2007/06/17 20:49
テーマ:【創作】タムトクの恋・番外編 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【創作】契丹の王子⑤

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 ここで、タムトク様がおっしゃった『あの時の子』について、少しお話しておきましょうか。


 そのころ、城内には、タムトク様に新しい側室をお薦めしてはどうかという話がありました。
 正妃スヨン様は病気がちでしたし、私はといえば、高句麗王都に来てから一年近くが経とうというのに、それまで懐妊の兆しが見られないという状態だったからです。

 すでにタムトク様の血を引く王子はチャヌス様とワタルがいましたけど、お子は多いほうがいい、せめてあと数人は・・と周囲が考えるのも無理のないことでした。
 戦乱の世にあっては、王の後継候補は何人いても多すぎるということはなかったのです。


 タムトク様は、王都にいらっしゃる間、夜はたいてい、私がいただいていた屋敷に帰ってこられましたが、これをよくない傾向だと眉をひそめる人たちもいました。

 あの女人は王のご寵愛を受けながら、10年前にお子をひとりあげられただけではないか、それに、何と言っても倭人ではまずい、ここはやはり高句麗貴族の娘をおそばに差し上げなければ・・・、というわけです。

 実際に、タムトク様の元には、側室にということで、高句麗貴族の姫君の名前が数人あげられたということでした。
 なのに、タムトク様は、『無用だ』のひとことで退けてしまわれたとか・・・。

 私はその話を侍女のひとりから聞き、タムトク様に対して申し訳ないのとうれしいのとで胸がいっぱいになりました。

 けれども、その話は、それで終わりというわけにはいきませんでした。
それから数日後、私のところに長老家ゆかりの側近の方々が三人訪ねてみえたのです。
長老家といえばジョフン殿とすぐに思いますので、彼女に何かあったのかと私は緊張しましたが、そんなことではありませんでした。
 
 その側近の方々はごくまじめは顔で、これは、と思える貴族の娘を、私から王にお薦めしてはどうか、などと言うのです。
最近の情勢をみると、遅かれ早かれタムトク様は側室を迎えることになると思う、たとえば正妃のご実家ハン家あたりの姫がお側にあがるのを指をくわえて見ているよりは、こちらの息のかかった姫を差し上げるほうがいいのではないか、と。

それは、王家のことだけでなく、私の立場まで考えた提案だったのかもしれません。
でも、私は素直にうなずくことができませんでした。

申し訳ないけど、私はそのようなことはできません、
王のお気持ちがほかの方に移っていったというのならともかく、
私からそのようなことを申し上げるのはいやです、と。

 王家の中を取り仕切るご自身の立場もよくお考えを、などと言い置いて、その側近の方々は帰っていきました。

 そのことを、居合わせた侍女たちに固く口止めし、私自身、タムトク様にもほかの誰にも申しませんでした。

 でも、そういうことはどこからか漏れてしまうものでしょう?
タムトク様は、どこからかお聞きになったようなのです。
 いいえ、タムトク様が何か私におっしゃったわけではありません。
ただ、どこがどうのというわけではないのですけど、いっしょにいるとき、いつにもましてやさしくしてくださるとか、そんなことですわ。
 
うまく説明できませんけど、いっしょに暮らしていれば、ああ、この方はご存知なんだって、自然にわかるものでしょう?


 ああ、ひとつだけ、もしかしたらと思うようなことがございました。
ワタルに対する態度がちょっと厳しいものになったことです。

 それまでも、タムトク様はワタルと轡を並べて遠駆けしたり、屋敷で剣の手ほどきをしたりすることがございました。
でも、それが少し本格的なものになったのです。

 屋敷で夕餉をとっているとき、ワタルに対して、儒学などという難しい学問のことであれこれと質問されたりするようになりました。
 また聞くところによりますと、城中にあっても、騎馬や剣術の指南の先生方に、指導方法を問いただされたりしたようです。
 もっとも、ワタルは、父上がみてくれるんだよとうれしそうにしていましたが・・。
でも、きっと近いうちに、音を上げることになるのでしょうね。

 
 そうこうしているうちに、北と西の砦に異変があるという知らせが届いて、タムトク様はまたもや出陣していってしまったのでした。
 王が戦場に行かれている間は、側室に推挙する姫君がどうのなどという話はひとまず立ち消えになってしまいます。
そう考えますと、王の後継を残さねば・・、などと言い募っている間こそ平和なのだということになります。おかしなことです・・。

 
 ところが、それから二月くらいがたってからのことでした。
戦場からは特に悪い知らせもなく、このまま休戦になるかもしれないとささやかれるようになっていました。

 明け方のまだ暗いうちのこと、北の砦にいらしたはずのタムトク様が、突然屋敷に帰ってこられたことがありました。
 急に休戦協定が結ばれたので、数人の側近と警護兵10名ばかりをつれて、日に夜をついで駆けてこられたとのことでした。
 夜の明けきらない冷たい空気の中で、皆さんといっしょに汗と泥をいつものように洗い流しながら、あの方は白い歯を見せてにっこりされました。

『どうしても、そなたの顔を見たくなったのだ。』

そばにはほかの家来の方々だけではなく、まだ戸惑った顔の、屋敷の侍女たちもいるというのに、そんなことをぬけぬけとおっしゃるのです。


私は、そのまぶしいような笑顔をかわしながら、

『すぐに朝餉をお持ちしますね。』

『朝餉はほかの者たちのだけでよい。
私は、しばらく休みたい。』

『まあ、お休みになるんですの?』

思わず問い返した私に、周囲から側近の方々からくすくす笑う声が聞こえてきて、
私はそれ以上何もいえなくなってしまったのです。

『お方様、俺たちのことはいいですから、
王に気を遣ってやってください。
でないと、あとが大変ですから。』

そう、そのとおりです。
ほんとうに、タムトク様は・・・。


 そして、そのあとはご想像の通りでございます・・・。


 あの方はたいてい礼儀正しくて誰にでもやさしい方なのですが、時々有無を言わさず・・・、というところがございました。
 ほかの方なら、私も、いけませんわ!と強く申し上げたりもするのでしょうけど、この方にはつい許してしまうところがあるのです。

 でも、これは私だけではありません。
側近くに仕える方々だけでなく、末端に従う家来の一人にいたるまで、みなさん異口同音に言います、タムトク様だから、まあ、いいか・・と。

 そう、その最たる人が、あのサト殿でしょうね。
このときも、タムトク様の留守を守る必要から、陣中に残って代わりに指揮をとるよう言われたとのことでした。
アカネ殿が身重ということでしたから、本当なら、サト殿こそ一番に王都に帰ってきたかったでしょうに。
きっと、すまない、サト・・、なんて言われて、サト殿も承知してしまったのでしょうね。

 ほんとうに、タムトク様は・・・。

 そんなわがままとも思われかねないところがあるのに、周囲が認めてしまうのは、タムトク様がこれまで多くのたいせつなものを失いながら、王としての任務を果たされていること、・・・軍の先頭に立ち、政務においても常に自分を律して国のために働いていらっしゃるのをみなが知っていたからです。
 いいえ、そうではないですわね、そんな理屈だけでは説明しきれないものを、あの方はお持ちでした。
それが、生まれながらの王の証とでもいうものかもしれませんけど・・・。

そう、ひとことでいえば、みんな、タムトク様が大好きだったんですわ。


 話が横にそれましたが、『あの時』とは、そのときのことだとタムトク様は思われたのです。私もそう思いました。

 ただ、そういうことって、何となくわかっていても口に出したくないことでしょう?
まして、私に同意を求めるなんて・・・。

 でも、王家に生まれたタムトク様にとって、いえ、付き従う者たちにとって、これは重要なことでした。
 生まれてくるお子がまぎれもなく王家の血筋であること、王にお墨付きを頂いたということになるからです。
 
 私は・・、私は王家の血よりも、タムトク様との間のお子というだけで十分でした。
そばには薬師の先生がいましたから、とても恥ずかしかったですけど、タムトク様が『あの時の子だな』とおっしゃっただけで、私はもう・・・。

 
「ワタルが聞いたら、喜ぶだろうな!」

「はい、きっと。
・・・あなたも、喜んでくださいますの?」

 半分恐る恐るといった感じで、お聞きしてみると、タムトク様は切れ長の目でこちらをちらりとご覧になりました。

「さて・・、どうかな?
そのあたりは明日の夜にでも、
ゆっくりとふたりで確かめようか・・。」

 まあ!
で、でも、明日でございますか?
今日はお帰りになれないの?

 私が赤くなってそう言おうとしたときでした。

 突然、入りますぞ!の大声とともにがらりと扉が開けられて、ジャン将軍が入ってきたのです。

「いや~、聞きましたぞ!
おめでとうございまする!
歩兵訓練を放り出して駆けつけましたぞ!」


2007/06/14 00:22
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【創作】契丹の王子④


 「あ、タムトク様!
ただいま、お方様にお取次ぎをいたしますので・・・」

 外からそんな声が聞こえたと思ったら、いきなり客間の扉が開けられて・・・・、つかつかと入っていらしたのはあの方でした。

 寝台に横になっていた私は、あわてて起き上がりました。

「ああ、そのままでよい!」

 タムトク様はそうおっしゃいましたが、そんなわけにはまいりません。
胸のむかむかした嫌な感じはほとんどおさまっていましたし、何よりも、あの方がひどく心配そうなお顔をされていましたから。

 タムトク様はそんな私のところまで近寄ってくると、いかにもさりげないふうに、私の頬に手を伸ばし、長い指でちょんと軽くつついて・・・、

「・・・心の臓が止まるかと思ったぞ!」

「タムトク様・・・」

「まったく・・。
大事な合議の最中に、そなたが倒れたとなどと聞かされたのだぞ!」

「申し訳ありません。
でも、私、倒れてなどいませんわ。」

 タムトク様の真剣なお顔がおかしくて、私はつい、クスリと笑ってしまいました。
そばにいた侍女たちも、笑いをこらえているようです。
タムトク様はそれに気がついたのか、ちょっとむっとした感じでおっしゃいました。

「ふん、おかしいか?
私は、死ぬほど心配したのだぞ!」

「ごめんなさい、タムトク様。
どこかで間違えて伝えられたのだと思いますわ。
ご心配かけました。」

「本当にだいじょうぶなのか。
まだ顔色が悪いようではないか!」

 はい、私はうなずきましたが、タムトク様は私の言っていることなど半分も信用できないというように、傍らに控えていた薬師の先生の方をふり向いて、どうなのだと詰め寄ります。

 このところずっとスヨン様のお部屋に詰めていた薬師の先生は、かすかに笑みを浮かべて、はい・・、と頭を下げました。


 と、タムトク様はいぶかしげな顔になって、こちらにお顔を向けました。

「だいたいだな、そなたには、控えの間で待つよう一時も前から言ってあったはずだ。」

今度は別の方向からだわと、私はちょっとあわてました。

「はい、そのように確かに承りました。
でも、私はスヨン様の様子をお伺いしてからと思ったんです。
この三日間お訪ねすることができなかったんですもの。」

「・・・・」

 タムトク様は一瞬黙ってしまいました。

 この方は、私が『スヨン様』の名前を口にするたびに、いつも困ったようなお顔をなさいます。
でも、このときはすぐに続けておっしゃいました。

「そうは言っても、怪しげな者がそなたに暴言を吐いたと聞いたぞ。
まして、先日から風邪気味だと言っていたではないか。
そんなときに、私の指示を無視するから、このようなことになるのだ!」

「暴言だなどと・・・、
そのような大げさなことではありません。
城で働いている者が話しかけてきただけですわ。」

私は笑いながらそう言いましたが、タムトク様は、ふん、どうだか・・・、とうつむきました。


 そのとき、私は気がついてしまったのです、
タムトク様の中に何があるのかを・・・。
その二つの目が悲しい色をしていましたから・・・。

 10年以上前の契丹で起こったこと、そこに隠されている母上様のこと、それが原因で15歳の少年が刃を向けたのだということ、そして、もしかしたら少年ゆかりの初老の女性が私に伝えようとしたことも・・・。

 タムトク様の内側に何かトゲのような痛いものが刺さっているのだと、私は思いました。


 やがて、タムトク様はほっとため息をつくと、おっしゃいました。

「では、ちょっと風邪気味なだけだとでもというのか?」

 私は複雑な思いのまま、薬師の先生にうなずくと、そばにいた侍女たちにしばらくの間席を外すよう申しました。

 侍女たちが出て行くのを、タムトク様は、ふうむというお顔でごらんになっていましたが、やがて、私と薬師の先生の顔を交互にながめながらおっしゃいました。

「なんだ?
もしかしたら・・・、なのか?」

こわいくらい真剣な顔に、かすかな期待の色!
まあ、さすがにおわかりになったのですね?
その直前にあったいろいろなことをどこかに追いやって、私はにっこりとしてしまいました。

「はい!
その、もしかしたら・・、ですわ。」

 タムトク様は切れ長の目をすっと細めて、そうか・・、とつぶやくようにおっしゃいました。
それから、ぐっと何かを飲み込んで、

「タシラカ、
・・・あの時の子だな?」

「・・・・・」

 私は何も答えられずに赤くなっていました。
あの方はふっと笑みを浮かべると、そのまま強い力で私を抱き寄せて・・・、

「そなたは最高だ・・・。」

そう、かすれたような声でおっしゃるのを、私は腕の中で夢のように聞いていました。

「最高なのはあなたですわ・・・」

 私はそうお返事したのですけど、それはタムトク様にちゃんと聞こえなかったかもしれません。
だって、私は、もう胸がいっぱいでしたから。


 やがて、こほんとひとつ咳払いが聞こえて、薬師の先生が重々しい声で言いました。

「ええ~、お二人でお喜びのところを失礼いたします、
とりあえずは、王家の伝統に基づいてことを進めさせていただきますぞ。
タシラカ様、ご懐妊でございます。
今、三月に入ったばかりでしょう。
あと六月もすれば、・・・そう、たぶん今年の冬には、
王子様か姫様がご誕生ということになります。」

 それから、薬師の先生は顔中に笑みを浮かべて宣言したのです。

「高句麗王タムトク様、タシラカ様、
まことに、おめでとうございます!」

 


2007/06/10 09:57
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【創作】契丹の王子③

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 そんなことを言ったものの、私はそのあと、何をしても心重いままでいました。
 ただでさえ体調が今ひとつだったのに、あれでよかったのかという思いが何度も心に浮かびました。
 そうです、あの契丹の女官だったという人がその後どうなったのか、私は気になって仕方がなかったのです。
それで、すぐに侍女の一人を警護兵たちのところにやって、決して罰を与えたりしないでほしい、王にも内密に・・、と伝えさせようとしたのですが、侍女はタムトク様の側近らしい人と戻ってきたのでした。

「王がお呼びです。
あちらのお部屋でお待ちになるように、とのことです。」

 その若い側近の人は一緒に来るように私を促しましたが、私は咄嗟に首を横にふりました。

「いいえ、まだ仕事が残っていますので、あとで参ります。」

 素直についてくるとばかり思っていたらしい若い側近は目を丸くしましたが、私はかまわずに、侍女三人と警備のためと主張する警護兵三人をつれて、スヨン様のいらっしゃる東の宮殿に向かうことにしました。

「あの・・・、それでは私が困ります、タシラカ様。
タムトク様がお待ちですので、なにとぞ・・・。」

そんなことを言いながら、その若い側近は困ったような顔でついてきます。
でも、私は知らん顔で、ずんずん歩いていきました。


 すぐにでもタムトク様にお会いしたくてたまらなかったのに、その命令には素直に従いたくないような気がしていました。
なぜって・・、それは、タムトク様が、そんなに重大なことを私に話してくださらなかったからですわ。

 それにもうひとつ、タムトク様にお会いする前に、どうしても自分の中でけじめをつけておかなければならないことがあったのです。

あんただって、昔人質だったこともあったじゃない・・・、そう、あの人が投げつけた重い言葉の中のひとつ・・・。

 確かに、かつて私も、その契丹の王子と同じように、囚われの身でした。
だから、悔しいほど、その契丹の王子の気持ちはよくわかったのです。
 多感な年頃の少年は、誰かにたきつけられるままに、衝動的にタムトク様の命を狙ったのでしょう。
 いえ、もしかしたら、突然知らないところに連れてこられて、ただ心細かっただけなのかも・・。

 そう、私があの日、あの方にかんざしを突きつけたように・・・。

 あの時、私は何をしようとしていたのでしょう?
タムトク様の命を奪おうとでも考えていたのでしょうか?
そして、あのとき、タムトク様は私を罰しようとは思わなかったのでしょうか?

 ともかく、あの夜、あの方は私を求め、そして、そのまま私は初めて抱かれたのです。
それは・・・?

 どんなに考えても、答えは出ませんでした。
私は心も身体も重苦しいままに、東の宮殿にスヨン様を見舞い、正妃様付きの侍女に容態を尋ね、頼まれていた人参を手渡し、必要なものがあったら言ってほしいと伝えたりしました。

 スヨン様にお会いできないかと頼んでみたのですが、今はお休みになられてますゆえ・・・、などと、やんわりと断られてしまいました。
お方様になんということを・・・、とこちらの侍女が口々に言うのをなだめながら、そんなことが妙にずしりと応えて、ああ、私は疲れているのだと思いました。

でも、遠くから、ちらりとですが、眠っているチャヌス様のお顔を拝見することができたのです。

「まあ、かわいいわ。
やっぱり、タムトク様に似てらっしゃるのね。」

思わずそんなことを言うと、正妃様付きの侍女も、はい、とうれしそうな顔をしました。

 ほんのつかの間ですが、体調の悪さを忘れあたたかいものが身体の内側に満ちていくようで、それと同時に、ねたましさもおぼえて・・・。

 私って嫌な女だわ、そう思いながら、気を取り直そうと、中庭に足を運んだのでした。
そこでワタルが剣術の稽古をしていると知っていたからです。

仲間たちといっしょに大きな声を上げて剣をふりあげているワタルの姿を遠く眺めて、チャヌス様も似てらっしゃるけど、ワタルもそっくりだわ、と心の中でつぶやき、すぐに、自分が馬鹿みたいだと恥ずかしくなったりして・・・。

「王に似て、ワタル様は筋がいいと、みなが言っております。」

側にいた若い側近がにっこりとそんなことを言い、私もそうでしょうか、などとうなずきかけました。

そのとき、私は初めて気がついたのです、
あの契丹の王子も、ワタルとそんなに年齢の変わらない15歳の少年だということに。

今、にこにこと汗をかいているけれど、いずれワタルも少年らしい正義感と性急さを身にまとい、いずれ人に刃を向けたりするのだろうかと・・・。
しあわせそうにすやすやと眠っているチャヌス様だって・・・。


 突然ひどく息苦しくなって、私はそばの列柱のひとつに手をかけたのでした。

「タシラカ様?」

侍女のひとりが心配そうにかけた声が、ひどく遠くに感じられました。

「お顔の色がよくないですわ!」

「ああ・・、これは・・、いけません。
だから、あちらでお休みを、と申し上げたのに!」

側近の人がそんなふうに言ったときでした。
私は、内側からの突き上げるようなむかつきを感じ、はっとしたのでした。

もしかしたら・・・?


2007/06/04 21:11
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【創作】契丹の王子②

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 ☆進行が遅くてごめんなさい。もう少し続けさせてください。

今回は、サークルでアップした『タムトクの母』を読んでいただくと、わかりやすいと思います。

よろしくお願いします。

 

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 その人は、朽葉色の麻の上衣に身をつつみ、白髪混じりの髪をひとつにまとめ、いかにもこざっぱりとした身なりをしていました。
苦労してきたのか、やつれてはいましたけど、若いころはさぞきれいな人だったのだろうと思えるような顔立ちでした。

高句麗の城内では下働きの仕事を手伝っているということでしたが、目立たないようにしているのか、私には見覚えがありませんでした。

 その人が悲しい瞳で語るタムトク様と契丹族の話を、私は黙って聞いていました。
返す言葉がみつからず、ただ胸の中が右に左に揺れ動くのを、私はどうすることもできませんでした。

 
 タムトク様とは三日前の朝にお別れしたきりでした。

その前の夜、お城から屋敷にお帰りになったのをいつものようにお迎えしたのに、私は風邪気味なのか身体が熱っぽくて、夕餉をごいっしょしたものの、早々に寝所に下がらせていただくことにしたんです。

いいえ、いっしょにやすむことなどもいたしませんでしたわ、
風邪をうつしてしまっては申し訳ないと思いましたもの・・。

 今夜はお許しをなどと申し上げますと、なんともいえない顔をなさいました。
でもすぐに、うなずいて、

『私のことはよい、今夜はゆっくり休め。
明日にでも、城の薬師を差し向けるゆえ。』

などと、おっしゃいました。

 私は、ゆっくり休めば治りますと申し上げたのですが、ワタルまでが、ちゃんと診てもらったほうがいいよ、などと心配そうに言いますし、タムトク様はああいう方ですから、遠慮することはないと、もう全然取り合ってくださいませんでした。

 え?薬師ですか?結局その翌日は診ていただきませんでしたわ。スヨン様とチャヌス様のことで、お城の薬師は大忙しでしたもの。

 

 でもね、それはそれとして、あとになって考えてみれば、あの時、タムトク様はその契丹の王子のことをお話になりたかったのかもしれません。
その前の日に、その事件が起こったというのですから。

そのとき、ちょっと注意していれば、いつもと様子が違うことに気がついたかもしれないのです。
でも、そのとき私は自分のことだけでせいいっぱいで、それだけの余裕がありませんでした。
情けないことに、全然気がつかなかったのです。
妻として失格ですわね・・・。

 でも、タムトク様も、私の体調がよくないからって、そんな重要なことをひとこともおっしゃらないなんて、ずいぶんだと思いませんか?
城に毎日のように出かけているワタルだって、お側付きのご家来たちだって、ちゃんと知っていたはずですし、それに、屋敷の侍女たちだって・・・。

ひどいと思いませんか?
仮にも、私はあの方の妻ですのに・・。

 タムトク様は私に心配させまいと思われたのかもしれませんが、全然頼りにされていないような気がして、私はちょっとさびしい気もちになったのです。


 でも、それはほんの些細なことでした。

そんなことよりも、タムトク様の命が狙われたということに、私は打ちのめされていました。
もっとも安全であるはずのご自分のお城の中にいながらそんなことになるなんて・・、そう思ったら、もうたまらない気持ちになりました。

だから、契丹の女官だったというその人の言うことはいかにも筋違いで、理不尽なものに思えました。
それは、そうですよね?


 それに、もうひとつ重要なことがありました。
それは、よほどのことがない限り、タムトク様が主体となっている政にはいっさい関与しないと、私自身が決めていたこと・・。
これは、私が倭人だからということでなく、側室という立場にいるからというのでもありません。
私は、タムトク様の妻、ただそれだけの存在だと、それだけでいようと・・・。


 だから、私はちょっと腹立たしい思いで、その人の筋違いとしか思えない話をさえぎって言いました。

「私は、タムトク様の政に意見を述べる立場にはありません。」


 その人は、あっけにとられた顔をしました。

「そんな!」

私はなだめるように言いました。

「王は公正な思慮深い方です。
ゆるぎない意志の力で、適切な判断をなさいます。
私は、あの方を信じています。」

「でも、でも・・・、
お方様は、タムトク様と契丹の因縁をご存知でしょうか?!
タムトク様がどんなにうちの先代の王様を憎んでいたか、
私はよく知っているんですよ!
だって、私はあのとき、
契丹のお城に・・、あの中庭にいましたもの!」

契丹のお城?中庭?
私はその言葉を心の中で反芻していました。
ぞわりとするものを感じながら・・・。

そんな私に気がついたのか、その人はとどめを刺すように続けます。

「私は、今でも夢にみます。
あのお方は、恐ろしい方です。
忘れられません。
高句麗王タムトク様とは、
あんなことを平気でする方なんだって、今でも、私は・・・」


その言葉は、私の中のある部分を激しくえぐりとろうとするかのようでした。
でも、私は、その悲しい瞳の中を見つめました。

それは、違います!
あなたは間違っているわ・・と。

私は、ぞわりとするその不気味なものを振り払うかのように、その人に言い放ちました。

「私は・・、
私は、そのときどんなことがあったのかわかりません。
でも、タムトク様がどんな方なのか、
私はよく知っているつもりです。
それに、どちらにしても、
そういったことは、王がご家来の方々と協議して裁可されることです。
私など、口をさしはさむべき問題ではありません。」

もうこれ以上そんな話など聞く必要はないと、私はその場を立ち去ろうとしました。


「お待ちください!」

その人は悲鳴のような声を上げました。
でも、私はふり返らず、そのまま歩き出しました。

 もしかしたら、その人の言っていることが正しくて、私の描いているのは絵空事なのかもしれないと思いました。でも、それでも私はかまわなかったのです。
 私は、タムトク様の中の真実をしっかりこの目で見て、愛したのですから、その人の見た不幸な夢のことなど知らなくていい、そう思いました。


「・・・私の言い方が悪かったのなら、謝ります!
どうか、助けてください!
お願いです!」

助けてください、と何度も繰り返すその人を残して、侍女たちを連れて私はかまわず歩き続けました。

やがて、騒ぎを聞きつけたのか、どこからか、応援の警護兵たちがばらばらと集まってきます。

 突然、切れ切れに聞こえてくる声が、打って変わったようなものになりました。

「なによ!
あんたなら、わかってくれると思ったのにさ・・。」

「あんただって、昔人質だったこともあったじゃないのさ!
よくもそんなことができるわね!」

向こうに連れて行かれようとしているからなのか、だんだん遠くなっていくその声を、私はまっすぐ前を向いたまま歩きながら、背中で聞いていました。

「自分さえよければいいっていうの?!
きれいな顔して、よくもそんなことができるわね!」

「高句麗の王様は、女なら助けて、男は殺すって言うのかい!」

そんな方ではないわ!
そう言い返しそうになって、私は唇をかみ締めました。

「今はお妃でございって顔してるけどさ、
あんたも人質だった女でしょう!
何とか、言いなさいよ!」

私は足を止めました。
ふり返ると、少し離れたところに、その人が警護兵二人に向こうに引きずられるように連れて行かれるのが見えました。
私はその小さな姿に向かって叫びました。

「私は何も言う立場にないわ。
でも、タムトク様は、私にとってこの上なく大切な方です。
危害を加えようとする者を、私は決して許しません。」


2007/06/02 01:08
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【創作】契丹の王子①

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 城門のところに立つ警護兵が、直立不動の姿勢になった。
タシラカは軽く会釈すると、城内に足を踏み入れた。
五日ぶりの参内だった。


 高句麗に来て、一年以上がたとうとしていた。
タムトクの指示もあって、タシラカは城内の奥向きのことを取り仕切るようになっていたのだった。


 正妃スヨンは、出産後もう一年近くたつというのに、体調が思わしくなくて寝たり起きたりの状態が続いていた。
そして、彼女の元には、生まれて数ヶ月の嫡子チャヌスがいた。
 
  その上、城内を束ねるべき侍女頭の中にも適当な人物が見当たらなかった。
ジョフンはすでに引退して長老屋敷に引きこもってしまっていたし、アカネは身重の身体という状況だった。

 そんなこともあって、正妃に気兼ねしながらも、タシラカが城内のことを管理するようになっていたのである。
 

 そんな彼女も数日前から何となく身体がだるく、その日は正妃付きの侍女にスヨンの様子をたずねたらすぐに屋敷に帰ろうと思っていたのだった。


 ところが、城門近くにある植え込みの陰で、ひとりの初老の女が待ちかまえていた。
二人の警備兵たちの手をかいくぐり、女はタシラカに近寄ると、大きな声で言った。

「お願いでございます。
倭のお方様とお見受けいたします。
お聞き届けいただきたいことがあって、こちらで、お待ちしていました。」

侍女たちが顔色を変えてタシラカを守るように、その女の前に回りこんだ。
警護兵たちが駆けつける。

が、女はそんなものには目もくれずに、言った。

「あやしい者ではございませぬ。
今はこちらのお城の下働きをしていますが、
かつて、契丹王室で女官をしていた者です。」

十分あやしいではないか!
そんな警備兵の制止を物ともしない様子で、女は言った。

「お、お願いでございます、
お方様、私の話をお聞きくださいませ。」

女は警護兵ともみ合いながらも、叫び続ける。

「王子が・・、私どもの王子が、
処刑されてしまいます!
なにとぞ、なにとぞ・・・、
お方様のお力で、
王におとりなしを!」

王子?
タシラカは小首をかしげて、そちらを見た。

警護兵の声が、いっそう大きくなる。
何を無礼な、ずうずうしい!
もうひとりが、女の腕をつかむ。

「あ・・・、お願いです、
どうぞ、話をお聞きください。
王子は・・、悪いヤツにだまされたのです!
・・そんなことができるような方ではありません・・・」

 タシラカは手を上げて警護兵を止めた。

「なんのことです?」


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 女の語るところによれば、ひと月前のセンピとの戦いのときに、たまたまそこに身を寄せていた元契丹族の王子が、高句麗軍に捕らえられたというのだ。

「さきほども言いましたが、私はかつて、契丹の王宮で女官として仕えていたことがございました。

契丹をごぞんじでしょうか?10年以上も前のこと、まだ即位まもないタムトク様に攻められて、国は跡形もなくみんなちりじりばらばらになって、はるか北方の草原に追いやられた部族でございます。

 ・・・その10年前の戦のときに、何が起こったか・・・。
お方様はご存知かどうか知りませんが、
こちらのタムトク様は、お母上様のことで当時の契丹王を恨んでおいででした。・・・落城の際には、ひどく残忍な方法で契丹王を処刑されたのです。」


 その話は、いつだったか、タムトクから聞いたことがあった。

『そなたに出会うずっと以前のことだが、
私は、北の異民族の王を憎んだことがあった。
それで、残忍なワザで、殺害しようとしたのだ・・・。』

あのとき彼は、ひどくつらそうだった。

そして、そうだ、それは彼の母后に深く関係のあることだった。
捕虜として異国の王に連れさられたタムトクの母、
故国に残した子を思いながら、ついに帰ることもなく亡くなったタムトクの母に・・・。

 それは、同じような境遇のタシラカを愛したことへの、タムトクの複雑な思いでもあった。


 タシラカは首を横に振った。

「タムトク様は、降伏した捕虜に対して残忍なことをなさるような、
そんな方ではありません。」


 だが、そんな彼女の言葉には何も答えないまま、女は弱々しい笑みを浮かべると続けた。

「その王子とは、処刑された契丹王の孫にあたる方です。
たぶん、捕虜として城内で過ごすうちに高句麗とのことを誰かが面白おかしく話してきかせたのでしょう。
祖父の仇とばかりに、執政の間にいたタムトク様に刃を向けたのです。
もちろんすぐに取り押さえられ、タムトク様は何事もなかったのですが・・、
でも、みんな言っています、
王の命を狙うなどと大それたことをしでかしたんだから、これはどうやっても、死刑は免れないだろうって・・・。」


しわの深く刻まれた顔をゆがませて、その女は話し続ける。

「10年前の戦に敗れ王を殺されたとき、私もこちらに連れてこられました。最初のころは、それは、タムトク様を憎みましたけど、でも、それはもう、ずいぶん昔のことです。
私もほかの者も裕福というわけではないですけど、それなりに平和に暮らしています。
今は、王を恨むなんて、そんなことはけっして・・」

「王子は多感な年頃です、
顔も覚えていないような祖父王のカタキを討たねばなどと、
頭に血がのぼってしまったのです。
誰かにそそのかされたのです。
そうに違いありません!
深い考えがあったなんて、とても思えません!」

 

「まだほんのお小さいころ、私はおそばでお世話をしていたことがありますが、とてもやさしい方でした。
そんな恐ろしいことは、けっして、けっして・・・。

お願いでございます!
どうぞ、お助けくださいませ、
どうか、王におとりなしを!」


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