合議の最中に、そなたが倒れたとなどと聞かされたのだぞ!」
「申し訳ありません。
でも、私、倒れてなどいませんわ。」
タムトク様の真剣なお顔がおかしくて、私はつい、クスリと笑ってしまいました。
そばにいた侍女たちも、笑いをこらえているようです。
タムトク様はそれに気がついたのか、ちょっとむっとした感じでおっしゃいました。
「ふん、おかしいか?
私は、死ぬほど心配したのだぞ!」
「ごめんなさい、タムトク様。
どこかで間違えて伝えられたのだと思いますわ。
ご心配かけました。」
「本当にだいじょうぶなのか。
まだ顔色が悪いようではないか!」
はい、私はうなずきましたが、タムトク様は私の言っていることなど半分も信用できないというように、傍らに控えていた薬師の先生の方をふり向いて、どうなのだと詰め寄ります。
このところずっとスヨン様のお部屋に詰めていた薬師の先生は、かすかに笑みを浮かべて、はい・・、と頭を下げました。
と、タムトク様はいぶかしげな顔になって、こちらにお顔を向けました。
「だいたいだな、そなたには、控えの間で待つよう一時も前から言ってあったはずだ。」
今度は別の方向からだわと、私はちょっとあわてました。
「はい、そのように確かに承りました。
でも、私はスヨン様の様子をお伺いしてからと思ったんです。
この三日間お訪ねすることができなかったんですもの。」
「・・・・」
タムトク様は一瞬黙ってしまいました。
この方は、私が『スヨン様』の名前を口にするたびに、いつも困ったようなお顔をなさいます。
でも、このときはすぐに続けておっしゃいました。
「そうは言っても、怪しげな者がそなたに暴言を吐いたと聞いたぞ。
まして、先日から風邪気味だと言っていたではないか。
そんなときに、私の指示を無視するから、このようなことになるのだ!」
「暴言だなどと・・・、
そのような大げさなことではありません。
城で働いている者が話しかけてきただけですわ。」
私は笑いながらそう言いましたが、タムトク様は、ふん、どうだか・・・、とうつむきました。
そのとき、私は気がついてしまったのです、
タムトク様の中に何があるのかを・・・。
その二つの目が悲しい色をしていましたから・・・。
10年以上前の契丹で起こったこと、そこに隠されている母上様のこと、それが原因で15歳の少年が刃を向けたのだということ、そして、もしかしたら少年ゆかりの初老の女性が私に伝えようとしたことも・・・。
タムトク様の内側に何かトゲのような痛いものが刺さっているのだと、私は思いました。
やがて、タムトク様はほっとため息をつくと、おっしゃいました。
「では、ちょっと風邪気味なだけだとでもというのか?」
私は複雑な思いのまま、薬師の先生にうなずくと、そばにいた侍女たちにしばらくの間席を外すよう申しました。
侍女たちが出て行くのを、タムトク様は、ふうむというお顔でごらんになっていましたが、やがて、私と薬師の先生の顔を交互にながめながらおっしゃいました。
「なんだ?
もしかしたら・・・、なのか?」
こわいくらい真剣な顔に、かすかな期待の色!
まあ、さすがにおわかりになったのですね?
その直前にあったいろいろなことをどこかに追いやって、私はにっこりとしてしまいました。
「はい!
その、もしかしたら・・、ですわ。」
タムトク様は切れ長の目をすっと細めて、そうか・・、とつぶやくようにおっしゃいました。
それから、ぐっと何かを飲み込んで、
「タシラカ、
・・・あの時の子だな?」
「・・・・・」
私は何も答えられずに赤くなっていました。
あの方はふっと笑みを浮かべると、そのまま強い力で私を抱き寄せて・・・、
「そなたは最高だ・・・。」
そう、かすれたような声でおっしゃるのを、私は腕の中で夢のように聞いていました。
「最高なのはあなたですわ・・・」
私はそうお返事したのですけど、それはタムトク様にちゃんと聞こえなかったかもしれません。
だって、私は、もう胸がいっぱいでしたから。
やがて、こほんとひとつ咳払いが聞こえて、薬師の先生が重々しい声で言いました。
「ええ~、お二人でお喜びのところを失礼いたします、
とりあえずは、王家の伝統に基づいてことを進めさせていただきますぞ。
タシラカ様、ご懐妊でございます。
今、三月に入ったばかりでしょう。
あと六月もすれば、・・・そう、たぶん今年の冬には、
王子様か姫様がご誕生ということになります。」
それから、薬師の先生は顔中に笑みを浮かべて宣言したのです。
「高句麗王タムトク様、タシラカ様、
まことに、おめでとうございます!」
【創作】契丹の王子③
そんなことを言ったものの、私はそのあと、何をしても心重いままでいました。
ただでさえ体調が今ひとつだったのに、あれでよかったのかという思いが何度も心に浮かびました。
そうです、あの契丹の女官だったという人がその後どうなったのか、私は気になって仕方がなかったのです。
それで、すぐに侍女の一人を警護兵たちのところにやって、決して罰を与えたりしないでほしい、王にも内密に・・、と伝えさせようとしたのですが、侍女はタムトク様の側近らしい人と戻ってきたのでした。
「王がお呼びです。
あちらのお部屋でお待ちになるように、とのことです。」
その若い側近の人は一緒に来るように私を促しましたが、私は咄嗟に首を横にふりました。
「いいえ、まだ仕事が残っていますので、あとで参ります。」
素直についてくるとばかり思っていたらしい若い側近は目を丸くしましたが、私はかまわずに、侍女三人と警備のためと主張する警護兵三人をつれて、スヨン様のいらっしゃる東の宮殿に向かうことにしました。
「あの・・・、それでは私が困ります、タシラカ様。
タムトク様がお待ちですので、なにとぞ・・・。」
そんなことを言いながら、その若い側近は困ったような顔でついてきます。
でも、私は知らん顔で、ずんずん歩いていきました。
すぐにでもタムトク様にお会いしたくてたまらなかったのに、その命令には素直に従いたくないような気がしていました。
なぜって・・、それは、タムトク様が、そんなに重大なことを私に話してくださらなかったからですわ。
それにもうひとつ、タムトク様にお会いする前に、どうしても自分の中でけじめをつけておかなければならないことがあったのです。
あんただって、昔人質だったこともあったじゃない・・・、そう、あの人が投げつけた重い言葉の中のひとつ・・・。
確かに、かつて私も、その契丹の王子と同じように、囚われの身でした。
だから、悔しいほど、その契丹の王子の気持ちはよくわかったのです。
多感な年頃の少年は、誰かにたきつけられるままに、衝動的にタムトク様の命を狙ったのでしょう。
いえ、もしかしたら、突然知らないところに連れてこられて、ただ心細かっただけなのかも・・。
そう、私があの日、あの方にかんざしを突きつけたように・・・。
あの時、私は何をしようとしていたのでしょう?
タムトク様の命を奪おうとでも考えていたのでしょうか?
そして、あのとき、タムトク様は私を罰しようとは思わなかったのでしょうか?
ともかく、あの夜、あの方は私を求め、そして、そのまま私は初めて抱かれたのです。
それは・・・?
どんなに考えても、答えは出ませんでした。
私は心も身体も重苦しいままに、東の宮殿にスヨン様を見舞い、正妃様付きの侍女に容態を尋ね、頼まれていた人参を手渡し、必要なものがあったら言ってほしいと伝えたりしました。
スヨン様にお会いできないかと頼んでみたのですが、今はお休みになられてますゆえ・・・、などと、やんわりと断られてしまいました。
お方様になんということを・・・、とこちらの侍女が口々に言うのをなだめながら、そんなことが妙にずしりと応えて、ああ、私は疲れているのだと思いました。
でも、遠くから、ちらりとですが、眠っているチャヌス様のお顔を拝見することができたのです。
「まあ、かわいいわ。
やっぱり、タムトク様に似てらっしゃるのね。」
思わずそんなことを言うと、正妃様付きの侍女も、はい、とうれしそうな顔をしました。
ほんのつかの間ですが、体調の悪さを忘れあたたかいものが身体の内側に満ちていくようで、それと同時に、ねたましさもおぼえて・・・。
私って嫌な女だわ、そう思いながら、気を取り直そうと、中庭に足を運んだのでした。
そこでワタルが剣術の稽古をしていると知っていたからです。
仲間たちといっしょに大きな声を上げて剣をふりあげているワタルの姿を遠く眺めて、チャヌス様も似てらっしゃるけど、ワタルもそっくりだわ、と心の中でつぶやき、すぐに、自分が馬鹿みたいだと恥ずかしくなったりして・・・。
「王に似て、ワタル様は筋がいいと、みなが言っております。」
側にいた若い側近がにっこりとそんなことを言い、私もそうでしょうか、などとうなずきかけました。
そのとき、私は初めて気がついたのです、
あの契丹の王子も、ワタルとそんなに年齢の変わらない15歳の少年だということに。
今、にこにこと汗をかいているけれど、いずれワタルも少年らしい正義感と性急さを身にまとい、いずれ人に刃を向けたりするのだろうかと・・・。
しあわせそうにすやすやと眠っているチャヌス様だって・・・。
突然ひどく息苦しくなって、私はそばの列柱のひとつに手をかけたのでした。
「タシラカ様?」
侍女のひとりが心配そうにかけた声が、ひどく遠くに感じられました。
「お顔の色がよくないですわ!」
「ああ・・、これは・・、いけません。
だから、あちらでお休みを、と申し上げたのに!」
側近の人がそんなふうに言ったときでした。
私は、内側からの突き上げるようなむかつきを感じ、はっとしたのでした。
もしかしたら・・・?
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