2010/09/21 23:31
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-20

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mirage sidestory-Reymond-20


      

 

彼に殴られでもしたら・・・少しは心が軽くなっただろうか・・・


   君達を利用した
  
   ジニョンを・・・利用した・・・

君達に会うまでは本当にそれだけのものだった

そうなんだ・・・

最後までそうだったなら、どんなにか良かっただろう

 

「結果的に・・・君がソウルホテルを救ったことになる・・
 だとしたら・・ジニョンの父上も文句はあるまい」


そんなこと・・・
君が望むはずもないこともわかっている


君という男が・・・
幼い頃に受けた大人の仕打ちに対して
どれほどの嫌悪を抱えているだろうこと・・・

誰にも負けまいと・・・
虚勢を張って生きてきただろうこと・・・

この私には痛いほどに理解できる

しかし
こうして私が君をわかった風に論じることも
きっと君は恥辱と感じるのだろう・・・

そんな君が愛おしい・・・

そう言ったら・・・余計に怒るか?・・・フランク・・・

しかし・・・これは・・・
どうしても君には飲んでもらわねばならない

君の・・愛するジニョンの為にも・・・



 

「若!大変です・・ジニョンさんが・・」

連打される部屋のチャイムと同時にソニーからの携帯電話から聞こえた彼の緊迫した声に
実際の私はかなり動揺していた。

しかし、フランクの尋常でない様子を前に、私は冷静にならざる得なかった。

私までもがうろたえるわけにはいかなかった。
私が・・・

彼らを必ず守りきらなければ・・・


「いいか・・決して逆上するな。これは大事なことだ・・よく聞け。」


君は決して手を血で染めてはいけない


それを恐れるほど、彼の目が怒りに震えていた。


   頼む・・フランク・・

   ジニョンの為にも冷静になれ・・・


       あの子の笑顔は何としても守らなきゃならない
       わかるな・・
       その笑顔の先には君が必ずいなければならない・・
       それを忘れるなよ・・



   フランク・・忘れるな・・・

   あの子の笑顔は君しか見ていないということを・・・

   決して忘れるな・・・

    

       いいな・・・
       君はただジニョンを守れ
  
       そして何があっても
       ジニョンだけは逃がせ・・いいか!

 

      
「一人残らずお前達の息の根を止める・・

 覚えておけ・・・
 奴らだけじゃない・・・あんたもだ・・・
 あんたも・・・決して・・・許さない・・・

 何処へ逃げようが・・・必ず・・・」

 


ああ・・フランク・・そうしよう・・・

何処にも逃げはしない・・・

ジニョンにもしものことがあったなら・・・


その時は・・・

 

私は必ず君の手で・・・


 

     ・・・この世から姿を消そう・・・

 

 
      


2010/09/21 10:20
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mirage-儚い夢-45.狂気

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レイモンドはフランクに対して今までの非礼を詫びた上で、自分の堅い決心について
具体的に話をした。

今回のソウルホテルの買収に関しては飽くまでもフランクを奮い立たせることが目的であったこと。
結果的に自分が押さえたソウルホテルの債券はフランクの言い値で彼に譲る用意があることを告げた。

「・・・・・」
その間、フランクは口を閉ざしたまま、レイモンドを睨みつけていた。

「君が怒るのも無理はないな・・・
 しかし結果的に・・・君がソウルホテルを救ったことになる・・
 だとしたら・・ジニョンの父上も文句はあるまい」
レイモンドの言い方は至って淡々としていた。

     
   正直彼への憤りを抑えることはできなかった
   しかしどうしたというのだろう・・・
   さっきまで目の前で繰り広げられていた彼と夫人の愛憎劇が
   僕の怒りを鎮めていくような錯覚を覚えていた

   それでも・・・

「勝手なことを言うな。・・・僕にはそんな小細工など・・必要ない」

「そうこだわるな・・」

「こだわり?」 彼のひと言ひと言が癇に障った。

「そうか・・しかし困ったな・・・私はあの債券は君にしか譲らない
 君が受けなければ・・結果として
 ソウルホテルは人手に渡るぞ・・いいのか」

「ふざけたことを!・・人を馬鹿にしてる」
レイモンドの理不尽極まりない発言にフランクは思わず声を荒げた。

「してない。」

   彼の僕を見る目には一点の濁りもないことを僕自身、認めざる得なかった。

「・・・・」

「君達への詫びと言ってもいい。私は自分の思惑の為に、君達を利用した」

「利用?・・ジニョンも?」

「ああ・・ジニョンも利用した」

「!・・・」

フランクは突然彼に殴りかかりそうになって直ぐにその拳を戻した。


   利用した・・・


そう迷わず言ったはずの彼の目が、決してそうではなかったことを如実に物語っていたからだ。

「殴らないのか・・・」

「殴りたい・・・」

「そうしろ」

   彼は本当にそうして欲しいという目で僕の目を見据えていた。
   しかし僕は、決して彼の望みを叶えなかった。

   僕はわざとらしく乱暴に音を立てソファーに腰を下ろした。

   そうやってまるで・・・
   絆されそうになる彼の目から逃れでもするかのように・・・

「・・・・・」

「とにかく・・今はあの資料を一刻も早く・・FBIに・・その後のことは後で話し合おう」

「・・・・・」

そこへ、部屋のチャイムがけたたましく鳴り響いた。
それと同時にレイモンドの携帯電話も鳴った。

電話の主もチャイムの主も、部屋のドアの前で待機していたレイモンドの側近ソニーだった。


電話を受けるや否やレイモンドが慌てたように、部屋のドアに向かった。
そして彼はドアを開けるが早いか、ソニーに向かって怒鳴りつけた。
「どういうことだ!」

「たった今・・連絡が・・・」

「それでジニョンは!」
彼らふたりの表情が緊迫した様を呈していた。

レイモンドの口から「ジニョン」の名前が出ると、今度はフランクが矢のように素早く駆け寄り、
ソニーの首根っこを締め上げた。


「ジニョンに何があった!」
ソニーはそれを振り払うでもなく、言葉を続けた。


「連れ去られました」

「何やってる!見張っていろとあれほど!」 レイモンドが横から彼を怒鳴りつけた。

「申し訳ございません!若い者が目を離した隙に・・
 ライアンの手のものです」

その瞬間、フランクの顔面が蒼白になっていた。

   彼らのやり取りが次第に遠くに聞こえてきた。
   頭の中が真っ白で、何かが僕の思考回路の邪魔をした。

「それで・・何か言って来たか・・」

「いえ・・まだです・・しかしきっと・・直ぐに・・」

フランクが彼らの話もそこそこに部屋を出ようとした。

「何処へ行く!フランク・・」

「探しに行く。」
レイモンドはフランクの腕を掴み、彼の動きを制した。

「待て!何処を探す!当てもなく探して何になる」

「何にもならなくても!こうしていられない!」

「落ち着け!君らしくないぞ!もう少し待て・・奴らの目的は
 あの書類と君だ・・
 その二つが揃わない限りジニョンは無事だ」

「どうしてそんなことがわかる!これも・・お前のせいだ!
 お前さえ・・」
フランクはレイモンドに詰め寄り胸倉を掴んだ。

「わかってる・・とにかく待ってくれ
 ジニョンは必ず無事で君の元へ返す。必ずだ・・私を信じてくれ・・」

レイモンドはフランクを落ち着かせることに努めた。
正直言ってレイモンド自身、現在の状況下の中で、ジニョンに何事も起こらない保障は
どこにもないことを懸念していた。
認めたく無いマフィアの実態がレイモンドの脳裏をかすめていた。

   ・・・そうなんだ・・・
   マフィアというものは

   自分が欲するものの為ならば・・・
   相手を恐怖に陥れることで、いいなりになることを
   余儀なくさせる

   しかし・・・

   フランク・シンという男が
   決して彼らの思い通りにならない男だということを
   彼らは余りに知らなさ過ぎる

   フランクは・・・

   愛するジニョンを奪われたが最後・・・
   
   奴らのいいなりになるどころか
   全てを破壊しかねないことを・・・

   彼がマフィアの定義に外れた男だということを・・・

   彼らは知らなさ過ぎる・・・

   だから余計にジニョンが・・・危ない・・・


フランクはそれでも、レイモンドの言うように今動くことが得策でないことを理解するしかなかった。

その時・・フランクの携帯電話の着信が鳴った。
「フランク!」 ジニョンの声だった。
「ジニョン!」

ジニョンの声はそれきり何かで封じられたかのように聞こえなくなった。
そして、突如聞きなれない男の声が耳に届いた。

「フランク・シンさんですね」

「誰だ!」

「状況は既におわかりのようですね
 ご安心ください・・彼女は大切にお預かりしています」

「ジニョンに何かあったら・・」
「・・・・」
「もしもジニョンに何かあったら・・・覚悟しろ。
 係った人間一人残らず・・・」

「それはそれは・・」

「冗談だと思うなよ・・どんなことをしても・・
 生涯を掛けて・・何処までも追いかける」

「・・・・」
興奮を抑え淡々としたフランクの言葉と声色はそばにいたレイモンドやソニーまでもが
背筋が凍るほどだった。

フランクは見るからに常軌を逸していた。
「フランク・・代われ」

レイモンドがフランクの電話を急いで取り上げた。


「レイモンドだ・・条件を言え」

「レイモンド様・・お話が出来て光栄です・・・
 条件は二つ
 それは言わなくともおわかりですね」

「ジニョンは無事だな・・もう一度彼女の声を聞かせろ」

フランク・・・私は大丈夫・・
ジニョンの小さな声が届いた瞬間、レイモンドの胸が締め付けられた。

「もういいでしょう?」
「彼女に危害は加えていないな」

「もちろんです・・・大切なお預かりものですから」

「ライアンは何処にいる」

「ライアン様はこの件に関しては関係ございません」

「高みの見物か・・ライアンに伝えろ。覚悟をして待っていろと」

「レイモンド様・・ここにいる女性、あなたにとってもいい人なのだとか・・
 その為にも・・
 フランクと書類を差し出して頂きましょう」

「わかった。・・・かならず差し出す。その代わり、ジニョンに指一本触れるな。 
 もしも彼女に何かあったら・・・」

「彼女に何かあったら・・・あなたが黙っていませんか?」

「フッ・・・私を甘く見てるのか?・・・
 しかし・・残念だな・・きっと恐ろしいのはこの私じゃない

 覚えているか?・・・さっき彼が言っていた・・・
 冗談だと思わない方がいいぞ。奴なら必ず・・・
 一人残らずお前達の息の根を止める・・
 その為なら・・・恐らく地の果てまで探しぬくぞ・・私が保証しよう。」

レイモンドは相手の男に覚悟して待っていろ、と言わんばかりに凄みを利かせていた。

「・・・・・」

「さて・・まずどうすればいい」

「・・・・・・あ・・フランク・シンに・・・まずこちらへ来ていただきます
 そしてあなたがその後で・・書類を手にご足労ください
 彼女と引き換えに・・・それで如何でしょう・・・それからもうひとつ・・・」

「ふたつと言わなかったか?」

「申し訳ございません・・・これが一番重要なことでした
 あなたには組織から退いて頂きたい」

「わかった。」

「えっ?」
「わかったと言ったんだ・・・容易いことだ。」

 

電話の趣旨はそばで聞き耳を立てていたフランクにも通じていた。
しかしフランクは一向に口を開こうとしなかった。

「フランク・・場所はソニーが案内する・・一緒に行け
 いいか・・決して逆上するなよ

 これは大事なことだ・・聞け
 君は決して余計なことをするな
 必要とあればそれはソニーがやる
       
 あの子の笑顔は何としても守らなきゃならない
 わかるな・・
 その笑顔の先には君が必ずいなければならない・・
 それを忘れるなよ・・

 ひとつだけ、言っておこう
 奴らの目的は君だ。
 君に手を掛けることはない・・しかし・・
 奴らにとってジニョンの存在は重要じゃない

 どういう意味かわかるな・・・それだけは認識しておけ

 いいな・・・私が行く前にもしも
 ソニーがチャンスを作ったらふたりで逃げろ。

 君はただジニョンを守れ
  
 そしてもしも・・・上手くふたりで逃げられなかったら・・・
 それでも・・・何があってもジニョンだけは逃がせ。
 いいか!」

フランクは呆然としていた。レイモンドの言葉をまるで理性の外で聞いていた。
今のフランクは誰が見ても、決して冷静な精神状態とは言えなかった。
レイモンドはそれを懸念したようにフランクの目を食い入るように覗いて念を押した。

「いいか、お前は何も行動を起こすな。ただジニョンを守れ、いいな。」

しばらく口を閉ざしていたフランクがやっと口を開きレイモンドに向かって静かに呟いた。

・・・さっき・・奴らに言ったな・・・

「?・・・・・」

「“冗談だと思わない方がいい。一人残らずお前達の息の根を止める”
   ・・・そう言った・・・」

「ああ・・言った・・」

「覚えておけ。奴らだけじゃない・・・あんたもだ・・・
 その時は・・・あんたも・・・決して・・・許さない。」

フランクの目は激しい怒りに燃えていた。


   ジニョンにもしものことがあったなら・・・

   ひとり残らず息の根を止める

   例え、何処へ逃げようとも・・・


   誰ひとり逃がさない



   誰ひとり・・・



       ・・・許さない・・・

         

   

 

       

 

 

 

     

     

     

 













2010/09/20 21:13
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-19

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ジニョンの身辺が四方八方で守られていることを改めて確認した後、私はその足で
NYグランドホテルへと向かった。

たった今までジニョンとの話題の渦中にいたフランクと、5年前、私達の前から
忽然と姿を消した義母に会う為・・・

そして・・・私の疎ましい人生に決着をつける為・・・

 

ホテルに到着するとソニーが既にエントランスで私を待ち構えていた。

「ひとりで行くと言ったはずだが?」 私はソニーを厳しく睨みつけた。

「たった今、昨日の輩を捕らえました」

ソニーはそんな私にお構いなしに自分の用件だけを話し始めた。

昨日、JFK空港に待機していた義母の車に既にライアンからの刺客が待ち受けていたことを
私は早くから察していた。


「!やはり・・そうだったのか」

「はい」

「・・・・」

「まだ何処に潜んでいるやもしれません・・ですからどうか」

「ひとりで行く。」

「お供させて下さい」

「駄目だ・・フランクとの約束だと言っただろ?」

「ご心配なく・・入り口でお待ち申し上げるだけです」

ソニーはそう言って、私に有無を言わせず私の前を歩いた。

「フッ・・・勝手にしろ」

「はい」

ソニーの心配は理解していた。

彼がこの所執拗に私のそばにいることを望む。

彼の言葉が決して大げさなことではない程に私の周辺が緊迫した状況であることも・・・

今や私の敵はライアンだけではない・・・

組織の人間全部を敵に回してしまったかもしれない。
今こうしてすれ違う見知らぬ人間から突如として刃を向けられたところで
決して不思議なことではなかった。

 

もしもそんなことが起こったら・・・
ソニーはきっと身を挺してでも私を守ろうとするだろう。

それが怖かった・・・

私は自分のことよりも、ソニーを守りたかった。

この18年・・・私から片時も離れることなく人生を共にしたソニーに・・・

一度でもいい・・安楽な人生を与えてやりたかった。

そのためにも・・私は必ず勝たなければならない。

もしも私が敗れることがあったなら・・間違いなく彼は自分の人生にも幕を引く

そんなことがあっては・・・ならない・・・

決して・・・ならない・・・

 

25階の特別客室エリアでエレベーターを降り、2503号室・・・
彼らの待つ部屋の前に辿り着いた時、ソニーは少し安堵したように私に笑顔を向けた。

「若・・・では」

「ん・・」

 

 

フランクに迎え入れられてその部屋に入るとフランクの肩越しに懐かしい人が見えた。

相変わらずの美しさを湛えながら、いかにも僕を意識したように静かに佇んでいた。

「お久しぶりです・・・母上・・・」

「まだ・・母と呼んでくれるの?」

「あなたがパーキンの名を捨てない限り・・」

「アンドルフは・・お元気?」

  義母さん・・・


  あなたがパーキンの名を捨てないのは・・・

 

「買っていただきたいものがあります・・・
 あなたが私達を襲ってまで欲しがっているもの・・・」

フランクの声が私の背後から時を急がせた。


  ああ・・そうだったね・・・

  君がそれを私の前に持ってくるのを

  待っていたんだよ・・・フランク
    

「君の望みは?」

「たったひとつ。」


  そう・・君の望みは最初から最後まで・・・

  たったひとつだけ・・・

 

  そのことが私にジニョンとの出会いを

  余儀なくさせた・・・

  しかし・・・これでやっと・・・


  君たちともお別れだ・・・

 

 

「何をする気なの?そんなことをしたらアンドルフがどうなるか!あなた!
 父親を売る気?!」

 
  そして義母さん・・・

 

  あなたの望みも・・・たったひとつだけ・・・

 

  やはりそうだったんですね・・・

  それが今・・・わかりました


  しかし・・義母さん・・許してください・・・

 

  僕はもう・・・

  止まることはできないんです・・・

 

「父さんも・・罪を償う必要があるんです
 トップとして・・責任を負わなければなりません・・

 いいですか?
 あなたは・・待てますか?」

私はまるで愛する人を宥めるようにいつのまにか、私よりも小さくなった義母の髪を
優しく撫でていた。

 

  
   《レイモンド・・・レイというのね

    なんて可愛い子なんでしょう・・・

    今日から私があなたのお母さまよ》


   《僕に触るな!》


   《レ・・イ・・》


   《レイ・・なんて・・呼ぶな!

    ママでもないのに呼ぶな!》

 

    
  ごめんなさい・・・

  あなたを傷つけていたのは・・

    この僕だった・・・


  あの頃・・・

  誰も僕のことなどわかってくれないと

  自暴自棄になっていた


  突然 母親から引き離され

  その母にもこの世に置き去りにされた


  あなたにとって僕という存在が

  あなたの・・・いや、あなた達の胸を

  どれほど苦しめていたのか・・・

  そんなこともわからずに

  自分だけが傷つけられたと誤解した

  
「・・・パーキン家は・・
 僕のこの手でマフィア組織を消滅させます

 いいですね・・・
 それでも・・・パーキンの名を捨てませんか?」

「・・・ええ・・ええ・・・あなたがまだ・・私を・・・
 母と・・・呼んでくれるなら・・・」

     

 

どれほど足掻き・・どれほど悔やみ・・・

どれほど力の限り拒絶したところで・・・

そうなんです・・・

僕はやはり・・・

レイモンド・パーキンでしかない・・・

   マム・・・僕は・・・


   やっとそれを・・・

 
 

       ・・・受け入れます・・・

    

 


2010/09/19 13:58
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mitage-儚い夢-44.リーチ

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緊迫したチェイスの末、フランクはやっとパーキン夫人と共にNYグランドホテルに
到着することができた。

そのホテルで彼女がリザーブしていた部屋はスイートルームひとつだった。

「あなたはそちらの部屋を使いなさい」
彼女はフランクに拒絶を許さないと言わんばかりにそう言った。

フランクは考えていた。

パーキン夫人は敢えて自分を狙っている敵の懐に入ることを選択した。
このホテルはパーキン家の表向きの仕事で成り立つ。
よって、彼らがここで騒ぎを起こすことは絶対に有り得ない。
しかも、ここにいるのが彼女ひとりではなく、第三者であり、彼らが望むフランクが
ピッタリと付いているとあっては手を出しようも無い。

  彼女はそう考えているに違いない
  ということは・・・

今彼女の身柄は、他ならぬパーキン家によって守られていることになる。
ローザ・パーキンという女は、本能で自分を守る術を知っていた。

  僕はしばらく立ち尽くしたまま・・彼女の表情を追っていた。

夫人はドレッサーにしなやかに腰をかけ、身につけていたジュエリーをイヤリングから
先に外していった。


「後ろ・・お願いできるかしら・・」

  僕が彼女からずっと視線を外していないことを楽しんでもいるかのように
  彼女は長いゴールドシルクのような髪を右にかき寄せ白いうなじを露にすると、
  ネックレスを外すよう僕にねだった。


「・・・・」

「何?・・何かご不満でもあるのかしら?ここを宿泊場所にしたこと?
 でも・・・何処よりもここが安全・・・そう思わない?
 それとも・・あなたを同室に留めていること?・・安心なさい・・
 摂って食おうとしてるわけじゃないわ」

「フッ・・あなたという人は何処までが本気で・・何処までが・・」

「何を考えているのかわからないのは・・・お互い様じゃなくて?」

「・・・・・・」

「ただ・・私は・・あなたなら・・」

「僕なら?」

「私の望みを叶えてくれそうな・・・そんな気がしたの」

「あなたの望み?・・・レイモンドをあの世界から追いやり・・あなたが・・
 いや・・あなたのご子息が天下を取ることを?」

「・・・・そうね・・そうだったわ・・」

夫人はフランクの言葉に、思い出したかのように微笑んで頷いた。

「・・・違うのですか?」

「さあ・・どうかしら・・」

「ご子息はどうしてご一緒にいらっしゃらなかったんです?」

「フレッド?・・・どうしてかしらね・・」

フランクは彼女に言われた通りネックレスの金具を外しながら、鏡に映る彼女の
伏せた睫毛の奥に隠された何かがあるようで、気になっていた。
フランクはそれを少し覗くように鏡に視線をくぐらせた。
しかし彼女は決してそれを悟られまいと、次に睫毛を上げたときには
いつもの企みを含ませた青い色を輝かせ、口角を上げた。


  

 

  静かな夜だった・・・

フランクはNYに戻っていながら、ジニョンにまだ連絡を入れていなかった。

ジニョンが無事でいることは、逐一レオからの報告で聞いていたし、そのことは
心配してはいなかった。

  きっと彼女の警護に力を尽くしている人間が他にもいる

自分が留守の間の彼女の安否に不安は感じていなかった。

しかし・・・


  ジニョン・・・怒っているね・・きっと・・
  でも・・・
  今君の声を聞いてしまったら
  逢いたい衝動に勝てる自信がないんだ

  この光の向こうに君がいる・・・
   
ホテルの部屋の窓ガラス越しに彼女の宿舎に視線を送っては溜息混じりに目を伏せ
震える自分の胸の鼓動を懸命に抑えた。

そしてもうひとつ・・・

  やっとここまで漕ぎ着けた・・・

  レイモンドとの・・・勝負・・・

  勝つか・・・負けるか・・・明日がその決着の時・・・

フランクは奮い立つ狩人の本能を初めて味わったような気がしていた。

 


   
翌朝ルームサービスを受けて朝食を済ませると、約束通りレイモンドが部屋を訪ねて来た。

彼が部屋に入った瞬間、夫人は丁度コーヒーカップを口元に近づけたまましばし静止していた。

「お久しぶりです・・・母上・・・」

レイモンドが夫人に向かってそう言うと、彼女はカップをテーブルに戻し立ち上がり、
ゆっくりと彼に近づいた。

「まだ・・母と呼んでくれるの?」

そう言いながら彼女は彼と熱く抱擁を交わした。

「あなたがパーキンの名を捨てない限り・・」

「アンドルフはお元気?」

「ええ・・お陰さまで」

「そう・・」

「ところで・・・フランク・・私に用だとか・・・」

レイモンドは彼女との挨拶もそこそこに、フランクの方へと笑みを向けながら進んだ。

「買っていただきたいものがあります・・・
 あなたが私達を襲ってまで欲しがっているもの・・・」

フランクもまた、単刀直入に話の本題を切り出した。
    

「何処にある?」
レイモンドは終始落ち着いた表情を崩すことなく、フランクを見ていた。

「ここにはありません・・・」
フランクもまた、レイモンドを用心深く見るように、視線を逸らさなかった。
    
「渡してもらおう・・・それはきっと、もともとはこちらのものだ」

「だとしても・・今は私の手元にある」

「君の望みは?」

「たったひとつ。」

「聞こう」

「ソウルホテルから手を引いてください」

「ソウルホテル?何のこと?」

睨み合ったふたりの間に立っていた夫人が、初めて聞くソウルホテルという名前に、
首を捻ってみせたが、フランクもレイモンドもそれには答えなかった。

   
「それだけでいいのか」

「無論、ジニョンにも関わらないでいただきたい」

「フランク!」 夫人が声を荒げた。

「ああそうでした・・こちらの夫人にも要求があるらしい・・・」

「彼女の要求はわかっている」 レイモンドがすかさず答えた。

夫人の困惑に対して、ふたりの男達は彼女に一向に視線をくれるわけでもなく、
向き合ったまま冷静な取引に興じていた。


「では・・呑んでくれますか」

「ああ・・呑もう」

「でしたら・・」

「それは・・・今間違いなく君の手元にあるんだな。」

「ええ」

「レオナルド・パクだな?」

レイモンドは確認するようにフランクに強く念を押した。


「それは・・」

そんな簡単に重要書類の在処など答えられるわけがない、そう思いながらフランクは口をつぐんだ。

しかし次に発したレイモンドの言葉はフランクの予想とは違っていた。

「だとしたら・・彼に直ぐ指示を出せ。その書類を持って、すぐさまFBIへ向かえと。」

「・・・・?」

「それを君達が持っていては危ない。直ぐに手放せ・・この捜査官に直接届けろと言え。
 心配しなくていい、この男はマフィアの息が掛かっていない数少ない捜査官だ」

そう言ってレイモンドは一枚の名刺を差し出した。
    
「いいか・・それまで・・彼に渡しきるまでしっかりと隠し通せ。」
レイモンドは念を押すように繋げた。

「・・・・どういう・・」

   僕は最初、レイモンドの言葉の意味を理解できなくて戸惑いを隠せずにいた

「そういう意味だ」

「しかし・・これがここに渡ったら・・」

「どうなるか?・・バカじゃない・・わかってる」

「・・・・」

「レイモンド!」

さっきからふたりのやり取りに固唾を呑んでいた夫人が、突然、レイモンドの名を叫んだ。

「いったい!何をする気なの?そんなことをしたらアンドルフがどうなるか!
 あなた!父親を売る気?!」

「ええ。」 
レイモンドは夫人の言葉に、躊躇なく答えた。彼女に視線を移さないまま至って冷静に。


「そんなこと!させないわ!フランク!その名刺を渡しなさい!」

夫人はそう大声で怒鳴ると突然、自分のバックから小さな拳銃を取り出し、フランクに突きつけた。

しかし、フランクは彼女の威嚇に不思議と恐怖を感じなかった。それよりも、彼女の怒りの原因が、
決して自分に不利なことにではなく、敵であったはずのアンドルフ・パーキンにとって
不利益なことに端を発しているような気がして、不思議な気持ちだった。

「・・・そんなもの・・おしまいなさい」 レイモンドが夫人に視線を向けて言った。

「来ないで!」 
レイモンドは彼女の制止に耳も貸さず、そのまま彼女に向かってゆっくりと進んでいた。

「止まりなさい!レイモンド!」

「もうお止めなさい・・義母さん・・・あなたの気持ちはわかっている」

「私の気持ちが・・・何だと言うの・・」

「あなたは父さんをまだ愛してる」

「馬鹿なことを言わないで。」

「だから・・ここへ戻ってきたんでしょ?
 あんなものを持って動いたら狙われる、それをわかっていながら・・
 父さんの病気が気になったのでしょう?」

「・・そんなこと・・」

「フレッドは・・・兄さんはもう・・組織に興味などないんです
 それはあなたが一番良くご存知だ・・・
 だから僕が・・・彼をパーキン家から解放したんです」

「・・・・・」
「そしてあなたはライアンから父を守るためにあの書類を持ち出し、身を隠した・・
 あなたにとって・・信用できる人間はパーキン家には誰ひとりいなかった・・」

「・・・・」

「だから・・逃げたんだ」

「・・・・」  

「ライアンはあなたの血を分けた息子だ・・しかし彼を恐れていた
 かと言って、まさか・・私に助けを求めることなど・・できなかったでしょう
 でももしも組織の三代目が私ではなく・・ライアンになっていたら・・
 あなたはあの書類を使うつもりだった・・そうですね

 僕を敵対視していると見せたのも・・
 ライアンが変に勘ぐって僕に危害を加えないため・・・そうでしょ?
 それともそれは僕の思い過ごしですか?」

「どうして・・」

「最初はわからなかった・・あなたがどんな目的で、そんなことをしているのか・・
 本当に・・きっと僕の敵なのだろうと・・そう思ってました・・・
 でもこうしてあなたがフランクと一緒にNYに戻った。大きな危険を冒してです
 知っていましたか?空港で待機していたあなたの護衛と称した男達・・
 あなたはご自分で手配していたのでしょうが・・既にライアンの息が掛かっています」

「・・・・知ってたわ・・・いいえもしかしたらと・・だから・・
 あの時とっさに・・フランクの車に乗ったの」

「奴らは・・先程ホテルの玄関で捕らえました・・・
 白を切ってあなたの元へ戻ろうとしていたんです。フランクがいなかったら、
 きっと書類を奪われるだけでは済まなかったでしょう」

「・・・・」

「義母さん・・・ライアンは・・もう駄目です・・
 先代から続いた違法行為が彼を取り巻く輩によって膨れ上がる一方です

 あなたの血を分けた子供ですが・・法の手に委ねます・・どうか・・・
 許してください・・・」

「レイ・・・」

夫人はレイモンドの言葉に、目に一杯涙を溜めていた。


それはフレッドと同じ血を分けた息子であるライアンへの哀切なのか
今の状況への諦めなのか・・・フランクにはわからなかった。

レイモンドは彼女が構えた小さな拳銃を彼女の手の中から抜き取り、
そっと自分のポケットにしまいこんだ。
そして、さっきよりもとても慈愛に満ちた表情で彼女をしっかりと抱きしめた。

「義母さん・・・その為には・・・あなたがきっと愛して止まない父さんも・・
 罪を償う必要があるんです
 トップとして・・責任を負わなければなりません・・

 いいですか?あなたは・・待てますか?
 5年・・いや・・10年かもしれない・・・それでも待てますか?」

レイモンドはまるで愛する人を宥めるように夫人の髪を優しく撫でながら話を続けた。

「父は・・あなたという人がありながら・・僕の母を深く愛してしまった・・
 そのことにあなたがどれほど傷ついていたか・・
 ごめんなさい・・
 僕はそれを知らなくて・・冷たく当たられたと誤解して・・・
 あなたを憎んで育った・・・

 父を憎んで・・育った・・・

 母に良く似た僕を見ることがどんなにか辛かったでしょうに・・・

 ごめんなさい・・・
 あなたを傷つけていたのは・・他でもない・・僕と母だったのに・・・」

「レイ・・・」

「昔・・あなたが僕をそう呼んだ時・・僕はあなたを睨みつけて・・・
 “母さんでもないのに・・そう呼ぶな”そう言いましたね・・

 あなたは最初・・僕を受け入れようとしてくれていた・・
 それなのに・・僕が・・拒絶したんだ

 あなたの愛に先に背を向けたのは僕でした」

「アンドルフの・・子供だもの・・愛した人の・・子供だもの・・・
 愛したかったのよ・・・あなたを・・・」

「父もきっと・・あなたの愛に気がつく・・それまで・・待ってやってもらえませんか?」

「・・・・・・・待って・・いても・・・いいの?」

「ええ・・そうして欲しい・・父の心を救えるのは・・きっと・・・
 あなたしかいない・・・」

「・・・・・」

「そして・・・パーキン家は・・僕のこの手でマフィア組織を消滅させます

 いいですね・・・
 それでも・・・パーキンの名を捨てませんか?」

「・・・ええ・・ええ・・・あなたがまだ・・私を・・・母と・・・呼んでくれるなら・・・」

「・・・・・・母さん・・・」

フランクは目の前で抱き合うふたりを見つめながら、レイモンドのこれまでの行動の疑問が
パズルのように頭の中で組み立てられていた。

 

  レイモンド・パーキン・・・


  彼の目的は・・・最初から・・・

 
     ソウルホテルでもなく・・・

 

     ジニョンでもなく・・・

 

     そして・・僕自身でもなく・・・

 
       僕が夫人に

 

 

          ・・・辿り着くことだった・・・










 









 


 


2010/09/19 00:43
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-18

Photo


 


 


「逃げられた?・・・」

「はい・・申し訳ありません」

「フッ・・・相手はフランクだぞ・・・甘く見るなと言っただろ?」

「邪魔者がいたようでして」

「邪魔者?ま・・心配するな・・さっき、彼から連絡が入った」

「奴本人からですか?」

「ああ・・“あいにくでしたね”とのたまった」
そう言いながら、レイモンドは口元だけで笑った

「それで・・」

「明日、会う」

「では私もご一緒に・・」

「いや・・私ひとり・・・彼の条件だ」

「しかし・・向こうには夫人がいます。彼女の周辺には用心なさらないと・・
 奴らは間違いなくあなたを狙っているんですぞ。

 それにフランクもあなたを敵だと思ってる。彼が突然向かってくることも有り得ます」

「はは・・誰よりフランクの方が私は恐ろしい」

「若・・楽しんでる場合じゃないですぞ・・」

「楽しんでなどないさ」

「そうでしょうか・・私にはあなたがどこか
 フランクとの戦いを楽しんでいるように見えますな」


   そうだな・・そうかもしれない・・・しかし・・

 

   もう直ぐ・・それも終わる・・・


「フッ・・・生死を賭けてるんだ
 少しばかり楽しんだところで罰は当たるまい」

「若・・・」

「はは・・冗談だ・・・」

「・・しかし・・若・・決して無茶をなさらないように・・・」
ソニーは本心から、彼の無謀とも言える行動を案じた。

「ん・・」

   しかし・・・彼女が戻って来るとは・・・

 


私は義母・・ローザ・パーキンがフランクと一緒にNYに戻ることを想像していなかった。

   この地に足を踏み入れることがどれほど危険なことなのか

   様々な危機を掻い潜って来たあの人が察しないわけがない

 

   いったい・・・

 

   目的は何なんだ・・・まさか・・・

 

   母上・・・あなたは・・・

 

 

 


「ジニョン」

「レイ!お久しぶりです・・偶然ですね
 このところお見かけしませんでしたがお元気でしたか?」


   決して・・偶然ではないけどね・・・
  

「ああ・・君こそ・・元気だったかい?」

「えっ?ええ・・・」

「どうした?とても元気そうだとは言えないね」

「・・・・」

 


   ごめん・・・理由はわかっているよ・・・

 

「少しその公園まで歩かないかい?」

「え・・ええ・・」

「元気が無いのは・・・フランクに会ってないからかな?」

「・・・・」

「図星か・・・」

「どうして?」

「・・君の顔を見ればわかる」

「本当に?」

「ほら・・そこに書いてる」

そう言いながら私は彼女の頬に指先を触れた。


   大の大人が・・・


そうした瞬間に心を疼かせた。


   フッ・・何を・・・
  
   笑ってしまうな・・・

 

 

「また~レイ・・冗談」

「いや・・冗談じゃないさ・・本当だ・・
 あー君の顔にはいつもフランクが見える!」


   本当に・・・そうだね・・・


「君が嬉しそうに輝いている時はフランクもきっと元気なんだろう

 君が寂しげに沈んでいる時はフランクが病気か・・んー彼と喧嘩したか・・
 君のそばにいない時・・・」


   このまま彼を何処かに隠してしまったら・・・

   忘れてくれるかい?・・・彼を・・・


「それ以外何も無いな・・きっと君はわかりやすいから・・」

とても早口にフランクの話を続けた私の顔を覗いていた君が驚いたように口を開けていた。

「まあ・・まるで私ってバカみたい」

「はは・・いいさ・・バカで・・・んー名づけて・・“フランクバカ”とでも?」

「レイ!」

「はは・・ごめん・・」

「レイ・・・何だか・・変わりましたね」

「何が?」

「いいえ、変わったんじゃないわ・・・出逢った頃のレイに戻った感じ」

「出逢った頃?・・最近・・違ってたかい?」

「ええ・・違ってました・・・とても・・・」

「どう違った?」

「・・・・・」

「いいよ・・言ってごらん?」

「・・・・何だか・・怖かった・・・」

 

「怖かった・・・そう・・・悪かったね・・・怖い思いをさせて・・・」

「でも・・良かった・・だって・・“レイ”って、呼べるもの」

「さっきから呼んでたけど」

「いいえ・・最近はちょっと苦しかったんです、本当は・・そう呼ぶの・・・」

「そうなの?・・・そうか・・・良かった・・・」

「最初にレイが教壇に上がった時、 みんなに言ったでしょう?
 “レイ”・・そう呼んで下さいって・・・」

「ああ・・」

「あの時はみんな、驚いたんですよ~ホントは・・・
 特にアジア系の人たちはね。私もなかなかそう呼べなくて・・」


   そうだったね・・・君が一番遅かった・・・


「どうして?」

「だって・・先生だもの・・
 韓国では・・年上の人を呼び捨てになどする習慣・・無いし・・」

「そうか・・」

「でもレイが・・あなたが・・
 “ずっとみんなからそう呼ばれて来たからそう呼べ”って・・」

「そうだったね・・」

「ほぼ強制的だったわ」


   ああ・・君には特にね・・・


「韓国では・・・オッパ・・だったね。だから、ジョルジュはオッパなんだ」

「ええ・・だから、ちょっと変だったのレイを・・その・・“レイ”って呼ぶでしょ?
 ジョルジュを“オッパ”・・ちょっとちぐはぐ」

「フランクはフランクだったじゃない」

「だって・・フランクは・・」

「恋人だから?・・・」

「いいえ・・韓国では恋人もオッパと呼ぶことが多いです・・」

「そうなの?」

「でも・・フランクは・・・
 最初から・・フランクでしかありませんでした」

「そう・・・何故だろうね」

「・・・・・・・・・・・
 初めて出逢った時・・彼・・自分の名前だけを私に残したんです・・
 “フランク”って・・・
 次に・・いつ逢えるのか・・それすらわからない・・
 そんな出逢いでした・・・

 もう逢えないかもしれない・・
     
 でも私信じてました・・必ず逢える・・・そう信じてた・・・

 そして・・探したんです・・
 彼の名前を・・心の中でフランクを叫びながら・・・
 “フランク・・フランク・・フランク・・・”
 逢いたい・・逢いたい・・逢いたい・・
      
 そうやって・・やっと・・見つけたんです・・だから・・・」

「・・・・・・」

「・・・フランクは・・最初からフランクでしかなかった・・」


「・・・・・・・・・・・・
 実はね・・・今だから話すけど・・・
 君達に出逢うまで誰からも呼ばれたことなんて無いんだ
 “レイ”って・・・」

「えっ?そうなんですか?・・・・・だったら・・どうして・・」

「・・・・たったひとりの人を除いてね・・・」

「たったひとりの人?」

「ああ・・」

「その人は・・」

「今度も・・たったひとりの人にそう呼んで欲しくて・・・
 みんなに強制したのかも・・・」

「?・・・・・・」

  きっとそうなんだ・・・
  初めて君に会った時・・・母が戻ってきたかと驚いた

   ・・・レイ・・・

  まるで幼い頃そう呼ばれた
  その声が聞こえるようだった

  母と別れてからそれまで・・・
  僕は人にそう呼ばれるのが異常なほど嫌だった

  だから・・
  親しくなった人間が僕をついそう呼ぼうとしたときでさえ
  睨みを利かせてまで阻止していたくらいなんだ

  それなのに、君に会った瞬間・・・
  どうしても君にそう呼んで欲しくて・・・

  でも突然出会ったばかりの教師をそう呼べとは言えない

  だから・・・
  教壇に立った時、生徒達全員にそう呼ぶよう強制したんだ


  そうすれば君の口から・・・
 
  その声が聞こえるから・・・

  

「・・レイ?・・・」

「あ・・・何でもないよ・・・ジニョン・・・」

「・・・・・」

「そろそろ・・午後の授業が始まるね」

「ええ・・」

「じゃあ・・行って?・・それから心配しないで・・・
 もう直ぐ・・戻るよ・・フランクも・・・」

「えっ?」

「あ、それと、ジニョン・・今日でお別れだ」

私はできるだけ、“ついでに”を装って別れを告げた。


「えっ?」

「学校・・もう辞めた・・さっき、届けを出してきた」

「どうして?」

「家業が忙しくなるんだ」

「家業?」

「ああ・・これでも・・御曹司なんでね・・ジニョン・・今からでも遅くないぞ
 フランクから乗り換えるか?」

「レイ・・・」

「冗談だよ・・君達はその・・何だっけ?半身、というのだろう?」

「えっ?私・・レイにそんなこと話ましたか?」

「ああ・・話したよ・・・さっきも・・そうだ・・・
 君がどれだけフランクという男を想っているか・・
 うんざりするほど・・話した・・・」

そう言って、レイモンドはジニョンを優しく睨んだ。

「・・・・・・」

「あー・・そうだ・・ジョルジュは可哀想だけど・・
 僕が可愛がって・・諦めさせてあげよう」

「ふふ・・ジョルジュ・・あなたのこと好きです」

「おい・・そんな趣味は無い」

「きゃはは・・」

 
   ジニョン・・・

 

   その調子だ・・・

   君にはそのくったくのない笑顔が良く似合う

 

   今まで・・・

   悲しい顔をさせてしまってごめんよ・・


   でも・・・私もフランクと同じなんだ・・・

   君の悲しい顔を見るのは辛い

 
   だから・・・君にはもうお別れを言おう


   このまま君のそばにいると

   フランクから本当に奪いたくなってしまう・・・

   そうしたら・・また・・君を辛くさせてしまうだろう?


   君も感じているね・・・

   僕が離れていく・・そのわけを・・・

   だから・・さっきの答えを聞かないんだろ?

 

   ね・・ジニョン・・・安心おし・・

  
   もう直ぐフランクを君の元へ返す・・・


   それまで・・もう少しの・・・

 

 

      ・・・辛抱だよ・・僕の・・・

 

             ・・・ジニョン・・・

 

 


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