2010/05/17 22:12
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-30.包囲網

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ジニョンがひとりで待つ家に戻った時にはもう日付が変わっていた。
部屋に入ると、明かりは点いているもののリビングに彼女の姿はなく
ひっそりと静まり返っていた。

ジニョンは寝室にいた。
ベッドで眠るジニョンを確認して僕はほっと胸をなでおろした。
しかし僕がベッドサイドに近づいても、寝ている彼女が動く様子はなかった。

自分の体を抱えるようにして丸くなって眠る彼女に、胸が切なく疼いた。

僕は彼女に向かい合うように体を滑らせ横になると、彼女の髪をそっと指で梳きながら、
しばらく静かに彼女を見つめていた。

「ジニョン・・・遅くなって・・・ごめん・・寂しかったろ?・・・」

僕が彼女に向かって独り言のように小さく呟くと、彼女の閉じたままのまつげの端から
一筋の涙が零れ落ちた。

「起きてたの?」

彼女はそれには答えず、かといって目を開けようともせず、自分の涙を飲みこむように
小さくのどを鳴らした。

「怒ってるんだね?」

彼女はそれにも答えなかった。
ただゆっくりと体を動かして、僕の胸に顔を埋めた。

僕はそんな彼女を胸に受け止め、包み込むように抱きしめた。
彼女は僕の腕の中で声を殺し、この胸を涙で濡らしていた。

「ごめん・・・ごめん・・・ごめんよ・・・ジニョン・・・
 泣かないで・・・お願い・・・泣かないで・・・」


   君の思うように・・・

   君のしたいように・・・

   君の願いは必ず叶えてあげる

   僕が必ず・・・叶えてあげる

   僕は今までに幾度となく君にそう誓っていた

   それなのに・・・


結局彼女はこの夜、言葉を発することなく、いつしか泣き疲れたように
僕に抱かれたまま眠り堕ちていた。

   ジニョン・・・僕は・・・本当に・・・

   君を守る術を・・・

   神に与えられた男なんだろうか

   こうして胸に抱いた君に・・・

   掛けるべき言葉も見つけられなくて

   君の涙にうろたえるばかりで何もできない

   なんて・・・情けないんだ

 



「おはよう・・・やっと起きてきたね・・急いで、顔洗っておいで・・・」

「うん・・・早いのね・・・ドンヒョクssi・・・」

昨夜のことで、気まずい思いを抱きながらもジニョンは懸命にいつもと変わらない笑顔で
僕に接しようとしていた。

朝食にとコーヒーを淹れながら、僕も彼女に自然を装って笑顔を向けた。

「早く朝食済ませて?・・・遅れるよ」

「えっ?」

「学校・・・」

「えっ?」

「僕も・・NYに用があるんだ・・・送っていく」

「いいの?・・行っても・・」

「ん・・」

「ほんとに?」

「しつこい。・・・早くしないと気が変わる」

「ありがとう!ドンヒョクssi!ありがとう!」

ジニョンは僕の首に細い腕を思い切り巻きつけて、喜びを表した。

   
   ジニョン・・・僕はきっと・・・

   君のその微笑に出逢うためにこの世に生まれ 

   その笑顔を守るために・・・生きているんだね

   足元すら見えない霧の中に立っていようとも・・・

   君の笑顔が僕に寄り添うと・・・

   ほら・・・聞えるだろ?

   僕はこんなにも心を弾ませる

 



僕はジニョンの学校に近づくと、校門から少し離れた沿道で車を止めた。

「ドンヒョクssi・・・ありがとう・・それじゃ・・行ってくるわね」

「待って・・まだだよ」
急いで車を降りようとするジニョンの腕を掴んで、僕は言った。

「えっ?」

「まだ来てない」

「まだって・・・誰が?」

「・・・・ジニョン・・・約束をして欲しい」 
僕は車の後方から、こちらに向かって走って来る男の姿をバックミラーで確認しながら
ジニョンに言った。

「何?」

「学校ではジョルジュのそばを離れないで」

「ジョルジュの?・・・どうして?」

「・・・・ジニョン・・さあ、もう・・行っていいよ」

「・・・ドンヒョクssi?・・」

理由を言わない僕にジニョンは怪訝そうな顔を向けながら、助手席のドアを開けた。


「授業終わったらアパート・・・来る?」


   君の近くにいるレイモンドに気をつけて・・・


   そう言えたら・・・どんなに楽だろう・・・

   でもそれは却って君を怖がらせることになる・・・

   それに・・・

   レイモンドの含んだ物言いが何故か気にかかっていた


「う・・ん・・」

「じゃ・・待ってるよ」

僕は不安げな彼女に「何も心配は要らない」というように笑顔でウインクをした。
素直な彼女がホッとしたように笑顔を返した。

そして僕は・・・
走って来たジョルジュがジニョンに近づく前にアクセルを踏んだ。

 

「ジニョン!」

私がその声に振り向くと、ジョルジュが息を切らせながら駆け寄ってきた。


「・・・・・ジョルジュ!・・・どうしたの?そんなに急いで・・・」

「・・・・どうしてって・・あいつが急に・・・ま・・いいよ・・・
 復学手続き・・・一緒に行くか?」

「え・・ええ・・・」

ジョルジュの前からあんな形で去ってしまってから二週間、今度会う時は、
きっと気まずい思いをするだろうと思っていた。
でも彼は以前と変わらず優しい眼差しのまま私に接してくれた。

   ジョルジュ・・・

   やっぱり私はあなたとは笑顔で向き合っていたい

   子供の頃・・・何の躊躇もなくあなたの腕にぶら下がっていた

   あの頃に戻りたい・・・

   それは・・・私のわがまま?・・・ジョルジュ・・・

そんなことを考えながら私は、先を歩くジョルジュの横を小走りに付いて行った。


 

 


「それで・・・どうっだった?調べはついたか?」

「韓国のソウルホテルの株は社長が15%、その妻が10%、
 ふたりの息子がそれぞれ10%ずつ
 親類縁者や親しい友人で20%保有している・・・たとえ
 市場や海外に出回っている分を全て買い占めたところで35%・・・
 乗っ取りまでは無理な話だ」

「親類縁者、友人?そんなもの当てになるか?全て裏切ったら・・・」

「たとえ、その殆どが裏切っても、そのうちの
 8%を持っている人間が決して裏切らない」

「何故そんなことがわかる?」

「その人間がソウルホテルにひとかたならない恩義を受けているからだ」

「ひとかたならぬ恩義?」

「ああ・・・ソ・ヨンス・・・ジニョンさんの父上だ」

「ジニョンの?」

「ソウルホテルとソ一家との関係・・・それも調べろと言ったな・・・ボス・・・
 付き合いは18年前からだ・・・詳しいことは今までの調べではまだわからないが
 とにかく、ソ・ヨンスはソウルホテルにというより、
 ホテルの社長一家に強い恩義を感じていることは間違いない・・・
 “彼は決してソウルホテルを裏切らない”誰もが口を揃えてそう言うそうだ
 今、彼はソウルホテルの顧問弁護士をやってる
 至って忠実で、堅実的な仕事ぶりだそうだ」

「・・・・・」

「とにかく・・詳しいことはまだ調査中だ・・・しかし、ボス・・
 今回の案件と韓国のソウルホテルにいったい何の関わりがあるんだ?」

「わからない・・・」

   本当にわからなかった

   しかし、何かがある

   ソウルホテルののっとりは決して楽なことではない・・・

   なのにどうしてレイモンド・パーキンはあんなにも
   自信ありげなんだ・・・


 

 

「やあ・・ジニョン!復学できたのかい?」

「はい!先生・・・また、よろしくお願いします」

「ジョルジュも・・久しぶりだね」

「レイ・・お久しぶりです・・丁度良かった・・・ジニョン・・サークルだろ?
 俺はこれから、バイトだから・・・
 サークル終わったら、真直ぐ寮に帰るんだぞ」

「うん・・わかった」

「それじゃ・・レイ・・よろしくお願いします
 こいつの面倒見てやってください」
ジョルジュはそう言って、ジニョンをレイモンドに託した。

「了解・・」 レイモンドは優しげな笑みを浮かべた。

「行ってらっしゃい・・ジョルジュ」  

ジョルジュは何度もこちらを振り向きながら、大きく手を振って校舎を出て行った。
   

「慌しい奴だな・・・でも君のことがすごく心配なんだね」

「ええ・・今日は何故だかずっと私にくっ付いて歩くんです
 トイレにまで付いて来る勢いで、困ってました・・・」

「はは・・いいね、大事に思われて・・・」

「兄のような存在ですから」

「兄・・か・・・でもジョルジュにとっても・・・君は妹・・かな?」
レイモンドが突然、ジニョンの顔を下から覗き込んで言った。

「・・・・・」 

「ところで・・・どうしよう・・・」

「何がですか?」

「実は・・・今日はサークル、休みなんだ」

「そうだったんですか?このところご無沙汰してましたから、
 知らなかったわ」

「デートでも・・・する?」

「あ・・いいえ・・・私は行くところがありますから」

「寮に真直ぐ帰れと、言ってなかった?ジョルジュ・・」

「ええ・・・」

「嘘ついた?」

「ええ」

 

   ≪フランクのところへ行くなんて、ジョルジュには言えないわ≫

「彼のところへ?」 レイモンドは小首を傾げ聞いた。

「・・・・・」

「それじゃ、送っていこう」

「あ・・いいえ・・」

   ≪それは・・困ります≫

「ジョルジュに君を頼むと言われた。僕は彼に嘘をつきたくはないんでね」

「でも・・」

「ジョルジュに言いつけるよ」 

レイモンドがまた私に顔を近づけて、悪戯っぽく私を睨んむとそう言った。

「・・・・」


   レイ・・・

   あなたの瞳は・・・フランクと同じ色なんですね

   その中に輝く星も・・・とても似ている・・・

   いやだ・・・私ったら・・何を・・・

 

「どうしたの?」

「いいえ・・・何でもありません」

「送られる方が・・・まさか怖いとか?」

「いいえ!レイ・・・あなたは紳士ですもの
 それにとってもお優しい方だわ」

「光栄だな・・・君にそう言ってもらえると・・・
 僕は自分を優しいなどと思ったことがないんでね」

「いいえ!・・・目を見ればわかります」

「目?」

「はい・・・あなたも澄んだ目をしていらっしゃる」

「あなたも?・・・」

「ええ」


 

 

「ジニョン・・・お帰り・・・あ・・」

「やあ・・フランク・・・」

ジニョンだと思って笑顔で開けたドアの端に思わぬ奴を見て、僕は一瞬にして顔を曇らせた。

「・・・・どういうこと?」

「あの・・先生がここまで送ってくださったの・・・」

「・・・・・」

「先生・・・ありがとうございました」

「いや・・それじゃこれでお役ごめんだね・・・また明日・・ジニョン」

「ジニョン、先に入ってて・・・先生を下までお送りしてくる」

「あ・・はい・・」

 

 

 

「どういうつもりだ」

ジニョンが部屋に入ったばかりなのを気にかけて、僕は少々小声で
正面のエレベーターの扉に向かって声を発した。

「どういうつもり?何のことです?」

「とぼけるな」

「女の子の一人歩きは物騒ですからね・・・
 アパートのエントランスでさえ、何が起きるかわからない・・」

奴もまた、僕に合わせて正面を向いたまま答えていた。

「何が物騒なんだか」 僕は吐き捨てるように言葉を投げて彼を睨んだ。

「フッ・・そういう冷たい言い方は止めてもらえないだろうか
 私は結構小心者でね・・・胸が痛くなる」

エレベーターのドアが開いて、奴が先に乗り込むと僕は後から彼に続いた。

「忠告したはずだ。ジニョンに近づくなと」

そして僕はエレベーターの扉が閉まった瞬間に奴の胸倉を掴んでいた。

「それは無理な話です・・・彼女は僕の・・・」

「黙れ!・・・いったい何を考えてる・・・
 お前は、ジニョンに・・・ソウルホテルに何をする気だ」

「何を?・・・それは、君次第だと言ったはずですが?・・・」

「覚えておけ・・ジニョンにもし何かあったら・・お前を・・」

「私を・・・どうする?」

奴は僕の威嚇にも怯むことなく、僕に胸倉を掴まれたことで上にあがった顎をそのままに、
目だけは僕を冷ややかに見下ろしていた。

「・・・・・」

僕はゆっくりと奴のシャツから拳を緩め、静かに言った。

「仕事のことと・・・ジニョンには何の関係もないだろ?
 ましてソウルホテルに何の関係がある?」

「関係・・・ね・・・確かに何の関係もない・・・
 だから?それが我々に何の関係がある?」

レイモンドは茶化すようにそう言って、僕をあざ笑うように見た。        

「・・・・・フランク・・・悪いことは言わない・・・
 黙って、我々の敷いたレールに乗りなさい・・・」

「お前達の乗った列車など・・・必ず脱線させてみせる」

「フ・・・それはそれは・・・楽しみだ・・・
 あ、それからご忠告をひとつ・・・ソウルホテルの件・・
 調べるのはいいが、ジニョンに悟られないように気をつけて・・・
 後で君が後悔することになる・・・」

「・・・・・」

「それじゃ・・可愛いジニョンに・・・よろしく・・・」

エレベーターの扉が開くと同時に、奴は不適な笑みを残して消えた。
レイモンド・パーキンの不気味さだけが、エレベーターの空間に残され
包囲網と化した箱の扉は、僕を迷宮に誘い込むかのように妖しく閉じた。

 

    《  その調子だ・・・フランク・・・

 

              もっと・・・怒れ・・・  》

 

 


 

   


 


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