2010/12/11 12:23
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-19.父の罪

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi

 






会議を終えてサファイアの部屋に戻ったフランクは椅子に腰をかけ
しばらく瞑想するかのように目を閉じていた。
レオはそんな彼に敢えて声を掛け、その瞑想の邪魔をした。

「ボス・・・ジニョンさんのことだが」

「ん?」 フランクは迷惑そうに眉を顰めて、レオを目の端に入れた。

「そろそろ、お前の本音を聞かせてくれないか」 
レオはフランクから視線を逸らして言った。

「本音?」

「お前はここをどうしようとしてる?」

「ふっ・・今更、何を・・・」

「俺達はハンガン流通の依頼を受けて、ソウルホテルの買収に来てる」
レオは今度は真直ぐにフランクを見て、早口にそう言った。

「確認するまでも無い」 
フランクはわかりきったことだと言わんばかりに、素っ気無く答えた。

「お前とジニョンさんの関係と、この仕事は別問題と
 俺は解釈してるが・・」

「ああ」

「信じていいんだな。」 レオは念を押した。

「だから。エリックの書類に判を押した」

「もしもこの取引でハンガン流通を裏切ることがあったら
 お前も俺も、この世界じゃ生きていけないぞ」

「しつこい。」 フランクはレオの顔を下からギロリと睨み付けた。

「なら、いい・・」

しかしフランクはその瞬間、レオから視線を逸らしてしまった。
そしてその時レオはフランクの悪い癖を見逃さなかった。
フランクはレオに対して、いつも高圧的な態度を取るが、少しでも
後ろめたいことがある時の彼の目は少し寂しげに翳る。

それでもレオは何も言わなかった。

≪お前がその気ならそれでもいいさ・・・俺は俺の考えで、事を進める
 例えお前とたもとを分かとうとも。・・それでいいんだな、フランク≫





ソ・ヨンスもまたホテルの一室で椅子に腰掛け目を閉じていた。
そして彼は、たった今会議室で10年ぶりに会った若者に思いを巡らせ溜息を吐いた。


≪ジニョン・・・どうかわかってくれないか≫

≪何をわかれと言うの!パパ!
 パパは私の気持ちを無視したのよ・・・≫

≪そうじゃない・・私はお前のことを思って≫

≪パパにはわかって欲しかった・・
 彼のこと・・わかってくれると思ってた・・
 そう信じてたのに・・・≫

忘れかけていたはずの罪が、ヨンスの胸を締め付け、額に薄く汗を滲ませた。
昔、ジニョンに幾度と無く攻められ、泣かれたことが、今でも胸をえぐるように
思い出されてならなかった。

「しばらくはホテル住まいだな」 ヨンスは小さく呟いた。




会議があった翌日のホテルのバックヤードは朝早くから騒々しかった。
リストラの噂が館内に巡り、多くのスタッフが仕事どころではなくなっていたのだった。

総支配人に向かって、辛らつな暴言を吐く者さえいた。

「リストラはしない。」 テジュンは彼らに力強くそう言った。

「本当なんですか?新しい理事が決定事項だと
 言ったそうじゃないですか!」

「リストラなどしなくても済むように、利益を上げて、
 このホテルを活性化していけばいいわけです。
 それには皆さんの大きな協力が必要です。
 今までのように、いや、今まで以上にどうか、
 力を貸して下さい、お願いです」
テジュンは従業員に向かって深く頭を下げた。

「総支配人達幹部の方は安心かもしれないですが、
 首を切られるのは私達下っ端の人間でしょう?
 しかし、私達にも生活があるんです・・
 子供もいる・・親もいる・・もしも、そんなことになったら、
 一体どうすればいいんですか?」
テジュンの誠意を理解しながらも、目に見えぬ不安に駆られた
納得できない幾つもの目がテジュンを責めた。

 

 



その頃サファイアヴィラのフランクの部屋にはひとりの男の姿があった。

「お呼びでしょうか」 
オ・ヒョンマン・・・ソウルホテル副総支配人だった。


「お掛け下さい」 
フランクはヒョンマンに向かって無表情に言った。

ヒョンマンは先刻この場所で起こした自分の不祥事を考えて、何か苦言を
吐かれるのかと身構えてフランクの前に座った。

「あなたにお聞きしたいことがあります・・副総支配人。」 
フランクは冷たい微笑を浮かべて静かに言った。

「先日のことなら・・・」 ヒョンマンは怪訝そうに彼を見た。

「ハン・テジュン総支配人をどう思われますか?」
「どうとは?」

「彼は先刻私が命じたリストラ要員のリストを提出できると
 思われますか?」
「何故私にそんなことを聞くんです?」

「私が・・・彼にはできないと思っているからです」
「・・・・・」

「そして・・・あなたに尋ねるのは・・・
 あなたにならできると思うからです・・それも・・完璧に。」
フランクはそう言ってヒョンマンに向かって不適な笑みを浮かべた。

「・・・・・」
「出来ますか?」 フランクの言葉と目がヒョンマンを威圧した。

「ホテルを裏切れとおっしゃるんですか?」
「結果的にはホテルの為です」

「ホテルの・・為・・・」
「そしてあなたには総支配人の地位を・・」 そう言ってフランクは
目に何の感情も浮かべぬまま片方の口角だけを上げた。

「ハンには、社長初め、ソ弁護士・・強い味方が存在する・・・」 
ヒョンマンはいつもそのことが自分を苛立たせるのだと思っていた。

フランクは彼のその言葉を聞いて“ふっ・・”と笑みを浮かべた。
「前社長の意思を頑なに守ろうとする者は、このホテルから
 排除します・・ひとり残らず。」

「・・・・・そんなこと、無理に決まっている」
「無理・・・・そんな言葉は私は知らない」 フランクの目が
冷たく光るのを見て、ヒョンマンは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

「ソ・ジニョンも前社長の・・」 彼は意味有りげにフランクを見た。

「彼女のことは・・」 
フランクはヒョンマンを睨み付け彼の言葉を遮ると、恐ろしい程に冷静な声で
ヒョンマンとの間にガラスの壁を打ち立てた。

「ソ・ジニョンのことは・・・
 あなたなどに考えていただかなくて結構。」

 

 



騒ぎを何んとか鎮めて、落ち着きを取り戻したオフィスでは、テジュン初め、
幾人かの支配人達が大きく溜息をついて一様に肩を落としていた。

ジニョンは彼らのその様子に、酷く胸が痛んだ。
何も言えない自分が情けなかった。

「あんなこと言って大丈夫なのか?総支配人」 
料理長がポツリと言った。

「何をです?」 テジュンは少しぶっきらぼうに言った。

「リストラはしない、そうおっしゃったわ、皆んなに・・」 
今度はスンジョンが口を開いた。

「しないさ。」 
テジュンは自分にも言い聞かせるように答えた。

「でも・・」 
そう言い掛けて、スンジョンはジニョンを見て、口をつぐんだ。

「ごめんなさい」 ジニョンは項垂れ謝っていた。

「何でお前が謝るんだ!」 テジュンは怒ったように言った。

「私、もう一度彼に話を・・」

「二度と余計なことをするなと言っただろ!」 
テジュンは思わずジニョンに向かって激高してしまった。 

「テジュン!お前らしくないぞ!」 料理長が彼を嗜めた。

「すみません・・・どうかしてました・・・悪かった・・・」 
テジュンは料理長に詫びた後、ジニョンの肩に手を置いた。

ジニョンは無言で大きく頭を横に振った。
彼女にはテジュンの辛い気持ちが手に取るようにわかっていた。
≪従業員の気持ちをいつも慮る人だもの≫

ジニョンもまた苦しいはずだと、テジュンは思った。





翌日の午後、ソ・ヨンスが“話がしたい”とフランクの部屋を訪ねて来た。

「ご無沙汰しておりました」 
フランクは起立して、彼に丁寧に頭を下げた。

「ソウルホテルへの復讐かな?それとも・・・
 私への復讐か・・・」 ヨンスは椅子に腰掛けながら言った。

「何のことでしょう」

「10年前、君はジニョンの為にこのホテルを命がけで救ってくれた
 しかし私は、そんな君を・・・ジニョンから引き離した
 当然恨みに思っただろう」 ヨンスは視線を落とした。

「決めたのは私です」

「それで・・・その復讐の行方はいかに?・・・」

「復讐など、くだらない感情の産物でしかありません」
ヨンスは“当然だろう”というように笑みを浮かべた。
≪この男はそんな男ではない≫それはよくわかっていた。

「・・・・今でもジニョンを?」 

「ここであなたにお答えした方がいいのでしょうか」

「君がここにいることが答え・・そうなのかな」

「随分婉曲な言い回しですね。」

「あいつを愛してる男がもうひとりいるぞ」

「・・・・それは知らなかった」 フランクはフッと笑って見せた。

「しかし、ジニョンにとっては君の生き方より
 その男の生き方の方が親としては心穏やかだ」

「・・・・あなたがおっしゃる・・・楽に生きられる・・・ですか?
 しかし残念なことに、私は・・私のやり方でしか、生きられません」

「そうか・・・そうだな・・・」

ふたりの男は少しの間、互いの視線から視線を逸らさないまま沈黙していた。

そして、ソ・ヨンスはまた静かに口を開いた。
「私はもちろん、立場的にホテル側に沿う」

「当然でしょう」

「そしてジニョンの父として・・・奴の味方をするが?・・」

「ふっ・・・」 
フランクはヨンスのその言葉に何故か敵意を感じず、笑ってしまった。

「取るに足らないということかな?」

「私も立場的にあなたを追い込むことになります」

「無論だろう」

「そして私は目的の為なら、誰であろうと容赦はしません」

「当然だ。」


「ご理解頂けて良かった」

「誤解してもらっては困る。理解はできない。」

「残念です」

「しかし・・見違えるようだ」

「・・・・・」

「10年前の君と・・・」

「そうでしょうか」

「自信に溢れている」

「お褒め頂いたのでしょうか」

ヨンスはただ黙って微笑んだ。


ヨンスはわかっていた。娘ジニョンが何年経っても忘れられない男は、
彼ただひとりなのだということを。


 10年前私はジニョンの気持ちを無視して、あの子を彼から引き離した。

 韓国に戻ってからの三年は私にとって地獄だった。

    ≪パパにはわかって欲しかった・・
     彼のこと・・わかってくれると思ってた・・
     そう信じてたのに・・・≫

 私はただ・・・娘ジニョンの安息を願った
 神からの預かりものであった娘の生涯の幸せを願った

 そうして彼から娘を奪い取った

 しかしそれはきっと、神に逆らったことだったのかもしれない

 ジニョンはそれ以来、私との溝を深め、ただひたすらに
 勉強に打ち込んでいた。
 私からの独立を望み、大学の資金すら私に出させてくれなかった。

     ≪フランクは必ず私を迎えに来るの≫

 あの子はそう繰り返した。

     ≪ジニョンには彼だけなんです≫

 ジニョンと生きてくれると信じたジョルジュは
 そう言い残して去って行った。
   
 “親のエゴ”フランクに言われたあのひと言が深く身に沁みた
 しかし、風の噂で“フランク・シン”の近況を耳にするにつけ、
 私は決して間違ってなかった、と自分を信じていた
 あの男の、人を人とも思わない冷酷な商法を聞く度に
 私は自分のしたことを肯定し、胸を撫で下ろしたものだ

 ジニョンがソウルホテルに入社して、人との係りを学んで行くにつれ
 あの子の私への感情も穏やかさを取り戻していった


 しかしあの子の心深くに潜む暗闇は拭い去ることはできなかった
 時折夢に魘され、あの子の口から聞こえてくるその名前に耳を塞いだ
 そして・・・
 いつも周囲に笑顔を忘れないあの子が、時折ふっと見せる
 物憂げな寂しい横顔に気づかない振りをして来て
 もう何年になるだろう・・・

 そのことを考える度、この男のことを思い出していた
 良かれと思ってやったことが、結局娘を不幸にしているのではないか
 そう思うとやるせなかった


 ドンスク社長からジニョンとテジュンのことを聞かされた時
 それでも父として、ハン・テジュンをジニョンが愛したのなら
 喜ばしいことだと思った。

 ふたりの門出を喜ぼうと帰って来た時、そこに彼がいた

  ・・・フランク・シン・・・

 ヨンスはその時悟った。彼はまたソウルホテルを救いに来たのだと。

他でもない、ジニョンひとりの為に・・・。

≪しかしあのやり方では、ジニョンの心は離れていく一方だぞ


 それでもいいのか?フランク・・・
 それでも君は、このホテルを・・・


  ジニョンのホテルを・・・


      ・・・守ろうとするのか≫・・・

 


2010/12/10 23:21
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passion-18.孤独な改革

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ジニョンがフランクの部屋を出て、ぼんやり歩いていると
坂の下から血相を変えて走って来るテジュンが見えた。

「ジニョン!」 彼はジニョンを見つけて、怒りを露にした。

「どうしたの?」 
ジニョンは彼が慌てている理由をわかっていながら、そう聞いた。

「どうしてこんなことをするんだ!」 
テジュンの体は怒りに任せて、フランクの部屋の方へと向かっていた。

ジニョンは慌てて彼のその腕を掴んで止めた。
「何にもなかったわ・・・大丈夫・・・
 ホテルも・・・取り敢えずは大丈夫・・・多分・・・」

「お前!」 テジュンは思わずジニョンに手を挙げようとしたが
彼女の潤んだ眼差しを前にその腕は直ぐに下ろされた。

ジニョンはテジュンのその行動に思わず笑ってしまった。
「何だ!何が可笑しい!」

「さっき・・あなたと同じようなことした人がいた」

「殴られたのか」 テジュンの目がまた怒りを描いた。

「同じように・・と言ったでしょ?彼は紳士なのよ・・
 女に手を上げたりしない」

「はっ!紳士が呆れたね」

「そんな風に言わないで・・・」 ≪まただ・・・
 彼を悪く言われる度に・・・こんなにも胸が痛い・・・≫

「・・・・・信じてるのか・・あいつを・・・」
≪愛してるのか・・・≫本当はそう聞きたかった。

「わからない・・・」 ジニョンは俯いてそうポツリと言った。

「わからない?」

「でも・・・」

「でも・・何だ!」 

「ううん・・何でもないわ」
≪でも・・・直ぐに逢いたくなるの・・・逢いたくて・・・苦しくなる≫
ジニョンは心の中だけで呟いて、唇に指を当てた。

≪あなたの唇の温もりがこの唇にまだ甘い疼きを残している
 いつもそうだった・・・いつもそう・・・その度に私は・・・
 あなたが・・・決して忘れられない・・・
 決して失えない存在だと思い知るのよ・・・フランク・・・≫

ジニョンは俯いたまま、胸の内の動揺を隠すように唇を噛んだ。

「・・・・・・」 
テジュンは彼女の沈黙の中に、彼女の心の内を聞いたような気がして、胸を痛めた。

「首を洗って待ってろって・・あなたに」 
ジニョンはテジュンとの間の空気を変えようと、フランクからの伝言を
わざと面白がっているように言った。

「望むところだ!」 
テジュンも彼女のその気持ちに気がついて、彼女に調子を合わせて言った。

「手強いわよ・・彼」

「なんてことない。」

「ホントに?」

「ああ・・俺には守らなきゃならないものがある」≪ホテルと・・・そしてお前・・・≫

「私も・・・」
「えっ?」 
テジュンは思わず自分の心の声に返事をされたと一瞬勘違いした。

「私達のホテルですもの・・・守らないと・・・」

「あ・・ああ、そうだな・・」

 




フランクはたった今ここで交わしたジニョンとのひと言ひと言を思い返し目を閉じた。

「どうして・・・」
≪こんなことに?・・・ジニョン・・・僕はただ、君だけのために・・・
 そのことを伝えたかっただけなのに・・・≫

考えれば考えるほど、想えば想うほど・・・心が沈んでいった・・・
フランクはジニョンへの哀れなほどの想いを持て余し、彼女の口から聞かされる
ハン・テジュンの存在がこれ程までに自分を押さえられなくする事実が
腹立たしかった。

実際のところ、ソウルホテルを潰そうなど、露ほども思ってはいなかった。
しかし、少し間違えば、潰してしまいかねない橋を渡っていることも事実だ。

しかしここへ来た以上、ここまで来てしまった以上、やらなければならない。

 ≪僕が!こうすると決めたら、必ずそうすること・・
 君が一番よく知ってるはずだ≫

フランクは自分がジニョンに言ったその言葉を脳裏に反芻し、それを自分自身に
言い聞かせることで、自分の決意を固めていた。
  
  こうすると決めたなら・・・僕は必ず、そうする・・・

  今までもそうして来た

  これからも・・・それは変わらない




 

「シン・ドンヒョク?」 

社長室でソ・ヨンスがドンスク社長とテジュンを前に驚いた顔をした。
ジニョンの父であり、ソウルホテルの顧問弁護士でもあるソ・ヨンスは
長期出張の為、イタリアに出向いていた。
帰国後直ぐにホテルに向かったのだが、その時ホテルは混乱状態にあった。

「ええ・・」

「フランク・シンのことか?」

「はい、韓国ではシン・ドンヒョクと・・」 テジュンが答えた。

「彼が何故ここへ?」

「ご存知なんですか?ヨンスssi・・彼を・・」 
ドンスクは怪訝な目でヨンスを見た。

「ああ・・知ってる・・・」 しかし彼はその後を繋げなかった。

「ジニョンssiが・・彼が10年前このホテルを救ってくれたと・・・
 そう言っていましたが・・・それは本当なんでしょうか」 

ドンスクは10年前、ホテルが突如経営危機を迎えてしまい、人手に渡りそうになった時、
ある男が債券を取り戻した上、その全てをホテル側に適正な価格で譲り渡してくれた
という事実を当時社長だった夫から聞き及んでいた。

「ああ・・本当だ」 ヨンスは苦渋を眉間に浮かべながら言った。

「彼はその時、ジニョンssiの恋人だったというのも事実ですか?」

「・・・・ああ・・事実だ」 ヨンスは思わず目を伏せていた。

「そうすると、彼はその時、彼女の為にホテルを救ったことに?・・
 でも今度は・・買収しようと企てている・・それはどういうことなの?・・・」
ドンスクは、考え込むように俯きながら、呟いていた。

「それで?」 ヨンスはそんなドンスクの様子を視線の端に置きながら
テジュンの方に現状を訊ねた。


テジュンは先日の事の次第を説明し、シン・ドンヒョクの要求内容を
ヨンスにこと細かく説明した。

「しかし、その後は当初言っていた訴えなどは起こしませんでした」

「起こさなかった?・・どうして・・」

「それは・・その・・ジニョンが・・」 テジュンにしてみれば、この結果が
彼女とシン・ドンヒョクとの関係を明白にしているようで面白くはなかったが
今となってはその事実にも目をつぶるわけにはいかなかった。

「ジニョンが?」

「彼女が彼と話した後は、何も・・・」

「なるほど・・・そうか・・・」 
ヨンスは一度目を伏せて小さく溜息をついた後、言葉を繋げた。
「しかし・・・それは良かった・・
 アメリカで告訴に持っていかれたら、厄介だっただろう」

「ええ、確かに・・・私の不徳の致すところです・・・
 しかし・・・」 テジュンもまた一度深く溜息をついて続けた。

「先程、ホテルへの資金融資の件で、顧問理事を介入させると
 銀行側から言って来ました。その理事の名前が、シン・ドンヒョクと・・・
 これから我々はホテルの経営指針までも、
 彼の意見を聞かなければならなくなりました。
 しかし彼がハンガン流通側の人間であることは明白です
 いったい・・どうしたらいいでしょう・・・
 早速明日、幹部クラスが彼から召集を掛けられました・・・」

ヨンスは腕を組み一度目を閉じると、しばらくしてゆっくり口を開いた。

「彼の出方を見てみよう」


 

「パパ!」 ヨンスが社長室を出た時、ジニョンが明るい笑顔で
彼を迎え、飛びついて来た。

「ジニョン・・おいおい、ここは仕事場だぞ」

「そうでした・・ソ弁護士、お帰りなさい」

「ただいま・・元気だったか?」
そう言いながら、ヨンスはジニョンの肩に手を掛けた。

「ええ・・まあまあ・・」

「まあまあ・・か・・・」

「空港から直接ここへ寄ったんですって?
 ママにはまだ会ってないの?」

「ああ・・会ってない・・お前に先に会いたくて」

「まあ・・パパ・・後でママにそう言っておくわ」

「おいおい、止めておくれ・・ママがひがむ」

「ふふ・・」

≪ジニョン・・・そんなに無理をして、笑顔を作ることはないよ≫
ヨンスは心の中でそう思いながら、ジニョンの他愛の無い会話に合わせ、
彼女の髪を優しく撫でた。

「えっ?何?」
ジニョンは何も言っていないヨンスに向かって、首をかしげた。
「ん?・・何も?・・」 ヨンスもまたジニョンのまねをして見せた。

「そう・・」 しかしジニョンはわかっていた。「フランクが・・・来てるの」
ジニョンはヨンスの視線から逃れるように正面を向いてそう言った。

「そうらしいね」 
ヨンスもまた、同じように正面に向き直って真顔で答えた。

「彼・・・ハンガン流通の人間なの」 ジニョンは申し訳なさそうに俯いた。

「ああ」

「私・・・」

「・・・彼と戦わなきゃならん」 ヨンスはジニョンの言葉を遮った。

「・・・そう・・ね」 ジニョンは少し項垂れ、溜息混じりに答えた。

「それじゃ・・私は明日の会議の準備がある・・ 
 今日はホテルに泊まるよ」

ヨンスはジニョンにそう言って、エレベーターホールへと向かった。

「ジニョン・・・」 エレベーターのドアが開いて、ヨンスは乗り込むと同時に
彼女に振り返り呼び掛けた。

「何?パパ・・」 

「・・・・お前の言う通りだったな」 
ヨンスは薄く笑みを浮かべながら、静かにそう言った。と同時にドアが閉まり、
彼はエレベータの中に消えてしまった。

ジニョンはエレベーターの扉の向こうに消えたヨンスをしばらく黙って見送っていた。


  -お前の言った通りだったな・・・-

≪パパ?≫

 


 

翌日、新顧問理事により、ホテル関係者、銀行関係者が召集され
ソウルホテル会議室にて一堂に会した。
ホテル側の人間が既に着席していた中、フランクは少し遅れて現れた。

「顧問理事、シン・ドンヒョクです・・・こちらは弁護士のレオナルド・パク・・・
 では早速ですが、只今より、このソウルホテルの経営は
 多くの資金を融資している銀行側の指導下に置かれました
 私、シン・ドンヒョクはそのコンサルティングを一手に引き受ける
 こととなりましたので、よろしく。
 さて、早速ですが、皆様に決定事項を申し上げます。
 総支配人はどちらですか?」
フランクは白々しく、ハン・テジュンの挙手を待った。

「お名前は・・・」
「ハンです・・・ハン・テジュン・・」
「では、ハン総支配人・・
 明日から一週間以内に100名のリストラ候補の名簿を私に提出してください
 直ちに検討の上、候補者は一ヵ月以内に正式解雇・・」

フランクがそこまで言った瞬間、社長とテジュンが椅子の音を激しく立てて
立ち上がった。

「理事!従業員のリストラ問題はあなたに口を挟む権限はないはず・・」

ドンスクがそう言うと、フランクはまた先日のような冷徹な笑みを浮かべて
彼女を震え上がらせた。
「もちろん、リストラの決定は、あなたがなさるんです・・社長。」

「私は承服いたしかねます」 
ドンスクは怒りに震えながらそれだけを言うのが精一杯だった。
「承服・・して頂きますよ・・社長。」 フランクは淡々と言った。
そして彼女はフランクの鋭い眼差しに圧倒されたかのように席に崩れ落ちた。

だがテジュンはまだ席についていなかった。
「勝手なことはさせない。」 テジュンはフランクを睨み付け言った。

「着席を。・・ハン総支配人・・・」 フランクは飽くまでも冷静だった。

「総支配人。」 ソ・ヨンスがテジュンを目で落ち着くように言った。
テジュンはヨンスに従って、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。

フランクはさっきから、ソ・ヨンスの存在と彼の視線に気がついていた。

「ソウルホテル顧問弁護士ソ・ヨンスです
 顧問理事にお伺いする。」 ヨンスが発声した。

「どうぞ」 フランクは抑揚なく答えた。

「リストラを早期決定事項とした根拠はいかに」

「現在、ソウルホテルは全従業員が正社員として働いています。
 中には、業者に委託した方が有効的な仕事もあるにも
 係らずです。実に非合理的だ。
 経費コストの最大の穴は、人員です。
 取り敢えず今回は100名と申し上げたが、
 三ヵ月後には更に100名をリストラ対象として名前を挙げる
 また、支配人職もその能力を鑑みた上で、減給はもちろん
 無能な人間は役職を落とすか、或いは・・・
 辞めて頂いても結構。」

そう言いながらフランクは、この場に出席していた支配人達の顔を
端から端へと見渡した。支配人達は彼のその言葉に驚愕しざわついた。

「なるほど・・・しかし
 前社長は従業員を家族と思って生きた人間です
 ひとりひとりをそしてその家族をも大切にする。
 それは前社長の信念でもあり、
 ソウルホテルは今までその形を崩さずやって来ている・・・
 現社長の考えも変わらないと伺っているが。」
そう言ってヨンスは、社長を見た。ドンスクは黙って頷いた。

「家族・・・ですか・・・」 フランクはそう呟いて、唇の端を小さく上に上げた。

「私も前社長の意向を尊重したいと考えております」 ヨンスが言った。

「ふっ・・偽善だ。」 フランクはヨンスに対して嘲るように言い捨てた。

「偽善?」

「いいですか?今のままでは、1200人全員が総倒れとなりますよ
 いつまで家族なんて甘いことを言っていられるか・・・
 200を切って、1000を救う・・
 非常に道理に適っていると思いますが。」

「1200人全てを救う道を考えて頂けませんか?
 それが・・・あなたのお仕事では?」 
ヨンスはそう言ってフランクに小さく笑みを向けた。
フランクはその笑みに答えるように、冷ややかに笑って見せた。

「ソ・ヨンス弁護士・・・貴重なご意見をありがとうございます
 しかし。」 フランクは今度はヨンスに鋭い視線を向けた。
彼の肩越しに不安げに自分を見つめるジニョンの顔が見えた。
その時フランクの胸に一瞬の迷いが走ったが、彼は一度だけ自分の頭を
左右に振ってそれを振り払った。
そして、改めてヨンスと視線と合わせると、笑顔を添えて毅然と答えた。

「決定事項と申し上げました。」 
「・・・・・」 
ヨンスはフランクの眼光に圧倒されたかのように黙って目を閉じた。

「それから・・・総支配人」 フランクはテジュンに視線を移して言った。
テジュンは返事もせず彼を睨んでいたがフランクはそれにはお構いなく続けた。

「今後の経営方針を明日までに提出して下さい。
 このホテルには問題点が山済みです。人事問題は氷山の一角に過ぎない。
 それをあなたが何処まで把握なさっているのか知りたい。」

「・・・・・」

「聞こえましたか?」 フランクは更に冷たく言った。

「おっしゃるほど悪い状況とは思えませんが。」 
テジュンは不満を顔に露にしながら答えた。

「それならどうして私がここに?・・・ふっ・・
 幹部がそのようでは、改善もままならないですね・・・
 ほとほと手を焼きそうだ・・・。」 フランクは嫌味な笑みを彼に向けた。

そして直ぐに厳しい表情に変えて言った。
「とにかく!明日までです・・いいですか?
 今日はこれで終了です。ご苦労様でした。」
フランクは目の前の誰の視線をも無視して立ち上がった。

 



「シン・ドンヒョクssi!」 
会議室を出たフランクを追って、テジュンが彼を呼んだ。

「この場合、役職で呼んでいただきましょう」 
そう言いながら、フランクは振り返った。

「・・・理事・・・ゲームなら私だけを相手にしていただきたい。」

「ゲームには、振るコマも必要ですよ・・ハン総支配人」

ハン・テジュンの肩越しに、不安な様相のジニョンの姿が見えた。

フランクとジニョンの視線が一瞬絡み合って、互いの意思で逸らされた。
フランクは一回だけ胸の中で溜息を付くと、吹っ切るように顔を上げ、
テジュンに向かって不適な笑みを浮かべながら言った。

「では、期限は明日です・・・ハン総支配人」

そしてフランクは彼らの前から立ち去った。


   容赦はしないと・・・


    ・・・言ったはずだ・・・ハン・テジュン・・・











 


2010/12/05 00:44
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passion-17.揺れたワイン

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「ハン・テジュン・・総支配人・・・私をみくびるな・・・」 
フランクにはテジュンが飽くまでも白を切り通そうとしていることが
愉快でならなかった。

「何がお望みでしょうか」 
一方テジュンはフランクの威嚇に対して、決して怯むまいと覚悟した。

「レオ」

フランクの指示により弁護士としてのレオが要求を淡々と述べ始めた。
書類が紛失したことにより、自分達が受ける被害額。
その為にホテル側が支払うべき補償額。
そのすべてが、テジュン達には途方もない額だった。

「それは、行き過ぎたお話ではありませんか?
 今は従業員のミスについて・・」
テジュンはその内容に驚いて咄嗟に口を挟み反論した。

「続けろ」 フランクはそれを冷たく無視してレオに命じた。

レオは続けた。
「我々は米国市民として、アメリカでの訴訟を起こすことを考えています
 その場合、一時的にホテルの資産を差し押さえることも出来ます・・
 それも今直ぐに・・・」

「そんなことをおっしゃるなら、あなた方はこのホテルを・・」
フランク側の余りに理不尽な言い様に、社長が思わず声を荒げた。

「社長!」 テジュンがとっさに、社長の言葉を食い止めた。

「ふっ・・それが正解ですね・・総支配人・・・
 こういう時には、多くを語らない方が懸命と言えます、社長」
フランクは皮肉を込めてドンスクに冷たい眼差しを向けた。

ドンスクはフランクのその冷徹な表情に恐れをなして黙り込んだ。

「このホテルの経営が今、その日一日の実質売り上げに
 頼っているということをどの程度認識されていますか?
 総支配人・・・」

フランクは戦々恐々としているドンスクとテジュンを尻目に更に続けた。

「何ならたった今私が
 このホテルのパワーラインを止めてみましょうか?」

「・・・・・」

「決して大げさに言っているわけではありませんよ
 そのボタンを押すことなど、私には雑作もないことです」

そう言ったフランクの目が冗談ではないことを如実に伝えていた。

「このホテルがどうなるか・・大いに見ものだ」
そして彼はそう言いながら、部屋の全体を見渡してみせた。

「・・・・・」 テジュンもドンスクも言葉を詰まらせた。

「いいですか・・・
 あなた方はご自分達がそういう瀬戸際にあるということを
 もっと肝に銘じておくべきだ
 たかが従業員のミス?・・だとしたら、あの男は・・
 とんでもなく恐ろしいミスを犯したものです
 そのたかがミスによって簡単に足元をすくわれることもある・・
 特に・・相手が・・私のような男の場合。」

そう言ったフランクの目はテジュンを奈落に落とすほどの鋭さだった。
「・・・・・」

「韓国で一番優秀な弁護士を準備なさった方がいい・・
 そうですね・・7.8人は必要でしょう・・・
 結果は・・・同じですが。」
 
フランクは彼らに対してこれ以上ないほどの冷徹な声で言い放つと
フッと口元に笑みを浮かべて立ち上がり、彼らに背を向けた。

テジュンはフランクの言葉にひと言も反論ができなかった。


「・・ソ支配人」 
フランクは後ろを向いたまま、テジュンに冷たい視線だけを戻して、
その名を口にした。

「・・・・?」

「彼女をひとりでここへ寄こしてください
 それで、今日のあの男の私への非礼を許しましょう
 少なくとも・・ソウルホテルの今日の命は救われる」

「何を・・」 
テジュンはフランクに飛び掛らんばかりの強い視線を放ち拳を握った。

「できませんか?」 

「当然だ。」 テジュンのその言葉は総支配人としてではなかった。
それでも彼はホテル総支配人として、必死に怒りを堪え、
握った拳をテーブルの下でゆっくりと開いた。

「そうですか・・・」 フランクは片方の口角だけを上げて小さく笑ったが
その目は決して笑ってはいなかった。

そして彼はテジュンらをその場に残し別室へと消えた。

 

 

 

テジュン達が部屋を出て行った後、レオがフランクの部屋のドアを開けた。
フランクはベッドに寝転がり、厳しい顔つきのまま天井を見上げていた。

「ボス・・帰ったぞ・・また後で詫びに来るそうだ・・・
 しかし・・少し行き過ぎじゃないか?
 確かにホテル側はミスをしたが・・・」

「・・・レオ・・忠告は止めろ・・・ひとりにしてくれ」 
フランクは体を翻しレオに背中を向けた。

≪わかってるさ≫
フランクにはわかっていた。

あんな風に彼らを追い詰めたのはきっと自分自身がジニョンに対して
どうすることもできない歯がゆさへの子供じみた腹いせでしかないことを。
ハン・テジュンに対して、これ程に苛立つ源も理解していた。
それでもどうしようもなかった。

だからこそどうしようもなかった・・・。

 

 

副総支配人の暴走により、社長とテジュンがフランクの部屋に
謝罪に出向いていたことを、ヨンジェに聞かされた。

フランクとの一件以来、スタッフのジニョンに対する風当たりが強く、
あちらこちらでスタッフ達がこそこそを噂話をする姿が目に付いて、
ジニョンはいい加減疲れ果てていた。

「それで、どうだったって?」 
他の人間には聞けなかったが、気になってその情報をヨンジェに
探らせていた。

「ああ、母さん、かなり疲れていた」 ヨンジェは落胆したようにそう言った。
彼は反抗してはいたがもともと母思いの子供だった。
 
「そう・・体調もお悪いのに・・・」

「あいつ、許せない。」 ヨンジェはフランクのことをそう言った。
ジニョンはその言葉を聞いて、まるで自分が言われたように心を痛めた。

「何を言われたの?」

「いや・・何でもないよ、ヌナ・・」 
ヨンジェが何か隠したようにジニョンから視線を逸らした。

「何なの?」 ジニョンは“言いなさい”という目で彼を強く見た。

 

 

「それでどうするの?」 スンジョンが心配げにジニョンを見た。

今回の一件があって、予想外にジニョンを庇ってくれたのは
いつも喧嘩ばかりしていたイ・スンジョンだった。

周りの人間がジニョンが昔の恋人と共謀して、ソウルホテルを
乗っ取ろうと企んだ、と実しやかに陰口を叩いていた時、彼女は
「普段のジニョンを見ていれば、
 彼女がそんな人間じゃないこと位わかるはず」
と心の底から言ってくれた。

「行くわ」 ジニョンは彼女に相談したわけではなかった。
彼女に話した時には既に心を決めていた。

「駄目よ・・私も一緒に行くわ」

「ひとりで来いって」

「あなたの恋人って・・怖い人なの?」

ジニョンはスンジョンの余りに神妙そうな顔つきが可笑しくて、
思わず笑ってしまったが、その表情は寂しげだった。

「いいえ大丈夫・・・彼は・・・きっとわかってくれる」

≪大丈夫・・・?・・・何が大丈夫なんだろう・・・
 わかってくれる・・・本当に?≫

ただジニョンは信じたかった。
彼を・・・そして何よりそんな彼を愛した自分を・・・。

≪フランクがこんなことをするわけがない≫

 


 

「お呼びでしょうか、お客様。」 ジニョンはひとりで現われた。

「総支配人がここへ?」 フランクは彼女の目を見られなかった。

「いいえ、彼は知りません」
≪そうだろうとも・・もしそうだとしたら、ただではおかない≫

「僕は“お客様”に逆戻り?ソ支配人。」 彼は寂しげに言った。

「あなたがそれをお望みのようですから。」
ジニョンは終始無表情を通した。

「・・・・座って?」 
フランクがそう促がすと、ジニョンは無言で椅子に腰を下ろした。

「ホテルは大丈夫だ・・心配はいらない」 フランクは溜息混じりに言った。
≪息の根を止めることなどするわけがない・・・≫

「そうですか・・・それはありがたいです
 ありがたくて涙が出そう」 ジニョンは嫌味を込めてそう言った。

「そんな風に言わないでジニョン・・今はホテルのこととは関係なく
 ふたりの話をしたい」

「ふたりの話?言ったはずよ・・私には何も無いわ・・・」

「僕にはある・・・わかってるよね・・・僕が・・・
 君を愛してること・・・」

「愛してる?・・あなたには簡単な言葉なのね」

「僕達は互いの気持ちを確認しあったはずだ」

たった数時間前まで、ふたりは互いへの想いに酔いしれていた。
お互いを取り戻したことへの安堵に胸を震わせていた。

「止めて!思い出したくもない!」

「思い出したくない?」

「私を騙して・・さぞかし面白かったでしょうね
 そして嘘がばれると、今度はホテルに腹いせ?!」

「興奮しないで・・・ジニョン・・・
 ワインを・・・飲むといい・・・
 そうしたら気持ちが少しは落ち着く」

ジニョンはフランクの言う通りに、彼が差し出したグラスを手に取った。
そして表情のひとつも変えず、一気にその中身を飲み干した。

あれほどに客の部屋で、個人的な時間は過ごせない、と言っていた彼女が、
ひとつひとつの彼の要求を素直に聞いていた。

「ワイン・・飲みました・・・お客様。
 でも・・・気分は少しもよくなりませんが。」 

「ふっ・・この分だと・・・
 僕の要求は何でも聞いてくれそうだね」 フランクは俯いて言った。

「ええ、何なりと・・お客様。
 それで、お客様がホテルへのお怒りを静めて下さるなら・・
 その為にここへ参りました。」
ジニョンはひと言ひと言を語気を強めて言った。
次第にフランクの胸にジニョンへの言い知れぬ怒りが沸いてきた。

「そう。・・それならお願いしよう。
 その堅苦しい制服を脱いで、ベッドに横になりなさい」
フランクはベッドを指差して、ジニョンを睨みつけた。

「・・・・!」 
ジニョンは信じられない、という顔をしてフランクを睨み返した。

「何でも・・・言うことを聞くんだろ?」 
フランクは彼女から視線を逸らさなかった。

そしてジニョンは乱暴に席を立ち上がったかと思うと、ベッドへと向かい、
躊躇なく自分の制服のリボンに手を掛けた。

その瞬間フランクはテーブルを拳で強く叩いて、立ち上がった。

「止めろ!」 
そして彼女が解きかけた制服のリボンからその手を乱暴に払いのけた。

ふたりはしばらく互いを睨みつけたまま動かなかった。

「どうして?・・」 ジニョンは問うように言った。

「どうして!・・」 フランクは怒りに任せて言った。

「どうして・・・私の愛するホテルを奪いに?」

「どうして、ホテルなんかのために自分を?・・」

「あなたにはわからないわ!」

「ああ、わからない!ホテルの為なら、自分をも捨てるのか!
 今この場所が・・例え相手が!僕でなくても!」

「そうかもしれない!」

フランクは思わずジニョンに手を挙げようとして、留まった。
ジニョンの目がその言葉が真実ではないことを訴えていた。

「・・・・君の為に来たと言ったはずだ・・
 今はそれだけを信じてとも言った。どうして信じられない?」

「私の為?・・なら・・ここからすぐに出て行って。」

「・・・・・本当に・・?」

「・・・・・」

「本当に?・・・そうして欲しい?」

「フランク・・・どうして!私をこんなに苦しめるの?
 10年前・・勝手に消えて・・
 こうして今また突然現れて・・私の生活を壊そうとしている」 
ジニョンは目に涙をいっぱい溜めていた。

「本当にそうなの?僕は君の生活を壊してるだけ?
 君も僕を愛してる・・・そうなんだろ?」

「・・・・・もう駄目よ・・あなたとは・・」 

「どうしてそんなにこだわるの?
 ホテルのことと僕達のことは関係ないだろ?
 ホテルが僕達のものになれば
 君はソウルホテルの総支配人にも、社長にもなれるのに」

「僕達のもの?・・・私達のホテルよ・・
 フランク・・・あなたにはわからないのね・・・
 私達にとって、ホテルそのものが大切なんじゃないの
 ここで働く人達が大切なの・・・仲間が大切なの
 テジュンssiはいつもそれを考えている」

「ハン・テジュンの名前を口にするな」 

「あなたとテジュンssiの違いは・・・」

「口にするなと言ったはずだ!」

フランクは苛立ち紛れに激しく怒鳴ると、ジニョンをベッドに押し倒し、
彼女の手首を掴んで自由を奪うとその唇を強く塞いだ。

しかしジニョンは堅く唇を結び、彼の侵入を激しく拒んだ。

フランクはそれでも執拗に彼女を求めた。
力でねじ伏せるのは簡単だった。しかしフランクにはできなかった。
余りに頑なな彼女の唇を割ることなどできなかった。

彼は彼女の唇から離れると、彼女の上からその顔を見下ろした。
彼女は彼をずっと睨み付けたままだった。
そしてその睨んだ目はそのままに、その目にまた涙を滲ませた。
彼は彼女の耳に向かって流れ落ちそうになったその涙を指で拭いながら
小さな声で呟くように言った。

「やっと・・・君を取り戻したと思ったのに・・・
 君は今・・・誰の為に泣いてるの?」

「フランク・・・お願い・・・」 
ジニョンは請うような目で彼を見つめていた。

「君の願いは・・・聞けない」 

フランクは彼女のその眼差しから逃れるように目を逸らすと
彼女の体から離れてベッドを下り、彼女に背を向けた。


ジニョンはベッドの上で起き上がり、フランクの背中を見つめた。
「お願い・・・」

「仕事がある・・・帰ってくれ」
フランクの背中が、更にジニョンの願いを撥ね付けた。

ジニョンは落胆してベッドから降りたものの、制服の乱れを直しながら
次第に闘志を燃やして、彼の背中に言った。
「・・・負けないわ」

「負けない?・・何に?」 フランクは鋭い眼差しで振り返った。

「あなたに。」 ジニョンもまた睨み付ける様に彼を見据えていた。

「僕に?・・・」 フランクはフッと笑った。

「何が可笑しいの?」

「僕を相手に勝てるとでも?
 僕はこうと決めたらどんなことにも決して諦めないこと・・
 君も知ってるでしょ?
 僕が!こうすると決めたら、必ずそうすること!
 君が一番よく知ってるはずだ」

「・・・それでも負けない!」

「ハン・テジュンに伝えろ・・首を洗って待っていろと」
フランクはジニョンに向かって言葉を投げつけると、彼女にまた背中を向けた。

ジニョンはその背中に怒りの眼差しを突き刺して、そのままきびすを返した。


≪僕にはわからない・・・か・・・
 君のそのひとことがどれほど僕を打ちのめすか

 君こそ、わかっていないよ、ジニョン・・・

 でも・・・結果は変わらない・・・


      ・・・僕がこうすると決めた以上・・・≫・・・








 



2010/12/02 23:01
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passion-16.君がいないと

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結局その日ジニョンを見つけることさえできなかったフランクは
眠れないまま息苦しい夜を過ごした。
そしてなすすべもなかった彼は、翌朝ホテル従業員通用口の前で
彼女を待つという手段を取った。


出勤して来る従業員達がそこに馴染まない人物を横目に、
次から次へと通って行った。
しかしフランクにとって、彼女に逢えない辛さに比べれば
自分に向けられる冷たい視線など取るに足らないものだった。


そして一時間ほどしてやっと、彼の目の前にジニョンが現れた。
彼女はフランクを見つけると一瞬立ち止まり、一度引き返そうとしたが
意を決したように大きく深呼吸をすると、彼を睨み付けながら
再度入り口へと足を進めた。


フランクは彼女の進行方向を妨げるように立ちはだかった。


「どいてください」 ジニョンは彼の目を見なかった。

「どかない」 フランクは絶対に逃がすまいと彼女を見据えた。

「どいて!」 彼を見上げたジニョンの目は怒りに震えていた。

そしてジニョンはフランクの腕に乱暴に当たって前に突き進んだ。

 

「話を聞いてくれ・・ジニョン」 彼は彼女を追いかけ、その腕を掴んだ。

「離して!話すことなんか、何も無いわ」 彼女は彼の腕を振り払った。

「僕はある!」 それでも彼は諦めなかった。

「私は!無いの!」 ジニョンが本気で怒ると、それを修復するのが
容易でないことはフランクは十分知っていた。

まして、この10年間のふたりの間のひずみの深さを思えば、
何としても早い内に誤解を解かなければとフランクは思っていた。

「少しでいい・・話を・・」
「離して!」 しかし、ジニョンの怒りは彼を頑なに拒絶して、
ふたりはその場でこぜりあった。

「聞け!ソ・ジニョン!」
気持ちが高ぶった彼は彼女の肩を掴み勢い良く振り向かせると
彼女をそのまま乱暴に壁に押し付けた。


「ここは関係者以外立ち入り禁止です、お客様」
そばで様子を伺っていた従業員が慌ててフランクを止めようとしたが
彼はあろうことかその従業員をドアの向こうに突き飛ばし、
防災用の扉の両側を閉め、挙句の果てにセンサーを引きちぎると
そのドアをロックしてしまった。


狭い空間に閉じ込められて、彼とふたりだけになってしまったジニョンは
驚愕の目を彼に向けた。
「なんてことを・・・」

ジニョンを見るフランクの目は常軌を逸していた。

「どうしてこんなことをするの?!」 ジニョンもまた怒りに震えていた。

「君が話を聞かないからだ!」

「そうさせたのはあなたでしょ!」

「確かに僕はホテルの引合いでここに来た
 しかし、その理由をどうして聞こうとしない!」
そう怒鳴りながらジニョンの肩を掴んだ。

「聞かなくてもわかってるわ!」
「わかってない!」 フランクの指が彼女の肩に更に食い込むと
ジニョンはその痛さに思わず顔をしかめた。

「あなた・・昔とちっとも変わってない!
 自分の思い通りにいかないと直ぐにそうやって癇癪を起こすのよ!
 そうやっていつも、自分の思い通りにしようと・・」

「ああ!そうだ!
 君が思い通りになってくれないと腹が立つ!
 君が僕のそばにいないと腹が立つ!
 君が!僕を・・・愛してくれないと・・
 ・・・腹が立つ・・君が・・君が・・・」

ドンヒョクの怒号が次第に消え入りそうに小さくなった時
彼の頭はジニョンの肩に落ちていた。
そして彼は彼女の肩の上で泣いているようだった。

「君がいないと・・・僕は駄目なんだ・・・
 君がいないと心が・・・簡単に壊れてしまう・・・
 お願いジニョン・・・僕だけを見ていて・・・
 僕の声だけを聞いて・・」

「・・・何を・・・言ってるの?
 何を言ってるの?あなたって・・・あなたって・・・
 どうしてそんなに勝手なの?
 勝手に消えて・・勝手に現れて・・
 どうしていつも・・・私の心を・・振り回すの・・・」

フランクは彼女の肩からゆっくりと顔を上げると、彼女の目を切なげに見つめた。

「君だけでいいんだ・・・僕は・・・
 君だけがそばにいてくれたら・・・他には何もいらない」

「嘘言わないで」

「嘘じゃない」

「・・・・・」

「僕を愛してる?愛してるだろ?」

「もうお終いよ・・」

「愛してるだろ?」

「・・・・・」

潤んだ彼の目を無言で睨みつけながらジニョンはいつの間にか
溢れる涙に逆らうことができない自分を嘆いた。


フランクは彼女の頬を両手で包み込むとその目を見つめ・・・
自分の親指でその涙をそっと拭った。

「愛してる・・・ジニョン・・・」

まるで心を搾り出すように囁いた彼は、その心が誘導するままに
彼女に熱くくちづけた。

10年の年月を超えて、互いの変わらぬ愛を確認しあってから
まだほんの少しの時間しか経ってはいない

この唇を・・この吐息を・・もう忘れられない・・・
そう信じたはずだった

彼女は拭い去れない怒りの中に彼への思慕を忍ばせて・・・
静かに目を閉じ、彼のくちづけを悲しい涙で受け止めた。

 

ふたりの一部始終を、ガラスの向こうで従業員達は衝撃の眼差しで目撃していた。

壊れた鍵が保安課によって解除され、ジニョンはフランクの腕の中から
現実の世界へと引き戻された。

ジニョンはその時、彼の元を離れたくない想いに揺さぶられていた。
彼の余りに寂しそうな目に、このまま彼を抱きしめていたい衝動に駆られた。

でもそれは許されないことだと知っていた。

彼がホテルの敵とわかった以上、彼の元に残るわけにはいかなかった。

≪信じて・・・僕を信じて・・・≫ 何度も繰り返していた彼の声が
彼女の胸に響いていた。

≪信じたい・・・でも・・・でも何を・・・何を信じたらいいの?
 フランク・・・≫

その場に取り残されてしまったフランクは、項垂れ失意の底にいた。
自分のしたことの何もかもが、結果的に何の解決にも繋がらないことが
冷静さを取り戻すにつれ、歯がゆくて、情けなかった。

フランクはジニョンを追わずにいられない自分の心に鞭打つように、
バックヤードへと消え行く彼女の背中から目を逸らし、その場を立ち去った。

 

 

ジニョンとの関係を修復できないまま、フランクは複雑な思いを胸に
部屋に戻った。
ドアを開けると、部屋の中から男達の声が物々しく聞こえた。
中へ入ると、レオとホテルの従業員が口論しているところだった。


「何事だ」

「ボス!この男がホテルを出て行けと言うんだ
 それで勝手に荷物を片づけ始めて・・」

その男は副総支配人のオ・ヒョンマンだった。

「部屋を?」

「当然のことだ・・
 お前達はこのホテルを乗っ取る目的でここに来てるんだろ?
 そんな奴を泊めておく義理が何処にある」

「これはこれは・・・
 由緒あるホテルの従業員とは思えぬお言葉ですね」
フランクはヒョンマンの暴言に対して冷笑しながら更に言葉を繋げた。

「ところでそれは・・・ソウルホテルとしての考えですか?
 ハン・テジュン総支配人も同じお考えだと?」

「当たり前だ!いいから、さっさと出て行け!
 チェックアウトの必要は無い・・
 この場でKEYも渡してもらおう」 そう言いながら、ヒョンマンは
フランクの手に見えたカードKEYに手を掛けようとした。

その瞬間、フランクはヒョンマンの腕を後ろ手に捻った。

「私に触るな!」 
そしてそのまま、彼と一緒に来ていた男を睨んで言った。

「総支配人をここに呼べ」

「しかし・・」 男は震えながらヒョンマンに答えを求めるような目で訴えた。

しかし、フランクに力ずくで押さえられた彼の答えはなかった。

フランクは続けた。
「直ぐに来いと伝えろ・・そうしないとホテルを閉めることになる・・・
 シン・ドンヒョクがそう言っていると・・・」

フランクの睨んだ目に射られたように怯えたその男は部屋から
走って出て行った。

 

 


20分ほどしてテジュンが社長を伴ってサファイアの部屋に到着すると、
ヒョンマンは憤然と押し黙って椅子に座っていた。

「随分時間が掛かりましたね・・お待ちしておりました
 総支配人、ハン・テジュンssi・・社長もご一緒でしたか・・
 さあ、どうぞお掛け下さい」 フランクは丁寧に彼らを迎え入れた。

「お話は伺いました・・・従業員が大変ご無礼なことを・・・
 深くお詫び申し上げます」

社長がまずそう言ってフランクに頭を下げ、テジュンもそれに習った。

ここへ来る前にテジュンと社長は事の次第を聞いて、フランクに対し
ただ陳謝するしかないことを互いに確認し合っていた。

 

「詫びを入れて欲しくてお呼びたてしたのではありませんよ
 社長・・・そして、ハン総支配人・・・
 おふたりに少し伺いたいことがあるんです・・・
 今ここにいらっしゃる副総支配人と名乗る男が
 私の荷物に手を掛け、ホテルを出て行けと・・・
 そしてこのKEYを私から無理やり奪おうとしました。
 この人は、それはホテルの考えであるとおっしゃったのですが・・・」 

そう言って、フランクは持っていたカードKEYを二本の指に挟み翳した。

「いいえ・・ホテル側はそのようなことは考えておりません
 お客様にはどうぞそのままご宿泊いただきたいと・・」

「それは不可解ですね・・副総支配人・
 ハン総支配人はああおっしゃっていますが・・」

フランクは面白いがっているようにヒョンマンに言った。

 

すると透かさずヒョンマンはテジュンに向かって怒鳴った。
「出て行ってもらって何故悪い!こんな奴らに・・」

「だ・・そうです」
フランクはにやりと片方だけの口角を上げて、テジュンを見た。

「ヒョンマン・・いい加減にしないか・・
 君はいいから、今直ぐここを失礼しなさい」
テジュンはヒョンマンに対して激高を抑えながら言った。

ヒョンマンはそんなテジュンが不愉快でならなかった。

「お前にそんなことを言われる筋合いは・・」 
彼はテジュンに向かって拳を握っていた。

「いい加減になさい、副総支配人!
 とにかく、あなたはここを失礼なさい・・」
ヒョンマンの暴挙に呆れ果てていた社長が厳しくそう言い放つと
ヒョンマンは握った拳をそのままに、その部屋にいたすべての人間を
睨みつけ、渋々と部屋を出て行った。


「本当に申し訳ございませんでした
 何と申し上げてよろしいか、言葉もございません・・・」 

社長とテジュンは改めてドンヒョクに頭を下げた。

「謝って欲しくてここへお呼びしたのでは無いと
 申し上げたはずです」

「・・・・」「・・・・」

「たった今、現実にあの男は・・いいえ
 あなた方は・・私の権利をないがしろにしました
 そのことは・・・おわかりですか?」

「それは・・・従業員のミスは認めます。
 どうぞお許し下さい・・今後一切このようなことは・・」

「ああ・・おわかりではないようですね・・・
 なんなら私の弁護士から説明させましょうか?
 ご存知かと思いますが、私は既にこの部屋の宿泊料を
 三か月分先払いしています・・
 となると、ここは私の個人的な空間となるはず・・違いますか?」

「その通りです」

「その個人の空間である部屋を追い出そうと
 ホテルマンともあろう人間が勝手に個人の私物に手を掛けたこと・・
 ホテルマンにあるまじき暴言を吐いたこと・・・」

「それは・・・」

「黙ってお聞きなさい・・それだけではありません」
フランクは彼らを鋭く睨みつけた。

「・・・・」

「先程彼はこう言いました・・・
 私のことを、ホテルを乗っ取ろうとしている奴だと・・・
 あなたも昨日、似たようなことをおっしゃいましたね、総支配人・・・
 さて・・それは何処から得た情報ですか?」
フランクは静かにそう言って冷たく微笑んでみせた。

「・・・・」 

「実は・・・この部屋からひとつの書類が紛失しています
 その書類にどんなことが書かれていたのか・・・
 もちろん、我々しか知りません」

「何をおっしゃりたいのでしょう」

テジュンはすべてを正直に話すつもりなど無かった。
その代わりにフランクの目を見据えて、彼の真意を問うた。

 

フランクは一瞬、テジュンに対して言葉の語気とは裏腹の
友好的な笑顔を作ったように見えた
しかしその直後それは、背筋が凍るほどの冷たい眼差しに変わった。

「ハン・テジュン・・総支配人・・・

    私を・・・

       ・・・みくびるな・・・」・・・




















 



2010/12/01 23:28
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-15.儚い夢

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ジニョンは、ひとり屋上で座り込んでいた。

余りの情けなさに嫌気が差す自分をやっとのことで冷静に見つめ
ほんの少しだけ落ち着きを取り戻していた。

「ここにいたのか」 
テジュンが後ろから声を掛けたが、ジニョンは彼に振り向かなかった。

「笑いに来たの?」ジニョンは涙を隠すようにぶっきらぼうに答えた。

「俺を馬鹿にするな」 テジュンは彼女の隣に腰掛けると、
彼女と同じように漢江に視線を向けた。

「いつから知ってたの?」

「何を?」 テジュンはしらばっくれて言った。

「・・・・・」 
ジニョンが無言で彼を睨むと、テジュンは首をすくめて笑ってみせた。

「話そうとした時に呼ばれたんだ」
ジニョンは社長室に呼ばれる前のテジュンの様子を振り返って、頷いた。
「そう」

「お前が悪いんじゃない」

「悪いなんて思ってないわ」

「そうか」

「そうよ、悪いなんて思ってない・・ただ・・・滑稽に思ってるだけ・・
 ・・・・ずっとずっと逢いたかったの・・・
 忘れようとしても忘れられなくて・・・凄く恋しかったの・・・
 やっと逢えて・・・彼もまだ私のことを愛してる・・そう思って
 胸が凄く震えたの・・・
 心が弾んだの・・・それなのに・・・
 彼はただこのホテルを奪うために来ていた・・・」
ジニョンはそう言って深く溜息をついた。

「俺にそんな話・・・聞かせるのか」 
テジュンは空を仰ぎそう言うと、空に向かって溜息を吐いた。

「誰に聞かせればいいの?」 
ジニョンはテジュンを見て泣きそうに笑った。

「忘れろ・・」 テジュンはジニョンを見ないまま、そう言った。

「何を?・・何を忘れるの?
 彼が私の恋人だった事実?
 私が彼に騙されて、また胸を震わせたこと?」

「全部だ」

「出来ないわ」

「何が出来ない」

「・・・・彼を・・・忘れること・・・」
ジニョンはテジュンがやっと聞き取れるくらいに小さく呟いた。

テジュンは小さく笑いながら、それが耳に届かなかったと自分に言って聞かせた。

 



フランクはフロントに向かっていた。

≪このままではいられない・・・ジニョンを離したままでは・・・≫
その想いに突き動かされて、懸命にジニョンを探した。

「ソ支配人を呼んで下さい」
既に従業員の間にも、シン・ドンヒョクの素性は伝わっているようだった。
フロントにいたベルボーイが、彼の難題を懸命に回避しようとした。
フランクが彼に少々手荒く、ジニョンの行方を訊ねていたその時、
テジュンが現れた。

「お客様、どうかお静かに。・・・他のお客様のご迷惑になります」
テジュンはそう言って、フランクをたしなめた。

「総支配人なら・・私の要望を叶えて下さいますか?
 ソ・ジニョンさんに逢わせて下さい」

「それはできません。・・・お客様、少しお話を・・よろしいですか?
 どうぞこちらへ」 テジュンはフランクを別室へと促がした。

フランクを無人の会議室へと案内したテジュンは、彼の目の前で
総支配人としての証のバッジを外して胸ポケットに仕舞った。
フランクはその様子を無言で見つめていた。

「ホテル従業員とお客様ではなく、お話申し上げても構いませんか」

「・・どうぞ」 フランクはテジュンの目を見据えていた。

「もう、お止め下さい・・・シン・ドンヒョクssi」
テジュンは前置きも無く、率直にそう言った。

「何のことでしょう」

「ホテルが欲しいのでしたら・・・
 私が相手になります」

「私が・・・
 このホテルを欲しがっていると?」

「違いますか?」

「どうしてそう思うのですか?」 フランクは不適な笑みをテジュンに向けた。

テジュンはその笑みが意味することを、とっさに理解したが、
もう後には引けなかった。

「あなたの目的はわかっています・・」

「私の目的・・・ですか」 フランクは静かに彼の言葉を繰り返した後
顔を上げてテジュンとの視線を合わせた。
「なるほど・・それで?」

「女を巻き込まず、正々堂々と戦っていただきたい」

「女?」 フランクはテジュンに向かって、矢のような視線を放った。
「・・・・」 テジュンは一瞬だけ彼のその鋭い視線にたじろいだ。

「よろしい・・今あなたがおっしゃったように
 私が・・このホテルを欲しがっているとしましょう
 それをあなた方が知った理由も今は問いません・・しかし。
 私は自分が仕掛けた仕事は必ず成功させる・・
 始めたゲームは必ず勝ちます
 そのことも・・・ご存知かな?」

「あなたにとっては単なるゲームでも私にとっては、
 1200人の生活が掛かった現実です
 あなたにとっては弄ぶような女でも!
 私にとっては・・」

「弄ぶ?」

「違いますか!
 まさかジニョンの為に来たとは、言わないでしょう?
 あなたは彼女の純粋な心を利用したんです」

「利用した・・」 フランクは冷たい笑みを浮かべながら
テジュンの言葉をまた単調に繰り返した。

「・・・・」 テジュンは心を落ち着かせるように小さく深呼吸した。

「ハン・テジュンssi・・あなたとは・・・
 一度話をしなければならないと思っていました
 彼女・・ジニョンのことを・・・」

「・・・・」

「はっきり申し上げる・・・彼女は・・・ソ・ジニョンは・・・
 誰が何と言おうと・・・
 ・・・私のものだ」 フランクは自分の目をテジュンの視線から
一分も外さないままそう断言した。

「彼女もそう思っていると?」

「彼女がどう思おうと関係ない。」 
≪そんなはずはなかった≫ しかしハン・テジュンを前にフランクは
その態度とは裏腹に胸の内は冷静さを失っていた。

「横暴だ」

「横暴?・・・結構。」 フランクはニヤリと片方の口角を上げ言葉を繋げた。
「しかしはっきりと申し上げる。あなたは私の相手ではない・・・それが現実だ。
 それでも私に立ち向かうと?」

「必要があればいくらでも」

「いくらでも?」

「ええ・・いくらでも!」

「そうですか・・・なら・・容赦はしない。・・いいですか?」

「望むところです」

「ふっ・・では、覚悟を。」

フランクは最後まで冷淡な言葉と冷たい視線をテジュンに投げつけて
部屋のドアを後ろ手に閉め、出て行った。


フランクは腹立たしかった。
ハン・テジュンに?いいや・・・自分自身に・・・。

ジニョンのことを庇うように話すテジュンに嫉妬した自分が情けなかった。
≪ソ・ジニョンは私のものだ≫
テジュンに対して強気に言った直後にフランクの胸に後悔が走っていた。

≪何が・・・自分のものなんだ・・・
  あれほどに拒絶されたものを・・・≫

フランクはやっと取り戻したと信じていた彼女を、
自分からむしり取られてしまったような衝撃を受けていた。

何処を探しても見つからないジニョンに対しても苛立った。

  このまま何もかも放り投げたかった

しかしフランクは、今のままの精神状態で仕事に向かうことはできなかった。




約束していたキム会長との会食に止む無く向かう途中も
頭の中はジニョンのことでいっぱいだった。

こんなにも自分の心を支配する彼女が恨めしかった。

「ご気分でも悪いんですか?」 
先に会食の席についていたユンヒがフランクの様子を気にして言った。

「あ・・いや・・何でもありません・・
 それより会長は遅いですね」 

「来ないと思います・・」

「それは?」

「そういうことです」

「そういうことって?」

「あなたと私をふたりだけにするということ」

「・・・はっ・・」 フランクは会長の思惑を知って呆れたように宙を仰いだ。

韓国に入国した直後、キム会長が自分の娘ユンヒを彼に引き合わせ、
その後数回の会食時には必ず彼女を伴っていた。
会長の思惑は読めたが、フランクは特に気に留めなかった。
そして先日会長がとうとう、彼に娘との結婚を匂わせる発言をした。
その時、フランクは笑ってその話を濁していた。

それがいけなかったのだと、フランクは思った。
フランクは席を立とうと、ナプキンを膝から掴んでテーブルに置いた。

「困ります」 ユンヒの手がフランクのその手に掛けられた。

「どうして」

「あなたとお食事をしないと父が怒ります」

「君は父親の言うなりですか?」

「・・・・」

「もっと自分を持ちなさい・・・僕は仕事以外で
 あなた方親子に係るつもりなどない」

「今日は優しくないんですね」 ユンヒは小さく笑った。

「僕は・・・心を偽れないだけです」

「私が偽っていると?」

「違いますか?」

「・・・・」

「あなたは決して父親のお人形ではない
 あなた自身が埋もれさせてしまっている強さを
 もっと信じるべきだ」

「あなたのそばでなら・・・
 人形にならずにすむかも・・そう申し上げたら?」

「それは・・・無理だ」 フランクは口元だけで笑った。

「何故?」

「まず第一に・・あなたはそれを望んではいない
 第二に・・僕も望んではいない・・・」

「・・・どうしてそんなことがわかるんです?」

「似たもの同士だから・・・」 フランクはまた口元だけで小さく笑った。

「似たもの同士・・・私とあなたが・・ですか?」

ユンヒは不思議そうにドンヒョクを見ていた。
フランクはその後を続けず、ただ静かに笑った。

「とにかく・・今日はこれで失礼します
 申し訳ないが、今は食事に興じている気分ではありませんので」 
フランクはユンヒをその場に残し、改めて席を立った。





フランクは再度ジニョンの部屋に向かったが、彼女は帰っていなかった。
何度も電話を掛けても繋がることすらなかった。

「ジニョンさんを待ってるんですか?」
突然若い女が、ドンヒョクに声を掛けてきた。
「ええ」

「オンニは帰って来ませんよ」

「君は?」

「ジニョンオンニと一緒に暮らしているジェニーと言います」

「ああ」≪調理場で働いているという・・≫

「オンニ・・今日凄く嫌なことがあって、具合が悪くなってるの」
その言葉の裏にフランクに対する悪意を漲らせていた。

「・・・・」 フランクは俯き加減に黙って聞いていた。

「でも!大丈夫です・・オンニにはテジュンさんという恋人がいますから
 彼がきっとオンニのこと助けてくれる・・
 だから私は心配していないの・・
 ですからあなたも・・どうぞご心配なく!」

ジェニーは、フランクに向かって一気にまくし立てると
体全体を怒りに変えたように彼を睨みつけて立ち去った。





フランクは途方にくれていた。
彼女が今、自分に裏切られた想いできっとまた泣いているのかと思うと
胸が締め付けられた。


≪ジニョン・・・泣くな・・・
  どうか、泣かないでおくれ・・・≫


  嫌よ・・・フランク・・・

 

    置いていかないで

    私を置いていかないで・・・

    置いて・・いかないで・・・・

    嫌よ・・・嫌・・・フランク・・・


    ・・・フランク!-

 

フランクはいつもの夢でまた夜中に飛び起きた。
ジニョンと再び心を通わせ始めてからは、しばらく遠のいていた暗い夢。

その夢はいつもフランクを奈落の底に突き落とすかのように
彼の心と体を痛めつけた。

体中が震え汗びっしょりで、喉がからからに渇いていた。

何度も何度も繰り返し蘇るあの時のジニョンの声が・・・

追いかけてくるあの悲しい涙が・・・
この10年の年月、彼をいつも責め立てた

そして今もまた・・・

彼はぐったりとした足取りでベッドから降りると

冷蔵庫からミネラルウォーターを一本取り出し
心の渇きを癒すように一気に飲み干した。

 
   ≪あの時・・・
   彼女を守りきれなかった自戒・・・それが
   あなたが心を閉ざしてしまった理由・・・
   あなたはそれを取り戻さなければならない≫

 

   ソフィアの言った言葉が今でも胸に響いている


   そして今・・・
   あの時守りきれなかった彼女が・・・

   ジニョンが・・・また・・
   この空の下のどこかで涙に暮れている


   彼女を守りに来たはずなのに・・・
 
   僕はいったい何をやっているんだろう・・・


   彼女を求めることしかできないはずなのに・・・

   僕にはそれしかないはずなのに・・・


   この手が・・・
   彼女からまた遠ざかってしまった・・・


フランクは離してしまったジニョンの手を思いながら
自分の掌をただ呆然と見つめ、涙を流し、その手で顔を覆った。

フランクはこの10年間、
ジニョンの存在を心の奥深くに封じ込めることでやっと
自分という存在を守り、仕事に生きることができていた。

しかし今、フランクは本当の自分を取り戻しつつあった。
本当の自分・・・
そこには必ずジニョンが存在しなければならなかった。


   それなのに・・・傍らに彼女はいない・・・


   僕はいつまでこうしていればいい?・・・

   君がいないと・・・

   僕はこんなにも無力だよ、ジニョン・・・

   
   教えてくれ・・・

   僕は・・・

   暗闇に震えながら・・・いつまで・・・
 

   あの夢の中で・・・

 

      ・・・もがいていればいい?・・・



   














 


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