2010/05/08 22:55
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-29.かけひき

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「何してるの・・・」

僕がシャワーを浴びて寝室に戻るとジニョンがボストンバックにいそいそと
身の回りのものを詰めていた。

「明日、ドンヒョクssi、NYでしょ?一緒に出ようと思って・・・」
心なしか嬉しそうに見えた彼女が癇に障った。

「一緒にって?」 僕は冷めた口調でそう言った。

「寮に・・」 彼女はそう答えながら不思議そうに首を傾げた。

「どういうこと?」

「だって・・学校行かないと・・でも、ここからでは通うのは無理だわ」

「ここを出て行くってこと?」

「そうじゃないわ・・・学校に通う間は寮で・・
 週末はこっちへ戻ってくる・・・ドンヒョクssiだって
 お仕事はNYの方が便利でしょ?」

「駄目だ・・・勉強なら、僕が教える・・」

僕は彼女からボストンバックを取り上げるとそれをクローゼットの棚に投げ入れた。

「ドンヒョクssi・・・教えるって・・・そりゃあ、あなたは教え方上手だけど・・・」

「なら・・問題ないでしょ?」

「でも・・・」

「でも・・何?」

「でも!・・・昨日までとは状況が違うわ・・父も学校へ行くことを認めてくれた」

「だから?」

「だから・・・私は学校で勉強がしたい」

「何故?」

「何故って・・」

「あいつがそう言ったから?」

「あいつって?・・・レイモンド先生のこと?この前のこと、まだ怒ってるの?
 あの方は関係ないわ・・・でも!
 私にだって、夢がある・・・学校で学びたいことも沢山ある」

「一番の夢は僕だと、言わなかった?」

そんなことを言いたかったんじゃない。でも言わなくてもいい言葉がつい口を突いて出た。
僕のその言葉に彼女が一瞬悲げに瞳を曇らせた。

   君の言いたいことはわかってる・・・

   僕の言葉は揚げ足取りに過ぎない・・・だけど・・・


「あなただって!私のやりたいこと・・何でもさせてあげる・・・そう言ったわ!」

   そうだよ・・その気持ちは嘘じゃなかった・・しかし・・・

   あいつがのうのうと待ち構える学校に・・・

   どうして君を行かせられる?


「・・・・とにかく・・・明日は連れて行かない。ここで待ってて・・」

僕は聴く耳を持たないというようなそぶりで彼女に背を向け、ベッドに横たわった。

「・・・・・・私はここで・・・毎日・・じっと、あなたの帰りを待ってるだけ?」 
静かにそう言った彼女の声は至って冷静だった。

僕はその言葉を背中で聞きながら黙って目を閉じた。

   
   いいよ・・・僕のわがままと思うなら・・・

   それでもいい。・・ジニョン・・それでも・・行かせたくない・・・

 

 

 

僕がNYグランドホテルのエントランスホールに入ると、姿勢を正したふたりの黒服の男が
僕に近づき深々と頭を下げた。

「お待ちしておりました・・・こちらへ・・・」

「・・・・・」

僕は彼らに誘導されるままに、エレベーターホールへと向かい、エレベーターの前で
待っていたもうひとりの男に促がされて、僕はホテルの重厚なエレベーターBOXへと
足を踏み入れた。

   この中の向こうには、どんな運命が待ち受けているのだろう

   少なからず、この先にあいつが・・・

   そのボスとやらと共に待っているわけか・・・

ホテルの最上階に降り立つと、迎えの男達が更に加わった。
広々とした廊下にはスーツをきちんと着こなしたいぶかしい男達が等間隔で居並び、
僕に深々と頭を下げたまま微動だにしなかった。

どうも、この階は全てパーキン家の占有スペースのようだった。
そして、一番奥の部屋に通された僕を例の男が涼しい顔で待ち受けていた。

   レイモンド・パーキン

「お待ちしてました・・・Mr.フランク・・・
 先日はお楽しみのところをお邪魔して・・申し訳ありませんでした」

奴はにこやかに握手を求めながら僕に近づいたが、僕は彼の握手には応じなかった。
今日はジニョンの手前を気にして、奴に愛想を振り撒く必要などなかったからだ。

「用件を・・」 

「フッ・・・どうやら、私は嫌われたようですね」

「無駄な時間を費やしたくない。」 僕は無粋なまでに端的に言った。

「そうですか・・・しかし私は、結構あなたを気に入っている・・・
 あなたとの会話を、決して無駄とは思わないが・・・
 まあ・・いいでしょう・・・ではこちらへ・・」

僕を案内した男達は、入り口付近で佇んだまま動かなかった。
そしてその先を案内したのはレイモンド直々だった。

そのスイートルームの中で一番奥の部屋のドアを彼は開けると、
僕に中へ入るよう、目で促がし、僕はそれに黙って応じた。

広々としたその部屋の窓側に置かれた大きなデスクの向こうに、ひとりの男が
穏やかな顔で僕を迎えていた。

「Mr.フランク・・・やっと会えましたね・・恋焦がれてましたよ・・・」

ボスと呼ばれるその男は、至って温和な口調で僕に親しみを込めた。

「ご用件を伺いましょう」

しかし僕はここでも、無駄な時間を惜しむようなそぶりを強調していた。

「自己紹介もさせていただけないのかな?」

「存じ上げています・・・そちらも私をよくご存知のようだ・・・」

「そうですか・・・では・・・」 男はレイモンドに視線を向けて、顎をしゃくった。

「仕事に関することは全て私が一任されています
 私がお話いたしましょう・・・
 Mr.・・・あー・・フランク・・とお呼びしても宜しいかな・・・時間を省く意味で・・」

奴は皮肉を込めてそう言うと、にやりと口元だけで笑った。

「どうぞ・・」

「では、フランク・・・率直に伺います。このNYグランドホテルの案件・・・
 今、何合目まで来てますか?・・・」

「・・・・・」 僕は奴の問いかけに最初から言葉を詰まらせてしまった。

    何もかも・・・お見通しということか?
    

「あなたが既に着手していることは承知してます
 私の調べでは・・・2合目・・・といったところかな・・・」

「ご存知なら、訊ねる必要もないのでは?」 しかし僕は努めて冷静を装った。

「ごもっとも・・・まぁ、確認です・・・
 あ・・それから・・誤解のないように申し上げますが・・・ 
 我々はそれについて意義を申し立てたいのではありません・・・
 あなたが動くことには何ら問題はない・・・
 何せ父は、我が従兄殿よりあなたの・・・
 実力の方が勝っていると考えていますのでね・・・
 それに仕事は早いに越したことはない・・・だが・・・」

「・・・・・」

「・・・ここは私達の・・・この言葉は私は好きではないが・・・
 いわゆる縄張りです。つまり我々にも面子というものがある・・・

 そこで・・・です・・・
 あなたには存分に力を発揮なさって成果をあげて頂くとして・・・

 その代わりと言っては何だが・・・
 最終的にはジェームスの・・・あ・・ご存知ですよね・・
 我が従兄弟です・・・その彼の仕事としてもらいたい・・・
 もちろん・・分け前は存分にお払いしますよ」

「分け前?」 僕は首を傾げて、奴の言葉に対して呆れたように訊ねた。

「・・・はっ・・・何を言うのかと思ったら・・あいにくだが、従えない話だ」

      
「んー・・・・・ということですよ・・ボス・・・」

そう言いながらレイモンドは、ただふたりの会話を前に目を閉じ黙したままのボス、
アンドルフ・パーキンを見た。

アンドルフは口元に笑みを浮かべるだけで、結局のところ言葉を発しなかった。
代わって、続けたのはやはりレイモンドだった。

「フランク・・・あなたはまだ、若い・・・今・・
 この世界で生きていくレールをひとつひとつ敷いている段階とも言える
 君のその純粋で真直ぐなレールに・・・
 小さな石ころで邪魔をしてもいいんだろうか」
レイモンドはゆっくりとした口調で、笑顔を交えながらそう言った。

「回りくどい。」

「ジニョン・・・」

「ジニョンの名前を口にするな」

「フッ・・・それは無理だ・・・私は彼女の・・」

「・・・・・・!」

奴の知ったような口ぶりが、奴がジニョンの名を口にすること自体が・・・
ひどくしゃくに障っていた。

「フランク・・そんな怖い顔しないで・・・落ち着きなさい
 いつも冷静沈着なあなたが彼女のこととなるとそれを失ってしまう
 あなたはそのことに・・・ご自分で気付いておられるかな?」

「・・・・・」
     
「韓国のソウルホテル・・・もちろん、ご存知ですよね・・・」

「・・・・・」

「そのホテル、結構繁盛してます・・経営状態は全く問題ない・・・しかし・・・
 そのホテルを潰す力が我々にはあります・・・
 しかも、さほど時間をかけることなく・・・簡単に。」

「それが僕と何の関係が?」

「関係・・・確かにあなたとは何の縁もない・・・しかし、ジニョンにはどうだろう・・・
 彼女にとって・・彼女の家族にとって・・ソウルホテルというところが
 どれほど思い入れのあるものか・・・あなたはご存知かな?

 そのホテルを・・・経営にまったく問題ないホテルを瞬時に失う
 その原因が、あなたの・・・一言・・・そういうことになる。」

 

    
       
見送りを頑なに拒んで僕は急いでエレベーターを降りた。
とにかく一秒でも早くここを出たかった。エントランスに向かい、ホテルのドアマンから
車のKEYを受け取ろうとした、その時だった。背後から突然男の声が僕に向かっていた。

「やっぱり・・・あなただったのか・・・」 振り向くとそこにはジョルジュが立っていた。

「君か・・・」

「この・・NYグランドホテルで働くことになりました」

彼が何を言わんとしているのかは想像がついていた。

「それが?」

「父から突然、言われました・・・ついこの間まで
 私の帰国を喜んでいた父が・・・帰ってくるなと・・そう言ったんです」 

「・・・・・・」

「当然、ジニョンの留学も続行の許可が出ました・・・
 随分と・・都合のいい話だ・・・誰かにとっては・・・」

「言ってる意味がわからない」

「とぼける気ですか」

「言っておくが・・・君がこのホテルで働くことと・・僕は何ら係りはない・・・」

「まあ・・いい・・・
 ジニョンも学校へ通うことは望んでいたことだ」

「僕は正直、彼女を学校には行かせたくはない」

「傲慢だな」

「そう思ってもらっていい」

「あなたの思い通りになるかな」

「とにかく・・」

「あいつには・・・こうと決めたら、意志を曲げない
 誰にも止められない頑固さがある」

「フッ・・・確かに・・・」

「私があなたのことをあいつの父親に話さないのは
 あなたの為じゃないことはわかっていますよね
 あいつの頑固さと父親を戦わせたくない・・・それだけのことです」

「いつの日か彼女の父上には認めていただく」

「その前に目を覚まさせる。」 ジョルジュの目は真剣そのものだった。

「・・・・・・」

「きっとあいつも気付く時がくる・・・
 共に歩くのがあなたではないことに・・・」

「共に歩くのは君だと?」

「この地に留めることには成功したかもしれないが・・・
 あいつの夢まではあなたには壊せない」

「夢・・・か・・・」

「そうです・・・私と・・・ジニョンの夢だ・・そこにあなたはいない。」

彼の力強い瞳に僕は何故か腹立たしさを覚えなかった。
彼もまたジニョンを心から愛している男。僕と同じ想いを抱えた男なのだと、
この時素直にそう思えた。

「君に頼みがある・・・」 僕はジョルジュに切り出した。

「頼み?」

彼は自分の挑発に動じた様子を見せないばかりか、頼みがあると言った僕を怪訝そうに見た。


「彼女が学校にいる間・・・目を離さないでもらえないか・・・」

「・・・・・?」

「じゃ・・・」 僕はそれだけを言うと、彼を残してホテルを後にした。

 




「これで彼はこの仕事を急ぐはずです」

「お前の思う壺・・・そういうことか・・・」

「ええ・・・この案件の出所がもともと我々であること・・・
 それに気付く頃には、彼はきっと成功の道を辿っている・・・」

「その後はどうなる・・・奴は私の手元に残るかね」

「最後には・・・背後に必ず我々がいることに気付く・・・
 この世界で生き抜くためには・・我々の力が必要不可欠であることにも・・・
 そして・・・それに気がついた時には・・・もう既に遅い」

「用意周到なお前の手腕には流石のフランクも敵うまい・・・」

「用意周到?・・・フッ・・・
 それはあなたには敵わないことです・・・父上・・・」
      

 


「レオ・・・時間を作れ・・・今すぐだ」

僕は確かにこの時、少しあせっていた。仕事のことと、ジニョンのことが同時に絡み合って
僕の思考を冷静に保たせてはくれなかった。

   落ち着け・・・フランク・・・

   焦ったところで・・・何も生まれはしない


   あいつの真意が何処にあるのか・・・

   今回の案件を僕に成功させた上で・・・
   それを飽くまでも自分達の手柄としたい・・それだけのことなのか?

   しかしたったそれだけの為に・・・
   韓国のソウルホテルをも巻き込む必要が何処に?・・・


僕にはまだアンドルフ・パーキンの、いや、レイモンド・パーキンの真意が測れなかった。

僕はジニョンをこの手に抱いたまま・・・

奴らが放つ鋭い弾丸を・・・


    ・・・避けることができるだろうか・・・

   


    


         


       

 


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